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金剛輪寺


  小雨の中、傘を差しながらの撮影行なんてことは、あまり有り難くもないところですが、なにせ8月も28日ともなりますと、余すところはや4日、そう青天を待ってばかりもいられません。

  ということで、やって参りましたのは、ここ滋賀県は「湖東三山」として聞こえの高い、名刹三ヶ寺中の真ん中の寺、「金剛輪寺」でございます。初は三山を一度に巡ろうという心づもりでしたが、南の「百済寺」で、有名な本坊の庭園を拝観しております中に、雨脚いよいよ劇しく、数百メートルの苔で滑る石段を登るのは、やはり無謀であり、楽な所一ヶ寺に絞るのが賢明であろうと考えるに至ったということなのですな、‥‥。

  寺側の配慮で、途中まで車で上れるようになっているのは、有り難いのですが、山寺のこととて、石段をまったく避けるという訳にはまいりません、最後の100メートルばかりは、雨に滑る石段に注意しながら、傘を差して一歩一歩登ってゆきますと、やがて仁王門が見えてまいりました。

  二王尊に供えられた特大の草鞋が見えています、‥‥。
  門からは、僅か10メートルぐらいの間隔で、本堂が建っています。



  本堂は桁行、梁間共に七間の大堂に入母屋、桧皮葺の屋根、棟には聖武天皇の勅願の所由か、三個の菊花紋を金色に輝かし、正面に向拝無く、七間皆蔀戸(しとみど)を設けるという、非常に豪壮な建物ですが、残念なことに正面からは、植栽その他が邪魔をして、よい写真が撮れません。そこで斜め前方に回りますと、一直線の軒の稜線が画面を截然と区切り、その両端の反りが桧皮葺らしい軟らかさを見せているという、その対比に非常な美しさが感じられます。

  正面の軒には扁額が掛けられており、「大悲閣」の三文字が読み取れますので、御本尊が、「観世音菩薩」であることが分ります。

  本堂の中に入りますと、鏡のように磨きこまれた床板に、この規模にしても太すぎる柱が56本も林立して、見る者を圧倒しております。梁間(奥行き)でいいますと、前3間を外陣、中央2間を内陣、後2間を須弥檀裏とし、外陣と内陣とは蔀戸風に菱格子で仕切られています。

  須弥壇上には、中央の巨大な厨子には秘仏の聖観世音菩薩立像を安置し、厨子の左右奥には、向って右側が不動明王、左が毘沙門天、更にその外の左右に二体の阿弥陀仏坐像を置いて本尊の脇侍とし、各各の阿弥陀像の前方左右に二体づつ、四天王を配するという、密教的祈りの空間が現わされています。

  要するに、中央の観世音菩薩は、衆生済度の実践を司り、その実践力を生み出す智慧を二体の阿弥陀仏に托すという図式で非常にユニークですが、理にかなっているとも言えますな、‥‥。

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  「法華経観世音菩薩普門品」に、観世音菩薩の功徳を詳しく挙げていますので、その前半部分を読んでみましょう、――

爾時無盡意菩薩即從座起。偏袒右肩合掌向佛而作是言。世尊。觀世音菩薩。以何因緣名觀世音。
爾の時、無尽意菩薩は、即ち座より起ちて、偏(ひとえ)に右肩を袒(はだぬ)ぎ、合掌し、仏に向かいて、是の言を作さく、「世尊、観世音菩薩は、何の因縁を以って、観世音と名づくるや」と。

  :無尽意(むじんに):菩薩の名。無尽の菩提心をいう。
  :偏袒右肩(へんたんうけん):衣を片脱ぎし右肩を露出する礼法。
その時、
無尽意菩薩は、
座より起つと、
右肩を袒(はだぬ)いで合掌し、
仏に、こう言った、――
「世尊!、
観世音菩薩は、
何の因縁を以って、
観世音と、
呼ばれるのですか?」と。
佛告無盡意菩薩。善男子若有無量百千萬億眾生受諸苦惱。聞是觀世音菩薩。一心稱名。觀世音菩薩即時觀其音聲皆得解脫。若有持是觀世音菩薩名者。設入大火火不能燒。由是菩薩威神力故。
仏の無尽意菩薩に告げたまわく、「善男子、若(も)しは無量百万億の衆生有りて、諸の苦悩を受くるに、是れ観世音菩薩なりと聞いて、一心に名を称せば、観世音菩薩は、即時に、其の音声を観て、皆、解脱を得しめん。若しは、是の観世音菩薩の名を持する者有らば、設(たと)い大火に入らんにも、火の焼くこと能わざらん。是の菩薩の威神の力に由るが故なり。

