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所 |
説 |
経 |
巻下之第二
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見阿閦仏品第十二 |
法供養品第十三 |
嘱累品第十四 |
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見阿閦仏品第十二
見阿閦佛品第十二 |
見阿閦仏品(けんあしゅくぶつぼん)第十二 |
仏、菩薩の自在神力の所行を説く。 |
維摩詰、如来を語る
爾時世尊問維摩詰。汝欲見如來。為以何等觀如來乎 |
その時、世尊、維摩詰に問いたまわく、『汝、如来を見んと欲す。何等を以って如来を観ると為すや。』 |
そして世尊は、維摩詰にお問いなさいました、 『あなたは今如来を見た、何のように観たかをお話ください。』 |
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維摩詰言。如自觀身實相。觀佛亦然。我觀如來。前際不來後際不去今則不住 |
維摩詰言わく、『自ら身の実相を観ずるが如し。仏を観ずるもまた然り。我、如来を観ずるに、前際(ぜんさい、過去)より来たらず、後際(ごさい、未来)に去らず。今は、すなわち住(存在)せず。 |
維摩詰が言います、 『自らの身を観るのと変わりません。実相は私も仏も同じでございます。
私が如来を観ました所、 過去より来たものでなく、 未来に往くものでなく、 今現在も存在するものではありません。 |
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不觀色不觀色如。不觀色性 |
色を観ぜず、色の如(真如、真実)を観ぜす、色の性(本性)を観ぜす。 |
身を見出すことはできず、 身の真如(真実にして虚妄を離れたもの)を見出すこともできず、 身の本性を見出すこともできません。 |
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不觀受想行識。不觀識如。不觀識性 |
受想行識を観ぜず、識(受想行識)の如を観ぜず、識の性を観ぜず。 |
心を見出すことはできず、 心の真如を見出すこともできず、 心の本性を見出すこともできません。 |
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非四大起。同於虛空。六入無積。眼耳鼻舌身心已過 |
四大(地水火風)の起こすに非ず。虚空に同じく、六入(眼耳鼻舌身意)積もること無く、眼耳鼻舌身心(意)すでに過ぐ。 |
地大、水大、火大、風大から生まれたものでないことは、虚空と同じく、 眼耳鼻舌身意に受けたものは蓄積されず、眼耳鼻舌身意を超越しております。 |
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不在三界。三垢已離順三脫門。具足三明與無明等 |
三界(世界)に在らず。三垢(貪瞋癡)すでに離れ、三脱門(空、無相、無作)に順ず、三明(さんみょう、仏は宿命、天眼、漏尽に通達す)と無明(むみょう、根本煩悩)と等しく具足す。 |
三界(物事の存在領域)には存在せず、 貪欲、瞋恚、愚癡の生ずる筈なく、 空(無我)、無相(無我身心)、無作(無作因縁、無被因縁)の身でありながら、 仏は 宿命明(過去世に通ず)、 天眼明(未来世に通ず)、 漏尽明(一切の煩悩を断つ)と共に 無明(根本煩悩)をも身に備えている。
注:無明を具足するとは、色身を備えることをいう。仏の色身はそこに本性がないにも拘わらず、仏を表現する。例えばテレビ電話を考えればやや近づこう。 |
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不一相不異相。不自相不他相。非無相非取相。不此岸不彼岸不中流。而化眾生 |
一相ならず(世界は唯一の相をもつでなく)、異相ならず(世界は多くの相をもつものの集まりでもなし)。自相せず(自相を取らず)、他相せず(他相を取らず)。相無きに非ず、相を取るに非ず。此岸(しがん、世界)ならず、彼岸(ひがん、涅槃)ならず、中流ならず、しかも衆生を化す。 |
ただ一つではなく、分かれているのでもない、 自他の区別もない、 相(事物を識別する拠り所)が無くはなく、相を持つのでもない、 世界(三界)のものではなく、涅槃のものでもなく、その中間のものでもない。 それにも拘わらず衆生を教え導くことができます。 |
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觀於寂滅亦不永滅 |
寂滅を観ずれども、また永く滅せず(涅槃に入らず)。 |
身心を寂滅する安楽な境界を観ても、そこに住まらない。 |
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不此不彼。不以此不以彼。不可以智知。不可以識識 |
此ならず、彼ならず。此を以ってせず、彼を以ってせず。智を以って知るべからず。識を以って識るべからず。 |
これでもなく、あれでもない、 これを思うでなく、あれを思うでもない、 智慧で知ることはできなく、認識できるものでもない。 |
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無晦無明無名無相。無強無弱非淨非穢 |
晦(かい、闇)無く、明無く、名無く、相無く、強無く、弱無く、浄に非ず、穢に非ず。 |
暗闇無く、光明無く、 名前無く、表相無く、 強無く、弱無く、 浄でなく、不浄でもない。 |
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不在方不離方。非有為非無為。無示無說。不施不慳。不戒不犯。不忍不恚。不進不怠。不定不亂。不智不愚。不誠不欺。不來不去。不出不入。一切言語道斷 |
方(ほう、領域)に在らず、方を離れず。有為(世界)に非ず、無為(涅槃)に非ず。示すこと無く、説くこと無し。施(布施)せず慳(慳貪)せず、戒(持戒)せず犯(犯戒)せず、忍(忍辱)せず恚(瞋恚)せず、進(精進)せず怠(懈怠)せず、定(禅定)せず乱(散乱)せず、智(智慧)せず愚(愚癡)せず、誠ならず欺かず、来たらず去らず、出でず入らず、一切の言語の道断つ。 |
存在するに存在空間が必要ではないが、存在すれば存在空間を持つ(三次元的存在をいう)、 有為(存在的な事物)でなく、無為(普遍的な事物)でもない、 教示することなく、説諭することもない、 布施することなく、慳惜することもない、 持戒することなく、犯戒することもない、 忍辱することなく、瞋恚することもない、 精進することなく、懈怠することもない、 禅定にあるでなく、散乱にあるでもない、 智慧があるでなく、智慧がないでもない、 誠実であるでなく、欺誑するでもない、 来ることなく、去ることもない、 出ることなく、入ることもない、 一切の言葉を使っても説明できません。 |
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非福田非不福田。非應供養非不應供養。非取非捨。非有相非無相。同真際等法性。不可稱不可量。過諸稱量 |
福田に非ず福田ならざるに非ず、まさに供養すべきに非ず、まさに供養すべからざるに非ず、取るに非ず捨つるに非ず、相有るに非ず相無きに非ず、真際(真如の実際)に同じく、法性(真如)に等しく、称(はか)るべからず、量るべからず、諸の称量を過ぐ。 |
福田(施しの種子蒔き福報を刈る田)でなく、福田でないこともない、 供養の対象ではないが、しかし供養しなければならない、 取ることもなく、捨てることもない、 相が有るでなく、相が無いでもない。 真如の実際(自他を区別せざる平等の境界)に同じく、 法性(真如、不易不改なるものの本性)に等しく、 測ることはできず、測ることを超越する。 |
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非大非小。非見非聞非覺非知。離眾結縛 |
大に非ず小に非ず、見に非ず聞に非ず、覚に非ず知に非ず、衆の結縛を離る。 |
大でもなく、小でもない、 見るものでなく、聞くものでもない、 覚るものでなく、知るものでもない、 世間に結びつくものではない。 |
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等諸智同眾生。於諸法無分別。一切無失。無濁無惱。無作無起無生無滅。無畏無憂無喜無厭無著。無已有無當有無今有。不可以一切言說分別顯示 |
諸智(一切智、道種智、一切種智)に等しく、衆生に同じく、諸法に於いて分別無く、一切の失(とが)無く、濁無く悩無く、作(作用)無く起(起動)無く、生無く滅無く、畏無く憂無く、喜無く厭無く著無く、已に有りたること無く、当に有らんこと無く、今有ること無し。一切の言説を以って分別顕示するべからず。 |
諸の智慧に等しく、しかも衆生と同じである、 あらゆる物事は分別せず、一切の過失無し、 濁らず、悩まず、 作用せず、起動せず、 生無く、滅無し、 畏れること無く、憂うること無く、 喜ぶこと無く、厭うこと無く、執著すること無し、 既に存在することなく、将来存在することなく、現在存在することなし、 一切の言葉で説いても、分別して顕示することができない。
