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ぼんのうくん
  暮れから正月にかけては、なんとなしに気分が浮き立ち、気がついてみればNHKの舞台中継などというものを見ていたようで、歌舞伎”関の扉(せきのと)”の小町桜の精にすっかり見入っておりました。 最後の場面、桜の精が右手に持った桜の小枝をすーと横に差し出し、それが見事に決まったところでほっと一息ついたのですが、実に清楚な初々しい女形ぶりでした。
  ふだんから余り歌舞伎には関心をもっていませんので、あれは市川染五郎だというのも後から知ったようなことですが、市川海老蔵などと共に今後が楽しみなことです。
  
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  このように例年のごとく、雑煮、お酒、お節、テレビ、昼寝と、ただこれだけの中で平穏にわが家のお正月は過ぎてゆくのですが、そこに思いがけなくも読者の方からプレゼントをいただくことになりました。 ご覧ください。
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  一体がちょうど片手におさまる大きさです。 先のとんがりが手のひらに快く何ともいえません。 見る角度によってはいくぶん表情が変ります。 『ぼんのうくん』と呼びます。
  見ていると心がなごみますね。 おすすめサイトに”ぼんのうくん”というのがありますが、そのサイトを運営している方からの贈り物です。 
  ぼくには、この三体のどれにも煩悩を見てとることができませんが、煩悩に苦しむときこれを見ると、何か療されるような気がします。 せっかくですから煩悩についてちょっと見てみましょう。
  
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  煩悩とは心を煩(わずら)わし、身を悩ませるものと辞書にあります。
  
  人には、さまざまな苦しみがありますが、その中に自分の心が引き起こす苦しみというものがあります。
  その苦しみを引き起こすものを煩悩というのですが、大まかに三つあります。 最初が”欲”、次ぎが”怒”、次ぎが”痴”です。
  
  ””とは、色声香味触の五欲がそれです。 美しいものが見たい、または聞きたい、触れたいというようなことです。
  ””とは、五欲が満たされないとき起こります。 他人をうらやんだり嫉んだりすることもこれに含みます。
  ””とは、智慧の無いことで、欲と怒を引き起こします。 自分には不必要なものを欲しがったり、怒るべきでないのに怒ったりすることをいいます。 要するに自分というものが少しも分かっていないから欲しがったり怒ったりするのです。
  
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  もうこれでお分かりですね、煩悩を消すのは簡単です、智慧を磨けばよいのです。

  分かっていながら‥‥。 そうその通り、なかなかそうは問屋がおろしません。
  何しろ先祖伝来の根強い無智、根深い無智ですからね、今さらこれを磨くのは大変なことなのです。
  しかしね、智慧なんぞ磨かなくてもかまいませんよ。 煩悩を他に移してしまうという手が有るんですから。
  
  何でも欲しくなったら、ぼんのうくんの頭を一撫でします。 そうすると、すーっと煩悩が消えてゆくんですね。
  
  BMWが欲しいよォー、ぼんのうくんを一撫で、‥‥。 すーっ‥‥。
  大きな家と広い庭ッ、ぼんのうくんを撫で撫で、‥‥。 すっ、すーっ‥‥。
  国内でよいから旅行がしたい、ぼんのうくんを一撫で、‥‥。 すーっ‥‥。
  もてたいッ、ぼんのうくんを一撫で、‥‥。 すーっ‥‥。
  うッ、め名誉ーッ、め名声ーッ、ぼんのうくんを撫で撫で撫で撫でッ、‥‥。
  ‥‥
  いやー、あるはあるはですね。 石川や浜の真砂はつくるとも、世に煩悩の種はつくまじ、ほんと煩悩は尽きませんね、‥‥。  いや、いいものをもらいました。
  早くも磨りへってしまいそうで、‥‥。
  
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  話はかわりますが、どうもそんなことではないかと思っておりましたが、やはりなあというような記事が新聞にのっていました。
  
  『先進国の中で、温暖化対策の進捗状況は日本が一番遅れている。 CO2の排出量上位70ヶ国中の第61位。』と世界銀行がまとめた。
  それは、
    (1)エネルギー利用率にしめる化石燃料の割合。
    (2)化石燃料中の石炭、石油、天然ガスの構成比。
    (3)国内総生産(GDP)当たりのエネルギーの使用量。
    (4)一人当たりのGDP。
    (5)人口。
  この五項目について、
    CO2の排出量の増減との関連を数値化し、評価し順位をつけた。

