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鴦掘摩、師婦を誡めて讒言される

師、鴦掘摩を怨んで、百人殺すことを命ず

鴦掘摩、恐れ驚けども、命を奉じて九十九人を殺す

百人目に母を殺そうとして、仏に化導される

波斯匿王、鴦掘摩を許して、供養を給す

鴦掘摩、妊婦を助けて産ましめる

子供に石を投げられ、体を傷つける

 

 

 

 

 

  鴦掘摩(おうくつま)経は小乗経典の中にあります。 また仏教説話としても、『アングリマーラの物語』として有名です。 釈尊在世当時の印度にいた鴦掘摩という人は婆羅門の師について学んでいましたが、学問、武芸、体力、容姿、容貌、共に並はずれて勝れていましたので、師の大いに自慢する所でした。 これを師の妻が懸想します。 ある日、夫が留守をするにあたり誘惑しようとしましたが、鴦掘摩は、かたくなにそれを拒みます。 師の妻は恥をかかされたことを恨みに思い、夫に嘘をついて、弟子の鴦掘摩に犯されそうになったと告げました。 師は怒りにわれを忘れ、復讐心をかためて鴦掘摩に最も悪い地獄に堕ちる法を信じさせました。 半日の間に百人を殺し、百本の指を集めて首飾りを作れと命じたのです。 鴦掘摩は悩みながら、だんだんと懊悩の中に心を狂わせ、とうとう実行するに至りました。 九十九人目を殺したところで、日が中天に昇り、約束の刻限まで残り少なくなってしまいました。 その上、もう人通りもありません。 その頃、鴦掘摩の母は、息子がいつまでたっても帰らないので心配し弁当でも届けようと思ったのです、鴦掘摩が犠牲者を待っている、その場所に来ました。 その母を鴦掘摩は百人目の犠牲者として択びます。 まさに母を殺そうとする、ちょうどその時、釈尊が現れて鴦掘摩を化導し弟子にしました。 やがてその後に鴦掘摩は阿羅漢に成るというのがその主なあらすじです。

  内容については改めて説明するまでもありません。 人というものは、その別名を機(き、はたおり機)ともいうように、こちらの紐を引けばあちらがパタンと動き、この棒を踏めばあれがガチャンと動くというような、本性が無く、ただ環境に振り回される物なのです。 その故に、善い法に遇えば善い行いをし、悪い法に遭えば悪い行いをするというのが、この経の主張です。 仏教は、小乗と大乗とがありますが、おおむねこの考えは変りません。 この経では、それを解りやすく説話として説いています。

  なお、読み下し文は原文のとおりに訳しましたが、現代語訳では読みやすいように若干改変しています。 

                                        以上

 

 

 

 

佛說鴦掘摩經

 西晉月氏國三藏竺法護譯

仏説鴦掘摩(おうくつま)経

  西晋月氏国の三蔵 竺法護(じくほうご)訳す

 鴦掘摩(おうくつま)の罪と改心を説きます。

 

  竺法護(じくほうご):月氏国の人、鳩摩羅什より凡そ百年前、三四世紀に敦厚、酒泉、長安、洛陽で活躍した大訳経家。

 

鴦掘摩、師婦を誡めて讒言される

聞如是。一時佛遊舍衛國祇樹給孤獨園。與大比丘五百眾俱

かくの如く聞けり。 一時、仏、舎衛国(しゃえいこく)祇樹給孤獨園(ぎじゅぎっこどくおん)に遊びたまい、大比丘五百衆と倶なりき。

  このように聞いております、――

  ある時、仏は舎衛国(しゃえいこく、国名)の祇樹給孤獨園(ぎじゅぎっこどくおん、寺院名)に遊行され、五百人の大比丘の衆と居住を倶(とも)にされた。

 

  舎衛国(しゃえいこく):釈迦当時の印度で栄えた二大都市の一である。 もう一方の大都市である摩竭陀国の王舎城と、この国の王都舎衛城とは直線距離で凡そ四百キロ離れ、その間を釈迦は常に行き来していられた。

  祇樹給孤獨園(ぎじゅぎっこどくおん):王舎城の長者須達多(すだった)は釈尊に精舎(しょうじゃ、寺院)を寄進するために大金を払って土地を祇陀(ぎだ)太子より購入し、祇陀は樹林を寄進した。 須達多は慈悲深く常に孤独者に食を給していたので給孤獨(ぎっこどく)と呼ばれていた。 この精舎は祇陀の樹林と給孤獨の土地建物よりなるので、この名がある。

舍衛城中有異梵志。博綜三經無所疑滯。具暢五典所問即對。精生講肆莫不稟仰。國老諮諏群儒宗焉。門徒濟濟有五百人

舎衛城の中に、異梵志(いぼんし、外道の婆羅門)有りて、三経(さんきょう、婆羅門の修める三部の経典)に博綜(はくそう、通達)して疑滞する所無く、具に五典(ごてん、学ぶべき五種の学問)を暢べて問う所に即ち対(こた)う。 精(くわ)しく講肆(こうし、聴講の席)を生じて、稟仰(ひんぎょう、仰いで受ける)せざるなし。 国老諮諏(ししゅ、はかる)して、群儒(ぐんじゅ、学者)宗とし、門徒済済(せいせい、大勢がそろうさま)として五百人あり。

  舎衛城の中に、一人の婆羅門の梵志(ぼんし、修行者)がいた。

  この人は、婆羅門の修める三部の経典に通達して解らない所は無かった。 

  また、婆羅門の学ぶべき五種の学問(言語、技術、医学、論理、宗教)を教えていたが、その素晴らしい講義を、皆が争って受けた。

  大臣たちには国の取るべき道を教え、多くの学者に尊敬され、弟子も多く、五百人がいた。

 

  三経(さんきょう):婆羅門が修行して梵天に生まれるための経。 長阿含経巻第十六『第三分三明経第七』でいう所の三明経。 

    (1)利倶吠陀(りぐべいだ):太古よりの賛美歌の集成。

    (2)三摩吠陀(さんまべいだ):賛歌に音楽を付して祭式に実用するもの。

    (3)夜柔吠陀(やじゅうべいだ):季節ごとに祭祀の時の散文の呪文の集成。

  五典(ごてん):内外の学者が必ず学ぶもの、謂わゆる五明のこと。

    (1)声明:言語、文学、文法を明らかにする。

    (2)工巧明:一切の工芸、技術、算暦等を明らかにする。

    (3)医方明:医学、薬学を明らかにする。

    (4)因明:正邪と真偽の理法、論理を詮議し明らかにする。

    (5)内明:自家の宗旨を明らかにする。

上首弟子名鴦掘摩(晉曰指鬘)。儀幹剛猛力超壯士。手能接飛走先奔馬。聰慧才辯志性和雅。安詳敏達一無疑礙。色像第一師所嘉異

上首の弟子を鴦掘摩(おうくつま、晋に指鬘(しまん)という)と名づく。 儀幹(ぎかん、ふるまいと体)剛猛にして力は壮士を超え、手はよく接飛(せっぴ、すばやく飛ぶ)して、走れば奔馬に先んず。 聡慧にして才辯あり。 志性は和雅にして、安詳(あんしょう、落ちつく)し。 敏達(びんたつ、道理をわきまえる)して一として疑礙(ぎげ、疑う)すること無く、色像は第一にして師に嘉異(かい、喜び特別にあつかう)せられたり。