三智:智慧というとき、次の三に分類する。 (1)一切智:声聞辟支仏の智慧、一切法の総相(あらゆる物事は空である)を知る。 (2)道種智:菩薩の智慧、一切衆生の種々の差別に応じた道法を知る。 (3)一切種智:仏の智慧、総相と別相に通達する。 |
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世尊。如來身為若此。作如是觀。以斯觀者名為正觀。若他觀者名為邪觀 |
世尊、如来の身はかくの若しと為し、かくの如き観を作す。この観を以ってすれば名づけて正観と為し、もし他の観をもってすれば名づけて邪観と為す。』と。 |
世尊、如来の身はこのようなものです。このように観察いたしました。 このように観れば、それは正しく観たことになり、 別の観方をすれば、それは邪な観方であります。』と。 |
舍利弗、菩薩を問う
爾時舍利弗問維摩詰。汝於何沒而來生此 |
その時、舍利弗、維摩詰に問わく、『汝、何(何処)に於いて没し、来たりて、ここに生ずるや。』 |
その時、舎利弗が維摩詰に問います、 『あなたは、前世に何の世界に没して、この世界にお生まれになったのですか。』と。 |
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維摩詰言。汝所得法有沒生乎 |
維摩詰言わく、『汝が所得の(無為無相の)法に沒と生と有りや。』 |
維摩詰が言います、 『お前の覚りには、没することと生ずることが有るのか?』 |
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舍利弗言。無沒生也 |
舍利弗言わく、『沒と生無し。』 |
舎利弗が言います、 『いいえ、没することも生ずることも有りません。』 |
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若諸法無沒生相。云何問言汝於何沒而來生此。於意云何。譬如幻師幻作男女。寧沒生耶 |
『もし諸法に沒と生の相無くんば、云何が問うて言わく、『汝、何に於いて没し、来たりて、ここに生ずるや。』と。意に於いて云何、譬えば幻師の男女を幻作するが如きは、むしろ沒と生とありや。』 |
『もし、 あらゆる物事には没することも生ずることも無いと知っているのであれば、 なぜ何の世界に没して、この世界に生まれたかと問う。
お前はこのことを何う思う? 譬えば、 幻術師が幻の男女を作ったとして、 それが没したり生じたりすると思うのか。』 |
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舍利弗言。無沒生也 |
舍利弗言わく、『沒と生と無きなり。』 |
舎利弗が言います、 『いいえ、没することも生じることも有りません。』 |
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汝豈不聞佛說諸法如幻相乎 |
『汝、あに仏の、『諸法は幻の相の如し』と説きたまえるを(何も)聞かずや。』 |
『お前は、何うして 仏が『あらゆる物事は幻と同じだ』とお説きになった時、 それを聞いていなかったのだ。』 |
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答曰如是 |
答えて曰く、『かくの如し。』 |
『仰るとおりでございます。』 |
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若一切法如幻相者。云何問言汝於何沒而來生此 |
(維摩詰言わく)『もし一切の法、幻の相の如くんば、云何が問うて言わく、『汝、何に於いて没し、来たりて、ここに生ずるや。』と。 |
『もし一切の物事が幻と同じであるならば、なぜ 何の世界に没してこの世界に生まれたかと問う。 |
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舍利弗。沒者為虛誑法敗壞之相。生者為虛誑法相續之相 |
舍利弗、沒とは虚誑法(こおうほう、真実ならざるモノ)の敗壊の相たり。生とは虚誑法の相続の相たり。 |
舎利弗。 没するとは虚妄の存在が破れることであり、 生ずるとは虚妄の存在が続くことを言うのだ。 |
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菩薩雖沒不盡善本 |
菩薩は没するといえども、善本を尽くさず、 |
菩薩は没しても 善い行いが尽きることはなく、 |
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雖生不長諸惡 |
生ずといえども、諸悪を長ぜず。』 |
生じても 悪い行いが増すことはない。』 |
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是時佛告舍利弗。有國名妙喜。佛號無動。是維摩詰於彼國沒而來生此 |
この時、仏、舍利弗に告げたまわく、『国有り、妙喜と名け、仏は無動(阿閦如来(あしゅくにょらい))と号す。この維摩詰、彼の国に於いて没し、来たりて、ここに生ず。』 |
更に仏が舎利弗に教えられます、 『妙喜という国が有って、無動という仏がいる。 この維摩詰は その国で没し、この国に来て生じたのだ。』 |
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舍利弗言。未曾有也。世尊。是人乃能捨清淨土。而來樂此多怒害處 |
舍利弗言わく、『未曽有なり。世尊。この人、すなわちよく清浄の土を捨て、来たりて、この怒害(ぬがい)多き処を楽(ねが)うこと。』 |
舎利弗が言います、 『驚きました、世尊。 この人は清浄の国土を捨てて、よくも この怒りと障害の多い世界に 生じようとお思いになりました。』 |
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維摩詰語舍利弗。於意云何。日光出時與冥合乎 |
維摩詰、舍利弗に語らく、『意に於いて云何。日光出づる時、冥(冥闇)と合するや。』 |
維摩詰が舎利弗に言います、 『これを何う思うか?日光は出て、暗闇と交じり合うか何うか?』 |
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答曰。不也。日光出時即無眾冥 |
答えて曰く、『不(いな)なり。日光出づる時は、すなわち衆(もろもろ)の冥無し。』 |
『いいえ、日光が出れば、暗闇は消えて無くなります。』 |
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維摩詰言。夫日何故行閻浮提 |
維摩詰言わく、『それ、日は何が故に閻浮堤(えんぶだい、須弥山の南側の地)を行く。』 |
維摩詰が言います、 『いったい、何をする為に、日は閻浮堤の上を行くのだ?』 |
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答曰欲以明照為之除冥 |
答えて曰く、『明を以って照らし、これが為に冥を除かんと欲すればなり。』 |
『明かりで世界を照らし、暗闇を除く為ではないでしょうか。』 |
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維摩詰言。菩薩如是。雖生不淨佛土為化眾生故不與愚闇而共合也。但滅眾生煩惱闇耳 |
維摩詰言わく、『菩薩もかくの如く、不浄の仏土に生ずといえども、衆生を化せんが為の故にて、愚闇と共に合せず。ただ衆生の煩悩の闇を滅するのみ。』と。 |
維摩詰が言います、 『菩薩も同じこと、 不浄の仏土に生じても 衆生を導く為にであって、 愚癡の暗闇と交じり合う為にではない。 ただ 衆生の煩悩の闇を 照らし滅するためにのみ 生じるのだ。』 |
維摩詰、阿閦仏の浄土を現す
是時大眾渴仰。欲見妙喜世界無動如來及其菩薩聲聞之眾 |
この時、大衆渇仰(かつごう、渇望)して、妙喜世界の無動如来、およびその菩薩声聞の衆を見んと欲す。 |
この時、この場の大衆は妙喜世界の無動如来を見たいと渇仰しておりました。
阿閦仏(あしゅくぶつ):無動如来の梵音。 |
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佛知一切眾會所念。告維摩詰言。善男子。為此眾會。現妙喜國無動如來及諸菩薩聲聞之眾。眾皆欲見 |
仏、一切の衆会の所念を知り、維摩詰に告げて言たまわく、『善男子、この衆会の為に、妙喜国の無動如来、および諸の菩薩声聞の衆を現ぜよ。衆は皆見んと欲す。』 |
仏は、その大衆の心に思っていることを知り、維摩詰に仰いました、 『これこれ、この大衆を見よ。皆 妙喜国の無動如来および諸の菩薩、声聞の衆に お会いしたいと申しておるぞ。皆に 見せてやってはくれまいか。』と。 |
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於是維摩詰心念。吾當不起于座接妙喜國。鐵圍山川溪谷江河。大海泉源須彌諸山。及日月星宿。天龍鬼神梵天等宮。并諸菩薩聲聞之眾。城邑聚落男女大小。乃至無動如來及菩提樹諸妙蓮華。能於十方作佛事者 |
ここに於いて維摩詰、心に念ずらく、『吾、まさに座を起たずして、妙喜国の鉄囲(鉄囲山(てっちせん)、須弥山を中心とする四大洲の外側を更に取り囲む山)、山川、渓谷、江河、大海、泉源、須弥、諸山、および日月星宿、天龍、鬼神、梵天等の宮、ならびに諸の菩薩声聞の衆、城邑(じょうゆう)、聚落(じゅらく)、男女の大小、乃至(ないし)無動如来、および菩提樹、諸の妙蓮華の、よく十方に於いて仏事を作す者に接すべし。 |
