file7：名詞数詞＞

　　名詞：（物名＞三界六道名、樹名、等々）、

　　　　　術語＞（因縁、煩悩、解脱、生死、

　　　　　　　　輪廻、涅槃、、等々））、

　　数詞（数詞＞量数、長期）

四大（しだい）、五大、六大：人間の心を含むあらゆる物質は次の四つあるいは五つあるいは六つの性質を持つものが和合して造られる。大とは影響が大、意味するところが大という意味を表す。

　（１）地大（ぢだい）：堅実堅固の性質。万物を支持する、また固体としての性質を形成する。土、木、石、金属などの主要な性質はこれによる。

　（２）水大（すいだい）：湿潤の性質。万物を収める、また流体としての性質を形成する。水、血、油などの主要な性質はこれによる。

　（３）火大（かだい）：温暖の性質。万物を調熟する、また熱としての性質を形成する。火炎、熱、体温などの主要な性質はこれによる。

　（４）風大（ふうだい）：運動の性質。万物を生長する、また気体としての性質を形成する。風、空気、呼気などの主要な性質はこれによる。

※参考：『阿毘達磨倶舎論巻１』：『大種云何。頌曰　大種謂四界　　即地水火風　　能成持等業　　堅濕煖動性　　論曰。地水火風能持自相及所造色。故名為界。如是四界亦名大種。一切餘色所依性故。體�ｪ廣故。或於地等�攝ｷ聚中。形相大故。或起種種大事用故。此四大種能成何業。如其次第能成持攝熟長四業。地界能持。水界能攝。火界能熟。風界能長。長謂�攝ｷ。或復流引。業用既爾。自性云何。如其次第即用堅濕煖動為性。地界堅性。水界濕性。火界煖性。風界動性。由此能引大種造色。令其相續生至餘方。如吹燈光。故名為動。』

　（５）空大（くうだい）：単にそれの存在すべき場所をいう。

　（６）意大（いだい）：心の中心的な働きであるが、物を形成するための一つの要素と見る見方もある。

三大（さんだい）：衆生心には既に大乗の理念、即ち一切衆生を救いたいという仏の心が備わっている。それを如来蔵（にょらいぞう、如来が隠されているの意）といい、体（たい）、相（そう）、用（ゆう）の三種に分けて説明する。仏の心は広大であることから「大」という。

　　（１）体大（たいだい）：真如（しんにょ）あるいは平等（びょうどう）がその本体であり、生滅せず、増減もしない。

　　（２）相大（そうだい）：外に現れると大慈、大悲、大智となる。常楽我浄等の一切の功徳をもいう。

　　（３）用大（ゆうだい）：衆生を救済する働き。煩悩が無くなるとこれが現れて仏となる。（大乗起信論）

十八空（じゅうはちくう）：空を細かに観察すると、このように十八に分けることが出来る。

　　　（１）内空（ないくう）：眼耳鼻舌身意の六根は空である。

　　　（２）外空（げくう）：色声香味触法の六境は空である。

　　　（３）内外空（ないげくう）：自身は全て空である。

　　　（４）空空（くうくう）：空と観じることも空である。

　　　（５）大空（だいくう）：十方の世界は全て空である。

　　　（６）第一義空（だいいちぎくう）：諸法の外の実相も自性なく空である。

　　　（７）有為空（ういくう）：全ての因縁によって造られたものは空である。

　　　（８）無為空（むいくう）：因縁によって造られたもの以外、即ち涅槃も空である。

　　　（９）畢竟空（ひっきょうくう）：諸法を全て空とする、究極の空。

　　　（１０）無始空（むしくう）：無始から存在するものも空である。

　　　（１１）散空（さんくう）：仮の集合は離散し破壊する相をもち空である。

　　　（１２）性空（しょうくう）：自性は空である。

　　　（１３）自相空（じそうくう）：諸法の相（すがた）も空である。

　　　（１４）諸法空（しょほうくう）：一切の諸法は空である。

　　　（１５）不可得空（ふかとくくう）：諸法の自性は求めても得られない、即ち空である。

　　　（１６）無法空（むほうくう）：過去と未来の諸法も空である。

　　　（１７）有法空（うほうくう）：現在の諸法が空である。

　　　（１８）無法有法空（むほううほうくう）：過去現在未来の諸法は全て空である。

二空（にくう）：空を次の二に分類する。

　　　（１）生空（しょうくう）：色および諸行（一切の有為法）は生じるときはただ空のみが生じ、滅する時はただ空のみが滅する。この中に吾我無く、人無く、神無く、人の今世より後世に至るもの無し。ただし因縁の和合せる名字等の衆生を除く。

　　　（２）法空（ほうくう）：十二因縁の老死乃至無明のような一一の見解は空にして『これは老死である。』と言えばそれは邪見であり、『誰が老死する』と言えばそれも邪見である。一切の見解は空であり、それに囚われれば邪見となる。（智１８）

処非処（しょひしょ）：道理にあうことを処（しょ）といい、道理に合わないことを非処（ひしょ）という。またそのことが可能であることも処（しょ）という。

動処（どうしょ）：行動が可能であること。

法（ほう）：法とは自体の義、規則の義、存在の義、事物の義。万有の事理は一一自体を有し、軌則を具うるが故に皆法と名づく。およそ三つの意味がある。

　　（１）仏法。

　　（２）法則。

　　（３）物の概念。例えば『犬というもの』といえばある特定の犬ではなく、犬というものの概念をあらわす。これを犬法あるいはただ単に法という。『考え』のような無形のものを含む。また、次の二種がある、

　　（１）心法（しんぽう）：（ａ）瞋恚、憂愁、疑等、（ｂ）婬欲、憍慢等。

　　（２）非心法（ひしんぽう）：（ａ）外の寒熱、風雨等、（ｂ）内の飢渇、老病死等。（智１５）

諸法（しょほう）：あらゆる物事という意味。万法。万物。

人法（にんぽう）：凡そ次のような意味がある。

　　　　（１）人とは教えを受けるもの、法とは仏の教え。

　　　　（２）一切の有情を人といい、一切の非情のものを法という。

　　　　（３）単に人、或は人として備うべき性質。

法相（ほっそう）：諸法（万物）は一性なれども殊別の相を持つ。殊別の相とは外より見られるものをいう。

法印（ほういん）：妙法の印璽。妙法は真実にして不動不変なるが故に印という。また妙法は王の印の如く通達無礙なるが故に印という。また仏の正法を証明するものであるが故に印という。また諸仏と心と心と相い伝え相い印可するが故に法印という。

三法印（さんぽういん）：仏教の三つの旗印。

　　　　（１）諸行無常印：行とは遷流の義、有為法を言う。　一切の有為法は念念に生滅して無常である。

　　　　（２）諸法無我印：行を有為法、法を無為法として、一切の有為法無為法中に我の実体は無い。

　　　　（３）涅槃寂静印：涅槃とは一切の生死の苦を滅すること、これ則ち寂静である。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（智１４、２２）

不請法（ふしょうほう）：喜ばれて請われなくとも相手にとって利益のある法。大乗法。仏法。

　　注：唐の善道は『観経疏（かんぎょうそ）』の中で仏法について次のように言っている。

　道俗時眾等　各發無上心　道俗の時（こ）のひとびとよ、各々無上心を発せよ、

　生死甚難厭　佛法復難欣　生死は甚だ厭い難く、仏法もまた欣（よろこ）び難し、

　共發金剛志　��超斷四流　共に金剛の志を発して、よこぎって四流（煩悩の河）を超えんと。

有（う）：次の四義がある。

　　（１）無あるいは空に対する語。

　　　　（ア）実有（じつう）：妙有（みょうう）、涅槃のように因縁によらず存在するもの。

　　　　（イ）仮有（けう）：因縁によるもの。他のものに依存して存在するもの。

　　（２）十二因縁（じゅうにいんねん）の一。生存、存在を妄信すること。

　　（３）果のこと。因果は亡びずの義。三有（さんう、三界）、二十五有、四有など。

　　（４）生死が相続する義。真に滅することはないという意味で外道の思想である。

有為法（ういほう）、有為（うい）：為は造作の義。造作の有ることを有為という。即ち因縁所生の事物が蓋し有為か。能生の因縁が有れば、これの造作所生の事物が有る。所生の事物には、必ずこの因縁の造作が有り、この故に有為法という。本来、自ら爾るべくして、因縁所生の者に非ざるを無為法という。因縁によって作られた事物。姿、形のあるもの、あるいはその物の記憶など。蓋し大乗的な意味合いとしては、為にすることを有為といい、為にしないことを無為という、という所か。或いは有為、無為の訳語にはこれが加味されているのかも知れない。

四相（しそう）：衆生相（しゅじょうそう）、有為法（作られた物）はすべて、次の四相を取る。

　　　　（１）生相（しょうそう）：事物が生起すること。

　　　　（２）住相（じゅうそう）：事物が安住すること。

　　　　（３）異相（いそう）：事物が衰退すること。

　　　　（４）滅相（めっそう）：事物が崩壊すること。

無為法（むいほう）、無為（むい）：因縁の所生に非ざるの義。多くは絶対的なものとして涅槃を指す。涅槃の異名。

三無為（さんむい）：無為は因縁により生滅しないもの、即ち涅槃をいうが、小乗では更に分ける。

　　（１）択滅無為（ぢゃくめつむい）：智慧の力で煩悩の顕れを択び、これは無為であると知る。

　　（２）非択滅無為（ひぢゃくめつむい）：人の自性は本来清浄であり、本来無為である。

　　（３）虚空無為（こくうむい）：一切は真如の現れであるという意味で無為である。

択滅無為はまた数縁尽（しゅえんじん）ともいい、非択滅無為は非数縁尽ともいう。

有漏法（うろほう）：諸漏と互いに随増する法の義。無漏法に対す。即ち四諦の中の苦集二諦の法をいう。倶舎論第１に『有漏の法とは云何ん。謂わく道諦を除いて余の有為法なり。所以は何ん。諸漏の中に於いて等しく随増するが故なり。滅道諦を縁じて諸漏生ずといえども随増せざるが故に有漏に非ず。』という。この中、漏は漏泄の義にして即ち諸の煩悩をさす。この諸煩悩は彼の苦集二諦の相応法の中に於いて、及び所縁の境の中に於いて、互いに相い随順し互いに相い増長するが故に、彼の苦集二諦の法を有漏と名づく。滅道二諦を縁じて諸漏生ずることあるも、互いに随増せざるが故に彼の二諦の法は有漏に非ず。蓋し、随増には相応と所縁の二種あり、相応とは煩悩と相応する心所が、彼の煩悩と互いに相い随順増長するをいい、所縁とは煩悩の為に縁ぜられる境が、彼の煩悩と互いに相い随順増長するをいう。

無漏法（むろほう）：諸漏の随増することなき法の意。有漏法に対す。即ち無為及び道諦所摂の法をいう。虚空、択滅、非択滅の三種の無為、及び七覚支、八聖道支等の道聖諦の法は共に皆煩悩を随増するの義なく、有を損減するものなるが故に無漏法という。

有為無漏法（ういむろほう）：有為にして無漏の法に通じる。即ち勝義で法に対すること。四諦中の道諦。

色身（しきしん）：肉体を持った存在。

無色身（むしきしん）：肉体を持たない存在。

有想身（うそうしん）：心があり考える存在。

無想身（むそうしん）：心はあるが考えない存在。

非有想非無想身（ひうそうひむそうしん）：心もなくただ存在するだけの存在。

不可得（ふかとく）：求めても得られない、他と区別が出来ないという意味。

作法（さほう）：身口に於いての作為奉業。

観行（かんぎょう）：心に於いて理を観じ、理の如くに身が行う。

七慢（しちまん）：七つの慢心。（倶舎論１９）

　　（１）慢（まん）：劣る者に於いて自分が勝れると言い、等しい者に於いて等しいと言う。

　　（２）過慢：等しい者に於いて自分が勝れると言い、勝れた者に於いて等しいと言う。

　　（３）慢過慢：他の勝れた者の中に於いて、自分は更に勝れると言う。

　　（４）我慢（がまん）：有我に執著する。

　　（５）増上慢（ぞうじょうまん）：『われは増上の法を得た。』と言って慢心を起すこと。

　　（６）卑慢：他の多分に勝れた中に於いて少分に劣ると言う。

　　（７）邪慢（じゃまん）：悪行を成就し、悪を恃んで高く挙げる。

相（そう）：他と区別できる、見かけ上のすがた。五感で感知するもの。物事の表面に現れた見かけ。眼等の六根が外境に働きかけ、心の中に像が形づくられる。

無相（むそう）：感覚では、そのすがたを捉える事ができないこと。

無作相（むさそう）：他のものに働きかけないこと。

無生滅相（むしょうめつそう）：場所的にも、時間的にも常に存在する。過去現在未来、あらゆる場所に存在すること。

無行相（むぎょうそう）：何もしないこと。

常不生如性相（じょうふしょうにょしょうそう）：常不生は常に存在すること、如性は真実というものの持つ性質。

寂滅相（じゃくめつそう）：静かで変化しないこと。涅槃の相。

二相（にそう）：総相（そうそう）、別相（べつそう）、すべて縁によって作られたもの、つまり有為法（ういほう）には総相と別相という二つの相（みかけ、すがた）が有る。例えば無常とか無我といった相は一切のものに通用するので総相といい、地が堅いとか水が湿っているというような相はそれ固有のものなので別相という。

有相（うそう）：因縁によって作られたもの。

有物（うもつ）：他から独立した物質として存在するもの。

無物（むもつ）：他から独立した物質として存在しないこと。

有依（うえ）：六根六境によって、常に縁ぜられる（影響される）こと。

無依（むえ）：六根六境によって、縁ぜられないこと。

有対（うたい）：対象により、心が拘束されること。　対とは碍（さまたげ）の意。碍はまた二つに分類でき、一は障碍で五根（眼耳鼻舌身）、五境（色声香味触）が相互に障碍をなすこと、物質としてある空間を所有して他を邪魔することをいう。　二は拘碍で六根（眼耳鼻舌身意）、六識（眼識、耳識、鼻識、舌識、身識、意識）と心所（心の働き）により心が拘束されて自由にならないこと。　故に有対とは上の性質をもつもの、無対はもたないもののことをいう。

　　対は礙の義で、五根五境および心心所等の法が他のために障礙せられて生ぜず、もしくは所取所縁の境のために拘礙せられて、他に転ずることができないことをいう。　五根五境の十色界は物質なるが故に、手が手を礙（さ）え、石が石を礙えて、二物は同時同処に生ずることができない、これを障礙有対という。　六根六識の十二界と法界の一分たる心所（しんじょ、貪瞋癡等の心の働き）の法は、色境等に拘礙されて他の境に転ずることができない、これを境界有対という、即ち魚等が水に拘礙せられ、人等の眼が水に拘礙せらるるようなことである。　心心所法が外境に縁ぜられず、自らの所縁にのみ執する、これを所縁有対という。

無対（むたい）：対象により、心が拘束されないこと。　有対に対する語で、物あるいは心が礙げられず自由であることをいう。

是処（ぜしょ）：道理に適うこと。道理に適わないことを不是処（ふぜしょ）、または無是処（むぜしょ）という。

世界（せかい）：世界は因縁によって成り立ち、常に生滅を繰り返す、人とその他の生き物が住む世界。非世界（ひせかい）：あらゆる物事が常住不滅である概念としての世界。

※世界：路迦駄賭（ろかだと、ローカダートゥ）の訳語。原義は壊れるべき処。世とは遷流の義、界は方位を指す。即ち時間上には過去、現在、未来三世の遷流が有り、空間上には東西南北、上下十方等の定位、場所が有るの意である。また即ち衆生の居住する所依の処、山川、国土等を指す。上に述べる所に由れば、可知の世界であり、原意では三界の有為の世界であったが、大乗仏教ではまた蓮花蔵世界、弥陀の浄土等を指し、即ち相対世界を超越する絶対世界、無為世界をも包含する。

無始（むし）：一切の世間、若は衆生、若は法は、皆始まりの有ること無く、今生の如きも、前世の因縁に従って有り、前世もまた前世に従って有る。このように展転推究するに、衆生及び法の元始は不可得なり、故に無始という。

諍処（じょうしょ）：思惟分別の対象となり、諍論の世界をいう。因縁により成り立つ世界。

福徳（ふくとく）：一切の善行をするための力。善行は二つに分けることが出来、世の福を感じて、五戒十善などを行ずることを福分（ふくぶん）、出世間の果を感じて、菩提心を発（おこ）し行ずることを道分（どうぶん）という。しかし、福分と道分は同じものを異なる角度から見たと言ったほうが良いだろう。

福田（ふくでん）：種をまいて福を得るための田という意味で、仏法僧の三宝は布施をすると福があることをいう。

顛倒（てんどう）：誤った逆の見解。おもに世間は常楽我浄であるとする見解を非難していう。また各種の大乗経典（涅槃経など）では常楽我浄は顛倒ではないとすることもある。またいずれかに固定した見解をいうこともある。

常楽我浄（じょうらくがじょう）：世間は常であって変化せず、楽であり、我は実在し、世間を更に浄める必要はないという見解。この逆を無常苦空不浄（むじょうくくうふじょう）といって世間は常ではなく変化し続け、苦であり、我は存在せず、不浄であって浄める必要があるとする。

衆生垢（しゅじょうく）：我（が、ワレ）と我所（がしょ、ワガモノ、我が身心）が存在すると思うこと。

三藐三（さんみゃくさん）：正確かつ遍しの意味。

三輪清淨（さんりんしょうじょう）：施す者、受ける者、施す財物の布施を構成する三要素を三輪相（さんりんそう）という。しかし、この三相は、ただ意の中に於いて区別される。この区別がなくなるとき、その状態を三輪清浄といい、菩薩が布施波羅蜜（ふせはらみつ）を満足するという。（大般若４８、７５）

　また、菩薩が十善業（じゅうぜんごう）を満足することも、三輪清淨という、この場合は身口意を三輪というのである。（大般若４１６）

　また、過去現在未来の一切の諸法（しょほう、物事）の本性は不可得（ふかとく、区別出来ない）と、完全に知ることも、三輪清淨という。この三世の諸法は、ただ意の中に於いて区別されるからである。（八十華厳３１）