  上首の弟子に、名を鴦掘摩(おうくつま、指鬘(しまん、指の首輪)と訳す)というものがいた。 

  この弟子は、体つきも振る舞いも立派で、力は力士のように強く、手は鳥のように素速く動き、走れば馬よりも速く、聡明で智慧と辯才があり、性質は優しく穏やかで、道理に通じて疑問とする所はなく、顔も美しいので師には特別にかわいがられていた。

室主欽敬候夫出處。往造指鬘而謂之曰。觀爾顏彩有堂堂之容。推步年齒相覺不殊。寧可同歡接所娛乎

室主(しつしゅ、夫人)欽敬(きんけい、名)、夫の処(いえ)を出づるを候(うかが)い、往きて指鬘に造(いた)り謂いて曰く、『爾(なんじ)が顔彩(がんさい、顔のかがやき)は堂堂の容(よう、ようす)あり。 年歯(ねんし、年齢)を推歩(すいほ、暦を計算する)するに、殊ならざると相い覚ゆ。 むしろ、歓びを同じうして娯しき所に接(ふ)れん。』と。

  師の婦人の欽敬(きんけい、婦人の名)は、夫が家を出るのを待って、指鬘の所に往き、こう言った、

  『美しい顔だこと、この立派な身体。 年もわたしと同じなんですってね。 どう?一緒に楽しまない? ここにさわってもよいでしょう?』と。

指鬘聞之慞惶怖懼。毛衣起豎跪而答曰。夫人比母師則當父。猥垂斯教儀不敢許。心所不甘甚非法也

指鬘、これを聞き、慞惶(しょうこう、おろおろする)して怖懼(ふく、びくびくする)し、毛衣にて起き竪(た)ち、跪いて答えて曰く、『夫人はこれ母にして師は則ち父に当る。 猥りに、この教えを垂れたまえども、儀(ぎ、礼儀)はあえて許さず、心に甘んぜざる所にして甚だ非法なり。』と。

  指鬘は、これを聞いてびっくりしてしまった。 おろおろしながら、服を余分に着込んで立ち上がり、跪いて答えた、

  『夫人は母も同じであり、師は父も同じこと。 そのようなことを仰っては礼儀に背きます。 わたしにはできません、めっそうもない。』と。

師婦又曰。飢者與食渴給水漿有何非法。寒施溫衣熱惠清涼有何非法。裸露復之危厄救之有何非法

師婦、また曰く、『飢えたる者に食を与え、渇いたるに水漿(すいしょう、水と果汁)を給するに、何なる非法か有らんや。 寒きには温衣を施し、熱きには清涼を恵むに、何なる非法か有らんや。 裸露なるはこれを覆い、危厄なるはこれを救うに、何なる非法か有らんや。』と。

  師の婦人はまたこう言った、

  『飢えた者には食物をあたえ、渇いた者には水をあたえて、なぜ悪いの? 寒いときには暖かい衣を施し、熱いときには涼しい木陰を恵む、これのどこが悪いの? 裸の者には着る物をあたえ、災難に遭った者は救う、このどこがいけないの?』と。

指鬘答曰。赴趣患急寬濟窮頓實無非法。夫人母也。師之所重。隨婬著色慢犯非宜。如蛇蝘體服毒褒

指鬘、答えて曰く、『患(やまい)の急なるに赴趣(ふしゅ、おもむく)し、窮(きわまり)の頓(にわか)なるを済うは、実に非法無けれども、夫人は母なり。 師の重んずる所なり。 婬に随いて色に著し、慢(あなど)りて犯すは宜しきに非ず。 蛇、蝘(やもり)の毒の褒(ほう、外衣)を服(つ)くるが如し。』と。

  指鬘は答えた、

  『急な病人を助けたり、食べる物もない人を救うのは悪いことではありませんが、夫人は母であり、師が重んじていられます。 淫らなことをして色の虜になり、すき勝手に罪を犯して良いはずがございません。 蛇ややもりにでもなって、毒の衣を身に着けたほうが、まだましです。』と。

師室聞之即懷愧恨。歸自總滅裂衣裳。鬱金黃面佯愁委臥

師室、これを聞き、即ち愧恨(きこん、恥じと恨み)を懐きて帰り、自ら総て衣裳を滅裂して面を鬱金黄(うっこんこう、濃い黄色)にし、愁いを佯(いつわ)りて委(しお)れ臥しぬ。

  師の婦人は、これを聞き、恥をかかされたと恨みを懐き、室に帰ると、すべての衣裳を引き裂いて、鬱金(うっこん、ターメリック)のように黄色い顔で寝台に倒れ臥し、哀しみにしおたれたように装った。

 

師、鴦掘摩を怨んで、百人殺すことを命ず

時夫行還。問曰。何故有何不善。誰相嬲觸

時に夫、行き還りて問うて曰く、『何なる故に、何なる不善か有る。 誰か相い嬲(なぶ)り触るる。』と。

  おりしも、夫は、ゆっくり歩いて帰還し、こう訊ねた、

  『何があった? 何か善くないことが起こったのか? 誰か、お前に酷いことをしたのか?』と。

室人譖曰。君常所歎聰慧弟子。柔仁貞潔履行無闕。君旦不在來見牽掣。欲肆逆慢妾不順從。而被陵侮摧捽委頓。是以受辱不能自起

室人、譖(そし)りて曰く、『君の常に歎じたもう所の聡慧なる弟子、柔仁(にゅうにん、柔和)にして貞潔、履行して無欠なるもの、君、旦(あした、早朝)に在さざれば、来たりて見、牽掣(けんせい、だきつく)して、肆(ほしいまま)に逆らい慢(あなど)れり。 妾(われ)、順従ならざれば、陵侮(りょうぶ、ばかにする)を被り、摧砕(ざいさい、くじけ)して委頓(いとん、力がぬける)しぬ。 この辱めを受くるを以って、自ら起つことあたわず。』と。

  夫人は嘘をついて訴えた、

  『あなたが、常にお褒めになっている、あの聡明な弟子、柔和で礼儀ただしく、何事も完璧に為すという、あの弟子が悪いのです。 あなたが、朝早く留守なのをさいわい、ここに来て、わたくしに抱きつき自由にしようとしましたが、わたくしが従わなかったので馬鹿にされて、このざまです。 わたくしは力が抜けてしまいました。 こんな辱めを受けては起き上がる気力もありません。』と。

師聞悵然意懷盛怒。欲加楚罰掠治姦暴。慮之雄霸非力所伏。退欲靜默深惟不道。穢染閨閤上下失序。進退沈吟將如之何

師、聞いて悵然(ちょうねん、がっかりする)し、意に盛んなる怒りを懐き、楚罰(そばつ、杖で打つ)を加えて、姦暴(かんぼう、乱暴)を掠治(りょうじ、打ってこらしめる)せんと欲せども、この雄覇(ゆうは、力が強いこと)なること力の伏する所に非ざるを慮り、退いて静黙せんと欲し、深く不道を惟(おも)えり。 閨閤(けいこう、ねや)を穢染(えせん、汚す)して上下の序を失う。 進退し沈吟すらく、まさにこれを何んせんと。

