古物の売買というのは、昔から油断禁物とされて来た所で、善良な売り主にまじって、善良ならざる者達も相当数、どうやら2~3割ぐらいはいるようで、老人もしばしば欺されては、臍を噬んでいるような次第ですが、たまには「結構な優品」を、極々安価に手に入れることができますのでね、‥‥この道ばかりは、一度嵌れば、容易に抜け出せるものではございません、‥‥
しかしながら、さりながら、どっしりと重い、この食籠なんぞは、かなり自慢できる品ではないかと思うのですが如何でしょう、‥‥織部焼ですね、‥‥丸みを帯びた蓋に、鉄の墨汁で若松が描かれおりますが、好く実体を彷彿させますし、‥‥粋な二枚重ねの摘みと、美しい青緑色の釉薬とで、美事に重量バランスが取られています。 やや武骨の気分なきにしもあらずでございますがな、‥‥なお気品が感じられるのがいかにも不思議です。
こうして見ると、上辺の窯疵すら欠点とはならず、この大きな割れ目が、何等かのアクセントを担っているのではないかとさえ思えて来ますな、‥‥
いやあ、良い買物でした、‥‥。
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