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名古屋城


  今年の二月は、なぜか例年に比して、ことのほか寒さが厳しく感じられ、健康のために始めた三十分間の散歩も、いつしかしなくなりまして、書斎に籠もりきっておりますが、どうやらカレンダーの方は着実に歩を進めておりますようで、いつしか春も間近となってまいりました。

  それでいったい、書斎に引き籠もってなにをしているのかと言いますと、要するにこのページに載せる話題ですが、何か書物の間にでも見つからないものかと、ただ当てずっぽうに探しているのですが、何を隠そう、家人に喝破せられたるがごとく、老人の品性は極めて弊劣、好きなものよりは、嫌いなものの方が多く、何事も楽しむよりは、むしろ鬱陶しく感じる方ですので、嫌いな役者、嫌いな食べ物、嫌いな歌手、嫌いな小説家、嫌いな音楽家、嫌いな画家と、まあ嫌いな何々は掃いて捨てるほどありますので、その方面に於いて蘊蓄を語らせれば、とめどなく蜿蜒と、いや延延だったか、続けて人に迷惑がられるなんていうのは、謂わばお茶の子さいさいのお手の物といったところでございますが、その一方、この国には言論の不自由というべきものが堂々とまかり通っておりますのも、また事実でございますので、非常に嫌で、我慢ならないことながらも、堪え難きを堪え、忍び難きを忍んでの心境を以って、「もの言えば唇寒し秋の空」の一句を常に拳拳服膺して、忘れないようにしているのでございます。

  そういえば、「トムソーヤーの冒険」の作者マーク・トウェインにもありましたな、――
これは神さまの
おかげなのだが
わが国には
言葉では表せぬほど
尊い宝が三つある
言論の自由と
良心の自由と
その両者を
決して使おうとしない
慎重さとだ
死者のほかには
言論の自由はない
死者のほかには
真実を語ることは
許されない
アメリカでは
ほかの国でもそうだが
言論の自由は
死者にのみ
限られている
  「ちょっと面白い話」
 (大久保博・編訳 旺文社)より
  と、まあこんなわけで、言いたいことは山ほどありますが、題材にはつねに困っているのでございます。

  例えばですね、何某という役者の踊りは、所作の一つ一つが、ことごとく流れて極め所を欠き、節目を失って、言ってみりゃあ蛸みたくふわふわのぐにゃぐにゃなんだよ、よくもまああんな奴をいったい誰がひいきしてやがるんだろうだとか、何とかいう役者の娘は河豚そっくりのくせして、よくも美人面ができるもんだだとか思う存分言えたなら、話の種なんぞに困ることは絶対ないのですが、そこがそれ、この国の人は、名前の良し悪しのみ見て、藝の方はそっちのけという具合でございましょう? まあ物事を自分で考えるってえことをしないというか、一度レッテルを貼ったら、もう一一の是々非々はどうでもいいってえか、なかなかうっかりしたことは言えない国柄なんですな、‥‥。

  ということで、今月も当り障りのない題材を求めて、やって参りましたのが、あいもかわらぬ名所めぐりというわけで、恥ずかしながら名古屋城でございますな、‥‥


  梅の花を前景に大きく取り入れて、背景に天守閣をおけばなんて陳腐なことを考えておりますると、柵より中に入ってはいけませんというような立て札があったり、どうも他に芝生に入っているような方も見当たりませんので、陳腐もなにも、与えられたものだけで満足するよりしようがありません。

  やっぱり梅の花がお目当てなんでしょうかね? 観光客の中には外人さんもちらほら、‥‥


  さて、写真を撮りながら、天守閣の周囲をぐるっと回って、これは東北の隅でございます、‥‥。
  避難用の階段が、こんなところにへばりついていますのが、なんとも無粋といえば無粋、それでも上まで届かすだけの勇気はでなかったようで、はたしてこんなんで役に立ちますかな?

  写真の上では、過去と現在の融合も、それほど不自然でもございません、かな?‥‥。


  漢詩には、どうしたものか梅の花を取上げたものが、余り多くはございません。
  インターネットに何とか引っかかったのが、宋代の詩人杜耒(とらい)の詩です、――

  寒夜                  宋‧杜耒
  寒夜客來茶當酒
  竹爐湯沸火初紅
  尋常一樣窗前月
  纔有梅花便不同
  寒夜客来たれば、茶を酒に当つ、
  竹爐の湯沸きて、火初めて紅し。
  尋常一様なる、窓前の月も、
  纔かに梅花有りて、便ち同じからず。
  寒い夜に客が来た、茶を出して酒の代わりにしよう、
  竹で編んだ爐には湯がにえたぎり、炭火もようやく紅くなってきた。
  いつものように変り映えのしない、窓の月だが、
  梅の花がぼんやりと見えるだけで、同じものとは思えない。

 :竹爐(ちくろ):竹籠で覆った居間用の爐。
 :纔(さい):わずかに。なんとかやっと。

  杜耒(?-1227)という人は、南宋盱江(江西省臨川)の人、字を子野、号を小山といい、兵乱に死んだということですが、どうも余り有名な人ではないみたいですね。ただ上の詩だけはそうとう人口に膾炙しているということです、‥‥

  「大漢和辞典」に当ってみますと、”尋常一様”と、並びに”竹爐”の二項に、同じく上の詩の全分を挙げるにもかかわらず、その名を”杜秉(とへい)”と恐らくは誤り、あまつさえ、その本名はおろか、字、号、及び誤名に至るまで、まったく記載がありません。