三不善（さんふぜん）：三毒、貪欲、瞋恚、愚癡。

三善（さんぜん）：布施、慈（楽を与える）、悲（苦を抜く）。

十種清浄施（じっしゅしょうじょうせ）：菩薩の行う布施が、この十種を満足するならば、如来の無上に清浄なる広大の布施を行うことになる。

　　　（１）平等施（びょうどうせ）：衆生を選ばない。

　　　（２）随意施（ずいいせ）：菩薩の大願を満足する。

　　　（３）不乱施（ふらんせ）：衆生に利益を得せしめる。

　　　（４）隨宜施（ずいぎせ）：上中下の区別を知って布施をする。

　　　（５）不住施（ふじゅうせ）：布施の果報を求めない。

　　　（６）開捨施（かいしゃせ）：心が恋著しない。

　　　（７）一切施（いっさいせ）：究極的に清浄である。

　　　（８）廻向菩提施（えこうぼだいせ）：有為（うい、世間）と無為（むい、涅槃）とを区別しない。

　　　（９）教化衆生施（きょうけしゅじょうせ）：衆生が道場（どうじょう、涅槃）に至るまで捨てない。

　　　（１０）三輪清淨施（さんりんしょうじょうせ）：施者、受者、施物の三者を虚空の如しと正念に観察する。（八十華厳５８）

因（いん）、縁（えん）：ある事象を発生させる原因の中に、その発生に於いて主要な役割を果たす原因を因といい、因以外で発生を助ける事物を縁というが、仏教では、一切法（心法、心所法、心不相応行法、色法、無為法）の生起に就いて特に重要視し、それを様々に分類する。即ち四縁（因縁、次第縁、所縁縁、増上縁）、六因（能作因、倶有因、同類因、相応因、遍行因、異熟因）等である。

四縁（しえん）：心が境界に作用して心中の果を生起するに、次の四縁がある。

　　（１）因縁（いんねん）：強い働きの因（六根）と弱い働きの縁（六境）とが心心所（心と心の働き）を生じる。

　　（２）次第縁（しだいえん）：心心所は次々と間を置かずに起こる。

　　（３）所縁縁（しょえんえん）、縁縁（えんえん）：外境によって造られた心心所は、再び自心を生じさせる。

　　（４）増上縁（ぞうじょうえん）：上の三縁以外の一切は、或いは果の生起を妨げざることに於いて現象の発生の原因条件となる。

また、心識を能縁（のうえん）といい、心識の対象を所縁（しょえん）という。

また、心と心所（個別的な心の働き）とが対境に向ってはたらき、その相を取ることを縁ずるという。

※四縁（しえん）：縁（えん）とは攀縁（はんえん、しがみつく）の義。人の心識は一切の境界に攀縁す、眼識は色境に攀縁してこれを見、乃至身識は触境に攀縁してこれを覚るが如し。因って心識を能縁と為し、その境界を所縁と為すとき、その心識の境界に向かって動く作用、これを縁と謂う。即ち心の境界に攀縁するなり。縁とは心の境に対するときの作用であり、これを言い易うれば、則ち心の慮知（思慮）と為す。蓋し即ち対象を心に映ずることならん。即ち、一切の有為法の生起に憑藉（ひょうせき、寄与）する所を包括する四種の縁あり。即ち因縁、等無間縁、所縁縁、増上縁なり。（１）因縁：自果を産出するに直接内在する原因を指す。例えば種子に由って芽を生ずるが如き、種子は即ちこれ芽の因縁なり。その因縁と名づくる所以は、通常結果を生ずる主要条件を称して因と為し、次要条件を称して縁と為せば、ここに於いて則ち因を以って強調するも、また衆多の条件の一と為す。故に因縁と称するも、尋常に謂う所の因と縁との義には非ずして、またこの縁は精神と物質等との一切の現象に於いて適用すべし。（２）等無間縁：即ち心心所の相続する中に、前の一刹那の路を譲るに由って後の一刹那の生起を開引する原因を指す。また即ち心心所は過去の前の一刹那に於いて滅謝し、また現在の後の一刹那の生起に給与する力用なり。謂わゆる等とは、前念既に滅すると後念継いで生ずるとの二念の体と用との同等なるを謂う。これに反して、もし前の一刹那を善心聚と為し、後の一刹那を悪心聚と為せば、則ちその善語の刹那の相い望むに、則ち相い異なれば同等に非ず。謂わゆる無間とは、前後二念の間の念念に生滅して刹那も停らず、而も間隔の有ること無きを謂う。この縁は僅かに精神現象に於いて適用し、認識活動の以って発生することを得る条件と為す。（３）所縁縁：即ち心心所、攀縁する所の一切の対象を指す。また即ち一切の外在する事物が内の心所に対して産出する所の間接、直接の縁なり。例えば眼識は必ず一切の色を以って所縁縁と為し、耳識は必ず一切の声を以って所縁縁と為し、乃至意識は必ず過去現在未来等の一切法を以って所縁縁と為すが如し。（４）増上縁：上述の三縁以外の一切は、或いは無礙に於いて、現象の発生に於いて助くること有る原因条件なることを指す。大毘婆沙論巻二十一に云わく、「謂わく一刹那の心心所法は、次後の刹那の同類の心心所を引起するが故に立てて因縁と為し、即ちこれ開避して次後の刹那の心心所法を生ずることを得しむるが故に立てて等無間縁と為し、即ちこれよく次後の刹那の心心所法の所取の境と為るが故に立てて所縁縁と為し、即ちこれ障礙せずして次後の刹那の心心所法を得しむるが故に立てて増上縁と為す」と。また倶舎論巻七に云わく、「四種の縁あり、説かく因縁は五因の性なり。等無間は後に非ず、心心所の已生なり。所縁は一切法なり。増上は即ち能作なり」と。この中は即ち、因縁とは六因の中の能作因を除き、余の倶有相応等の五因の性にして、諸法の生起する時親しき原因となるものを云い、等無間縁とは前念の心心所法が開避して、よく無間に後念の心心所法を生ぜしむる縁となるを云い、所縁縁とは心心所法の為に所取の境となるを云い、増上縁とは六因の中の能作因にして、即ち障礙をなさずして、よく後念の法を生起せしむるを云う。蓋し心心所法は必ずこの四縁を藉りて生じ、色法と不相応法とはただ因縁及び増上の二縁によりて生じ、不相応中の滅尽定と無想定とは、所縁縁を欠きて余の三縁あり。就中、色法等は能縁に非ざるが故に、所縁及び等無間縁無く、滅尽及び無想の二定は、無心定なるが故に所縁縁無きなり。即ち、一切の万法を分かちて、心法、心所法、心不相応行法（その性は、非色悲心にして、心に相応せざる有為法なり）、色法、無為法等の五大類と為し、称して五位と為す。もし五位の生起と四縁との関係に就いて言わば、心法及び心所有法（精神現象）の生起は須く四縁全部を具備すべし；心不相応行法中の無想定と滅尽定の生起は、僅かに因縁、等無間縁、増上縁を須いて、所縁縁無し。これ無想と滅尽の二定は既に無心定に於いて属せば、已に心識の作用の言う可きものの無く、而も所縁縁は則ち須く心識を以って産生作用の相応条件と為せばなり。故にこの二定の生起には所縁縁を具えず；心不相応行法のその余の十二法と色法（一切の物質現象）との生起は、皆僅かに因縁と増上縁とを須う。これ色法とその余の十二種の心不相応行法とは已に心識の作用無く、故に所縁縁も無ければ、その生起の前後の両相もまた同等に非ずして、かつ固定の相続の次序も無きが故に等無間縁も無し。；無為法には乃ち生滅変化を有する諸法の真実の体性無く、自然なれば生起の原因条件の言う可きものの無し。故に四縁の範囲の外に在り。また、もし時間、空観を以って言わば、等無間縁は時間に属する因素なり、所縁縁は空間に属する因素なり、因縁及び増上縁は則ち時空二者に通ず。

六因（ろくいん）：有為法が生ずるには因と縁とが和合する必要があり、その因の体を六種に分別する。

　　　　（１）能作因（のうさいん）：名因（みょういん）、ある法（ほう、事物）を生じるに、他の一切の法は、或は積極的に力を与え、或は単に妨げないことにより、参与すること。　大地は草木を生じ、虚空は万物を妨げない。

　　　　（２）倶有因（くういん）：共因（ぐういん）、二以上の法が相互に依存して生ずること。　地水火風の四大、生住異滅の四種。　これらは相互に依存して一も欠けることがなく、互いに因となり、互いに果となる。

　　　　（３）同類因（どうるいいん）：相似因（そうじいん）、先の同類の法が後の同類の法を因と為すこと。　善法は善法の因となる。

　　　　（４）相応因（そうおういん）：心と心所の法は、必ず同時に相応して生じる。　あたかも一つの法のように見えるもの。

　　　　（５）遍行因（へんぎょういん）：遍因（へんいん）、同類因の中に別に一を立てて、遍く一切の惑いを生じる煩悩をいう。

　　　　（６）異熟因（いじゅくいん）：報因（ほういん）、不善業と有漏の善業とが因となって無記（むき、善悪未定）の果を引く時、これを異熟（いじゅく、異なる境界に熟す）因という。　異熟（いじゅく）とは、過去の善悪に依り、世を隔てて果報を得ることをいう。　五逆等の悪と十善等の有漏の善とが因となる、地獄の果と天上の果とは異熟であることをいう。

※六因（ろくいん）：凡そ有為法の生は、必ず因縁の和合に依れば、因体を論ずるに六種有り、（１）能作因：謂わゆる凡そ生法の為に力を以って与る者は、また障害を作さざるが故にこの因には与力、不障の二種有り。与力とは、法の生ずる時、勝力を与える者なり。眼根の眼識を生ずること、大地の草木を生ずるが如き、これを力有りてよく因と作ると為す。この有力能作因の因体は、ただ有為法に限り、無為法には通ぜず。無為法を以って無作用と為し、彼の生法に向って力を与えざる者なり。不障とは、謂わゆる他の生法を妨げず、他をして自在に生ぜしむ者なり。虚空の万物に于けるが如く、これを無力なれどよく因と作ると為すが故に、この無力能作因は、一切の無為法に通ずるなり。この因所得の果を名づけて増上果と為す。（２）倶有因：倶に果を有する因と為すが故に倶有因と名づく。謂わゆるこれは必ず二個以上の法が相い依って生ず。束ねた蘆の相い依るが如く、地等の四大種の住等の四相を生ずることこれなり。蓋し四大種の生は必ず互いに相い依って生じ、一も欠くべからず。これを同時倶有の法と為し、互いに因と為り互いに果と為れば、これを互いに果を為す倶有因と謂う。この因所得の果を士用果（士は男、用は作用なり、士の作用の強きを以って名づく）と名づく。（３）同類因：謂わゆる同類の法とは、同類の法を以って因と為すなり。善法は善法の因と為り、乃ち無記法は無記法の因と為るに至る。この同類の名は、善悪の性に就いて立て、色心等の事相に就いてには非ず。善の色蘊と善の識蘊との相い望むこと、猶盗塁因の等しく果に流るるが如き故なり。蓋しこの因所得の果は、乃ち等流果なり。（４）相応因：心と心所との法は必ず同時に相応して生ずるが故に相応法と名づく。この一聚の心心所に就いて他を一望するを以って名づけて相応因と為すこと、彼の倶有因の如し。蓋し倶有因の中に於いて特別に心心所の法を開いてこの因を立つる者ならん。故に所得の果も、倶有因を以って例と為し、称するに士用果と為す。（５）遍行因：これも同類因に由ると為し、特に煩悩法を開いて立つる者なり。蓋し見惑に在りては、苦諦下の五見及び疑と無明と、集諦下の邪見、見取の二見及び疑と無明とは、遍く一切の惑を生ずれば、故に遍行因と名づくるも、これは同類因の一種に過ぎざるが故に、所得の果は即ち等類果と為す。（６）異熟因：これは悪と有漏善との二法を以って体と為し、五逆の悪法を以って、地獄の報を感じ、十善の有漏善を以って天上の果を招くが如し。果の天上と地獄との果は、皆非善非悪にして、ただ無記性と為す。かくの如き善因悪因を以って、皆無記の果を感じ、因果類を異にして熟すが故に因を異熟因と為し、果を異熟果と為す。倶舍論六には、「因に六種有り：一能作因、二倶有因、三同類因、四相応因、五遍行因、六異熟因」と曰うを、旧訳の智度論三十二には、「相応因（相応因）、共生因（倶有因）、自種因（同類因）、遍因（遍行因）、報因（異熟因）、無障因（能作因）」と為す。

報（ほう）：果報（かほう）、異熟（いじゅく）、原因に対する結果である。　原因とは異なる世界に生じ、因の善悪が果の善悪と必ずしも一致しないことを異熟という。

有報（うほう）：有異熟（うういじゅく）、報を起すもの。　果を起す原因をいう。

四根本禅（しこんぽんぜん）：四禅（しぜん）、色界（しきかい）すなわち欲望がなく色身のみがある世界の禅定に四段階がある。禅定は物事を考えるところから、ただ楽しみのみの状態に進み、ついには一切の心の働きを超える。　初禅から第四禅の各段階に、既にその段階に達した根本定（こんぽんじょう）と、そこに達する準備段階的な近分定（きんぶんじょう）とがある。　また初禅の近分定を、特に未至定（みしじょう）或は未到地（みとうち）といい、初禅の根本定と二禅の近分定との中間を、特に中間地（ちゅうげんち）という。

　　　（１）初禅（しょぜん）：覚（粗雑な感覚）、観（思惟観察）、喜、楽、定（心不動）にて煩悩が起きない。

　　　（２）二禅（にぜん）：喜、楽のみ有りて、心が浄まり信根生ずる。

　　　（３）三禅（さんぜん）：楽のみ有りて、捨（しゃ、自他の区別を失う）、正念、正慧、定を得る。

　　　（４）四禅（しぜん）：感覚を受けず不楽不苦、捨、念清浄、定を得る。

四信（ししん）：次の四を信じること。

　　（１）信根本（しんこんぽん）：真如あるいは真実は諸仏の師。その真如を信じること。

　　（２）信仏：仏の大功徳を信じること。

　　（３）信法：仏法の大利益を信じること。

　　（４）信僧：僧の大行を信じること。仏法を弘めるという僧の大きな働きである。

十八界（じゅうはっかい）：十八の種族の意。三科（さんか）の一。即ち一身中に能依の識、所依の根及び所縁の境の十八の種族が有ることをいい、（１）眼界、（２）色界、（３）眼識界、（４）耳界、（５）声界、（６）耳識界、（７）鼻界、（８）香界、（９）鼻識界、（１０）舌界、（１１）味識、（１２）舌識界、（１３）身界、（１４）触界、（１５）身識界、（１６）意界、（１７）法界（ほっかい）、（１８）意識界を説いて、感覚器官である六根がその対境である六境に接触し次いで心が六種に働くと説くものである。また、心と心所（しんじょ、こころの働き）の拠り所としての六根と六境とを合わせて六情（ろくじょう）、六入（ろくにゅう）、十二処（じゅうにしょ）または十二入（じゅうににゅう）という。これは、眼耳鼻舌身意の六根と色声香味触法の六境を合わせたもので、六根と六境は互いに干渉し合って識を生ずるを言う。また六根を内の六入、六境を外の六入という言いこともある。

六根（ろっこん）：眼根（げんこん）、耳根（にこん）、鼻根（びこん）、舌根（ぜつこん）、身根（しんこん）、意根（いこん）の総称で、それぞれ眼、耳、鼻、舌、身、意（ものごとを最初に考えつく器官）を表す。根とあるのは、これらの感覚器官が身体と心の根本であるという意味。　六根の中の意根を除いた眼根等を五根（ごこん）、あるいは五情（ごじょう）ということもある。

六境（ろっきょう）：色境（しききょう）、声境（しょうきょう）、香境（こうきょう）、味境（みきょう）、触境（そくきょう）、法境（ほうきょう）の総称で感覚の対境をいう。

六識（ろくしき）：眼識（げんしき）、耳識（にしき）、鼻識（びしき）、舌識（ぜつしき）、身識（しんしき）、意識（いしき、心のこと）の総称で六根が六境に接触して得た情報を総合的に処理する。

情（じょう）：心が物に感じて動くはたらき、心の作用。

性（しょう）：心の本体。

陰界入（おんかいにゅう）：陰入界（おんにゅうかい）、三科（さんが）。五陰（ごおん）、十八界（じゅうはっかい）、十二入（じゅうににゅう）の三門をいう。この三門は皆、凡夫の実我に対する妄執を破らんと欲せんが為の故に施設するものである。しかも凡夫の迷執は頗る偏りが有れば、即ち心に迷って偏重する者の為には、色を合して一と為し、心を開いて四と為して五陰を立てる。色陰の一は色であり、後の受想行識は心の差別である。次に色に迷って偏重する者の為に色を開いて十と為し、心を合して二と為して十二入を立てる。五根と五境との十入が色であり、意根と法境との二入は心である。次に色心共に迷う者の為に、色を開いて十と為し、心を開いて八と為して十八界を立てる。五根五境の十界が色であり、意根と法境及び六識との八界が心である。

忍（にん）：認識すること。他の侮辱悩害に遭っても、耐え忍んで瞋らず、自らの苦しみに遇っても心を動かさない。道理の上に安住すること。

等忍（とうにん）：衆生等忍（しゅじょうとうにん）、生忍（しょうにん）、衆生の上に空理を認めること。一切の衆生に於いて等しき心で、等しく念じ、等しく愛し、等しく利すること。

法忍（ほうにん）：法等忍（ほうとうにん）、善法（よいこと）と不善法（わるいこと）、有漏（ぼんのうが残っている）と無漏（ぼんのうが残っていない）、有為（因縁が作ったもの）と無為（永久不変のもの）等は二つの別のものではなく、一つのものと認めること。この甚だ深い諸法の実相を観じ認識して、諍いも無く、心に礙（さまたげ）も無く自由であることをいう。

念（ねん）：（１）憶えること（識）、（２）思うこと（思）、（３）読むこと（読、誦）、（４）声に出すこと（唱）、（５）究めて短い時間（指を弾いて鳴らす時間の六十分の一とも四百分の一ともいう）の五義がある。

一念（いちねん）：（１）一たび思い浮かべること、（２）一たび声に出すこと、（３）極めて短い時間の一単位の三義がある。

念力（ねんりき）：心の思いを集めて障害を排除する力。

度（ど）：彼岸に渡ること、また渡すこと。仏法を確信して疑うことがないことをいう。

三業（さんごう）：身口意（しんくい）、身語意（しんごい）、身（しん、手足のうごき）と口（く、ことば）と意（い、こころ）の働きによって造られたもの。

行（ぎょう）：（１）身口意の活動。一切の身心の活動。造作の義。業と同義。善悪を造作して三世の報を招き感ずる。（２）遷流（せんる、遷り変わること）、引いては有為の義、即ち因縁所造なるが故に無常なる一切の法（事物）を指す。（３）歩行、進行の義。