これを聞いて維摩詰は心で念じます、 『俺は この座を起たずに妙喜国に接してみよう。 妙喜国の 鉄囲山(てっちせん、須弥山を中心とする四大洲の外側を更に取り囲む山)、 山川渓谷、江河大海泉源、須弥山と諸山、および 日月星宿、天龍鬼神、梵天等の宮、ならびに 諸の菩薩声聞の衆、城邑聚落、男女大小、これらすべてと 無動如来および菩提樹、諸の妙蓮華、 十方の世界に赴いて仏事を作す者、 |
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三道寶階從閻浮提至忉利天以此寶階諸天來下。悉為禮敬無動如來聽受經法。閻浮提人。亦登其階。上昇忉利見彼諸天。妙喜世界成就如是無量功德 |
三道の宝階(階段)ありて、閻浮堤より忉利天(とうりてん)に至る。この宝階を以って、諸天来たりて下り、悉く無動如来に礼敬し、経法を聴受することを為す。閻浮堤の人も、またその階を登り、忉利(天)に上昇して、彼(かしこ)の諸天に見(まみ)ゆ。妙喜世界は、かくの如き無量の功徳を成就せり。 |
三道の宝階(閻浮堤から忉利天に至る階段)を 閻浮堤から忉利天(とうりてん)に至るまで、 この宝階を 諸天は下り悉く無動如来に礼敬し経法を聴受する。 閻浮堤の人もまたその階段を登って、忉利天に行き諸天に会見する。 妙喜世界の成就する これらの無量の功徳を全て。 |
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上至阿迦膩吒天。下至水際。以右手斷取如陶家輪。入此世界猶持華鬘示一切眾。作是念已入於三昧現神通力。以其右手斷取妙喜世界置於此土 |
上は阿迦膩咤天(あかにだてん)に至り、下は水際に至るまで、右手を以って断ち取ること、陶家の輪(りん、ロクロ)の如く、この世界に入ること、なお華鬘(けまん、襟元の飾り)のごとくにして、一切の衆に示すべし。』と。この念を作しおわりて、三昧に入りて神通力を現し、その右手を以って、妙喜世界を断ち取り、この土に置く。 |
上は阿迦膩咤天(あかにだてん)から下は水際まで、 右手でロクロの上の粘土のように輪切りにして この世界に入れ、 華鬘(けまん、花の襟飾り)を 一切衆に見せるように 示してみよう。』と。 このように心に念じて三昧に入り、神通力を使って 妙喜世界を輪切りにし、 それをこの場に置きます。 |
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彼得神通菩薩及聲聞眾并餘天人。俱發聲言。唯然世尊。誰取我去。願見救護 |
彼(かしこ)の神通を得たる菩薩、および声聞衆、ならびに余の天人倶に声を発して言わく、『唯(ゆい、ハイ)、然り(しかり、確かに)、世尊、誰か我を取り去る。願わくは救護(くご)せられよ。』と。 |
かの 妙喜世界の神通力を持つ菩薩および声聞の衆、ならびに 天人たちは、ともに声を上げて言います、 『どうか世尊。誰かが我々を取り去ろうとしています。お願いです、お助けください。』と。 |
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無動佛言。非我所為。是維摩詰神力所作。其餘未得神通者。不覺不知己之所往。妙喜世界雖入此土而不增減。於是世界亦不迫隘如本無異 |
無動仏言わく、『我が所為に非ず。これ維摩詰が神力の作す所なり。』と。その余の、未だ神通を得ざる者は、己の往く所(コト)を覚えず知らず。妙喜世界は、この土(娑婆世界)に入るといえども、増減せず。この(妙喜)世界に於いても、また迫隘(はくあい、セバマル)せざること、本の如くにて異なり無し。 |
無動仏が仰います、 『私がしておるのではない。維摩詰が神通力でいたしておるのだ。』と。 まだ神通力を得ていない者は何も気付いておりません。 妙喜世界は、この世界に置かれましても、 増えも、減りもせず、中が狭くなることもなく、本と 何の変わりはありません。 |
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爾時釋迦牟尼佛告諸大眾。汝等且觀妙喜世界無動如來其國嚴飾。菩薩行淨弟子清白 |
その時、釈迦牟尼仏、諸の大衆に告げたまわく、『汝等、且く妙喜世界の無動如来と、その国の厳飾(ごんじき、荘厳)と、菩薩の行浄く、弟子の清白(しょうびゃく、清浄潔白)なることを観よ。』 |
その時、釈迦牟尼仏は諸の大衆に教えられました、 『お前たち、しばらく 妙喜世界の無動如来とその国の様子を観察せよ。 菩薩は清浄の業を行い、 仏弟子(声聞)たちも清浄潔白であろう。』 |
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皆曰。唯然已見 |
皆曰く、『唯、然り、すでに見る。』 |
皆が申します、 『はい、よく見ました。』 |
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佛言。若菩薩欲得如是清淨佛土。當學無動如來所行之道 |
仏言たまわく、『もし菩薩、かくの如き清浄の仏土を得んと欲せば、まさに無動如来の行ずる所の道を学ぶべし。』と。 |
仏が仰います、 『もし菩薩が、このような 清浄の仏土を得ようと思うならば、 無動如来の修行された道を 学ばなければならない。』と。 |
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現此妙喜國時。娑婆世界十四那由他人發阿耨多羅三藐三菩提心。皆願生於妙喜佛土 |
この妙喜国現る時、娑婆世界の十四那由他(凡そ十億)の人、阿耨多羅三藐三菩提心を発して、皆妙喜仏土に生ぜんと願う。 |
この妙喜国が現れている間に、 娑婆世界の十四那由他(なゆた、およそ十億)の人が 阿耨多羅三藐三菩提心を発して、皆 妙喜仏土に生じることを願いました。 |
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釋迦牟尼佛即記之曰。當生彼國 |
釈迦牟尼仏、すなわちこれを記(き、記別、予言)して曰(の)たまわく、『まさに彼の国に生ずべし』と。 |
釈迦牟尼仏は この人たちに記(き、決定した未来事)を授けられます、 『お前たちは、必ずかの国に生まれるであろう。』と。 |
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時妙喜世界於此國土。所應饒益其事訖已。還復本處舉眾皆見 |
時に妙喜世界、この(娑婆)国土に於いて、まさに饒益(にょうやく、利益)すべき所の、その事すでに訖(おわ)りて、還りて本処に復すれば、衆を挙(こぞ)りて皆見たてまつる。 |
この妙喜世界は この国土に於いて 衆生を利益し、 仏事をすべて終えて 本の世界に戻りました。 大衆は、これ等すべてを見ることができました。 |
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佛告舍利弗。汝見此妙喜世界及無動佛不 |
仏、舍利弗に告げたまわく、『汝、この妙喜世界、および無動仏を見しや不や。』 |
仏は舎利弗にお教えになります、 『お前は、この妙喜世界と無動仏とを見たか?』 |
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唯然已見。世尊。願使一切眾生得清淨土如無動佛。獲神通力如維摩詰 |
『唯、然り、已に見たてまつる。世尊、願わくは、一切の衆生をして、清浄の土を得ること無動仏の如く、神通力を獲(う)ること維摩詰の如くならしめたまわんことを。 |
『はい、よく見ることができました。 世尊、願わくは、 一切の衆生に無動仏のような 清浄の国土を得させ、 維摩詰のような神通力を 獲得させたまわりますように。 |
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世尊。我等快得善利。得見是人親近供養 |
世尊、我等は、快く(とく、スバヤク)、善利(善妙の利益)を得、この人(維摩詰)を見て親近(しんごん)し供養することを得。 |
世尊、私どもは結構な利益を得ることができました。 それは この維摩詰に親しく近づき供養できたことです。 |
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其諸眾生若今現在若佛滅後。聞此經者亦得善利。況復聞已信解受持讀誦解說如法修行 |
それ、諸の衆生、もしは今現在、もしは仏の滅後に、この経を聞く者も、また善利を得ん。況(いわん)や、また聞きおわりて、信解し、受持し、読誦し、解説し、法の如くに修行せんをや。 |
諸の衆生も、 今現在であろうと仏の滅後であろうと、 この経を聞けば 善い利益を得ることができます。 まして 聞いた後に 信じ、理解し、受持し、読誦し、解説し、 正しく修行すればなおさらです。 |
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若有手得是經典者。便為已得法寶之藏。若有讀誦解釋其義如說修行。即為諸佛之所護念 |
もし手にこの経典を得る者有らば、すなわちすでに法宝の蔵を得と為す。もし読誦し、その義を解釈し、説の如く修行するもの有らば、すなわち諸仏の護念したもう所と為す。 |
