カヌレ・ボルドレー


昨夜の雨に大気が洗われたのでしょう、七月下旬の強い光線に照らされた草花が、透明に輝いて、とても美しく見えます。
すぐ近くの貸し農園のこととて、急いで家に帰ってカメラを持ち出し、写真を撮っていますと、後から家内もカメラを手にして現れ、やはり同じようなアングルで写真を撮っています。

譲り合いは家庭円満の秘訣、仕方ありません、冒頭の権利は譲ることにいたしましょう。
とは言いましても、よく光を捉えているところは、向こうの方が一枚上手ですかな、中学の写生大会で賞を取ったことがあるとか申して威張っていたこともございますので、そういう賞に縁のない老人としては、到底勝ち目がございません。



次も家内の写真です。
背景を暗くなるようにして撮ったそうですが、当然とはいえ、その心がけは褒めてやらねばなりません。褒めて育てると申しますからね、‥‥。老人の写真が下手なのは、ひょっとして誰にも褒められたことがないからかも知れませんな、‥‥。



さて、いよいよお待ちかね、老人の撮った百日草の写真ですが、‥‥。

――何、この女々しさ!!。
――乙女チック!!、あなた、女優の誰それが好きなんでしょう!!。
[傍白で]≪何うして知っているのだ、‥‥それししても何だ、この辛辣さは?≫



――光が死んでる、輝きがない!!、‥‥。
――面白くない、構図が平凡!!、‥‥。
――日の丸写真、下手の典型!!、‥‥。

≪えーいッ、うっとうしい、勝手にほざいていろ!、‥‥。≫
≪俺は、これが好きなんじゃ!、‥‥。≫

とまあ、こうなることは、初めから分っていますからね、‥‥皆様方も、御自分の趣味を配偶者と分かち合われる時には、今一度御一考なさるのが宜しうございましょうな、‥‥。

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[閑話休題]
参院選挙も終ってみますと、大方の予想通り、自民党の大勝でございました。
先月に引き続き、『ベニスの商人』になぞらえてみれば、われ等の引いたのは、はたして金の篋なりや、銀の篋なりやと言うところでございますが、‥‥

初めは、金の篋からですな、――
All that glitters is not gold;
Often have you heard that told:
Many a man his life hath sold
But my outside to behold:
Gilded tombs do worms enfold.
Had you been as wise as bold,
Young in limbs, in judgment old,
Your answer had not been inscroll'd:
Fare you well; your suit is cold.

光り輝くもの、必ずしも金ならずと、
しばしば語られているが、お前にも聞いたことがあろう。
なんと多くの男たちが、その生活を売り渡し、
我が外見に、見いってきたことか。
金ぴかの墓石が、うじ虫どもを抱いておる。
お前の智慧が、その鉄面皮ほどにもあれば、
若き手足ほどにも、その判断が老練ならば、
お前の答えも、また違っていたであろうに。
ご機嫌よう、お前の求婚はすでに潰えたり。
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次は、銀の篋、――
The fire seven times tried this:
Seven times tried that judgment is,
That did never choose amiss.
Some there be that shadows kiss;
Such have but a shadow's bliss:
There be fools alive, I wis,
Silver'd o'er; and so was this.
Take what wife you will to bed,
I will ever be your head:
So be gone: you are sped.

火が七たび、この篋を鍛えたからには、
判断も、七たび試みられねばならず、
さすれば、選び間違うこともなかったであろう。
影法師に、口づけする者があったとしても、
それ等の喜びは、影法師ほどにしか得られまい。
世の中に阿呆がおるのは、確かにそうだ、
銀に被われた阿呆が、まさにここに居る。
お前が、何のような妻を望もうとも、
わたしは、常にお前の顔に張り付いていよう、
もはや立ち去れ、お前の分は終った。
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カヌレ( Cannelés Bordelais )、ワインで有名なボルドー( Bordeaux )のお菓子です。
ボルドーの女子修道院で、古くから作られていたものだそうですが、それらしく、質素と美味とを兼ね備えたお菓子ですね。そこでレシピを見てみますと、謂わゆる、ゆるめのカスタード・クリームを型に流し込んで1時間ぐらい焼き、焦げ目をつけたもののようで、材料も作るのも簡単極まりなく、失敗しようがないように思えましたのでね、作ってみたという訳なのです。

