Sheaffer's "Targa"
パラダイムシフト( paradigm shift )は、老人も過去に何度か遭遇している、
  1. ラジオ/テレビが真空管からトランジスターに変わった。
  2. 時計が機械式からクォーツに変わった。
  3. LP盤/テープからCDに変わった。
  4. カメラがフィルムからデジタルに変わった。
  5. 算盤/ノートからパソコンに変わった。
  6. 固定電話から携帯、携帯からスマホに変わった。
そして今、自動車が内燃機関/ガソリン・ディーゼルから、バッテリー+モーター/電気に取って変わろうとしている。

パラダイムシフトが起ると、新しいものが普通になり、旧いものは生き残れないか、趣味の世界にとどまることになります。老人は一時オーディオに凝っていましたので、それを思い返してみますと、オーディオというものには、レコード盤を回すためのターン・テーブルがあり、音溝から音波を拾うためのピックアップがあり、ピックアップを支えるアームがあり、ピックアップが音波を微細な電気信号に変換すると、トランスがその電圧を上げて電線に流し、コントロール・アンプが波形を整え、パワー・アンプが電圧の変化を電流の変化に変えてスピーカーを駆動するのですが、そのあらゆる段階において高級と低級とがあり、また相性の問題があり、安価な装置を高価なものに置き換えると音の質が高級になり、また通常は同時に新たな不都合が生じ、高価なアンプを組み込んで、しばらく良好な音質で聞いていたかと思えば、ピックアップをもっと高級なものに変えれば、さらに良い音で聞くことができるのではないかと欲が出て、終りのない泥沼に入り込むのであります。

しかしパラダイムシフトが起って、レコード時代からCD時代に変わりますと、録音された音の信号が非常に明瞭/明確でありますので、普及品のアンプや、スピーカーであっても、良心的に作られた機器ならば、レコードからは望んでも得られないような、満足度の高い音を聞くことができますので、高級なアンプやスピーカーで音を化粧する必要がなくなり、音楽を聞くだけならば、もはや普及品で十分、これ以上は必要がなくなりまして、やがて高級オーディオという趣味の世界は消滅してしまったのです。 カメラ/写真の世界でもまったく同じことが起りました。 誰が撮っても奇麗に写りますので、スマホのカメラで十分、それ以上は必要がないというのが現状であり、それがパラダイムシフトなのです。

パラダイムシフトは、その始まりから終りまで10年を要しないのは、押入れに眠ったままのライカ、ハッセルブラッド、1000枚のLpが物語っています。 自動車/バス/トラック等は実用品であるが故に簡単に捨て去るわけにはいかないだろうとは見ていますが、人が思っているほど緩やかな変化ではなく、なにか加速度的な動きが加わるのではないかと思います。

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トヨタ自動車の豊田章男社長が勇退して後進に道を譲るという記事が1月27日朝刊の第一面を写真付きで紙上を賑わしておりましたが、老人はこの記事を見て、「当然だろう」、「よく決断したな」、「遅すぎだよ」というような言葉が胸中をよぎっておりました。
Twitterで見てみますと、日本人の感覚からすると、「長年ご苦労さまでした」、「トヨタを世界一の会社にしてくれて有難う」、「水素社会が待ち遠しいです」、ということになるのでしょうか。概ね好意的な意見が多いように見受けられましたが、外人の感覚は違います、「日本の電動化を遅らせた」、「電動化の波に乗れず、会社を投げ出した」、「水素自動車のような無理筋に足をつっこんだ」、「これでやっと日本も電動化を始めることができる」というような意見が目立ち、その業績を評価する意見はほとんど見られません。 ひいき目に見るか、見ないかの違いではないでしょうか。

1月30日夕刊の第一面には「トヨタ 世界販売1位 3年連続、22年956万台」という見出しが踊っています。 それがそんなに目出度いことでしょうか。 登山する山が高ければ高いほど、下山は困難を極めます。 物質は質量が大きければ大きいほど方向転換に要するエネルギーが必要になります。 下山や方向転換に関して適正な見通しは立っているのでしょうか。

今後、トヨタは「モビリティカンパニー」を目指すそうですが、かつての「ウーブンシティー」同様、意味のない空虚な言葉のように聞こえます。 「モビリティー( mobility )」は、<Oxford Advanced Learner's Dictionary>では「ある場所、社会的階級、仕事から別の場所等に楽に移動する能力( The ability to move easily from one place, social class, or job to another. )」とか、「楽に移動/旅行する能力( The ability to move or travel around easily. )」と定義づけています。要するに上記の能力を販売する会社ということでしょうか。具体的イメージの欠落した、ただの言葉としか受け取れません。 耳慣れない英語まがいのカタカナ語より、普通の日本語で表現する努力が求められてはいませんか。 

