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Merry Christmas!
  
  この地方では今年、紅葉が殊のほか美しく、処処の行楽地が人出で大層、賑わったということですが、寒さが大の苦手の老人は一向、食指を動かすような様子を現わしません。昔の写真などを取りだしては眺め、夢と現(うつつ)との境に遊んでおれば、もうそれだけで予は満足じゃということになりますので、欲の薄れたることのかくの如し、俺もいよいよ聖人君子の域に入ったのかしらんと、我ながら恐れ入ったる次第で、本人としては誠に喜ばしく感じておるのですが、その同じ事も、他人様には、いよいよ痴呆の域に入ったなと呆れられているのかも知れません。
  
  ということで、今年の歳もとうとう押しつまり、はや師走の声を聞くようになりました。皆様方にはいかがお過ごしでございましょうか?春の次は夏、夏の次は秋、秋の次は冬ということは厳然たる事実で、疑いようもございませんが、待っておれば、やがては楽しき花の季節となるのでしょうか?しかし如意ならざるからといって、ただ楽しい事のみを夢想し、好きな事のみをして暮す、謂わゆる少欲知足で暮すというのはどうでしょう?老人ならいざ知らず、若い方に取っては小乗的な、余りに小乗的な考えではないかと思われます。
  
  新聞によりますと、就職活動の方が大分、思わしくないとか出ておりますが、そんな時は、ただただ智慧と力とを蓄えるのが肝要で、いっそこの機会に外国語を一つ二つマスターするのが良策でしょう。外国語をマスターするということは、他の学問とは異なり、確たる目的なくしても、役立つ機会が――特に現在のように、外国の文献がインターネットで簡単に手に入るようになりますと、――甚だ多かろうと思うのですが、‥‥。
  
  
  書斎の一方の片隅には、老人とは直角に机を置いて壁に向い、あたかも部屋の番人のごとく蟠踞しておる者がおります。それがこの所、インターネットでシェークスピアの『ウインザーの陽気な女房』だの、チェスタートンの『ブラウン神父』シリーズだのを引っ張り出しては、英語に取り組んでおりますので、こりゃまた八十の手習いとは感心なことじゃと眺めておりますと、偉そうにニヤニヤしながら、今月の出し物は何、もう決まったの?何にもなくて困っているんなら、助けて上げてもいいよ、ちょうどクリスマス向けのを訳したところなんだから、てなことを申しております。
  
  老人に取って、智慧と方便とは車の両輪と同じであり、この娯楽的読み物にも非常に心を砕いておりますが、何しろパフォーマンスの衰えは、肉体の衰えに比例しますので、必要条件を満たすためには、たとえ後々威張られようと、少々の事には目を瞑るのも止むを得ません。
  
  そこで、はて何物ならんと見てみますと、なな、なゝ何んと「地下鉄サム」ではござらぬか!ということで、今月は、「地下鉄サムのクリスマス」を皆様にはご覧いただきたいと思います。
  
  「地下鉄サム」は、ニューヨークの地下鉄を根城とする腕利きの掏摸(スリ)ですが、盗みはすれど不正はせじの心意気と、根っからのニューヨークっ子らしい伊達な、侠気溢れる若者ですので、この国でも戦前、多くの人に愛されて、人気を博しておりました。最近では、なかなか目にする機会も少くなってまいりましたが、或いは、今でも懐かしく想い出される方もあるのではないでしょうか、‥‥
  
  
  題名は「地下鉄サムのクリスマス」、それではどうぞお楽しみください、――
  
  地下鉄サムのクリスマス
                      ジョンストン・マッカレー       
  
  肌を刺す冷たい空気の中、一陣の突風に粉雪が舞っていた。地下鉄サムが立ち止まったのは、マディソン・スクエア周辺の、とあるそんな交差点であった。オーバーの襟を立てて、その上、手袋をはめた彼れの両手は、深々と両のポケットに突っ込まれていた。
  
  クリスマス・イブの午後7時を少しばかり過ぎていた。地下鉄サムは、プレゼントを購入してきたばかりであり、それは彼れのポケットの中に入っていた。新しいパイプは、鼻のムーアに、彼れはサムの居住する下宿屋の親爺で、サムはその下宿屋をわが家と呼んでいたからである。そして、それとそっくりのがもう一つ、それは探偵のクラドックのためであった。
  
  地下鉄サムは想い出しては、くすくす笑っていた。スリの専門家が、彼れを見張ったり、もし出来るならば、彼れを捕まえたりするのを生業とする探偵に、クリスマス・プレゼントを贈るという、いっぷう変わったやりかたが気に入っていたのである。しかし、彼と探偵のクラドックとのあいだの関係も、またいろいろな点で奇妙なものであった。二人は互いに相手を尊敬しあい、好敵手として認めていたが、ほとんど二年もの間、探偵のクラドックは、地下鉄サムを捕まえてやろうと苦心していたのである。もちろん”スリ取った財布といっしょに”捕まえなくてはならない、それが人様のポケットに手を突っ込む、ちっぽけな野郎を、川上にある灰色の大きな監獄にぶちこむ、唯一の方法であった。しかし、探偵の払う多大の努力は、未だ彼れに、何物をもたらしてはいなかった。
  