  :善男子(ぜんなんし):男子に対する呼びかけのことば。
  :解脱(げだつ):繋縛を解いて、苦を脱れる。
  :威神(いじん):神秘的な威厳。
仏は、
無尽意菩薩に、こう告げられた、――
「善男子!、
若(も)し、
無量百万億の衆生が有り、
諸(もろもろ)の苦悩を受けていたとしても、
是(こ)れが、
観世音菩薩であると聞いて、
一心に、
名を、
称(とな)えるならば、
観世音菩薩は、
即時に、
その音声を聞いて、
皆、
苦悩を、
脱(のが)れさせるだろう。
或(ある)いは、
是の、
観世音菩薩の名を記憶しているだけでも、
たとえ、
大火に入ろうとも、
火は、
焼くことができないだろう。
是の、
菩薩の、
威神の力によるからである。
若為大水所漂。稱其名號即得淺處。若有百千萬億眾生。為求金銀琉璃車磲馬瑙珊瑚虎珀真珠等寶。入於大海。假使黑風吹其船舫。飄墮羅剎鬼國。其中若有乃至一人。稱觀世音菩薩名者。是諸人等。皆得解脫羅剎之難。以是因緣名觀世音。
若しは、大水の為に漂(ただよ)わされんに、其の名号を称せば、浅き処を得ん。若しは、百千万億の衆生有りて、金銀、瑠璃、車磲、馬瑙、珊瑚、琥珀、真珠等の宝を求めんが為に、大海に入らん、仮使(たと)い黒風の其の船舫を吹きて、羅刹鬼国に飄堕せしめんとも、其の中に若し、乃至一人有りて、観世音菩薩の名を称せば、是の諸人等は、皆、羅刹の難を解脱するを得ん。是の因縁を以って、観世音と名づく。

  :大水(だいすい):大河。
  :黒風(こくふう):暴風。
  :船舫(せんぼう):船の一種。
  :羅刹(らせつ):悪邪なる鬼神。
  :飄堕(ひょうだ):漂着。
  :乃至(ないし):少なくとも。
或いは、
大河に、
流されたとしても、
観世音菩薩の、
名号を称えれば、
浅い所に、
着けるだろう。
或いは、
百千万億の衆生が有り、
金銀、瑠璃、車磲、珊瑚、琥珀、馬瑙、真珠等の、
宝を求めて、
大海に入るとする、
たとえ、
暴風に吹かれて、
その船が、
羅刹鬼の国に、
漂着したとしても、
若し、
ただの一人でも、
観世音菩薩の、
名を呼んだとすれば、
是の、
諸の人たちは、
皆、
羅刹鬼の、
難を、
脱れられるだろう。
是の因縁で、
観世音と、
呼ばれるのである。
若復有人。臨當被害。稱觀世音菩薩名者。彼所執刀杖。尋段段壞。而得解脫。
若しは復た有る人、当に害せらるべきに臨んで、観世音菩薩の名を称せば、彼の執る所の刀杖は、尋(つ)いで段段に壊れて、解脱を得ん。

  :刀杖(とうじょう):武器。
  :尋(じん):ついで。にわかに。突然。
或いは、
また有る人が、
殺害されようとする時、
観世音菩薩の、
名を呼べば、
殺害者の、
手にする、
武器は、
べきべきに折れて、
殺害の、
難を、
脱れられるだろう。
若三千大千國土滿中夜叉羅剎。欲來惱人。聞其稱觀世音菩薩名者。是諸惡鬼。尚不能以惡眼視之。況復加害。
若しは、三千大千国土の中に満つる、夜叉、羅刹の来たりて、人を悩ませんと欲するに、其の観世音菩薩の名を称するを聞かば、是の諸の悪鬼は、尚お悪眼を以ってすら、之を視る能わず、況んや、復た加害せんをや。