  師は、これを聞いてがっかりしてしまい、心の中には怒りがわき起こった、

  『杖で打って罰を加えてやろうか、どのようにしてあの乱暴な性格をこらしめたらよかろう、しかしあの男は力で屈伏するような者ではない。 いやいやそんなことでは駄目だ、夫婦の寝室を汚し、上下の秩序を壊すようなやつだ、思いっきり酷い目に遇わせてやろう。』と、このように沈思黙考しながら辺りを行きつ戻りつしていた。

乃咿悒歎曰。當微改常倒教而教。教使殺人限至于百。各貫一指以鬘其額。殺人之罪罪莫大焉。不加楚酷必就辜戮。現受危沒沒墮地獄。不可釋置縱使滋甚也

乃ち咿悒(いおう、ぶつぶついう)して嘆じて曰く、『まさに微(ひそ)かに常を改め、教えを倒して教え、教えて人を百に至るを限りて殺さしめ、各、一指を貫き以ってその額に鬘(かざ)らしめん。 殺人の罪は、罪として莫大なり。 楚(つえ)の酷きを加えずとも、必ず辜戮(こりく、死罪)に就かしめ、現に危没(きぼつ、敗亡)を受け没して地獄に堕とさしめん。 釈(はな)ち置くべからず、縦(ほしいまま)に滋(ますま)す甚だしからしめん。』と。

  やがて、よいことを思いついて口の中でつぶやいた、

  『よし、奴には内緒で、常とは逆の事を教えてやろう。 人を殺させるのだ、百人殺せと言ってやろう。 一人殺すごとに、その一指を切り取って糸に連ね、額に垂して飾らせてやろう。 殺人の罪は、罪の中でも最も重いものだ。 杖で打って酷い目に遇わせなくても、必ず死罪になるだろう。 この世では拷問を受けて死罪になり、死ねば地獄に堕ちる。 誰がほっておくものか、いくらでも酷い目に遭わせてやるぞ。』と。

 

鴦掘摩、恐れ驚けども、命を奉じて九十九人を殺す

於是師命指鬘而告曰。卿之聰慧所學周密。升堂入室精生無首。唯之一藝未施行耳。指鬘進曰。願聞所告。師曰。欲速成者宜執利劍。晨於四衢躬殺百人。人取一指以為傅飾。至于日中使百指滿。設勤奉遵。則道德備矣。便以劍授

ここに於いて、師、指鬘に告げて曰く、『卿(けい、きみ)の聡慧なることと学びし所は周密(しゅうみつ、十分に行き渡る)なり、堂に升(のぼ)って室に入り、精(しょう、神霊)生じて首(しゅ、首席)無し。 ただ一芸のみ、未だ施行せざるのみ。』と。 指鬘、進んで曰く、『願わくは、告げたもう所を聞かん。』と。 師の曰く、『速やかに成さんと欲せば、宜しく利剣を執りて、晨(あした、夜明け)に四衢(しく、四つ辻)に於いて、躬(みずか)ら百人を殺し、人より一指を取り以って傅飾(ふしょく、飾り)と為し、日中(にっちゅう、正午)に至りて百指をして満てしめよ。 もし勤めて奉遵(ほうじゅん、遵守)すれば、則ち道徳(どうとく、道力)備わらん。』と、便ち剣を以って授く。

  そこで師は、指鬘にこう教えた、

  『君は、聡明であり、もう十分に学んだ。 わたしの学問を隅々まで理解して、君を超えるものは誰もいない。 ただ、一つのことを残すのみである。』と。

  指鬘は、一歩前にでるとこう言った、

  『どうか、それを教えてください。』と。

  師は言った、

  『速やかな方法がある。 利い剣を手に持って、夜が明けたら四つ辻のところで、百人を殺せ。 一人殺すごとに一本の指を切り取り、それを糸に通して首飾りのようにするのだ。 正午までに百本の指を集め、一本も欠かすでないぞ。 もし言われたとおりにすれば、君の学問の力は完璧である。』と。

  そして、剣を指鬘に授けた。

指鬘受劍聞告愕懼。心懷愁慼。設違教旨非孝弟子。順而行之畏陷失理。奉劍而退垂淚言曰。淨修梵行則梵志法。孝養父母則梵志法。修為眾善則梵志法。不邪正歸則梵志法。柔和仁惠則梵志法。弘慈四等則梵志。法得五神通則梵志法。超上梵天則梵志法。今暴伐殺非法失理。躊躇懊惱當如之何。即詣前樹四衢路側

指鬘、剣を受け、告(こく、教え)を聞いて愕懼(がくく、驚き怖れる)し、心に愁慼(しゅうせき、愁い)を懐けり。 もし教旨に違わば孝なる弟子には非ず、順じてこれを行わば失理に陥ることを畏る。 剣を奉げて退き、涙を垂して言いて曰く、『浄く梵行(ぼんぎょう、清浄の行い)を修むるが則ち梵志の法なり。 父母に孝養するが則ち梵志の法なり。 衆善を為すを修むるが則ち梵志の法なり。 邪なることをせず正に帰するが則ち梵志の法なり。 柔和にして仁恵(にんけい、慈愛)するが則ち梵志の法なり。 広く慈しんで四等(しとう、慈悲喜捨の四が無量なる心)なるが則ち梵志の法なり。 五神通(ごじんつう、天眼通、天耳通、他心通、宿命通、如意通)を得るが則ち梵志の法なり。 梵天に超え上るが則ち梵志の法なり。 今、暴伐(ぼうばつ、暴虐)に殺せば非法にして理を失わん。』と。 躊躇し懊悩すらく、『まさにこれを何んせん。』と。 即ち叢樹の四衢路の側らに詣(いた)る。

  指鬘は、剣を受けながら聞いた教えに、驚き怖れ、心を哀しみがみたした。

  もし教えに背けば従順な弟子とはいえず、言われるままにこれを行えば道理にもとることになる。

  剣を奉げ持って退き、涙を垂らして言った、

  『清浄な行いを修めるのが梵志の法なのに、父母に孝養するのが梵志の法なのに、衆善を修めるのが梵志の法なのに、邪悪につかず正義をつらぬくのが梵志の法なのに、柔和と慈愛が梵志の法なのに、広く人を慈しみ無量の慈悲喜捨の心を懐くのが梵志の法なのに、五神通(ごじんつう、天眼、天耳、他心、宿命、如意)を得るのが梵志の法なのに、梵天に上って生まれるのが梵志の法なのに、今、暴虐に殺人を犯せば法にも道理にも背いてしまう。』と。

  道々歩きながら、躊躇し懊悩した、

  『どうすればよいのだろう?』と。

  そうこうする中に、とうとう樹木がうっそうと生い茂った四つ辻の所に来てしまった。

 

