2020年元旦


あらたまの年のはじめのめでたさは
このひととせのきざしなるらむ

いなのめの明けてうれしき初春は
ねずみにひかそこの歳のさち
(つばめ)
新年、明けましておめでとうございます。
本年も、昨年同様、何卒よろしくお願いもうしあげます。

大黒天、あるいは大国主命のお使いは、いづれも鼠でありますので、鼠に願をかければ、やはりそれなりの霊験があらたかであるはずですが、荼吉尼天や、稲荷神の狐ほど一般的ではございません。

まあ、それだけ鼠は人に嫌われてきたということですが、土蔵の羽目板に巣穴を開けたり、大切な茶碗の桐箱が囓られたりといったことは、今は余り聞かなくなりましたが、昔は鼠の被害として、きわめて当たり前のことでございましたので、あるいはやむを得ないことなのかも知れません。

仏教の方でも、鼠は悪い印象を受けていたようで、”仏説譬喻経”には、このようなことが説かれています、――ある時、世尊は勝光王にこう告げられた、「大王よ、譬えばこういうことである。ある人が、曠野に遊んでいると、悪象に逐われた。怖れて走っていると、空の井戸が見えた。井戸には樹根が垂れ下がっていた。この人は根を伝い、井戸の中に身を潜めた。見回すと黒、白二匹の鼠がおり、互いに樹根を囓っていたし、井戸の四辺には四匹の毒蛇が、その人を噛もうとしており、下には毒龍が待ち構えていた。 毒蛇や龍に脅えながら、樹根が断たれるのを恐れていると、樹根より蜂蜜が垂れてきて、五滴口に入ったが、樹が揺れると、蜂が飛び立って、その人を刺し、しかも野火が出て、この樹を焼いてしまったのである」、と。王が言った、「この人は何故、受ける苦は無量でありながら、貪る味は少いのですか?」、と。世尊は、こう告げられた、「大王よ、曠野とは無明の長い夜を喻えたものであり、人とは輪迴転生する人を喻え、象を無常に喻え、井戸を生死の世界に喻え、樹根を命に喻え、黒白二匹の鼠を昼夜に喻え、四匹の毒蛇を地水火風の四大に喻え、蜜を色声香味の五欲に喻え、蜂を邪思に喻え、火を老病に喻え、毒龍を死に喻えたものである。大王よ、生老病死とは甚だ怖ろしいものである。常にこう思うがよい、五欲に呑みこまれてはならないと」、と。 この中で四匹の毒蛇に喻えられた四大とは、物質を形成する地、水、火、風の四種の要素であり、地は固体的な性質を有する要素、水は液体的、風は気体的、火は熱的要素を指しますが、人間の肉体はこの四種の要素が調和すれば健康であり、不調和ならば病気であるとされます。

この黒、白二匹の鼠の譬喻は、非常に有名であり、老人なども子供の時分より知っていたような気がしますが、日月の進行は遅々として進まざるに似たりといえども、容赦することのないところが、鼠の習性に適合しており、優れた譬喻ではないかと思っております。

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老人の新調した「大般若波羅蜜多経般若理趣分」、即ち「理趣分経」は、最近刷らせた物で、老人にとってはかなり高価につきましたが、需要が僅少だからなのかどうか、その理由は分かりませんが、版木がほとんど磨滅しており、なんとも常用するには飽き足りませんので、買い直したいところですが、老人の物欲を刺激するだけの物が他に見当たらず、やむなく内製することに致しました。

経本をA4用紙に印刷し、写真のように赤と紫の金襴で表装しますと、なんとか見るに耐える物ができあがりました。ただ用紙は安価に手に入る鳥の子紙ですし、表装の金襴もナイロン製ですが、印刷用の経紙もA4とサイズが決まっておりますと、容易には手に入らぬものですし、殺生を忌避すべき経本に敢て絹布を使用するのも憚られますので、まあこれで上出来ということにいたしましょう。



問題は印刷ですが、プリンターはレーザープリンターを新調するとして、大蔵経のデータを縦書きにするプログラムが見当たりません。特に罫線を引きたいとか、朱色の読点を打ちたいとなりますと、結局は自分でプログラムを作った方が、有るか無いか分からないものを探すよりは容易であると結論して、JavaScript というプログラム作製言語を勉強し、結構楽しみながら作製した成果が上の画像です。 つきましては読者にもお裾分けとして、若干の経典を印刷可能にしておきました。「つばめ堂通信のホームページ」から、「経本の印刷」をクリックしていただけば、あとは容易に実行できるものと思います。 「理趣分経」の他に、「阿弥陀経」、「無量寿経上」、「無量寿経下」、「観無量寿経」、「観音経」等の常用経典として多くの方に親しまれる経典をhtml とpdf との両様に印刷できるようにしましたが、上記をもってしては不足であるという方のためにも、「随意の経典」の項目を設けて、皆様お望みの経典を印刷できるように致しましたので、どうぞご利用になってください。


≪夫唱婦随 : 仲良きことは美しき哉の図≫



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 ≪羊羹   銘:甘々露 (布袋 大口屋)≫
干し柿と村雨を包み込んだ柿風味の羊羹
では、今月はここまで、また来月お会いしましょう、それまでご機嫌よう
  (2020年元旦  おわり)

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