巻第九十八(上)
大智度論釋薩陀波崙品第八十八之餘
1.【經】薩陀波崙は、五百の女人と倶に衆香城に至る
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大智度論釋薩陀波崙品第八十八之餘(卷第九十八)
 龍樹菩薩造
 後秦龜茲國三藏法師鳩摩羅什奉 詔譯


【經】薩陀波崙は、五百の女人と倶に衆香城に至る

【經】是時十方諸佛。安慰薩陀波崙菩薩言。善哉善哉善男子。我等本行菩薩道時。求般若波羅蜜得是諸三昧。亦如汝今所得。我等得是諸三昧。善入般若波羅蜜。成就方便力住阿鞞跋致地。我等觀是諸三昧性。不見有法出三昧入三昧者。亦不見行佛道者。亦不見得阿耨多羅三藐三菩提者。善男子是名般若波羅蜜。所謂不念有是諸法。 是の時、十方の諸仏の薩陀波崙菩薩を安慰して言わく、『善い哉、善い哉、善男子、我等が本菩薩道を行ぜし時、般若波羅蜜を求めて、是の諸三昧を得ること、亦た汝が今の所得の如し。我等は是の諸三昧を得て、善く般若波羅蜜に入り、方便力を成就して、阿鞞跋致の地に住せり。我等は是の諸三昧の性を観るに、法の三昧を出で、三昧に入る者を有るを見ず。亦た仏道を行ずる者を見ず。亦た阿耨多羅三藐三菩提を得る者を見ず。善男子、是れを般若波羅蜜と名づくるは、謂わゆる是の諸法有るを念ぜざるなり。
是の時、
『十方の諸仏』は、
『薩陀波崙菩薩を安慰して!』、こう言われた、――
善いぞ、善いぞ、善男子!
わたし達が、
『本、菩薩道を行じていた!』時、
『般若波羅蜜を求めながら、得た!』、
是の、
『諸三昧』は、
『今、お前が得た所と同じである!』。
わたし達は、
是の、
『諸三昧を得て!』、
善く( perfectly )、
『般若波羅蜜に入り!』、
『方便力を成就して!』、
『阿鞞跋致の地に住したのである!』。
わたし達は、
是の、
『諸三昧の性を観た!』が、
『三昧を出たり、入ったりする法が有る!』のを、
『見ず!』。
亦た、
『仏道を行じる!』者を、
『見ず!』、
亦た、
『阿耨多羅三藐三菩提を得る!』者も、
『見ないのである!』。
善男子!
是れを、
『般若波羅蜜』と、
『称し!』、
謂わゆる、
是の、
『諸法が有る!』と、
『念じないことである!』。
善男子我等於無所念法中住。得是金色身。丈六光明三十二相八十隨形好不可思議智慧無上戒無上三昧無上智慧一切功德皆悉具足。一切功德具足故。佛尚不能取相說盡。何況聲聞辟支佛及諸餘人。以是故善男子於是佛法中倍應恭敬愛念生清淨心。於善知識中應生如佛想。何以故。為善知識守護故。菩薩疾得阿耨多羅三藐三菩提。 善男子、我等は所念無き法中に於いて住し、是の金色の身、丈六の光明、三十二相、八十随形好、不可思議の智慧、無上の戒、無上の三昧、無上の智慧を得て、一切の功徳は皆悉く具足せり。一切の功徳具足するが故に、仏すら尚お相を取りて、説き尽す能わず。何に況んや声聞、辟支仏及び諸余の人をや。是を以っての故に善男子、是の仏法中に於いては、倍して応に恭敬、愛念して、清浄心を生ずべく、善知識中に於いては、応に仏の如き想を生ずべし。何を以っての故に、善知識に守護せらるるが故に菩薩は、疾かに阿耨多羅三藐三菩提を得ればなり。
善男子!
わたし達は、
『無所念の法中に住して( in the dharma which is not considered )!』、
是の、
『金色の身、丈六の光明、三十二相、八十随形好、不可思議の智慧』、
『無上の戒、無上の三昧、無上の智慧』を、
『得て!』、
『一切の功徳』が、
『皆悉く!』、
『具足し!』、
『一切の功徳が具足した!』が故に、
『仏すら!』、
尚お、
『仏の功徳の相を取って!』、
『説き尽すことができないのであり!』、
況して、
『声聞、辟支仏や、諸余の人など!』、
『尚更である!』。
是の故に、
善男子!
是の、
『仏法』中には、
『仏に倍して恭敬、愛念せねばならず!』、
『清浄心』を、
『生じねばならぬのであり!』、
『善知識』中には、
『仏のような!』、
『想( the image )を!』、
『生じねばならない!』。
何故ならば、
『菩薩』は、
『善知識に守護される!』が故に、
『疾かに、阿耨多羅三藐三菩提を得るからである!』。
是時薩陀波崙菩薩。白十方諸佛言。何等是我善知識所應親近供養者。 是の時、薩陀波崙菩薩の十方の諸仏に白して言さく、『何等か、是れ我が善知識にして、応に親近、供養すべき所の者なる』、と。
是の時、
『薩陀波崙菩薩』は、
『十方の諸仏に白して!』、こう言った、――
わたしが、
『親近、供養せねばならぬ!』、
『善知識』とは、
何のような、
『善知識ですか?』、と。
十方諸佛告薩陀波崙菩薩言。汝善男子曇無竭菩薩。世世教化成就汝阿耨多羅三藐三菩提。曇無竭菩薩守護汝教。汝般若波羅蜜方便力。是汝善知識汝供養。曇無竭菩薩若一劫若二劫若三劫乃至過百千劫。頂戴恭敬以一切樂具三千世界中所有妙色聲香味觸。盡以供養未能報須臾之恩。何以故。曇無竭菩薩摩訶薩因緣故。令汝得如是等諸三昧。得般若波羅蜜方便力。 十方の諸仏の薩陀波崙菩薩に告げて言わく、『汝、善男子、曇無竭菩薩は世世に汝に阿耨多羅三藐三菩提を教化し、成就せり。曇無竭菩薩は汝を守護して汝に般若波羅蜜の方便力を教うれば、是れ汝が善知識なり。汝、曇無竭菩薩を供養すること若しは一劫、若しは二劫、若しは三劫、乃至百千劫を過ぎ、頂戴し恭敬するに一切の楽具の三千世界中の有らゆる妙色、声、香、味、触を以ってし、尽く供養するを以ってしても、未だ須臾の恩すら報ゆ能わず。何を以っての故に、曇無竭菩薩摩訶薩の因縁の故に、汝をして是れ等の如き諸三昧を得しめ、般若波羅蜜の方便力を得しむればなり。
『十方の諸仏』は、
『薩陀波崙菩薩に告げて!』、こう言われた、――
お前、善男子よ!
