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良い外交官と悪い外交官
 テレビに映った余りといえば余りな行儀の悪さも、その母親の言葉使いの品のなさと口さがなさを見てみれば妙に納得できたものであったが、テレビに映らないその他大勢の外交官もその質の悪さにはどうも定評があったようで、メディアにもしばしば取り上げられるようになったのは、真に結構なことです。
 日本の外交官に外交技術が不足しているのは、歴史に黒々とその痕跡が残っていることでもあるし、現代でも中国、韓国、アメリカ等いたるところで露呈していますので、世界に隠しようもなく、我々国民の最も忸怩とする所でもあります。これは我々が何とかしなくてはなりません。

 そこで提案ですが、基本に立ち帰ってみてはどうでしょうか。それは優れた他国の外交技術を見習い、その所以たる所の精神を学び取るのです。しかしいきなり言っても無理なことは解かっています、先にここで外交のイロハ、外交のエービーシー、外交のアーベーセーを学ぶことから始めてください。
1   世界で最も外交技術の発達している国はどこでしょうか。言うまでもなくイギリスです。あれだけ世界中で悪事を働きながら、悪く言われないのはなぜでしょう。勿論外交の力です、イギリスが全くお金を使わずに、諸外国と良好な関係を保っていられるのも、外交技術があるからです。一方日本はどうでしょうか、世界で一番お金をばら撒きながら、少しも尊敬されず、蔑まれ、軽んじられ、常にもっと出せ、もっと出せと言われて、言うがままになっているのはなぜでしょうか、勿論外交技術が拙劣なばかりか、外交官自身が軽んじられ、蔑まれて、まったく負の働きしかしていないためです。それは外交官自身がその身分に相応しくないから、軽んじられ、蔑まれるのです。
2   イギリスには貴族がいて、その人達が外交を荷っているから、外交官として優秀なのは当然だとすることは、半分の正解でしかありません。同じように優秀な外交技術を持つ多くの国で貴族であることは外交官の条件ではありません。
3   では何が優秀な外交官と軽蔑される外交官を分けるのかというと、その人が他の国の外交官にどれだけ好かれているか、この一言に尽きます。
 何故かというと、外交官の唯一絶対の使命は他国よりも一刻でも早く、正確な情報を本国に伝達することにあるからです。それには不断の努力と才能が必要なのです。情報というものは努力なしに飛び込んでくるというものではありません。その国の新聞を読んで手に入れるようなものでもありません。
  例えば、あなたがエジプト駐在の外交官だとしまして、あるレストランでフランスの外交官と食事をしているとします。そのフランスの外交官が言います、「つい昨日のことだがジョーンズ君(アメリカの外交官)がトン氏(中国の外交官)と一緒に、ここの特別室に入るのを見たよ。この事はまだ誰にも知らせてないが、君の方には重要な情報じゃないのかい。」というようなことを言われたとします。その結果、我が国ではそれを知っていることの優位を外交に生かすことができます。このような事の積み重ねが外交的勝利を得ることになるのです。
  もしこのエジプト駐在の外交官が人に嫌われていたら、この情報は素通りすることになります。もし大使が嫌われていたらどうでしょう。恐らくその国に駐在する各国の大使、乃至高級外交官は部下に日本人には情報を少したりとも漏らすなと釘を刺すことになります。これではいくら頑張って見てもはじまりませんね。
  大使の役割はただ各国の大使、高級外交官に好かれることに在るのです。
4   では好かれる外交官とはどのような人でしょうか。少なくとも嫌われない外交官とはどのような人でしょうか。
a   威張った人は嫌われます。当然のことです。誰がいったい威張り返った人を好きになりますか。謙譲の徳こそが世界中の人に最も好かれるのです。
  イギリスの貴族が好んで長靴を履き、落ち葉を掃き集めて堆肥づくりに精を出したり、肘の擦り切れたセーターを30年も着続けるのは、すべてこの謙譲を演出してのことです。これは長い伝統あって始めて身につくことですから、真似をすることは大変ですが、幸いにも我が国にはかつて謙譲の美徳が持て囃された時代があります。その気になりさえすれば、そのような観点から人選することは、意外と困難がないかも知れませんね。
b   不誠実な人は嫌われます。当然のことです。誰がいったい不誠実な人と、友達になりたいと思いますか。誠実な人こそが世界中の人に好かれるのです。
  誠実さは当たり前のことながら、人格を形成する性質の一つですから、全てのものに対する誠実が求められます。日本の外交官に一番欠けているものではないでしょうか。
  1. 自国および自国民に対しての誠実。自らの身分と職務をよく理解して、よく忠実に滅私奉公しているかどうか。一番問われる所です。また最も目につく所でもあります。売国の行為はさて置くとしても、不必要な場合に国民の税金を使っていないか、職務を等閑にして、仲間うちの親睦パーティーなどに大切な時間を使っていないか、常に見られていると思ってください。ゴルフ好きの人は特に要注意です。
