聊齋志異 偷桃
童時赴郡試,值春節。舊例,先一日,各行商賈,彩樓鼓吹赴藩司,名曰「演春」。 |
聊斉志異 桃を偸む
童の時、郡試(入学試験)に赴き、春節(年始の行事)に値う。旧例、一日に先んじて、各行(道路)の商賈(商店)は、彩楼(二階の窓を飾り)、鼓吹(鼓を打ち笛を吹く、楽器を鳴らす)して藩司(知事の役所)に赴く。名づけて「演春(新年を祝う)」と曰う。 |
聊斎志異 桃をぬすむ
子供の時、郡の入学試験に行き、春節の祭りに出会った。
旧例で、春節になると朝早くから、各道路の商店は、皆二階の窓をきれいに飾り付け、笛や太鼓を打ち鳴らして、知事の役所まで練り歩いたものであり、それを「演春(春をまねく)」と呼んでいた。
註:郡試(ぐんし):科挙の一部?首府で行われる入学試験。
註:春節(しゅんせつ):正月の節句。
註:旧例(きゅうれい):昔からのしきたり。
註:行(こう):道路。
註:商賈(しょうこ):商店。
註:彩楼(さいろう):二階の窓を美しくかざる。
註:鼓吹(こすい):太鼓をたたき、笛をふく。
註:藩司(はんし):知事の役所。
註:演春(えんしゅん):春をおしひらく。
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余從友人戲矚。是日遊人如堵。堂上四官皆赤衣,東西相向坐。時方稚,亦不解其何官。但聞人語嚌嘈,鼓吹聒耳。 |
余は友人に従いて、戯瞩(冗談をいい目をみはる)す。是の日、遊人(暇人)は堵(垣)の如し。堂上、四官(四役人)は、皆、赤衣にして、東西、相向かいて坐す。時は方(折しも)に稚くして、亦た其の何の官なるやを解せず、但だ人語の嚌嘈(多くの声がかまびすしい)たると、鼓吹の聒耳(耳にやかましい)たるを聞くのみ。 |
わたしは、友人に連れられて冗談をいったり、目をみはったりしていた。
この日、見物人たちが、人垣を作って囲むなか、堂上には、四人の役人が、皆、赤い衣を着て、東西に向いあって坐っていた。
わたしは、その時、まだ稚かったので、どのような官の人か理解しておらず、ただ多くの人声が入り乱れ、笛太鼓の音が耳を打つのみであった。
註:余(よ):われ、わたし。
註:戯瞩(ぎしょく):冗談をいったり、目をみはったりすること。
註:遊人(ゆうじん):暇人。
註:堂(どう):表座敷。外から丸見えの執務所。
註:赤衣(せきい):赤いころも。上級官吏の衣服?
註:嚌嘈(せいそう):多くのこえがかまびすしいさま。
註:聒耳(かつじ):耳にやかましい。
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忽有一人率披髮童,荷擔而上,似有所白;萬聲洶動,亦不聞為何語。但視堂上作笑聲。即有青衣人大聲命作劇。其人應命方興,問:「作何劇?」堂上相顧數語。吏下宣問所長。答言:「能顛倒生物。」 |
忽ちにして、一人有り、披髮(髻を結わない、切り下げ髪)の童を率い、荷擔(肩にのせる)して上り、白う所有るに似たるも、万声洶動(騒いで静まらない)して、亦た何の語を為すやを聞かず、但だ堂上に笑声を作すを視るのみ。即ち青衣の人有り、大声に劇(しばい)を作さんを命ず。其の人は、命に応じて、方に興さんとして、問う、「何の劇を作さん?」と。堂上を相顧みて数語り、吏は宣(みことのり)を下して、長ずる所を問う。答えて言わく、「能く顛倒(道理に反す)して、物を生ず。」と。 |
とつぜん、ひとりの人が、おかっぱ頭の子をひきつれて現れた。荷を肩にのせたまま、堂に上ると、何ごとか申しあげているように見えた。
ワァワァ、多くの人声が騒がしくて、何を言っているのか、さっぱり聞き取れず、ただ、堂上の人が、笑い声を上げるのを見つめていた。
その時、青い衣の役人が出てきて、大声で「劇をやれ!」と命じた。
その人は命に応じて奮い立ち、こう問うた、――「何の劇をやりましょう?」と。
堂上では、互いに見交わして、数語あったが、役人はその言葉を伝えて、何が得意なのか?と問うた。
答えて、こう言った、――「ありそうにない物を取り出すことができます。」と。
註:披髮(ひはつ):切り下げ髪。おかっぱ。
註:荷擔(かたん):荷を肩にのせる。
註:白(はく):もうしあげる。
註:洶動(きょうどう):騒いで静まらない。
註:青衣(せいい):青い衣。下級官吏の衣服?