  注:他本に従い、前樹を叢樹に改める。

悲怒激憤惡鬼助禍。耗亂其心瞋目噴吒。四顧遠視如鬼師子。如虎狼獸跳騰馳踊。色貌可畏行者四集。悉當趣城即奮長劍多所殺害。莫不迸怖無遺脫。去來往返而無覺者

悲怒し激憤して悪鬼禍(わざわい)を助け、その心を耗乱(こうらん、すり減らす)して目を瞋らせ、咤(た、たっ、舌打ちの音)と噴(ふ)いて四顧(しこ、四方)を遠く視ること鬼か師子の如く、虎狼か獣の如く跳騰(ちょうとう、躍り上がる)して馳踊(ちよう、踊り回る)し、色貌は畏るべし。 行く者、四集して悉く城に趣かんとすれば、即ち長剣を奮いて多く殺害さる。 迸(はし)りて怖れざるものなく、値うて遺脱(いだつ、取りこぼす)すること無く、去来往返すれど覚ゆる者無し。

  悲しみと怒りが激しく噴き上がれば、それを悪鬼が助けて禍を引き起す。

  心は消耗して乱れ狂い、目を瞋らせてたっと舌打ちをした。

  まるで鬼か師子のように遠く四方をにらみ、虎か狼のように飛び上がって踊り回る。

  そのようすはまことに畏るべきものがあった。

  行商人たちは、四方より集まって城に行こうとする。

  すばやく長剣を奮って、かたはしから殺害した。

  皆、走って怖れ逃げ回ったが、一人として取りこぼすことはなかった。

  四つ辻を往ったり来たりしても、それに気づくものとて無いのであった。

無數之眾稱怨悲叫。入趣王宮告有逆賊。遮截要路害人不少。唯願天王。為民除患

無数の衆、怨を称(とな)えて悲しみ叫び、王宮に入り趣いて告ぐらく、『逆賊有りて、要路を遮截(さえぎ)り、人を害すること少なからず。 ただ願わくは大王、民の為に患いを除きたまえ。』と。

  無数の人々が、怨の声を上げ、悲しみに叫んで、王宮に入って訴えた、

  『盗賊が、要路を遮り、多くの人を殺しています。 どうか、大王、民の患(うれい)を取り除いてください。』と。

 

  注:天王は、他本に従って大王に改める。

時諸比丘入城分衛見諸告者。恐怖如是。分衛還出飯食畢訖。往詣佛所稽首足下白世尊曰。見國人眾詣王宮門。告大逆賊名曰指鬘。手執利劍多所危害。體掌血路無行人

時に、諸の比丘、城に入りて分衛(ぶんね、乞食)し、諸の告ぐる者のかくの如く恐怖するを見、分衛より還りて飯を出して食しおわり、仏の所に往き詣でて足下に稽首(けいしゅ、頭を地に著けて礼する)し、世尊に白して曰さく、『国人の衆、王宮の門に詣りて、大逆賊を告ぐるを見き。 名を指鬘と曰いて手に利剣を執り、危害する所多し。 体と掌とを血に汚して路に行く人無しと。』と。

  その頃、諸の比丘は城に入って乞食していたが、人々が訴えたり恐怖したりしているのを見た。

  乞食より還り、飯を食いおわると、仏の所に詣で足下に稽首(けいしゅ、頭を地に着ける礼)して、世尊にこう言った、

  『国の人々が王宮の門のところで、大盗賊が出たと言っておるのを見ました。 名を指鬘といい、利い剣を手に持って、多くの人を殺し、身体と掌を血でよごして、路には通る人も無いということです。』と。

爾時世尊告諸比丘。汝等且止。吾往救之。佛從坐起尋到其所。道逢芻牧荷負載乘

その時、世尊、諸の比丘に告げたまわく、『汝等、しばらく止めよ。 吾、往きてこれを救わん。』と。 仏、坐より起ちたまいて、尋ねてその所に到り、道に芻牧(すうぼく、牧畜人)の荷負(かふ、荷を負う)し載乗(さいじょう、車に荷を積む)せるに逢う。

  それを聞いて世尊は、諸の比丘に告げられた、

  『解った。 お前たちは何もするな。 わたしが往ってこれを救おう。』と。

  仏は、坐より起つと、やがてそこに着かれた。

  道では、牧畜人が荷を背負ったり、車に積んだりしているのに逢われた。

佃居民眾白世尊曰。大聖所湊勿由斯路。前有逆賊四徼道斷。取殺狼藉唯改所從。又且獨步無侍衛故也

佃居(でんきょ、農民)の民衆、世尊に白して曰さく、『大聖(だいしょう、出家に対する尊称)、湊(おもむ)きたもう所はこの路に由るよりなし。 前には逆賊有りて四(よ)もに徼道(ぎょうどう、小道)を断ち、取りて殺して狼藉す。 ただ従う所を改めたまえ。 またしばらく独り歩きは侍衛(じえい、護衛)するもの無きが故なり。

  畑で働いている農民が、世尊に言った、

  『大聖(だいしょう、ご出家さま)、この道は一本道でございます。 行く手には盗賊がいて、四つ辻に立ちふさがり、取っては殺しているので、収執がつきません。 どうも他の事をなさった方がよろしうございます。 独りでお歩きになっては危のうございますから。』と。

世尊告曰。設使三界盡為寇虜吾不省錄。況一賊乎

世尊、告げて曰わく、『たとい三界尽くるとも寇(こう、群賊)の虜と為るはわが省録(しょうろく、記録)にあらず。 況や一の賊をや。』と。

  世尊は教えられた、

  『たとえ三界が尽きようとも、盗賊の群に虜にされることなど考えられない、ましてただ一人の賊のことなど。』と。

 

百人目に母を殺そうとして、仏に化導される

指鬘之母怪子不歸。時至不食懼必當飢。齎餉出城就而餉之日欲向中百指未滿。恐日移昳道業不具。欲還害母以充其數

指鬘の母、子の帰らざるを怪しみ、時至れるも食せざれば、懼らくは必ずまさに飢うべし、餉(しょう、弁当)を齎さんと城を出でて就き、これに餉(くら)わす。 日、中(ちゅう、中天)に向わんと欲せども、百指に未だ満てず。 日、移りて昳(かたむ)けど道業の具わらざるを恐れ、還って母を害し、以ってその数を充てんと欲す。

  指鬘の母は、子が帰らないので心配していた。

  食事どきになっても食べなければ、恐らく飢えてしまうだろうと思い、弁当をこしらえて城を出、そこに着いてこれを食わせた。

  日はやがて中天を指そうとしている、しかしまだ百本の指は集まっていない。

  日が傾いて中天を過ぎてしまえば、もう力は得られない。

  いま母を殺せば、その数を満たすことができる。

佛念指鬘若害母者。在不中止罪不可救。佛便忽然住立其前

仏の念いたまわく、『指鬘、もし母を害するに、在(とど)まりて中止せずんば、罪は救うべからず』と。 仏、便ち忽然と、その前に住まりて立ちたまえり。

  仏は、こう思われた、

  『指鬘は、母を殺そうとしている。 これを止めなければ、罪を救うことはできない。』と。

  不意に、指鬘の前に、仏がすっくと立たれた。

時鴦掘摩見佛捨母。如師子步往迎世尊。心自念言。十人百人見我馳迸不敢當也。吾常奮威縱橫自恣。況此沙門獨身而至。今我規圖必勦其命

時に、鴦掘摩、仏を見て母を捨て、師子の如く歩み往きて世尊を迎え、心に自ら念うて言わく、『十人百人なりとも、われを見て馳せ迸(はし)り、あえて当らざれば、われ常に威を奮いて縦横に自ら恣(ほしいまま)にせり。 況やこの沙門(しゃもん、出家)は独身にて至れり。 今、われ規図(きと、はかる)して、必ず、その命を勦(た)たん。』と。

