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明治村


  律儀者の彼岸花が花をつけはじめますと、いよいよ秋もたけなわ、暑さ寒さも彼岸までのまことに行楽にけっこうな季節とあいなりましたが、皆様方にはいかがお過ごしでしょうか、近ごろとんと出不精をきめこんでおります老人も、何やら朝ご飯を食べながら、ガラス戸の外に見える青空なんぞを眺めていますと、いづこからか遊心がふつふつと湧き上がってまいりまして、およそ一ヶ月ほども壁にぶらさがったままのカメラを肩に、やってまいりましたのが、明治村という建造物の博物館であります。
  
  日ごろ博物館、美術館、動物園、植物園の類を毛嫌いしておりますのになにを血迷ったのか、それとも魔が差したものか、およそ半日がとこてくてく歩かされたあげく、足に血豆をこしらえるような罰をもって因果応報の道理を身をもって知ることとあいなりましたが、お粗末な事のてんまつはさておき、せっかくですから撮ってきた写真をご覧いただきましょう、‥‥
  
  最初の写真は、帝国ホテル旧館の中央玄関ですな、フランク・ロイド・ライトの設計ということですが、メキシコ・アステカふうの装飾がごてごてして、お世辞にも美しいとは言えません、この横縞の着物のようなものの、いったいどこがよろしいんだか、しかし当博物館の目玉ですから無視するわけにもゆきますまい、‥‥。
  


  前のとはうってかわって、すっきりと起ち上がったように見えるのは、旧内閣文庫庁舎、かつては皇居大手門内にあったそうですが、ギリシャ建築を模した西洋建築を、更にかさねて模したもので独創性に欠けますが、その意図が明確なだけに、見た目に快さを感じさせます。ティムパヌムと呼ばれる三角の額縁部分と四本の簡素なエンタシス柱とで形作る部分に比して、その両翼の張り出しが短いところは、高さを強調するため仕方ありませんが、もう少し装飾に工夫がなかったものか、やや残念なところですが、‥‥しかしあんがいこれでよいのかも、‥‥。
  


  聖ザビエル天主堂、明治村の中で最も美しい建造物ですな、京都の河原町三条を少し下がったところにあったそうですが、大聖堂を建て替えるにあたって、ここに移築されたということです。白壁がまぶしく輝いて、大理石のようです、‥‥。
  


  列柱もアーチも木造、窓は最上階の明りとりに至るまでステンドグラス、壁龕の七聖人、その前の釣り香炉、祭壇等々、皆よく整備されていて、今にもミサが行われて大勢の信徒たちが集まってきそうです、‥‥。
  


  薔薇窓のステンドグラスには細かな模様が入っています。実際は、写真よりははるかに美しく、一日見ていても飽くことがありません、‥‥。
  


  壁には聖画が掛けられ、聖書の一場面を物語っています。机に映ったステンドグラスの影がとてもきれいでした、‥‥。


  幼いイエスを抱いているのは聖ヨセフですかな、壁龕の聖像はどれもこれも、こんなによくできているのに、どうしてこんなところに来てしまったものか‥‥。人の為すことというものは、どうにも理解しがたいものですな、‥‥。
  


  精神世界の偶像のあとは、物質世界の偶像、これは蒸気機関だそうで、中央の二個の玉が、時計の脱進機のような役割を担っているのかなとか考えながら見とれてしまい、ここでもつい時間を忘れそうになりました、‥‥。
  


  この機械は、何と書いてあったのか思い出せませんが、合目的的な力強い形体をしています。お気に入りに入れておきましょう、‥‥
  


  雑多な建造物の写真を撮りながら、てくてくてくてく歩いておりますと、かなり遠くに美しい建物があり、おいでおいでと手招きしています。パンフレットによれば北里研究所だとあります。なるほど研究所ともなれば、とうぜん脳をリフレッシュするためにも、良い環境というものが必要なんだろうなとか考えながら、てくてく歩いてそちらの方へ向いましたが、‥‥。
  


  遠目には良く見えた建造物も、近寄ってみればごく普通の下見板張りの西洋館、その内部も期待に反して、まったく普通の研究室、事務室、会議室等で、やむなく建物の外観を何枚か写真に撮って、去り際にふと振り返ってみますと、意外にも印象的な光景が目に入ってきました、‥‥。
  