『曇無竭菩薩』は、
『お前が、阿耨多羅三藐三菩提を成就するよう!』、
『世世に、教化されたのであり!』、
『曇無竭菩薩』は、
『お前を守護しながら!』、
『お前に、般若波羅蜜の方便力を教えるのであり!』、
是れが、
『お前の!』、
『善知識である!』。
お前が、
『曇無竭菩薩を供養しながら!』、
『一劫、二劫、三劫、乃至百千劫』を、
『過ごし!』、
『曇無竭菩薩を頂戴しながら!』、
『一切の楽具を用いて!』、
『恭敬し!』、
『三千世界中の有らゆる妙色、声、香、味、触を用いて!』、
『尽く!』、
『供養したとしても!』、
未だ、
『須臾の恩にすら!』、
『報ゆることができないのである!』。
何故ならば、
『曇無竭菩薩摩訶薩の因縁』の故に、
お前は、
是れ等のような、
『諸三昧』を、
『得させられ!』、
『般若波羅蜜という!』、
『方便』を、
『得させられるからである!』。
  頂戴(ちょうだい):梵語 ziras-udvahataa の訳、頭頂に載せる( to carry on top of the head )の義、尊敬の極地を表わす作法( the utmost expression of respect )の意。
諸佛如是教化安慰。薩陀波崙菩薩令歡喜已。忽然不現 諸仏は是の如く薩陀波崙菩薩を教化、安慰して歓喜せしめ已りて、忽然として現れず。
『諸仏』は、
是のように、
『薩陀波崙を教化、安慰して!』、
『歓喜させる!』と、
忽然として( suddenly )、
『現れなくなった( did not seem )!』。
是時薩陀波崙菩薩從三昧起已不復見佛。作是念。是諸佛從何所來去至何所。不見諸佛故。復惆悵不樂誰斷我疑。復作是念。曇無竭菩薩久遠已來。常行般若波羅蜜。得方便力及諸陀羅尼。於菩薩法中得自在。多供養過去諸佛。世世為我師常利益我。我當問曇無竭菩薩。諸佛從何所來去至何所。 是の時、薩陀波崙菩薩は、三昧より起ち已りて、復た仏を見ず、是の念を作さく、『是の諸仏は何所より来たり、去りて何所にか至るや』、と。諸仏を見ざるが故に、復た惆悵として楽しまず、『誰か我が疑を断ずる』、復た是の念を作さく、『曇無竭菩薩は久遠より已来、常に般若波羅蜜を行じて、方便力及び諸陀羅尼を得、菩薩法中に於いて自在を得、多く過去の諸仏を供養し、世世に我が師と為りて、常に我れを利益すれば、我れは当に曇無竭菩薩に問うべし、諸仏は何所より来たり、去りて何所にか至れる、と』、と。
是の時、
『薩陀波崙菩薩』は、
『三昧より起つ!』と、
『復た、仏を見ることもなく!』、こう念じた、――
是の、
『諸仏』は、
『何所より来たのか?』、
『去って、何所に至るのか?』、と。
『諸仏を見ない!』が故に、
『復た、惆悵として楽しまず( being again melancholic and not delighted )!』、
『誰が、わたしの疑を断じるのか?』と、こう念じた、――
『曇無竭菩薩』は、
久遠已来、
『常に、般若波羅蜜を行じて!』、
『方便力や、諸陀羅尼を!』、
『得て!』、
『菩薩法中に、自在を得て!』、
『多く!』、
『過去の諸仏を供養して!』、
『世世に、わたしの師と為って!』、
『常に!』、
『わたしを利益してきた!』。
わたしは、
『当然、曇無竭菩薩に問わねばならぬ!』、――
『諸仏は、何所から来られたのか?』、
『去って、何所に至られるのか?』、と。
  惆悵(しゅうちょう):憂鬱( melancholy, melancholic )。
爾時薩陀波崙菩薩於曇無竭菩薩生恭敬愛樂尊重心。作是念。我當以何供養曇無竭菩薩。今我貧窮無華香瓔珞燒香澤香衣服幡蓋金銀真珠琉璃頗梨珊瑚虎珀。無有如是等物可以供養般若波羅蜜及說法師。曇無竭菩薩。我法不應空往曇無竭菩薩所。我若空往喜悅心不生。我當賣身得財為般若波羅蜜故供養法師曇無竭菩薩。 爾の時、薩陀波崙菩薩は、曇無竭菩薩に於いて恭敬、愛楽、尊重の心を生じて、是の念を作さく、『我れは当に何を以ってか曇無竭菩薩を供養せん。今我れは貧窮にして華香、瓔珞、焼香、沢香、衣服、幡蓋、金銀、真珠、琉璃、頗梨、珊瑚、琥珀無し。是れ等の如き物の以って、般若波羅蜜及び説法の師の曇無竭菩薩を供養すべき有ること無し。我が法は、空しくして、曇無竭菩薩の所に往くべからず。我れ若し空しく往かば、喜悦の心生ぜざらん。我れは当に身を売りて、財を得、般若波羅蜜の為めの故に、法師の曇無竭菩薩を供養すべし。
爾の時、
『薩陀波崙菩薩』は、
『曇無竭菩薩に恭敬、愛楽、尊重の心を生じて!』、こう念じた、――
わたしは、
何を用いて、
『曇無竭菩薩』を、
『供養すればよいのか?』。
今、わたしは、
『貧窮であり!』、
『華香、瓔珞、焼香、沢香、衣服、幡蓋も!』、
『金銀、真珠、琉璃、頗梨、珊瑚、琥珀も無く!』、
是れ等のような、
『般若波羅蜜や、説法師の曇無竭菩薩を供養すべき!』、
『物』が、
『無いのである!』が、
わたしの、
『法では( it is my custom that )!』、
『空しく( without any present )!』、
『曇無竭菩薩の所に往くことはできない!』。
わたしが、
もし、
『空しく往けば!』、
『喜悦の心が生じないだろう!』。
わたしは、
『身を売って、財を得て!』、
『般若波羅蜜の為め!』の故に、
『法師の曇無竭菩薩を供養せねばならない!』。
何以故。我世世喪身無數無始生死中。或死或賣或為欲因緣故。世世在地獄中受無量苦惱。未曾為清淨法故。為供養說法師故喪身。 何を以っての故に、我れは世世に身を喪うこと無数にして、無始の生死中に或は死し、或は売り、或は欲の因縁の為めの故に世世に地獄中に在りて、無量の苦悩を受くるも、未だ曽て、清浄の法の為めの故に説法の師を供養せんが為めの故に身を喪わざればなり。
何故ならば、
わたしは、
『世世に喪った身は無数であり!』、
『無始の生死』中に、
或は、『死に!』、
或は、『身を売り!』、
或は、『欲の因縁の為め!』の故に、
世世に、
『地獄中に在って!』、
『無量の苦悩を受けながら!』、
未だ曽て、
『清浄の法の為め!』の故に、
『説法の師を供養する為め!』の故に、
『身を喪ったことはないからである!』。
是時薩陀波崙菩薩中道入一大城。至市肆上高聲唱言。誰欲須人誰欲須人誰欲買人。 是の時、薩陀波崙菩薩は中道にして、一大城に入り、市肆上に至りて、高声に唱言すらく、『誰か人を須(もち)いんと欲するや。誰か人を須いんと欲するや。誰か人を買わんと欲するや』、と。
是の時、
『薩陀波崙菩薩』は、
『中道に、一大城に入り( to enter a big town on the way )!』、
『市肆上に至る!』と、
『高声で唱言した!』、――
誰か、
『人』を、
『須めていないか?』、
誰か、
『人』を、
『須めていないか?』。
誰か、
『人』を、
『買わないか?』、と。
  唱言(しょうごん):梵語 ut√(kruz) の訳、呼び叫ぶ/呼びかける/宣言する( to cry out, scream, call to, exclaim, proclaim )の義。
  市肆(しし):市場( a market )
爾時惡魔作是念。是薩陀波崙愛法故自欲賣身為般若波羅蜜故供養。曇無竭菩薩。當得正問般若波羅蜜及方便力。云何菩薩摩訶薩行般若波羅蜜。疾得阿耨多羅三藐三菩提。當得多聞具足如大海水。是時不可沮壞得具足一切功德饒益諸菩薩摩訶薩為阿耨多羅三藐三菩提故。過我境界亦教餘人出我境界得阿耨多羅三藐三菩提。我今當壞其事。 爾の時、悪魔の是の念を作さく、『是の薩陀波崙は法を愛するが故に、自ら身を売りて、般若波羅蜜の為めの故に、曇無竭菩薩を供養せんと欲すれば、当に正しく、般若波羅蜜及び方便力を問うを得べし、『云何が、菩薩摩訶薩は般若波羅蜜を行ずれば、疾かに阿耨多羅三藐三菩提を得るや』、と。当に多聞の大海水の如きを具足するを得べし。是の時、一切の功徳を具足して、諸菩薩摩訶薩を饒益して、阿耨多羅三藐三菩提の為めの故に、我が境界を過ぎ、亦た餘人を教えて、我が境界を出でしめ、阿耨多羅三藐三菩提を得るを沮壊すべからず。我れは今当に其の事を壊るべし。
爾の時、
『悪魔』は、こう念じた、――
是の、
『薩陀波崙は、法を愛する!』が故に、
自ら、
『身を売って、般若波羅蜜の為め!』の故に、
『曇無竭菩薩』を、
『供養すれば!』、
当然、
『般若波羅蜜や、方便力を正しく問うことになり!』、――
何故、
『菩薩摩訶薩』が、
『般若波羅蜜を行じれば!』、
『疾かに、阿耨多羅三藐三菩提を得ることになるのか?』、と。
当然、
『大海水のような、多聞を具足して得ることになる!』ので、
是の時は、
『一切の功徳を具足して、諸菩薩摩訶薩を饒益し!』、
『阿耨多羅三藐三菩提の為め!』の故に、
『わたしの境界を過ぎること!』も、
『餘人を教えて、わたしの境界を出させ!』、
『阿耨多羅三藐三菩提を得ることになり!』、
是の、
『事』を、
『沮壊することはできないだろう!』。
わたしは、
今こそ!