  鴦掘摩は、その時、仏を見て母を捨てた。

  師子のように、歩み寄りながら世尊を迎え、心の中でこう言った、

  『十人も百人もが、わたしを見て逃げだし、あえて向ってこないので、わたしは常に縦横に剣を奮い、ほしいままにした。 見ればこの沙門はただ一人、今きっちりと、この命を取ってやろう。』と。

即執劍趣佛不能自前竭力奔走亦不能到則心念曰。我跳度江河解諸繫縛。投捭勇猛曾無匹敵。重關固塞無不開闔。而此沙門徐步裁動我走不及。殫盡威勢永不摩近。指鬘謂佛。沙門且止

即ち、剣を執りて仏に趣かんとすれども、自ら前(すす)むこと能わず。 力を竭(つ)くして奔走すれども、また到ること能わず。 則ち心に念いて曰く、『われ、江河を跳度(ちょうど、とびこえる)し、諸の繋縛を解き、投ぐるも捭(う)つも勇猛にして匹敵するもの無く、重関、固塞も開闔(かいこう、開閉)せざるもの無し。 しかれども、この沙門、徐に歩んで動きを裁(おさ)うるに、われ走れども及ばず、威勢を殫尽(たんじん、尽くす)すれど永く摩近(まこん、ちかづく)せず。』と。 指鬘、仏に謂わく、『沙門、しばらく止まれ。』と。

  指鬘は、剣を手に持って仏に近寄ろうとするができない。

  そこで、足に力をこめて駆け寄ろうとしたが、それもできない。

  指鬘は心の中でこう言った、

  『わたしは、江河を飛び越えることができ、ぐるぐるに縛られても解くことができる。 投げても打っても勇猛であり、かつて匹敵する者はなかった。 どんなに固く閉ざした門でさえ開くことができるのに。 しかし、この沙門(しゃもん、出家)は、ゆっくり歩くのみで動きまわるでもない。 なぜわたしが力を尽くして走っても近づくことさえできないのだろうか?』と。

  指鬘は、仏に言った、

  『沙門、しばらく止(とど)まれ。』と。

佛告逆賊。吾止已來其日久矣。但汝未止

仏、逆賊に告げたまわく、『われ、止まりしより、すでにこのかた、その日は久しきかな。 ただ汝は未だ止まらず。』と。

  仏は盗賊に教えられた、

  『わたしは、昔から止(とど)まったままであり、ただお前のみが止まっていない。』と。

時鴦掘摩遙以偈頌曰

 寂志語何謂 

 自云已停跱

 斯言何所趣 

 以我為不止

 今佛云何立 

 謂身行不住

 反以我若茲 

 願說解此義

時に、鴦掘摩、遥かに偈(げ、歌)を以って頌(たた)えて曰く、

 『寂志(じゃくし、沙門)の語れるは何の謂いぞ、

  自ら云わくすでに停跱(ちょうじ、止まる)すとは、

  これ、いづこに趣くと言えるや、

  以って、われ止まらずと為すは。

  今、仏、いかんが立てる、

  謂(おも)えらく、身の行いは住まらず、

  反って以って、われのここなるが若し、

  願わくは、この義を説解したまえ。』と。

  そこで鴦掘摩は、歌で仏を讃えた、

 『沙門よ語れそのわけを、すでに止(とど)まるそのわけを、

  どこにも往かぬこのわれを、止まらざるとなぜ言える。

  そこに立ちたる仏とて、身の行いは住(とど)まらず、

  反ってわれはここに居る、この義はいかん説きたまえ。』と。

於是世尊為指鬘頌偈。而告之曰

 指鬘聽佛住 

 世尊除君過

 汝走無智想 

 吾定爾不止

 吾安住三脫 

 樂法修梵行

 汝獨驅癡想 

 懷害今未止

 大聖無極慧 

 讚寂於四衢

 尋聞所說罪 

 聽采詠法義

ここに於いて、世尊、指鬘の為に偈を頌し、これに告げて曰わく、

 『指鬘よ聴け、仏の住まれるを、

  世尊は、君の過(とが)を除かん、

  なんじ、走れども智想無し、

  われ、なんじを定めて止まらしめん。

  われは、三脱(さんだつ、空無相無我)に安住し、

  法を楽しみて梵行(ぼんぎょう、清浄行)を修むれど、

  なんじは、独り癡想を駆り、

  害を懐きて、今未だに止まらず。

  大聖は、極まりの無き慧にて、

  寂(じゃく、涅槃)を四衢に讃え、

  尋ねて説かるる罪を聞き、

  聴き採りて、法義を詠ず。』と。

  世尊も歌で指鬘を讃え教えられた、

 『指鬘聴け住(とど)まる仏を、世尊のみ君を導く、

  ひた走る愚かな者を、われはいま止(とど)め定めん。

  われはただ三脱門(さんだつもん、空無相無我)に、安住し梵行(ぼんぎょう)修む、

  しかれどもお前はひとり、妄想し害して止(や)まず。

  大聖(だいしょう、仏)の無極(むごく)の智慧は、寂滅を四衢(しく)に讃えて、

  訊ね聞く説かるる罪は、聴きとりて法義を歌う。』と。

於是指鬘心即開悟。棄劍稽首自投于地。唯願世尊。恕我迷謬。興害集指念欲見道。僥賴慈化乞原罪舋。垂哀接濟得使出家受成就戒。佛則授之即為沙門

ここに於いて、指鬘、心に即ち開悟し、剣を棄てて稽首し、自らを地に投げて、『ただ、願わくは、世尊、わが迷謬(めいびゅう、迷い誤ること)を恕(ゆる)したまえ。 害を興して指を集め、念いて道を見んと欲せり。 慈化(じけ、慈悲にて化導する)を僥頼(ぎょうらい、願い頼む)し、原(もと)の罪の(きよ)まらんことを乞う。 哀を垂れて済(さい、救い)を接(つ)ぎ、出家して成就戒(じょうじゅかい、具足戒)を受くることを得しめたまえ。』と。 仏、則ちこれに授け、即ち沙門と為したまえり。

  これを聞いて、指鬘の心は開悟した。

  剣を棄てて稽首し、自ら身を地に投げて言った、

  『ただ世尊、どうかわたくしの迷いと誤ちを許してください。 人を殺して指を集めたのも、ただ学問を極めようとの一念だったのです。 慈悲の心で導いてください。 犯した罪を潔めてください。 哀れと思い、わたしを救うために出家させ、成就戒(じょうじゅかい、比丘の守るべき二百五十戒)を受けさせてください。』と。

  仏は、すぐに戒を授け、沙門とされた。

爾時世尊威神巍巍。智慧光明結加趺坐。賢者指鬘翼從左右。還至祇樹給孤獨園

その時、世尊、威神巍巍(ぎぎ、山のように高い)たり、智慧と光明ありて結跏趺坐(けっかふざ、足を組んで坐る)したもう。 賢者(けんじゃ、修行者)指鬘は左右に翼従(よくじゅう、鳥の翼のように従う)し、還って祇樹給孤獨園に至れり。

