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茘支(れいし)
  
  暗く長い地中の生活を終え、やっと明るい地上に出てきて歌おうとすれば、お前たちはもう一度、地中にもぐり、はいずり回っておれ、とは!
  
  「元気な高齢者をいかに使うか。この人たちは皆さん(日本青年会議所メンバー)と違い働くことしか才能がないと思ってください。働くということに絶対の能力がある。80過ぎて遊びを覚えても遅い。遊びを覚えるなら青年会議所の間(たしか40歳以下)ぐらい。そのころから訓練しとかないと。60過ぎて、80過ぎて手習いなんて遅い。働ける才能をもっと使い、その人たちが働けるようになれば、その人たちは納税者になる。税金を受け取る方ではない。行って来いで、日本の社会保障は違ったものになる。」(毎日jp 毎日新聞 2009年7月25日)
  
  大きなお世話と言いたいところですが、ガキのせりふじゃあるまいし、だいたい自分より年上の者をつかまえて、「いかに使うか」などと、どの口が言うのやら。世の中には言ってよいことと、言ってはいけないことがあります。長く定年まで働いた、その間のご苦労を思えば、とても言えないせりふです。自ら働き自ら積み立てた年金をどのように使おうと使うまいと、まったくその人一人の勝手であり、他人の口出しできることではありません。その当然のことに文句をつけるとは、お門違いもいいとこで、口が過ぎるといっても、これに過ぎるものはないでしょう。
  
 恐らく、この人は、この品のない口ぶりといい、その内容といい、若いときから一度もしつけを受けず、『礼儀作法』というものを習わなかったのでしょう。
  
  
礼は淫を綴(とど)むる所以(ゆえん)なり (礼記)
   
  
  「淫」には色欲にふけるという意味もありますが、この場合は物事にしまりがない、だらしないという方の意味で取らなくてはなりません。よってこの文からは、口にしまりがないのは礼を知らないからだという事を知ることができます。
  
  よく「お里が知れるわ!」などと、人の話し方なんぞに悪口をたたきますが、少なくとも、どんな育ち方をしてきたかぐらいは、簡単に知られてしまいます。人と話す時は、よほど注意しなくてはならない理由(わけ)です。
  
  容易に腹の中を見せない、これは政治家の必須条件です。世界に向かっても、これがないととても通用しないものですが、まあ選んだわれわれの方にも責任のあることですし、この話はこれぐらいにしておきましょう、‥‥。
  
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  この地方では、もう何日も前から夏休みに入っているというのに、もうじき八月だというのに、いっこう梅雨が明けようとしません。
  
  これもやはり異常気象の一つなのでしょうが、この言葉にも、このところ慣れてしまったようで、どうも今ひとつ驚きをともなわず、何か「なるほど」などと相づちの一つも打ちそうになり、気づいてみればその方に驚かされるといったしまつです。
  
  異常気象が異常でなくなるとは、何なのでしょうか?考えてみれば空恐ろしいような気がしないでもありません。それに加えて、先ほどの礼記からは『天道至教』というような文句も目に入ってきます、‥‥。その意味はこの伝習録の解釈によって明らかでしょう。
  
  
天道至教、風雨霜露無非教也 (伝習録)
      
  
  天道は教(おしえ)の至りなり、風雨霜露も教に非ざるは無し。天の行いは、教の至極である。この異常気象も、敢えて読み解くまでもなく、われわれに何かを教えています。この教こそは至極である。何を差し置いても、先ずこれを習わなくてはならないのですが、しかし、‥‥。
  
  どうもいやな事ばかりが続いて、これ以上、話を進める気がしません。また元に戻しましょう、‥‥。
  
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  つい先日このような記事を目にしました、――
韓国大統領、自宅と預金除いた全資産を寄付 奨学金に2009年7月6日22時47分

 【ソウル=箱田哲也】韓国大統領府は6日、李明博(イ・ミョンバク)大統領がソウル市内の自宅や一部預金を除く資産約331億ウォン(約25億円)を、近く設立する財団法人に寄付し、苦学生の奨学金支援などに役立てることになった、と発表した。資産の寄付は一昨年の大統領選時からの公約で、内部で委員会を作って検討していた。

 大統領府によると、李大統領の全資産は、ソウル江南地区の高級住宅地の土地・建物4カ所と預金などを合わせて445億ウォン(約33億円)。このうち自宅1軒と預金など(計約49億ウォン=約3億6千万円)と債務を除いたすべての資産を寄付するという。 (asahi.com)
  