  2. 友として終生の交わりができるか。終生どころか孫子の代まで交際して損はないか、自分の子供の将来を託すことができるか。ここまで来ないと本当の友人とは言えません。またこのような友人関係からのみ外交的得点を得られるのです。
  3. 赴任先の国に対して誠実か。その国の外交官と、少なくとも一人は必ず友人関係を結んでください。この重要性は言うまでもないでしょう。その為にはその国の文化、食べ物に対する愛情を、見せ掛けでなく心よりの愛情を持つ必要があります。赴任先が決まった時点で猛勉強、猛特訓を受けるようにしなければなりません。その国の言葉も初めは挨拶程度から、任期の間中は少しづつでも増やすようにしなければなりませんし、任期が終わってからも、努力を怠ってはなりません、友人関係は一生ということは肝に銘じなければならない所です。
c   奥深い人間的魅力がない人は直に飽きられてしまいます。当然のことです。誰がいったい退屈な人と一緒にいて、楽しむことが出来ますか。外交官は特に人間的魅力を磨くことに勤めなければなりません。言うまでもないことですが、以下のことを参考にしてください。
  1. 自国の文化、文学、伝統に精通していること。誰でも知らないことに対して目を開かせてくれるものを好みます。歴史、故事、仏教哲学、和歌、俳句、歌舞伎、能、建築、築庭、茶、花、焼物、音楽、衣服などを、それぞれ西洋文化、西洋哲学と対比させて、説明出来るだけの知識が必要です。付け焼刃は直にばれますから、却って害があります。例えば長唄、一中節など日本の音楽は難しいものですから、師範教授等の人に教える資格程度は必要でしょう。しかし長唄等の伝統音楽は西洋人の苦手とするものであることは知っていなければなりません、音階の定かでない、また詰めた発声に対する理解がないのです。滅多なことでは披露しない様にして下さい。どうしてもと請われたとき、さわりをほんの一節が丁度良いでしょう。仏教哲学についての疑問に答えることも、重要なことです。西洋人は仏教を神秘宗教として捉えることが多いので、さりげなくそれを正してやれば、お互いの理解に役立ちます。
  2. 西洋の文化、文学、伝統に対して、相手に適切な教えを請うことが出来るだけの知識があること。誰でも自分の持っている知識を、持っていない人に与えることには喜びを感じるものです。教えを受けた時には素直に感銘を受けることも、大変に重要です。外交官でなくとも、外国人と交際しようとすれば、哲学的知識は必須で、自分の立場を明確にする必要も時として生じます。
  3. いづれにしても、深い知識と教養と、その理解からくる独自の見解を持つことは最も重要です。付け焼刃が嫌われるように、受け売りもまた嫌われます。
  4. これらにも増して肝にだろうと、どこにだろうと銘じて忘れてはならないことは、決して知識をひけらかさないこと、ごく言葉少なであること、これに尽きます。無闇に知識をひけらかすのは、退屈な行為で、矛盾するようですが、誰からも嫌われます。奥深さ、これこそが人間的魅力の最たるものと心得てください。
d   軽率な人は嫌われます。外交官は自らの或いは他人の言葉の端々にも神経を尖らせて、僅かなミスも許されない職務です。何も考えずに発せられた言葉から自国民に多大の損害を与えることを、最も恐れるものです。口の軽い外交官に誰が深い交際を望みますか。
  政治家が素人の集団であることは、世界的に見れば珍しいこととは言えませんので、彼らの失言は割りと大目に見られるものです、しかし外交官がプロフェッショナルな集団であるとの認識は世界共通のものですから、その失言は決して許されることはありません。また失言だけではありません、ゴルフ好き、女好き、酒好き、分不相応な品を持ちたがる、不満を漏らす、ホームシック、寂しがりや、身分の詐称、学歴の詐称、先祖の詐称、これらの弱点は全て外交官にはあってはならないものです。決して容認されません。
e 愚かな人は嫌われます。軽率と同様、愚かな人も危険です。愚かな外交官を作らないよう人選にはどれだけ心を砕いても砕きすぎということはありません。
  1. 赴任先の国の悪口を言うこと。愚かの最たるものです、重要情報はどのような小国で得られるか、誰にも解かりません。たとえケニア、ジンバブエであろうと、その国の悪口をたとえ家族にでも言ってはなりません。障子に目あり、壁に耳ありを座右の銘にすべきです。
  2. 時計などの装身具、服装などに不必要に高価なものをもたない。全て人格の表出です。持ちなれない背伸びした装身具などは直に見透かされます。
  3. 退屈を口に出さない。不誠実さを見透かされます。
  4. お里が知れることがないよう、見透かされることがないよう気を配ることは基本中の基本ですが、総じて控えめなことが良い趣味と言われるものなのです。家族のものにも徹底させましょう。