  そして、世尊が山のような威神を現わし、智慧の光明を耀かして結跏趺坐されると、賢者(けんじゃ、修行者)指鬘は、左右の翼のようにつき従って祇樹給孤獨園に還りついた。

指鬘蒙化眾祐所信。諸尊弟子亦共攝持。其族姓子。下鬚髮者則被法服。以家之信捨家為道。具足究竟無上梵行。得六通證生死已斷。稱舉淨德所作已辦。解名色本即得應真

指鬘、化を蒙り、衆祐(しゅゆう、世尊)の信ずる所なれば、諸の尊き弟子も、また共に摂持(しょうじ、接待)せり。 それ、族姓子(ぞくしょうし、如来の家族、印度の四姓を超えた最勝の姓)は、鬚髪を下ろせば則ち法服を被、家の信(しん、信証)を以って家を捨てて道を為し、無上の梵行を具足して究竟し、六通(ろくつう、天眼通、天耳通、他心通、宿命通、如意通、漏尽通)を得て生死のすでに断ちたるを証し、浄徳を称挙して作す所はすでに辨(べん、明らかにする)じ、名色(みょうしき、物)の本を解いて即ち真に応ずるものを得たり。

  指鬘は化導を蒙り、世尊に信じられたので、諸の尊い弟子たちも、仲間として迎え入れた。

  そもそも、族姓子(ぞくしょうし、釈迦の弟子たち)とは、髪と鬚とを剃り、法服を被て、両親の承諾を得たならば家を捨てて修行し、無上の梵行を修めて極め、六通(ろくつう、天眼、天耳、他心、宿命、如意、漏尽)を得て生死を断ったことを確証し、浄らかな徳(とく、善行を行う力)を奮って作さなければならない事はすべて作し、仮の事物の本性を理解して真実を知るものである。

 

波斯匿王、鴦掘摩を許して供養を給す

時王波私匿(晉號和悅)。與四部眾象馬步騎。嚴駕出征欲討穢逆。其身疲弊而被塵土。過詣佛所稽首足下

時に、王波斯匿(はしのく、晋に和悦と号す)、四部の衆、象、馬、歩(ほ、歩兵)、騎(き、騎兵)と与(とも)に、駕(が、車馬)を厳(いまし、厳命)めて出で征(ゆ)き、穢逆(えぎゃく、賊)を討たんと欲す。 その身は疲弊して塵土に被われ、過(す、途中たちよる)ぎて、仏の所に詣で足下に稽首す。

  その頃、王の波斯匿(はしのく、和悦と訳す)は、象、馬、歩兵、騎兵の四部の衆を率い、車馬を装備して、盗賊を討つために城を出た。 身は疲れて塵土に被われたので、途中仏の所に立ち寄って足下に稽首した。

佛問。王曰。從何所來身被塵土

仏、王に問うて曰わく、『何所より来たまいてか、身は塵土に被わる?』

  仏は王に問われた、

  『どこを通って来られて、そのように塵土に被われたのですか?』と。

王白佛言。唯然世尊。有大逆賊名鴦掘摩。兇暴懷害斷四徼道。手執嚴刃傷殺人民。今故匡勒四部之眾欲出討捕

王、仏に白して言わく、『ただ、世尊、大逆賊有るのみ。 名を鴦掘摩といい、凶暴にして害を懐き、四(よ)もに徼道(ぎょうどう、小道)を断ち、手に厳刀を執りて人民を傷つけ殺せり。 今、故に勒(ろく、象馬の装具)を四部の衆に匡(ただ)し、出でて討ち捕らえんと欲す。』と。

  王は仏に言った、

  『ただ、こういうことです、世尊、大盗賊が出ました。 名を鴦掘摩といい、凶暴で人を殺すために、四つ辻で待ち伏せし、利い剣を手に持って人民を傷つけ殺しているのです。 今は、そのために四部の衆を装備して、出て行って討ち捕らえようと思うのです。』と。

是時指鬘在於會中。去佛不遠。佛告王曰。指鬘在此。已除鬚髮今為比丘。本與云何

この時、指鬘は会中に在りて、仏を去ること遠からず。 仏、王に告げて曰わく、『指鬘は、ここに在り。 すでに鬚髪を除き、今は比丘と為れり。 本と何ん?』と。

  この時、指鬘は皆の中でも仏の近くにいた。

  仏は王に教えられた、

  『指鬘ならここに居ります。 すでに髪と鬚とを剃って、今は比丘となりました。 本と比べてどう見えますか?』と。

王白佛言。已志于道無如之何。當盡形壽給其衣食臥起床坐病瘦醫藥。又問世尊。唯然大聖。凶害逆人焉得至道履行寂義乎。今為安在

王、仏に白して言わく、『すでに道に志せば、何んともすること無し。 まさに形寿を尽くして、その衣食、臥起の床座、病痩の医薬を給すべし。』と。 また世尊に問わく、『ただしかり、大聖、凶害(きょうがい、凶悪)なる逆人(ぎゃくにん、賊)、焉(いかん)が至道(しどう、最高の道)を得て寂義(じゃくぎ、涅槃の道)を履み行き、今、安在(あんざい、安らかに暮す)を為すや。』と。

  王は仏に言った、

  『すでに道に志しているならば、どうすることもありません。 当然、その一生の間、衣食、臥具、床座、医薬を給しましょう。』と。

  そして、また世尊に問うた、

  『ただどういうことでしょうか、大聖? 凶悪な盗賊が、いったいどうして無上の道を得て、涅槃の道を履み行くことができ、今、安らかに暮しているのでしょうか?』と。

佛告王曰。近在斯坐。王遙見之。心即懷懼衣毛為豎

仏、王に告げて曰わく、『近くに在りてここに坐したまえ。』と。 王、遥かにこれを見て、心に即ち懼れを懐き、衣毛、為に竪(よだ)てり。

  仏は王に教えられた、

  『近くに寄って坐ってください。』と。

  王は、遠くからこれを見て、心に恐れを懐き、身体中のうぶ毛が逆立った。

佛言。大王。莫恐莫。今以仁賢無復逆意

仏、言わく、『大王、恐るることなかれ、(おどろ)くことなかれ。 今は仁賢を以って、また逆意すること無し。』と。

  仏は言われた、

  『大王、何も恐れることはありません。 何も驚くこともありません。 今は、慈悲も智慧もあり、もう二度と人を殺すような心は起こらないのです。』と。

王造禮之謂曰。賢者。是指鬘乎。答曰。是也

王、これに礼を造(な)し、謂いて言わく、『賢者はこれ指鬘なるや。』と。 答えて曰く、『是(ぜ、はい)なり。』

  王は指鬘に礼をして言った、

  『修行者どの、あなたは指鬘ですか?』と。

  答えて言った、

  『はい。』

王又問曰。仁姓為何。曰。奇角氏

王、また問うて曰く、『仁(なんじ)が姓は、これ何ん?』と。 曰く、『奇角氏(きかくし)なり。』と。

  王はまた問うた、

  『あなたの姓は何ですか?』

  答えた、

  『奇角氏(きかくし)です。』

又問。何謂奇角氏。曰父本姓

また問わく、『何なるをか奇角氏と謂う。』と。 曰く、『父の本姓なり。』と。

  また問うた、

  『何を奇角氏と言うのですか?』

  答えた、

  『父の本姓です。』

王曰。唯奇角子受吾供養。衣食床臥病瘦醫藥各盡形壽。即然所供。王以獲許稽首辭還。歎世尊曰。能調諸不調。能成諸未成。安住垂大慈。無所不開道。消伏患逆使充法會。亦令[-+]庶逮斯調定。我國多事意欲請退