用（ゆう）：作用（さゆう）、有為法に具わる働き。無為法には無く、有為法中では現在法にのみ有り、未来法と過去法とには無い。動作起用。有為法の生滅。

業（ごう）：人の身口意の造作、行為。（１）行と同じで、三業の所造。（２）三業による有形、無形の痕跡。三業の善悪を因として苦楽の果報を生じ、時間ともに滅びることがない。

業用（ごうゆう）：有為法の生滅の時の業の働き。

業報（ごうほう）：前世の報い。

雑業（ぞうごう）：娑婆世界の如き一界中に於いて鬼畜人天胎卵湿化等種種雑多の苦果を感ずる業因。これは一人に就いて言うのではなく、同一界に受生する各人に就いて言う。

随心行（ずいしんぎょう）：心より自然に生じる行。（智１３、２０）　『大智度論１３』の丹注に、

　　心に随って行うのは、定共戒（じょうぐかい、禅定に伴って自然に生じる止悪の戒）

　　心に随わないのは、五戒（ごかい、不殺生、不偸盗、不邪淫、不妄語、不飲酒）とある。

三報（さんほう）：果報（かほう）に三報あり。

　　　　（１）現報（げんほう）：この世で作った業の果報を、この世で受ける。

　　　　（２）生報（しょうほう）：この世で作った業の果報を、次の生で受ける。

　　　　（３）後報（ごほう）：業を作った生の、次の次の生以後に、その果報を受ける。

彼岸（ひがん）：迷いのない境地、謂ゆる涅槃（ねはん）を川の向こう岸に喩えたもの。

依止（えし）：拠り所。頼りにするもの。仏が阿難に残された最後の教えは、依止について説かれている。

　『若しは今の現前に、若しは我が過ぎ去りし後に、自らに依止し、法に依止して、余に依止せざれ。』（智２）

帰命（きみょう）：帰命には三義あり、総じて言えば信心の至極を意味する。

　　　（１）　仏に身体と命を帰趣する。

　　　（２）　仏の教えと命令に帰順する。

　　　（３）　命根（いのち）を一心の本元、すなわち『空』に返す。我々は寿命を『我』に付属するものと考えがちであるが、そうではなく本来、『空＝平等』の本体である仏の所有物として考えなおすことである。

調伏（ちょうぶく）：内には調和を指し、身口意三業を制御して諸の悪行を制伏す。その旨は衆生をして過失より離し法に順ぜしめ、究竟出離せしむ。外に対しては教化を指し、三世の怨敵、悪魔外道等をして悪を捨てしめ、降伏せしむ。柔なれば法を以ってこれを調え、剛なれば勢を以ってこれを伏すの意。

熙怡微笑（きいみしょう）：心穏やかに喜び笑うこと。

結跏趺坐（けっかふざ）：両足を組み、両足の裏を上に向けて坐る坐り方。背筋が伸び安定した姿勢から心の安定が得やすいと言われ、日本でも坐禅はこの方法で坐る。

頭面礼足（ずめんらいそく）：これは最も自ら謙譲を表わす礼の仕方。仏は真如、即ち絶対の真理が肉身を纏ったものであるが故に、誰もが真理の本では謙譲であるべきであるが故にこのようにする。

叉手合掌（さしゅがっしょう）：両手の指を伸ばしたまま組み合わせてする合掌。横から見ると左右の十本の指が交互に見える。

弾指（だんし）：次の三つの意味がある。（１）許諾。（２）歓喜。（３）警告。

善男子（ぜんなんし）、善女人（ぜんにょにん）：仏が在家の信者のことを呼ぶときこう言う。呼びかけにも呼びかけ以外にも使う。

族姓子（ぞくしょうし）：良家の男子。有徳の男子。善男子。

大徳（だいとく）：僧に対する呼びかけの言葉で、俗人から僧に、僧から僧にと広く使われる。

耆年（ぎねん）：長老（ちょうろう）、歳をとった比丘を呼ぶとき敬っていう。

聖人（しょうにん）：凡夫（ぼんぶ）の対語、大小乗の見道以上の人で煩悩を断ち、四諦の理を完全に覚った人。

阿僧祇劫（あそうぎこう）：阿僧祇（あそうぎ）とは無数ということ、劫（こう）は非常に永い時間のことで、一説によると４０里四方の石を百年に一度、天人が飛来して薄い衣の先で触れ、それによって石が摩滅してなくなるまでを一劫とするという。（智５）

　そして、この劫に四種あり、

　　（１）世界が出来上がりつつある間が一劫あり、これを成劫（じょうこう）という。

　　（２）人やその他の生き物が生活する期間が一劫あり、これを住劫（じゅうこう）という。

　　（３）世界が破壊しつつある期間が一劫あり、これを壊劫（えこう）という。

　　（４）何も無い期間が一劫あり、これを空劫（くうこう）という。

この四種の劫を一回りすることを大劫（だいこう）という。

天（てん）：一説には天は下から順に次のようにあると言われる。

　　　＜　Ｉ　六欲天（ろくよくてん）：三界の内の欲界に属するもの＞

　　　（１）四天王天（してんのうてん）：持国天（じこくてん）、広目天（こうもくてん）、増長天（ぞうちょうてん）、多聞天（たもんてん）の四天王がいるため四天王天という。

　　　（２）忉利天（とうりてん）：諦釋天（たいしゃくてん）を中心としてその東西南北に各八天が在るため、三十三天ともいう。

　　　（３）夜摩天（やまてん）：この天では時々『快いかな』と唱和する。

　　　（４）兜卒天（とそつてん）：五欲の楽しみに於いて満足し喜ぶという処。

　　　（５）楽変化天（らくへんげてん）：五欲の境に於いて自ら変化を楽しむという処。

　　　（６）他化自在天（たけじざいてん）：五欲の境に於いて他をして自在に変化せしむという処です。欲界の頂上で第六天（だいろくてん）ともいう。

　この内の四天王天は須弥山の中腹に在り、忉利天は須弥山の頂上に在り、この為に地居天ともいいます、兜卒天以上は空中に住まって在るという。

　　　＜　ＩＩ　四禅天（しぜんてん）：三界の内の色界に属するもの＞

　　　（７）初禅天：（７−１）梵衆天（ぼんしゅてん）、（７−２）梵輔天（ぼんほてん）、（７−３）大梵天からなる。

　　　（８）第二禅天：（８−１）少光天、（８−２）無量光天、（８−３）極光淨天からなる。

　　　（９）第三禅天：（９−１）少淨天、（９−２）無量淨天、（９−３）遍淨天からなる。

　　　（１０）第四禅天：（１０−１）無曇天、（１０−２）福生天、（１０−３）広果天、（１０−４）無煩天、（１０−５）無熱天、（１０−６）善現天、（１０−７）善見天、（１０−８）色究境天（しきくきょうてん）、または阿迦尼吒天（あかにだてん）、首陀会天（しゅだえてん）からなる。

　　　＜　ＩＩＩ　四無色界天（しむしきかいてん）：三界の内の無色界に属するもの＞

　　　（１１）空無辺処天（くうむへんじょてん）。

　　　（１２）識無辺処天（しきむへんじょてん）。

　　　（１３）無所有天（むしょうてん）。

　　　（１４）非想非非想処天（ひそうひひそうじょてん）：有頂天（うちょうてん）ともいう。

五淨居天（ごじょうごてん）：第四禅天の無煩天より色究竟天をいう。

六地（ろくじ）：四禅、未到地、中間地。

十一地（じゅういちじ）：六地（四禅、未到、中間）と三無色界（四無色定の下三）と欲界及び有頂地（四無色定の最上非想非非想処）をいう。

九地（くじ）：六地（四禅、未到、中間）と三無色界。（智２０、阿毘達磨大毘婆沙論１６６）

三界（さんがい）、衆生世界（しゅじょうせかい）：凡夫の生死して往来する世界を分かちて三と為す。

　　（１）欲界（よくかい）：地獄、餓鬼、畜生、人間、天上。婬欲と食欲の二欲有る有情（うじょう、衆生）の住処、上は六欲天中より人界の四大洲、下は無間地獄に至る。

　　（２）色界（しきかい）：色とは質礙の義、有形の物質をいう。この界は欲界の上に在り、婬食二欲を離れた有情の住処である。謂わゆる身体、謂わゆる宮殿等の物質的物は、総じて殊妙にして精好なるが故に色界という。この色界は禅定の浅深と麁妙によって四級に分かれ、これを四禅天という。

　　（３）無色界（むしきかい）：この界は無一色、無物質的物、無身体、また無宮殿国土であり、ただ心識を深妙の禅定に住めるを以っての故にこれを無色という。ここは既に無物質の世界なれば則ちその方所すら定むべきに非ず、ただ果報勝るるの義に就いて、色界の上に在りと言うのみ。これに四天有り、これを四無色という。

六欲天（ろくよくてん）：欲界の六天。以下に示す中に四王天は須弥山の中腹に在り、忉利天は須弥山の頂上に在るが故にこれを地居天という。兜率天以上は空中に在るが故にこれを空居天という。（１）四王天（しおうてん）：持国、広目、増長、多聞の四王故に四王天と名づく。（２）忉利天（とうりてん）：三十三天と訳す。帝釈天を中央にして、四方に各八天有るが故に天数に従って三十三天と名づく。（３）夜摩天（やまてん）：時分と訳す。彼の天中には時時に『快きかな』と唱うるが故に名づく。（４）兜率天（とそつてん）：喜足と訳す。色声香味触の五欲の楽に喜足の楽を生じるが故に名づく。（５）楽変化天（らくへんげてん）：五欲の境に自ら楽しんで変化するが故に名づく。（６）他化自在天（たけじざいてん）：五欲の境に於いて他をして自在に変化せしむるが故に名づく。天の項参照。

四種天（ししゅてん）：天とは五道中の天を指すのみならず、人中の天もある。（智２２）

　　（１）名天（みょうてん）：比喩的名のみの天。国王を天子というが如き。

　　（２）生天（しょうてん）：五道中の天。四天王天より非有想非無想天に至るまで。

　　（３）浄天（じょうてん）：人中の諸の聖人。

　　（４）生浄天（しょうじょうてん）：三界の天中に生まれた諸の聖人。謂わゆる、須陀洹、家家、斯陀含の一種は、或いは天上に於いて、阿那含、阿羅漢の道を得る。

四維（しゆい）：四隅、東南、南西、西北、北東の四をいう。

非人（ひにん）：人形に非ざる者たち、天龍八部夜叉などの悪鬼の類。

天龍八部：八部衆といって、法会に現れて聴聞し、仏法を守護するものたちで、以下に揚げる。

　　　（１）天人：欲界の六天、色界の四禅天、無色界の四空処天に住む。身より光明を放ち、苦労なく楽しみが多い。

　　　（２）龍：水中の生き物の王。空中を飛び雲雨に変化する。

　　　（３）夜叉（やしゃ）：空中を飛行する鬼神。男は醜く女は美しい。

　　　（４）乾闥婆（けんだつば）：酒肉を食わず香を嗅いで身を養う歌神。自身に好香あり。

　　　（５）阿修羅（あしゅら）：容貌醜悪で力が強く、常に帝釈天と戦う鬼神。

　　　（６）迦楼羅（かるら）：金翅鳥（こんじちょう）、翼長三百三十万里、龍を食う巨鳥。

　　　（７）甄陀羅（けんだら）：緊那羅（きんなら）、頭上に角があるため、これも非人、人非人と呼ばれる。帝釈天の楽神。

　　　（８）摩睺羅伽（まごらが）：大腹行といい、地を這うが龍に似る。

迦陵毘伽（かりょうびか）：迦陵頻伽（かりょうひか）、声の美しい天の鳥、楽神の緊那羅（きんなら）も及ぶことが出来ない。あるいは卵殻の内から、微妙なる声を出だして余の鳥に勝るという。（智２８）

富単那（ふたんな）：負多（ふた）、悪霊、鬼神の類、餓鬼神。広目天の眷属。

補処（ふしょ）：一生補処（いっしょうふしょ）ともいい、この一生を終えて次の生では仏となることが約束された菩薩のことをいう。

�ﾉ闥婆城（けんだつばじょう）：蜃気楼、�ﾉ闥婆（けんだつば）は天の楽人で、酒肉を食わず香を吸って身を養うというが、幻の楼閣を作って人に見せるともいう。

八難処（はちなんじょ）：仏を見ることと仏法を聞くことが困難な八種の処。

　　　（１）地獄：余りの苦しさに仏に遇っても気がつかない。

　　　（２）餓鬼：余りに腹が減って仏に遇っても気がつかない。

　　　（３）畜生：愚かなために仏に遇っても意味がわからない。

　　　（４）鬱単越（うったんおつ）：須弥山を囲む四大州の一で、最も楽しく苦しみのない地であることから、仏の必要を認めようとしない。

　　　（５）長寿天：色界と無色界の長寿の処も仏の必要を認めようとしない。

　　　（６）聾盲瘖啞の人。

　　　（７）世智に勝れた人。

　　　（８）仏前仏後の人。

八法（はっぽう）：八風（はっぷう）、世間は愛憎する所に八つのものを与えて、人心を扇動する。　これに四順四違あり。　

　　　　（１）利（り）：利益を与える。

　　　　（２）衰（すい）：損失を与える。

　　　　（３）毀（き）：かげで譏る。

　　　　（４）誉（よ）：かげで誉める。

　　　　（５）称（しょう）：面前で誉める。

　　　　（６）譏（し）：面前で譏る。

　　　　（７）苦（く）：苦しめる。

　　　　（８）楽（らく）：楽しませる。

五欲（ごよく）：色声香味触の五境のこと。この為に人は欲心を起こす。また一説には（１）財欲、（２）色欲、（３）食欲、（４）名欲、（５）睡眠欲のことだとも言われている。ただしここでは色声香味触の五境を意味する。

五種人説法（ごしゅにんせっぽう）：仏法は次の五種の人によって説かれる。即ち（１）仏自口、（２）仏弟子、（３）仙人、（４）諸天、（５）化人をいう。（智２）

師子座（ししざ）：仏の説法の座。師子吼（ししく）する座、即ち獅子のように大音声（おんじょう）で心に響く説法をする座。

幢（どう）：仏がここに居られるということを表わすための旗ぼこ。竿柱を高く建てて、種種の糸や布で荘厳したもの。仏前にこれを建てて表することにより、群生を靡かせ、悪衆を制す。

幡（ばん）：仏がここに居られることをあらわすのぼり。仏の威厳を示す荘厳の具。大将の旌旗の如きもの。

蓋（がい、かさ）：印度の強い日差しを遮るための日傘。印度では貴人を象徴する。

瓔珞（ようらく）：宝石等を連ねて垂れ下がらせた飾り。※幡（ばん）：また旛（ばん）に作る。乃ち旌旗の総称。もと武人の戦場に用いて軍旅を統領し、軍威を顕揚せし物なるも、仏教にこれを取りて以って仏菩薩降魔の威徳を顕示す。幢（どう）と同じく仏菩薩の荘厳の供具なるも、幡は各種の色に着色される。幢（どう）：また宝幢、天幢、法幢に作り、ハタボコ（旗鉾）と訓じる。幡と同じく旗の一種であるが、形状に依って区別することが有り、円桶状を幢といい、長片状を幡という。蓋（がい）：日を遮り雨を防ぐ傘。また傘蓋、笠蓋、宝蓋、円蓋、花蓋と称す。樹皮蓋、樹葉蓋、竹蓋の三種有り。印度は熱帯に位処すれば、彼の国の人は日中屋外に在る時、多く蓋を以って日を遮る。蓋は、形状に依り二種に分けられ、一般に多く見られるのは柄が内部中央に附く者であるが、また柄が外面上部に附き蓋を懸ける者もあり、これを天蓋と称す。後世に円筒形の絹製品を作り、高く仏座或いは高座の上に懸けて仏殿の荘厳具と為す。

巍巍（ぎぎ）：山が高く見上げるほど盛り上がっている様子で仏の形容としてよく使われる言葉。

四生（ししょう）：生まれる形態には四種ある。

　　　（１）胎生（たいしょう）：人類のように母胎中で体を成してから生まれる。

　　　（２）卵生（らんしょう）：鳥類のように卵の中で体を成してから生まれる。

　　　（３）湿生（しっしょう）：虫類のように湿気によって生まれる。

　　　（４）化生（けしょう）：託さずに自らの行為の因縁（業力）によって忽ちに起こることをいい、また天上と地獄、餓鬼の衆生はこの化生によって生まれるともいう。

吉祥草（きちぞうそう）：仏が覚りを開くため菩提樹下において瞑想したとき敷いた草の名。毒虫を寄せ付けない、香りがよい、清潔であるなどの諸益があるという。

阿蘭若（あらんにゃ）：静閑処（せいかんじょ）、比丘が居住して修行するのに適した人里離れた静かな場所。

糞掃衣（ふんぞうえ）：衲衣（のうえ）、比丘の衣を作る材料はすべて捨てられたボロ布を綴ったものか、それに準じたものであるという意味。これに四種あり。

　　（１）塚間衣（ちょうけんえ）：死人を包んで墓に捨ててある衣。

　　（２）出来衣（しゅったいえ）：死人を包んだ衣で施されたもの。

　　（３）無主衣（むしゅえ）：所有者のいない衣。

　　（４）土衣（どえ）：捨て置かれたボロ布。

比丘の持ち物：衣鉢（えはつ）、三衣一鉢（さんねいっぱつ）生活必需品としては次の物をいう。

小乗の比丘六物、比丘の所有物のすべてです。常に持ち歩かなくてはならない。

　　　（１）僧伽梨（そうがり）：大衣ともいい、僧院の外で用いる。九から二十五条の布をつぎあわせて作る。

　　　（２）漚多羅僧（うったらそう）：鬱多羅僧、上衣ともいい、僧院のなかで聴聞、説戒のとき用いる。七条の布をつぎあわせて作る。

　　　（３）安陀会（あんだえ）：内衣ともいい、日常の普段着、また寝るとき用いる。五条の布をつぎあわせて作る。

　　　（４）：鉢。鉢多羅（はつたら）、鉄を叩き延ばして作る。食物を入れる。比丘は乞食のときこの五升ほど入る鉢を常に持ち歩く。

　　　（５）：尼師壇（にしだん）、坐具、坐るときの敷物。礼拝するときこれを敷いてその上でする。

　　　（６）：漉水嚢（ろくすいのう）、水を漉す布。誤って虫とか塵を飲み込まないために用いる。

三衣（さんね）：上に説く（１）僧伽梨、（２）鬱多羅僧、（３）安陀依を総称して三衣といい、比丘はこの三枚の衣を一枚づつ所有し、それ以外は持たない。

袈裟（けさ）：不正、壊、濁、染等と訳す。比丘の着ける法衣を指す。これに大中小の三衣有りて青、黄、赤、白、黒の五正色を避け、その他の雑色を用いる、故に色に従って袈裟という。その形は長方形を為すが故に、形に従って敷具、臥具等という。その相は、小片に割截し、綴り合せて田の畔の如くなるが故に相に従って割截衣、田相衣という。大中小の三枚は名を別にし、その小なる者を安陀会（あんだえ）といい、五條と訳す、その中なる者を鬱多羅僧（うったらそう）といい、七條と訳す、その大なる者を僧伽梨（そうがり）といい、九條、大衣等と訳す。天竺にてはこの三枚の袈裟の外には衣と謂われる者無し。