其の、
『事』を、
『壊らねばならない!』、と。
爾時惡魔隱蔽諸婆羅門居士令不聞其自賣聲。除一長者女魔不能蔽。 爾の時、悪魔は諸の婆羅門、居士を隠蔽して、其の自らを売る声を聞かざらしむるも、一長者の女を除く、魔も蔽う能わざればなり。
爾の時、
『悪魔』は、
『諸の婆羅門、居士を隠蔽して( overpowering the brahmans and grhapatis )!』、
『薩陀波崙が、自らを売る声』を、
『聞かせなかった!』が、
但だ、
『一長者の女は、除かれた!』、
『魔も、蔽うことができなかったからである!』。
  隠蔽(おんぺい):梵語 abhibhava の訳、力を及ぼす/力で制御する( to overpower somebody, predominate over )の義。
爾時薩陀波崙賣身不售憂愁啼哭。在一面立涕泣而言。我為大罪賣身不售我自賣身。為般若波羅蜜故供養曇無竭菩薩。 爾の時、薩陀波崙は身を売らんとして、售(う)れざるを憂愁し啼哭し、一面に在りて立ちて啼泣して言わく、『我れは大罪の為めに身を売らんとするも售れず。我れ自ら身を売るは、般若波羅蜜の故に曇無竭菩薩を供養せんが為めなり』、と。
爾の時、
『薩陀波崙』は、
『身を売ろうとした!』が、
『售れない!』ので、
『憂愁、啼哭し!』、
『一面に立って、啼泣しながら!』、こう言った、――
わたしは、
『身を売ろうとして!』、
『售れない!』のは、
『大罪の為めである!』が、
わたしが、
『自ら、身を売ろうとしている!』のは、
『般若波羅蜜の故に( for the prajnaparamita )!』、
『曇無竭菩薩を供養する為めなのだが
for the sake of offering Dharmodgata bodhisattva )!』。
  (じゅ):売る( sell )。買う( buy )。報酬として与える( give sth. as a reward )。
爾時釋提桓因作是念。是薩陀波崙菩薩愛法自賣其身。為般若波羅蜜故欲供養曇無竭菩薩。我當試之。知是善男子實以深心愛法故捨是身不。 爾の時、釈提桓因の是の念を作さく、『是の薩陀波崙菩薩は、法を愛して、自ら其の身を売り、般若波羅蜜の為めの故に曇無竭菩薩に供養せんと欲す。我れは当に之を試し、是の善男子は実に深心を以って法を愛するが故に、是の身を捨てんとするや不やを知るべし』、と。
是の時、
『釈提桓因』は、こう念じた、――
是の、
『薩陀波崙菩薩は、法を愛して!』、
『自ら、身を売って! 」、
『般若波羅蜜の為め!』の故に、
『曇無竭を供養しようとしている!』が、
わたしは、
『之を試して!』、
是の、
『善男子は、実に深心より!』、
『法を愛するが故に、身を捨てようとしているのかどうか?』を、
『知らねばならぬ!』、と。
是時釋提桓因化作婆羅門身在薩陀波崙菩薩邊行問言。汝善男子何以憂愁啼哭顏色焦悴。在一面立答言。婆羅門我愛敬法欲自賣身為般若波羅蜜故。欲供養曇無竭菩薩。今我賣身無有買者。自念薄福無財寶物欲自賣身供養般若波羅蜜及曇無竭菩薩而無買者。 是の時、釈提桓因は、婆羅門の身を化作して、薩陀波崙菩薩の辺に在りて行き、問うて言わく、『汝、善男子、何を以ってか、憂愁、啼哭して、顔色憔悴し、一面に在りて立つや』、と。答えて言わく、『婆羅門、我れは法を愛敬すれば、自ら身を売らんと欲し、般若波羅蜜の為めの故に、曇無竭菩薩を供養せんと欲す。今我れ身を売らんとするも、買う者の有ること無く、自ら薄福にして、財宝物無く、自ら身を売りて般若波羅蜜及び曇無竭菩薩を敬せんと欲するも、買う者無きを念ずればなり』、と。
是の時、
『釈提桓因』は、
『婆羅門の身を化作して、薩陀波崙菩薩の辺に往き!』、こう問うた、――
お前、善男子よ!
何故、
『憂愁、啼哭して顔色を憔悴し!』、
『一面に立っているのか?』、と。
『答えて!』、こう言った、――
婆羅門!
わたしは、
『法を愛敬する!』が故に、
『自らの身』を、
『売ろうとしており!』、
『般若波羅蜜の為め!』の故に、
『曇無竭菩薩』を、
『供養しようとしている!』が、
今、
わたしは、
『身を売りながら、買う者も無く!』、
自ら、こう念じたからである、――
『薄福であって!』、
『財も宝物も!』、
『無く!』、
『自ら身を売って、般若波羅蜜と曇無竭菩薩を供養しようとしても!』、
『買う!』者も、
『無い!』、と。
爾時婆羅門語薩陀波崙菩薩言。善男子我不須人。我今欲祠天。當須人心人血人髓。汝能賣與我不。 爾の時、婆羅門の薩陀波崙菩薩に語りて言わく、『善男子、我れは人を須めざるも、我れは今、天を祠らんと欲すれば、当に人の心、人の血、人の髄を須むべし。汝能く売りて、我れに与うるや不や』、と。
爾の時、
『婆羅門』は、
『薩陀波崙菩薩に語って!』、こう言った、――
善男子!
わたしは、
『人を、須めてはいない!』が、
今、
『天を祠ろうとしている!』ので、
『人の心、血、髄』を、
『須めている!』。
お前は、
『心、血、髄を売って!』、
『わたしに与えることができるのか?』、と。
爾時薩陀波崙菩薩作是念。我得大利得第一利。我今便為具足般若波羅蜜方便力。得是買心血髓者。是時心大歡喜悅樂無憂。以柔和心語婆羅門言。汝所須者我盡與汝。 爾の時、薩陀波崙菩薩の是の念を作さく、『我れは大利を得たり、第一の利を得たり。我れは今、便ち、般若波羅蜜の方便力を具足せんが為めに、是の心、血、髄を買う者を得たり』、と。是の時、心は大いに歓喜、悦楽して憂無く、柔和の心を以って、婆羅門に語りて言わく、『汝が須むる所の者を、我れは尽く汝に与えん』、と。
爾の時、
『薩陀波崙菩薩』は、こう念じた、――
わたしは、
『大利を得た!』、
『第一の利を得た!』。
わたしは、
今、便ち( now too easily )!
『般若波羅蜜の方便力を具足する為め!』に、
是の、
『心、血、髄を買う!』者を、
『得た!』。
是の時、
『薩陀波崙の心は大いに歓喜、悦楽して憂無く!』、
『柔和な心で、婆羅門に語りながら!』、こう言った、――
お前が、
『須める!』所は、
尽く、
『わたしが!』、
『与えるであろう!』、と。
婆羅門言。善男子汝須何價。答言隨汝意與我。即時薩陀波崙右手執利刀刺左臂出血。割右髀肉復欲破骨出髓。 婆羅門の言わく、『善男子、汝は何なる価をか須むる』、と。答えて言わく、『汝が意に随いて、我れに与えよ』、と。即時に薩陀波崙は、右手に利刀を取り左臂を刺して血を出し、右の髀肉を割いて復た骨を破りて髄を出さんと欲す。
『婆羅門』は、こう言った、――
善男子!
お前は、
『何れほどの価』を、
『須めるのか?』、と。
『薩陀波崙』は、
こう言いながら、――
『お前の意のままに!』、
『わたしに与えよ!』、と。
即時に、
『右手に利刀を取り!』、
『左臂を刺して!』、
『血』を、
『出し!』、
『右の髀肉を割き、復た骨を破って!』、
『髄』を、
『出そうとした!』。
  髀肉(ひにく):大腿両側の上肉( thigh )。
時有一長者女。在閣上遙見薩陀波崙菩薩自割身體不惜壽命作是念。是善男子何因緣故困苦其身。我當往問。長者女即下閣。到薩陀波崙所問言。善男子何因緣困苦其身。用是心血髓作何等。薩陀波崙答言。賣與婆羅門為般若波羅蜜故。供養曇無竭菩薩。 時に一長者の女有り、閣上に在りて遥かに薩陀波崙菩薩の自ら身体を割いて、寿命を惜まざるを見、是の念を作さく、『是の善男子は、何なる因縁の故にか、其の身を困苦するや。我れは当に往きて問うべし』、と。長者の女は即ち閣より下り、薩陀波崙の所に到りて問うて言わく、善男子、何なる因縁にか、其の身を困苦するや。是の心、血、髄を用いて、何等をか作すや』、と。薩陀波崙の答えて言わく、『売りて婆羅門に与え、般若波羅蜜の為めの故に、曇無竭菩薩を供養す』、と。
その時、
有る、
『一長者の女が、閣上に在り!』、
『薩陀波崙菩薩』が、
『自ら身体を割き、寿命を惜まない!』のを、
『見て!』、
こう念じた、――
是の、
『善男子』は、
何のような、
『因縁』の故に、
其の、
『身』を、
『困苦する( being pained )のか?』、
わたしは、
其の、
『所へ往って!』、
『問わねばならない!』、と。
『長者の女は、即ち閣より下りる!』と、
『薩陀波崙の所に到り、問うて!』、こう言った、――
善男子!
何のような、
『因縁』で、
其の、
『身』を、
『困苦するのか?』。
是の、
『心、血、髄を用いて!』、
何のような、
『事』を、
『作すのか?』、と。
『薩陀波崙は答えて!』、こう言った、――
是の、
『身を売って、婆羅門に与え!』、
『般若波羅蜜の為め!』の故に、
『曇無竭菩薩』を、
『供養するのである!』、と。
  困苦(こんく):梵語 duHkha, duHkhita の訳、苦痛/苦痛を受ける/不幸( pain, being pained, unhappy )の義、痛みに苦しむ( unhappy with pain )の意。
  長者(ちょうじゃ):◯梵語 gRha-pati の訳、家主( the master of a house, a house holder )の義、村里の長者/村長( the head or judge of a village )の意。◯梵語 zreSThin の訳、最上を保持する( having the best )の義、地位の高い工匠/商工業に従事する者の代表者/組合の代表者( an eminent artisan, the head or chief of an association following the same trade or industry, the president or foreman of a guild )の意。
長者女言。善男子作是賣身欲自出心血髓。欲供養曇無竭菩薩。得何等功德利益。 長者の女の言わく、『善男子、是の売身を作して、自ら心、血、髄を出さんと欲し、曇無竭菩薩を供養せんと欲するは、何等の功徳、利益を得ればなる』、と。
『長者の女』は、こう言った、――
善男子!