註:劇(げき):しばい。出し物。
註:興(こう):ふるいたつ。
註:吏(り):下級の役人。
註:宣(せん):命令のことば。みことのり。
註:顛倒(てんどう):正邪、是非の逆転したさま。
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吏以白官。少頃復下,命取桃子。術人聲諾。解衣覆笥上,故作怨狀,曰:「官長殊不了了!堅冰未解,安所得桃?不取,又恐為南面者所怒。奈何!」 |
吏は、以って官に白す。少しの頃にして、復た命を下す、「桃子(桃の実)を取れ!」と。術人は、声諾(わかったと承諾する)して、衣を解いて笥(竹かご)の上を覆い、故に怨状(怨むふぜい)を作して曰わく、「官長(長官)は殊に了了(かしこい、物わかりのよい)たらず!堅氷すら未だ解けず。安にか桃を得る所あらん?取らずんば、又恐らくは、南面(君主の位)する者の為に怒られん。奈何!」と。 |
役人は、それを上役に伝え、しばらくすると、また命を下した、――「桃の実を取ってこい!」と。
術人は、「わかりました!」と承諾したが、衣を解いて、竹籠の上を覆いながら、わざと聞こえるように、恨みごとをこう言った、――「長官さまは、特別物わかりの悪いかただ!堅い氷がまだ溶けないというのに、どこで桃を得よというのか?取らなければ取らないで、恐らくは、お上に怒られることになろう、ああどうしよう!」と。
註:桃子(とうし):桃の実。
註:術人(じゅつじん):方術(神仙の術)に長けた人。
註:声諾(せいだく):わかったと声にだしていう。
註:笥(す):竹製の衣装箱。
註:怨状(えんじょう):恨んだようす。
註:官長(かんちょう):官吏の長。長官。
註:安(あん):どこで。
註:南面(なんめん):君主の位。君主は北方に坐して南面する。
註:奈何(なか):いかんせん。ああ、どうしよう!
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其子曰:「父已諾之,又焉辭?」術人惆悵良久,乃云:「我籌之爛熟。春初雪積,人間何處可覓?唯王母園中,四時常不凋謝,或有之。必竊之天上,乃可。」子曰:「嘻!天可階而升乎?」曰:「有術在。」乃啟笥,出繩一團,約數十丈,理其端,望空中擲去; |
其の子の曰わく、「父は、已に之を諾せり。又焉くんぞ辞めんや?」と。術人は、惆悵(なげき悲しむ)すること良(やや)久しくして、乃ち云わく、「我れ之の爛熟を籌(計)す。春初、雪積もるに、人間、何処にか覓(求)むるべき?唯だ王母の園中にのみ、四時常に、凋謝(しぼみおちる)せず。或いは之有らん。必ずや、之を天上に竊(盗)むこと、乃ち可ならん。」と。子の曰わく、「嘻(ああ、怨むこえ)!天に階(はしご)して、升(昇)るべけんや?」。曰わく、「有る術在り。」と、乃ち笥を啓きて、縄の一団を出す。約数十丈なり。其の端を理(分)し、空中を望んで、擲げ去る。 |
その子供が、こう言った、「お父さんは、もうできるって言っちまったんだ。いったいどうやって止めるのさ?」と。
術人は、少しの間なげき悲しんでいたが、やがてこう言った、――「わたしは、これがいつ、どこで熟すのか、かぞえてみよう。春の初めだろう!雪が積もっているだろう!人間界では、どこに求めても無駄だろうなあ。そうすると、残るのは王母様の桃園の中だけだ!四季の間、常に凋(しぼ)み落ちることがないとか、恐らくは、桃も有ることだろうよ、‥‥必ず、これを天上から盗み出してみせよう、ああ、それがよい!」と。
子供が、こう言った、――「ああ、そんな!天にはしごでもかければ、昇れるっていうのかい?」と。