大乗の比丘十八物。

　（１）：楊枝（ようじ）、歯木（しもく）、歯をみがくとき使用する。

　（２）：澡豆（そうず）、大豆の粉で石鹸のかわりに使う。

　（３）：三衣。併せて一に数える。

　（４）：瓶、飲み水を入れる。

　（５）：鉢。

　（６）：坐具。

　（７）：錫杖（しゃくじょう）、頭部に金属の輪が多数ついて音のでる杖、悪獣、悪虫を追い払うためのもの。

　（８）：香炉。礼拝のとき使用する。

　（９）：漉水嚢。

　（１０）：手巾（しゅきん）、手ぬぐいのこと。

　（１１）：刀子（とうす）、小刀。

　（１２）：火燧（かすい）、火打ち石、火を発すとき使う。

　（１３）：鑷子（にょうす）、毛抜き。

　（１４）：縄床（じょうしょう）、縄を張ったごく粗末なベッドもしくは椅子。

　（１５）：経。

　（１６）：律。戒本といいます。戒の項目のみを記したもの。

　（１７）：仏像。

　（１８）：菩薩像。

腐爛薬（ふらんやく）：牛の尿を醗酵させたもの。

染衣（せんね）：香衣（こうえ）、乾陀樹（けんだじゅ）の皮で染めた衣、黄色から赤色の中間の色。印度では在家の人は真っ白な衣を好んで着た。このために人に盗心を起こさしめないために人の嫌う色の衣を着た。割截衣（かっせつえ）と言って一枚の布を細く裂いてそれを縫い合わせて衣とするのも意味は同じ

剣婆羅（けんばら）：欽婆羅（きんばら）、羊毛で織った布。

白衣（びゃくえ）：印度の人は白の衣を好んで着るので在家の人を白衣と呼ぶ。

剃頭（たいとう）：印度に於いては仏教徒固有の制度で、憍慢心を除く為にする。一説では子孫を残さないことの象徴。

四姓（ししょう）：印度の生まれによる階級は次の四つと、それに入らない最底種がある。

　　　（１）婆羅門（ばらもん）：宗教祭祀を司さどる支配階級。

　　　（２）刹利（せつり）：刹帝利（せっていり）、政治を司る支配階級。

　　　（３）毘捨（びしゃ）：吠捨（べいしゃ）、商人階級。

　　　（４）首陀（しゅだ）：戍陀羅（じゅだら）、農奴、職人階級。

　　　（５）旃陀羅（せんだら）：屠殺を業とする者。　四姓の外、最底種。

印度四姓：印度には生まれながらに厳しい階級の差別があり、それを四姓という。（１）婆羅門（ばらもん）：浄行者と意訳す。或いは出家、或いは在家の浄行を修めて涅槃を求める者。吠陀（べいだ）経典を学習伝授し、祈祷、祭祀を掌理して神と人間との媒介を為す。（２）刹帝利（せつていり）：田主、王種と意訳す。王族乃至士族の階級。政治及び軍事を掌管して代々世に君臨し、その他の三姓を統括する。（３）毘捨（びしゃ）：居士、田家、商賈（しょうこ、商人）と意訳す。農業、牧畜、工業、商業等の生産事業に従事する一般平民階級。（４）首陀羅（しゅだら）：農種、殺生種と意訳す。最下位の奴隷階級にして終身、前の三種の姓に奉持するをその本務とする。また前の三種の姓は吠陀を念誦すること及び祭祀の権を有し、死後に再び世に生まれるので再生族と称するが、首陀羅はすでに誦経、祭祀の権無く、再び世に転生することが無いので、一生族と称す。注：婆羅門種の梵志は刹帝利種の仏を見下し、瞿曇と釈迦族の姓を以って呼ぶ。

四聖種（ししょうしゅ）：比丘は四姓種の外にあり、それを称えて四聖種という。（１）衣、（２）食、（３）住処は得るに随って喜悦し満足して、（４）欲望を断ずることを欲し、断ずることを楽しみ、この故に自らを貴ばずして他を賎しめざる者。『中阿含経巻２１』：『阿難。我本為汝說四聖種。比丘．比丘尼者。得麤素衣而知止足。非為衣故求滿其意。若未得衣。不憂悒。不啼泣。不搥胸。不癡惑。若得衣者。不染不著。不欲不貪。不觸不計。見災患知出要而用衣。如此事利不懈怠而正知者。是謂比丘．比丘尼正住舊聖種。如是食．住處。欲斷樂斷。欲修樂修。彼因欲斷樂斷．欲修樂修故。不自貴．不賤他。如此事利不懈怠而正知者。是謂比丘．比丘尼正住舊聖種。阿難。此四聖種。汝當為諸年少比丘說以教彼。若為諸年少比丘說教此四聖種者。彼便得安隱。得力得樂。身心不煩熱。終身行梵行』

四韋陀（しいだ）：毘陀（びだ）、吠陀（べいだ）、婆羅門の学問で四に分類される。　この中、先にできた利具吠陀、三摩吠陀、夜柔吠陀を三明（さんみょう）、三韋陀（さんいだ）とよぶ。

　　（１）利倶吠陀（りぐべいだ、リグヴェーダ）：太古よりの賛美歌の集成。

　　（２）三摩吠陀（さんまべいだ、サーマヴェーダ）：撒買吠陀（さんまべいだ）、賛歌に音楽を付して祭式に実用したもの。

　　（３）夜柔吠陀（やじゅうべいだ、ヤジュールヴェーダ）：亜求羅吠陀（あぐらべいだ）、季節ごとの祭祀の時の散文による呪文を集めたもの。

　　（４）阿闥婆吠陀（あたつばべいだ、アタルヴァヴェーダ）：加阿他羅滑吠陀（かたらかつべいだ）、さまざまな災難から遁れる呪文等の日常の祈念に用いる祭歌などを集めたもの。

五明（ごみょう）：五典（ごてん）、内外の学者が必ず学ぶもの。

　　（１）声明（しょうみょう）：言語、文学、文法を明らかにする。

　　（２）工巧明（くぎょうみょう）：一切の工芸、技術、算暦等を明らかにする。

　　（３）医方明（いほうみょう）：医学、薬学を明らかにする。

　　（４）因明（いんみょう）：正邪と真偽の理法、論理を詮議し明らかにする。

　　（５）内明（ないみょう）：自家の宗旨を明らかにする。

沙門（しゃもん）：娑門、桑門（そうもん）、仏道、外道の出家のことを総じて言う。比丘は出家して戒を受け仏弟子となった者、沙門は単に出家の修行者という違いがある。

三蔵（さんぞう）：仏および弟子の教説を

　　（１）経蔵（きょうぞう）：修多羅蔵（しゅたらぞう）、仏の教説を集めたもの。

　　（２）律蔵（りつぞう）：毘尼蔵（びにぞう）、仏教教団の規律を集めたもの。

　　（３）論蔵（ろんぞう）：阿毘達磨蔵（あびだつまぞう）、阿毘曇蔵（あびどんぞう）は論議解説を集める。

鞞婆娑（びばしゃ）：、律または論の注釈書。経の注釈書は優婆提舎（うばだいしゃ）という。

阿毘曇（あびどん）、阿毘達磨（あびだつま）：三蔵中の論蔵。これに以下の種類有り。

　　（１）八�ﾉ度阿毘曇（はちけんどあびどん）：阿毘達磨八�ﾉ度論３０巻、または阿毘達磨発智論２０巻といい、迦旃延の作る八�ﾉ度（けんど、章）の阿毘曇。（�@）雑�ﾉ度、（�A）結使�ﾉ度、（�B）智�ﾉ度、（�C）行�ﾉ度、（�D）大�ﾉ度、（�E）根�ﾉ度、（�F）定�ﾉ度、（�G）見�ﾉ度。

　　（２）六分阿毘曇（ろくぶんあびどん）：六足論、または阿毘達磨六足論といい、八�ﾉ度阿毘曇の六部からなる注釈書にして根本説一切有部所依の論の総称。（�@）阿毘達磨集異門足論２０巻（舍利弗の造）、（�A）阿毘達磨法蘊足論１２巻（大目乾連の造）、（�B）施設足論７巻（大迦多衍の造）、（�C）阿毘達磨識身足論１６巻（提婆説摩の造）、（�D）阿毘達磨品類足論１８巻（筏蘇蜜多羅の造）、（�E）阿毘達磨界身足論３巻（同人の造）。

　　（３）舍利弗阿毘曇（しゃりほつあびどん）：舍利弗阿毘曇論３０巻、小乗の諸法の名義を解釈する。体裁を六足論中の集異門足論と同じうし、計して四分三十三品に分かつ。（�@）問分十品：十二入、十八界、五陰、四諦、二十二根、七覚、三不善根、三善根、四大、五戒等に就いて問答解釈す。（�A）非問分：先に略して解釈する色界、非色界等の百六十の事、思業、思已業等の二百五の事、凡夫人非凡夫人の七十五の事、正見正智等の二百三十四の事。それに次いで、再び十二因縁、四正勤、四神足を詳釈す。（�B）摂相応分：初めに苦諦繋法、非苦諦繋法等四百二十三の事を挙げ、次いで性門と摂事門とに分かつ。また眼識界、耳識界等の七十二事を闡釈して各法の相応関係を説く。（�C）緒分：因縁、無間縁等の十縁、因因、無間因等の三十三因、因起等の六十六名色、見結等の十結、身口意等の三行、百五十八触、聖心、非聖心等の百三十七心、殺生等の十不善業道、不殺生等の十善業道、五支定、五智定等の二百六十三定を闡釈する。

　　（４）昆勒（こんろく）：『大智度論巻１８（上）』に『答えて曰く、昆勒には三百二十万言有り。仏の在世の時、大迦栴延（だいかせんねん、仏弟子摩訶迦栴延）の所造なり。仏の滅度の後、人寿は転た減じ、憶識（おくしき、記憶）の力も少なく広く誦すること能わざれば、諸の得道の人、撰びて三十八万四千言と為す。もし人昆勒の門に入らば、論議は則ち窮まり無し。その中に随相門、対治門等の種種の諸門有り』、と云えるも、今は散逸せり。

十二部経（じゅうにぶきょう）：仏教の経典を十二に分類したもの。

　　（１）修多羅（しゅたら）：契経（けいきょう）、経典中直に法義を説く長行の文。契経とは、理に契（かな）い機（き、衆生）に契う経典をいう。※修多羅（しゅたら）、修妒路（しゅとろ）：契経、正経、貫経、経と意訳し、一切の仏法の総称、または特に九分教、或いは十二分教中の第一類を指す。本の意は線と紐とで花簇を串刺しに連ねるに由り、引いては前後の法語を串刺しに貫いて、法意を散失せしめざるをいう。また即ち理に契（かな）い、機に合せて法相を貫穿し所化を摂持するの義。文体と内容に就いて言えば、仏の所説の教法を指し、凡そ直説の長行に属せば皆修多羅に属す。

　　（２）祇夜（ぎや）：応頌（おうじゅ）、重頌（じゅうじゅ）、前の長行の文にその義の宜しきを説く偈（げ、詩文）を重ねたもの。

　　（３）伽陀（かだ）：諷頌（ふじゅ）、長行に依らず、直に偈を説くもの。

　　（４）尼陀那（にだな）：因縁（いんねん）、縁起（えんぎ）、経中に仏を見、法を聞く因縁、及び仏の法を説き教化する因縁の処を説く。諸経の序品の如きもの。因縁経。

　　（５）伊帝曰多伽（いていわつたか）：本事（ほんじ）、如是語（にょぜご）、仏弟子の過去世の因縁の経文。法華経中の薬王菩薩本事品の如きもの。

　　（６）闍多伽（じゃたか）：本生（ほんしょう）、仏が自身の過去世の因縁を説く経文。

　　（７）阿浮達摩（あぶだつま）：未曾有（みぞう）、仏の現す種種の神力、不思議の事を説く経文。

　　（８）阿波陀那（あばだな）：譬喩（ひゆ）、経中の譬喩を説く処。

　　（９）優婆提舎（うばだいしゃ）：論議（ろんぎ）、法理を以って論議問答する経文。

　　（１０）優陀那（うだな）：自説（じせつ）、無問（むもん）、仏の自説の経文。阿弥陀経の如きもの。

　　（１１）毘仏略（びぶつりゃく）：方等（ほうどう）、方広（ほうこう）、広大平等の理義を宣明する経文。

　　（１２）和伽羅（わから）：授記（じゅき）、菩薩が成仏の記を受ける経文。

　　この十二部中の修多羅、祇夜、伽陀の三者は経文上の体裁をいい、その他の九部はその経文に記載された別事に従って名を立てるものである。（智３３）※十二部経：一切の経を十二に分かつ。『大智度論巻３３』（１）修多羅（しゅたら）：契経（かいきょう）と訳す。経典中の直説の法の義、長行の文をいう。契経とは理に契（かな、適）い、機に契う経典の意。長行は定型句や韻文でない普通文をいう。（２）祇夜（ぎや）：応頌（おうじゅ）と訳す。前の長行の文に応じ重ねてその義を頌で宣べる。頌は定型句。（３）伽陀（かだ）：諷頌（ふじゅ）と訳す。長行に依らず、直ちに偈頌の句を作る者。法句経の如きもの。（４）尼陀那（にだな）：因縁と訳す。仏を見て法を聞く因縁及び仏の説法教化の因縁の処を説く。諸経の序品の如きは、即ち因縁経である。（５）伊帝目多伽（いていもくたか）：本事と訳す。仏が弟子の過去世の因縁を説く。（６）闍多伽（じゃたか）：本生と訳す。仏が自身の過去世の因縁を説く。（７）阿浮達摩（あぶだつま）：未曾有と訳す。仏の現す種種の神力、不思議の事を記す。（８）阿波陀那（あばだな）：譬喩と訳す。譬喩する処を説く。（９）憂波提舎（うばだいしゃ）：論議と訳す。法理の論議、問答を記す。（１０）優陀那（うだな）：自説と訳す。問う者無く、仏が自ら説く。阿弥陀経の如きもの。（１１）毘仏略（びぶつりゃく）：方広と訳す。方正広大の真理を説く。（１２）和伽羅（わから）：授記と訳す。菩薩に成仏の記を授ける。この十二部中、修多羅、祇夜、伽陀の三者は、経文上の体裁、余の九部はその経文所載の別事に従って名を立てる。

四法蔵（しほうぞう）：法宝を四種に分ける。

　　　（１）教法（きょうほう）：三世の諸仏の所説。無明煩悩を破る声と文句。

　　　（２）理法（りほう）：教法の詮ずる所の義理。

　　　（３）行法（ぎょうほう）：理に依って行う戒定慧。

　　　（４）果法（かほう）：行満ちて得る所の有為と無為の証果。

五眼（ごげん）：眼には次の五つが有る。

　　　（１）肉眼（にくげん）：人間の持つ眼で、障害物を通して、また遠方のもの、微小なもの、巨大なものを見ることは出来ない。

　　　（２）天眼（てんげん）：天人の持つ眼で、あらゆる障害物を通して見ることが出来ますが、形のないものを見ることは出来ない。

　　　（３）慧眼（えげん）：声聞辟支佛の持つ眼で、空と無相の理の智慧を見ることが出来る。

　　　（４）法眼（ほうげん）：菩薩の持つ眼で、衆生を救うために、一切の法門の智慧を見ることが出来る。

　　　（５）仏眼（ぶつげん）：上の四つを兼ね備えた、仏の持つ眼。

五濁（ごじょく）：末世に於いては、人の命が次第に短くなり、さまざまな汚れ穢れが発生する。

　　　　（１）劫濁（こうじょく）：末世という時代のもつ汚れ、飢饉、疫病、天災、戦争をいう。

　　　　（２）見濁（けんじょく）：邪悪な思想、見解が栄える。

　　　　（３）煩悩濁（ぼんのうじょく）：貪欲、瞋恚等の、さまざまな悪徳がはびこる。

　　　　（４）衆生濁（しゅじょうじょく）：衆生の質が落ち、身体は衰弱し、苦は多く、福は少なくなる。

　　　　（５）命濁（みょうじょく）：人の寿命が短くなる。

五無間業（ごむげんごう）：五逆（ごぎゃく）、無間獄に入るべき五つの罪悪。

　　　　（１）父を殺す。

　　　　（２）母を殺す。

　　　　（３）阿羅漢を殺す。

　　　　（４）仏身を傷付け血を出だす。

　　　　（４）和合僧（わごうそう、仏教教団）を破す。

四有（しう）：有（う）とは衆生というのとほぼ同じ。存在するという意味。これを四種に分けて、

　　　　（１）生有（しょうう）：誕生、人の誕生する瞬間をいう。

　　　　（２）本有（ほんう）：生陰（しょうおん）、誕生から死までの存在をいう。

　　　　（３）死有（しう）：死、人が死ぬ瞬間をいう。

　　　　（４）中有（ちゅうう）：中陰（ちゅうおん）、死から誕生までの存在をいう。

　　注：五陰を見よ。

律儀（りつぎ）：法律あるいは規則のように日々これに随って生活するものをいう。これに善と悪と両律儀があって、善律儀（ぜんりつぎ）は戒律、悪律儀（あくりつぎ）は漁猟の如く殺生に関するもの。又、十善中に意業にもとづく後三を除いて、身業口業にもとづく前七を善律儀、不善なるを不善律儀、もしくは悪律儀という。

