2024年元旦
久方の
  曇なき天(あめ)のわがこころ
  願へることのなきぞをかしき

初春の
  光をあびて門口に
  たたずむ我れは我れにあらずも
つばめ    
「戦友」 真下飛泉作詞・三善和気作曲

ここは御国を何百里 離れて遠き満洲の
赤い夕日に照らされて 友は野末の石の下

思えばかなし昨日まで 真先かけて突進し
敵を散々懲らしたる 勇士はここに眠れるか

ああ戦の最中に 隣りに居ったこの友の
俄(にわ)かにはたと倒れしを 我はおもわず駈け寄って

軍律きびしい中なれど これが見捨てて置かりょうか
「しっかりせよ」と抱き起し 仮繃帯も弾丸(たま)の中

折から起る突貫に 友はようよう顔あげて
「お国の為だかまわずに 後(おく)れてくれな」と目に涙

あとに心は残れども 残しちゃならぬこの体
「それじゃ行くよ」と別れたが 永(なが)の別れとなったのか

戦すんで日が暮れて さがしにもどる心では
どうぞ生きて居てくれよ ものなと言えと願うたに

空しく冷えて魂は 故郷へ帰ったポケットに 
時計ばかりがコチコチと 時を刻むも情(なさけ)なや

思えば去年船出して お国が見えずなった時
玄海灘(げんかいなだ)で手を握り 名を名乗ったが始めにて

それより後(のち)は一本の 煙草(たばこ)も二人わけてのみ
ついた手紙も見せ合(お)うて 身の上ばなしくりかえし

肩を抱いては口ぐせに どうせ命はないものよ
死んだら骨(こつ)を頼むぞと 言いかわしたる二人仲

思いもよらず我一人 不思議に命ながらえて
赤い夕日の満洲に 友の塚穴掘ろうとは

くまなく晴れた月今宵 心しみじみ筆とって
友の最期をこまごまと 親御へ送るこの手紙

筆の運びはつたないが 行燈(あんど)のかげで親達の
読まるる心おもいやり 思わずおとす一雫(ひとしずく)


今月の万年筆は、「モンテグラッパ・エクストラ( Montegrappa EXTRA )です。
品の良いギリシャ風の模様を透かし彫りした幅広のキャップリング、先端にローラーを付したクリップと同軸と尻軸との間のリングは皆銀製であり、深緑の樹脂と相性はとても良いように思えます。

全体の形状はなだらかな樽型であり、これも品の良さにあずかっているように思えます。
大きさはやや大きめで、「モンブラン 149」や、「ペリカン M1000」等と同じくらいのサイズです。
キャップを開けてみると、「モンブラン 149」や「ペリカン M1000」と同じくらい大きなペン先が、他の金属部分と同じく銀製のグリップぎりぎりまで深く殖えられており、やや特異な様相を呈しています。

銀製のグリップは、ステンレス・スチールやクローム・メッキのように滑ったり、ヌルヌルしたりすることもなく、指先が乾いていようと、湿っていようと心地よく、滑ったり、ヌルヌルしたりすることもなく、また冬期にも指先を冷やすこともなく、万年筆の素材としては理想的であるように思います。

ペン先は18Kの金ペンでやや柔らかく、書き味の品位はやはり「モンブラン 149」や「ペリカン M1000」と同じぐらいか、それよりも上位に属するのではないかと思います。

万年筆:Montegurappa EXTRA, nib-size:Fine
インク:Taccia "Navy-blue Jeans"
原稿用紙:
色:茶色
テーマ:冬
モットー:「此は是れ民の喜んで住する所なり」
( This is where the people want to live. )


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大中臣能宣:
  みかき守り 衛士のたく火の
  夜は燃え 晝は消えつつ物をこそ思へ
大中臣 能宣:921(延喜21)年ー991(正暦2)年。
神祇大副・大中臣頼基の子。正四位下・神祇大副。
三十六歌仙の一人。勅撰和歌集に124首。

句釈:「みかき守り(御垣守)/衛士(ゑじ)」は宮中の門を警固する武人。
「物をこそ思へ」は物事/人を思うを”こそ”と”思ふ”の已然形との係り結びで強調。

意釈:「宮中の門を警護する衛士のたく火のように」、
「わたしの物思いは昼には消え去ったかのように思われる」が、
「夜になるとさかんに燃え上がる」。

評釈:≪詩経≫周南・關雎(けんしょ)ー 部分、
「窈窕淑女 寤寐求之 良家の娘は若くてしとやか、寝ても覚めても恋い焦がれ
「求之不得 寤寐思服 色よき返事を得られぬままに、寝ても覚めてもいや増す思い
「悠哉悠哉 輾轉反側 眠れぬままに長き夜を、寝返り打ちつつ思いはやまぬ。」
隠れた名歌というところか。


藤原義孝:
  君が為 惜しからざりし 命さへ
  長くもがなと 思ひけるかな
藤原義孝:954(天暦8)年ー974(天延2)年。没時21歳。
摂政太政大臣・藤原伊尹の三男。正五位下、右近衛少将。
三十六歌仙の一。勅撰和歌集に12首。

句釈:「君が為」は、「お前のために」。
「長くもがな」は、「もがな」は「願望の叶わぬことを知りながらなお願う」。
「思いけるかな」は、「思っていたのだよ」。

意釈:「日頃、命の長きことは望んではおらぬ」が、
「お前の為には、つい長くあって欲しいものだと思っているのだよ」。

評釈:平安時代の女性が世に出るには男性の後ろ盾が必要であった。
己の亡き後の妻の行く末を思い、ほとばしり出た言葉に嘘偽りはない。
名歌であろう。

≪干支まんじゅう「たつ」≫ 俵屋吉富
では今月はここまで、また来月お会いしましょう、それまでご機嫌よう。
  (2024年元旦  おわり)

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