術人は、こう言った、――「術があるのだ!」と。やがて、竹籠から縄の束を取り出し、その数十丈の縄の端をえり分けていたが、それを見付けると空中に向って投げあげた。
註:諾(だく):うけがう。承知する。
註:焉(えん):いづくんぞ。疑問の言葉。
註:辞(じ):ことわる。
註:惆悵(しゅうちょう):なげいて悲しむ。
註:良(りょう):少しばかり。やや。
註:爛熟(らんじゅく):果物が熟すこと。
註:籌(ちゅう):計る。かぞえる。
註:王母(おうぼ):西王母。西王母の園中の桃は三千年に一度、実を結ぶという。西王母は古の仙人の名。
註:必(ひつ):なしとげる。
註:竊(せつ):こっそり盗み出す。窃盗。
註:階(かい):階段。はしご。
註:術(じゅつ):方術。仙人の術。
註:理(り):分ける。
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繩即懸立空際,若有物以挂之。未幾,愈擲愈高,渺入雲中;手中繩亦盡。乃呼子曰:「兒來!余老憊,體重拙,不能行,得汝一往。」遂以繩授子,曰:「持此可登。」 |
縄は即ち空際に懸かり立つ。若しは、物有りて、以って之に掛らん。未だ幾ばくならざるに、愈擲げ愈高し。渺(はてしない)として雲中に入るに、手中の縄も亦た尽く。乃ち子を呼んで曰わく、「児よ来たれ!余は老憊(おいぼれる)し、体は重く拙くして、行く能わず。汝を得て一たび往かん。」と。遂に縄を以って、子に授けて曰わく、「此れを持ちて登るべし。」と。 |
縄は、すっくと空の際(はて)に向って立った。何か物があって、それにひっ掛っているように見える。
縄は、投げ上げあげるたびに、だんだん高く上り、遙かかなたの雲の中に入ってゆくと、そこで縄も尽きてしまった。
そこで子供を呼んで、――「坊や、来なさい!お父さんはな、もう老いぼれだよ!体は重いし、動きは鈍い、もう行くことはできないのだが、お前が、ちょっと往ってくれれば済むことだ!」と言いながら、とうとう縄を子供にわたして、こう言った、「これを持って登るがよい!」と。
註:空際(くうさい):空のはて。
註:渺(びょう):はてしないさま。
註:児(じ):男の子。父に対する男子の自称。
註:老憊(ろうはい):おいぼれる。
註:拙(せつ):動きがにぶい。
註:得(とく):かなう。満足する。
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子受繩有難色,怨曰:「阿翁亦大憒憒!如此一線之繩,欲我附之,以登萬仞之高天。倘中道斷絕,骸骨何存矣!」父又強喝迫之,曰:「我已失口,悔無及。煩兒一行。兒勿苦,倘竊得來,必有百金賞,當為兒娶一美婦。」 |
子は、縄を受くるも難色有り。怨みて曰わく、「阿翁(お父さん)も亦た大いに憒憒(おろか、むちゃくちゃ)たり!此の如き一線の縄、我れを之に附(託す)し、以って万仞(尋)の高天に登らしめんと欲す。倘(もし、たまたま)し中道にして、断絶せば、骸骨は何に存せんや!」と。父は、又強いて、之に喝迫(どなって迫る)して曰わく、「我れは已に失口(口をすべらす、失言)せり。悔やんでも及ぶ無し。児を煩わして、一たび行かしめんとするに、児は苦とする勿かれ。倘し、竊み得て来たらば、必ず、百金の賞有らん。当に児の為に一美婦を娶らしむべし。」と。 |
子供は、縄を受取ったが、いやそうなそぶりを見せ、恨んでこう言った、――「お父さん、そりゃむちゃくちゃだよ!この一本の縄に、おいらをくっつけて、万丈の高空に登れっていうのかい!もし途中で切れちゃったら、お骨はどこにあるっていうのさ!」と。