  いやー、できない事ですよ、これは、‥‥。25億円ですからねぇー、‥‥。
  全世界がこれには驚いたでしょうな。その証拠がこれではないでしょうか、――
エリクソン、韓国に5年間で15億ドル投資へ
7月12日15時42分配信 聯合ニュース
  
【ストックホルム12日聯合ニュース】世界的な情報通信企業のエリクソンが、韓国に向こう5年間で15億ドル(約1400億円)を投資する。青瓦台(大統領府)側によると、エリクソンのベストベリ会長は12日、スウェーデンを訪問中の李明博(イ・ミョンバク)大統領とストックホルム市内で会い、こうした投資計画を明らかにした。
  
 エリクソンは韓国をグリーン技術と第4世代移動通信分野のテストベッドとし、韓国に共同研究のための研究・開発(R&D)センターを新設、韓国支社の人員も現在の80人程度から1000人に拡大する計画だ。李大統領は投資拡大を歓迎すると同時に、韓国の大企業だけでなく競争力を持つ中小企業との緊密協力も求めた。また、外国企業が韓国市場で国内企業と公正に競争できるよう、積極的に環境を整えると強調した。
 大統領の海外訪問中に、当該国の大企業がこうした大規模投資を約束するのは極めてまれだ。これを機に、外国からの対韓投資ムードが好転するものと期待される。
 エリクソンは、韓国の第4世代移動通信メーカーと共同で技術開発とテストを行うためのコンピテンスセンターを設立・運営し、移動通信・装備関連企業とR&Dプロジェクトを共同展開すると伝えられた。サムスン電子やLG電子などの国内有数企業が参加する可能性が高い。
 同社の投資は、移動通信システムと端末機分野の技術力向上だけでなく、世界市場向けの端末機・装備輸出にも大きく役立つ見通しだ。
  
  この記事は、日付に注目してくださいね。
  まだ有ります、――
FTA:EUと韓国妥結 関税撤廃で日本ハンデ
  
毎日新聞 2009年7月13日 23時19分
 【ブリュッセル福島良典】欧州連合(EU)と韓国の自由貿易協定(FTA)締結交渉が13日妥結した。FTAが発効すれば韓国製品への関税が段階的に撤廃され、自動車や家電製品などの輸出で競合する日本メーカーはハンディを負う。
  
 韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領が同日、EU議長国スウェーデンのラインフェルト首相とストックホルムで会談後、「すべての重要な問題で最終妥協案が成立したことを歓迎する」と宣言した。ラインフェルト首相はEU加盟27カ国の承認が年内に得られるとの見通しを示した。
  
 EUと韓国は07年5月に交渉を開始し、今年3月には暫定合意に達した。欧州自動車産業界は、韓国メーカーが安価な中国製部品を使った自動車を輸出できるのは不公平と指摘している。
  
 日本もEUとの交渉開始を目指しているが、EU側に関税撤廃への反対が強く、交渉入りにこぎつけられていない。
  
  
  世界に目を向ければ、このように傑出した指導者がいることに気づきます。
  世界全体にとっては非常にめでたい事ですが、この国にとっては?
  ひょっとして、完敗ってこと?
  何年か前からスポーツでは負けていたような気がしましたが、‥‥。
  工業でも、何となく危ないとは思っていましたが、‥‥。
  
  これは完全に『人間力の差』というものが顕れたのですな、‥‥。
  これでは、あらゆる分野で遅れを取らざるをえないようで、‥‥。
  寂しいような悔しいような、‥‥。
  これでは、何とかせねばなりませんわな、‥‥。しかし何うしよう、‥‥。
  
  選挙が有りますが、‥‥。いづれにしても皆様次第ということで、‥‥。
  
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  このように、いくぶん気分が良くなったところで、今月の漢詩に入ります。
  今頃の季節の詩です、せめてこの中だけでも夏の気分を味わいましょう、――
  
  題を『和陶帰田園居 六首』といい、彼の陶淵明(とうえんめい)の『田園の居に帰る』という詩に、蘇東坡(そとうば)が和して六首の詩を作りました。
  
  蘇東坡は本名を蘇軾(そしょく)といい、北宋、眉州眉山(中国四川省眉山市)の人で、地方官を歴任しましたが、たびたび左遷されました。これは、恵州(広東省)に流された時(1095)に作った詩です。
  陶淵明は、本名陶潜(とうせん)、東晋南北朝(365-427)、潯陽(じんよう)柴桑(さいそう)(江西省九江市)の人で、官に就くよりも田園を愛した、田園詩人として知られています。
  