是の、
『身を、敢て売り!』、
『自ら心、血、髄を出そうとしたり!』、
『曇無竭菩薩を供養しようとする!』のは、
何のような、
『功徳、利益』を、
『得られるからなのか?』、と。
薩陀波崙答言。善女人是人善學般若波羅蜜及方便力。是人當為我說菩薩所。應作菩薩所應行道我學是法學是道得阿耨多羅三藐三菩提。時為眾生作依止。當得金色身三十二相八十隨形好大光無量明大慈大悲大喜大捨四無所畏。佛十力四無礙智十八不共法。六神通不可思議清淨戒禪定智慧。得阿耨多羅三藐三菩提。於諸法中得無礙一切知見。以無上法寶分布與一切眾生如是等諸功德利我當從彼得之。 薩陀波崙の答えて言わく、『善女人、是の人は善く般若波羅蜜及び方便力を学べば、是の人は当に我が為めに菩薩所応の作、菩薩所応の行道を説くべし。我れは是の法を学び、是の道を学びて阿耨多羅三藐三菩提を得る時、衆生の為めに依止と為り、当に金色身、三十二相、八十随形好、大光、無量の明、大慈、大悲、大喜、大捨、四無所畏、仏の十力、四無礙智、十八不共法、六神通、不可思議清浄の戒、禅定、智慧を得べく、阿耨多羅三藐三菩提を得れば、諸法中に於いて無礙の一切知見を得、無上の法宝を以って一切の衆生に分布して与えん。是れ等の如き諸の功徳の利を、我れは当に彼れに従りて之を得べし』、と。
『薩陀波崙は答えて!』、こう言った、――
善女人!
是の、
『人』は、
『般若波羅蜜と方便力とを!』、
『善く学んだ!』ので、
是の、
『人』は、
『菩薩所応の作( the work proper to bodhisattva )や!』、
『菩薩所応の行道( the way proper to bdstv. doing )を!』、
『わたしの為めに!』、
『説くはずであり!』、
わたしは、
是の、
『法や、道を学んで!』、
『阿耨多羅三藐三菩提』を、
『得たならば!』、
其の時、
『衆生の為め!』に、
『依止と作り!』、
『金色身、三十二相、八十随形好、大光、無量の明』、
『大慈、大悲、大喜、大捨、四無所畏』、
『仏の十力、四無礙智、十八不共法、六神通』、
『不可思議清浄の戒、禅定、智慧』を、
『得るはずであり!』、
『阿耨多羅三藐三菩提を得たならば!』、
『諸法』中に、
『無礙の一切知見を得!』、
『無上の法宝を用いて!』、
『一切の衆生』に、
『分布し、与えるのである!』。
是れ等のような、
『諸の功徳の利』を、
わたしは、
『彼れより!』、
『得ねばならない!』、と。
  (さ)、(じ)、所作(しょさ):梵語 kaarya の訳、造作/実践/実行すべきこと( to be made or done or practised or performed )の義、作すべき事/仕事、義務( work or business to be done, duty )の意。
是時長者女聞是上妙佛法。即大歡喜心驚毛豎。語薩陀波崙菩薩言。善男子甚希有。汝所說者微妙難值。為是一一功德法故。應捨如恒河沙等身。何以故。汝所說者甚大微妙。汝善男子汝今所須盡當相與。金銀真珠琉璃頗梨虎珀珊瑚等諸珍寶物及華香瓔珞塗香燒香幡蓋衣服伎樂等供養之具。供養般若波羅蜜及曇無竭菩薩。 是の時、長者女は、是の上妙の仏法を聞いて、即ち大歓喜し、心驚き、毛豎(よだ)つに、薩陀波崙菩薩に語りて言わく、『善男子、甚だ希有なり。汝が所説は、微妙にして値(あ)い難し。是の一一の功徳の法の為めの故に、応に恒河沙に等しきが如き身を捨つべし。何を以っての故に、汝が所説は、甚だ大いに微妙なれば、汝、善男子、汝が今須むる所を尽く、当に相与うべし。金銀、真珠、琉璃、頗梨、琥珀、珊瑚等の諸珍宝物、及び華香、瓔珞、塗香、焼香、幡蓋、衣服、伎楽等の供養の具もて、般若波羅蜜及び曇無竭菩薩を供養せよ。
是の時、
『長者女』は、
是の、
『上妙の仏法を聞いて、即ち大歓喜し!』、
『心が驚き!』、
『毛が豎ち!』、
『薩陀波崙菩薩に語って!』、こう言った、――
善男子!
甚だ希有である!
お前の、
『所説』は、
『微妙であり、値い難い!』。
是の、
『一一の功徳の法の為めだけでも!』、
当然、
『恒河沙に等しいほどの身』を、
『捨てねばならないだろう!』。
何故ならば、
お前の、
『所説』は、
『甚だ大いに微妙だからである!』。
お前、善男子よ!
お前の、
『今、須める!』所は、
尽く、
『わたしが!』、
『与えるであろう!』。
『金銀、真珠、琉璃、頗梨、琥珀、珊瑚等の諸珍宝物や!』、
『華香、瓔珞、塗香、焼香、幡蓋、衣服、伎楽等の供養の具で!』、
『般若波羅蜜や、曇無竭菩薩を!』、
『供養するがよい!』。
汝善男子莫自困苦其身。我亦欲往曇無竭菩薩所。共汝植諸善根為得如是微妙法如汝所說故。 『汝、善男子、自ら其の身を困苦する莫かれ。我れも亦た曇無竭菩薩の所に往き、汝と共に諸の善根を植えんと欲す。是の如き微妙の法の汝が所説の如きを得んが為めの故なり』、と。
お前、善男子よ!
自ら、
『身』を、
『困苦することはない!』。
わたしも、
『曇無竭菩薩の所に往き!』、
『お前と共に!』、
『諸の善根を植えよう!』。
『お前の所説のような!』、
是のような、
『微妙の法』を、
『得る為めである!』、と。
爾時釋提桓因即復本身。讚薩陀波崙菩薩言。善哉善哉善男子。汝堅受是事其心不動。諸過去佛行菩薩道時。亦如是求般若波羅蜜及方便力得阿耨多羅三藐三菩提。 爾の時、釈提桓因は、即ち本の身に復(かえ)り、薩陀波崙菩薩を讃じて言わく、『善い哉、善い哉、善男子。汝は是の事を堅受して、其の心動かず。諸の過去の仏の菩薩道を行ぜし時も亦た是の如く般若波羅蜜及び方便力を求めて、阿耨多羅三藐三菩提を得たり。
爾の時、
『釈提桓因は、即ち本の身に復り!』、
『薩陀波崙菩薩を讃えて!』、こう言った、――
善いぞ、善いぞ、善男子!
お前は、
是の、
『事を堅く受けて( be believing firmly )!』、
『心が動かない!』。
『諸の過去の仏たちも、菩薩道を行じていた!』時は、
是のように、
『般若波羅蜜と方便力を求めて!』、
『阿耨多羅三藐三菩提を得たのである!』。
善男子我實不用人心血髓。但來相試汝願何等。我當相與 『善男子、我れは実に人の心、血、髄を用いず。但だ来たりて相試すのみ。汝は、何等を願うや。我れは当に相与うべし』、と。
善男子!
わたしは、
実に、
『人の心、血、髄』を、
『用いることはない!』。
但だ、
『来て!』、
『試しただけである!』。
お前は、
何のようなことを、
『願うのか?』。
わたしは、
其れを、
『与えるであろう!』、と。
薩陀波崙言。與我阿耨多羅三藐三菩提。釋提桓因言。此非我力所辦。是諸佛境界。必相供養更索餘願。 薩陀波崙の言わく、『我れに阿耨多羅三藐三菩提を与えよ』、と。釈提桓因の言わく、『此れは我が力の辦ずる所に非ず。是れ諸仏の境界なれば、必ず相供養すべし。更に餘の願を索(もと)めよ』、と。
『薩陀波崙』は、こう言った、――
わたしに、
『阿耨多羅三藐三菩提』を、
『与えよ!』、と。
『釈提桓因』は、こう言った、――
此の、
『阿耨多羅三藐三菩提』は、
わたしの、
『力』が、
『辦じる所ではない( it cannot be acomplished by my power )!』。
是れは、
『諸仏の境界( it belongs in the realm of buddha )であり!』、
『必ず、曇無竭菩薩を供養せねばならない!』。
更に、
『餘の願』を、
『索めよ!』、と。
薩陀波崙言。汝若於此無力。汝必見供養。令我是身平復如故。是時薩陀波崙身。即平復無有瘡瘢如本不異。釋提桓因與其願已忽然不現。 薩陀波崙の言わく、『汝、若し此に於いて力無ければ、汝は必ず供養するを見べし。我が是の身をして、故(もと)の如く平復せしめよ』、と。是の時、薩陀波崙の身は即ち平復して、瘡瘢有ること無く、本の如きに異ならず。釈提桓因は、其の願を与え已りて、忽然として現れず。
『薩陀波崙』は、こう言った、――
お前が、
若し、
『此の事』に、
『無力ならば!』、
お前は、
必ず、
『わたしが供養する!』のを、
『見るだろう!』。
わたしの、
『身』を、
『故のように、平復させよ!』、と。
是の時、
『薩陀波崙の身は、即ち平復して!』、
『瘡瘢も無く!』、
『本と異らなくなり!』、
『釈提桓因』は、
『薩陀波崙の願を与える!』と、
『忽然として現れなくなった!』。
  (けん):<動詞>[本義]視る/見える( see, chatch sight in )。会見( meet, call on )、出くわす( come into contact with )、観察/解了( observe , know )。<名詞>見解( opinion )、見識( view )。<助詞>らる/られる/被る( be + 過去分詞)。
  瘡瘢(そうはん):傷口の癒着した痕跡。傷跡。
爾時長者女語薩陀波崙菩薩言。善男子來到我舍。有所須者從我父母索之。盡當相與。我亦當辭我父母。與諸侍女共往供養曇無竭菩薩。為求法故。 爾の時、長者女の薩陀波崙菩薩に語りて言わく、『善男子、来たりて我が舎に到り、須むる所有れば、我が父母より之を索めよ。尽く当に相与うべし。我れも亦た当に我が父母を辞して、諸侍女と共に往き、曇無竭菩薩を供養すべし。法を求めんが為めの故なり』、と。
爾の時、
『長者女』は、
『薩陀波崙菩薩に語って!』、こう言った、――
善男子!
