西明寺


もみじ狩りにははや時期を失したのではないかといささか危ぶみながらも、徒然草の「花は盛りに、月は隈なきをのみ見るものかは」を、ただ心の励みとして、琵琶湖の東なる西明寺に老人がやってまいりましたのは、11月26日の開門にはやや早い7時半、どうやら天気の方は良さそうにな気配ではございますが、山間のこととて日の差すのが遅く、空気の冷たさがひとしお肌を刺しますので、車中に暖を取りながら開門を待ち、時計の針が8時を指すと同時に、国道沿いの山門を通り抜けたのでございます。



平日の故か、老人夫婦と清掃の人を除けば、辺に人影なく、盛りをやや過ぎたとはいえ、まだ十分に美しい紅葉を独り占めという贅沢を味わいながら、道も葉末も朝露に濡れて光る中を、いざもみじ狩りへと繰り出します。



西明寺は、その寺域の端を国道307号と名神高速道路とによって分断されておりますので、高速道路を渡るのは、陸橋に依らなくてはなりませんが、橋の両側を一段高くして、紅葉が植えられておりますので、高速道路を目にすることなく、ただトラックのたてるタイヤの音のみが遠くに聞えます。



陸橋を過ぎますと、両側には各100~200坪ぐらいの空き地が、いくつも石垣で区切られて階層をなしております。信長の焼き討ちを蒙る以前には存したという、300の僧房跡だということですが、今はそこに種えられた楓の古木が衆人の目を娯ませておりますので、老人などは、さだめし災禍を転じて福となすの余慶を受けておるのでございますな、‥‥。



僧房跡に植わっているのは、楓ばかりではございません、亭々たる杉の大木も老人の目を娯ませてくれます。山門から400メートルぐらい緩い石段の坂を上りながら、写真を撮っておりますと、道はやがて仁王門の下に通じ、本堂前庭に至ります。



徒歩の労を惜しみ、仁王門近くの駐車場まで車を登らせて来た人は、途中の紅葉はすべて見逃すことになり、はるばる何しに来たのやら分らなくなりますので、老婆心ながら一言御注意申しあげるのが、宜しいのかとは存じますが、‥‥人の気持は十人十色とも申しますのでね、敢て勧めるのもいかがなものでございましょう‥‥。





仁王のことを金剛力士とも申しますが、そういえば横綱の日馬富士が暴力沙汰を引き起して引退するそうですが、それはそれとして老人としては、白鵬の物言い事件の方に、もっと驚かされたのでございますな、‥‥。

相撲自体は、ただ単に白鵬の不用意にして腰高な張り差しに対して、嘉風が良い型に腰を落として、もろ差しに寄り切ったという、どちらが横綱か分らないようなものながらも、極く普通の相撲だったのですが、ところが白鵬は何を勘違いしたものか、1分間も土俵下に立ったまま何かを指さしながら抗議して、嘉風に勝ち名乗りを挙げさせなかったというのですからな、‥‥。相撲道も地に堕ちたというか、何というか、‥‥いやはやでございますが、‥‥。

更に、行司の他に五人いる審判員が事に当って、いかような対処もせず、かくも見苦しき状態に至るに及んでは、まことに驚かされたものでございますが、貴乃花の引退以来、もう15年ぐらい相撲のテレビを見ていないことになりますので、これもYouTubeでようやく知ったようなわけですが、推して知るべし、どうやら見なくて正解だったようでございますな、‥‥。

但だ視聴率/購読数のみを優先する低級メディアにせっつかれるままに、名目横綱を大量生産してきた報が、今ようやく現れたということでしょうか、‥‥。これも禍を転じて福となれば宜しいのでございますがね、‥‥。



前庭を挟んで仁王門に対する本堂は入母屋造り、桧皮葺、桁行梁間ともに7間、床下に亀腹を有し、3間の向拝を付した鎌倉時代の和様建築で、パンフレットによれば国宝第一号指定だそうでございます。



本堂横には、同じく国宝の桧皮葺、和様建築の三重塔が立っています。

各屋根の逓減率が小さいのに二層三層の軒が低いのと、各層の軒が深いのとが相俟って軽やかさを欠き、やや鈍重な感じを受けますが、なにしろ非常に近くから見ることになりますので、それが好もしくないかと言われれば、そうとも言い切れないというところが、これまた微妙でございますな、‥‥。





本堂北側の木立に、ようやく朝の光が差してきました。紅葉の美しい時間帯は、これからなのですが、老人には寒さがだんだんこたえられなくなってきましたので、もう帰ることに致しましょう。



暗い杉木立の中の紅葉が光を受けて、鮮やかに輝いています。朝露に濡れた紅葉も好いものですが、やはり光に透けた美しさにはかないませんな、‥‥。



観光バスの第一陣が到着したものと見えますな、どうやら冬の長いコートを召した方が多いように見受けられます。 老人の薄手のジャンパーでは、道理で寒いはずでございましたな、自ら不注意を恥じねばなりますまい、‥‥。

*********************************


  帰途、醒ヶ井の駅近くの、≪虹鱒料理 おたべ≫という店で、鱒寿司と鱒の甘露煮とを買い求め、家で写真を撮りました。老人には鱒寿司が少し大き過ぎますが、味の方が抜群ですので、近くを通るたびに買わずにはいられません。
では今月はここまで、また来月お会いしましょう、それまで御機嫌よう。
!!! Merry Christmas & Happy New Year !!!
  (西明寺  おわり)

<Home>