王曰く、『唯(ゆい、どうか)奇角氏、わが供養を受けよ。 衣食、床臥、病痩の医薬、各、形寿を尽くして、即ちしかく供する所なり。』と。 王、獲(かく、信頼を得る)を以って許し、稽首して辞して還るに、世尊を歎じて曰く、『よく諸の調えざるを調え、よく諸の未だ成らざるを成し、安住して大慈を垂れ、開かざる所の道無く、患逆(げんぎゃく、賊)を消伏して法会を充てしめ、また黎庶(れいしょ、庶民)をして、これに逮(およ)ばしめて調え定めたもう。 わが国は多事なれば、意に退くことを請わんと欲す。』と。

  王は言った、

  『どうか奇角氏、わたしの供養を受けてください。 衣食、臥具、床座、医薬を一生の間、供しましょう。』と。

  王は信頼して許した。 仏に稽首して去りぎわに、世尊を嘆じて言った、

  『よく諸の調伏(ちょうぶく、身心の調和)しない者たちを調伏し、よく諸の未だ成就しない者たちを成就し、安住して大慈を垂れ、開かない教えの道は無く、盗賊を調伏して弟子の数に加え、庶民の規範となって調伏して心を定められた。 わが国は多事であり、心がせくのでこれでおいとまします。』と。

佛告。便去從志所奉。王禮佛足稽首而歸

仏、告げたまわく、『便ち、志の奉ずる所に従って去りたまえ。』と。 王、仏の足に礼し稽首して帰りぬ。

  仏は言われた、

  『どうぞ、なさねばならない事のために、お帰りください。』と。

  王は仏の足に礼し、稽首して帰った。

 

鴦掘摩、妊婦を助けて産ましめる

爾時賢者指鬘。處於閑居服五納衣。明旦持缽入舍衛城普行分衛。見有諸家懷妊女人。月滿產難心歸怙之。問指鬘曰。欲何至趣唯蒙救濟

その時、賢者指鬘、閑居に於いて処せり。 五衲衣(ごのうえ、比丘の衣)を服(つ)けて、明旦(みょうたん、夜明け)に鉢を持して舎衛城に入り、普く分衛(ぶんね、乞食)を行じ、諸(ここ)の家に懐妊せる女人有るを見る。 月満てども産むこと難く、心に帰してこれを怙(たの)み、指鬘に問うて曰く、『何に至り趣かんと欲す、ただ救済を蒙らせたまえ。』と。

  その頃、修行者の指鬘は、静かな処に一人で暮らしていた。

  五枚の衣を着て、夜明けに鉢を手に持って舎衛城に入り、一軒一軒乞食して歩いていると、その家に懐妊した女人がいて、月が満ちたのにまだ産まれないのを見た。

  この女人は、心細さから指鬘になついて頼りにし、問うて言った、

  『どこに行こうとなさっているのですか? どうかお救いください。』と。

指鬘得供出城食畢。澡竟去器獨坐加敬。詣佛稽首白世尊曰。我朝晨旦著衣持缽入城分衛。見有女人臨月欲產。產難恐懼求見救護

指鬘、供(く、供養)を得て城を出で、食しおわりて澡(すす)ぎおわり、独り坐して敬(けい、感謝の気持ち)を加え、仏に詣でて稽首し、世尊に白して曰さく、『われ、朝、晨旦(しんたん、早朝)に衣を著けて鉢を持し、城に入りて分衛せり。 女人有りて臨月なるを見しに、産まんと欲すれど産むこと難く、恐懼(きょうく、恐れる)して救護せられんことを求めたり。』と。

  指鬘は、供養を得て城を出、食べおわった。 口を漱ぎおわると、ひとり坐って感謝の気持ちを懐いた。

  そして仏の所に詣でて稽首して言った、

  『わたしは、早朝に衣を著け、鉢を手に持って城に入り、乞食していると、ある女人が臨月なのに産まれず、恐怖で、わたくしに救護を求めるのを見ました。』と。

佛告指鬘。汝便速往謂女人曰。如指鬘言至誠不虛。從生已來未嘗殺生。審如是者。姊當尋生安隱無患

仏、指鬘に告げたまわく、『なんじ、便ち速やかに往きて女人に謂いて、『指鬘の言うが如きは至誠にして虚しからず。 生じてより已来、未だかつて殺生せず。 かくの如きを審らかにせば、姉(し、呼びかけの敬称、奥さん)よ、まさに尋(つい、間もなく)で生み、安穏にして患無かるべし。』と曰え。』と。

  仏は指鬘に教えられた、――お前はすぐに往き、その女人にこう言え、

  『指鬘の言葉は真心よりでて嘘はありません。 生まれて以来一度も殺生したことはないのです。 これを本当だと思えば、姉(し、敬称)よ、必ず間もなく生まれ、安穏で何の心配もありません。』と。

指鬘白佛。我作眾罪不可稱計。發九十九人一不滿百。而發此言豈非兩舌乎

指鬘、仏に白さく、『われ、衆罪を作せること称計(しょうけ、数える)すべからず。 九十九人を発(おく)りて一、百に満てざりたるに、この言を発して、あに両舌なるに非ずや。』と。

  指鬘は仏に言った、

  『わたくしは、数え切れないほどの罪を犯しています。 九十九人を殺して百人には一人不足するだけでした。 それなのに、このようなことを言って、どうして両舌(りょうぜつ、嘘つき)の罪に堕ちないのですか?』と。

世尊告曰。前生異世今生不同。是則至誠不為妄語。如斯用時救彼女厄

世尊告げて曰わく、『前の生は世を異にし、今の生と同じからず。 これ則ち至誠にして妄語と為(せ)ず。 かくの如く時を用いて彼の女の厄を救え。』と。

  世尊は教えられた、

  『前の生(しょう、生涯)とは世を異にして、今の生と同じではない。 教えたように言っても、これで嘘とは為らないのだ。 このように時の違いを用いて彼の女の災難を救え。』と。

即奉聖旨往到女所。如佛言曰。如我至誠所言不虛。從生以來未曾殺生。審如是者。當令大姊安隱在產。所言未竟女尋娩軀兒亦獲安

即ち、聖旨を奉じて往きて女の所に到り、仏の言の如く、『わが至誠に言う所の如きは虚しからず。 生じてより以来、未だかつて殺生せず。 かくの如きを審らかにせば、まさに大姉(だいし、女性に対する敬称)をして安穏に産(所)に在らしむべし。』と曰い、言う所の未だおわらざるに、ついで躯(み)を娩(う)み、児もまた安きを獲(え)たり。

  仏の教えを奉じて、女人の所に往き、仏に言われたようにこう言った、

  『わたしの真心からの言葉に嘘はありません。 生まれて以来一度も殺生していないのです。 これを本当だと思えば、大姉(だいし、敬称)は安穏に産むことができます。』と。

  この言葉がおわらない中に、女人はまもなく分娩し、産まれた赤子もまた安穏であった。

 

