2023年元旦

   つばめ堂 初春二首

  初春の軒のつらゝのしずくにも
     こゞれる心解くるここちす

  初春のいのりとゞけと読む経に
     こゞれる心融くる気ぞする
  


皆様、明けましてお目出とうございます。 
旧年に相い変わりませず、本年もどうぞ宜しくお願いもうしあげます。

旧年中にも随分といろいろな事がございましたので、今年はなんとか平穏な年であってほしいとは思っておりますが、老人の知力、体力は共に衰退すること甚だしく、ただただ蒼惶とするばかりで、まあ何ともうしますか、毎日、その日にやるべきことだけを考えて、日暮しするのに気力を使い果たしているばかりなのでございます。

それでは、今年も恒例のごとく、歌など歌って楽しく始めることに致しましょう。

弁天小僧  作詞:佐伯 孝夫 作曲:吉田正

牡丹の様なお嬢さん
シッポ出すぜと浜松屋
二の腕かけた彫物の
桜にからむ緋縮緬
しらざァいって 聞かせやしょう
オット俺らァ 弁天小僧菊之助

以前を言ゃあ江の島で
年期づとめのお稚児さん
くすねる銭もだんだんに
とうとう島をおわれ鳥
噂に高い 白波の
オット俺らァ 五人男のきれはしさ

着なれた花の振袖で
髪も島田に由比ヶ浜
だまして取った百両も
男とばれちゃ仕方がねえ
つき出しなせえ どこへなと
オットどっこい サラシは一本切ってきた

素肌にもえる長襦袢
縞の羽織を南郷に
着せかけられて帰りしな
にっこり被る豆しぼり
鎌倉無宿 島育ち
オットどっこい 女にしたい菊之助


ということで、いよいよお待ち兼ね、今月の万年筆でございますが、
シェーファーのインペリアル( Sheaffer's Imperial )でございます。

シェーファーという会社は、そもそも初から美的感覚に狂いがあるともうしますか、黄金比率を無視した製品は、まあ簡単に言ってしまえば、”ブサイク”でございまして、顔を見るたびに、つい”ブス”と口走ってしまいそうになるくらい、それはまあひどい物なのでございますが、それが一たびその書き味のとりこになってしまいますと、かえってそれが、”アバタもエクボ”とでももうしましょうか、その奇妙な色やデザインを探し求めて日に夜に”ヤフオク”とか、”Ebay”とかを彷徨して憚らないのでございますが、その上困ったことに、シェーファーという会社の方針は、他社がもっぱら少量品種多量生産を社是としているのに反しまして、多量品種の少量生産を頑なに守っておりますので、老人のような貧乏人にはとても全品種をコレクションするなど”夢のまた夢”でございまして、またその口惜しさが生きる原動力となっているような次第でございます。

と、このように”シェーファー”という会社をご紹介したところで、この”インペリアル”でございますが、――
世間では、前後が絞られた円筒形を葉巻形( cigar shape )と呼んでおりますが、純銀の板金に斜め格子を彫金した姿は均整が取れており、太さと長さのバランスもよく、恐らく美学の心得のある者の設計によるものだろうとまでは見て取れますが、目はいやでも妙に短い金のポケットクリップに吸い寄せられ、顔でいえば、額から抜き出た鼻が、顔の真ん中より上に於いて終端を迎え、その先は長い鼻の下か、長い顎を連想させるばかり、やはり奇異の念を抱かずにはいられません。

金や銀は肌によく馴染んで手が汗ばんでいてもヌルつかないので、万年筆の素材としては優れた点が多いのですが、冬には、ほんの一瞬ですが冷たく感じますので、それを気にする方もいられるのではないかと思います。 