『来て!』、
『わたしの舎( my house )に!』、
『到り!』、
有らゆる、
『須める!』所を、
『わたしの父母より!』、
『索めよ( demand from my parents )!』。
尽く、
『与えられるだろう!』。
わたしも、
『父母を辞して( bid farewell to my parents )!』、
『諸の侍女と共に!』、
『往き!』、
『法を求める為め( for seeking the dharma )!』の故に、
『曇無竭菩薩』を、
『供養するだろう!』。
即時薩陀波崙菩薩與長者女。俱到其舍在門外住。長者女入白父母。與我眾妙花香及諸瓔珞塗香燒香幡蓋衣服金銀琉璃頗梨真珠珊瑚虎珀及諸伎樂供養之具。亦聽我身及五百侍女先所給使共薩陀波崙菩薩。到曇無竭菩薩所為供養般若波羅蜜故。曇無竭菩薩。當為我等說法。我當如說行當得諸佛法。 即時に薩陀波崙菩薩は長者女と倶に其の舎に到り、門外に在りて住す。長者女入りて、父母に白さく、『我れに衆妙の花香、及び諸の瓔珞、塗香、焼香、幡蓋、衣服、金銀、琉璃、頗梨、真珠、珊瑚、琥珀、及び諸の伎楽の供養の具を与え、亦た我が身、及び五百侍女と、先に給わる所の使の薩陀波崙菩薩と共に、曇無竭菩薩の所に到るを聴(ゆる)したまえ。般若波羅蜜を供養せんが為めの故なり。曇無竭菩薩は、当に我等が為めに法を説くべく、我れは当に説の如く行ずべく、当に諸仏の法を得べし』、と。
即時に、
『薩陀波崙菩薩』は、
『長者女と倶に!』、
其の、
『舎に到って!』、
『門外に住した!』。
『長者女は、門より入り!』、
『父母』に、こう白した、――
わたしに、
『衆妙の花香と!』、
『諸の瓔珞、塗香、焼香、幡蓋、衣服、金銀、琉璃、頗梨、真珠、珊瑚、琥珀!』、
『諸の伎楽や、供養の具』を、
『与えてください!』。
亦た、
『わたしの身と、五百の侍女と、先に給わった使人』が、
『薩陀波崙菩薩と共に、曇無竭菩薩の所に到る!』のを、
『聴してください!』。
何故ならば、
『般若波羅蜜』を、
『供養する為めだからです!』。
『曇無竭菩薩』は、
わたし達の為めに、
『法』を、
『説かれるはずです!』ので、
わたしは、
『説かれた通り!』に
『行じることになり!』、
わたしは、
『諸仏の法』を、
『得ることになりましょう!』。
  所給使(しょきゅうし):役使の為めに供給された人( one who is provided for service )。
女父母語女言。薩陀波崙菩薩是何等人。 女の父母の女に語りて言わく、『薩陀波崙菩薩ぞ、是れ何等の人なる』、と。
『女の父母』は、
『女に語って!』、こう言った、――
『薩陀波崙菩薩とは!』、
何のような、
『人なのか?』。
女言是人今在門外。是善男子以深心求阿耨多羅三藐三菩提。欲度一切眾生無量生死苦。是善男子為法故自賣其身供養般若波羅蜜。般若波羅蜜名菩薩所學道。為供養般若波羅蜜及供養曇無竭菩薩故。在市肆上高聲唱言。誰須人誰須人誰欲買人。賣身不售。在一面立憂愁啼哭。 女の言わく、『是の人は、今門外に在り。是の善男子は深心を以って阿耨多羅三藐三菩提を求め、一切の衆生を無量の生死の苦より度せんと欲す。是の善男子は法の為めの故に自ら其の身を売りて、般若波羅蜜を供養す。般若波羅蜜を菩薩所学の道と名づけ、般若波羅蜜を供養し、及び曇無竭菩薩を供養せんが為めの故に、市肆上に在りて、高声に唱言すらく、『誰か人を須むる。誰か人を須むる。誰か人を買わんと欲するや』、と。身を売るも售れざれば、一面に在りて立ち、憂愁啼哭せり。
『女』は、こう言った、――
是の、
『人』は、
『今、門外に在ります!』。
是の、
『善男子は、深心に阿耨多羅三藐三菩提を求め!』、
『一切の衆生』を、
『無量の生死の苦より度そうとしているのです!』。
是の、
『善男子は、法の為め!』の故に、
『自ら、身を売って!』、
『般若波羅蜜を供養するのです!』。
『般若波羅蜜とは、菩薩の学ぶべき道です!』が、
『般若波羅蜜と、曇無竭菩薩を供養する為め!』の故に、
『市肆上に在って!』、
『高声に唱言していました!』、――
『誰か、人を須めていないのか?』、
『誰か、人を須めていないのか?』、
『誰か、人を買おうとしていないのか?』、と。
『身を売っても、售れない!』ので、
『一面に立って!』、
『憂愁、啼哭していたのです!』。
是時釋提桓因化作婆羅門來欲試之。問言善男子何以憂愁啼哭一面立。答言婆羅門我欲賣身為供養般若波羅蜜及曇無竭菩薩摩訶薩故而我薄福賣身不售。婆羅門語是善男子。我不須人我欲祠天。當用人心人血人髓。汝能賣不。 是の時、釈提桓因は婆羅門を化作し来たりて、之を試さんと欲し、問うて言わく、『善男子、何を以ってか、憂愁啼哭し、一面に立つや』、と。答えて言わく、『婆羅門、我れは、般若波羅蜜及び曇無竭菩薩摩訶薩を供養せんが為めの故に身を売らんと欲するも、我れ薄福なれば身を売るに售れず』、と。婆羅門の是の善男子に語らく、『我れは人を須いざるも、我れは天を祠らんと欲すれば、当に人の心、人の血、人の髄を用うべし。汝や能く売るや不や』、と。
是の時、
『釈提桓因は婆羅門を化作して、来る!』と、
『之を試そうとし、問うて!』、こう言った、――
善男子!
何故、
『憂愁、啼哭しながら!』、
『一面に立っているのか?』、と。
『答えて!』、こう言った、――
婆羅門!
わたしは、
『般若波羅蜜と曇無竭菩薩摩訶薩を供養する為め!』の故に、
『身を売りたい!』が、
わたしは、
『薄福であり!』、
『身を売ろうとしても!』、
『售れないのである!』、と。
『婆羅門』は、
是の、
『善男子』に、こう語った、――
わたしは、
『人を須めていない、天を祠ろうとしている!』ので、
『人の心、血、髄』を、
『用いねばならぬ!』。
お前は、
『心、血、髄』を、
『売ることができるのか?』、と。
是時是善男子不復憂愁。其心和悅語是婆羅門言。汝之所須我盡相與。婆羅門言汝須何價。答言隨汝意與我。即時是善男子右手執利刀。刺左臂出血。割右髀肉復欲破骨出髓。我在閣上遙見是事。我爾時作是念。是人何故困苦其身。我當往問。我即下閣往問善男子。汝何因緣故自困苦其身。 是の時、是の善男子は、復た憂愁せず、其の心和悦して、是の婆羅門い語りて言わく、『汝が須むる所は、我れ尽く相与えん』、と。婆羅門の言わく、『汝が須むるは何れの価ぞや』、と。答えて言わく、『汝が意に随いて、我れに与えよ』、と。即時に是の善男子は、右手に利刀を執りて、左臂を刺して血を出し、右の髀肉を割き、復た骨を破りて髄を出さんと欲す。我れは閣上に在りて、遥かに是の事を見るに、我れは爾の時、是の念を作さく、『是の人は、何の故にか其の身を困苦するや。我れは当に往きて問うべし』、と。我れは即ち閣を下り、往きて問えり、『善男子、汝は何の因緣の故にか、自ら其の身を困苦するや』、と。
是の時、
是の、
『善男子は、復た憂愁することなく!』、
『心が和悦して!』、
是の、
『婆羅門に語って!』、こう言った、
お前の、
『須める!』所は、
『わたしが、尽く与えよう!』、と。
『婆羅門』は、こう言った、――
お前は、
『何れほどの価』を、
『須めるのか?』、と。
『答えて!』、こう言った、――
お前の、
『意のままに!』、
『わたしに与えよ!』、と。
即時に、
是の、
『善男子』は、
『右手に、利刀を執る!』と、
『左臂を刺して!』、
『血』を、
『出し!』、
『右の髀肉を割き、復た骨を破って!』、
『髄』を、
『出そうとした!』。
爾の時、
わたしは、
『閣上に在り!』、
是の、
『事』を、
『遥かに見ていた!』が、
わたしは、
爾の時、こう念じたのです、――
是の、
『人』は、
何故、
『身』を、
『困苦するのか?』。
わたしは、
『往って!』、
『問わねばならない!』、と。
わたしは、
『即ち閣を下り、往って!』、こう問うた、――
善男子!