寂燕（じゃくえん）：寂宴（じゃくえん）、宴寂（えんじゃく）、聖者の死。宴は安に通じる。

右遶三匝（うにょうさんぞう）：右肩を内側にして、仏または高位の阿羅漢の周りを三回廻って拝むこと。

長跪合掌（ちょうきがっしょう）：両肘両膝を地に着けて、合掌すること。

偏袒右肩（へんたんうけん）：右肩を露出する恭敬の姿勢。

法事（ほうじ）：僧伽（そうが）の行事。

般闍于瑟大会（はんじゃうしつだいえ）：五年毎に設ける大斎会（だいさいえ）。※五年会と直訳し、五年ごとに設ける大会を指し、義にて無遮会といい、一切の人を容受して遮遺せざるを示す。

一切法（いっさいほう）：一切の事物を二法（有色無色、可見不可見、有対無対、有漏無漏、有為無為、有報無報、有善不善、有記無記等）に分類し、また五法（心法、心所法、心不相応行法、色法、無為法）に分類する。

二法（にほう）：一切法を二法に分類する。

　　（１）有色（うしき）、無色（むしき）：欲界と色界の有情有色の身を有色、無色界の有情無色の身を無色という。情は心、色は物質、または肉体。

　　（２）可見（かけん）、不可見（ふかけん）：見える法を可見といい、見えない法を不可見という。眼耳鼻舌身の五根と色声香味触の五境との中、ただ色の一種のみを可見と為し、その他の十種を不可見と為す。

　　（３）有対（うたい）、無対（むたい）：対象に拘束される法を有対、拘束されない法を無対という。眼等の六根、色等の六境、眼識等の六識の十八界について、（１）障礙有対、（２）境界有対、（３）所縁有対の三種の有対に分別す。対とは礙（障害物）の義。礙には、（Ａ）障礙の義、（Ｂ）拘礙の義の二種有り。（Ａ）障礙の義とは、障礙有対を指し、五根五境の小色を以って体と為すに、この十色は互いに相い障礙すること、手の手を礙（さまた）げ、石の石を礙ぐるが如し、故に障礙といい、障礙とは即ち有対である。（Ｂ）拘礙の義とは、境界有対と所縁有対とである。境界有対とは、六根六識の十二界と法界との一分の心所法であり、この十三界の法は境によって拘礙（拘束）されるが故に有対という。所縁有対とは、六識及び境界の七心界と法界との一分の心所法である。この八界は、所縁の境に拘礙されるが故に有対という。

　　（４）有漏（うろ）、無漏（むろ）：漏とは煩悩の異名であり、煩悩を有する事物を含めてこれを有漏という。一切の世間の事体は尽く有漏法であり、煩悩を離れた出世間の事体は尽く無漏法である。

　　（５）有為（うい）、無為（むい）：為とは造作の義。造作が有ればこれを有為といい、即ち因縁所生の事物は尽く有為である。能生は因縁であり、これが所生の事物を造作する者である。所生の事物には、必ずこの因縁の造作が有り、故にこれを有為法という。本来自ずから爾りて、因縁の所生に非ざる者、これを無為法という。故に有為とは因縁を有すると言うが如し。

　　（６）有報（うほう）、無報（むほう）：四種の業報有り、（１）現報：現世所造の善悪の業は、来生を待たずして今生に於いて即ち果報を受く。（２）生報：現世所造の善悪の業は、来生の身に始めて果報を受く。（３）後報：現世所造の善悪の業は、本生には未だ報を受けずして、多生の後に於いて始めて果報を受く。（４）無報：不善不悪の無記の業は苦果を受くるとも、また楽果を受けざるとも記する能わず。以上四種の業報は小乗の謂う所にも相当し、現報には順現業を配し、生報には順生業を配し、後報には順後業と順不定業とを配することができる。

　　（７）有善（うぜん）、不善（ふぜん）：不善は善の対称、善、悪、無記の三性の一にして、悪と同義、その性は安穏ならずして、よく今世及び他世を違損する黒悪の法をいう。『倶舎論巻１３』によれば、不善に四種有り、（１）自性不善：無慚、無愧、及び貪、瞋、癡の三不善根、有漏法中のこの五法は自体が不善であり、なお毒薬の如し。（２）相応不善：無慚、無愧、三不善根と相応して同時に倶に生ずる一切の心心所法。不善に相応するに由って乃ち不善の性を成す。（３）等起不善：身語業及び不相応行法。等起とは善に依って善を起し、悪に依って悪を起し、能起と所起と同等なるをいい、乃ち自性不善及び相応不善に由って引き起される者。（４）勝義不善：生死の法を指す、生死の中の諸法は善有り不善有りといえども、然も皆苦を以って自性と為し、極めて不安穏なり、即ち真諦の実義に由って不善の義を定むるが故に勝義不善と称す。

　　（８）有記（うき）、無記（むき）：有記法は無記法の対称にして善、悪の二法を指す、善、悪の二法はその相が顕明であり、当来の果相を記別すべきが故に有記法と称す。即ち果報を引き起こす法。無記とは一切法は善、不善、無記等の三性に分けることができる、無記とは即ち非善非不善なる者は、その善、或いは悪を記する能わざるに因るが故に無記と称す。或いは、無記とは異熟果（善悪の果報）を招感する能わざるに因り、異熟界を記する能わず、この故に無記と称す、とも謂う。

五法（ごほう）：事理五法（じりごほう）、一切法（一切の事物）を五種に分類する。

　　　（１）色法（しきほう）：心法と心所法の所変。物質的なもの。

　　　　　　　　（倶舎、唯識倶に、五根五境と法処所摂色（意識のみの対象）の十一）

　　　（２）心法（しんぽう）：心王（しんのう）、心（しん）、心の本体、識の自相。

　　　　　　　　五蘊の内の識蘊、主体的な心の働き。

　　　　　　　　（倶舎：唯一の心王を立て、唯識：眼等の八種の心王を立てる）

　　　（３）心所法（しんじょほう）：心数法（しんじゅほう）、心所、心数、数。

　　　　　　　　細々した心の働き。上の八識と相応して起るもの。

　　　　　　　　（受、想、思、触、欲、慧、念等、倶舎：四十六、唯識：五十一）

　　　（４）心不相応行法（しんふそうおうぎょうほう）：心不相応（しんふそうおう）、

　　　　　　　上の三法に従属しないもの。

　　　　　　　　　例えば事物の概念。

　　　　　　　　　心とも色とも相応しない働き。物が生じたり滅したりする力。

　　　　　　　　　心と相応した働きを心相応（しんそうおう）という。

　　　　　　　　　上の三法のある部分の位を仮りて設けるもの。

　　　　　　　　　（得、非得、衆同分、命根、無想果、無想定等、倶舎：十四、唯識：二十四）

　　　（５）無為法（むいほう）：上の四法の実性。

　　　　　　　　　因縁によって造られ、生滅の変化がなく働きを起こすことがない。

　　　　　　　　　（択滅、非択滅、虚空等、倶舎：三、唯識：六を立てる）

心所法（しんじょほう）：心数法（しんじゅほう）、数（すう）、五法の一。心の所有の法の意。心王に従属し、これと相応する精神作用。『倶舎論第四』によれば、総じて四十六種有り、これを分類して六類となす。

　　　（１）大地法（だいじほう）：常に一切の善不善等の心に相応する法にして、これに受、想、思、触、欲、慧、念、作意、勝解、三摩地（定、三昧）の十法がある。

　　　（２）大善地法（だいぜんじほう）：常に一切の善心に相応する法にして、これに信、不放逸、軽安、捨、慚、愧、無貪、無瞋、不害、勤の十法がある。

　　　（３）大煩悩地法（だいぼんのうじほう）：常に一切の染汚心に相応する煩悩にして、これに癡、放逸、懈怠、不信、惛沈、掉挙の六法がある。

　　　（４）大不善地法（だいふぜんじほう）：一切の不善心に相応する法にして、これに無慚、無愧の二法がある。

　　　（５）小煩悩地法（しょうぼんのうじほう）：少分の染汚心に相応して、各各別に現起する煩悩にして、これに忿、覆、慳、嫉、悩、害、恨、諂、誑、憍の十法がある。

　　　（６）不定地法（ふじょうじほう）：その他の五地（大地法等）に入らない特別の法であり、その他の五種の心所具有の決定性を有せず、一切の心或いは染心に遍からず、また未だ或いは善、或いは悪の決定性を有せず。その性質は非善非悪して広く善悪無記の三性に通じ、また大地法の受等の一切の心の如く、一切の心に遍からず、癡等の大煩悩地法の如く、一切の染心に遍からず、その相応する界地等が不定の法にして、これに尋（覚）、伺（観）、睡眠、悪作、貪、瞋、慢、疑の八法がある。

大地法（だいじほう）：心所法六類中の第一。大地に遍き法の略。『倶舎論第四』に『大法の地なるが故に大地と名づけ、その中の法の若きは、大地の所有なれば大地法と名づく。謂わく、法は恒に一切の心に於いて有り。』と。

　　（１）受（じゅ）：苦、楽、倶、非を領納する。

　　（２）想（そう）：境に於いて差別の相を取る。

　　（３）思（し）：能く心をして造作あらしむる。

　　（４）触（そく）：恨境識和合して生じ、能く触対する。

　　（５）欲（よく）：所作の事業を希求する。

　　（６）慧（え）：法に於いて能く簡択（選択）する。

　　（７）念（ねん）：所縁の事に於いて能く明記して忘れず。

　　（８）作意（さい）：能く心をして警覚せしむ。

　　（９）勝解（しょうげ）：能く境に於いて印可審定する。勝れた理解。

　　（１０）三摩地（さんまじ）：三昧（さんまい）、定（じょう）、等持（とうじ）と訳し、心の一境性。

大善地法（だいぜんじほう）：心所法六類中の第二。一切の善心と相応して倶起する心所法。『倶舎論第四』には、『大善法の地なれば大善地と名づけ、この中の法の若きは大善地の所有なるを大善法地と名づく。謂わく、法は、恒に諸の善心に於いて有る。』と。蓋し信等の十法は、一切の善心に周遍するが故に大善と名づけ、心王は彼の大善の所行の依処なるが故に大善地と名づけ、信等は彼の大善地の所有の法なるが故に大善地法と名づくるなり。

　　（１）信（しん）：心をして澄浄ならしむ。

　　（２）不放逸（ふほういつ）：専注して諸の善法を修める。

　　（３）軽安（きょうあん）：心の堪忍を性とし、身心の軽利安適なること。

　　（４）捨（しゃ）：身心をして諸法に執著する念を捨離せしめ、平等に於いて住する。

　　（５）慚（ざん）：有徳に対して敬崇従属し、或いは所造の罪を内観して恥じる。

　　（６）愧（き）：罪果を怖れ、或いは他に対して所造の罪を恥じる。

　　（７）無貪（むとん）：諸の境界に於いて、愛染なき性。

　　（８）無瞋（むしん）：情（衆生）非情（器物）に於いて、恚害なき性。

　　（９）不害（ふがい）：他を損悩しないこと。

　　（１０）勤（ごん）：心をして勇悍（奮起）ならしむるを性とし、二悪（見思煩悩と無明煩悩）を勤断し、二善（止悪と修善）を懃修して退かない。

大煩悩地法（だいぼんのうじほう）：心所法六類中の第三。染汚心と恒に相応する煩悩。

　　（１）癡（ち）：暗昧（暗愚）にして、一切の所知の境に於いて、如理の解を障うる。

　　（２）放逸（ほういつ）：縦蕩（放蕩）にして、諸の善法を勤修しない。

　　（３）懈怠（けたい）：懶惰（怠惰）にして、心勇悍（奮起）ならざること。

　　（４）不信（ふしん）：因果の理を信ぜざること。

　　（５）惛沈（こんちん）：身心鈍重にして堪任ならざる性。

　　（６）掉挙（じょうきょ）：躁動にして、心の静寂ならざること。

大不善地法（だいふぜんじほう）：心所法六類中の第四。一切の不善心と相応して現起する心所法。蓋し無慚等の二法は、恒に一切の不善心に周遍して倶起するが故に、大不善と名づけ、その依地たる心王を大不善地とし、この地の所有なるが故に、この二法を大不善地法と名づくるなり。

　　（１）無慚（むざん）：徳及び有徳者に対して崇敬し随属する所なく、敵対する所の法を恭敬し、また或いは自己所造の罪を観じて羞恥する心がない。

　　（２）無愧（むき）：現在、当来二世の罪果に対して怖畏する所なく、また他人所造の罪を観じて羞恥する心がない。

小煩悩地法（しょうぼんのうじほう）：心所法六類中の第五。少分の染汚心に相応して各別に現起する煩悩。

　　（１）忿（ふん）：忿怒。有情（衆生）非情（器物）に対して、憤怒の心を産出する。

　　（２）覆（ふく）：覆罪。自罪を隠蔵する。

　　（３）慳（けん）：吝嗇。財法に執著し、恵施の心がない。

　　（４）嫉（しつ）：賢を害する意。他人の盛事を妒み忌む。

　　（５）悩（のう）：堅く悪事に執著して、理の如く悔改すること能わずに、身心を悩乱する。

　　（６）害（がい）：他人に対して逼迫し、罵辱し、損悩する。

　　（７）恨（こん）：忿の所縁の事に於いて、数数尋思し、怨を結んで捨てない。

　　（８）諂（てん）：身を傾けて自らを下し、希って人の意を承ける。

　　（９）誑（おう）：種種の手段を以って、その詭詐を極めて他人を惑乱し、是非を顛倒せしむ。

　　（１０）憍（きょう）：自己の盛事を恃み、心をして傲逸（傲慢）ならしむ。

不定地法（ふじょうじほう）：心所法六類中の第六。相応する界地等の不定なる心所法。

　　（１）尋（じん）：覚（かく）、諸法の名義等を慌てて知ろうとする粗略な思考作用。

　　（２）伺（し）：観（かん）、境に於いて、微細に伺察する思考作用。

　　（３）睡眠（すいみん）：心が昧暗に沈没し、覚醒の時に反して意識は曖昧模糊となる。

　　（４）悪作（あくさ）：悔（け）、所作の業を追悔する。

　　（５）貪（とん）：染著して財物等を欲求する。

　　（６）瞋（しん）：己の情に違背する有情（衆生）に対して憎恚を生起し、怨恨する精神作用。

　　（７）慢（まん）：己を恃みて高慢になる。

　　（８）疑（ぎ）：猶予（躊躇）して決定しない。

内心（ないしん）外心（げしん）内外心（ないげしん）：内心とは外形に対して、内なる心をいう。

　　また、

　　（１）心は内入に摂すといえども、外法に縁ずるが故に、名づけて外心と為し、

　　　　内法に縁ずるが故にこれを内心と為す。

　　（２）意識はこれ内心にして、

　　　　五識はこれ外心なり。

　　（３）心を摂して禅に入るこれ内心なり。

　　　　散乱心はこれ外心なり。

　　（４）内の五蓋（貪欲、瞋恚、睡眠（心昏迷身体重）、掉悔（とうかい、躁鬱）、疑法（無決断））と

　　　　内の七覚（念、択法、精進、喜、軽安、定、捨）に相応する心は、これを内心と為し、

　　　　外の五蓋と外の七覚に相応する心は、これを外心と為す。

　　　　かくの如き等、種種に内外を分別し、これを内外心と為すなり。（智１９）

内身（ないしん）、外身（げしん）：身の内外。

　　（１）自身は内身、他身は外身。

　　（２）眼等の五情は内身、色等の五塵は外身。

　　（３）四大は内身、四大の造る色は外身。

　　（４）苦楽を覚知する処は内身苦楽を覚知しない処は外身。

　　（５）自身および眼等の諸根は内身、妻子、財宝、田宅、用うる物は外身。（智１９）

内身（ないしん）、外身（げしん）、内外身（ないげしん）：内身とは自己の身体、外身とは他身、内外身とは内なる外身、即ち自己の心中に映ずる他身。参考：『大乗阿毘達磨雑集論巻１０』：『內身者。謂於此身中所有內色處。由自身中眼耳鼻舌身根內處所攝故。墮有情數故名內。外身者。謂外所有外色處。由外色聲香味觸等外處所攝故。非有情數故名外。內外身者。謂內處相應所有外處根所依止。由己身中眼等五處相應根所依住所有色等外處墮有情數故。外處所攝故名內外。又於他身中所有內色處。約處建立約身建立說名內外。』

内受（ないじゅ）、外受（げじゅ）：受の内外。

　　（１）心受は内受、身受は外受。

　　（２）五識に相応するは外受、意識に相応するが内受。

　　（３）内六入により生ずるは内受、外六入により生ずるが外受。（智１９）

内法（ないほう）、外法（げほう）：仏法と外道法。

心行（しんぎょう）：心は念念に遷流する者と為す、故に心行という。　心の働き。　

　　　　　　　　　　　　また、善悪の所念をも、心行という。

三十六種不淨（さんじゅうろくしゅふじょう）：三十六物不淨充満、三十六物（さんじゅうろくもつ）とは（１）髪、（２）毛、（３）爪、（４）歯、（５）眵（めやに）、（６）涙、（７）涎、（８）唾、（９）屎（くそ）、（１０）溺（いばり）、（１１）垢、（１２）汗、（１３）皮、（１４）膚（はだ）、（１５）血、（１６）肉、（１７）筋、（１８）脈、（１９）骨、（２０）髄、（２１）肪（あぶら）、（２２）膏（あぶら）、（２３）脳、（２４）膜、（２５）肝、（２６）胆、（２７）腸、（２８）胃、（２９）脾、（３０）腎、（３１）心、（３２）肺、（３３）生蔵、（３４）熟蔵、（３５）赤痰、（３６）白痰をいう。

入（にゅう）：二義あり、一は真理に悟入すること、二は六根六境が相互に渉入して識を生じること。

覚観（かくかん）：覚は感覚、心の粗雑な働き。観は観察、心の繊細な働き。

三種麁覚（さんしゅそかく）：欲覚、瞋覚、悩覚。　　　　（智２３）

三種善覚（さんしゅぜんかく）：出要覚、無瞋覚、無悩覚。

三種細覚（さんしゅさいかく）：親里覚（親族愛）、国土覚（郷土愛）、不死覚（憶念不死）。

五受衆（ごじゅしゅ）：五受恨（ごじゅこん）、受とは心が外界に接触したとき受ける印象感覚（苦楽、明暗、大小等）のこと。これを五種に分けて

　　　（１）喜受（きじゅ）：喜根（きこん）、喜び。意識が順境にあって受ける喜び。

　　　（２）楽受（らくじゅ）：楽根（らくこん）、楽しみ。眼等の五識が順境にあって受ける楽しみ。

　　　（３）苦受（くじゅ）：苦根（くこん）、苦しみ。眼等の五識が思いと違う境にあって受ける苦痛。

　　　（４）憂受（うじゅ）：憂根（うこん）、憂い。意識が思いと違う境にあって受ける憂悩。

　　　（５）捨受（しゃじゅ）：捨根（しゃこん）、苦楽を離れ不適不順なる境も甘んじて受けること。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（智１）