次期社長になる人は「若さ(53歳)」と、「クルマ好き」の二点で択ばれたということですが、「クルマ好き」は、「クルマ」から「モビリティー」に好み変化させる必要があります。変革の時、最も社長に必要な資質は、「誰よりも明晰な頭脳」、「最高度に優れた判断力」、「疾風怒濤の決断力」、「逆境に強い豪胆さ」等ではないでしょうか。今挙げた事項は、どれもテスラのCEOであるイーロン・マスクを思い浮かべて考えたものですが、「若さ」や、「クルマ好き」は見当外れのように思えます。 「由良の戸を渡る舟人舵を絶え、行方も知らぬ」ということにならねば良いと思うのですが。

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トヨタの社長交代の発表に先立ち、1月25日にはテスラの決算発表がありました。投資家の危惧をよそに、さまざまな危惧材料を抱えながらも業績はまずまず堅調であり、生産台数も2年ごとに2倍(毎年1.4倍)の目標値を達成したかのように見えます。

トヨタ社長交代の記事を追っていたら、このような記事が上位に登っていました――「トヨタはテスラより7倍多くの台数を売りながら、テスラの1台当りの利益はトヨタの8倍である」。

通常、工業製品には数の原理を適用することができますので、生産量が多ければ多いほど利益が多くなるはずですが、この場合、なぜこの原理が当てはまらないのか、自動車会社の社長たるもの深刻に考えねばなりません。

そして日本語の記事を探していたら、次ぎのような記事に行き当たりました。日本人にも心配している人はいるのですね。

そして、外人の見方は、概ね次ぎの通りです。

Tesla (TSLA) earns 8 times more per car than Toyota : Fred Lambert
<Nov 8 2022 - 7:01 am PT Electrek>
Tesla (TSLA) is now earning eight times more per car than Toyota, and they are starting to notice back in Japan.

The list of things that could have led to Tesla’s demise used to be longer than my arm. For most investors, the amount of money that the company was losing was at the top of that list.

Not only is it not on top anymore, it’s not even on the list.

Over the last two years, Tesla has been able to consistently deliver profits every quarter with increasingly impressive free cash flow, which reached a record of over $3 billion last quarter.

For years, many automotive investors decided to invest in legacy automakers instead of Tesla because they would deliver millions more vehicles than Tesla and make money doing it.

While it’s still true that some of the biggest automakers, like Toyota, deliver millions more vehicles than Tesla, it’s not true that they necessarily make more money doing so.

For example, Tesla reported $3.29 billion in net profit last quarter compared to Toyota earning 434.2 billion yen (roughly $3.15 billion USD). That’s despite Toyota delivering almost eight times more cars than Tesla during the same time.

This milestone of Tesla beating Toyota in earnings during a quarter is especially impressive when you consider that just a decade ago, Toyota owned about 3% of Tesla with just a $50 million investment. Now Tesla generates $50 million in free cash flow almost every other day.

Toyota divested and completely cut ties with Tesla in 2017.

While Toyota is still only tentatively entering the battery-electric vehicle space, people are starting to see times changing in Japan since the Nikkei, the country’s biggest business newspaper, led with “Tesla earns 8 times more profit than Toyota per car.”




テスラは車一台あたり、トヨタの8倍の収益を上げた。
Fred Lambert  
<Nov 8 2022 - 7:01 am PT Electrek>

テスラは現在、自動車一台あたりの収益がトヨタの8倍に達しており、日本でも指摘され始めた。

テスラを崩壊に導くかもしれない事柄は、そのリストが腕の長さを超えるほどであり、テスラの失いつつある巨額の資金については、ほとんどの投資家がそのリストの最上位に上げていた。

しかしそれも過去のこと、今ではトップにないだけでなく、リストに載っていることもない。

過去 2 年間、テスラは四半期ごとに一貫して利益を出すことができ、フリー キャッシュ フローはますます目覚ましく、前四半期は 30 億ドルを超えるという記録に到達した。

何年もの間、多くの自動車投資家はテスラに投資せず、テスラよりも何百万台も多くの車を納入し、それによって利益を得ることができる旧式の自動車メーカーに投資することを決定していた。