  そこでつらつら、この詩を味わってみますと、寒い夜には熱い茶より、一杯の酒ではないでしょうか?窓にせっかくの月を眺めながら、尋常一様とけなしてみるなんてところも、どうも好きになれませんな、‥‥。駄作でしょう、‥‥。

  と、是々非々も800年も昔のことなら簡単なのですがネ、‥‥


  さて、手当たり次第に写真に撮っておりますと、加藤清正の銅像がたっております。
  槍を片手に、軍扇をひろげ、なにやら黒田節を踊っているように見えますが、‥‥さにあらず、「清正公石曳きの像」と台の銘文にちゃんと刻んであるのでございますな、‥‥

  なるほど、そう言われれば、そのようにも見えます、かな?‥‥。

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  といったところで、今月の料理となる訳ですが、桃の節句にちなみ、「桃まんじゅう」ということなりました、‥‥。  何か変でございますかな?‥‥。

  まずは出来栄えなどを、じっくりと見ていただきましょう、‥‥



  詩經 國風周南    桃 夭
 桃之夭夭 灼灼其華 
 之子于歸 宜其室家 
  桃の夭夭たる、
  灼灼たり其の華
  之(こ)の子于(ゆ)き帰(とつ)ぐ、
  其の室家に宜しからん
  桃の木は、みめかたち好く
  その花は、紅く燃えいづ
  ここの子が、往きてとつがば
  その家は、さいわいならん

  :桃(とう):桃の木。
  :夭夭(ようよう):健やかで、若く美しいさま。
  :灼灼(しゃくしゃく):赤く明らかなさま。
  :之子(しし):このこ。此の家の娘。子は父母の間に生まれたるもの、男女通じていう。
  :于帰(うき):往きてとつぐ。女子は男子を以って家となすに、嫁す時、そこに往きて帰るが故に、于帰を「ゆきてとつぐ」という。
  :宜(ぎ):むつまじい。和順。
  :室家(しっか):室は夫婦の居る所、家は一家族をいう。
 桃之夭夭 有蕡其實 
 之子于歸 宜其家室 
  桃の夭夭たる
  蕡たり其の実
  之の子于き帰ぐ
  其の家室に宜しからん
  桃の木は、みめかたち好く
  桃の実は、たわわにみのる
  ここの子が、往きてとつがば
  その家に、むつまじからん

  :蕡(ふん):実がたわわにみのるさま。
 桃之夭夭 其葉蓁蓁
 之子于歸 宜其家人 
  桃の夭夭たる
  其の葉蓁蓁たり
  之の子于き帰ぐ
  其の家人に宜しからん
  桃の木は、みめかたち好く
  桃の葉は、こんもり繁る
  ここの子が、往きてとつがば、
  その家は、永くさかえん

  :蓁蓁(しんしん):草や葉の盛んなさま。

《桃まんじゅうの作り方:4個分》
材料:
  材料A:
     薄力粉100g、強力粉30g、砂糖大さじ1/2、
     サラダ油小さじ1、牛乳小さじ1、
     ドライイースト小さじ1/2、
     ベーキングパウダー小さじ1/4、
     ぬるま湯(26℃)70㏄、
  材料B(その他):
     こし餡100g、
     色粉(赤、緑)少少。
作り方:
  1.ボールに材料Aを入れて、滑らかになるまで練る。
  2.葉になる分を取り分け、色粉を混ぜて葉の形にする。
  3.殘りの分を4分割し、同じ大きさの円盤状にする。
  4.円盤の一枚を手に取り、中央に餡を載せる。
  5.円盤の周囲を延しながら餡を包み、よく閉じる。
  6.閉じ目と反対側に、包丁の背などで筋目を入れる。
  7.30℃前後で30分~1時間ほど保温する。
    (蒸し器を温め、温度計を見ながら火加減する)
  8.食紅を水で溶き、金網をブラシで擦って色を着ける。
  9.葉の裏面に水をつけ、まんじゅうに貼り付ける。
  10.強火で10分間蒸す。
餡の作り方:
 材料:20個分
     小豆200g、グラニュー糖250g、
     香料(シナモン、グローブ、フェンネル)各小さじ1/4
 作り方
  1.鍋に小豆と水を入れ10分間煮て、アク出しする。
  2.アクの出た煮汁を棄て、新しい水を入れて火にかける。
  3.初め沸騰するまで強火、以後弱火で約1時間煮る。
  4.小豆を一粒取り、指でつぶして軟らかさを試す。
  5.ボールに載せた漉し器に入れ、漉して小豆の皮を除く。
    (水を注ぎかけながら、なるべく皮のみを取り除く)
  6.15分間ほど静かにして、上澄みを捨てる。
  7.水を注いで、よくかき混ぜ、また上澄みを捨てる。
  8.更に水を注いで、よくかき混ぜ、上澄みを捨てる。
  9.サラシの布巾に取り、水が出なくなるまで絞る。
  10.鍋に入れ、グラニュー糖と水100㏄を加える。
  11.終始強火、杓文字で休まずかき混ぜる。
    (注意:非常に燋げやすい上に、熱い餡がはねる)
  12.粘液状から、餡の固さになればできあがり。
    (目安:杓文字を傾けて、落ちなくなった時)
  13.バットに取って、冷ます。
  14.冷めたら、香料を混ぜる。
では今月はここまで、また来月お会いしましょう、それまでご機嫌よう。
(名古屋城  おわり)