もし手に この経典を持てば、既に 法宝の蔵に入ったことになります。 もし読誦し、 その義を解釈し、 経にあるように修行すれば、 その人は諸仏によって護念されます。 |
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其有供養如是人者。當知即為供養於佛 |
それ、かく(維摩詰)の如き人を供養する者有らば、まさに知るべし、すなわち仏を供養すと為すことを。 |
実に、この維摩詰を供養する人は、 仏を供養することと 同じであると知らなくてはなりません。 |
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其有書持此經卷者。當知其室即有如來 |
それ、この経巻を書き持する者有らば、まさに知るべし、その室に、すなわち如来有(ま)しますことを。 |
実に、この経巻を書いて持つことは、 その室に 如来が在(ま)しますことと 同じであると知らなくてはなりません。 |
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若聞是經能隨喜者。斯人即為取一切智 |
もし、この経を聞きて、よく随喜せん者は、この人は、すなわち一切智を取ると為すことを。 |
もしこの経を聞いて 随喜(ずいき、それを喜ぶ)すれば、この人は 一切智(空を知る智慧)を獲得したことになります。 |
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若能信解此經乃至一四句偈為他說者。當知此人即是受阿耨多羅三藐三菩提記 |
もし、この経の、乃至一つの四句の偈だにも、よく信解して他の為に説かん者は、まさに知るべし、この人は、すなわちこれ阿耨多羅三藐三菩提の記を受くることを。 |
もしこの経の ただ一つの四句の偈を 信じ理解して、 他の為に説けば、 この人は 阿耨多羅三藐三菩提の記を受けたと 同じことであると知らなくてはなりません。』と。 |
法供養品第十三
法供養品第十三 |
法供養品(ほうくようぼん)第十三 |
法を供養することは、諸の供養の中で最も第一と為す。 |
天帝、持法者の守護を誓う
爾時釋提桓因於大眾中白佛言。世尊。我雖從佛及文殊師利聞百千經。未曾聞此不可思議自在神通決定實相經典 |
その時、釈提桓因、大衆の中に於いて、仏に白して言さく、『世尊、我は、仏および文殊師利従り、百千の経を聞くといえども、未だかつて、この『不可思議なる自在神通にて実相を決定すること』の経典を聞かざりき。 |
その時、釈提桓因(しゃくだいかんいん、帝釈天)が大衆の中から仏に申しました、 『世尊、 私は仏と文殊師利により百千(十万)の経を聞くことができました。 しかし未だかつてこの 『不可思議なる自在の神通にて実相を決定する』経典を聞いたことはございません。 |
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如我解佛所說義趣。若有眾生聞是經法。信解受持讀誦之者。必得是法不疑。何況如說修行 |
我が解する仏の説きたもう所の義趣の如きは、もし有る衆生、この経法を聞きて、信解し受持し読誦せば、必ずこの法を得んこと疑わじ。何をか況や、説の如くに修行せんをや。 |
仏の真意を私が理解したところでは、 もしある衆生がこの経法を聞き、信じ、理解し、受持し、読誦すれば、 必ずこの法を得るだろうことは疑いもありません。 ましてこの経の如くに修行すればなおさらです。 |
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斯人即為閉眾惡趣開諸善門。常為諸佛之所護念。降伏外學摧滅魔怨。修治菩提安處道場。履踐如來所行之跡 |
この人は、すなわち衆の悪趣(地獄餓鬼畜生)を閉ざし、諸の善門を開くと為し、常に諸仏に護念せられ、外學(外道)を降伏(ごうぶく)し、魔怨(まおん、煩悩魔、五陰魔、死魔、天魔)を摧滅(さいめつ)し、菩提を修治し、道場に安処し、如来の所行の跡を履践(りせん、踏む)すると為す。 |
この人は、 地獄と、餓鬼と、畜生との悪趣の門を閉ざし、 諸の善い門を開き、 常に諸仏に護念せられて、 外道を降伏(ごうぶく、制圧)し、 煩悩魔、身魔、死魔、天魔を摧滅(さいめつ、破滅)して、 菩提(菩薩行)を修めて道場(一切処)に居り、 如来のたどって来られた同じ道を踏むことになります。 |
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世尊。若有受持讀誦如說修行者。我當與諸眷屬供養給事。所在聚落城邑山林曠野有是經處。我亦與諸眷屬。聽受法故共到其所。其未信者當令生信。其已信者當為作護 |
世尊、もし受持し読誦し説の如くに修行する者有らば、我、まさに諸の眷属とともに供養し給事すべし。在らゆる聚落、城邑、山林、曠野の、この経を有る処には、我も、また諸の眷属と、法を聴受せん(為の)が故に、共にその所に到り、その未だ信ぜざる者には、まさに信を生ぜしむべく、そのすでに信ずる者には、まさに為に護(擁護)を作すべし。』と。 |
世尊、もしこの経を受持し、読誦し、説くが如くに修行するものが有れば、 私は 必ず諸の眷属と共に 供養し、給仕いたします。 どこの 聚落、城邑、山林、曠野であろうと、 この経の有る処には、 私は、 また諸の眷属と共に、 法を聴受する為にそこに居り、 この経を聞いても まだ信じない者には信じさせ、 すでに信じる者には擁護いたします。』と。 |
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佛言。善哉善哉。天帝。如汝所說。吾助爾喜 |
仏言たまわく、『善哉善哉、天帝、汝が所説の如くんば、吾、爾(なんじ)を助けて喜ばしめん。 |
仏は言われます、 『よく言ったぞ、天帝。 お前が今言ったとおりにするならば、私もお前を助けて喜ばせよう。 |
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此經廣說過去未來現在諸佛不可思議阿耨多羅三藐三菩提 |
この経は、広く過去未来現在の諸仏の不可思議の阿耨多羅三藐三菩提を説く。 |
この経は、 過去、現在、未来の諸仏の不可思議なる 阿耨多羅三藐三菩提(仏の境界)を説いておる。 |
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是故天帝。若善男子善女人。受持讀誦供養是經者即為供養去來今佛 |
この故に、天帝、もし善男子、善女人、この経を受持し読誦し供養せん者は、すなわち去来今の仏を供養すると為す。 |
この故に天帝、もし 善男子、善女人がこの経を受持し、読誦し、供養すれば、 すなわち 過去、現在、未来のすべての仏を供養することになるのだ。 |
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天帝。正使三千大千世界如來滿中。譬如甘蔗竹[竺-二+韋]稻麻叢林。若有善男子善女人。或一劫或減一劫。恭敬尊重讚歎供養奉諸所安。至諸佛滅後。以一一全身舍利起七寶塔。縱廣一四天下高至梵天表剎莊嚴。以一切華香瓔珞幢幡伎樂微妙第一。若一劫若減一劫而供養之。於天帝意云何。其人植福寧為多不 |
天帝、まさに三千大千世界をして、如来を中に満しむること、譬えば甘蔗、竹葦、稲麻、叢林の如くならしめ、もし善男子善女人有りて、或いは一劫、或いは減一劫(げんいっこう、短めの一劫)、恭敬し尊重し讃嘆し供養し、諸の安(あん、安置)ずる所(具うべきもの、飲食衣服臥具の類)を奉り、諸仏の滅後に至りては、一々の全身の舎利を以って、七宝の塔を起て、縦広(じゅうこう、縦横)は一四天下(してんげ、四大洲)、高さは梵天に至り、表(ひょう、標柱)刹(せつ、塔柱)荘厳し、一切の華香、瓔珞、幢幡、伎楽の微妙なること第一を以って、もしは一劫、もしは減一劫、これを供養するは、天帝が意に於いて云何。その人は福を植うること、むしろ多しと為すや不や。』 |
天帝、三千大千世界の中に まるで葦原か稲田、あるいは叢林のように 隙間無く如来を満したとしてみよう。 もしある善男子、善女人が、 一劫(世界が生まれて滅するまでの間)にわたって休み無く、 この多くの仏を 恭敬し尊重し、讃嘆し供養して、飲食、衣服、臥具の類を奉り、 諸の仏の滅後には 一々の全身の舎利の為に 七宝の塔を建てる。 その塔の 底面の広さは四大洲を合わせたほど、 高さは梵天に届くほど、 上に標柱を建てて美しく荘厳し、 一切の華と香、 瓔珞と幢幡と、 微妙第一の伎楽でもって、 一劫の間供養する。
天帝、お前の心ではこれを何う思う? その人は 福の種子を植えることは 多いのだろうか、それとも 多くはないのだろうか?』と。 |
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釋提桓因言。多矣世尊。彼之福德若以百千億劫說不能盡 |
釈提桓因(しゃくだいかんいん)言わく、『多しや、世尊。彼の福徳は、もし百千億劫を以って説くとも、尽くすこと能わじ。』 |
釈提桓因が答えます、 『多くございます、世尊。その福徳は百千億劫の間説いても尽くすことはできません。』 |
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佛告天帝。當知是善男子善女人。聞是不可思議解脫經典信解受持讀誦修行福多於彼 |