  そして、今や暢気そうに、地下鉄サムは、ビルディングに背中を向けて立ち、幸福そうな庶民が、臂で人をかき分けたりしているのを眺めているのであった。男達は、ここかしこで、ぶつかり合いながら、その腕には、奇妙な形や、大きさの包みが満ちており、女達は、浮かれて、おしゃべりに余念なく、皆、近くの地下鉄の入口めざして急いでいた。そこでは人々が、幸福そうに見えていたし、天気もまさに上々だったのである。サムには、今日が良きクリスマスになりそうな予感がしていた。
  
  彼れは、しばらく雑踏を見守っていたが、やがて一本の紙巻きタバコを取り出して火をつけ、およそ一ダースの半分がほどもスパスパとやって、タバコに火がついたのを確信すると、頭をさげ、あの肌を刺す風の力に逆らって突進し、やがて大通りを横切ると、マディソン・スクエアの中に進入していった。
  
  およそベンチに座るには、いささか冷たすぎる気候であったが、地下鉄サムは、習慣の力にうながされるがまま、ふらふらととある一隅へ引き寄せられていった。そこは、いつも彼れが座って、気持ちの良い午後をすごすところである。彼れは、探偵のクラドックと、ひょっとしたらそこで出会うのではないかと期待していた。――そして、それは叶えられた。
  
  おりしも、偉そうなお巡りが、ゆっくりと歩道を歩きながら、こちらにやってきた。噛みタバコをクチャクチャやり、横柄に行き交う人々に目を配っている。そして二人の目が会うと、クラドックは歯をみせて、にやりと笑った。
  「で、またしても旦那の醜いつらァ、拝まなくっちゃならないんですかい?」、地下鉄サムは、そう言って、いつもどおりの方法で挨拶した。
  
  「しかしなあ、サム!こいつはまったく思いがけない喜びだなあ、」と、探偵のクラドックは親しげにサムに言った。「俺はな、ちっとも期待していなかったんだぜ、まさかお前に出くわすとはな、俺達の美しい街の中の、この一部分で、ちょうどこの午後の、この時間にとはなあ。俺はな、胸ん中じゃあ、こんな風に疑っていたんだ、お前さんがな、南の方へ旅してくるんじゃあないかなってな。その場所でな、日の暮れになるまで、じっとしていてだな、そこがどこかっていうことについちゃあ、言わぬが花ってもんだがね。」
  
  「へえー、そうなんですかい?」サムは、その続きを知りたがった。「それで、俺の住んでいるっていう、この街の部分の、何が問題だっていうんです?」
  「この街の部分には、何の問題もないさ、サム。しかしなあ、市民の中には何人かいるんだよ、疑惑の目で見られているのがな。」
  
  「なるほど!誰しも疑惑の目で見られているってわけだ。もし俺達が、旦那方のような、利口なお巡りに任せておけばな、」と、サムが言った。「俺はね、ただここに立って、庶民どもを見守っていただけなんだぜ。」
  「我慢づよく、じっと見守っていたっていうんだろう?ある一点をじっとな、」と、探偵のクラドックは言い返して、またにやりと笑った。
  「そうかい?」
  
  「そうともさ!そいつは、確かに俺にとっちゃあ嬉しいことだよ、サム、こんなによく見わたせる場所で、お前さんを見付けられたんだからね。たとえ、これが地下鉄ん中だったとしても、今のことだがね、片一方の目だけは、お前さんからずーっと離さずにいなくっちゃあならないんだ、まだ俺には、今夜はやらなくっちゃならない仕事が山ほどあるっていうのにさ。お前さんのご同類の男達だがね、サム、こんな幸福そうなクリスマスの群衆の中では、特別張り切って仕事なさるってえのがお決まりなんでね。」
  
  「おやまあ、本当ですかい?ひでえもんだ!」と、地下鉄サムは、怒って言った。「どんな悪者なのかは知りませんがね、人様から物を盗むのに、クリスマス・イブにやるなんて、日の出とともに銃殺されて、当然ですよ。」
  「サムよ、そんな意見が、お前から出るたあなあ、俺は驚かされたよ、」と、探偵は見直した。
  
  「あんたは、こう言いたいのかい?クラドック、つまり俺が、人様のポケットに手を突っ込んで、その上‥‥」
  「もう一度、言ってやろうか、お前はそうなんだよ!」
  
  「たぶんね!しかし、もし俺が、そんな人様のポケットに手を突っ込むようなことをやらかしたとしても、――やったと言っているんじゃありませんよ、――今日のような夜には、仕事をしないことにしているんですよ、それだけはそう思っておいてもらいましょう。」
  「しないんだって?」
  
  「しないんですよ!」と、地下鉄サムは真剣に言い切った。「何日も何日も、仕事のできる日はいっぱいあるんですぜ。もし、誰かが、男や女から、クリスマス・プレゼントを買うかも知れないお金を盗んだとしたら、そいつが、悪運を招くかも知れないじゃありませんか。」
  「ああ、分ったよ!俺は、悪党仲間の迷信について、新しい側面を見付けたんだよな!」と、クラドックは言った。
  
  「迷信なんかじゃありません、それが良識っていうもんですよ!」と、地下鉄サムは断言した。「わたしはね、クリスマス・イブに盗むぐらいなら、腹ぺこのままでいるつもりなんですよ!」
  「それじゃあ、俺もそう信じることにしよう、お前が、ほんとうにそうしようとしているってな!」と、探偵のクラドックは、驚いて言った。「俺はな、それを聞いてたいそう楽になったよ、サム。それじゃあ今夜は、お前の後を付ける必要はなさそうだな。」
  