  :三千大千(さんぜんだいせん):千の千倍の千倍いう。十億。
  :夜叉(やしゃ):悪鬼の類。
  :悪眼(あくげん):悪意の眼。
或いは、
三千大千国土中に満ちる、
夜叉や、
羅刹が来て、
人を、
悩まそうとしても、
その人の呼ぶ、
観世音菩薩の、
名を聞けば、
是の、
諸の悪鬼は、
悪意の眼で、
視ることすらできず、
まして、
害を、
加えるはずがないのである。
設復有人。若有罪若無罪。杻械枷鎖檢繫其身。稱觀世音菩薩名者。皆悉斷壞即得解脫。
設(も)しは復た有る人、若しは有罪、若しは無罪にして、杻械、枷鎖に、其の身を検繋せられんに、観世音菩薩の名を称せば、皆悉く、断壊して、即ち解脱を得ん。

  :杻械(ちゅうかい):手かせ足かせ。
  :枷鎖(かさ):首かせと手鎖。
  :検繋(けんけ):手かせでつなぐ。
或いは、
有る人が、
有罪か、
無罪かで、
手かせ足かせ、
手ぐさり足ぐさりで、
身を、
繋(つな)がれていても、
観世音菩薩の、
名を、
称えれば、
皆、
断ち切れて、
獄を、
脱れられるだろう。
若三千大千國土滿中怨賊。有一商主將諸商人。齎持重寶經過嶮路。其中一人作是唱言。諸善男子勿得恐怖。汝等。應當一心稱觀世音菩薩名號。是菩薩能以無畏施於眾生。汝等。若稱名者。於此怨賊當得解脫。眾商人聞俱發聲言南無觀世音菩薩。稱其名故即得解脫。
若しは、三千大千国土の中に怨賊満ち、一商主有り、諸の商人を将(ひき)いて、重宝を齎持し、険路を経過せん。其の中の一人の是の唱言を作さく、「諸の善男子、恐怖を得ること勿かれ。汝等、応当に一心に観世音菩薩の名号を称すべし。是の菩薩は、能く無畏を以って、衆生に施したもう。汝等、若し名を称せば、此の怨賊に於いて、当に解脱を得べし。」と。衆商人は聞きて、倶に声を発して、「南無観世音菩薩」と言わば、其の名を称するが故に、即ち解脱を得ん。

  :怨賊(おんぞく):盗賊。
  :商主(しょうしゅ):隊商の主。
  :重宝(じゅうほう):貴重な宝。
  :齎持(さいじ):もってゆく。持参する。
  :険路(けんろ):危険な道。
  :経過(きょうか):通りすぎる。通過する。
  :唱言(しょうごん):唱え言う。先にたって言う。
  :得(とく):らる。仕向けられる。
  :恐怖(くふ):おそれる。
  :無畏(むい):畏怖するものが無くなること。安全。
或いは、
三千大千国土中に、
盗賊が、
満ちていたとする、
有る一商主が、
諸の商人を率いて
貴重な宝を持参し、
険路を通過しようとしていた、
その中の一人が、こう言いだした、――
「諸の善男子!、
怖れてはならない!。
お前たちは、
一心に、
観世音菩薩の、
名号を称えておるがよい!。
是の菩薩は、
お前たちに、
無畏を、
施してくださるのだから、
お前たちが、
若し、
名を、
称えておれば、
此の、
盗賊から、
脱れられるはずだ。」と。
商人たちは、
それを聞いて、
一緒に、
「南無観世音菩薩」と、
称えていると、
その名号を、
称えたが故に、
脱れられたのである。
無盡意。觀世音菩薩摩訶薩。威神之力巍巍如是。
無尽意、観世音菩薩摩訶薩の威神の力の巍巍たること、是の如し。

  摩訶薩(まかさつ):大人の意。菩薩摩訶薩は大菩薩の尊称。
  巍巍(ぎぎ):山のように大きいさま。
無尽意!
観世音菩薩摩訶薩の、
威神の力の、
巍巍たることは、
是のようである。
若有眾生多於婬欲。常念恭敬觀世音菩薩。便得離欲。若多瞋恚。常念恭敬觀世音菩薩。便得離瞋。若多愚癡。常念恭敬觀世音菩薩。便得離癡。無盡意。觀世音菩薩。有如是等大威神力多所饒益。是故眾生常應心念。
若し有る衆生、婬欲多くとも、常に念じて観世音菩薩を恭敬せば、便ち欲を離るるを得ん。若しは瞋恚多くとも、常に念じて観世音菩薩を恭敬せば、便ち瞋を離るるを得ん。若しは愚癡多くとも、常に念じて観世音菩薩を恭敬せば、便ち癡を離るるを得ん。無尽意、観世音菩薩は、是の如き等の大威神の力有りて、饒益する所多し。是の故に衆生は常に応に心に念ずべし。

