最近、老人は、にわかに電気自動車、いわゆるEV (Electric Vehicle) について啓蒙され、就中、テスラ (Tesla) というアメリカの自動車に関しては、いたく感銘を受けましたので、いささか披瀝しようと思います。

テスラは、 Forbes というアメリカの経済誌の日本版によれば、今年の第二四半期の売り上げが、前年同期の約2倍になったということです。テスラの製品は、モデルSと呼ばれるセダンタイプと、モデルXと呼ばれるSUV (Sport Utility Vehicle) タイプ、モデル3と呼ばれる廉価タイプと、総じて、たった3種類に過ぎないが、この中、モデル3は、メルセデス・ベンツのCクラスや、BMWの3シリーズに相当し、今年の7月に限れば、すでに同セグメント中の第一位の販売台数に達したということなのです。ちなみにその内訳を覗いてみると、次の通りでです、――
  1. テスラ/モデル3:1万6000台
  2. BMW/シリーズ2、3、4、5合計:1万2811台
  3. メルセデス・ベンツ/クラスC、CLA、CLS、E合計:1万1835台
  4. アウディ/A3、A4、A5、A6、A7合計:9282台
  5. レクサス/ES、GS、IS、RC合計:6866台
  6. キャデラック/ATS、CT6、CTS、XTS合計:4382台
  7. ‥‥

思えば、これは大変な事が起きているに違いありません。何故ならば、テスラという会社が創立されたのは、2004年4月であり、創立以来、たった14年を経過したに過ぎないからです。何がアメリカ人の心を、かくも強くつかんだのでしょうか?

電気自動車と言えば、我国の日産リーフの評判が今ひとつだったのを思い出しますが、悪評の元をたどれば、1には、航続距離が短い、2には、バッテリーの劣化が早い、の二事に尽きますが、彼の国のテスラに於いて、それ等の欠点は、どのようにして克服されたのでしょうか?まず、航続距離から見てゆきましょう。テスラのモデルSでは、バッテリー容量が75kWh の場合 航続距離は466km、同100kWh の場合 594km であると、テスラのカタログは謳っております。アメリカの燃費計算は、ロサンゼルスのダウンタウンを中心としたルートを、朝の通勤時間帯に走行した場合を走行パターンとして計測され、極めて実燃費に近いものと言われていますので、上記の航続距離はまったく信用でき、恐らく誰が乗っても、この距離を上回ることさえ可能なところでしょう。次にバッテリーの劣化について見てゆきましょう。テスラのバッテリーは、単三形に近似したサイズのパナソニック製の2170規格の円筒形リチウムイオンバッテリーを約7000本、床下の堅牢なケースに詰め、グリコール(自動車の冷却液のような液体)を媒体とする液体冷却装置を用いて、きめ細かな温度管理をすることにより、27万7000km (16万マイル) 走った後でも、10%以下の劣化でしかないことが実証されており、更に、それ以後も、ほとんど劣化しないだろうということですので、バッテリーの寿命に関しての心配は、ほぼ杞憂に終わることになりそうです。又40分ほどで容量の80%まで充電可能なテスラの充電設備が十分とは言えないまでも、適度な間隔をもって設置されており、国際規格のCHAdeMOなら、能力は半分ほどでしかないので、30分で100~150㎞分しか充電できませんが、急場を凌ぐには十分であり、設置場所もスーパー、コンビニ、道の駅、サービスエリア等至る所に多数見られますので、まったく不自由することはないでしょう。

