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春から初夏へ
  四月も下旬に入りますと、わたしの庭はすっかり若葉の色一色に変り、息苦しさを覚えるほどです。三月下旬から四月上旬の頃はアネモネ、チューリップなど種種の色彩に覆われ、見ていてもゆったり、ぬくぬくした日溜まりの様相を呈していたものが、この頃は精力汪溢せる若者にまわりを取り囲まれたような、焦燥と不安とを感ぜずにはいられません。
  いやそれよりもむしろわたくし自身の気力の方が萎びてしおたれていると言うべきでしょう。精力の源泉たるアルコールを止められては、それさもありなんという所ですが、眼底に出血があるぞ、目が見えなくなるぞと脅されては医者と地頭には勝てぬが道理、言いつけに随わないわけにも行きませんので、これも已む無しという所です。ただ心残りは冷蔵庫を虚しく占領するボンベイサファイアジン数本、チンザノベルモット数本、強くて甘くて濃いシャルトルーズの浅緑数本、夜の時間を華やかにしてくれるバランタインのスコッチ数本、白鷹数本、いったいこれを何うせよというのか、勿体ないから飲んでしまおうか、盲目になればなったで何かかにかできることもあろう、例えば琴を習ってはどうだろうか、皆様とお別れするのは悲しいが目が見えなくては仕方がない、ここらで一休みしようか、飲みたいなぁ、いやいや早まってはならぬ、耳が聞こえなくてもさほど困りはせぬが、目が見えなくては不便でかなわぬぞ、つい早まって一大事をし損ずな、しかし勿体ない、いやいや、飲みたいなぁ、まてまて、‥‥とまあ、わたくしの心の葛藤を明かせばこのようなものでございますが、下司の根性というものは容易に矯めるべからず、自ら種を蒔いては自ら刈るといったことを相変わらず飽きずに繰り返しているような次第です。
  
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  さてこれはもうすっかり旧聞になったことと思いますが、一時世間を騒がせたあのもうマグロが食えない騒ぎも思いだして見れば、まことにみっともない話で、たかが食い物の事でこれほど大騒ぎする国が他にあるでしょうか、恐らくは世界中の笑い者になっていたことでしょう。或いは日本人の弱点がすっかり見透かされてしまったのでは?何かあるごとに、またマグロを持ち出してみようかなどということになるやも知れず、いやいやそれどころか、恐らくこれは例の調査捕鯨とつながっているのでしょうね?税金を使って虚をつく、食い意地が張る、世界中の笑い者になる、足元を見られる、これはもう末期症状としか言いようがありませんが、そんな国には一泡吹かせてやれと思ったところで少しも不思議ではありません。いやはや酷いことになったものです。  
  このような訳で、今月のテーマは無常です。わたくし自身のこの身体も、また世間もなかなか思い通りには成りにくいものですが、このように心が弱った時、常にこの「仏説無常経」の中の何句かを読むのです、そうするといくぶん気が楽になりますが、まあ一種の保健薬ですかな、これを服めば即座に回復するというものでもありませんが、いくぶんの慰めにはなるようですから。
  

  
  この「無常経」は昔印度の僧が死ぬとその葬送の時にこれを誦したということですが、いくら不平等のまかり通る世の中とはいえ、無常の風だけは公平に吹くという訳ですな、随分安心させられることではありませんか。
  
  無常とは、「世間の一切の法(事物)は実に念念に生滅遷流して刹那も住(とど)まること無し」、というのが古来謂われている所ですが言い換えれば、われわれのこの身心は一瞬も止まることなく変化し続けているということになります。生れたばかりの赤子は少年に向って変化し続け、少年は青年へ、青年は壮年へ、壮年は老年へ、老年は死へと絶え間なく変化し続けている、という至極当然のことを指しているのです。しかし何故かわれわれ人間というものには、この事がどうもぴんと来ない、ぴんと来ないが故に大切なことを後回しにして、しなくても良いことをさも一大事のごとく考える、というような本末転倒が起るのです。
  
  仏教では無常ということは特に重大なキーワードで、これが理解できれば仏教のあらましを理解できたことになるのですが、小乗仏経では、その為にこの無常を観察するということを非常に重視しておりますので、四念処という修行をおこないます。それを簡単に説明しますと、身体、感受、心識、諸法について常に心をかけて観察するということで、その一一を見てみますと、即ち一に身体を観察するとは、身体の不浄を観察して、身体に対する執著を取り除くこと、即ち何のような美男美女も一皮剥けば皆同じく不浄以外の何者でもない、或いは何れほど健康であろうと時が来れば老いなくてはならない等と自身、他身についいて観察し、それに対する執著を取り除くことをいいます。二に感受を観察するとは、われわれには苦楽二種の感受があり、その中にも楽の感受を喜んで、苦の感受を嫌うというのが世間一般ですが、楽の感受を喜ぶということは、それを失う時、また苦を感受するということに繋がりますので、要するにわれわれの感受は皆苦であるということを指しています。三に心識を観察するとは、心の無常を観察することであり、即ち一切の観察者たるわれわれの心自体が無常であり、一瞬たりとも住まらないということを観察します。譬えてこれを謂えば、世間がぐるぐる廻っているのではなく、自分自身が独楽のように廻っているのだと観察しなければなりません。四に諸法を観察するとは、諸法とは一切のあらゆる事物を指し、その何処にも我(が)というものは存在しない、要するに無我であると観察することを指します。このように、われわれには身念処、受念処、心念処、法念処という四つの観察されるべき場所があり、それを観察するということは、取りも直さず無常を観察するということになるのです。これを四念処といいます。
  