  それでは見てみましょう。
  この詩には、こんな序文があります、――
  三月四日、白水山仏跡巌(恵州の名勝)に遊ぶ。湯泉に沐浴し、髪を瀑布の下で乾かし、大声で歌を歌って帰る。輿(こし)に揺られて人と話をしている間に、川辺の茘支(れいし)を積み出す船着き場に着いた。
  夕日は青白く、竹林の陰がもの寂しい。
  その時、鈴なりに実った茘支の林に、一人の老人がいて指をさして招く。年は八十五ぐらい、こう言った、――
  「これが食べられる頃、酒を携えてお出でくださらんか。」
  喜んでうべなう。家に帰り一寝入りして目覚めてみると、息子の過(か)の声が聞こえてくる。陶淵明の『帰田園居六首』を誦しているのだ。いつの間にやら、わたしもその韻に同じていた。
  昔、広陵(江蘇省揚州市)では、陶淵明の飲酒二十首に和した。今またこの詩を作るが、悉く同じ韻を踏んで和すことにしよう。

  本文は次のとおりです、少し長いですよ、――
 
(注釈)●州:恵州。●白水:澄んだ水。白く光る川。白水山にかける。●孔丘:孔子の本名。●顔淵:孔子の弟子、顔回の字(あざな、呼び名)。●周公:周文王の子、武王の同母弟。武王の子の若き成王を補佐して国を安定させた。●管蔡:周公の同母弟、管叔と蔡叔、それぞれ管と蔡とに封ぜられたによって、こう呼ぶが、後に反乱して周公に誅せられた。引いては周公と仲の悪い兄弟。●茅三間:方三間のあばら屋。『宋武二王伝』という書物に、襄陽(じょうよう)の龐公(ほうこう)という隠者が、劉表(りゅうひょう、襄陽の支配者)に向かって、「もし周公と管蔡とを同じ茅屋の下に閉じこめて、雑草の煮物を食わせれば、これ以上の災難がまたと有ろうか。」と言ったとある。(蘇東坡詩醇)●薇蕨(びけつ):ぜんまいとわらび。●饋(き):食料の贈り物。●餞(おく)る:旅立つ人を宴をもって送る。●華顚(かてん):白髪頭。●禽魚:小鳥と魚。●悠悠:暇のあるのんびりしたさま。●所然:然りとする所。これでよいと思うもの。
(大意)○恵州の周りには清らかな水が多く、緑の山が海に迫っている。この無尽の景色の中で、わたしの有限の年月を過ごそう。○東の家には孔子の書物があり、西の家には顔淵の書物がある。それ故に、市場では掛け値せず、農家も田を争うことがない。○周公と管叔蔡叔とが、同じ茅屋に住んでも恨むことはないだろう。わたしにしても、一食に飽けばそれで足り、後は蕨(わらび)の煮物でもあれば充分だ。 ○知らぬまに門に食物が置かれている、薪と米とが、煙の無いわたしの厨房を救い、一斗の酒、一羽の鶏と楽しい歌とが、この白髪頭を送り出してくれる。○鳥も魚も道を知っているとはいえないが、わたしは、ここの風物に満足し、いたってのんびりしている。悠々とまではいかないが、まあこれで充分楽しいのだ。
  
(注釈)●蛋叟(たんそう):蛋族の老人。蛋は水上生活者の異民族。●緑銭:水苔。●好語:楽しい話。●渺茫(びょうぼう):広くて果てしないさま。
(大意):○追いつめられた猿はようやく林に逃げ込み、疲れた馬は鞅(むながい)を解かれた。心は空しく飽いて何も求めず、頭の中だけで夢想のみがふくれあがる。○河の鴎(かもめ)はようやく馴れて巣に集まり、蛋(たん)族の老人はとっくに還ってしまった。南の池には水苔が生じ、北の嶺では紫の筍が伸びた。○壺を提げて来る人がいる、封を解いて飲まずにいられようか。楽しい語らいの合間に広く見渡せば、春の川辺に美しい句が浮かんでくる。わたしは酔うて、広く渺茫とした夢想に堕ちこむ。
  
(注釈)●新:したばかりの意。●浴と沐:身体を洗うを浴といい、髪を洗うを沐という。●懸瀑:垂直に水が落ちる滝。●却行:同じ道を戻る。●父老:老人。
(大意)○湯浴みすれば身が軽く感じられ、頭を洗えば髪が薄くなったと知らされる。風に吹かれて滝の下を歩こう、帰りには歌を歌って。○仰ぎ見れば河音が山を揺るがし、俯いて見れば衣に月影が映る。老人の後を歩きながら語る、約束しましたよ、違えるわけがないではありませんか、と。
  