子供に石を投げられ、体を傷つける

爾時指鬘入舍衛城。群小童黻見之分衛。或瓦石擲或以箭射。或刀斫刺或杖捶擊

その時、指鬘、舎衛城に入れり。 群小の童、これが分衛するを瞥見し、或は瓦石を擲(なげう)ち、或は箭(や)を以って射、或は刀で斫(き)りて刺し、或は杖で捶撃(すいげき、打つ)す。

  ある時、指鬘は舎衛城に入った。 群小の童は、これが乞食しているのを窺い見ると、或る者は瓦や石を投げつけ、或る者は箭(や)を射、或る者は刀で斬りつけ、或る者は杖で打った。

賢者指鬘。破頭傷體衣服破裂還詣佛所稽首足下起於佛前頌曰

 我前本為賊 

 指鬘名普聞

 大淵以枯竭 

 則歸命正覺

 斯以成忍辱 

 逮佛開化眾

 聽經常以時 

 是故無躓礙

 今已歸命佛 

 受真諦法戒

 逮得三通達 

 則順諸佛教

 昔暴懷兇毒 

 多傷眾類命

 雖古多所危 

 吾今名無害

 身口所犯過 

 志懷殺害心

 其不危他餘 

 未曾遭諸厄

 又復無過去 

 持其法寂然

 應受凶暴名 

 自調成仁賢

 以才一調定 

 如鉤調諸象

 如來成就我 

 無劍亦無杖

 其前為放逸 

 然後能自制

 彼明炤於世 

 由日出於雲

 假使犯眾惡 

 不斷眾善德

 彼明炤於世 

 由雲消日出

 若新學比丘 

 勤修於佛教

 其明炤於世 

 如月盛滿時

 其有犯眾罪 

 當歸於惡道

 不復難諸患 

 服食無所著

 亦不求於生 

 未曾會德死

 唯須待時日 

 心常志於定

 如是鴦掘摩 

 已得成羅漢

 在佛世尊前 

 口自頌斯偈

賢者指鬘は、頭を破り、体を傷つけ、衣服は破れ裂け、還りて仏の所に詣でて足下に稽首し、仏の前に於いて起ち、頌(たた)えて曰く、

 『わが前は本、賊と為り、

  指鬘の名は、普く聞こゆ、

  大淵、枯渇せるを以って、

  則ち、正覚に帰命せり。

  ここを以って、忍辱を成し、

  仏の、衆を開化したもうに逮(およ)んで、

  経を聴くにも、常に時を以ってすれば、

  この故に、躓(つまづ)き礙(とどこお)ること無し。

  今、すでに仏に帰命して、

  真諦の法と戒とを受け、

  三通達(宿命、天眼、漏尽)を逮得(たいとく、得る)し、

  則ち、諸仏の教えに順ぜり。

  昔、暴にして凶毒を懐き、

  多く、衆類の命を傷つけ、

  古(むかし)、多くに危(おそ)れらるといえども、

  わが今を、無害と名づく。

  身口(しんく)の犯す所を過ち、

  志して、殺害心を懐き、

  それ、他の余を危(おそ)れずして、

  未だ、かつて諸厄に遭わず。

  また、また過去を無くして、

  その法を、持ちて寂然とし、

  まさに、凶暴の名を受けて、

  自ら、調えて仁賢と成るべし。

  才を以って、一(もっぱら)調へ定むるは、

  鉤(かぎ)にて、諸象を調うが如く、

  如来、われを成就したまえるに、

  剣無く、また杖も無し。

  その前には、放逸たれど、

  然る後には、よく自制する、

  かの明かりの、世を炤(てら)すこと、

  なお、日の雲に出づるがごとし。

  たとい、衆悪を犯せども、

  衆善の徳を断たず、

  かの明かりの、世を炤(てら)すこと、

  なお、雲消えて日出づるがごとし。

  新学の比丘の若(ごと)く、

  勤めて、仏の教えに於いて修む、

  その明かりの、世を炤すこと、

  月の盛満する時の如し。

  それに、衆罪を犯せること有り、

  まさに、悪道に帰すべきを、

  また、諸の患を難(わずらわ)せず、

  食を服して、著する所無し。

  また、生に於いて求めず、

  未だ、かつて死を会徳(えとく、会得)せず、

  ただ、時日を待つを須(もち)いて、

  心は、常に定に志す。

  かくの如き鴦掘摩、

  すでに、羅漢を成ずるを得たり、

  仏世尊の前に在りて、

  口にて、自らこの偈を頌(たた)う。』と。

  賢者指鬘は、頭を破り、身体に傷をつけ、衣服はぼろぼろに裂けた。 このようすで還り、仏の所に詣でて足下に稽首し、仏の前に起つと、歌に讃えてこう言った、

 『われはもと盗賊たりき、指鬘の名あまねく聞こゆ、

  暗き淵(ふち)たちまち消えて、正覚(しょうがく、仏)に今は帰命す。

  そのために忍辱(にんにく、忍耐)を成し、法会にも今ぞ列なる、

  経を聴き時を正して、この故に道理通ずる。

  帰命する仏はここに、真諦(しんたい、真理)と比丘戒を受け、

  三明(さんみょう、宿命、天眼、漏尽)を今ここに得て、仏法はさらに違えず。

  昔より殺毒(せつどく、殺生の毒)懐き、傷つけし命は多く、

  昔には恐れらるれど、わが今を無害と名づく。

  身口(しんく)にて犯す過ち、心には懐く殺害(せつがい)、

  それでいて何も怖れず、諸厄にぞいまだ遭わざる。

  今さらに過去を無くして、寂然と戒を持(たも)てり、

  凶暴の名こそかくあれ、自らの慈悲を調(ととの)う。

  才あれば易(やす)く調え、鉤(かぎ)をもて象ならすごと、

  如来のみわれを成就し、剣(けん)無くてまた杖も無し。

  以前には放逸たれど、その後はよく自制して、

  世を照らす明かりあびれば、雲間より日の出づるごと。

  数知れぬ罪を犯せど、善根(ぜんこん、善行の本)をもし絶やさずば、

  世を照らす明かりをあびて、雲消えし日の出づるごと。

  初めての法聴く比丘は、慎んで教えにはげむ、

  世を照らす明かりあびれば、月満ちて盛んなるごと。

  ある者は罪を犯して、悪道(あくどう、地獄、餓鬼、畜生)に堕つる定めを、

  悩みこそいづくにか失(う)せ、食(じき)すれど何も求めず。

  活くるをもさらに求めず、死ぬるさえかつて怯えず、

  年月はひとり過ぎゆき、心根(こころね)はすでに動かず。

  鴦掘摩これぞわれなり、阿羅漢はすでに成じて、

  仏前にかかる歌もて、自らを誉めて讃えぬ。』と。

佛說如是。賢者指鬘及諸比丘眾。聞經歡喜奉行

佛說鴦掘摩經

仏、かくの如きを説きたまえば、賢者指鬘、および諸の比丘衆、経を聞いて歓喜し奉行せり。

仏説鴦掘摩経

  仏は、このように説かれた。

  賢者指鬘および諸の比丘衆は

    この経を聞いて歓喜して言われるままに行った。

 

  仏説鴦掘摩経

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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