仏、天帝に告げたまわく、『まさに知るべし、この善男子善女人、この不可思議解脱の経典を聞いて、信解し受持し読誦し、修行する福は、彼に於いて多きことを。 |
仏は天帝に教えられます、 『これを知らなくてはならない。 この善男子、善女人が この『不可思議解脱』の経典を 聞き、信じ、理解して、受持し、読誦し、修行した時の福は、 それよりももっと多いのだ。 |
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所以者何。諸佛菩提皆從是生。菩提之相不可限量。以是因緣福不可量 |
所以(ゆえ)は何(いかん)となれば、諸仏の菩提は、皆ここ従り生ず。菩提の相は限量すべからず。この因縁を以って、福も量るべからず。』 |
何故ならば、諸仏の菩提は皆これより生じる。 菩提(菩薩行)は 無量である。これから生じる 福もまた無量なのだ。』と。 |
法の供養
佛告天帝。過去無量阿僧祇劫時。世有佛號曰藥王如來應供正遍知明行足善逝世間解無上士調御丈夫天人師佛世尊。世界名大莊嚴。劫曰莊嚴。佛壽二十小劫。其聲聞僧三十六億那由他。菩薩僧有十二億 |
仏、天帝に告げたまわく、『過去、無量阿僧祇劫(むりょうあそうぎこう、無数劫)に、時の世に、仏有り。号して薬王如来、応供(おうぐ)、正遍知(しょうへんち)、善逝(ぜんせい)、世間解(せけんげ)、無上士(むじょうし)、調御丈夫(ちょうごじょうぶ)、天人師(てんにんし)、仏(ぶつ)、世尊(せそん)と曰い、世界を大荘厳と名づけ、劫(世界所住の時)を荘厳と曰う。仏の寿(じゅ、寿命)は二十小劫(しょうこう、凡そ百六十分の一劫)なり。その声聞僧(の数)は三十六億那由他(なゆた、凡そ十億)、菩薩僧は十二億有り。 |
仏は天帝にお教えになりました、 『無量阿僧祇劫(あそうぎこう、阿僧祇は無数)の昔、 薬王如来、 応供(おうぐ、供養に相応しい)、 正遍知(しょうへんち、一切を遍く知る)、 善逝(ぜんせい、善く逝く)、 世間解(せけんげ、世間を知る)、 無上士(むじょうし、最上の人)、 調御丈夫(ちょうごじょうぶ、一切の人天を調御する)、 天人師(てんにんし、天と人との教師)、 仏(ほとけ、覚者)、 世尊(せそん、世間の尊者)という仏がいた。 この仏の世界は大荘厳といい、時の名は荘厳といった。 仏の寿命は二十小劫(一小劫は凡そ百六十分の一劫)である。 声聞僧の数は三十六億那由他、 菩薩僧の数は十二億であった。 |
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天帝。是時有轉輪聖王名曰寶蓋。七寶具足主四天下。王有千子。端正勇健能伏怨敵 |
天帝、この時、転輪聖王(てんりんじょうおう)有り、名づけて宝蓋(ほうがい)と曰う。七宝具足し四天下に主たり。王に千子有り。端正(たんじょう)勇健(ゆごん)にて、よく怨敵を伏す。 |
天帝、この同じ時に 宝蓋(ほうがい)という転輪聖王(てんりんじょうおう、世界を統一した王)がいた。 この王は 七つの宝(金、銀、瑠璃、玻璃(はり、水晶)、車渠(しゃこ、大貝)、瑪瑙、珊瑚)を独占し、 四天下(してんげ、四大洲)の主である。 この王に 千人の子がいた。皆 端正にして勇健、 よく敵を征服した。 |
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爾時寶蓋與其眷屬供養藥王如來。施諸所安至滿五劫。過五劫已告其千子。汝等亦當如我以深心供養於佛。於是千子受父王命。供養藥王如來。復滿五劫一切施安 |
その時、宝蓋その眷属とともに薬王如来を供養し、諸の安ずる所を施して満五劫に至る。五劫を過ぎおわりて、その千子に告ぐらく、『汝等も、またまさに我が如く、深心以って仏を供養すべし。』と。ここに於いて、千子、父王の命を受け、薬王如来を供養し、また満五劫、一切を施して(仏を)安んず。 |
そして宝蓋とその眷属とは 薬王如来に供養した。 五劫の間、飲食、衣服、臥具等の 必要なものを施したのである。 やがてその五劫が過ぎた時、 王はその千人の王子に言った、 『お前たちも、また同じように深く心から仏に供養せよ。』と。 その父王の命を受けた 千人の王子はもとのように 薬王如来に供養して、 また五劫の間 一切の必要なものを施した。 |
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其王一子名曰月蓋。獨坐思惟。寧有供養殊過此者 |
その王の一子、名づけて月蓋(がつがい)と曰う。独り坐して思惟すらく、『寧(いづく)んぞ供養して、殊にこれに過る者有らんや。』と。 |
その王子の一人を月蓋(がつがい)といった。 月蓋は独り坐って考えた、 『これよりもっとすごい供養が有るだろうか。』と。 |
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以佛神力空中有天曰。善男子。法之供養勝諸供養 |
仏の神力を以って、空中に天有りて曰く、『善男子、法の供養は、諸の供養に勝る。』と。 |
仏は神通力で天に空中から言わせた、 『善男子、法の供養が最高である。』と。 |
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即問。何謂法之供養 |
すなわち問わく、『何をか法の供養と謂う。』 |
そこで問う、 『法の供養とは何でしょうか。』 |
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天曰。汝可往問藥王如來。當廣為汝說法之供養 |
天曰く、『汝、往きて薬王如来に問うべし。まさに広く(詳らかに)汝が為に、法の供養を説きたもうべし。』 |
天が言う、 『薬王如来の所へ往き問え。お前の為に法の供養を詳しくお説きくださるだろう。』 |
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即時月蓋王子行詣藥王如來稽首佛足。卻住一面白佛言。世尊。諸供養中法供養勝。云何為法供養 |
即時に、月蓋王子、行きて薬王如来に詣(いた)り、仏の足に稽首(けいしゅ)して、却(しりぞ)きて(壁の)一面に住し、仏に白して言さく、『世尊、諸の供養の中に法の供養勝るとは、云何なるをか法の供養と為す。』 |
すぐに 月蓋王子は薬王如来の所に往き、 如来の足に頭を著けて礼をして、退いて 壁の一面に坐し仏に問うた、 『世尊、諸の供養よりも法の供養が勝ると聞きました。 法の供養とは何をいうのでしょうか。』と。 |
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佛言。善男子。法供養者。諸佛所說深經。一切世間難信難受。微妙難見清淨無染。非但分別思惟之所能得 |
仏言たまわく、『善男子、法の供養とは、諸仏所説の深き経は、一切の世間には信じ難く受け難く、微妙にして見難く、清浄にして染無く、ただ分別思惟のみしてよく得る所に非ず。 |
仏は言う、 『善男子、法の供養とは、諸仏の深い教えは、 一切の世間には信じ難く受け入れ難い。 微妙であって見え難い。 清浄であって汚れに染まることもない。 ただ分別して考えても知ることはできない。 |
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菩薩法藏所攝。陀羅尼印印之 |
菩薩の法蔵の所摂(しょしょう、所蔵)にして、陀羅尼(だらに、総持、無忘失)の印もてこれを印(封印)し(陀羅尼の印とは、菩薩のみ能く法蔵に入るの証印。)、 |
菩薩の法蔵に収められ、 陀羅尼(だらに、菩薩が本願を忘れないこと)の 印が押してある。 |
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至不退轉成就六度。善分別義順菩提法 |
不退転(の位)に至りて六度(六波羅蜜)を成就し、善く(正しく)義を分別して菩提の法(菩薩の法)に順(したが)う(者のみ能くこの印を解く)。 |
六波羅蜜を成就した不退転の菩薩が、 正しく意味を分別する、 菩薩の修行の法である。 |
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眾經之上。入大慈悲。離眾魔事及諸邪見 |
(この経は)衆経の上にして大慈悲に入り、衆の魔事、および諸の邪見を離る。 |
衆の経の上に位して、 大慈悲に入り、 衆の魔事と 諸の邪見とから離れる。 |
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順因緣法。無我無人無眾生無壽命 |
因縁(十二因縁)の法に順いて、我無く人無く衆生無く寿命無し。 |
十二因縁の法に順(した)がい、 我無く、人無く、衆生無く、寿命も無し。 |
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空無相無作無起。能令眾生坐於道場而轉法輪。諸天龍神乾闥婆等所共歎譽 |
空、無相、無作、無起にして、よく衆生をして道場に坐して、法輪を転ぜしめ、諸天、龍神、乾闥婆(けんだつば、楽神)等の共に歎誉する所なり。 |
空、無相、無作、無起を説きながら、 衆生を道場に坐らせて法輪を転じれば、 諸天、龍神、乾闥婆(けんだつば、楽神)等は共に 褒め称える。 |
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能令眾生入佛法藏攝諸賢聖一切智慧。說眾菩薩所行之道 |