  :衆生(しゅじょう):生き物。人。
  :婬欲(いんよく):性欲。
  :瞋恚(しんに):怒り。
  :愚癡(ぐち):真理にうといこと。
  :恭敬(くぎょう):恭しくうやまう。
  :饒益(にょうやく):豊かに益する。大利益。
或いは、
有る衆生の、
婬欲が、
多かったとしても、
常に、
観世音菩薩を念じて、
恭敬していたならば、
容易に、
欲を、
離れられるだろう、
或いは、
瞋恚が、
多かったとしても、
常に、
観世音菩薩を念じて、
恭敬していたならば、
容易に、
瞋を、
離れられるだろう、
或いは、
愚癡が、
多かったとしても、
常に、
観世音菩薩を念じて、
恭敬していたならば、
容易に、
癡を、
離れられるだろう。
無尽意!、
観世音菩薩の、
是のような、
大威神の力は、
利益することが、
非常に多いのであり、
是の故に、
衆生は、
常に、
心に、
念じていなくてはならないのである。
若有女人設欲求男。禮拜供養觀世音菩薩。便生福德智慧之男。設欲求女。便生端正有相之女。宿殖德本眾人愛敬。
若し有る女人、設しは男を求めんと欲して、観世音菩薩を礼拝し供養せば、便ち福徳の智慧の男を生ぜん。設しは女を求めんと欲せば、便ち端正有相の女を生じ、宿殖の徳本を衆人は愛敬せん。

  :福徳(ふくとく):生まれつきの徳。
  :端正有相(たんじょううそう):整って見た目がよい。
  :宿殖(しゅくじき):前世に種えた。
  :徳本(とくほん):徳の根本。
  :衆人(しゅにん):多くの人。
  :愛敬(あいきょう):愛しうやまう。
或いは、
有る女人が、
男子を欲しがり、
観世音菩薩を、
供養し礼拝していたならば、
やがて、
福徳の智慧をもった、
男子を生むだろう。
或いは、
女子が欲しくて、
観世音菩薩を、
供養し礼拝していたならば、
やがて、
見目麗しい、
女子を産んで、
その子の、
前世よりの徳本は、
多くの人に愛敬されるだろう。
無盡意。觀世音菩薩。有如是力。若有眾生。恭敬禮拜觀世音菩薩。福不唐捐。是故眾生。皆應受持觀世音菩薩名號。
無尽意、観世音菩薩には、是の如き力有り。若し有る衆生、観世音菩薩を恭敬し、礼拝せば、福は唐捐せざらん。是の故に、皆応に観世音菩薩の名号を受持すべし。

  :唐捐(とうえん):空しく棄てる。
無尽意!、
観世音菩薩には、
是のような、
力が有るので、
若し、
有る衆生が、
観世音菩薩を、
恭敬して、
礼拝しておれば、
福は、
空しく、
見捨てることはない。
是の故に、
衆生は、
皆、
観世音菩薩の、
名号を受持すべきである。
無盡意。若有人受持六十二億恒河沙菩薩名字。復盡形供養飲食衣服臥具醫藥。於汝意云何。是善男子善女人功德多不。無盡意言。甚多世尊。
無尽意、若しは有る人、六十二億恒河沙の菩薩の名字を受持して、復た形の尽くるまで、飲食、衣服、臥具、医薬を供養せん。汝の意に於いて云何。是の善男子、善女人の功徳は多しや、不や。無尽意の言わく、「甚だ多し、世尊。」と。

  :恒河沙(ごうがしゃ):ガンジス河の河底の砂粒の数。多数の譬喩。
  :尽形(じんぎょう):形を尽くすまで。一生涯。
無尽意!、
若し、
有る人が、
六十二億恒河沙の菩薩の、
名字を受持して、
一生涯、
飲食、衣服、臥具、医薬を、
供養したならば、
お前の、
意見では、
どう思うのか?
是の、
善男子や、
善女人の
功徳は、
多いだろうか?
無尽意は、
こう言った、――
非常に多いと思います!、
世尊!と。
佛言。若復有人受持觀世音菩薩名號。乃至一時禮拜供養。是二人福正等無異。於百千萬億劫不可窮盡。無盡意。受持觀世音菩薩名號。得如是無量無邊福德之利
仏の言わく、「若しは復た有る人、観世音菩薩の名号を受持して、乃至一時ばかり、礼拝供養せん。是の二人の福は正等無異にして、百千万億劫に於いて窮尽すべからず。無尽意、観世音菩薩の名号を受持せば、是の如き無量無辺の福徳の利を得ん。