  「旦那にはね、後を付けるたって象の後をつけることだってできませんや、」と、サムは彼れに親しげに言った。「クラドックの旦那、あんたはお巡りには違いありませんがね、しかし、もう下り坂ですよ。それにしても、旦那に才能が無いって訳じゃあありませんよ、それだけは言っておきますがね。」
  「それはどうもご親切に!」と言いながら、クラドックはちょっと帽子に手をかけて頭をさげた。
  
  「それでなんですがね、」と、地下鉄サムはこう付け足しながら、小さな包みを、彼れのオーバーの数あるポケットの一つから引っ張りだした。「わたしは旦那のためにね、ちょっくら行って、クリスマス・プレゼントを買ってきたんでさあ。」
  「サム、お前にはまいるぜ!」と、探偵が言った。「これは、えーと、賄賂を提供しようなんてことじゃないんだろうな?」
  
  「クラドックの旦那、冗談言うのはおよしなさいよ!」
  「すまん、許してくれ、サム。ありがとう!おっ、パイプじゃないか!」
  「タバコは、吸いますよね?」
  
  「吸うともさ、それに、たまたま新しいパイプを切らしていてね。俺も明日は、お前にちょっとしたプレゼントを持ってこような、サム、もしも俺と、お前とが、うまい具合に出くわすことができればってことだがね。しかしなぁ、分っちゃあいるだろうが、戦友、俺はね、今この瞬間にも、お前を捕まえていたかも知れないんだぜ、もしも俺が、お前の身体から証拠の品を見付けていたならばってことだがね。」
  
  「そいつあ、とっくに承知しておりますよ、」と、サムは答えた。「旦那が、わたしの身体から証拠の品を見付けたってことになればですがね、クラドックの旦那、わたしは旦那に捕まり、二倍の刑期を勉めなくっちゃならないってことですよね。じゃあ、わたしはこう言いましょう、はい分っておりますってね!」
  「しかしなあ、お前、ここ数日の間には――」
  
  「後は知っていますよ、あの古くせい演説でしょう!」と、地下鉄サムは遮った。「ここ数日の間に、旦那がわたしを捕まえてね、公民権を停止して、だいたい十五年か、二十年の間、河上に送り込むつもりなんだそうですね。うふ、ふっ!そいつあ、わたしには、こう見えますよ、俺は、この話しをほんのちょっぴりの間、聞いていただけだよなって。しかしね、わたしはこう言いますぜ、それだけ聞きゃあ十分だって、ねえクラドックの旦那――、もしもね、わたしが万が一にも捕まるようならね、わたしは、こう願うんでさあ、旦那が、そのお巡りであったらいいなあって、それでね、旦那は称讃を一手にあびるんでさあ。」
  
  「そいつあ、どうもありがとうよ、またしてもご親切なことで!」
  「たとえ旦那が、間抜けのお仲間だったとしても、まあ時々のことですがね、」と、サムは付け加えた。「メリー・クリスマス!」
  
  探偵のクラドックは、にやにやしながら地下鉄サムが歩道を行くのを眺めていたが、さっきのパイプに目をやると、それをポケットに落とし入れ、元気な足取りで、サムとは反対の方向に歩いていった。そっち方面では、彼れはそう信じていたのであるが、より重要な仕事が待っているような気がしていたのである。なんでも、どこかのスリがそこで稼いでいるとか、そんな報告が入っていたのだ。
  
  地下鉄サムは、先ほどのようなことを、つねづね言っていたのであるが、彼れはクリスマス・イブに、皮の財布を引っこ抜くようなことは、決してしなかったし、七月四日の独立記念日にもまたそうであった。彼れの気持ちでは、そのようなことは確実に、悪運をもたらすものだったのである。当然、もしそこに情状酌量の余地があり、何か神に命じられたような気がしたりすれば、あるいは、そんなことをしたかも知れない。しかし、彼れは、かつてそのような酌量すべき情状におちいったことが、一度もなかったのである。
  
  サムは、ブロードウェイ側へ横切り、ゆっくりとタイムズ・スクエア目指して歩いていった。そこで、彼れは、もう決めていたのであるが、地下鉄のダウンタウン行きの急行に乗って、鼻のムーアの下宿屋に行き、親愛なるムーア殿にパイプを贈ったら、寢てしまおうと思っていたのである。
  
  彼れに取って、この世界の中で、真の友達だといえるものは、ほんの一握りしかいなかったが、地下鉄サムの気分は幸福であった。クリスマスの精神が、彼れに乗り移っていたのである。それはまるで、世界中の人々が、皆、ひとつの大きな家族に属しており、そして彼れもまた、その中の一員であるかのような気がしていた。彼れはいくつかの新聞を購入して、それらを受けとることなく、売り子にやってしまうと、ヒイラギの小枝を買って襟のボタンホールに刺した。男達や、女達が彼れを押しのけて、ほとんど歩道から車道に落ちそうになった時にも、地下鉄サムは、睨みつけることさえしなかった。もし、今日が他の日であれば、恐らくは睨み付けていたことだろう。
  