よく衆生をして仏の法蔵に入らしめ、諸の賢聖の一切の智慧を摂(おさ)め、衆の菩薩の所行の道を説く。 |
衆生を 仏法の蔵に入らせて 諸の賢聖(仏菩薩)の一切の智慧を学ばせ、 衆の菩薩の 行く道を説かせる。 |
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依於諸法實相之義。明宣無常苦空無我寂滅之法。能救一切毀禁眾生。諸魔外道及貪著者能使怖畏。諸佛賢聖所共稱歎 |
諸法の実相の義に依りて、明らかに無常、苦、空、無我寂滅の法を宣べ、よく一切の毀禁(ききん、犯戒)の衆生を救い、諸魔、外道および貪著する者をして、よく怖畏せしむ。諸仏、賢聖の共に称嘆する所なり。 |
あらゆる物事の実相については、 無常と、苦と、空と、無我と、寂滅の法を 明らかに宣べ、 一切の戒を犯す衆生を救い、 諸魔と、外道と、 物事に貪著する者とを怖れさせて、 諸仏と賢聖との共に 称嘆する所である。 |
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背生死苦示涅槃樂。十方三世諸佛所說 |
生死の苦に背きて涅槃の楽を示す、十方三世の諸仏の所説なり。 |
衆生には、 生死の苦に背くように教えて、 涅槃の楽を取ることを示す。 これは十方の三世の諸仏の説く所である。 |
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若聞如是等經。信解受持讀誦。以方便力為諸眾生分別解說顯示分明。守護法故。是名法之供養 |
もし、かくの如き等の経を聞いて、信解し受持し読誦し、方便力を以って諸の衆生の為に、分別し解説し分明にせば、法を守護するが故に、これを法の供養と名づく。 |
もしこのような経を聞き、 信じ、理解し、受持して、読誦し、 方便力を以って 衆生の為に分別し、 解説し、分かち明らかにすれば、 法を守護することになり、 これを法の供養と呼ぶ。
注:正法を聞いたならば信解受持読誦し、方便力を以って衆生の為に分別解説顕示分明すること。これを法供養という。 |
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又於諸法如說修行。隨順十二因緣。離諸邪見得無生忍。決定無我無有眾生。而於因緣果報。無違無諍離諸我所 |
また、諸法に於いて、説の如くに修行し、十二因縁に隨順して諸の邪見を離れ、無生忍を得て、我無く衆生も有ること無しと決定し、しかも因縁果報(の理)に於いて、違うこと無く諍うこと無く、諸の我所(がしょ、我が物、我が身心)を離る。 |
またあらゆる物事について 正法に説くように修行する。 十二因縁の法を信じて疑わず、 諸の邪見を離れる。 無生であることを認識して、 我も衆生も有ることはないと確信し、 しかも 因縁と果報の理を疑わずに信じて、 我が身、我が心、我が物等の 執著を離れる。 |
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依於義不依語 |
義に依りて語に依らず、 |
意味を頼りにして、 言葉に頼らない。 |
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依於智不依識 |
智に依りて識に依らず、 |
智慧を頼りにして、 知識に頼らない。 |
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依了義經不依不了義經 |
義を了(明了)にする経に依りて、義を了にせざる経に依らず、 |
意味を明了にする経を頼りにして、 不明了な経に頼らない。 |
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依於法不依人 |
法に依りて人に依らず、 |
法を頼りにして、 人に頼らない。 |
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隨順法相無所入無所歸 |
法相(諸法の実相)に隨順して入る所(サトリ)無く帰(帰順)する所無し。 |
あらゆる物事の実相に逆らわずに随えば、 覚るもの無く、 随うものも無し。(仏無く、衆生無し) |
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無明畢竟滅故。諸行亦畢竟滅。乃至生畢竟滅故。老死亦畢竟滅。作如是觀。十二因緣無有盡相。不復起見。是名最上法之供養 |
無明(十二因縁の第一支)は畢竟(ひっきょう、ツマルトコロ)滅(寂滅)なるが故に、諸行(十二因縁の第二支)もまた畢竟滅なり。乃至生(十二因縁の第十一支)は畢竟滅なるが故に、老死(十二因縁の第十二支)もまた畢竟滅なり。かくの如き観を作して、十二因縁は尽相有ること無く(十二因縁は本不生なるが故に今更に滅すること無し)、また見(邪見)を起こさず。これを最上の法の供養と名づく。』と。 |
無明(むみょう、貪、十二因縁の第一支)はもともと 起こることなく滅しておるのであるから、 諸行(動き、十二因縁の第二支)も 滅しておる。 このようにして 生(我の確立、十二因縁の第十一支)も 滅しておるのであるから、 老死(我の破壊、十二因縁の第十二支)も 滅しておる。 このように観察すれば、 十二因縁は 本より無いのであるから、 今更に滅することは無いとして、 これ以上は邪見を起こさない。 これを最上の法の供養という。』と。(以上薬王仏、月蓋に説く)』と。 |
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佛告天帝。王子月蓋從藥王佛。聞如是法得柔順忍。即解寶衣嚴身之具。以供養佛白佛言。世尊。如來滅後我當行法供養守護正法。願以威神加哀建立。令我得降魔怨修菩薩行 |
仏、天帝に告げたまわく、『王子月蓋、薬王仏より、かくの如き法を聞いて柔順忍(実相の法に深入せずといえども、心柔順に教えに違背せざる位)を得、すなわち宝衣と身を厳(かざ)る具を解き、以って仏に供養し、仏に白して言さく『世尊、如来の滅後に、我、まさに法の供養を行じ、正法を守護すべし。願わくは、威神(神通力)を以って哀れみを加えて建立(こんりゅう、擁立)し、我をして魔怨を降し得て、菩薩行を修せしめたまわんことを。』と。 |
続けて仏は天帝にお教えになります、 『王子月蓋は薬王仏よりこのような法を聞いて、 心が柔順になり 宝衣を脱ぎ去って 厳身の具(身体に着ける飾り)を解き、すべてを 仏に供養して申した、 『世尊、如来の滅後には、私は必ず法を供養して正法を守護します。 願わくは、仏、哀れんで神通力で以って我を加護したまい、 諸魔を降すことと菩薩行を修めることをさせたまえ。』と。 |
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佛知其深心所念。而記之曰。汝於末後守護法城 |
仏、その深き心の念ずる所を知り、これに記して曰わく、『汝、末後(まつご、後世)に於いて、法城を守護すべし』と。 |
仏は月蓋の心の思いが深いことを知って、これに記を授けた、 『お前は後の世になって法の城を守護することになるだろう。』と。 |
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天帝。時王子月蓋見法清淨。聞佛授記以信出家。修集善法精進不久。得五神通逮菩薩道。得陀羅尼無斷辯才。於佛滅後以其所得神通總持辯才之力。滿十小劫。藥王如來所轉法輪隨而分布 |
天帝、時に王子月蓋、法の清浄なるを見、仏の授記を聞き、信を以って出家し、善法(ぜんぽう、ヨイコト)を修め集めて、精進すること久しからずして、五神通(天耳、天眼、宿命、他心、神足)を得、菩薩の道を逮(おいもと)め、陀羅尼(無忘失)と無断の辯才を得たり。仏の滅後に於いては、その得たる所の神通と総持と辯才の力を以って、満十小劫のあいだ、薬王如来の転じたもう所の法輪に随い、分布す。 |
天帝、その時、 王子月蓋は 法が清浄であることを悟り、 信念を以って出家して、 善い行いを積むことに励んだ。 やがて神通力を得て菩薩の道をひた走り、 陀羅尼(だらに、本願を忘れないこと)と 絶えることのない辯才とを得た。 仏の滅後には、その持っている 神通力と、 総持(そうじ、陀羅尼)と、 辯才の力とを以って 十小劫の間、 薬王如来の説いた法を、そのままに、 衆生に弘めた。 |
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月蓋比丘以守護法勤行精進。即於此身化百萬億人。於阿耨多羅三藐三菩提立不退轉 |
月蓋比丘、法を守護し勤行し精進するを以って、すなわちこの身に於いて、百万億人を化(化導)し、阿耨多羅三藐三菩提に於いて不退転(の位)に立つ。 |
月蓋比丘(びく、出家人)は 法を守護して、 勤め行い精進し、 この身のまま 百万億の人を導き、 阿耨多羅三藐三菩提を目指して 不退転であった。 |
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十四那由他人深發聲聞辟支佛心。無量眾生得生天上 |
十四那由他(なゆた、十億)の人は深く声聞辟支仏の心を発し、無量の衆生は天上に生ずることを得たり。 |
十四那由他(なゆた、凡そ十億)の人が 深く声聞辟支仏の心を発し、 無量の衆生が天上に生ずることができた。 |
