Tesla Cybertruck


重い腰をあげて、やって来ましたのは養老山脈の東を流れる揖斐川、老人のもくろみとしては、この川の畔でススキの写真でも撮り、以って篋底の枯竭を潤さん、といったところでございますが、どうやら川の中州にやっと一群れ目にするばかり、老人のもくろみは見事に外れてしまったのでございます。

老人の起床時間は次第に遅くなり、最近では午前4時就寝、同11時起床となっておりますのに、写真は朝が勝負でございますのでね、このコーナーの写真も、次第に身の回りのことに限られてくるのは、やむを得ぬことと言わねばなりません。

という訳で、YouTube中毒の老人は、素早く諦めるべきを諦めて、インターネット中をうろうろ彷徨っていますと、今夜テスラから、新車が発表されるらしいというような記事に目がとまります。テスラの動向には目が離せませんので、老人も、翌日になるのを待ちかねて、"Tesla Unveiling" と打ち込み、それらしい動画を検索したところ、たくさんありましたので、30分ほどに切り詰められた者を見てみますと、まず最初に、イーロン マスク( Elon Musk )が、ピックアップトラックの形態は100年間も変化しなかったが、今素晴らしいものをお目にかけますよというようなことを言いながら出てきます。 背後のスクリーンには、「素晴らしいトルクと、ダイナミックなエアサスペンションをもったテスラのスーパートラックに、まるでレールの上のようにコーナーを駆け抜けさせることが好きならば、これはきっと素晴らしいですよ( "would love to make a tesla supertruck with crazy torque, dynamic air suspension and corners like it's on rails, that'd be sweet" )」と書かれています。

イーロン マスクという人は、決して能弁な人でなく、むしろ訥弁というべきでしょうが、それよりも発表会の段取りが上手くいっていなかった模様で、背後のスクリーンの画像が、その出るタイミングを間違えたものか、しばらくもたついた後、やおら会場の明かりが消えますと、暗黒の中に2、30条のレーザー光線が走り、煙がもくもく湧き上がり、会場の歓声が大いに轟く中に、粛々と巨大な車が、その姿を表わしました。

やがて、煙が薄れ、新型車の全貌が明らかになるにつけ、会場のどよめきは去り、満座が同じく口を開いたまま、今現在見ているものが信じられないといった風情で途方にくれています。

いやはや、なんとも、‥‥老人も、その装甲車のような異様な姿を見ては、思わずギョッとせずにはいられませんでしたが、どうやらそれは皆、織り込み済みだったようで、‥‥


"Wikipedia (Tesla Cybertruck)"より、スペックを拾ってみましょう、――


   以下は、共通仕様です、――
Dimension
231.7 in 79.8 in 75.8 in ≥ 16in 6 seats 6.5 ft
length width height ground clearance - bed

exterior
3mm ultra-hard 30x cold-rolled stainless steel
body panels

ballistic impact
9mm full metal jacket 115 grain
10meters

tesla armor glass
transparent metal
flat geometry

airsuspension
self-leveling

onbord-power inverters
supplying both 120 and 240-volt electricity
allowing use of power tools


   以下は、個別仕様です、――
Single Motor RWD Model
Range 0–60 mph Top Speed Payload Towing C. US-Price
≥ 250 miles < 6.5 sec. 110 mph 3,500 lb ≥ 7,500 lb $39,900

Dual Motor AWD Model
Range 0–60 mph Top Speed Payload Towing C. US-Price
≥ 300 miles < 4.5 sec. 120 mph 3,500 lb ≥10,000 lb $49,900

Tri Motor AWD Model
Range 0–60 mph Top Speed Payload Towing C. US-Price
≥ 500 miles < 2.9 sec. 130 mph 3,500 lb ≥14,000 lb $69,900




Wikipedia によりますと、”オリガミのような( likened to origami )”のは、3mm厚の '30x cold-rolled stainless steel' が余りに硬すぎて、プレス機械( stamping press )が真直ぐ曲げることはできるが、曲面を打ち出すことはできないからなのだそうです。