お前は、
何のような、
『因縁』の故に、
『自ら、身を困苦するのか?』、と。
是善男子答我言。姊我為法故欲供養般若波羅蜜及曇無竭菩薩說法者。我貧窮無所有無金銀琉璃車磲馬瑙珊瑚虎珀頗梨真珠花香伎樂。姊我為供養法故自賣其身。今得買者須人心人血人髓。我用是價供養般若波羅蜜及曇無竭菩薩說法者。 是の善男子の我れに答えて言わく、『姉よ、我れは法の為めの故に般若波羅蜜及び曇無竭菩薩なる説法者を供養せんと欲するも、我れは貧窮にして所有無く、金銀、琉璃、車磲、馬瑙、珊瑚、琥珀、頗梨、真珠、花香、伎楽無し。姉よ、我れは法を供養せんが為めの故に、自ら其の身を売り、今買う者の人の心、人の血、人の髄を須むるを得たり。我れは是の価を用いて、般若波羅蜜及び曇無竭菩薩なる説法者を供養せん』、と。
是の
『善男子』は、
わたしに答えて、こう言ったのです、――
姉よ!
わたしは、
『法の為め!』の故に、
『般若波羅蜜と曇無竭菩薩という説法者』を、
『供養しようとしている!』が、
わたしは、
『貧窮であり、所有が無い!』ので、
『金銀、琉璃、車磲、馬瑙、珊瑚、琥珀、頗梨、真珠、花香、伎楽』も、
『無い!』。
姉よ!
わたしは、
『法を供養する為め!』の故に、
自ら、
『身』を、
『売ったところ!』、
今、
『買う!』者を、
『得た!』、
即ち、
『人の心、血、髄』を、
『須めていたのである!』。
わたしは、
是の、
『価を用いて!』、
『般若波羅蜜と曇無竭菩薩という説法者』を、
『供養しよう!』、と。
  (し):姉( elder sister )。男子より、年長の女子を呼ぶ時に用うる一種の敬称。
我問是善男子。汝今自出身心血髓。欲供養曇無竭菩薩。得何功德。是善男子言。曇無竭菩薩當為我說般若波羅蜜及方便力。此是菩薩所應學。菩薩所應作。菩薩所應住。菩薩所行道。 我れは是の善男子に問えり、『汝が今自ら身の心、血、髄を出して、曇無竭菩薩を供養せんと欲すれば、何なる功徳か得んや』、と。是の善男子の言わく、『曇無竭菩薩は、当に我が為めに、般若波羅蜜及び方便力を説くべし。此れは是れ菩薩所応の学、菩薩所応の作、菩薩所応の住、菩薩所行の道なり。
わたしは、
是の、
『善男子』に、こう問うた、――
お前が、
今、
『自ら身より、心、血、髄を出して!』、
『曇無竭菩薩を供養しようとする!』のは、
何のような、
『功徳』を、
『得るからなのか?』、と。
是の、
『善男子』は、こう言った、――
『曇無竭菩薩』は、
わたしの為めに、
『般若波羅蜜と、方便力とを!』、
『説くことになろう!』、
此れは、
『菩薩所応の( be proper to bodhisattva )!』、
『学であり( what should be learned )!』、
『作であり( what should be done )!』、
『住であり( what shoud be depended on )!』、
『菩薩所行の( to be done by any bodhisattva )!』、
『道である( be a way )!』。
我當學是道。得阿耨多羅三藐三菩提。為一切眾生作依止。我當得金色身三十二相。八十髓形好大光。無量明大慈大悲大喜大捨四無所畏。四無礙智。佛十力十八不共法六神通不可思議清淨戒禪定智慧。得阿耨多羅三藐三菩提。於諸法中得無礙一切知見。以無上法寶分布與一切眾生。如是等微妙大法。我當從彼得之。 『我れは当に是の道を学びて、阿耨多羅三藐三菩提を得、一切の衆生の為めに依止と為るべし。我れ当に金色身、三十二相、八十随形好、大光、無量の明、大慈、大悲、大喜、大捨、四無所畏、四無礙智、仏の十力、十八不共法、六神通、不可思議清浄の戒、禅定、智慧を得て、阿耨多羅三藐三菩提を得、諸法中に於いて無礙の一切知見を得、無上法宝を以って、一切の衆生に分布して与うべし。是れ等の如き微妙の大法を、我れ当に彼れにより、之を得べし』、と。
わたしは、
是の、
『道を学んで、阿耨多羅三藐三菩提を得!』、
『一切の衆生の為め!』に、
『依止と作らねばならず!』、
わたしは、
『金色身、三十二相、八十随形好、大光、無量の明』、
『大慈、大悲、大喜、大捨、四無所畏、四無礙智』、
『仏の十力、十八不共法、六神通、不可思議清浄の戒、禅定、智慧を得!』、
『阿耨多羅三藐三菩提を得!』、
『諸法中に、無礙の一切知見を得て!』、
『無上の法宝』を、
『一切の衆生に分布し、与えねばならぬ!』。
是れ等のような、
『微妙の大法』を、
わたしは、
『彼れより!』、
『得ねばならぬ!』、と。
我聞是微妙不可思議諸佛功德。聞其大願。我心歡喜作是念。是清淨微妙。甚大希有。乃至如是為一一法故。應捨如恒河沙等身。 我れは、是の微妙、不可思議の諸仏の功徳を聞き、其の大願を聞くに、我が心歓喜して、是の念を作さく、『是れ清浄微妙にして、甚大希有なり。乃至是の如き一一の法の為めの故には、応に恒河沙に等しきが如き身を捨つべし。
わたしは、
是の、
『微妙不可思議な諸仏の功徳』を、
『聞き!』、
其の、
『大願』を、
『聞く!』と、
わたしの、
『心は歓喜して!』、こう念じたのです、――
是れは、
『清浄であり!』、
『微妙であり!』、
『甚大であり!』、
『希有である!』。
乃至、
是のような、
『一一の法の為め!』の故には、
当然、
『恒河沙に等しいほどの身』を、
『捨てねばなるまい!』。
今善男子為法能受苦行難事。所謂不惜身命。我多有妙寶。云何不生願勤求如是法。供養般若波羅蜜及曇無竭菩薩。 今、善男子は法の為めに能く苦行の難事を受け、謂わゆる身命をも惜まざるなり。我れには多く妙宝有り。云何が願を生じて、是の如き法を勤求し、般若波羅蜜及び曇無竭菩薩を供養せざるや。
今、
『善男子は、法の為め!』に、
『苦行の難事を受けることができ!』、
謂わゆる、
『身命すら!』、
『惜まないのです!』。
わたしには、
『多く、妙宝が有るのに!』、
何故、
是のような、
『願を生じて!』、
是のような、
『法を求めたり!』、
『般若波羅蜜や曇無竭菩薩を供養したりしないのか?』、と。
我如是思惟已。語薩陀波崙菩薩。汝善男子莫困苦其身。我當白我父母多與汝金銀琉璃車磲馬瑙珊瑚虎珀頗梨真珠花香瓔珞塗香末香衣服旛蓋及諸伎樂。供養般若波羅蜜及曇無竭菩薩說法者。 我れは是の如く思惟し已りて、薩陀波崙菩薩に語らく、『汝、善男子、其の身を困苦する莫かれ。我れは当に我が父母に白して、多く金銀、琉璃、車磲、馬瑙、珊瑚、琥珀、頗梨、真珠、花香、瓔珞、塗香、末香、衣服、幡蓋、及び諸伎楽を汝に与えしめ、般若波羅蜜及び曇無竭菩薩なる説法者を供養せしむべし。
わたしは、
是のように思惟すると、
『薩陀波崙菩薩』に、こう語りました、――
お前、善男子よ!