  :一時(いちじ):約2時間。
  :劫(こう):宇宙の生滅を単位とする時間の長さ。
仏は、
こう言われた、――
若し、
有る人が、
観世音菩薩の、
名号を受持して、
ほんの一時ばかり、
礼拝し、
供養したとしても、
是の、
二人の、
福は、
正しく等しくして、
異ならず、
百千万億劫、
説いても、
窮め尽くすことができない。
無尽意!
観世音菩薩の、
名号を、
受持する者は、
是のような、
無量無辺の、
福徳の利を得るのである、と。
無盡意菩薩白佛言。世尊。觀世音菩薩。云何遊此娑婆世界。云何而為眾生說法。方便之力。其事云何。
無尽意菩薩の仏に白(もう)して言(もう)さく、「世尊、観世音菩薩は、云何が、此の娑婆世界に遊び、云何が、衆生の為に法を説き、方便の力の其の事は、云何ん。」と。

  :娑婆世界(しゃばせかい):世俗の世界。
  :方便(ほうべん):てだて。手段。方法。
  :事(じ):用いる。使う。
無尽意菩薩は、
仏に白(もう)して、こう言った、――
「世尊!、
観世音菩薩は、
何(ど)のように、
此の娑婆という、
世界に遊び、
何のように、
衆生の為に、
法を説き、
方便には、
何のような、
力を、
用いるのでしょうか?」と。
佛告無盡意菩薩。善男子。若有國土眾生應以佛身得度者。觀世音菩薩。即現佛身而為說法。應以辟支佛身得度者。即現辟支佛身而為說法。應以聲聞身得度者。即現聲聞身而為說法。
仏の無尽意菩薩に告げたまわく、「善男子、若しは有る国土の衆生の、応(まさ)に仏の身を以って、度を得しむべくんば、観世音菩薩は、即ち仏の身を現わして、為に法を説き、応に辟支仏の身を以って、度を得しむべくんば、即ち辟支仏の身を現わして、為に法を説き、応に声聞の身を以って、度を得しむべくんば、即ち声聞の身を現わして、為に法を説く。

  :得度(とくど):彼岸に渡る道を得ること、又得させること。
  :辟支仏(びゃくしぶつ):仏の縁に依らず、自ら覚りを得る者。
  :声聞(しょうもん):仏の声を聞いて、覚りを得る者。
仏は、
無尽意菩薩に、こう告げられた、――
「善男子!
若し、
有る国土の、
衆生が、
仏の、
身を以って、
度を得さすべき者であれば、
観世音菩薩は、
その者の為に、
仏の、
身を現わして、
法を説くだろう、
辟支仏の、
身を以って、
度を得さすべき者の為には、
辟支仏の、
身を現わして、
法を説くだろう、
声聞の、
身を以って、
度を得さすべき者の為には、
声聞の、
身を現わして、
法を説くだろう。
應以梵王身得度者。即現梵王身而為說法。應以帝釋身得度者。即現帝釋身而為說法。應以自在天身得度者。即現自在天身而為說法。應以大自在天身得度者。即現大自在天身而為說法。應以天大將軍身得度者。即現天大將軍身而為說法。應以毘沙門身得度者。即現毘沙門身而為說法。
応に梵王の身を以って、度を得しむべくんば、即ち梵王の身を現わして、為に法を説き、応に帝釈の身を以って、度を得しむべくんば、即ち帝釈の身を現わして、為に法を説き、応に自在天の身を以って、度を得しむべくんば、即ち自在天の身を現わして、為に法を説き、応に大自在天の身を以って、度を得しむべくんば、即ち大自在天の身を現わして、為に法を説き、応に天大将軍の身を以って、度を得しむべくんば、即ち天大将軍の身を現わして、為に法を説き、応に毘沙門の身を以って、度を得しむべくんば、即ち鞞沙門の身を現わして、為に法を説く。