  
  さすがは世界銀行、よくお見通しです。
  京都議定書のいきさつからも、日本は温暖化対策に関しては、世界のトップをきってつっ走っているかと思いきや、それが最近になって何やらアメリカの肩をもったりしておかしいなと感じていたのですが、まあ、ふたを開けてみればアメリカにも遅れをとっていたということなのです。

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  そこでいきなり、わたくしからの提案ですが、このようにしてはどうでしょう。
  (1)トラックの長距離輸送を禁止して貨物列車に振り替える。 国鉄がJRと名をかえてから、貨物列車がへって通勤通学列車がふえましたが、これは地元資本の根幹をなす私鉄を圧迫し、地方の衰退をもたらしました。 やはり長距離は長い線路をもつJRの役割でしょう。
  (2)地元産業および農業の育成をはかるため、全国を数ブロックにわけ関税をかける。 無駄な輸送コストを削減できます。 北海道ではジャガイモを食い、鹿児島ではさつまいもを食う、これが自然です。
  (3)数によるコスト削減と世界制覇の夢はすてる。 必要な物だけをつくって資源およびエネルギーの無駄をおさえる。 自然と輸出は減少し、それにともない輸入も減少するので、無用の諍いからはなれることができます。
  (4)宅地をへらし田んぼをふやして温暖化を抑制する。 ヒートアイランド現象は自然に解消し、冷却に無駄なエネルギーを使わなくてすみます。
  (5)郊外の巨大スーパーマーケットを禁じる。 巨大スーパーマーケットが地方を荒廃させたもとであることは確実です。 日常の買物は歩いて行うべきであり、無駄なエネルギーを使って自動車で行くのは不自然です。
  (6)全国にある無用な交通信号機を撤去する。 信号機は交通の流れを阻害することにより、無駄なエネルギーを使わせ、不衛生なアイドリングガスをまき散らし、運転者を不当に疲れさせます。
  (7)工業本位から農業本位、文化本位に転換する。 日本という地理的環境は工業に向かず、無理、ムラ、無駄が多い。 戦前の不平等条約のような不利をはねかえす目的ならいざ知らず、また戦後の復興もとうにはたした今あえて工業の不利を選択する必要はありません。
  (8)森林を復活し、河川の堤防もコンクリートからヨーロッパにあるような木製の堤防に替える。 魚資源の増大につながります。
  (9)長距離遠洋漁業から近海漁業へ転換する。 魚資源は自ら育てるのが自然です。 無駄なエネルギーの節約にもなります。
  
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  どうですか? 物知らずのむちゃな提案に聞こえましたか? 
  しかし、遅かれ早かれしなくてはならないのですから、早ければ早いほど良く、余力の有るうちにする方がずっと良いのです。 諸外国にせかされてやむなくするようでは、これまでもしばしばそうであったように、諸外国に対してますます不利になるのは避けられません。
  今挙げたようなことは、ごく普通のことばかりでヨーロッパの諸国では常識なのですから、遅きに失したとはいえ、まだ間に合ううちにするのが良かろうと思うのですが。
  
  なお排出権の売買などは、いづれ誰も言わなくなることですから、初めから視野に入れない方がよいでしょうね。
  
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  日頃思っていることをぶちまけてすーっとしたついでに、もう一つ不満を言えば、それは、最近になって、ぼくの夢、わたしの夢というように、目標という意味でもって、この”夢”という言葉をしばしば耳にすることです。
  
  この”夢”という言葉から受ける感覚には実現不可能を承知しているような部分があります。 ”希望”、”望み”、”願い”、”目標”、何でもよいと思うのですが、なぜ”夢”なのでしょう?
  何か自分自身、地に着いていないような、何か情けないような雰囲気の言葉だと思うのですが、それで良いのでしょうか?
  
  と、このように思っていたところ、つい先日のことですが、ついに我が意を得たりの言葉を耳にすることができました。
  
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  当代随一の名女形といえば、言わずと知れた”坂東玉三郎”以外にないといってもよいでしょう。
  その玉三郎さんが、テレビのインタビューに答えてこういっていました。
  確か、『玉三郎さんの夢って何ですか?』というような問いだったと思うのですが、
  
  
  夢はありません。
  夢にみるようなことではないのです。
  明日一日だけのために、今日できることを
  すべて準備しておくのです。
  明日のことならば予測できますが、
  何年も先のことは予測できません。
  明日の準備を今日する。
  この五十年間、ずーっとこうしてきました。
  