三受（さんじゅ）：苦受、楽受、捨受をいう。

百八受（ひゃくはちじゅ）：受には一受、二受、三、四、五、六、十八、三十六、百八受が有る。

　　　　（１）一受：あらゆる受は悉く皆苦。

　　　　（２）二受：身受と心受。

　　　　（３）三受：楽受、苦受、不苦不楽受。

　　　　（４）四受：欲界繋の受、色界繋の受、無色界繋の受、不繋の受。

　　　　（５）五受：楽根、喜根、苦根、憂根、捨根。

　　　　（６）六受：眼触の生ずる受、耳鼻舌身意触の生ずる受。

　　　　（７）十八受：六喜に随って行ずる受、六憂に随って行ずる受、六捨に随って行ずる受。

　　　　（８）三十六受：六貪著に依る喜、六貪著を離れるに依る喜、六貪著に依る憂、

　　　　　　　　　　　　　　六貪著を離れるに依る憂、六貪著に依る捨、六貪著を離れるに依る捨。

　　　　（９）百八受：現在、過去、未来の三十六受。　　（雑阿含経巻第１７）

四悉檀（ししっだん）：衆生を導くための四種の方法。

　　　（１）世界悉檀（せかいしっだん）：世間の人の考えに随って法を説く。例えば仏が『諸の衆生はこの世での善悪の業の果報により、この世で死んで、更に何処に生まれるかが決まる。』と言われるようなこと。

　　　（２）各々為人悉檀（かくかくいにんしっだん）：人の心を見て、それに適した方法で法を説く。例えば、ある人は後世を疑い罪福のあることを信じずに不善を行う。この人のために、種々の世界に生まれて、種々の苦しみを得ると説く。ある人は『我（が）』と死後の霊魂の存在を信じている。この人のためには、前と同じようには説かずに『我』はない、『空（くう）』であると説く。このように人の能力に適した法を説くのである。

　　　（３）対治悉檀（たいじしっだん）：対治（たいじ）とは特定の病を治すこと。名医が病に応じて薬を整えるように、人の心の病を見て、それに応じた法を説く。例えば、婬欲の強い人には、死骸を観察することを勧めるが、それは怒りっぽい人には適さない、怒りを増長させかねない。怒りっぽい人には慈悲心を教えるのが良い。しかし、慈悲心を欲張りな人に教えるのは良くない、欲張りを増長させるからだ。このように病に適した薬を調合するのである。

　　　（４）第一義悉檀（だいいちぎしっだん）：一切の法性（ほっしょう、物事の性質）、一切の論議、一切の善悪の判断、これ等をすべて超越し、上に説く三悉檀をすべて統一する真理をいう。よって言葉では説明できない。（智１）※四悉檀（ししつだん）：悉檀とは成就と訳し、仏の説法は四悉檀を出でず。この四法を以って衆生の仏道を成就する。（１）世界悉檀：仏は先ず、凡情の人我等の仮名を用いるのに順じ、衆生の楽しむ所に随順して世界の法を説き、聞く者をして歓喜適悦せしむ。（２）各各為人悉檀：仏は法を、衆生の機に鑑みて説く。機の宜しきの大小、種子を宿せることの浅深に随いて各人に応ずる所の法を説き、彼をして正信を発起せしめ、善根を増長せしむ。（３）対治悉檀：貪欲の多き者には慈心を教え、愚癡の多き者には因縁観を教え、かくの如く種種の法薬を施して、衆生の悪病を除く。（４）第一義悉檀：仏は衆生の機縁既に熟せるを見、諸法の実相を説いて彼をして真証に入らしむ。これを要すれば、仏は始め浅近の事理を説いて聞く者をして悦ばしむ、これが世界である。衆生をして善根を生ぜしむ、これが為人である。衆生の悪病を除く、これが対治である。遂に悟らしめて聖道に入らしむ、これが第一義である。

三住（さんじゅう）：三種の勝れた住居。（智３）

　　（１）天住（てんじゅう）：六欲天の住法。布施、持戒、善心の三事に住する。

　　（２）梵住（ぼんじゅう）：梵天等乃至非有想非無想天の住法。慈悲喜捨の四無量心に住す。

　　（３）聖住（しょうじゅう）：諸仏辟支仏阿羅漢の住法。空無相無作の三三昧に住す。

四住（しじゅう）：三住に仏住を加える。

　　（４）仏住（ぶつじゅう）：仏の住法。首楞厳（しゅりょうごん）等の諸仏の無量の三昧、十力、四無所畏、十八不共法、一切智等の種種の諸慧、および八万四千の法蔵の人を度す門に住す。

歓喜丸（かんきがん）：歓喜団（かんきだん）、摩呼荼迦（まこだか）、餅の名。　酥（そ、バター）、面（麺、麦粉）、蜜、薑（きょう、生姜）、胡椒、蓽（ひつ、まめ）、茇（ばつ、薄荷）、葡萄、胡桃、石榴（ざくろ）、桵子（ずいし、グミ）を和合させたもの。　（涅槃経３９、智１７）

五穀（ごこく）：大麦、小麦、稲穀、小豆、胡麻。

五果（ごか）：律では次の五果を挙げる。

　　　　（１）核果：棗（なつめ）、杏（あんず）、桃、李（すもも）等。

　　　　（２）膚果：瓜、梨等。

　　　　（３）殻果：胡桃、石榴等。

　　　　（４）糩果（けか）：松柏の子（たね）等。　糩（け）は糠のこと。

　　　　（５）角果：大豆、小豆、菱等。

劫波（こうは）：劫貝（こうばい）、柳絮（りゅうじょ）、柳の実から取れる綿。

毘琉璃（びるり）：琉璃、吠琉璃（べいるり）、青色の宝石の名。

尼拘盧陀樹（にくろだじゅ）：尼拘陀（にくだ）、尼拘律陀（にくりつだ）、高さ１０メートル、枝から垂れ下がった気根が地に達すると根を張ってぶどう棚のようになり、次第に四方に広がりよく繁茂する。大きいものはただ一本の木が気根によって支えられながら１００メートル四方にもなる。それにもかかわらず比較的に種が小さいために、小さい因から大きな果報を得ることに譬えられる。

優曇華（うどんげ）：優曇婆羅華（うどんばらげ）、霊瑞華（りょうずいけ）、無花果の類に似た花を持つ。ヒマラヤ山麓およびデカン高原、セイロン等に産し、幹は高さ三メートル余り、葉は二種あって、一は平滑、二は粗糙、皆長さ十五センチ、端が尖る。花は雌雄異花、甚だ細く壷状に凹んだ花托の中に隠れ、常に隠花植物と誤たれる。花托は大きさ拳ほどで拇指に似て、十余個が集まる。食えるが味は劣る。世に称して三千年に一度開花し、仏の出世に値うと開き始めるという。

漚曇婆羅樹（うどんばらじゅ）：この樹の花は数が多い割りに成果と成り難いことは、魚卵の成魚と成り難いことと併せて、因多くして果少なしの譬えとされる。

菴羅樹（あんらじゅ）：菴沒羅樹（あんもらじゅ）、マンゴーのことで、多くの花が咲くが、実の数が少ないことから、魚の卵が多く成魚の数が少ないことと併せて、原因は多いけれども、成果が少ないことの譬喩とする。

呵梨勒（かりろく）：薬になる果実。

畢波羅樹（ひっぱらじゅ）：畢鉢羅樹（ひっぱらじゅ）、落葉高木であるが常に新葉が出て青々している。仏がこの樹の下で覚りを開いたので、菩提樹（ぼだいじゅ）と呼ぶ。

無憂樹（むうじゅ）：阿輸迦樹（あしょかじゅ）、マメ科の落葉中喬木で新葉は淡紫色、小さな花は橙色ないし緋色でいくつかが纏まって咲き、芳香を放つ。淨飯王（じょうぼんおう）の妃摩耶（まや）は嵐毘尼園（らんびにおん）にて、この花を採ろうとして右手をのばしたとき、釈迦を右の脇腹から生んだ。

沙羅樹（さらじゅ）：印度に生える落葉喬木。拘尸那竭羅国（くしながらこく）の阿利羅跋提河（ありらばっだいが）の辺の沙羅樹林の中で阿難に床を敷かせて、釈迦は涅槃に入った。

栴檀（せんだん）：白檀（びゃくだん）、香木。よく沈香（じんこう）を生ずる。

伊蘭（いらん）：臭木。常緑潅木または喬木。非常なる悪臭がある。

栴檀樹耳（せんだんじゅじ）：栴檀の木に生じる茸（きのこ）。釈迦はこれによる中毒で亡くなった。

閻浮那金（えんぶなごん）：閻浮那提金（えんぶなだいこん）、閻浮檀金（えんぶだんこん）、閻浮とは樹木の名、那提あるいは檀とは河の意。閻浮樹（えんぶじゅ）の林を流れる河に取れる金のことで、最高の金種という。

閻浮樹（えんぶじゅ）：印度に産する喬木。落葉植物ではあるが、極めてその期間が短く新葉が続いて出る。葉は対生し先端が尖る。淡黄白色の微小な花が四五月ころに開花する。果実は最初黄白色で徐々に色を橙、赤、紫に変じ、熟せば黒色を帯びた深紫色になる。形および大きさは雀の卵に似て、やや渋く、少しの酸味と甘味を感じる。なお閻浮堤の名はこの樹に由来する。

尸利娑樹（しりしゃじゅ）：尸利娑とは頭のことで、頭に似た果をつけることからこう言う。合歓樹（ごうかんじゅ）と訳す。

多羅樹（たらじゅ）：印度に生える高木で高さの尺度となる。樹高およそ三十メートル。椰子あるいは棕櫚に似た樹。

優鉢羅華（うはつらけ）：青蓮花（しょうれんげ）。

分陀梨迦華（ふんだりかけ）：白蓮花（びゃくれんげ）。

波頭摩華（はづまけ）：赤蓮花（しゃくれんげ）。

拘物陀華（くもつだけ）：黄蓮花（おうれんげ）。

隨藍（ずいらん）：毘藍婆（びらんば）、毘嵐（びらん）、暴風のこと。

屍陀林（しだりん）：尸陀林、寒林、この林は幽邃にして寒く、死体は多くこの地に棄て置かれた。比丘の死体も屍陀林中に棄てたということである。元は王舎城に近い場所を指したが、後にはその名を取って、死体を棄てる場所はみな屍陀林と言うようになった。

数（すう）：≪印度の数法≫　

　　一から順に十倍づつして、一、十、百、千、万、洛叉（らくしゃ）、度洛叉（どらくしゃ）、倶胝（くてい）、末陀（まだ）、阿由他（あゆた）、大阿由他（だいあゆた）、那由他（なゆた）、大那由他（だいなゆた）、鉢羅由他（はらゆた）、大鉢羅由他（だいはらゆた）、矜羯羅（こんから）、大矜羯羅（だいこんから）、頻跋羅（ひんばら）、大頻跋羅（だいひんばら）、阿芻婆（あしゅば）、大阿芻婆（だいあしゅば）、毘婆訶（びばか）、大毘婆訶（だいびばか）、嗢蹲伽（うっそんぎゃ）、大嗢蹲伽（だいうっそんぎゃ）、婆喝那（ばかな）、大婆喝那（だいばかな）、地致婆（じちば）、大地致婆（だいじちば）、醯都（けいづ）、大醯都（だいけいづ）、羯臈婆（かろうば）、大羯臈婆（だいかろうば）、印達羅（いんだら）、大印達羅（だいいんだら）、三磨鉢耽（さんまはつたん）、大三磨鉢耽（だいさんまはつたん）、掲底（がてい）、大掲底（だいがてい）、拈笩羅闍（ねんばらじゃ）、大拈笩羅闍（だいねんばらじゃ）、姥達羅（もだら）、大姥達羅（だいもだら）、跋藍（ばらん）、大跋藍（だいばらん）、珊若（さんにゃ）、大珊若（だいさんにゃ）、毘歩多（びぶた）、大毘歩多（だいびぶた）、跋羅攙（ばらせん）、大跋羅攙（だいばらせん）、阿僧祇（あそうぎ）までとして、最後の阿僧祇を無数と訳す。（以上、『仏教学辞典』より）

　一、十、百、千、万、十万、百万、一億、十百千万、億億、阿由他億（あゆたおく）、那由他億（なゆたおく）、阿耶陀（あやだ）、頻婆羅（びんばら）、歌歌羅（かから）、阿歌羅（あから）、簸婆羅（はばら）、摩波羅（まはら）、波陀（はだ）、多婆（たば）、鞞婆呵（びばか）、怖摩（ふま）、念摩（ねんま）、阿婆迦（あばか）、摩伽婆（まがば）、毘羅伽（びらが）、僧伽摩（そうがま）、毘薩羅（びさら）、謂閻婆（いえんば）、鞞闍迦（びじゃか）、鞞盧呵（びるか）、鞞跋帝（びばつたい）、鞞伽多（びかた）、兜羅（とら）、阿婆羅那（あばらな）、他婆羅（たばら）、鞞婆耶婆（びばやば）、藐写（まくしゃ）、鈍那耶写（どんなやしゃ）、醯婆羅（けいばら）、鞞婆羅（びばら）、菩遮多（ぼしゃた）、阿跋伽陀（あばつかだ）、鞞施他（びせた）、泥婆羅（ないばら）、醯犁浮陀（けいりぶだ）、波摩陀夜（はまだや）、比初婆（ひしょば）、阿犁浮陀（ありぶだ）、阿犁薩写（ありさつしゃ）、醯云迦（けいうんか）、度于多（どうた）、呵楼那（かるな）、摩楼陀（まるだ）、叉夜（しゃや）、烏羅多（うらた）、末殊夜摩（ましゅやま）、三摩陀（さんまだ）、毘摩陀（びまだ）、波摩陀（はまだ）、阿満陀羅（あまんだら）、婆満陀羅（ばまんだら）、摩多羅（またら）、醯兜末多羅（けいとまつたら）、鞞摩多羅（びまたら）、波羅多羅（はらたら）、尸婆多羅（しばたら）、醯羅（けいら）、為羅（いら）、提羅（だいら）、枝羅（しら）、翅羅（しら）、醯尼羅（けいにら）、斯羅（しら）、波羅（はら）、弥羅（みら）、婆羅羅（ばらら）、迷楼（めいる）、企盧（きる）、摩屠羅（まとら）、三牟羅（さんむら）、阿婆夜（あばや）、剣摩羅（けんまら）、摩摩羅（ままら）、阿達多（あだつた）、醯楼（けいる）、鞞楼婆（びるば）、迦羅跋（からばつ）、呵婆跋（かばばつ）、鞞婆跋（びばばつ）、婆婆（ばば）、阿羅婆（あらば）、娑羅婆羅（しゃらばら）、迷羅浮羅（めいらぶら）、摩遮羅（ましゃら）、陀摩羅（だまら）、波摩陀（はまだ）、尼伽摩（にかま）、阿跋多（あばつた）、泥提舎（ないだいしゃ）、阿叉夜（あしゃや）、三浮陀（さんぶだ）、婆摩摩（ばまま）、阿婆陀（あばだ）、漚波羅（うはら）、波頭摩（はづま）、僧佉（そうぎゃ）、伽提（かだい）、漚波伽摩（うはがま）、阿僧祇（あそうぎ）、阿僧祇阿僧祇（あそうぎあそうぎ）、無量、無量無量、無辺、無辺無辺、無等、無等無等、無数、無数無数、不可計、不可計不可計、不可思議、不可思議不可思議、不可説、不可説不可説。（智５）

　　≪支那の数法≫

　　一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、十よりは次第に十倍して、百、千、万、億、兆、京、垓（がい）、秭（し）、依（え）、溝（こう）、澗（けん）、正、載（さい）という。

国土微塵数（こくどみじんすう）：微塵数（みじんすう）、一国土の土地も山も川底もすべてをまとめて一つにし、それを微塵といわれる目で見えないほど小さな粉に挽き砕いて、その粉粒の数をいう。

恒河沙等（ごうがしゃとう）：恒河（ごうが、ガンジス河）の川底の砂粒の数ほどの。有限の不可量数。

功徳（くどく）：功力（くりき）、仏や菩薩が善行を施す能力。他の生き物を幸福にする力。

対（たい）：空間的な存在、心中の存在にもいう。

名相（みょうそう）：一切の事物には名（みょう）と相（そう）がある。耳に聞くものを名といい、眼に見るものを相という。全て仮のもので虚妄（こもう）のもの。

住処（じゅうしょ）、無住処（むじゅうしょ）：取著する所、執著すべき所が無い。法には自性無く、自性無きが故に住著する所無し。縁に随って起るが故に無住処という。

五蘊（ごうん）：五つの積集の義。　多くのものが積集した有為法の自性を表す。

　　　　　（１）色：五根五境等を総じていう有形の物質。

　　　　　（２）受：境に対して事物を承受する心の作用。

　　　　　（３）想：境に対して事物を想像する心の作用。

　　　　　（４）行：その他、境に対して瞋貪等の善悪の一切にかかわる心の作用。

　　　　　（５）識：境に対して事物を了別識知する心の本体。

　　　　　　人にてらして考えてみれば、色のみが身に相当し、他の四が心に相当する。

　　　　　　受想行の三は各一特別の作用をいい、心の所有の法（心所法）といい、

　　　　　　識の一は心の自性、心王という。

五陰（ごおん）：五蘊（ごうん）、五衆（ごしゅ）、五欲（ごよく）、五塵（ごじん）、人の身心を五つに分けて理解すること。衆と蘊（うん）とは集まりを意味し、人は五つの集団からなるを言う。陰（おん）は陰（かげ）に覆い隠すことを意味し、人は心と身体によって、真実から遠ざけられていることを表す。また人に欲心を起こさせることから欲といい、真理を汚すことから塵という。