  :梵王(ぼんのう):色界に属する天。
  :帝釈(たいしゃく):欲界忉利天の主。
  :自在天(じざいてん):欲界頂天の主。
  :大自在天(だいじざいてん):色界頂天の主。
  :天大将軍(てんだいしょうぐん):色界梵天に属する大将軍。
  :毘沙門(びしゃもん):欲界四天王天の一。北方を司る。
梵王の、
身を以って、
度を得さすべき者の為には、
梵王の
身を現わして、
法を説くだろう、
帝釈の、
身を以って、
度を得さすべき者の為には、
帝釈の
身を現わして、
法を説くだろう、
自在天の、
身を以って、
度を得さすべき者の為には、
自在天の
身を現わして、
法を説くだろう、
大自在天の、
身を以って、
度を得さすべき者の為には、
大自在天の
身を現わして、
法を説くだろう、
天大将軍の、
身を以って、
度を得さすべき者の為には、
天大将軍の
身を現わして、
法を説くだろう、
毘沙門の、
身を以って、
度を得さすべき者の為には、
毘沙門の
身を現わして、
法を説くだろう。
應以小王身得度者。即現小王身而為說法。應以長者身得度者。即現長者身而為說法。應以居士身得度者。即現居士身而為說法。應以宰官身得度者。即現宰官身而為說法。應以婆羅門身得度者。即現婆羅門身而為說法。
応に小王の身を以って、度を得しむべき者には、即ち小王の身を現わして、為に法を説き、応に長者の身を以って、度を得しむべき者には、即ち長者の身を現わして、為に法を説き、応に居士の身を以って、度を得しむべき者には、即ち居士の身を現わして、為に法を説き、応に宰官の身を以って、度を得しむべき者には、即ち宰官の身を現わして、為に法を説き、応に婆羅門の身を以って、度を得しむべき者には、即ち婆羅門の身を現わして、為に法を説く。

  :小王(しょうおう):属国の王。
  :長者(ちょうじゃ):豪富の者。
  :居士(こじ):仏教を信奉する長者。
  :宰官(さいかん):宰相。大臣。
  :婆羅門(ばらもん):祭祀・学門を司る家柄。印度四姓の一。
小王の、
身を以って、
度を得さすべき者の為には、
小王の
身を現わして、
法を説くだろう、
長者の、
身を以って、
度を得さすべき者の為には、
長者の
身を現わして、
法を説くだろう、
居士の、
身を以って、
度を得さすべき者の為には、
居士の
身を現わして、
法を説くだろう、
宰官の、
身を以って、
度を得さすべき者の為には、
宰官の
身を現わして、
法を説くだろう、
婆羅門の、
身を以って、
度を得さすべき者の為には、
婆羅門の
身を現わして、
法を説くだろう。
應以比丘比丘尼優婆塞優婆夷身得度者。即現比丘比丘尼優婆塞優婆夷身而為說法。應以長者居士宰官婆羅門婦女身得度者。即現婦女身而為說法。應以童男童女身得度者。即現童男童女身而為說法。
応に比丘、比丘尼、優婆塞、優婆夷の身を以って、度を得しむべき者には、即ち比丘、比丘尼、優婆塞、優婆夷の身を現わして、為に法を説き、応に長者、居士、宰官、婆羅門の婦女の身を以って、度を得しむべき者には、即ち婦女の身を現わして、為に法を説き、応に童男、童女の身を以って、度を得しむべき者には、即ち童男、童女の身を現わして、為に法を説く。

  :比丘(びく):仏教教団中の男の修行者。
  :比丘尼(びくに):仏教教団中の女の修行者。
  :優婆塞(うばそく):仏教教団に属する男の信者。
  :優婆夷(うばい):仏教教団に属する女の信者。
  :婦女(ふにょ):婦人・子女。
  :童男(どうなん):成人前の男子。
  :童女(どうにょ):成人前の女子。
比丘、比丘尼、優婆塞、優婆夷の、
身を以って、
度を得さすべき者の為には、
比丘、比丘尼、優婆塞、優婆夷の
身を現わして、
法を説くだろう、
長者、居士、宰官、婆羅門の婦女の、
身を以って、
度を得さすべき者の為には、
婦女の
身を現わして、
法を説くだろう、
童男・童女の、
身を以って、
度を得さすべき者の為には、
童男・童女の
身を現わして、
法を説くだろう。
應以天龍夜叉乾闥婆阿修羅迦樓羅緊那羅摩睺羅伽人非人等身得度者。即皆現之而為說法。應以執金剛身得度者。即現執金剛身而為說法。
応に天、龍、夜叉、乾闥婆、阿修羅、迦楼羅、緊那羅、摩睺羅伽、人非人等の身を以って、度を得しむべき者には、即ち皆、之を現わして、為に法を説き、応に執金剛の身を以って、度を得しむべき者には、即ち執金剛の身を現わして、為に法を説く。