  このように無常というものを観察しておりますと、ややもすれば虚無に堕して何をしても無駄ではないかと思う人もあるようですが、そこがまたもう一方の本末転倒であり、この両処を脱れたところに、仏教の謂わゆる中道があります。無常とは変化ということですが、変化すればこそ良くも悪くもなる訳で、無常でなければわれわれはとても生きては行かれません。要するに無常なればこそ希望もあるということですので、悲感する必要はまったく無い訳です。
  
  では何をどうすれば良いのか、‥‥。
  
  仏教とは観察し思考し行動することに他なりません。これ等は皆自分自身で行わなくてはならないのです。教を聞くとはそういう事なのですね、‥‥。最初に観察し、次は思考し、最後に行動する、これが仏教です。皆自分自身で行う、これが仏教です。
  
  ご一緒に無常を観察しましょう、‥‥。そして考えましょう、そして何かできればそれをなさってください。
  
  
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  無常の話をしていたせいかどうかは分かりませんが、四年使ったディスプレイの具合が突然悪くなり、時々ブラックアウトするようになりました。数秒待てば回復するので、今もまだ入力できているのですが、困ったことです。
  そこでメーカーに問い合わせたところ、この機種は電源に異常が見つかっておりますので、送り返してくれれば修理いたします、というようなことで何でも一週間から十日ほどもすれば修理できるだろうということですので、来月はひょっとしたら何もできないかも知れません。このような理由で来月は休むことになるかも知れませんので、今から一言あらかじめお詫びを申し上げておきます。
  
  今月の料理は酢豚です。世の中にはパイナップルが入るのは嫌だという方が時としていらっしゃいますが、わたくしにはパイナップルの入らない酢豚は考えられません。何しろ豚肉にはパイナップルが実に良く会うのです。皆様も是非お試しください。ただしケチャップは決して入れてはいけません。酸味は黒酢と缶詰のパイナップルとその果汁、甘みは二種類のカラメル、後は塩味少々、香り付けに醤油少々、これだけです。どうです?おいしそうでしょう?
  
(材料:二人前)
  豚肉:120グラム
  野菜:ネギ20cm、タマネギ1/2個、にんじん少々、ピーマン1個、赤ピーマン1/2個、ショウガのみじん切り小サジ1
  缶詰:パイナップルの輪切り二枚、シロップ大さじ1坏
  調味料:砂糖100グラム、黒酢50cc、塩小サジ1/2、醤油小サジ1、酒大サジ1
  粉:片栗粉小サジ1、小麦粉1/2カップ、葛粉大サジ1
  
(作り方)
  1:肉の下準備:豚肉を一口大に切り、酒少々、片栗粉少々を合せたものでよく揉んで、しばらく置く。
  2:カラメルA、B:砂糖100グラムを分けて80グラムの色の薄いカラメルAと、20グラムの色の濃いカラメルBの二種類を作る。カラメルAの作り方:砂糖80グラムと水40ccをブクブクさせて強火で煮詰め茶色になったら火を止めて湯100ccを加えてよくかき混ぜる。カラメルBは砂糖20グラムと水10ccとをカラメルAと同じように煮詰め、色が焦げ茶色なったら火を止めて湯25ccを加えてよくかき混ぜる。
  (注意)火を止めても湯を加えないと炭化が進んで真っ黒になるので速かに湯を加えること。水を加えるのは飛び跳ねて危険。いくぶん危険は少なくなるが、湯でもかなり飛び跳ねるので相当の注意が必要。
  3:合わせ調味料の準備:黒酢50ccにパイナップルのシロップ大サジ1、塩小サジ1/2、醤油小サジ1をよく混ぜ合わせ、カラメルAを全量加え、カラメルBで色と苦みを調節する。苦みが加わると味が華やかになり、苦みが少いと子供向けになる。
  4:衣:小麦粉1/2カップに水を適量加え、やや堅めの衣に作り、ここに前の豚肉を付け汁と共に入れてよく混ぜる。
  5:葛:とろみ付けの葛粉大サジ1を同量の水で溶く。
  6:天ぷら:衣の付いた豚肉をぬるめの油で揚げる。水泡が出なくなった時が揚げ上がりの目安。
  7:野菜をすべていため、缶詰のパイナップルと合わせ調味料を加えて水溶き葛粉でとろみを付ける。
  8:手早く皿に盛ってできあがり。
  
  
  
  では、今月はここまで、またできれば来月か再来月かにお会いしましょう、それまでご機嫌よう。
  
  
  
  
  
  
  
  (春から初夏へ おわり)