最高速度こそ 210km を超えないものの、時速 100km に到達するまで、3秒を切るような6人乗りのトラックをどう思いますか? しかも、そのトラックは長さ 2m の荷物が積載でき、堅固な外殻に護られていて、銃弾すら跳ね返すほどなのです。 また、このトラックはエアサスペンションの力で凸凹を感じさせず、スムーズに道路を走ることができるばかりでなく、自在に車体を上下でき、最低地上高を40cm以上にすることもできるのです。

どうでしょう、少しはかっこよく見えて来ませんか? しかもその価格たるや、まさに価格破壊以外の何物でもありません。 恐らく平面プレスや、無塗装などが、価格を下げるのに一役かっているのでしょうね。

1952年頃から、1965年ぐらいまで、アメリカでは前年売った車を如何にして陳腐化するかを図り、毎年のようにモデルチェンジを繰り返して、そのたびごとにデザインが派手になり、キャデラック( Cadillac )や、クライスラー( Crysler )などが奇を衒いすぎて、まるで満艦飾のように無意味な装飾で飾りたてていたの思いだしますが、イーロン マスクは恐らく、その逆をやりたかったのではないでしょうか。 艶消しのステンレススチールは塗装を必要とせず、いつまでたっても古びるということがありません。見たところ、写真上に曲面らしきものは何も見えませんが、車体に包含すべき物体の最も突き出た部分を直線で繋ぎ、そこに平面を張れば、この形になります。 極限まで無駄を省いたデザインは、結局このようにならざるをえないのです。 

試しに、フォードのピックアップトラック( Ford F-150 )の画像を検索してみてください。 前後のバンパー、ラジエターグリル、ドアハンドル等クロームメッキのパーツが目白押しです。そのような無駄なオーナメントを付着させて、どうでも他人と差別化せねばならないのでしょうか? どうせ差別化するなら、圧倒的な動力性能で差別化した方が、同じお金を使うにも、より効果的だと思いませんか?

Tesla Cybertruck の場合、デザインの簡素化は外部ばかりではありません。 内部の広いダッシュボードには計器類や、スイッチ、ダイヤルの類が何もなく、その中央から後方に向かって、17インチのタッチスクリーンが突き出ているだけです。 レーダーや、多くのカメラで捉えた前後の車を映したり、ナビの画面を映したりする以外にも、クロームで縁取られたメーターや、エアコンのダイヤルに代って、タッチスクリーンが、その役割を果たすのです。 そしてそのダッシュボードたるや、紙や木製ファイバーで作られ、それにマーブル模様が印刷されているに過ぎません。 高価な木製や、カーボンファイバーのパネルを所有するというような、秘かな喜びを奪ってでも、価格を低下させるのには、意味があります。 イーロン マスクの考えでは、この世界には車が多すぎる、所有せず必要に応じてレンタルするだけではいけないのか? という疑問を投げかけ、この世界からできるだけ多くの無駄を省き、限りある資源を有効に活用したいと思っているのです。

天才の思考は、時として凡人の常識を覆します。 もはや、車のデザインで購買欲をそそるような時代ではないのかも知れません。 テスラのエクシビションを見ながら、老人はこう考えました、――誰か、圧倒的な性能よりも、無意味なデザインで車を選ぶことができるのだろうか? と。 そして何か、非常なる満足を憶えたのです。



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今月のお宝は、雪松の茶碗です。 乾山由来のデザインですが、近頃のものは余りにデザイン化されていて、老人の好みにはあいません。 むしろ、この茶碗のように、炬燵に入って、雪窓から眺めているような写実的なものの方が好きです。 金や銀で装飾過多のものは、くれると言われても断ります。

やはり、これが一番ですな、‥‥




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  ”ブッシュ・ド・ノエル( bûche de Noël )”
クリスマス・ケーキの代わりです。 作り方は、ロールケーキとほぼ同じですので、渇愛します。
では、今月はここまで、また来月お会いしましょう、それまでご機嫌よう。
Merry Christmas
And
Happy New Year
  (Tesla Cybertruck  おわり)

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