さて、老人は、日頃より皇室を尊崇すること甚だ厚くして、天皇誕生日には欠かさず、日の丸を揚げて、皇室の弥栄を祈ってきましたが、そんな老人が、今年は何うしようかと、いささか迷っていますので、そのお話をしましょう。
新天皇の即位以後、一部のハネッカエリ系メディアや、女性週刊誌等の新聞広告に、あたかも、大部分の民衆が、女性天皇を待ち望むかの如き見出しが、しばしば見られるようになりましたが、これは老人の天皇観を著しく損なうものであり、皇室を話題にするなど、畏れ多いと思いながらも、已むを得ず、老人の皇室観を吐露することにいたしたいと思います。
そもそも、老人には、碌な皇室観などなく、ただ何となく尊崇していたような次第ですが、さる宮様が、『天皇とは、y-染色体の継承者である』、というようなことを仰やるに当たり、目より鱗の落ちるがごとく、老人の皇室観が確固たるものとなったのであります。
それでは、y-染色体とは、如何なるものか?――
人間の細胞中には、それぞれ両親より継承される2個1組の染色体が23対あり、この染色体は細長い袋状のもので、各各の中には一本の長い紐状の DNA
が折りたたまれて入っており、 DNA は、コンピューターのプログラムのように、多くの命令部分と、多くのデータ部分とからなり、遺伝情報を保有し、次の世代に継承させます。
この1対に2本有る染色体は、両親より1本づつ継承されるものですが、23対中の1対を特に性染色体と称し、男女の性を決定づけるに重要な働きを有するものとされています。
性染色体は、 y-染色体と、 x-染色体の二種類があり、男は y-染色体と、 x-染色体とを1本づつ有し、女は x-染色体のみを2本有するとされますので、
この故に、y-染色体は、男にのみ継承され、女には継承されないものとされます。言い換えれば、男子は男系祖父の y-染色体を確実に継承するのに反し、女子には明確な継承の証が皆無なのです。要するに男子の系列は容易にさかのぼることができますが、女子の系列は拡散してさかのぼれないということです。
まあ、これで「y-染色体の継承者」という意味が、ほぼ説明されたものと思いますが、 y-染色体も長い間には傷つけられたり、 x-染色体の影響を受けたりしながら、変異しているらしいという最近の知見もありますので、多くの人の中には、それに重きを置かない人が出てきたとしても、別に不思議とも言えませんが、われわれは皆、錯覚の中に住しており、その中に於いて安心を覚えるのでありますから、老人などは、さしづめ「y-染色体の継承者」という言葉の中に、天皇の尊厳(
dignity )を見るのであり、そしてなお、「天皇の y-染色体中には、過去の情報が豊かに含まれているに違いない。世界的にも、男系の先祖を1000年、2000年の昔までたどれるなどということが、他にあろうか。まさしく奇跡とも言うべきである。これぞ平和日本の象徴となすにふさわしいではないか。」と、このように想像するのであります。
老人の危惧する所を明かすため、「天皇の尊厳」についても、少し説明しましょう。
尊厳という言葉は、「デジタル大辞泉」によれば、『[名・形動]とうとくおごそかなこと。気高く犯しがたいこと。また、そのさま。「人間の尊厳を守る」
』、と説明されていますが、英語 Dignity の説明としては、やや不十分と思われ、老人の意図する、「天皇の尊厳」に於いて、その意を十全に汲むものとは言えません。そこで且く、「Cambridge
Dictionary」を紐解いてみますと、「NOUN[U]1:calm, serious, and controlled behaviour
that makes people respect you. 2:the importance and value that a person
has, that makes other people respect them or makes them respect themselves.
( 名詞[加算]1.人々をして尊敬させることになる穏やかで、まじめで、自制的な態度。 2.個人に備わる重要性、及び価値であり、それは他人をして、彼を尊敬させ、或は彼をして彼自身を尊敬させるもの。)」というように書かれておりますので、「天皇の尊厳」とは、「天皇に属する重要性と価値、かつ他人に尊敬させ、天皇も自分自身を尊敬させる所のもの。」ということになります。
老人は、「y-染色体こそが、天皇の尊厳の正体である」、と確信し、尊厳を失った女性の天皇は、もはや老人の関心事とはならず、「尊厳を失おうと、何んだろうとかまわない。天皇なんていうものは、とにかく有ることが大切で、戦争の時の旗印になりさえすれば、何んだっていいんだ、御神輿が必要なんだよ」、というような者たちには、決して荷担しようとは思わないのであります。
はてさて、これからこの国は、何処へ向かって行くのでしょうかねえ、‥‥
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