  
  言葉どおりではありませんが、意味はこのとおりです。
  
  これは努力の人ならではの言葉です、そしてまた頭脳の人でもありました。
  ご自身の HPを見てみると、そこには多数の写真とともに多くのエッセイが語られています。 いやー、まいりました。 種種の題材が見事に分析され、分かりやすい文章でつづられています。 天は二物どころか三物も四物も与えるのですね、あの誰も信じていない格言はまたも裏切られました。
  
  しかし、これは気持ちの良い裏切られ方です。 まあこれなら、”ぼんのうくん”をスリスリしなくてもよいかな。
  
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  ついでですから、もう一つ不満をぶちまけてしいまいましょう。
  
  いまはやりの”KY”のことです。
  ”空気読めよ”、あるいは”空気の読めないやつ”の略語で、『あの人KYだね』とか、『お前なあ、KYしろよ』と使うそうです。
  
  まあ、テレビなどで面白おかしくさわいでいる分には別にめくじら立てるほどのことではありませんが、世間一般にこのような言葉がはやるとなると相当問題です。
  
  たとえば、会社などで上司が部下に空気を読めと要求しやしないか、とこんなことを心配しているのです。 空気を読んで何で悪い?とおっしゃる方は、次のようなことを心配なさってください。
 
 空気を読むのは、たとえ下の者の心得ではあっても、
 上の者が、それを期待すべきものではありません。
 
 上に立つ者は、すべからく
   ”命令をはっきりと間違いなく伝える”ことに心をくだき、
   部下に、
     空気などを読ませてはならず、
     つねに
       ”どんな命令がくだされるか”と
       緊張させ注意させるべきなのです。
 
  部下に空気を読ませるのは、間違いなく危険な行為であり、仕事に対する怠慢なのです。
  ある人生の達人の言葉に次のようなものがあります。
 
  わたしは、部下が下された命令をうっかり忘れたり間違ったりすることには、がまんがならない。
  そのために、
    わたしは部下には
      ごく単純な命令を
      一時に一つだけ与えることにしている。
  わたしが下す命令は、
    単純であって分かりやすく、
    間違いようのないものであり、
    また余分な言葉の中にまぎれこませたりもしない。
  またわたしは、
    部下が下された命令を
      聞き逃したり聞き間違えたりしした場合には、
      何度聞き返されても
        必ずそれに答えるようにして、
        決して怒ったりはしない。
 
  間違いなく危険な行為は、君子の避くるべき所であり、愚人の好む所であります。
  もし部下に間違って行動されるぐらいなら、何回問いかけられ、それに一一丁寧に答えたとしても、それは面倒とはいいません、仕事を確実にしたというものです。
  間違って取り返しのつかないようなはめに陥ることこそ、面倒というべきではないでしょうか。 これが上に立つ者の常識というものです。
  
  しかし、この”空気読めよ”がこれほど流行るとは、そら恐ろしいような不気味な気配がただよっているような気がしてなりません。
  
  説明する苦労も何もなく、スムースに事が進むことを期待するような怠慢で日和見な空気が日本中にただよっているのでしょうか?
  お互い気をつけることにしましょう、ネッ。
  
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  『うどんですよー』
  おや、家内が呼んでいます。
    『ごはんですよ』と言いなさいと言っているんですがね、
    それと台所から大声で呼ぶんじゃないって。
  なおらないものですねェー。
  
  それではまた来月お会いするまで、ご機嫌よう。
  
  
  追記:テレビからわたしの耳に、あの特徴のある声が聞こえてきました。 新聞で確かめると確かに團十郎です。 演目はあの愉快な『身替座禅』、團十郎は大名(山蔭右京)を演じています、恐い奥方は左團次、そして太郎冠者が染五郎ときては、これはまづ見ずばなるまいということで少しばかり腰を入れて見ました。
  やはり染五郎は達者です、踊りに切れがあります。 そして團十郎、これはもう別世界の人ですね、大きな演技でやはり華があります。
  あの人が舞台に出ると、ただそれだけで舞台中が満開の花盛りになったように感じます。 特に酒に酔って花道から舞台に出るときのよろけかた、パーッとだんだん舞台が明るくなるようで、計算しつくしていながらそれを感じさせない。 そして踊りも、一一の所作がすべて決めの動作で終り、決して流れたりしない。 ほんとに気持ちのよい舞台でした。 いよっ日本一!
  チョーンッ、ちょんッ、ちょん、ちょん、ちょん、ちょッ‥‥
‥‥ちょッ、ちょッ、ちょん、ちょんッ。
 



  (ぼんのうくん おわり)