父は、これに答えて、こうどなり返した、――「お父さんがな、つい口をすべらせたからなんだが、悔やんだって、どうなるってもんでもないんだ!子供を煩わして、ちょっと行ってこようっていうんじゃないか!子供が、いやがるもんじゃない!もし、盗み出して来れたなら、きっと百万もの賞金が出るだろうさ。それで、お前に、美しい嫁さんをもらってやろう!」と。
註:阿翁(あおう):お父さん。
註:憒憒(かいかい):おろか。むちゃくちゃ。
註:万仞(ばんじん):万丈。
註:矣(い):反語、又は疑問を示す。
註:苦(く):いとう。
註:金(きん):貨幣の単位。
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子乃持索,盤旋而上,手移足隨,如蛛趁絲,漸入雲霄,不可復見。久之,墜一桃,如碗大。術人喜,持獻公堂。堂上傳視良久,亦不知其真偽。忽而繩落地上,術人驚曰:「殆矣!上有人斷吾繩,兒將焉託!」 |
子は乃ち索(縄)を持ちて、盤旋(ぐるぐる旋る)して上る。手を移して足随うこと、蛛(くも)の糸を趁(走)るが如し。漸く雲霄(雲居のそら)に入りて、復た見るべからず。之を久しうして、一桃を堕とす。碗の如く大なり。術人は喜んで、持して公堂に献ず。堂上に、伝え視ること、良久しくして、亦た其の真偽を知らず。忽ちにして、縄、地上に堕つ。術人の驚いて曰わく、「殆(危)いかな!上に人有り、吾が縄を断つ。児は将に焉くんぞ託すべき!」と。 |
子供は、ようやく索(つな)を手に持つと、くるくる廻りながら上っていった。手を移すごとに、足を移し、まるで蜘蛛が糸をたぐるようにして、やがて雲の中に入り、もう見えなくなってしまった。
しばらくして、桃が一個落ちてきた、茶碗ぐらいの大きさである。術人は喜んで手に持ってささげ、それを堂上に献じた。
堂上では、手から手に伝えながら、しばらくじっと見ていたが、それが本物なのか、偽物なのか、確信をもったものはなかった。
そうこうしているうちに、縄が地上に落ちてきた。
術人は驚いて、こう言った、――「もう駄目だ!上に人がいて、縄を切っちまった。あの子は、何を頼りに下りてこれよう!」と。
註:盤旋(ばんせん):くるくる旋回する。
註:雲霄(うんしょう):雲居の天。雲。
註:公堂(こうどう):役所の執務所。
註:殆(たい):危うい。
註:焉(えん):いづくにか。何に。
註:託(たく):頼る。
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移時,一物墮。視之,其子首也。捧而泣曰:「是必偷桃,為監者所覺。吾兒休矣!」又移時,一足落;無何,肢體紛墮,無復存者。 |
時を移して、一物堕す。之を視るに、其の子の首なり。捧げて泣いて曰わく、「是れは必ず、桃を偸むに、監者の覚る所と為さん。吾が児は、休(止)みたり!」と。又時を移して、一足落ち、何(いくばく)も無く、枝体、紛(乱)れ堕ちて、復た存する者無し。 |
時が過ぎると、何物かが落ちてきた。見てみれば、あの子供の首ではないか!それを捧げて、泣きながら、こう言った、――「これはきっと桃を盗むのを、監視の者に覚られたにちがいない。わが子は終ってしまった!」と。また時が過ぎると、片足が落ちてきた。間もなく、他の肢体も、ばらばら落ちてきてが、生きている者は何もなかった。
註:無何(むか):いくばくもなく。間もなく。
註:存者(そんしゃ):生きている者。