  地下へ降りると、地下鉄サムは、雑踏するプラットフォームに、ダウンタウン行きの急行が、轟音とともに到着するのを待ち、やがて混雑した車両に乗り込んだ。列車が走りはじめて、巨大なチューブに突入しようとした時、サムは思わず、今日がクリスマス・イブでなければよいが、と願うことになった。ここには、余りにも多くの『ビジネス』チャンス!がころがっていたのである。
  
  サムは、半ダースばかりの男達が彼れの廻りにいるのを見た。どのひとりをとっても、有望なカモとなりそうであった、勿論、『仕事』中ならということである。しかし彼れには、自らのルールを破るつもりはなかったし、見わたせるかぎり、何等の酌量すべき情状もなかった。
  
  彼れは、廻りの幸福そうな顔を見回したり、意味のないおしゃべりに聞き耳を立てて、一二度あくびをしたりしていた。彼れは手袋を引っ張ってはずし、オーバーのポケットに放り込んだ。混雑する車両の中が暑かったのである。
  
  そんなことをしていると、突然、彼れの両目が飛び出した!
  彼れからほんの、六フィートも離れていないところで、彼れは見たのである、ある小柄な男が落ち着いたようすで、『皮の財布を釣り上げ』ていた。
  
  地下鉄サムは、二つの感情が入混じるのを経験した。第一の感情の中では、クリスマス・イブに財布を引き抜くようなことは、許されざる行為であり、あの男は、悪運の報をきっと受けるだろう、それも一年以内にというのである。次の感情の中では、この地下鉄は、地下鉄サムに捧げられたものであり、すべての悪党と認められた者どもが、その事実を厳然と認めているように、地下鉄はサムに任せられていたということである。それを、どこの誰とも知らない男が、禁じられた日に財布を引っこ抜いており、しかも地下鉄の中でやっていたのである。
  「何んなんだ、この汚らしいコソ泥は!」と、地下鉄サムは心の中で唸り声をあげた。「こりゃあ罰があたるぞ、もしもこんな日にだなあ、――」
  
  突然、サムに名案がひらめいた。彼れが横目で見たところ、果たせるかな、一人の男が、そのスリの右側に立っていた。そうだ、こいつがカモっていうわけだ、サムは確信した、この男のオーバーはダークグレイだが、そのダークグレイのオーバーのフラップを通してやりゃがったんだな、こいつが手をのばして、このオーバーの男の財布を釣り上げたというわけか、そうだ、この悪党め、己の犠牲者のとなりに立ったままでいるたあ、ずいぶん、ずぶとい神経を持っていやがるぜ。
  
  「俺はなあ、賭けたっていいぜ、かわいそうに、この男には、あの金が必要なんだ、」と、サムは自分に言い聞かせた。「きっとあれは、クリスマスの資金だったんだぜ!それをあの汚らしいコソ泥が突っついて、財布を引っこ抜きゃがったんだ、俺の目の真ん前でな。こりゃずいぶんお粗末な仕事じゃねえか!」
  
  サムには、すでに完璧なアイデアができあがっていた。今度は、彼れがそのスリをやっつける番だ、彼れは決心した、そして、その財布をその持ち主にかえしてやろうじゃねえか、これが親切ってえもんだし、クリスマスこそ親切にする時ってえもんだぜと、これがサムの物の見方であった。
  
  彼れは、地下鉄がカーブに突入するのに合せて、身体を揺らせ、やがて、そのスリの隣に近づくことができた。彼れは、チャンスを待っていた。列車が駅に入ったちょうどその時、彼れの手は、すばやくひらめいた。財布はすでに抜きとられており、すっぽりとサムのオーバーのポケットにすべり込んでいたのである。
  
  列車が止まってドアが開き、財布の持ち主が降りた。サムも続いて飛び降りた、彼れが大通りに、出てしまう前に捕まえようとしたのである。サムは、なんとかそれをやりとげた、大通りに着くと同時に、相手の男の腕に触れることができたのである。
  
  「なんだよ?」と、相手はつっけんどんに言いながら、振り向いた。
  サムは、このような無愛想な口調は、全然期待していなかったので、自分自身にこう言い聞かせた、多分、この男はトラブルを抱えこんでいるんだ。彼れはにっこり笑って、あの財布を差し出した、
  「あなたは、財布を落しましたね、旦那、」と、地下鉄サムは言った。「ここにありますよ!」
  
  相手の男は、彼れを見つめたまま、ちょっとの間、ぽかんとしていたが、
  「わたしの――ああ勿論、わたしの財布だ!」と、彼れは叫んだ。「そして、あんたがそれを拾ったというんだな、多分?」
  「まあ、そんなところですよ、」と、サムは認めた。
  
  「そのー!いったいどうしたってんで、あんたは自分の物にしなかったんだい?」と聞きながら、相手はその財布をパチンと開いた。
  「そりゃあ、汚えやり方でさ、クリスマス・イブにはね、」と、地下鉄サムは言った。「そんなことはいいから、早く財布を開けて、お金を数えてごらんなさいな、俺が、そいつん中からいくらかでも、盗んだかも知れませんでしょう?」
  
  「あり得ないよ、君、」と、相手は答えた。「そんなに盗みたけりゃあ、君は、丸ごと自分の物にしているはずだ、ちょっと見させてくれ!百と五ドルと――正解だ!ここにある!」
  
  彼れは五ドル札を抜き出して、地下鉄サムに差し出した。
  「わたしはね、報酬を貰おうとなんざあ、これっぽっちも思っちゃあいませんぜ、財布をかえしたからってね、」と、サムは言った。
  