5   金に物を言わせるような外交をしてはなりません。西洋人にとって、お金と言う言葉は一種の禁句です。人前でお金を数えたりすることもしません。男性と一緒の女性はたとえ電車の切符を買うようなときも、自分では買いません、連れの男性にあらかじめお金を渡しておいて、駅では買って貰うのです。お金はこのように嫌われています、かつての日本でもそうでした。
  お金を出すということは、恩を売るようにも見えますが、却って恨みを買うというのが本当の所です。
  金持ちは嫌われるということは隠れもない真実なのです。
6   お金が嫌われるということは、金の匂いも嫌われるということです。努めて金の匂いを消すようにしなければなりません。大使の執務室なども貧乏臭くない程度にして、機能性を第一としましょう。ヨーロッパアンティークの家具など誰も感心してはくれませんよ。却って日本人にどんな関係があるのだと不信感をもたれるのがせいぜいだと心得ましょう。
7   質実剛健を旨としましょう。パーティーも山海の珍味、当たり年の銘柄ワイン、フランス料理くらいで人が好感を持ってくれると思うのは全くの幻想です。金持ちの嫌味な行為ぐらいにしか誰も思いません。どの国にもその国のお国料理というものがあり、誰でもそれが一番旨いと思っているのです。特に外交官のような人達がフランス料理くらいで感心する筈がないのです。季節と土地柄に合った料理を気の利いた趣向で出してください。お金ではないのです。 
  世界で一番の料理はフランス料理という認識は田舎もののフランスコンプレックスでしかありません。
8   最後に取って置きの、外交官の秘伝中の秘伝、免許皆伝の奥義中の奥義、イギリス秘蔵の外交技術を伝授いたしましょう。
  それは子供のときから徹底して不味い物ばかりを食べて、どんなに不味い物でも躊躇せずに食べることが出来るようになることです。イギリスの家庭料理、まあイギリスには家庭料理しかない訳ですが、そして仕上げはパブリックスクールで三度三度食べる、この世で一番不味い食事、これによってイギリスは世界に冠たる外交官を養成しているのです。
  どこの国にも独特の個性を持った自慢料理があり、それに誇りをもっています。スコットランドのハギス、イングランドのフィシュンチップス、フランスの羊の脳みそ、ケニヤの牛の血、水戸の納豆、名古屋の味噌カツ、アメリカのステーキ等、これらは皆それらの国の自慢料理なのです。もしこれらを出されて食べることが出来ないようなことが万が一にも有ったならば、ほとんどそれは侮辱にも等しく外交問題に発展しても不思議ではないほどに、憂慮すべきことなのです。それだけに外国人がその自慢料理を食べて旨いと言うことが出来るということは、何にも増して外交的成功を生むのです。勿論心の底から言うのでなければ、得点にはつながりません。食べることが出来るだけでは不足であると言っておかないと、間違いが起きてからでは取り返しがつかないことも在り得ます。
  映画「インディジョーンズ 魔宮の伝説」をご覧になったことが有りますか、まだ見ていない方はビデオでどうぞご覧になってください。蒸し焼き料理にされたニシキヘビの皮を破って、何かドジョウのような生き物が沢山ニョロニョロと現れたときもイギリスの外交官はひとり泰然としていた場面を思い起こして最良の手本としましょう。
  大使館の料理人は和食を例外として日本から連れて行くのは止めましょう。日本人の作ったフランス料理などは単なる自己満足にしか過ぎないことを理解してください。味覚のありようが違うのですから、誰にも感心されない愚かな贅沢と知って、現地人のコックを雇うことが友好にもなると心得るべきです。
  日本人には独特の島国根性があって、外国人の視線が気になる程には、自分自身を外国人の視点から客観的に観察することができません。その方法を持たない、即ち外国人の視点を積極的に研究しようとして来なかったからですが、その根本には外国人も日本人も同じように考えるという根拠のない意識があるのです。井の中の蛙、大海を知らずを正に地で行っているようなものです。
  我々が羊の脳みそを食べて感じるのは、その舌触り口触りの気味悪さです、グジャとして、汚いものでベタベタした海綿またはゴムのスポンジを口にしたような感触は経験したことのないもので、身体的に受けつけないものなのです。これを好物とする人たちと、理解し合うことはまず不可能であるという認識のもとに、如何にして仲良くするかを理性的に探る、或いは研究することが大切なのです。
  島国の外交官が一般人と同じように、島国根性に犯されているようでは本当に困ります。いっそのこと大使以下の日本人の外交官を全員更迭して、全て現地人に委託してはどうだろうか。どうせビザの発行くらいしかしないのならば、その方がまだ害が少ないと思うのですが、物笑いの種であることは変わりないにしても、お金は随分節約出来るのだから。外交官の皆さん現地人に交代されないよう十分頑張ってください。
(良い外交官と悪い外交官  おわり)