さて、電気自動車の弱点に関しては、およそ上のような所だと思いますが、アメリカ人の心を強く牽いた所の利点にも目を転じることに致しまして、思いつくままに挙げてみますと、およそ次のようなことになるのではないでしょうか、――
  1. 家庭に於いて充電可能。即ちガソリンスタンドまで行ってガソリンを入れる必要がない。引いて考えてみれば、ガソリンスタンドまで行ってガソリンを入れるという行為は、全く生産性のない行為であり、無駄な行為に大切な時間を取られ、あまつさえそこまで行くにガソリンを使って行くという馬鹿げた行為をする必要がないということの利点は、量ろうにも量りきれない。何しろ、その行為をする人の、総数をもって倍しなければならないのだから。
  2. タンクローリーで、スタンドまでガソリンを運ぶ必要がない。人件費、車輌費、燃料代、CO2等の排気汚染等以外にも、交通量削減に至るまで計算されるべきである。
  3. 燃料代の節約。電気に関するインフラはすでに整っているのであるから、家庭に充電器を設置したとしても、僅々10万円の出費でしかなく、1㎞当りのコストが電気代はガソリン代のおよそ1/2倍でしかないことに鑑みれば、数年を経ずして元が取れることになる。
  4. 故障が少なく、メンテナンス費用が安い。内燃機関は往復運動を回転運動に変換しなければならない性質上、部品点数が多く、必然的に故障が多くなる。又、摺動抵抗を軽減する為には、常にオイルを循環させなければならないので、メンテナンスを欠かすことができないが、電気モーターはベアリングで軸を受ける以外、摺動部分がなく、メンテナンスすべき部分が、ほぼ存在しないので、必然的に故障することも少ない。
  5. 衝突時の安全性が高い。焼けた鉄の塊であるエンジンがないので、そのエンジンの存在すべき部分はトランクとして使用され、事故の時には、必然的にクラッシャブル・ゾーンとなって衝撃を吸収するので乗車空間に与えるダメージが少ない。又事故の時、エンジンが室内に飛び込むような不測の事態を避けることにもなる。
  6. 横からの衝撃に強い。軽金属の塊にも等しいバッテリーを床下に敷き詰めているため、横から衝撃を受けた時、乗車空間が押しつぶされない。
  7. 走行安定性が高い。重いバッテリーが床下に敷き詰められているお蔭で、必然的に重心が低くなり、走行安定性が高い。テスラのバッテリーは非常に重いが、同じぐらい重いガソリンエンジンとギアボックスが無く、軽い電気モーターを有するのみなので、互に相殺され、特に走行特性が劣るということはない。
  8. 電気エネルギーは、ガソリン・エネルギーに比べ、圧倒的速かに供給される。故に、アクセルペダルに対する反応が正確であり、応答性に勝れるので、運転が思い通りになる。内燃機関は燃料をポンプで燃焼室に送りこんで、必要な空気と混合し、点火して爆発させ、その爆発力をピストンが受けてクランクシャフトを回し、適切なギア比で回転を落として、車輪を回転させなくてはならないが、電気モーターは水道の蛇口を捻るように、アクセルを開ければ、即時に最大出力を出すことができるので、エネルギーの供給が、アクセルから車輪の回転まで滞ることがなく、非常にスムーズにアクセルと車輪とが同調する。
  9. ギアボックスが不要。ガソリンエンジンは、約1000回転から、6000回転ぐらいが有効な回転範囲であり、余程排気量に余裕が有っても、速度に対して適切なギア比を5段乃至8段も切り替えなくてはならないが、電気モーターは0~18000回転と有効な幅が広いので変速する必要がなく、ただ1段だけのギアボックスで済み、しかも最も加速力の必要な発進時に最大トルクが出るので、必然的に運動特性が良好である。
  10. 強力な回生ブレーキは、アクセル・ペダルのみによる走行を可能にする。ブレーキ・ペダルは存在するが、アクセル・ペダルを離すだけで、強力なブレーキがかかる為、緊急時には踏み替え動作の遅れを回避でき、通常時には加速と減速とがリニアに繋がることにより、微妙な運転操作が容易になる。内燃機関の場合はシフト・チェンジ時に駆動力が乱れる為、微妙な操作を困難にするし、エネルギーの供給にタイムラグがある為、スムーズな運転は容易でない。
  11. 補機用バッテリーが不要。エンジンを始動することがなく、エアコン、窓の開閉、ドアロック等に必要な電力は、走行用の巨大なバッテリーより供給されるので、乳幼児を乗せたまま車を離れても、エアコンを作動させておけば室内が暑くなる恐れがない。
  12. 自動運転に関する圧倒的優位。実質的なワン・ペダル走行が可能な為、自動運転の為のプログラミングが容易になる。
如上、見てきたように、 電気自動車 EV はガソリン等の内燃機関自動車を圧倒している。プリウスを代表とする電気モーターとガソリン・エンジンを併せ持つようなハイブリッドや、プラグイン・ハイブリッドの出る幕は、もはや存在しない。ましてガソリン、ディーゼル等の内燃機関が一世代前の遺物になりさがったのは、言うまでもない。性能もテスラのモデルS は、停止から100㎞に達するまで、2.7秒しか必要としない。ベンツもBMWも顔色なしである。運動性能も、操縦性も、どのようなスポーツカーよりも優れている。値段は、テスラのモデルS は新車で1200万円~1700万円、展示車で850万円であるが、維持費/メンテナンス費用+故障時費用が非常に少ないことを鑑みれば、ベンツの Sクラスや、BMWの7シリーズよりむしろ安いぐらいである。