(注釈)●城市:都会。●造物:造物主。天。●遺漏:うっかり忘れて残す。●同儕:同輩。●丘墟:塚墓。●平生(へいぜい):日ごろ。●幽居:閑居。●茘支子:茘支の種子。●合抱(ごうほう):両手を合せて抱える。一抱え。●陳家の紫(し):茘支の優秀種。●懐抱(かいほう):ふところに抱く。
(大意)○老人は八十余りになりましたが、まだ都会の娯みを識りません。造物主にもすっかり忘れられたものか、同輩たちは皆墓の中です。○日ごろから河を渡ることもありませんが、河北の一軒家に住んでおります。手づから差した茘支の苗木も、今では一抱えにもなり三百株あります。○陳家の紫(し)とかは言わんでください、甘さも冷たさも、とても敵うものではありませんから。あなたが来てくださり、こうして樹の下にお坐りになられているのですから、もうそれで十分、たらふく召し上がり、余った分はお持ちなさい。○家に帰ってお子さんに、お上げなされば、それはお喜びになられます。そこで抱き上げておやりなされば、これぞ幸せがいっぱいというものです、と言い、酒を持ち出すとわたしに飲ませる。銭のあるなしも問わずに。
  
(注釈)●紫芝(しし)の曲:周紫芝(北宋の詩人)の詩。●商山の翁:商山(陝西(せんせい)省)に隠れ住んだ四人の老人。●野老:在野の老人。●社:土地神を祀るほこら。●鶏黍(けいしょ)の局:鶏と黍を司る役所。●光塵:光をあびて塵をかぶる。高貴の人につかえること。●霜飆(そうひょう):霜とつむじかぜ。●氛祲(ふんしん):悪い気。●廓然:心がからっと広くなるさま。
(大意)○坐っているときは朱い籐の杖に寄りかかっていたが、歩くときには紫芝(しし)の曲を歌っている。商山の翁には逢わずとも、この野老に会えば足る。○願わくは、茘支と同じ社に祀られて、鶏と黍とを見守ってほしいものだ。○わたしに教えてくれた。宮仕えなどしていては、月光は蝋燭の明かりにさえ勝てないものだと。霜も凍るようなつむじ風が、さっと吹いて悪気を散らした。ぽっかりと気分が晴れる、まるで朝日がさすように。
  
(注釈)●広陵(こうりょう):揚州、江蘇省揚州市。産業文化の発展した中心的大都市。●柴桑陌(さいそうはく):潯陽柴桑(じんようさいそう)、江西省九江市。陌は町。陶淵明の生家がある。●飲酒の詩:陶淵明の『飲酒二十首』。●頗(すこぶる):かたよる。正しくない。●長閑人:暇人。●一劫:世界の生滅の周期。●役(えき):召使い。●淵明:淵に照る明かり。陶淵明にかける。●東皋(とうこう):東の丘。陶淵明の『帰去来の辞』に出る。王績の号にかける。●王績:隋末唐初の文人。東皋子と号す。●六博(りくはく):すごろく。
(大意)○昔広陵にいたときには、陶淵明をうらやんで柴桑の方を遠く眺め、飲酒の詩を長く吟じては、人々の笑いを得て楽しんだものだ。○たまたま放浪していない時には、朝坐せば夕方までそのまま、今時の暇人などの比ではない。一劫でさえ、ほんの隙間にみえるほどだった。○河と山とが交互に見え隠れし、出没してはわたしの機嫌をうかがいにくる。斜めに流れる川は淵の明かりを追い、東の丘は王績を友とする。○さあ詩はできた、後は何をしようか。すごろくなんかは、本より無益である。
  
 
  
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  どうもどうも、皆様お疲れさまでございました。
  しかし何でございましょう?何というか、こう気分がすかーっとするような、‥‥
  なかなか結構な詩でございましたな。
  
  この蘇軾という人は、あの広い中国をほぼ全土、絶え間なく赴任やら左遷やらで旅をなさった方で、腰を落ち着けるひまもないといったふうだったそうでございますが、そのご苦労を楽しみに変えていられたものとみえますな。苦労が苦労として詩の上に顕れず、かえって楽しみとして顕れております。
  
  そんな訳で、今月の料理は、いやこれは料理ではございませんな、じゃあ今月の食べ物は茘支、これしかございません。しかし、今年は一向にこれを見かけませんで、手に入れるのに少しばかり苦労しました。
  
  
  それでは今月はここまで、また来月お会いしましょう。皆様それまでご機嫌よう。
  
おまけ
    その一
  富は足るを知るに在り、
  貴きは退くを求むるに在り (説苑)
  
    その二
  足るを知る者は富む (老子)
  



  (茘支(れいし) おわり)