  目にも鮮やかな緑青の輝き、奇妙な形の塔、‥‥いや思っていたのよりは、いいものだったのかも知れないなと満足して、またしてもてくてくてくてくと道をたどって次をめざしました、‥‥。
  


  日ごろ歩きなれない足が、この辺で痛み出し、もう歩くのがいやになりましたが、道端にはベンチひとつなく、休むわけにもまいりません、‥‥てくてくてくてく歩いてゆきますと、やがて林の向こうに木造教会の双子の塔が見えてきました、‥‥。
  
  パンフレットには、京都の聖ヨハネ教会堂と書かれています、‥‥。
  


  林をくるっと回ってみると、教会の前では結婚式のリハーサルのようなことが行われていました、‥‥。
  
  そこで遠慮しながら中に入ったのですが、‥‥内部はもう機能していないようで、内陣には十台ばかりの足踏みオルガンが置かれており、まるで物置のようでしたので、匆匆に退散して、またしてもてくてくてくてく歩くことになりました、‥‥。
  


  道の端には漱石が借家していた家だの、露伴の蝸牛庵だのいろいろ興味を引く建物があるにはありましたが、子供向けのディスプレイがなされていて、無造作に全集から抜き取られた写真が、等身大に引き伸ばされてボール紙に貼り付けたのが床の間の前に立てかけられていたり、「我輩は猫である、名前はまだない」というようなテープがエンドレスにかかっていたりで、名作が創造された環境にひたろうと思っていたにしても、とうていかなうものではありません、‥‥。
  
  足にはどうやら血豆のようなものができたようですし、疲れもきわまってきました、‥‥もう帰ることにしましょう、‥‥。
  


  小高いところに何やら廃墟じみた建物もありましたが、遠くから写真に撮っただけで、近くへ行くだけの力はもう残っておりません、‥‥。
  


  駐車場のすぐそばには、機関区があり、昔新橋品川間を走っていたような機関車の手入れに余念がありません、‥‥。
   
  もしふたたびこの明治村に来るようなことがあれば、その時こそ乗ることにしましょう、‥‥。
  
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《鮭のムニエルの作り方》
  タルタルソースを辞書で引くと、マヨネーズに刻んだピクルスやケーパー・玉ねぎ・パセリなどを加えて混ぜたソースと書かれていますが、マヨネーズの味が濃すぎると、何を混ぜて加えようと同じマヨネーズの味しかしなくなって面白くありません。今日はマヨネーズを手作りするところから始めましょう。
  《マヨネーズの作り方》
  材料:卵黄1個分、酢小さじ2杯、塩小さじ1/2、
       サラダ油150t  以上。
  1.酢に塩を混ぜて溶かす。
  2.1に卵黄を混ぜる。
  3.かき混ぜながら、油を細く糸のように少しづつ入れる。
     150tの油を入れる目安は、絶え間なく注いで7分間。
  4.堅くなりすぎたら、酢をほんの少しだけ追加する。
  《注意》
  1.油は堅くし、酢は軟らかくする。バランスを取りながら。
  2.泡立て器でも可能だが、力業となる。
     ハンドミキサーを使えば、両手が使えてうんと簡単。
  3.日持ち:冷蔵庫で一週間。好みで和辛子を入れるとよい。
  4.タルタルソースは水分の出るものが入る。やや堅めがよい。
《ムニエルの作り方》
  二人前材料:鮭の切り身2枚、バター20g、
            小麦粉・塩・胡椒各少々 以上。
  1.切り身に塩胡椒して、粉をまぶし、余分な粉を落す。
  2.フライパンにバターを溶かして、皮目を下にして七分目焼く。
  3.身を裏返して、殘りの三分を焼く。
  《注意》
  1.塩胡椒には水分の滲出作用が有る。時間を置かないこと。
  2.バターは焦げやすい。バターが煮え立った後は火を弱める。
  3.バターにオリーブ油を混ぜると扱いやすい。オリーブ油のみも可。
  4.串を刺して透明な汁がでれば焼き上がり。
  5.箸で押さえて弾力を計る方法もある。経験すること。
では今月はここまで、また来月お会いしましょう、それまでご機嫌よう。
(明治村 おわり)