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術人大悲。一一拾置笥中而闔之,曰:「老夫止此兒,日從我南北游。今承嚴命,不意罹此奇慘!當負去瘞之。」乃升堂而跪,曰:「為桃故,殺吾子矣!如憐小人而助之葬,當結草以圖報耳。」坐官駭詫,各有賜金。 |
術人は、大いに悲しんで、一一拾いて笥の中に置き、之を闔(閉)じて曰わく、「老夫は、此の児を止む。日ごろ我れに随いて南北に游(遊)びしも、今は、厳命を承けて、意ならずして此の奇惨に罹る!当に負うて去り、之を瘞(埋)めん。」と。乃ち堂に升り、跪いて曰わく、「桃の為の故に、吾が子を殺せるなり!如し小人を憐れんで、之を葬るを助けたまわば、当に草を結び(死して後、草を結んで敵をつまづかせ、恩に報ゆるの譬え)て、以って報を図らんとするのみ。」と。坐官は、駭(驚)き詫(怪)みて、各、金を賜わること有り。 |
術人は、たいへん悲しんで、一つ一つ拾いながら、竹籠の中に置き、蓋を閉じると、こう言った、――「この年寄りは、この子を失ってしまいました。日ごろ、わたしと一緒に南北に旅しておりましたものが、今は、厳命を受けて、このとおり心ならずも、この奇怪な惨事に出遭いました。背負って帰り、これを埋めることにいたしましょう。」と。そして堂に昇ると、跪いてこう言った、――「たかが桃の為に、わが子を殺してしまいました!この憐れな小者の為に、これを葬るのを助けてやってくださいまし。きっと草を結んで、報いることでございましょう。」と。一座の官吏たちは、驚き怪しんで、各、金を賜った。
註:闔(こう):閉じる。
註:老夫(ろうふ):としとった男。自称。
註:止(し):やむ。失う。
註:游(ゆう):ながれる。旅をする。
註:不意(ふい):思いがけなく。
註:奇惨(きさん):奇怪な惨事。
註:罹(り):遭う。
註:草を結ぶ:恩に報ゆるため、死後、草を結んで敵をつまづかせ、恩人を助けたとの故事による。
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術人受而纏諸腰,乃扣笥而呼曰:「八八兒,不出謝賞,將何待?」忽一蓬頭僮首抵笥蓋而出,望北稽首,則其子也。以其術奇,故至今猶記之。後聞白蓮教,能為此術,意此其苗裔耶? |
術人は、受けて諸(之)を腰に纏い、乃ち笥を扣(叩)いて呼んで曰わく、「八八児(九官鳥)、出でて賞を謝せざるや!将に何をか待つべき?」と。忽ち一蓬頭(もじゃもじゃあたま)の僮(子供)の首、笥の蓋を抵(押しのける)して出で、北を望んで稽首す。則ち其の子なり。其の術の奇なるを以っての故に、今に至るまで、猶お之を記せり。後に、白蓮教は、能く此の術を為すと聞けり。此れを意うに、其の苗裔なりや? |
術人は、金を受けると、それを腰に縛り付け、竹籠を叩いて、――「これ九官鳥や!出て来て賞金にお礼を申しあげないか、何をぐずぐずしている?」と、こう呼びかけると、とつぜん、もじゃもじゃ頭の子供が、竹籠の蓋を押し開けて首を出し、北の方を向いて、ぺこぺこお辞儀した。それがその子だったのである。
その術が余りに奇怪だったので、今こうして記しているが、後に聞くところでは、白蓮教が、この術を用いるそうであり、或いはその苗裔ではないかと思う。
註:諸(しょ):これ。
註:八八児(はちはちじ):九官鳥。人語をはなす鳥。
註:稽首(けいしゅ):地に頭をつけてお辞儀する。
註:白蓮教(びゃくれんきょう):元に起り、明清時代に流行した仏教系の秘密結社。祈祷、符咒、治病等を以って愚民を惑わせたという。
註:苗裔(みょうえい):末裔。生き残り。 |
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