  :乾闥婆(けんだつば):楽神。
  :阿修羅(あしゅら):戦闘神。
  :迦楼羅(かるら):天の巨鳥。
  :緊那羅(きんなら):歌神。
  :摩睺羅伽(まごらが):蟒神。蛇神。
  :人非人(にんぴにん):一説に緊那羅に同じ。
  :執金剛(しゅうこんごう):金剛力士。二王尊の一。仏教を守護する夜叉の名。
天、龍、夜叉、
乾闥婆、阿修羅、迦楼羅、
緊那羅、摩睺羅伽、人非人等の、
身を以って、
度を得さすべき者の為には、
皆、これの
身を現わして、
法を説くだろう、
執金剛の、
身を以って、
度を得さすべき者の為には、
執金剛の
身を現わして、
法を説くだろう。
無盡意。是觀世音菩薩。成就如是功德。以種種形遊諸國土度脫眾生。是故汝等。應當一心供養觀世音菩薩。是觀世音菩薩摩訶薩。於怖畏急難之中能施無畏。是故此娑婆世界。皆號之為施無畏者。
無尽意、是の観世音菩薩は、是の如き功徳を成就して、種種の形を以って、諸の国土に遊び、衆生を度脱す。是の故に、汝等は、応当に一心に、観世音菩薩を供養すべし。是の観世音菩薩摩訶薩は、怖畏、急難の中に於いて、能く無畏を施す。是の故に此の娑婆世界は、皆之を号して、施無畏者と為す。

  :度脱(どだつ):彼岸に渡り、苦悩を脱れる。又脱れしむ。
  :怖畏(ふい):恐怖。
  :急難(きゅうなん):緊急の災難。
  :無畏(むい):安全。
無尽意!
是の観世音菩薩は、
是のような、
功徳を成就し、
種種の形を以って、
諸の、
国土に遊んで、
衆生を、
度脱するのである。
是の故に、
お前たちは、
一心に、
観世音菩薩を、
供養しなくてはならない。
是の観世音菩薩は、
怖畏・苦難の中に於いて、
無畏を、
施すことができる。
是の故に、
此の娑婆世界では、
皆が、
無畏を施す者と、
呼ぶのである。




  本堂に向って左側のやや小高い所に三重塔が立っていますが、やはり木立に遮られて全貌を見ることができません。

  この寺は非常に見所の多い寺と言えますが、これほど写真になりにくい寺も少ないのではないでしょうか、‥‥特に傘を差しながらでは何ともなりません。



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  本坊の杉戸は新しいものですので、この龍の画も恐らくは無名の方が描いたではないでしょうか。しかし写真には撮っておきましょう、或いは有名な方の作で、仁和寺の法師だと笑われてもいけませんのでネ、‥‥。

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  今月は、仲秋の明月にちなんで月見そばを食べましょう。
《月見そばの作り方》
  1. だし汁(カツオ、コンブ)500㏄に、たまり醤油65㏄、味醂5㏄を合せて煮溶かす。
  2. 白ネギを小口から薄切りする。
  3. 乾麺2人前を袋に記載の方法で茹でる。
  4. 椀にそばを入れ、だし汁を張り、海苔を一枚おいて、その上に卵をのせ、白ネギをあしらって薄雲に見立てる。
  5. 好みで、七味唐辛子を添える。
  6. 注意:たまり醤油と海苔とで夜空の暗さを表わすので、薄口醤油などを使ってはいけない。
  7. 注意:白ネギは薄雲に見立てるので、できるだけ薄切りにする。よく切れる包丁を使うこと。

《月見そばの食べ方》
  1. 最初に少量づつのそばで白身をからめ取って食べる。
  2. 黄身は白身がなくなってから、そばにからめて食べる。

では今月はここまで、また来月お会いしましょう、それまでご機嫌よう。
(金剛輪寺  おわり)