今トヨタは、水素を燃料電池として電気を発生させ、電気モーターで車輪を駆動する自動車を開発中であり、政府も購入補助金を出したりして必死であるが、水素スタンドを新設するには費用が掛りすぎるし、既存のガソリンスタンドではガソリンと水素を兼ねられるだけの余地がない。もし奇特な人がいて、燃料電池車を購入したとしても、性能は貧弱であり、数少ない水素スタンドまで出むいて水素を充填しなくてはならないので、たとえ燃料電池自動車のCO2 排出量が 0 だとしても、ユーザーとしての直接的利点とはなり得ない。要するに、もし水素が有り余っていれば、発電所で電気に変換すればよいのである。水素ローリーがうろうろ走り回る必要もない。水素は水を電気分解すれば、容易に製造できるが、現在は石油/石炭より抽出する方法が主であり、電気分解法ではコストが掛りすぎるようである。燃料電池というものが、世の中にどのように役立つかは未知数であるが、少なくとも自動車に載せる必要があるとは思えない。発電しながら走るようでは、エネルギーの供給がスムーズに行くはずがないからである。

世界的に自動車業界は、現在の体勢を維持せんとして、電気自動車の欠点をあげつらっているように見えるが、変革の時期は目前に迫っている。この国の自動車業界も、相当の覚悟をもって変革に臨まなければならない。決断が遅れて、無駄な開発に無用の資本を投ずれば、必然的に坐して死するを待つだけである。自動車会社だけでなく、それに連なる多くの下請けも同様である。我が国の会社運営は、合議制であり、未曽有の改革に適するものではない。はたして、自己をして改革することができるのだろうか?わが胸中には、黒い不安が蟠まっている。

以上はネット上に垂れ流される記事の受売りと、記憶という貧弱な媒体上の情報とをない交ぜにしたパッチワークに過ぎない。かるが故に読者には直ちに鵜呑みされないよう切に願うが、また読者が何かを考える端緒となればよいとも願っている。

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今月は、押しも押されぬ萩の茶碗を二口ばかり、御覧に入れましょうかな、‥‥いつもは笑われても仕方がないと、半ば諦めておりますが、今度ばかりは、皆様方にも垂涎物ではございませんでしょうか?‥‥如何でございますかな、赤い貫入がひときわ鮮やかで、しかも薄赤い目玉のような模様が点々と散らばっておりますな、‥‥かつて、祖母は、――うちのお父ちゃんがな、うちの嫁入りのとき、道具屋はんに言うて、造らせはったものなんえ――てな事を申しておりましたが、‥‥「紅葉」という銘が箱書されておりますな、‥‥。写真ではよく分りませんが、べらーっと縁の広がった、夏茶碗で鷹揚、陽気、無邪気等の気配に満ち溢れておりますし、又使い勝手がよくて、立ててよし、飲んでよしと、文句を言うところがございません。



裏側は、表側とはうってかわって、厳しさが表れており、萩の第一人者としての自負が感じられますし、名人級の腕であることも伺われますな、‥‥。特に最後に入れた、小さな篦の跡、‥‥釉の掛け残しの美しさも、またこうでなくてはと思わされます。



萩の二点目は、前の夏茶碗よりは、少し深めの茶碗で、季節を問わずに使用できますが、あたかも雲中の龍を封じ込めたかのような、ただならぬ気配があり、前の茶碗とは趣きこそ違え、業前においては決して引けを取るようなものではございません、‥‥一度、この茶碗でお茶を飲めば、その受ける印象が消えることは、決してないでしょう。



高台の切り欠きが三ヶ所あり、裏側の表情も表に負けないだけのものがございますが、何故か、光線をうまく当てられなくて、写真に現わすことができません、‥‥。秘蔵の品を持ち出しながら、竜頭蛇尾に終わったようで、‥‥どうもまた笑われそうでございますな、‥‥。



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≪茄子の丸炊き≫
    お釜で煮ることを、「炊く」と言いますが、昔は家族が大勢おりましたので、茄子のヘタを落として、ざっと水洗いしたものを、お釜に20個ぐらいもほうり込んで、だし汁で煮るのではなく、ただ醤油だけで炊いたものですが、今回はただ4個を煮るだけですので、20㎝ぐらいのアルマイトの鍋を用います。

   鍋にヘタを落とした茄子を、ざっと水洗いして、水気の付いたまま、鍋に入れ、醤油を50ccぐらい加えて落し蓋をし、強めの中火で炊きますが、茄子から水が出はじめたら少し火を弱め、5分ごとに茄子の上下を反しながら、約15分煮ます。箸で持上げて、芯が無くなればできあがりです。

   野菜は、それ自体に特有の旨みがありますので、茄子の旨みを味わうには、一番の料理だと思います。
それでは今月はここまで、また来月お会いしましょう、それまでご機嫌よう。
  (萩  おわり)

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