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天帝。時王寶蓋豈異人乎。今現得佛號寶炎如來。其王千子即賢劫中千佛是也 |
天帝、時の王、宝蓋とは、あに異人ならんや。今現に仏を得て、宝炎如来と号し、その王の千子とは、すなわち賢劫(けんごう、この三千大千世界、すなわち娑婆世界の現在の劫の名)の中の千仏、これなり。 |
天帝、その時の王宝蓋とは、今現在の仏である宝炎如来がそれであり、 その千人の王子とは賢劫(けんごう、世界の現在の時の名)の千仏がそれである。
三劫(さんこう):娑婆世界(しゃばせかい、一つの三千大千世界)も他の三千大千世界と同様、成住壊空の四劫を繰り返しているが、その最も近い過去の住劫を荘厳劫、現在の住劫を賢劫、未来の住劫を星宿劫といい、それぞれ千仏の出現があるという。 |
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從迦羅鳩孫[馬*太]為始得佛。最後如來號曰樓至。月蓋比丘即我身是 |
迦羅鳩孫駄(からくそんだ、拘留孫仏(くるそんぶつ)、賢劫の最初に出現する仏)を始めて仏を得と為して従り、最後の如来を号して楼至(るし)と曰う。月蓋比丘とは、すなわち我が身(釈迦牟尼仏)これなり。 |
迦羅鳩孫駄(からくそんだ、賢劫の最初に出現する仏)が仏となって以来、 最後の仏を楼至(るし、賢劫の最後に出る仏)というが、 月蓋比丘とはこの釈迦牟尼仏(賢劫の第七仏)がそれである。 |
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如是天帝。當知此要。以法供養於諸供養為上。為最第一無比。是故天帝。當以法之供養供養於佛 |
かくの如し、天帝、まさにこの要を知るべし。法の供養を以って、諸の供養に於いて上と為し、最も第一無比と為す。この故に天帝、まさに法の供養を以って、仏を供養すべし。』と。 |
このように天帝、この要のことを知らなくてはならない。 法を供養することは、 諸の供養に勝る。 最も第一であり比べものもないものなのだ。 この故に天帝、 法を供養(持法の人を守護)することによって、 仏を供養せよ。』と。 |
嘱累品第十四
囑累品第十四 |
嘱累品(そくるいぼん)第十四 |
仏、弥勒菩薩と阿難等に、この経を咐嘱(ふそく、委ねる)す。 |
弥勒菩薩と阿難に付嘱す
於是佛告彌勒菩薩言。彌勒。我今以是無量億阿僧祇劫所集阿耨多羅三藐三菩提法。付囑於汝 |
ここに於いて仏、弥勒菩薩に言たまわく、『弥勒、我、今この無量億阿僧祇(あそうぎ、無数)劫に集めし所の阿耨多羅三藐三菩提の法を以って、汝に附嘱(ふそく、任す)す。 |
そして仏は弥勒菩薩に仰いました、 『弥勒、私は、今 この無量無数劫の間に集めた 阿耨多羅三藐三菩提の法を、 お前にまかせよう。 |
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如是輩經於佛滅後末世之中。汝等當以神力廣宣流布於閻浮提無令斷絕 |
かくの如き輩(たぐい)の経を、仏の滅後の末の世の中に於いて、汝等、まさに神力を以って、広宣流布(こうせんるふ、ヒロメル)し、閻浮堤(えんぶだい、世界)に於いて断絶せしむること無かれ。 |
この類の経は、 仏の滅後にはお前たちが、 神通力を使って閻浮堤に弘めよ。 決して断絶させるではないぞ。 |
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所以者何。未來世中當有善男子善女人。及天龍鬼神乾闥婆羅剎等。發阿耨多羅三藐三菩提心樂于大法。若使不聞如是等經則失善利。如此輩人聞是等經。必多信樂發希有心當以頂受隨諸眾生所應得利而為廣說 |
所以は何となれば、未来世の中の、善男子善女人、および天龍、鬼神、乾闥婆(けんだつば、楽神)、羅刹(らせつ、悪鬼)等の、阿耨多羅三藐三菩提心を発し、大法(大乗)を楽(ねが)うもの有るべし。もしかくの如き等の経を聞かざらしむれば、すなわち善利を失せん。かくの如き輩の人、これ等の経を聞かば、必ず多く信楽(しんぎょう、信じ楽う)して、希有の心を発して、まさに頂受(頂戴と受持)することを以って、諸の衆生のまさに利を得べき所に随うて、為に広く説くべし。 |
それは何故かといえば、 未来の世の中にも、 男女の人、天人、龍神、鬼神、楽神、悪鬼等が 阿耨多羅三藐三菩提の心を発し、 大乗の法を自ら志す者がいるだろう。 その者たちに、 このような経を 聞かせることができなければ、 大きな損失である。 その者たちが、 このような経を聞けば、必ず 多くの者が信じ 自ら志して 希有の心を 発すだろう。 その者たちが、 このような経を頂戴受持することによって、 諸の衆生の為に 相応しい利益を得るよう、 詳しく説くことだろう。 |
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彌勒當知。菩薩有二相。何謂為二。一者好於雜句文飾之事。二者不畏深義如實能入 |
弥勒、まさに知るべし。菩薩には二の相有り。何をか謂って二と為す。一は、雑句文飾(ぞうくもんじき、美辞麗句)を好み、二は、深義を畏れず、如実によく入る(覚る)。 |
弥勒、よく知っておれ。二種類の菩薩がいる。 一は美辞麗句を好む者であり、 二は深い意味を知ることを畏れず、真実を覚る者だ。 |
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若好雜句文飾事者。當知是為新學菩薩 |
もし雑句文飾を好む者は、まさに知るべし。これ新学の菩薩と為すと。 |
美辞麗句を好む(言葉だけの)者は、よく知っておれ、 これこそ新学の菩薩である。 |
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若於如是無染無著甚深經典。無有恐畏能入其中。聞已心淨受持讀誦如說修行。當知是為久修道行 |
もしかくの如き無染、無著の甚深の経典に於いて、恐畏(くい)有ること無く、よくその中に入りて、聞きおわりて心浄く、受持し読誦し、説の如く修行するもの、まさに知るべし、これ久しく道行を修すと。 |
このようなあらゆる物事に 染著しない 甚だ深い経典を 聞いては 畏れることなくよく覚り、 聞き終わっては 心が浄まり、 受持し読誦し、 説のとおりに修行する者、 よく知っておれ、これこそ 永く修行を積んだ菩薩である。 |
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彌勒。復有二法。名新學者。不能決定於甚深法 |
弥勒、また二法有り。新学の者と名づく。甚深の法に於いて決定すること能わず。 |
弥勒、新学の者にも二種あって、共に 甚だ深い法を決定(確信)できない。 |
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何等為二。一者所未聞深經。聞之驚怖生疑不能隨順。毀謗不信而作是言。我初不聞從何所來 |
何等をか二と為す。一は、未だ聞かざる所の深き経、これを聞いて驚き怖れ、疑いを生じて、隨順すること能わず。毀謗(きぼう、誹謗)し信じずして、この言を作さく、『我は初めより聞かず。何所(いづこ)従り来たる(この経は聞いたことが無い、誰が言ったことだ)。』と。 |
まず第一の者は、まだ聞いたことのない 深い経を初めて聞き、 驚いて怖れ、 疑って馴染むことができず、 誹謗して信じずにこう言う、 『このような経は聞いたことがない、偽物だ信じられない。』と。 |
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二者若有護持解說如是深經者。不肯親近供養恭敬。或時於中說其過惡 |
二は、もしかくの如き深き経を護持し解説する者有らば、親近し供養し恭敬することを肯(がえん、承知)ぜず。或は時に、中に於いてその過悪を説く。 |
第二の者は、このような 深い経を 護持し 解説する者がいても、敢えて 近づいて 供養し恭敬しようとしない。 或いは 仲間となり中から その欠点をあげつらう。 |
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有此二法。當知是為新學菩薩。為自毀傷。不能於深法中調伏其心 |
この二法有らば、まさに知るべし。これ新学の菩薩と為すと。為に自ら毀傷(きしょう、傷つける)し、深法の中に於いて、その心を調伏すること能わず。 |
この二つが有れば、よく知っておれ、これは新学の菩薩である。 この者は この為に 自ら傷つけ、 深い法にその心を 馴染ませることができない。 |
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彌勒。復有二法。菩薩雖信解深法。猶自毀傷而不能得無生法忍。何等為二。一者輕慢新學菩薩而不教誨。二者雖解深法而取相分別。是為二法 |
弥勒、また二法有り。菩薩、深法を信解すといえども、なお自ら毀傷して無生法忍を得る能ず。何等をか二と為す。一は、新学の菩薩を軽慢(きょうまん、重視せず)して教誨(きょうけ、教導)せず。二は、深法を解すといえども相(表相)を取りて分別す。これを二法と為す。』と。 |
弥勒、また二種の菩薩がいる。 この者は 深い法を信じ理解してはいるが、 それでもなお 自ら傷つけ 不退の位に至ることができない。 その一は、 新学の菩薩を 軽んじ侮って 教え導くことをしない。 その二は、 深い法を理解してはいるが、 表相の見かけに 欺かれ 徒(いたづら)に 分別しておる。』と。 |