其の、
『身』を、
『困苦することはない!』。
わたしは、
わたしの、
『父母に白して!』、
お前に、
『金銀、琉璃、車磲、馬瑙、珊瑚、琥珀、頗梨、真珠や!』、
『花香、瓔珞、塗香、末香、衣服、幡蓋や!』、
『諸の伎楽』を、
『多く与えさせ!』、
『般若波羅蜜や、曇無竭菩薩という説法者』を、
『供養させよう!』。
我亦求父母與諸侍女。共汝俱去供養曇無竭菩薩說法者。共汝植諸善根。為得如是等微妙清淨法。如汝所說。 我れは亦た父母に求めて、諸の侍女と共に、汝と倶に去りて、曇無竭菩薩なる説法者を供養し、汝と共に諸善根を植えん。是れ等の如き微妙清浄の法の汝が所説の如きを得んが為めなり。
わたしは、
亦た、
『父母に求めて( ask my parents to )!』、
『諸の侍女と共に( with my maids )!』、
『お前と倶に去り( will accompany you )!』、
『曇無竭という説法者』を、
『供養し!』、
『お前と共に( with you )!』、
『諸の善根』を、
『植えよう!』。
『お前の所説のような!』、
是のような、
『微妙清浄の法』を、
『得る為めに!』。
父母今聽我并五百侍女先所給者。亦聽我持眾妙花香瓔珞塗香末香衣服幡蓋伎樂金銀琉璃供養之具。與薩陀波崙菩薩共去供養般若波羅蜜。及曇無竭菩薩說法者。為得如是等清淨微妙諸佛法故。 『父母、今我れ并びに五百侍女、先に給する所の者を聴し、亦た我れ衆妙の花香、瓔珞、塗香、末香、衣服、幡蓋、伎楽、金銀、琉璃、供養の具を持して、薩陀波崙菩薩と共に去り、般若波羅蜜及び曇無竭菩薩なる説法者を供養するを聴したまえ。是れ等の如き清浄微妙の諸仏の法を得んが為めの故に』、と。
父母よ
今、
『わたしと五百の侍女、先に給された者』を、
『聴されよ!』。
亦た、
わたしが、
『衆妙の花香、瓔珞、塗香、末香、衣服、幡蓋、伎楽や!』、
『金銀、琉璃、供養の具を持して!』、
『薩陀波崙菩薩と共に去り!』、
『般若波羅蜜や、曇無竭という説法者を供養する!』のを、
『聴されよ!』、
是れ等のような、
『清浄、微妙の諸仏の法』を、
『得る為めだからです!』、と。
爾時父母報女言。汝所讚者希有難及。說是善男子為法精進大樂法相。及是諸佛法不可思議。一切世間最為第一。一切眾生歡喜因緣。是善男子為是法故大莊嚴。我等聽汝往見曇無竭菩薩親近供養。汝發大心為得諸佛法故如是精進。我等云何當不隨喜。是女為供養曇無竭菩薩故。得蒙聽許。報父母言。我等亦隨是心歡喜。我終不斷人善法因緣。 爾の時、父母の女に報えて言わく、『汝が讃ずる所は、希有にして及びがたし。是の善男子の法の為めの精進と大楽の法相と、及び是の諸仏の法の不可思議にして一切の世間に最も第一と為し、一切の衆生の歓喜の因縁を説けり。是の善男子は、是の法の為めの故に大莊嚴せり。我等は、汝が往きて、曇無竭菩薩に見(まみ)え、親近し、供養するを聴す。汝は大心を起して諸仏の法を得んが為めの故に、是の如く精進するを、我等は云何が当に随喜せざるべき』、と。是の女は、曇無竭菩薩を供養せんが為めの故に、聴許を蒙るを得、父母に報えて言わく、『我等も亦た是の心に随いて歓喜して、我れは終に善法に入る因縁を断ぜず』、と。
爾の時、
『父母』は、
『女に報えて!』、こう言った、――
お前の、
『讃じる!』所は、
『希有であり!』、
『及び難い!』。
お前は、
是の、
『善男子』の、
『法の為めの精進と( the heroic effort for dharma )!』、
『大楽の法相( the aspect of the great delightful dharma )!』と、
是の、
『諸仏の法が不可思議であり!』、
『一切世間の最第一であり、一切の衆生の歓喜の因縁である!』ことを、
『説いた!』。
是の、
『善男子』は、
是の、
『法の為め!』の故に、
自ら、
『身』を、
『大莊嚴したのである!』。
わたし達は、
お前が往き、
『曇無竭菩薩に見え、親近供養する!』のを、
『聴そう!』。
お前は、
『大心を発して!』、
『諸仏の法』を、
『得る為め!』の故に、
是のように、
『精進するのであれば!』、
わたし達が、
何故、
『随喜しないことがあろうか?』、と。
是の、
『女』は、
『曇無竭菩薩を供養する為め!』の故に、
『父母の聴許』を、
『蒙ることができ!』、
『父母に報えて!』、こう言った、――
わたし達も、
是の、
『父母の心に随って!』、
『歓喜し!』、
終に、
『善法に入る因縁』を、
『断じることはないでしょう!』。
  大楽(だいらく):梵語 mahaa-rati, -saukhyaの訳、大きな喜び/強烈な喜びを感じること( the great pleasure, feeling intense delight )の義。
是時長者女莊嚴七寶車五百乘。身及侍女種種寶物供養之具。持種種水陸生華。及金銀寶華。眾色寶衣。好香擣香澤香瓔珞。及眾味飲食。共薩陀波崙菩薩五百侍女。各載一車恭敬圍繞漸漸東去。見眾香城七寶莊嚴七重圍繞七寶之塹七寶行樹皆亦七重。 是の時、長者女は、七宝の車五百乗と身及び侍女を、種種の宝物と供養の具をもて荘厳し、種種の水陸に生ずる華及び金銀の宝華、衆色の宝衣、好香、搗香、沢香、瓔珞、及び衆味の飲食を持して、薩陀波崙菩薩と共に、五百侍女を、各一車に載せ、恭敬囲繞せられて、漸漸に東に去り、衆香城の七宝の荘厳、七重に囲繞する七宝の塹(ほり)、七宝の行樹の皆亦た七重なるを見る。
是の時、
『長者女』は、
『五百乗の七宝の車と、身と侍女とを!』、
『種種の宝物や、供養の具で!』、
『荘厳し!』、
『種種の水陸生の華や、金銀の宝華、衆色の宝衣、好香、搗香、沢香、瓔珞や!』、
『衆味の飲食を』を、
『持し!』、
『五百の侍女を各、一車に載せ!』、
『薩陀波崙菩薩と共に!』、
『恭敬、囲繞されて!』、
『漸漸に、東に去り( to go orderly towards the east )!』、
『衆香城の七宝の荘厳、七重に囲繞する七宝の塹、七重の七宝の行樹を!』、
『見た!』。
  漸漸(ぜんぜん):◯梵語 anupuurva の訳、整列して( orderly )の義、◯梵語 kramazas の訳、徐々に/次第に( gradually, by degrees )の義、◯梵語 anukramaNa の訳、秩序だった進行( proceeding methodically or in order )の義。
其城縱廣十二由旬。豐樂安靜甚可喜樂。人民熾盛。百千市里街巷相當端嚴如畫橋津如地寬博清淨遙見眾香城。既入城中。見曇無竭菩薩坐高臺法座上。無量百千萬億眾恭敬圍繞說法。 其の城は縦広十二由旬、豊楽、安静にして甚だ喜楽すべく、人民は熾盛にして百千の市里、街巷相当して端厳なること画の如く、橋津は地の如く寛博清浄なり。遥かに衆香城を見て、既に城中に入れば、曇無竭菩薩の高台の法座上に坐して、無量百千万億の衆に恭敬、囲繞せられて説法するを見る。
其の、
『城は、縦広十二由旬であり!』、
『豊楽、安静であり!』、
『甚だ喜楽することができる!』。
『人民は、熾盛であり!』、
『百千の市里、街巷は相当して!』、
『画のように!』、
『端厳であり!』、
『橋津』は、
『地のように!』、
『寛博、清浄である!』。
遥かに、
『衆香城を見ながら、既に城中に入れば!』、
『曇無竭菩薩が、高台の法座上に坐し!』、
『無量、百千万億の衆に恭敬、囲繞されながら、説法する!』のが、
『見えた!』。
  相当(そうとう):梵語 samasama の訳、等しい/等しく( being equaled, equally )の義。両者均衡する/差が多くない( match, balance, correspond to, be equivalent to )、適合する( suitable, appropriate )、相当な/かなり/十分な( quite, fairly, considerably )、満足な( enough )。
薩陀波崙菩薩見曇無竭菩薩時心即歡喜。譬如比丘入第三禪攝心安隱。見已作是念。我等儀不應載車趣曇無竭菩薩。作是念已下車步進。長者女并五百侍女皆亦下車。薩陀波崙菩薩。與長者女及五百侍女。眾寶莊嚴圍繞恭敬。俱到曇無竭菩薩所。 薩陀波崙菩薩は、曇無竭菩薩を見る時、心即ち歓喜して、譬えば比丘の第三禅に入り、摂心安隠なるが如く、見已りて是の念を作さく、『我等が儀は、応に車に載りて、曇無竭菩薩に趣くべからず』、と。是の念を作し已りて、車を下り、歩みて進めり。長者女并びに五百の侍女も皆亦た車を下る。薩陀波崙菩薩は長者女と及び五百侍女と衆宝に荘厳、囲繞、恭敬せられて、倶に曇無竭菩薩の所に到れり。
『薩陀波崙菩薩』は、
『曇無竭菩薩を見た!』時、
譬えば、
『比丘が第三禅に入って、摂心安隠であるように!』、
『心』が、
『即ち、歓喜したのである!』が、
『曇無竭菩薩を見てしまう!』と、
『わたし達の儀( our appearance )』は、
『車に載りながら曇無竭菩薩に趣くべきではない、と念じて!』、
『車を下りて、歩き進む!』と、
『長者女や、五百侍女』も、
皆、
『車を下りた!』。
『薩陀波崙菩薩』は、