初めてカヌレを作ろうと思えば、まづ最初にカヌレ型を手に入れなくてはなりません。カスタード・プリンなどの他の型で代用しても、特別出来上がりに差があるものとも思われませんがね、何しろカヌレ( Cannelés )という言葉が、柱に縦溝を彫るという意味の動詞カヌレ( canneler )より派生した、「溝の彫られた/溝のある」という意味の形容詞/名詞である以上、溝のないカヌレはカヌレではないことになりますので、カヌレを作ろうと思えば、どうしても溝のあるカヌレ型を使わなくてはならないということになるのです。

味は、そうですね、よくできた焼き芋、甘い蜜の入った上等の焼き芋に焦げ目がついて、ほろ苦いチョコレートの風味も、そこはかとなく感じられなくもないというところでしょうか、‥‥。

それでは、作り方を見てみましょう、――


≪カヌレの作り方≫
≪材料:6個分≫
  1. 牛乳:250cc
  2. グラニュー糖:125g
  3. 薄力粉:63g
  4. 卵黄:2個分
  5. 卵白:1/2個分
  6. バター:15g
  7. ラム酒:20cc
  8. バニラビーンズ:1/2本
  9. バター(型に塗る分):少々
  10. 蜂蜜(型に塗る分):少々
≪作り方≫
  1. バニラビーンズをサヤごと縦半分に切り裂き、中の粒を扱いて取り出す。
  2. 鍋に牛乳、バター、バニラビーンズ(サヤ+粒)を入れて、60℃に熱する。
  3. ボールに卵黄、卵白、グラニュー糖を入れ、泡立て器でよく混ぜる。
  4. 3.のボールに、2.を加え泡立て器でよく混ぜる。
  5. 4.に小麦粉を加えて、泡立て器で静かに混ぜる。
  6. 別のボールに、ステンレスのザルで漉し、ザルに残ったバニラビーンズのサヤを再度入れる。
  7. ラム酒を加えて軽く混ぜる。
  8. ボールにラップをして、冷蔵庫で12時間以上休ませる。
  9. ボールを冷蔵庫より出して、室温に戻す。夏:約30分、冬:約2時間。
  10. オーブンに天板をセットし、240℃で余熱する。
  11. バターと蜂蜜を塗った型を冷蔵庫で約10分冷やす。
  12. 9.のボールをヘラ等を用いて、静かに底まで上下を返して、均一にし、バニラビーンズのサヤを取り除く。
  13. 型に8分目ぐらいまで注いで、オーブンに入れ、240℃で10分、200℃で45分加熱する。
  14. 途中で窓から覗いて、焼き色が濃すぎるようであれば、アルミホイルを被せて調節する。
  15. 型をはずして、クーラー等で自然に冷ます。
  16. 室温になれば食べられるが、12時間以上置いた方がよいと言う人もいる。
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わが家の、大切な同居人をご紹介いたしましょう。

例年は、もっと早く、もっと大勢で出て来ますが、やはり世の中が宜しくないのでしょうか、七月に入ってから、ようやく見かけましたのでね、家内総出で歓迎しているところなのです、――

    最初は雨蛙、椿の葉っぱの上で休息しています。


  次も雨蛙、椿の枝の上ですので、お腹の下の模様を、どうやら背中の方に映し出しているようですね。


  今度は芋虫、大好きな山椒の葉っぱの上で休んでいます。木が小さいのが気がかりですが、同居人ですからね、それは気にしないことにいたしましょう。


  ヤモリ、一番嬉しい同居人です。紅葉のような手を広げて、つぶらな瞳が素敵です。玄関のガラスに止まっていますが、今年は餌になる虫の少ないのが困ったところです。

では今月はここまで、また来月お会いしましょう、それまでご機嫌よう。
  (カヌレ・ボルドレー  おわり)

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