  「ああ、よく分るよ、そういう事だね、君、しかし君には、どうあってもこの五ドルを取っておいて欲しいんだよ、」と、相手は答えた。「何か自分のために買うがいいや、クリスマスだからね、何でも好きなものを。それじゃあ――有難う!どうも、大変有難うよ!わたしはね、――ああー、――感謝しているんだ、これを!」
  
  地下鉄サムは、お金を受けとった。「そいつぁいいや、分ったよ、旦那、」と、彼れは言った。
  そして相手の男が、にこやかに笑いながら、向きをかえて行ってしまうと、地下鉄サムは、彼れを見送りながら、にっこり笑っていた。それは、サムの心を打つものであり、滑稽でさえあったからである、誰かに盗まれた財布を、いったい誰が、彼れのように、それも百ドルが入ったままで、持ち主に返してやったり、それについて謝礼を受け取ったりしただろうか。
  
  サムのところから、鼻のムーアの下宿屋までは、五六ブロックであったが、今夜は、そう寒くもなかったので、地下鉄サムは、殘りの距離を歩いて行こうと決めた、地下にもぐって、列車を待つよりは、むしろ歩いた方がよかったのだ。そこで彼れは、混雑した大通りを下手に向けて歩きだした。あの盗まれた財布を取り返してやった男からは、わずか半ブロックほどしか遅れてはいなかった。
  
  彼れが、財布を引っこ抜いたのは、クリスマス・イブのことであったが、しかし、そこには確かに情状酌量の余地があったのである、サムは、自分自身に、こう言い聞かせていた。彼れは、泥棒から盗みはしたが、しかし、その盗品は、その持ち主に返したのである。サムは突然、高揚感の湧き上がるのを感じた、つまり彼れは上手くいった、あの親切な行為を想い出し、反芻していたのである。彼れはこう誓った、彼れが、この五ドルを費やすのは、絶対に、何かしら今回の出来事の記念として、残せる物でなくてはならないと。
  
  大通りを三ブロックばかり下ったところで、彼れは、突然、通せんぼをくらった、大通りの中で、数人の子供達がクリスマスキャロルを歌っていたのである。サムが、群衆の端っこについて待ちながら、ポケットの中のコインに触れ、募金が集められた時に渡そうと待ち構えていると、片一方の耳に、二人の男が話し合っているのが聞こえてきた。彼れは振り返りながら、一方の声には聞き覚えがあるぞと思った。彼れが財布を取り返してやった、あの男である。
  
  「俺はこう叫んだね、こいつぁ傑作だってね!」と、その男は話していた。「奴さん、勘違いしてやがったんだ、多分な。誰かが財布を落っことしたのを、あいつが見付けてね、それで俺の後を走ってきやがってさ、そいつを手渡ししてくれたってえ訳よ、俺の財布だって思やがったんだな。百と五ドルだよ、こいつも間違いねえ、俺のだってね。俺は、そのドジ男に五ドルくれてやったのさ、彼れの正直さに免じてね、奴さん、どもりながら、感謝してたよ!」
  そこで彼れの連れは、大笑いした。
  
  「はっ、はっ、」、サムがわざわざ財布を取り返してやった、あの男が笑った。「掛け値なし、百ドルの儲けだよ!ここにそれがある、――分ったかい?そいつをさ、俺の他の百ドルん中に突っ込んで、全部まとめて丸めとこう。俺達は、何かちっちゃなお祝いをしなくっちゃな、明日にでも!」そして彼れはその皮の財布を、ポイと投げ捨てた。数瞬遅れて、地下鉄サムは、それを摘み挙げた、開いて中を見てみると、一枚のカードに、持ち主の名前と住処とが書かれていた。そこで、それを安全な内ポケットの奥深くに押し込んだ。
  
  地下鉄サムは、彼れの血が沸騰しているのを感じていた。そうかよ!彼れは、てっきり自分が親切な行為をしたものとばかり信じ込んでいたのに、その善意にこの男は、この悪党めは、つけ込みゃがったのだ!その上、奴は自慢したばかりか、地下鉄サムをして間抜け呼ばわりしやがったんだ!こいつは奴に取っちゃあ、最悪だったぜ!
  
  サムに取って一瞬ではあるが、目の前が真っ赤になったように思えた。直ちに復讐したい!あの金を取り返したい!だいたい、彼れが取り返してやった、あの男のものじゃなかったんだ!
  
  ここには、と、サムは自ら言い聞かせた。情状酌量の余地がある。もし、強盗を働いたとしても、この男になら、それが正義ってえもんだぜ。しかし、釣り上げようにも、財布がないときてらあ。あの悪党め、自分の百ドルの上に、俺の札を巻きつけ、オーバーのポケットへ放り込みゃがったな。こいつぁ、いつものように、皮の財布を引っこ抜くっていうよりか、一段とややこしいや。
  
  しかしながら、サムは決心していたのである。彼れはクリスマスに関する、一切の事を忘れた。迷信的行為は忘れてしまったが、しかしただ、あの札束を取ることだけは、しっかりと憶えていた。
  
  あの二人が、大通りを下り始めると、地下鉄サムも、人混みを縫って後をおった。彼れには、小さな少女が、帽子を差し出して、コインを受け取ろうとしているのさえ、見えなかった。今、あの歌が終わって、一区切りついたところであったが、彼れに取っては何物も、あの彼れを騙した悪党以外は、何物も目に入らなかったのである。
  