トヨタのような最大の自動車メーカーがテスラよりも何百万台も多くの車を出荷していることは依然として事実であるが、それが必ずしもより多くの利益を上げているというのは事実ではない。

たとえば、テスラは前四半期で 32 億 9000 万ドルの純利益を報告したが、それに比してトヨタは4342 億円 (約 31 億 5000 万米ドル) 稼いだ。ただし、トヨタが同じ期間にテスラのほぼ 8 倍の車を販売しているにもかかわらずである。

テスラが四半期の収益でトヨタを上回ったというこのマイルストーンは、わずか 10 年前にトヨタがわずか 5000 万ドルの投資でテスラの約 3% を所有していたことを考えると、特に印象的だ。 現在、テスラはほぼ 1 日おきに 5000 万ドルのフリー キャッシュ フローを生み出しているからである。

トヨタは 2017 年にテスラとの関係を完全に解消した。

トヨタはまだバッテリー電気自動車の分野に暫定的に参入しているだけだが、日本最大のビジネス新聞である日本経済新聞が「テスラはトヨタの 1 台あたりの利益の 8 倍を稼いでいる」と報じて以来、日本の人々も時代が変わり始めていると感じ始めている。


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今月の万年筆は、シェーファー・タルガ( Sheaffer's Targa )です。
Sheafferは1966年工業分野の持株会社Textron.Incに売却されて以後、魅力的な商品を発表し続け、ついに1976年事実上の最後の製品である”Targa”を発表し、好評により以後1989年まで生産し続けます。

Targaは非常に洗練/完成された金属製の円筒形フォルムが特徴であり、表面のデザインは200種ほどあると伝えられています。非常に個性的でありながら、万人に好まれるデザインではないでしょうか。

ペン先( nib )のデザインはインペリアル( Imperial )を踏襲しており、握りやすく書きやすいところも同じです。

万年筆:Sheaffer's "Targa" 14knib="fine"
インク:Pilot "紫陽花"
原稿用紙:
色:金茶
テーマ:冬
モットー:”楽事皆是心所造”
"Any enjoyment is made by your heart."

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今月の百人一首は「中納言兼輔」と「源宗于朝臣」です。
中納言兼輔:
  みかの原 湧きて流るゝ泉川
  いつ見きとてか 恋しかるらむ
中納言兼輔:藤原兼輔(877年ー933年)。従三位権中納言。
三十六歌仙の一。
賀茂川堤に邸宅があったことから堤中納言と号した。

句釈:「甕ノ原(みかのはら)」は山城国の名所、元明天皇の離宮があった。
「いづみがわ」は掛け詞、「いつみき」を引く。
「いつ見きとてか」は、「いつ見たからか」。
「恋しかるらむ」は、「恋しいのだろう」。

意釈:「甕の原の泉のように、滾滾と思いが湧きでてくる」、
「お前を見たのは初めてであるはずだが、いったいいつ見たからであろうか」、
「このように恋しくてならないのは」。

評釈:この人は常に恵まれた地位にありながら、和歌・管弦の道に優れ、
当時の歌壇の中心的人物として、紀貫之や凡河内躬恒等多くの歌人が邸に集ったそうであるが、この歌にも泉より流れ出る清流のような気分が現れており、そこに作者の人物像が現れているように思える。秀歌である。

源宗于朝臣:
  山里は冬ぞさみしさ勝りける
  人目も草も枯れぬと思えば
源宗于朝臣:光孝天皇の孫(?ー940年)。正四位下・右京大夫。
三十六歌仙の一。
894年、源朝臣姓を賜与。912年ー933年、相模守・信濃権守・伊勢権守を歴任。

句釈:「山里」は、任地のことか。
親王の守(かみ)は都に住いしたままで、任地に赴任することはなかったそうであるが、臣籍に降下して以後は、赴任したのであろうか。

意釈:「山里は冬になると、ますます淋しくなる」、
「冬の旅は困難であり、人が来なくなるので、都の消息までが絶えはてる」、
「それに草までが枯れてしまうと思うと、ますます淋しくてならない」。

評釈:この人は地位に恵まれず、20年間も地方を歴任したのだろうか。
この歌からは、堪えられぬ淋しさが感じられ、当時の下級貴族の暮らしが思いやられる。秀歌であろう。

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ターキッシュデライト( Turkish Delight )。トルコの駄菓子。
では今月はここまで、また来月お会いしましょう、それまでご機嫌よう。
  (Sheaffer's "Targa"  おわり)

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