五取蘊（ごしゅうん）：有漏の五蘊。　取（しゅ）とは取著の義であり、煩悩の異名である。

　　　（１）色（しき）：物質、人の眼耳鼻舌身の五つの感覚器官（五根）および色声香味触の五つの対象（五境）。

　　　（２）受（じゅ）：印象感覚、心が色から情報を受ける働き。

　　　（３）想（そう）：知覚、受けた印象から、その物を想像する。

　　　（４）行（ぎょう）：意志、善悪好悪貪瞋癡等の直感的な心の働きと知識の蓄積。

　　　（５）識（しき）：理解識別、過去に蓄積した知識と理性的な心の働き。

中陰（ちゅうおん）：中有（ちゅうう）、此に死に彼に生ずる中間に受ける陰形、即ち人の身心、陰は五陰のこと。　また生死の果報は必ず有り、無に非ざることから、衆生の身心を有（う）といい、中陰を中有という。　また衆生の五陰を生陰（しょうおん）という。　注：四有（しう）を見よ。

色（しき）：変壊（へんえ）の義、変礙（へんげ）の義、質礙（しつげ）の義がある。　変壊とは、変じ破戒することを助けること。　変礙とは、質礙を変じ破戒すること。　質礙とは、形質を有し互いに障碍と為ること。　これは五根五境等の極微より成る。　また色とは示現の義でもあり、諸の色法の中に、独り五境中の色塵を取って、それを色というのである。

三種色（さんしゅしき）：色を三種に分類する。

　　　　（１）可見有対（かけんうたい）：対とは対礙（対立障礙の義、空間を占有する物）の義。色法の自性は対礙の性を具え、眼に見ることができる。青黄等の色塵がこれである。

　　　　（２）不可見有対（ふかけんうたい）：対礙の自性を具え、眼に見ることのできないもの。声香味触の四塵と眼等の五根がこれである。

　　　　（３）不可見無対（ふかけんむたい）：その自性に対礙無く、また眼に見ることのできないもの。無表色（むひょうしき）、無教色（むきょうしき）、法処色（ほうじょしき）、法処所摂色（ほうじょしょしょうしき）ともいい、色に摂するが、ただ意識のみの対象である。

十一色（じゅういっしき）：眼耳鼻舌身の五根、色声香味触の五境および法処色をいう。

触（そく）：五根、五境、五識和合して生ずる心所法を触という。眼触等の六種の中、前の眼触乃至身触の五種は有対（物的）の根を以って所依となすが故に、総じてこれを有対触（うたいそく）と名づけ、後の意触は名を以って所縁の境となすが故に、所縁に約してこれを増語触（ぞうごそく）と名づく。また染浄等の相応法別なるに随って、これを分かって総じて八種となす。即ち無漏と相応するを明触（みょうそく）、染汚と相応するを無明触（むみょうそく）、有漏善及び無覆無記（聖道を覆わない無記、浄無記）と相応するを非明非無明触と名づけ、更に無明触中、愛と相応するを愛触、恚と相応するを恚触とし、又受の別に随って順楽受触、順苦受触、順不苦不楽受触という。総じて眼触等の六触、有対及び増語の二触、並びに今の八種を合して、即ち十六触あり。

識（しき）：心王の名。心、心法といい、精神作用の主体たる六識、八識をいう。眼識、耳識、舌識、味識、身識の総称を五識（ごしき）といい、意識を加えて六識（ろくしき）という。この五識はまた前五識（ぜんごしき）ともいう。眼根等の五根を所依とし、色境等の五境を縁ずる心法である。

意識（いしき）：六識、八識の一。意根を所依として起り、法境を所縁として正しくその総相を了別する識をいう。倶舎等の六識家に在りては、六識は共に意根に依りて起り、体一義別の同一心王に過ぎざるも、五識には別に眼等の五根の所依あり、意識には別の所依無きが故に、即ち通依の意根を以ってその所依となす。十八界の中にはこれを別に立てて意識界となすも、五蘊十二処には前五識と合してこれを色蘊及び意処に摂す。又この識は、自性、計度、随念の三分別を有し、善悪無記の三性、欲色無色の三界、有漏無漏及び定散に通事、三世非世の有為無為の法を縁じて、境の総相を取るをその用となす。

六時（ろくじ）：一日を日の入りから日の出までの夜と日の出から日の入りまでの昼とに分け、それぞれを三分する。

　　　（１）初夜（しょや）：夜の第一。

　　　（２）中夜（ちゅうや）：夜の第二。

　　　（３）後夜（ごや）：夜の第三。

　　　（４）晨朝（じんちょう）：昼の第一。

　　　（５）日中（にっちゅう）：昼の第二。

　　　（６）日没（にちもつ）：昼の第三。

無記（むき）：記とは書き記すこと、ここから無記は因果が定まっていないことをいう。

　　　（１）善と不善の別が未だ決定しないもの。

　　　（２）仏が外道の問いに答えられなかったこと。

十四難無記（じゅうしなんむき）：外道の無意味な問いに仏は答えない。この問いは、答えても証明のしようがなく、その為に無意味な質問の代表とされる。本質的に仏教では時空の構造、霊魂の有無、死後の世界に対しては無関心である。

　（１）世界および我は、常である、

　（２）世界および我は、無常である、

　（３）世界および我は、また有常であり、また無常である、

　（４）世界および我は、有常でなく、かつ無常でもない、

　（５）世界および我は、有辺である、

　（６）世界および我は、無辺である、

　（７）世界および我は、また有辺であり、また無辺である、

　（８）世界および我は、有辺でなく、かつ無辺でもない、

　（９）死後には、後世に去る神は有る、

　（１０）死後には、後世に去る神は無い、

　（１１）死後には、後世に去る神は、また有り、また無い、

　（１２）死後には、後世に去る神は、有るのでもなく、かつ無いのでもない、

　（１３）身と神とは、同じである、

　（１４）身と神とは、異なる。（智２）

難（なん）：難問する、どうだどうだと言って詰問することをいう。

六十二邪見（ろくじゅうにじゃけん）：十四難を六十二に展開している。

　先ず色蘊によって引き起こされる邪見について次の四句を上げる。（１）世間と霊魂は常である。（２）世間と霊魂は無常である。（３）世間と霊魂は常であり無常である。（４）世間と霊魂は常に非ず無常に非ず。以上を受想行識の四蘊に同様に展開して、合計二十句を作る。

　次に色蘊によって引き起こされる邪見について次の四句を上げる。（１）世間は有辺である。（２）世間は無辺である。（３）世間は有辺であり無辺である。（４）世間は有辺に非ず無辺に非ず。以上を受想行識の四蘊に同様に展開して、合計二十句を作る。

　次に邪見について次の二句を上げる。（１）霊魂と身体は同一じである。（２）霊魂と身体は異なる。

　次に色蘊によって引き起こされる邪見について次の四句を上げる。（１）人は何処からか来てこの世に生まれ、死んで別の世の何処かに行く。（２）人は何処からも来ないし、死んでも何処へも行かない。（３）人は霊魂と身体が和合したもので、死後霊魂は何処かに去るが、身体は何処へも行かない。（４）前の第三句に反対して、人は霊魂と身体が和合したものではなく、死後霊魂が何処かに去ることもなく、身体が残るのでもない。以上を受想行識の四蘊に同様に展開して、合計二十句を作る。以上の六十二句をいう。（大品般若経１４）

四句分別（しくふんべつ）：十四難のように四つの質問が組みになったもの。

　例えば物事は『有』なのか『空』なのかについていうと、

　　　（１）有である。これを第一句、有門という。

　　　（２）空であって有ではない。これを第二句、空門という。

　　　（３）有でもあり、かつ空でもある。これを第三句、亦有亦空門という。

　　　（４）有でもなく、かつ空でもない。これを第四句、非有非空門という。

四種答（ししゅとう）：四記答（しきとう）、仏の質問にたいする四種の答えかた。

　　（１）決了答（けつりょうとう）：一向記、定答、「その通り。」とだけ答える。

　　（２）解義答（げぎとう）：分別記、分別答、質問の内容を分別して「その通り。」または「そうではない。」と答える。

　　（３）反問答（はんもんとう）：反詰記、反問記、反問して問意を明らかにする。

　　（４）捨置答（しゃちとう）：置記、無意味な質問にたいして答えない。

四処四種功徳（しじょししゅくどく）：仏の演説は四処に住して四種の功徳に荘厳される（智２２）

　　（１）慧処（えじょ）に住して、大智慧に荘厳される。

　　（２）諦処（たいじょ）に住して、無欺誑に荘厳される。

　　（３）捨処（しゃじょ）に住して、無慳貪に荘厳される。

　　（４）滅処（めつじょ）に住して、無煩悩、無瞋害に荘厳される。

四知（しち）：人が善悪の心を起す時、四者が直ちにこれを知る。謂わゆる天知る、地知る、傍らの人知る、自らこれを知る。『罵意経』に出る。

四堅法（しけんぽう）：説法を聞いて解脱するまでの過程。

　　　（１）説堅：一切の有為法は皆無常にして苦である、一切は無我である等を説く者がいる。

　　　（２）定堅：説くを聞いて聞慧が満ち、これに因りて定を得、思慧が満ちる。

　　　（３）見堅：この定に因り、有為法は無常であり苦である等を観じ、正見を得て修慧が満ちる。

　　　（４）解脱堅：上の三慧により解脱の果を得る。（『成実論巻２』）

時（じ、とき）：迦羅（から）の訳語。有為の諸法をして遷流相続し、已今当の世位の差別を生ぜしむる法。大乗阿毘達磨雑集論巻２に、『時とは謂わく因果相続流転に於いて仮立して時と為す。何を以っての故に、因果相続して転ずることあるに由るが故なり。もしこの因果の已生已滅には過去の時を立て、これもし未生には未来の時を立て、已生未滅には現在の時を立つ』、と云えるが如し。然るに勝論外道に於いては時を立てて実句義の随一となし、地水火風等に同じく実在せるものとし、また時論師は時を以って万物の因とし、これを常住の法となす。これに因りて、仏は時を指すにこの迦羅時を用いずして、三摩耶時を用いる。参考：『中論巻３観時品』：『時若不住不應可得。時住亦無。若時不可得。云何說時相。若無時相則無時。因物生故則名時。若離物則無時。上來種種因緣破諸物。物無故何有時（時もし住せずんばまさに得べからざるに、時の住することもまた無し。もし時にして得べからずんば云何が時の相を説かん。もし時の相無くんば則ち時無し。物に因りて生ずるが故に則ち時と名づくるも、もし物を離るれば則ち時無し。上来の種種の因縁諸の物を破り、物無きが故に何の時か有らん。）』

迦羅（から）：時、実時（じつじ）と訳す。有為の諸法をして遷流相続し、已今当の世位の差別を生ぜしむる法。時論外道は時間を以って万物の因と為し、その常住不変たることと、万物の成壊、生死はすべて時のしわざであり、然るが故に時は常に一切の物を生じて、涅槃の因たることを認む。これに因り仏は広く通じる経中には迦羅を用いられず、僧中に限定されたる律の中には用いられる。

三摩耶（さんまや）：通常仮時（けじ）と訳し、倶に行くの義を起源とする語。これを意訳するに諸義ありて、即ち時、衆会、一致、平等、規則、教理等なるも、この中には時と平等と最も多く見られる。印度にては時を表すに迦羅と三摩耶と二種あるも、仏は外道が迦羅を実有と信じたれば、その邪見を除かんがため、広く通じる経中には三摩耶を用い、僧中に限定せられたる律に於いては迦羅を用いられる。

時間（じかん）：印度では時の最短単位を刹那（せつな）と呼び、１２０刹那を恒刹那（たんせつな）、６０恒刹那を臘縛（ろうばく）、３０臘縛を牟呼栗多（むこりった）、５牟呼栗多を時（じ）、６時を昼夜（ちゅうや、一日）とする。　ここで刹那とは一度指を弾く間の六十分の一をいい、牟呼栗多（４８分）を須臾（しゅゆ）という。　また刹那を須臾に当てることもある。須臾は漢語であり、暫時と訳すことが多い。

阿含（あごん）：小乗の経典類の総称。四種に分ける。

　　　（１）長阿含（ちょうあごん）：長いもの。

　　　（２）中阿含（ちゅうあごん）：長くも短くもないもの。

　　　（３）雑阿含（ぞうあごん）：テーマを分類しかねるもの。他と重複するもの。

　　　（４）増一阿含（ぞういつあごん）：主題が八正道、四聖諦、十二縁起というように数によって分類できるもの。

記別（きべつ）：記（き）、仏が菩薩等に対して将来の成仏を決定したものとして告げること。記は記帳をいう。

胎分（たいぶん）：親から生まれること。

三転法輪（さんてんぽうりん）：仏は鹿野園において、苦集滅道の四諦について、三度の説法をされた。

　　　　（１）示転（じてん）：これは苦である。これは集である。これは滅である。これは道である。

　　　　（２）勧転（ごんてん）：苦は当に知るべし。集は当に断ずべし。滅は当に証すべし。道は当に修むべし。

　　　　（３）証転（しょうてん）：苦は我已に知りたり。集は我已に断じたり。滅は我已に証したり。道は我已に修したり。

　仏は自ら己を挙げて証拠とされ、ここに三度の説法をされたが、これは上根の者には示転を、中根の者には勧転を、下根の者には証転を以って、各々悟らせようということである。

三密（さんみつ）：仏の身語意の三業。密とは秘密の意。仏とは宇宙（の真理）そのものであり、仏の身業とは、一切の形色をいい、語業とは一切の音声をいい、意業とは一切の理をいう、よって凡人には理解したり、知ったりすることが出来ない、このような意味から秘密と言う。※身密、語密、意密をいい、如来自証の三密をいう。如来の三密とは、身語意の三業は本来平等であり、身は語に等しく、語は意に等しいことをいい、皆法界に遍満していることをいう。謂わゆる法仏の平等の三密である。然らば則ち一切の形色は身密であり、一切の音声は語密であり、一切の理は意密である。これを密というのは、人には秘隠されているの意味ではなく、これ等の義は、法仏自証の境であれば、凡人の分が無いが故に密といい、またわれ等には一切平等について、本来これを具えていながら、惑染によりこれを隠秘されているので、これを密というのである。

三障（さんしょう）：正道を障（さ）え善心を害するもの。

　　　（１）煩悩障（ぼんのうしょう）：貪欲（とんよく）、瞋恚（しんに）、愚癡（ぐち）とうの迷い。

　　　（２）業障（ごっしょう）：十悪業（じゅうあくごう）等の他を苦しめる行為。

　　　（３）報障（ほうしょう）：地獄餓鬼畜生道等にて受ける苦報。

蓋纏（がいてん）：修行の妨げをいう。これに五蓋（ごがい、フタをして閉じ込める）と十纏（じってん、纏いつくもの）がある。

　　（１）五蓋（ごがい）：貪欲、瞋恚、睡眠（心昏迷身体重）、掉悔（とうかい、躁鬱）、疑法（無決断）。

　　（２）十纏（じってん）：無慚、無愧、嫉妬、慳惜、後悔、睡眠、躁狂、昏沈、忿怒、覆蔵（罪を隠す）。

五分法身（ごぶんほっしん）：仏の法身は、常に五種の功徳が集まる。

　　（１）戒（かい）：如来の身口意の三業は、一切の過を離れる。

　　（２）定（じょう）：如来の心は寂静にして、一切の妄念を離れる。

　　（３）慧（え）：如来の真智は、一切の本性を観達する。

　　（４）解脱（げだつ）：如来の身心は、一切の繫縛を解脱する。

　　（５）解脱知見（げだつちけん）：如来は、すでに一切の繫縛を解脱したことを知る。

また、無漏の五蘊、五衆（ごしゅ）ともいい、仏を含む無学位の具足する功徳の総体をいう。

　　（１）戒衆（かいしゅ）：身口の業が清浄。

　　（２）定衆（じょうしゅ）：空、無相、無作の三三昧等、一切の三昧成就。

　　（３）慧衆（えしゅ）：一切の法に於いて無礙なる清浄の智慧成就。

　　（４）解脱衆（げだつしゅ）：諸の煩悩および習を解脱し、根本を抜いた不壊の解脱成就。

　　（５）解脱知見衆（げだつちけんしゅ）：二種有り。一は、諸の煩悩を解脱する中に、苦を知り已り、集を断じ已り、尽を証し已り、道を修し已り、そのとき生ずる尽智を用って自らそれを証知し、苦を知り已って復更に知らず、乃至道を修し已って復更に修せざる、これを無生智の解脱知見衆という。二は、仏の、この人は空門に入りて解脱を得、この人は無相門にて解脱を得等を知るをいう。（智２１）

五無学衆（ごむがくしゅ）：五分法身の如来を阿羅漢に置き換えたもの。（智２７）

五解脱処（ごげだつじょ）：解脱を得る五種の所。

　　　　（１）仏の説法を聞いて心歓喜し身安楽となるが故に、心を摂し定めて諸漏尽き涅槃を得る。

　　　　（２）善く経を諷誦する。

　　　　（３）他の為に法を説く。

　　　　（４）独処にて諸法を思量する。

　　　　（５）善く定相を取る。（成実論１４）

五大施（ごだいせ）：寿を尽して行う五種の布施。

　　　　（１）不殺生。

　　　　（２）不盗。

　　　　（３）不婬。

　　　　（４）不妄語。

　　　　（５）不飲酒。（増一阿含経２０）

如如（にょにょ）：法性（ほっしょう）、実際（じっさい）、真如（しんにょ）、一切の差別相を超えた平等相による物をいう。仏の目を通して見た世界のこと。※如（にょ）：如如、真如、如実ともいう。一切万物の真実不変の本性である。一切の法は、その各各に不同の属性が有り、地の如きには堅性が有り、水の如きには湿性が有るのであるが、しかし、この各々別の属性は実有ではなく、一一は皆、空を実体としている。故にその実性を称して如というのであるが、また如とは、諸法の本性をいうが故に法性とも称し、法性とは真実究竟、至極の辺際であるが故に実際とも称する。即ち、如、法性、実際の三者は皆、諸法の実相の異名に他ならない。

法性生身（ほっしょうしょうじん）：法性より生じたる身の意。法性とは実相真如。法界、涅槃等の異名同体。性とは体ともいい、改変しないことである。真如は万法の体であり、染に在りても浄に在りても、有情の数に在りても非情の数に在りても、その性は不改不変なるが故に法性という。『大智度論巻２８』：『菩薩入法位。住阿鞞跋致地。末後肉身盡得法性生身。雖斷諸煩惱。有煩惱習因緣故。受法性生身非三界生也。』