  しかし、彼れはまだ不安を感じていた、というのは、ここは彼れがいつも仕事をしている、あの地下鉄の中ではなかったからである。彼れは、実際に成功が確実視されるまで、計画を実行しようとはしなかった。地下鉄サムは、クリスマスの日を牢獄の中で無駄に過ごしながら、重罪の審判を待ちたくはなかったのである。それに、もし本当のところを話したとしても、信じてもらえるはずがなく、もし信じてもらえたとしても、彼れを助けてくれるというものでもない。
  
  彼れは間に、十分なだけの距離を置いて、あの彼れが財布を遣ってしまった男に見られたり、それと認められたりするのを避けた。大通りを下りながら、彼等は、楽しそうに臂でかき分けている群衆の中を突き進み、とある街角に到着した。そこには、数人の若い歌手が、路上で歌っていた、サムは、この場所は、計画を実行に移すに適当かどうか、その可能性を計ってみた。もし彼れの期待どおりに、獲物が立ち止まり、歌に気を取られていたとすればどうだろう。
  
  彼等は、立ち止まった。地下鉄サムは、辺をすばやく見回して、彼れに悪運が落ちかかった場合の、最良の逃げ道を調べた。彼れは、後の方をちらっと見た時――、ちょうどある場面を目撃するのに間に合ったのを知った。
  
  探偵のクラドックが、人混みをかき分けながらやってきたのである。サムは、最初こう考えた、あの探偵は、真直ぐ彼れのところにやって来て、彼といっしょに会話なんぞしたりして、あの金を取り返すチャンスを台無しにするだろう、と。クラドックが、わざわざダウンタウンまで出張ってきたのは、お巡りの仕事なんだ、彼れは思った、こいつぁ縁起が悪いや、奴さんが、この街角に現れたのが、まさしくこの瞬間だっただなんて!
  
  しかし、クラドックの目には、それは誰が見ても明らかなことであったが、地下鉄サムを映してはいなかった。群衆のへりを回りながら、最後の数歩をすばやく進み、探偵が肩をポンと叩いたのは、あの地下鉄サムが、財布を遣ってしまった男だったのだ。
  「ちょっとばかし用があるんだ、カンデロン!」と、クラドックは声を掛けた。
  
  呪いの言葉があり、そして短い取っ組み合い。サムは身震いした。
  「じゃあな、気楽にいこうぜ!」と、サムは聞いた、探偵のクラドックが言っていたのだ。「俺達はな、お前さんを、もう五六ヶ月も探していたんだぜ。お前、馬鹿やっちまったなあ、こんなにすぐに町に帰ってくるとはな、カンデロン。それじゃあ、本署までご同行願おうかい。そういやあ、お前の友達は――」
  
  しかし、カンデロンの相棒は、とっくに人混みに紛れこんで、姿を消していた。
  「おおかた指名手配された奴なんだろうよ、」と、クラドックは言った。「来るんだ、カンデロン!」
  
  探偵が、唸り声を二三度あげて、周囲の群衆を追い払い、彼れの獲物を引き連れて行ってしまうと、地下鉄サムは彼等の後に紛れこんだ。ちくしょう!クラドックの野郎、事をめちゃめちゃにしやがったぜ!何たる運命だ、こんな間の悪い時に、クラドックの野郎を送り込みゃあがるとは?地下鉄サムには、復讐の機会さえ与えられねえってんのかい?
  
  クラドックが何をしようとしているか、サムにはもう分っていた、次の交差点にある交番の方へ向かっているのだ、そこで護送車を手配するようメッセージを送るはずだ。地下鉄サムには何かをするための、ほんの僅かなチャンスさえないように思えた。
  
  サムは、あの男のポケットの中で丸まっている、札束を憶いだした。彼れは、あの札束に執着していた。彼れは、あの百ドルが欲しかったし、更にカンデロンの百ドルもまた欲しかった、利益と復讐への途中だっていうのに、そこへクラドックが現れて、事を台無しにしやがった!
  「まったく、ドジだったぜ!」と、サムは唸りながら、独り言をいった。「いってえ何がいけねえってんだ、あいつが、あの男を見付けるのに、数分ぐれえ遅れたっていいじゃねえか?これが、クラドックに遣ったクリスマス・プレゼントのお返しだってえのかよ!」
  
  探偵のクラドックは、罪人が小声で悪態をついても、気に掛ける様子もなく、真直ぐ交番へ行った。サムも、数フィート遅れて後を追った。物見高い人々が立ち止まり、振り向いてじろじろ見つめていた。彼等は交番に着き、クラドックは要請を送り終わって待っていた。
  
  地下鉄サムに取って、今や絶望的であった。あの札束を手にする機会は、もはや失われてしまったのだ、彼れは自らに言い聞かせた。クラドックが振り向いたのは、サムがこう思っていた時である、彼れはサムを見て、ニヤリと笑った。
  「どうした、元気かい、サム?」と、彼れが言った。
  「よう、旦那もな!」と、サムは答えて、一歩近づいた。「逮捕なんぞをやらかしたってね?」
  