まあ奇妙な形態のクリップも、馴れてしまえばなんとも感じなくなりますが、‥‥

キャップを外すと、一体化したペン先とグリップセクションが見えてきます。金型( mold )に先にペン先をセットして、そこに溶けたプラスッチックを流し込んで造られたもので、これを象眼式( inlayed )と称していますが、ペン先とペン芯の位置的関係が固定されていますので、書き味にバラツキがないのが特徴です。 しかし聞くところによりますと、金属とプラスッチックとの隙間からインクの漏れ出す固体もしばしばあるということで、ティッシュの用意は必須だそうですが、その優れた書き味を味わうためには少々の犠牲は止むを得ないところではないでしょうか。

日本の”パイロット万年筆”に見られるように、ペン先の形状が鷲爪状/つけ爪状に先端が下がっていますと、45℃くらいに寝かせて書く方が書きやすいと思いますが、シェーファーの場合は先端が逆反りしていて、日本の小筆で字を書くように80℃くらいまで立てて書くことができますので、楷書から行・草書に至るまで、日本の字を書くのに相応しいように思えます。

万年筆:Sheaffer's "Imperial" 14knib="ext.fine"
インク:Taccia "錆綠"
原稿用紙:
色:紅鼠
テーマ:冬
モットー:”人生如夢須努力”
"Life is but a dream, therefore you must make efforts."


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今月の百人一首は、「三条右大臣」と、「貞信公」です。
三条右大臣:
  名にし負はば逢坂山のさねかづら
  人に知られで来るよしもがな
三条右大臣:藤原定方(873年ー932年)。従二位右大臣、贈従一位。
醍醐天皇の外叔父。
和歌・管絃の名手。紀貫之・凡河内躬恒の後援者。

句釈:「名にし負わば」は、「名を負うているならば」、「し」は強調。
「さねかづら」は、「葛(くず)」の異名。10m以上のツルを手繰って食用の根に至るにより、「結果を手繰り寄せる」意を有する枕詞。又「さね」は、「小寝」に掛かり、「寝たき」意を暗に示す。「人に知られで」は、「人に知られないで」。「来るよし」は、「来る方法」。「もがな」は、「ないものかなあ(あればよいのに)」。

意釈:「逢坂山のさね葛よ」
「お前も”逢う”とか、”寝る”というような名を負うているからには」、
「人に知られず、女の所に来る方法を知っているのではないか」。

評釈:平安朝の「貴族の寿命は、推定男が50歳、女が40歳であった」ので、
「貴族の仕事はただ子孫を残して、高貴の血筋を絶やさないことにある」。
これを知れば「女と寝る」ことがいかに大切な事であったかが分かるだろう。
故に、「女と寝ることを歌にする」ことは何等憚られることではないが、
「人に知られる」ことを憚るのは、「種なし男の称を奉られることを避けたい」からであり、「子が生まれてしまえば、もう憚ることもない」のである。

この歌からは、以上の事情を知ることができるが、又このような事情が世間の共通認識であったことも知れるのである。名歌であろう。


貞信公:
  小倉山峰のもみぢ葉心あらば
  今ひとたびの行幸待たなむ
貞信公:藤原 忠平(880年ー949年)従一位関白太政大臣、贈正一位。
幼きより聡明で知られ、宇多、醍醐、朱雀、村上四帝に仕えて、常に重職に任じられる。

句釈:「行幸、御幸(みゆき)」は、天皇・上皇の外出をあらわす辞。
「待たなむ」は、「待っていてほしい」。

意釈:「小倉山の峰のもみぢ葉よ、もし心があるものならば」、
「今一たび行幸あるまで、散らずに待っていてほしい」。

評釈:宇多法皇の御幸に際し、紅葉が余りに美しいので、
「醍醐天皇も来て、ご覧んになればよいのに」と仰せあり、
それを受けての歌である。

一見媚び諂うような歌に見えるが、貞信公の業績に鑑みれば、
誠心より出た歌のようにも見える。秀歌であろう。


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SweetCupcake SELECTION
Factoryshin

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"The world has gotten tranquility thanks to you."
では今月はここまで、また来月お会いしましょう、それまでご機嫌よう。
  (2023年元旦  おわり)

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