法界（ほっかい）：意識の所縁たる一切の境。十八界の一。法とは諸法、界とは分界をいい、諸法には各々自体が有り、しかも界を分かって同じからざるが故に法界という。然れば則ち法界とは法の一一に名づけて法界と為し、総じては万有を兼ねてこれを一法界という。

第一義（だいいちぎ）：真如、真実。また諸法一相の義。一切は空であり一相である。自他此我の差別なく平等である。

慧命（えみょう）：智慧のこと。智慧を命にたとえて言う。智慧にも寿命があるの意。

戯論（けろん）：愚かな無駄な論議。

梵志（ぼんし）：婆羅門は学問の家柄でインドの支配階級をいうが、そのうち道に志す修行者を梵志という。

論議師（ろんぎし）：学問をして、公開で議論を闘わす者。

悕望（けもう）：希望。念願。

含毒（がんどく）：口に毒を含む。他人を誹謗中傷すること。

十喩（じゅうゆ）：諸法（しょほう、アラユルモノゴト）は空であり、実在しないことを十の喩えでもって説明する。

　　（１）幻の如し：幻術師の作った幻人の如く、見ることは出来るが、それは実体ではない。

　　（２）炎の如し：カゲロウの如く、追えば逃げる。

　　（３）水の中の月の如し：真実の相（そう、スガタ）である月も、凡人の心である水に映ると、我（が、ワレ）と我所（がしょ、ワガモノ）として水中の月の如く見える。

　　（４）虚空の如し：虚空は遠くから見るから青と見る。正法から遠ざかっていれば、空であるとは分からない。

　　（５）響きの如し：コダマの如く、ただの音でしかないものに、意味を見る。

　　（６）�ﾉ闥婆城（けんだつばじょう）の如し：シンキロウの城門楼閣、或は逃げ水の如きものを、追い求め、ついには疲れきってしまう。

　　（７）夢の如し：夢から覚めれば、実際には無かったことを知る。我々が、『これは我である』、『これは我が物である』、『これは男である』、『これは女である』等と、心に思い執著していることも、煩悩の眠りから覚めてみれば、空であることを知る。

　　（８）影の如し：我相（がそう、ワガココロ）、法相（ほうそう、ワガカラダ）と思っていることも、正法の光を煩悩が遮っているために、映る影のようなものである。

　　（９）鏡の中の像の如し：鏡の中の像は、鏡、顔、鏡を持つ人、自然が作ったものでもなく、無因縁で出来たものでもない。諸法も同様に自発的に存在するものでも、他人あるいは神が作ったものでも、自他が共同で作ったものでも、自然が作ったものでもなく、また因縁も無く存在するものでもない。

　　（１０）化（け）の如し：化とは化人のことで、神通力で作られた人。化人に生滅苦楽が無い如く、諸法も空であり生滅苦楽が無い。（大品１、大智６）

城喩（じょうゆ）：七喩（しちゆ）、城は七事の備えにより破られることはない。同様に仏の弟子も七事を護ることによって悪魔の軍勢をはねのけ堕落しない。

　　（１）信（しん）：城の楼櫓（やぐら）となす。

　　（２）慙（ざん）：城の池塹（ほり）となす。

　　（３）愧（き）：城の前の大通りとなす。軍隊はこれを通って出陣する。

　注：慙は自分の見苦しさを人に対して恥じる。愧は心にひやりとして恥じる。

　　（４）精進（しょうじん）：軍勢となす。

　　（５）多聞（たもん）：軍器、兵器となす。

　　（６）正念（しょうねん）：守門大将となす。

　注：正念は心から亡くさないこと。

　　（７）智慧（ちえ）：障壁となす。（中阿１）

憂陀那（うだな）：言葉を発するとき、口中に起こる風。

身見（しんけん）：実際には我（が、ワレ）は無いにもかかわらず、我が有ると思う我見（がけん）と、自分の所有でないものを所有とみなす我所見（がしょけん）をいう。

夢（ゆめ）：夢には五種ある。

　（１）身体が不調で、熱気が多いときは、夢に火を見たり、赤や黄のものを見る。

　（２）身体が不調で、冷気が多いときは、夢に水をみたり、白いものを見たりする。

　（３）身体が不調で、セキが出たりするときは、空を飛ぶ夢を見、また黒いものを見る。

　（４）多くの物事を見聞きしたとき、いろいろ考えたり、心に取り付いたりするために、夢を見る。

　（５）天が夢に見せて、未来の事を知らせようとする。（大智６）

諸行（しょぎょう）：行とは遷流すること。因縁により成り立つあらゆる物事は常に遷流することをいう。引いては諸法（しょほう）、あらゆる物事をいう。

諸法（しょほう）：あらゆる物事。ときとして人々、また衆生。

変化（へんげ）：化（け）、十四変化心（じゅうしへんげしん）と八種変化（はっしゅへんげ）、色界の四禅天は、神通力を以って、種々の相を変現する、その時の心に十四種あり、その起こされる変化に八種ある。

　　　　（１）初禅天の二種の変化：（１−１）初禅初禅化、自他を変化することができる。（１−２）初禅欲界化、欲界の他を変化することができる。

　　　　（２）二禅天の三種の変化：（２−１）二禅二禅化、自他を変化することができる。（２−２）二禅初禅化、初禅の他を変化することができる。（２−３）二禅欲界化、欲界の他を変化することができる。

　　　　（３）三禅の四種の変化：（３−１）三禅三禅化。（３−２）三禅二禅化。（３−３）三禅初禅化。（３−４）三禅欲界化。

　　　　（４）四禅の五種の変化：（４−１）四禅四禅化。（４−２）四禅三禅化。（４−３）四禅二禅化。（４−４）四禅初禅化。（４−５）四禅欲界化。

八種変化（はっしゅへんげ）：この十四の変化心は、八種の不思議な事を起こす。

　　（１）肉体を小さくして、目に見えない微塵ほどになることができる。

　　（２）肉体を大きくして、虚空（オオゾラ）一杯になることができる。

　　（３）肉体を軽くして、ガチョウの羽毛ほどにすることができる。

　　（４）他の物質を、大きくしたり、小さくしたり、長くしたり、短くしたり、自在。

　　（５）何にも、負けない大きな力がある。

　　（６）どれほど遠くても、至ることができる。

　　（７）地震を起こすことができる。

　　（８）欲しい物は、何でも手に入れ、何でもすることができる。

また、次の変化もある。

　　（１）欲界に存在する、薬物、宝物、幻術は、いろいろな物を変化することが出来る。

　　（２）神通力のある人は、神通力で、いろいろな物を変化することが出来る。

　　（３）天龍、鬼神などは、生まれながらの力の故に、いろいろな物を変化することが出来る。

　　（４）色界に住む者も、生まれながらの力の故に、いろいろな物を変化することが出来る。

七識処（しちしきじょ）：七識住（しちしきじゅう）、衆生の心識がそこに住むことを楽う所、即ち欲界の人天、初禅、二禅、三禅、空処、識処、無所有処をいう。

七財宝（しちざいほう）：七財（しちざい）、仏法を信じて得られる七つの財宝。即ち信財、戒財、慚財、愧財、聞財、施財、慧財をいう。

七知法（しちちほう）：七つの知るべきこと。

　　　　（１）戒行に勤めること。

　　　　（２）貪欲を勤めて滅すること。

　　　　（３）邪見を勤めて破ること。

　　　　（４）多聞に勤めること。

　　　　（５）精進に勤めること。

　　　　（６）正念（念仏、念法、念僧、念施、念戒、念天）に勤めること。

　　　　（７）禅定に勤めること。（長阿含経９）

七分（しんしちぶん）：身の七分、地水火風の四大及び苦楽、寿命の七をいう。『成実論巻１０、辺見品第一百三十一』：『又邪見經説。人身七分地水火風苦樂壽命。若其死時。四大歸本根歸虚空。又説。以刀輪害衆生。積爲肉聚無殺生罪。是名斷見。』（智２６）

八大人念（はちだいにんねん）：聖者の念ずること。

　　　　（１）少欲。

　　　　（２）知足。

　　　　（３）受行。

　　　　（４）精進。

　　　　（５）守意。

　　　　（６）定意。

　　　　（７）智慧。

　　　　（８）無有家楽。（長阿含十報法経２）

八種精進（はっしゅしょうじん）：比丘の精進すべき八のこと。

　　　　（１）乞食して得ることができない時、身体軽便を念じ、睡眠を少なくして坐禅、経行に精進する。

　　　　（２）乞食して得ることができた時、気力充足を念じ、坐禅、経行に精進する。

　　　　（３）執事している時、これがわが行道と念じ、坐禅、経行の如くに精進する。

　　　　（４）執事しようとする時、明日もまた執事しようと念じ、坐禅、経行の如くに精進する。

　　　　（５）路を往来する時、これがわが行道と念じ、坐禅、経行の如くに精進する。

　　　　（６）路を往来しようとする時、明日もまた往来しようと念じ、坐禅、経行の如くに精進する。

　　　　（７）病に遭った時、重病で明日は命がないかも知れないと念じ、坐禅、経行を精進する。

　　　　（８）病が少し癒えた時、病が少し癒えたので、もっと精進しようと念ずる。（長阿含経９）

九悩（くのう）：九難（くなん）、九罪報（くざいほう）、仏が受けた九つの災難。

　　　　（１）梵志（ぼんし、婆羅門の修行者）のむすめ孫陀利（そんだり）に、五百の阿羅漢と共に誹謗された。

　　　　（２）旋遮（せんじゃ）婆羅門のむすめが、木鉢を腹に縛りつけ、仏に孕まされたと誹謗した。

　　　　（３）提婆達多（だいばだった、仏の従兄弟にして弟子）が岩で以って、仏を圧し潰そうとして、足指に傷を受けた。

　　　　（４）逆木が脚に刺さった。

　　　　（５）毘瑠璃王（びるりおう）が兵を興し釈迦の一族を皆殺しにした時、仏は頭痛された。

　　　　（６）阿耆達多（あぎだった）婆羅門の請（しょう、招待）を受けたが、馬麦（めばく、馬に食わせる飼料）を食うことになった。

　　　　（７）冬に冷風の為に、背中が痛んだ。

　　　　（８）六年間苦行された。

　　　　（９）ある婆羅門の聚落にては、乞食して得られず、空鉢にて還ることになった。（智９）

三聚（さんじゅ）：三つの群れに一切の衆生を兼ね収める。

　　　　（１）正定聚（しょうじょうじゅ）：定聚、必定して証悟する者。

　　　　（２）邪定聚（じゃじょうじゅ）：畢竟じて証悟せざる者。

　　　　（３）不浄聚（ふじょうじゅ）：上の二者の中間、縁が有れば証悟し、縁が無ければ証悟しない者。

供養（くよう）：四事（しじ）、仏に衣服、飲食、臥具、湯薬を施すことをいう。

　　　また、広くは菩薩の行い全てが供養である。大般若経巻第５７８理趣分には次のものを上げて、それは諸の如来に於いて広く供養を設くるなりとしている。

　　（１）無上正等覚の心を発す。

　　（２）正法を摂護する。

　　（３）一切の波羅蜜多を修行する。

　　（４）一切の菩提分法を修行する。

　　（５）一切の総持、等持を修行する。

　　（６）一切の五眼、六通を修行する。

　　（７）一切の静慮解脱を修行する。

　　（８）一切の慈悲喜捨を修行する。

　　（９）一切の仏の不共法を修行する。

　　（１０）一切法の若（も）しは常、若しは無常なるは皆不可得と観ずる。

　　（１１）一切法の若しは楽、若しは苦なるは皆不可得と観ずる。

　　（１２）一切法の若しは我、若しは無我なるは皆不可得と観ずる。

　　（１３）一切法の若しは浄、若しは不浄なるは皆不可得と観ずる。

　　（１４）一切法の若しは空、若しは不空なるは皆不可得と観ずる。

　　（１５）一切法の若しは有相、若しは無相なるは皆不可得と観ずる。

　　（１６）一切法の若しは有願、若しは無願なるは皆不可得と観ずる。

　　（１７）一切法の若しは遠離、若しは不遠離なるは皆不可得と観ずる。

　　（１８）一切法の若しは寂静、若しは不寂静なるは皆不可得と観ずる。

　　（１９）深般若波羅蜜多に於いて、書写、聴聞、受持、読誦して、思惟修習し、広く有情の為に宣説、流布し、或いは自ら供養し、或いは転じて他に施す。

　　　以上（大般若経巻第５７８、大般若理趣分）

賢聖（けんじょう）：賢とは善に和するの義。善に和し、悪を離れるといえども、未だ無漏の智を発さず、理を証せず、惑を断たずして、凡夫の位に在る者を、賢といい、既に無漏の智を発して理を証し、惑を断じるに次いで凡夫の性を捨てたる者を聖という。見道前の七方便の位を賢といい、見道以上を証という。

八斎戒（はっさいかい）：一日戒（いちにちかい）、斎戒（さいかい）。

　　心の不浄を清めることを齋（さい）、身の過失非道を禁じることを戒という。　

　　在家の信者が月ごとに幾日か日を決めて身を潔斎すること。次の１〜８を戒、９を斎という。

　　毎月の八日、十四日、十五日、二十三日、二十九日、三十日の六斎日（ろくさいにち）に行えば功徳無量という。　また諸天が神足で四天下を巡行する神足月（じんそくがつ、正月、五月、九月）の一日乃至十五日に持戒する功徳も多いという。　神足月は神変月（じんぺんがつ）あるいは三長斎月（さんちょうさいがつ）ともいう。

　　　（１）不殺：生き物を殺さない。

　　　（２）不盗：与えられない物を取らない。

　　　（３）不婬：婬事をしない。

　　　（４）不妄語：嘘をつかない。他の生き物を脅す粗暴の言葉を吐かない。

　　　（５）不飲酒：酒を飲まない。

　　　（６）身不塗飾香鬘：身に香を塗ったり、飾りを着けたりしない。

　　　（７）不自歌舞、又不観聴歌舞：歌舞音曲を慎む。

　　　（８）於高広之床座不眠坐：高広の大床に坐らない。

　　　（９）不過中食：昼過ぎに食事をしない。　　（智１３）

性戒遮戒（しょうかい、しゃかい）：性罪を戒めるものを性戒、遮罪を戒めるものを遮戒という。ここで性罪遮罪（しょうざい、しゃざい）とは、殺生、偸盗、邪婬、妄語の如く、仏の制戒を待つまでもなく、その行為の本質が罪悪であるものを性罪といい、その行為自体は悪でないが、他の悪事を引き起こす因縁を有したり、世間の譏嫌、嫌悪を息めるため仏が特に制せられた行為を遮罪という。五戒については、その中の前四は性罪を戒め、飲酒戒は酒自体に罪は無く、時には薬ともなるので遮戒であるとするのが普通である。しかし大乗の立場から、菩薩道は、一切の衆生を教化善導するにあると思い至れば、酒には菩提心を損ない、仏法僧の三宝に関して、他人の信頼を失墜させる本質的な悪が存在すると考えられるので、飲酒が性罪である疑いは拭いきれない。病気になり本当に薬として飲む場合は、それを薬として扱い、酒とは別物とするのが妥当である。

禅定戒（ぜんじょうかい）：禅定に入っている間だけ自然に守られる戒。（智２２）

三種戒（さんしゅかい）：戒を三種に分類する。（智２２）

　　（１）無漏戒（むろかい）：無漏の禅定に入っている間だけ自然に守られる戒。　（智１４）

　　（２）律儀戒（りつぎかい）：五戒、八戒、十戒、二百五十戒、五百戒等、日常的行為に対する戒。

　　（３）定共戒（じょうぐかい）：有漏の禅定に伴って自然に生じる止悪の戒（智１３）

五家所共（ごけしょぐう）：五家の共にする所、世の財物は、王、賊、火、水、悪子等の五家の共有物であり、独り、これを用いることはできない。（智１１，１３）

大海八不思議（たいかいはちふしぎ）：大海に八不思議をたてて僧の不思議に譬える。

　　（１）漸漸転深：僧に於いては、優婆塞戒、沙彌戒、比丘戒、菩薩戒より、漸次深まり阿耨多羅三藐三菩提の果に至る。

　　（２）深難得底：如来は不生不滅、不得阿耨多羅三藐三菩提、不転法輪、不食不受不行恵施の故に名づけて常楽我淨と為し、一切衆生は悉く仏性有り、仏性は色に非ずして色を離れず、受想行識に非ずして乃至識を離れず、これ常にして可見、了因、作因に非ず、須陀洹乃至辟支仏はまさに阿耨多羅三藐三菩提を得べく、また煩悩無くまた住処無く、煩悩無きといえども名づけて常と為さず、等々。

　　（３）同一鹹味：一切衆生は同じく仏性を有し、皆、同一乗、同一解脱、同一因一果、同一甘露にて、一切はまさに常楽我淨を得べし。

　　（４）潮不過限：この経中にて諸の比丘に制す、八不浄物を受畜するを得ず、もしわが弟子よくこの経典を受持し、読誦書写解説分別すること有らば、寧ろ身命を失うとも終にこれを犯さざれ。

　　（５）有種種宝蔵：この経はこれ無量の宝蔵なり、宝と言うは、謂わく四念処、四正勤、四如意分、五根五力、七覚分、八聖道分、嬰児行、聖行、梵行、天行、諸の善方便、衆生の仏性、菩薩の功徳、如来の功徳、声聞の功徳、縁覚の功徳、六波羅蜜、無量の三昧、無量の智慧なり。

　　（６）大身衆生在中居住：大身の衆生とは仏菩薩なり、大智慧の故に大衆生と名づけ、大身の故に大心と名づけ、大荘厳の故に大調伏の故に、大方便の故に大説法の故に、大勢力の故に大徒衆の故に、大神通の故に大慈悲の故に、常に不変なるが故に一切衆生に罣礙無きが故に、一切の諸の衆生を容受するが故に、これを名づけて大身の衆生の居る処となす。

　　（７）不宿死屍：死屍とは、謂わゆる一闡提（いっせんだい、無根）、四重禁戒を犯す、五無間罪、方等（ほうどう、大乗）を誹謗する、非法なるを法と説き、法を非法と説く、八種の不浄物を受畜する、仏物、僧物を意のままに用い、或いは比丘比丘尼の所に於いて非法の事を作す。

　　（８）一切万流大雨投之不増不減：辺際無きが故に始終無きが故に、色に非ざるが故に作に非ざるが故に、常住するが故に生滅せざるが故に、一切衆生は悉く平等なるが故に、一切の法性は同一の性なるが故に、これを増減無しと名づく。（北本大般涅槃経巻第３２）

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