  「まさしく逮捕したのさ、サム。ここにいらっしゃる、カンデロンさんはな、指名手配されていなさったんだ、女、子供相手に詐欺なんぞなさってたんだね。これから何か学んだが良いよ、サム、そんでね、真直ぐで、真っ正直な暮しをおくることだね。もしお前さんが、それはしたくねえってんなら、仕方がねえ、二三日のうちにゃあ、俺は、こいつみたいに捕まえて見せるぜ。」
  「本当かい?」と、サムは言った。「そうかも知れないし、そうじゃないかも知れないぜ。それで、こいつが、女を騙くらかしてたっていうんですかい?こいつは、どう見ても、その手の悪党としか見えませんや。わたしはね、こいつがざっと二十年がとこ食らうのを期待してますよ!」
  
  「サムよ、悪運を望んでいるのかい、犯罪の仲間同士だろう?」
  「あんな奴は、俺の仲間ん中にゃあ、一人だっていませんぜ、」と、サムは、きっぱりと宣言した。「あいつを、縛り首にでもしてやりなせい、俺は、ちっとも心配しねえぜ!」
  
  「そうさな、彼れは二三年がとこ、とっぷり考えることになりそうだな。」と、クラドックは答えて、クスクス笑った。「彼れに取っちゃあ、クリスマス・ディナーは、牢獄ん中で食うことになりそうだよ。サム、お前も十分気を付けた方が良いぜ、そんな事にならないようにな。」
  
  犯罪者は最初、驚いて地下鉄サムを見つめていたが、やがて顔を野次馬からそむけると大通りを眺めた。サムは、一歩詰め寄った。
  「クラドックの旦那、馬鹿言うのはおよしよ!」と、彼れは小声でささやいた。「わたしを泥棒呼ばわりするんですかい、大勢の前でさ?変じゃねえのかい、旦那は、とっとと野次馬を追い払って、正業につかせちゃあどうだい!」
  
  探偵のクラドックは素早く振り返って見た、人だかりがだんだん多くなり、ひしめきながら押し寄せてきていた。一人の巡査が、その中を突進して来た、
  「何か手伝おうか、クラドック?」と、彼れが尋ねた。
  「助かったよ、こいつ等を正業に送りだしてくれや、」と、クラドックは言った。
  
  巡査は回れ右をして群衆の方に向い、野次馬連中はとっとと消えてしまえとばかりに、腕をぐるぐる振り回した。クラドックは、彼れが仕事に立ち向かっているのを見ていた。
  
  しかしながら、カンデロン氏は、この機会を待っていたのだ。彼れは、もし避けられるものならクリスマス・ディナーを監獄の中で食いたいとは望まなかったのである。クラドックが背中を向けている間に、カンデロンは、素早く前方に跳び出して、クラドックに突き当たり、彼れに膝をつかせて、自由へと突き進んだ。
  
  クラドックの叫び声は、彼れが立ち上がろうとして、もがくにつれて立てられたものであったが、それを聞きつけた巡査が急いで助けようと、引き返してきたころには、地下鉄サムが、とっくに巡査に代わって、役目を果たしていた。
  
  サムは、彼れにチャンスが巡ってきたのを知っていた。彼れが前に跳び出して、一方の脚を突き出すと、カンデロン氏はあっけなく、舗道にぶつかって潰れた。サムは、飛び掛かって馬乗りになった。鋭い一撃と、猛烈な取っ組みあい、そしてクラドックと巡査が、その場面に割り込んだ。棍棒の一撃で、カンデロン氏は、あっと言う間に意識を失った。
  
  そしてサムは立ち上がって、服をはたきだした。護送車が到着すると、犯罪者は引き渡された。探偵のクラドックは地下鉄サムに歩み寄り、肩を叩いた、
  「ありがとうよ、サム!」と、彼れは言った。「いい仕事だったな!俺はきっと、不注意になりかかっているんだ。しかしな、俺はむしろ、お前がよ、悪党じゃなくて、お巡りの方を助けたってえことに、驚いたぜ。」
  
  「しかしね、悪党にもいろいろでさ、」と、地下鉄サムは気取って言った。
  「彼れが、人混みん中へ逃げ込もうとしたときにさ、お前が、あいつを転がしたんだっけ。」
  「つまづかせてやったんでさ、」と、サムが説明した。
  
  「いい仕事だ、そいつもな!サム、俺は、感謝してるんだぜ!それで想い出した――俺は、明日はお前に会えそうにもねえや、一時間ほど前のことだったがな、報告したついでに、命令を受けちまってよ、明日はフィラデルフィアへ行って、囚人を連れて来いだってさ。クリスマスを過ごすにしちゃあ、強烈だよな。」
  「そいつぁ、厳しいな。」と、サムが意見を述べた。
  
  「しかし、お前は、俺からクリスマス・プレゼントを受けとるはずだったんだろう、戦友!ここに五ドルある。お前はな、自分で見つくろって何か買えや、本当に欲しい物をな、それで後から俺に、何を買ったか知らせてくれ。」
  「そりゃあいいが、そんでもなあ――」と、サムは言おうとした。
  「さあ早く、これを取っときなよ、さもないと、お前は、俺に肩身が狭い思いをさせるんだぜ。俺はな、お前とは、貸し借りなしでいきたいんだよ、チャンスが転がり込んで、お前を捕まえるってえときにも、良心のとがめなく出来るようにな。」
  