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彌勒菩薩聞說是已白佛言。世尊。未曾有也。如佛所說。我當遠離如斯之惡奉持如來無數阿僧祇劫所集阿耨多羅三藐三菩提法 |
弥勒菩薩、これを説きたもうを聞きおわり、仏に白して言さく、『世尊、未曽有なり。仏の説きたもうが如きは、我、まさにかくの如き悪を遠離し、如来、無数阿僧祇劫に集めたまいし所の阿耨多羅三藐三菩提の法を奉持(ぶじ)すべし。 |
弥勒菩薩はこれを聞いて仏に申しました、 『世尊、初めてお聞きしました。仏の仰せの如くにいたします。 私は、 このような悪を遠ざけて、 如来が無数劫にお集めになった所の 阿耨多羅三藐三菩提の法を必ず 奉持します。 |
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若未來世善男子善女人求大乘者當令手得如是等經。與其念力。使受持讀誦為他廣說 |
もし未来世の善男子善女人、大乗を求むる者には、まさに手に、かくの如き等の経を得しめ、それに念力(護念の神力)を与えて、受持し読誦せしめ、他の為に広く説かしむべし。 |
未来の世に 善男子善女人が 大乗の法を求めていれば、 その手の中に このような経を得させ、 私の神通力で護念しながら、 受持し読誦させて 他人の為に 詳しく説かせます。 |
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世尊。若後末世有能受持讀誦為他說者。當知皆是彌勒神力之所建立 |
世尊、もし後の末世に、よく受持し読誦し他の為に説く者有らば、まさに知るべし、皆これは弥勒が神力の建立する所なることを。』と。 |
世尊、末の世に このような経を よく受持し、読誦し、 他人の為に 説く者がいればそれは、 よくご存知置きください、皆 弥勒が 神通力でなした所であると。』と。 |
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佛言。善哉善哉彌勒。如汝所說。佛助爾喜 |
仏言たまわく、『善哉善哉、弥勒、汝が所説の如きは、仏、爾(なんじ)を助けて喜ばしめん。』 |
仏が仰います、 『よく言った、弥勒。 お前が今言ったとおりにすれば、 仏もお前を助けて喜ばせることだろう。』と。 |
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於是一切菩薩合掌白佛。我等亦於如來滅後。十方國土廣宣流布阿耨多羅三藐三菩提法。復當開導諸說法者令得是經 |
ここに於いて一切の菩薩合掌して仏に白さく、『我等もまた如来の滅後に於いて、十方の国土に阿耨多羅三藐三菩提の法を広宣流布せん。またまさに諸の法を説く者を開導(かいどう、開発教導)して、この経を得しむべし。 |
一切の菩薩が合掌して仏に申します、 『私どもも、 如来の滅後には、 十方の国土に於いて 阿耨多羅三藐三菩提の法を弘めます。 この法を説く力のある者を 探し出し、 教え導いて この経を得させるようにいたします。』と。 |
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爾時四天王白佛言。世尊。在在處處城邑聚落山林曠野。有是經卷讀誦解說者。我當率諸官屬為聽法故往詣其所擁護其人。面百由旬令無伺求得其便者 |
その時、四天王、仏に白して言さく、『世尊、在々処々の城邑、聚落、山林、曠野に、この経巻を読誦し解説する者有らば、我、まさに諸の官属を率いて、法を聴かんが為の故に、その所に往詣し、その人を擁護せん。面(まのあた)り百由旬(ゆじゅん、凡そ十キロメートル)、(悪魔の)伺い求めて、その便(たより、誘惑悩乱の便宜)を得る者無からしむべし。』と。 |
四天王たちも仏に申します、 『世尊、諸の城邑、聚落、山林、曠野の 何所であっても、 この経巻を読誦し、解説する者がいれば、 私どもは法を聞く為に、 諸の官属を率いて その所に往き、 その人を擁護いたします。 百由旬(一千キロメートル)四方に住む 悪魔が見に来たとしても、決して 誘惑悩乱させるようなことはございません。』と。 |
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是時佛告阿難。受持是經廣宣流布。 |
この時、仏、阿難に告げたまわく、『この経を受持して、広宣流布せよ。』 |
仏は阿難にお命じになります、 『この経を受持して、世に弘めよ。』と。 |
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阿難言唯然。我已受持要者。世尊。當何名斯經。 |
阿難言わく、『唯(ゆい、ハイ)、然り(確かに)。我、已に要を受持す。世尊、まさに何(いか)んがこの経を名づくべき。』 |
阿難が申します、 『はい必ず。私は既に要を受持しております。 世尊、この経の名は何といたしましょうか。』 |
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佛言。阿難。是經名為維摩詰所說。亦名不可思議解脫法門。如是受持 |
仏言たまわく、『阿難、この経を名けて『維摩詰が所説』と為し、また『不可思議なる解脱の法門』と名づけ、かくの如く受持せよ。』と、 |
仏がお教えになりました、 『阿難、この経は 『維摩詰の所説』と名づけよ。 また 『不可思議なる解脱の法門』と名づけて受持せよ。』と。
注:本経の副題『不可思議解脱』とはこれによる。 |
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佛說是經已。 |
仏、この経を説きおえたもう。 |
仏は この経を説き終えられた。 |
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長者維摩詰.文殊師利.舍利弗.阿難等。及諸天人阿修羅一切大眾。聞佛所說皆大歡喜
維摩詰經卷下 |
長者維摩詰、文殊師利、舎利弗、阿難等、および諸の天人、阿修羅、一切の大衆、仏の説きたもう所を聞いて、大いに歓喜す。
維摩詰経巻下 |
長者維摩詰、文殊師利、舎利弗、阿難等と、および 諸の天人、阿修羅、一切の大衆も 仏の説法を聞いて、皆大いに歓喜しました。
維摩詰経巻の下 終り |
ご挨拶
入れ代わり立ち代りまして優秀なる当座の人気者が精根を尽くし演じたる三幕十四場のお芝居もかくて仕舞と相いなりました。さぞお楽しみいただけましたのではございませんでしょうか。皆様方には一座の面々に成り代わりまして訳者がご挨拶させていただきます。 ―――この劇中にはお芝居ならではのさまざまな不思議が次々と相い現れ、皆さまをお慰め申します。皆様方はこれをご覧になって、それぞれにハッとなさったり、なるほどと気が付かれたりしながら、徐々に徐々に作者の薬籠中に捕り込まれる仕掛けでございます。もしそうならなかったと仰る方が一人でもいらっしゃれば、それは偏に訳者である私の力不足のいたす所、まったく申し訳なく相済まないことでございました。 ―――さて、お芝居の余韻に浸る間もなくこのように興をそぐご挨拶はまったくご迷惑以外の何物でもないことは重々承知してはおりますが、もし万一にもなさる皆さま方の勘違いを今ここで正さなければ、これは仏作って魂入れず、画龍点睛を欠くの例に漏れず後に禍根を残すことになり、皆様方にも誰さまにも相い済まぬことになってしまいます。ここは今暫くのご辛抱をお願い申し上げます。 ―――と申しますのは、劇中にて馬鹿なことをしでかし馬鹿な質問をして恥をかきどおしでありました、舎利弗を初めとする十大弟子の面々、この方々も本当はただ今ご覧になったような馬鹿な方ではございません。馬鹿な私どもに成り代わって劇中に役を演じていただいたような次第で、いわば皆様方によりよくこのお芝居の主旨をご理解いただけるよう、恥かしい役を演じていただいたような訳でございます。されば皆様方にも何卒その辺りをお含み置き願いますよう、心からお願いいたす所存でございます。 |
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―――言うまでも無く皆様方ご案内のとおり、この劇のテーマは菩薩と菩薩の行い、これがすべてでございます。言い換えますとこのようにすれば世界は浄められ平和になるぞと、これがテーマなのです。菩薩行といえば六波羅蜜、舎利弗を初めとする弟子の方々にはこの中の忍辱波羅蜜を身をもって演じていただきました。よく耐え忍びなかなかの名演でしたではございますまいか。 ―――我々も実に同じ、このお芝居の中の舎利弗のように一幕の中の登場人物、台本が何のようになっているのか、今演じているのはどの場面であるのか、まったく五里霧中でございます。先の見えぬ役を演じるお馬鹿な役者、まさに耐え忍ばなければならない訳でもございましょう。 かような次第でございます、皆様方にはご得心していただけましたでしょうか。 何うやらご得心いただけましたようで、皆様方のお許しを得まして、ご挨拶ももう十分でございます。では皆々様、ご機嫌よう、お元気で、お風邪など召しませぬよう。 最後にアッシジの聖者、聖フランチェスコの祈りの言葉でお別れいたしましょう。
『平和の祈り』
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