  サムはお金を受けとった。「ありがとうよ、クラドックの旦那!」と、彼れは言った。「今夜の仕事っぷりは、見事だったぜ。」
  
  クラドックは手を振ると、大通りを下って行った。地下鉄サムは、クスクス笑いながら、元気よく別の方向へ歩いていった。彼れが身につけていたのは、クラドックがくれた五ドルと、カンデロンがくれた五ドル、これは財布を返してやったときだ、――そして二百ドルである、彼れが後者のポケットからかすめ取ったやつだ、彼等がレスリングしながら、歩道を横切ったときに。
  
  地下鉄サムはその夜、自分の部屋に帰る前に、ある男の家まで、短い旅行をしてきた、その男の財布をサムが、運んでやったのだ、財布の持ち主が、地下鉄に乗ったとき、その中に入っていた百五ドルといっしょに。サムの心の中には、喜びがあった。なぜならば、彼れが、他の人の心を喜ばせたからである。
  
  「メリー・クリスマス!」地下鉄サムは幸福そうに、ほほ笑みながら言うと鼻のムーアの下宿屋へ急いだ。「メリー・クリスマス!俺は言ってやろう、全くだぜってな!」
    
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  クリスマスは欧米では、日ごろ信心深くない人々が教会に行ったりして、善意薄き人々が善行をし、仇敵が仲直りをし、離ればなれの家族が一同に会する日とされています。日常我々の過ごしているような、利己的な暮しの中で、人々が、突然人間性を取り戻す日、それがクリスマスであり、非常にしんみりした良い日だということが、よく分りましたネ、‥‥
  
  ということで、今月の料理は、スイスのエンガディン地方の菓子で、その地名を冠したというエンガディナー・トルテです、‥‥そのバターたっぷり、砂糖たっぷりのところが寒いクリスマスの時期には、相応しいのではないでしょうか、‥‥
  
《エンガディナー・トルテの作り方》
  
Ⅰ.パート・サブレの作り方
  〈材料〉直径15㎝のタルト一台分
  無塩バター:180g、グラニュー糖:100g、卵:1/2個、
  薄力粉:300g、ベーキングパウダー:3g、
  バニラスティック、又はバニラエッセンス:適量、
  打ち粉(強力粉):適量
  〈作り方〉
  1.室温のバターにバニラとグラニュー糖をよく混ぜ、空気を含ませてクリーム状にする。
  2.卵を加えて混ぜ合せる。
  3.冷蔵庫で冷やした粉にベーキングパウダーを混ぜ、一度振るってからバターに混ぜて、練らずに全体をさっくりと混ぜる。
  4.生地を冷蔵庫で30分休ませる。
  5.生地を二つに分け、一方を4㎜厚の円形に麺棒で伸ばす。
  6.溶かしバターを塗ったタルト型に空気が入らないよう、丁寧に貼り付け、縁の余った部分を切り取り、もう一方に混ぜる。
  7.生地の殘りの一方を4㎜厚に麺棒で伸ばして蓋の部分を作る。
  8.エンガディナー・マッセ(後出)を生地を貼り付けたタルト型に落とし入れ、7.で伸ばした生地を被せて空気が入らないようぴったり押さえて蓋をし、縁からはみ出した部分を切り取り、縁をフォークで押さえて密着させる。
  9.刷毛で卵黄(分量外)を塗り、170度のオーブンで約40分焼く。
  10.切り取った生地を一つに纏め3㎜厚に伸ばして木の葉型で8個抜き、刷毛で卵黄を塗って、170度のオーブンで約15分焼く。
  
Ⅱ.エンガディナー・マッセの作り方
  〈材料〉
  胡桃:110g、生クリーム:50g、無塩バター:20g、
  蜂蜜:75g、水飴:12g、グラニュー糖:50g、
  バニラスティック又はバニラエッセンス:適量
  〈作り方〉
  1.胡桃を細かに砕く。
  2.鍋に生クリーム、バター、蜂蜜、水飴、グラニュー糖、バニラ等、殘りの材料をすべて入れ、精密に温度計で計りながら、夏は118度、冬は117度になるまで木杓子で混ぜながら、煮詰める。温度計が無いときは、ステンレスのバット、又は台に少し取って冷まし、粘りがあればよい。
  3.刻んだ胡桃を加えてからめ、鍋底を水に漬けて冷やし、触れられるぐらいになれば、ビニールシートの間に挟んで、麺棒で直径15㎝の円形に伸ばす。
Ⅲ.胡桃の砂糖がけ
  〈材料〉
  胡桃:8粒、グラニュー糖:20g、水:20㏄
  1.グラニュー糖と分量の水を鍋に入れて火にかけ、粘りが出てきたら、弱火にして胡桃を入れ、木杓子で常にかき回しながら、砂糖が白くなるまで、よく混ぜる。
Ⅳ.飾り付け
  1.焼き上がったタルトに、アプリコットジャム(分量外)を8ヶ所適当な場処に塗り、木の葉のクッキーと胡桃の砂糖がけを貼り付ける。
  
  
  非常に美味なお菓子ですが、熱量が高いのが玉に瑕、菓子は食いたし命は惜しし、トホ、ホヽ‥‥
  
  
  
  
それでは今月はここまで、また来年お会いしましょう、それまでご機嫌よう。
  
Merry Christmas

Happy Newyear
 
 
 
 
 
 
 
  (Merry Christmas! おわり)