『長者女と与に( with the daughter of the city master )!』、
『五百の侍女や衆宝に荘厳、囲繞、恭敬されながら!』、
『曇無竭菩薩の所に到った!』。
爾時曇無竭菩薩摩訶薩。有七寶臺赤牛頭栴檀以為莊嚴。真珠羅網以覆臺上。四角皆懸摩尼寶珠以為燈明。及四寶香鑪常燒明香。為供養般若波羅蜜故。其臺中有七寶大床四寶小床重敷其上。以黃金牒書般若波羅蜜置小床上。種種幡蓋莊嚴垂覆其上。 爾の時、曇無竭菩薩摩訶薩に七宝の台有り、赤牛頭栴檀を以って荘厳せらる。真珠の羅網を以って台上を覆い、四角に皆摩尼真珠を繋けて以って灯明と為し、及び四宝香鑪には常に明光を焼(た)き、般若波羅蜜を供養せんが為めの故に、其の台中には、七宝の大床有り、四宝小床を其の上に重ね敷き、黄金の牒を以って般若波羅蜜を書いて小床上に置き、種種の幡蓋の荘厳を垂して、其の上を覆えり。
爾の時、
『曇無竭菩薩摩訶薩』の、
有る、
『七宝の台』は、
『赤牛頭栴檀で荘厳され!』、
『真珠の羅網が台上を覆い!』、
『四角には皆摩尼真珠を繋けて、灯明と為し!』、
及び、
『四角の宝香爐には、常に明香を焼き!』、
『般若波羅蜜を供養する為め!』の故に、
其の、
『台』中には、
『七宝の大床』が、
『有り!』、
『大床』上には、
『宝の四小床』が、
『重ねて敷かれ!』、
『小床』上には、
『黄金牒に書かれた般若波羅蜜』が、
『置かれており!』、
『般若波羅蜜』上を、
『種種の幡蓋の荘厳が垂れて!』、
『覆っていた!』。
  (だい):梵語 vitardi の訳、家屋/寺院の中心、或は中庭の中央に於いて、地面の一部が起伏して覆われている場所( a raised and covered piece of ground in the centre of a house or temple or in the middle of a court-yard )の義。
  赤牛頭栴檀(しゃくごづせんだん)、赤栴檀(しゃくせんだん):梵語 lohita- candana の訳、赤銅色の栴檀、即ち最上等の栴檀にして牛頭栴檀( goziirsa- candana )を指す。
  黄金牒(おうごんのちょう)、金牒(こんちょう):梵語 svarNa- parNiiya の訳、黄金のページ( the leaves of gold )の義。
薩陀波崙菩薩及諸女人見是妙臺眾寶嚴飾。及見釋提桓因與無量百千萬諸天。以天曼陀羅花碎末栴檀磨眾寶屑。以散臺上。鼓天伎樂於虛空中娛樂此臺。 薩陀波崙菩薩及び諸の女人は、是の妙台の衆宝厳飾を見、及び釈提桓因と無量百千万の諸天を見るに、天の曼荼羅花と、砕末の栴檀、磨せる衆宝の屑を以って、以って台上に散らし、天の伎楽を鼓ちて、虚空中に於いて、此の台を娯楽せり。
『薩陀波崙菩薩と諸の女人が見る!』と、――
是の、
『妙台』を、
『衆宝』が、
『厳飾しており!』、
及び、
『釈提桓因と無量百千万の諸天』が、
『天の曼荼羅花や、砕末の栴檀や、衆宝を磨した屑』を、
『台上に!』、
『散らしたり!』、
『天の伎楽を鼓ちながら( drumming the deva's instruments )!』、
『虚空中に於いて!』、
『此の台を娯楽していた( delighting the table )!』。
  娯楽(ごらく):梵語 √(ram), rata, ramamaaNa の訳、~を楽しむ( delighting in, enjoying )の義。
爾時薩陀波崙菩薩問釋提桓因。憍尸迦。何因緣故。與無量百千萬諸天。以天曼陀羅花碎末栴檀磨眾寶屑。以散臺上。鼓天妓樂於虛空中娛樂此臺。 爾の時、薩陀波崙菩薩の釈提桓因に問わく、『憍尸迦、何の因緣の故にか、無量百千万の諸天と与(とも)に、天の曼荼羅花と砕末の栴檀、磨せる衆宝の屑を以って、以って台上に散らし、天の伎楽を鼓ちて、此の台を娯楽するや』、と。
爾の時、
『薩陀波崙菩薩』は、
『釈提桓因』に、こう問うた、――
憍尸迦!
何のような因縁の故に、
『無量百千万の諸天と与に!』、
『天の曼荼羅花や、砕末の栴檀や、衆宝を磨した屑』を、
『台上に!』、
『散らしたり!』、
『天の伎楽を鼓ちながら!』、
『虚空中に於いて!』、
『此の台を娯楽しているのか?』、と。
釋提桓因答言。汝善男子不知耶。此是摩訶般若波羅蜜。是諸菩薩摩訶薩母。能生諸佛攝持菩薩。菩薩學是般若波羅蜜。成就一切功德。得諸佛法一切種智。 釈提桓因の答えて言わく、『汝、善男子、知らずや。此れは是れ摩訶般若波羅蜜にして、是れ諸菩薩摩訶薩の母なれば、能く諸仏を生じて、菩薩を摂持せしむ。菩薩は是の般若波羅蜜を学びて、一切の功徳を成就し、諸仏の法、一切種智を得るなり』、と。
『釈提桓因は答えて!』、こう言った、――
お前、善男子よ!
知らないのか?――
此れは、
『摩訶般若波羅蜜であり!』、
『諸菩薩摩訶薩』の、
『母である!』。
此の、
『般若波羅蜜』が、
『諸仏を生じて!』、
『菩薩』を、
『摂持させる!』ので、
『菩薩』は、
是の、
『般若波羅蜜を学んで、一切の功徳を成就し!』、
『諸仏の法や、一切種智』を、
『得るのである!』。
  摂持(しょうじ):◯梵語 saMdhaaraNa の訳、束ねて保持する( holding together )の義、支える( supporting )の意。◯梵語 pari√(grah) の訳、抱きしめる/抱える( to take hold of on both sides, embrace, surround, enfold, envelop )の義。
是時薩陀波崙菩薩即歡喜悅樂。問釋提桓因。憍尸迦。般若波羅蜜諸菩薩摩訶薩母能生諸佛攝持菩薩。菩薩學是般若波羅蜜。成就一切功德。得諸佛法一切種智。今在何處。 是の時、薩陀波崙菩薩は即ち歓喜、悦楽し、釈提桓因に問わく、『憍尸迦、般若波羅蜜なる諸菩薩摩訶薩の母は、能く諸仏を生じて菩薩を摂持せしめ、菩薩は、是の般若波羅蜜を学びて、一切の功徳を成就し、諸仏法、一切種智を得れば、今、何所にか在るや』、と。
是の時、
『薩陀波崙菩薩は即ち歓喜、悦楽して!』、
『釈提桓因』に、こう問うた、――
憍尸迦!
『般若波羅蜜という!』、
『諸菩薩摩訶薩の母』が、
『諸仏を生じて!』、
『菩薩を摂持させる!』ので、
『菩薩』は、
是の、
『般若波羅蜜を学んで、一切の功徳を成就し!』、
『諸仏の法や、一切種智』を、
『得るのであれば!』、
『今、何処に!』、
是の、
『般若波羅蜜』は、
『在るのか?』、と。
釋提桓因言。善男子。是臺中有七寶大床四寶小床重敷其上。以黃金牒書般若波羅蜜置小床上。曇無竭菩薩以七寶印印之。我等不能得開以示汝。 釈提桓因の言わく、『善男子、是の台中に七宝の大床有りて、四の宝小床重ねて、其の上に敷き、黄金の牒を以って、般若波羅蜜を書き、小床上に置き、曇無竭菩薩、七宝の印を以って、之を印すれば、我等は、開いて以って、汝に示すを得る能わず』、と。
『釈提桓因』は、こう言った、――
善男子!
是の、
『台中には、七宝の大床が有り!』、
『宝の四小床を重ねて!』、
其の、
『大床』上に、
『敷き!』、
『黄金の牒に、般若波羅蜜を書いて!』、
其の、
『小床』上に、
『置く!』と、
『曇無竭菩薩』が、
『七宝の印を用いて!』、
是の、
『般若波羅蜜』を、
『印した( being sealed )!』ので、
わたし達は、
是の、
『般若波羅蜜を開いて!』、
『お前に示すことができないのである!』、と。
是時薩陀波崙與長者女及五百侍女。取供養具華香瓔珞幡蓋分作二分。一分供養般若波羅蜜。一分供養法座上曇無竭菩薩。 是の時、薩陀波崙は、長者女及び五百侍女と与に、供養の具より、華香、瓔珞、幡蓋を取り分けて、二分と作し、一分は般若波羅蜜を供養し、一分は法座上の曇無竭菩薩を供養す。
是の時、
『薩陀波崙』は、
『長者女や、五百侍女と与に!』、
『供養の具より!』、
『華香、瓔珞、幡蓋を取り!』、
『分けて!』、
『二分と作した!』、
『一分』は、
『般若波羅蜜』を、
『供養する為め!』、
『一分』は、
『法座上の曇無竭菩薩』を、
『供養する為めである!』。
爾時薩陀波崙菩薩。與五百女人。持華香瓔珞幡蓋伎樂。及諸珍寶供養般若波羅蜜已。然後到曇無竭菩薩所。到已見曇無竭菩薩在法座上坐。以諸華香瓔珞擣香澤香金銀寶華幡蓋寶衣散其曇無竭菩薩上為法故供養。 爾の時、薩陀波崙菩薩は、五百の女人と与に、華香、瓔珞、幡蓋、伎楽、及び諸の珍宝を持して、般若波羅蜜を供養し已り、然る後に曇無竭菩薩の所に到りて、到り已りて曇無竭菩薩の法座上に在りて坐するを見、諸の華香、瓔珞、搗香、沢香、金銀の宝華、幡蓋、宝衣を以って、其の曇無竭菩薩上に散らして、法の為めの故に供養せり。
爾の時、
『薩陀波崙菩薩は、五百の女人と与に!』、
『華香、瓔珞、幡蓋、伎楽、諸の珍宝を持して!』、
『般若波羅蜜』を、
『供養し!』、
『供養した!』後に、
『曇無竭菩薩の所』に、
『到り!』、
『曇無竭菩薩が法座上に坐するのを、見て!』、
『諸の華香、瓔珞、搗香、沢香、金銀の宝華、幡蓋、宝衣』を、
其の、
『曇無竭菩薩上に散らして!』、
『法の為めの故に供養した!』。
是時諸華香寶衣於曇無竭菩薩上虛空中化成華臺碎末栴檀寶屑金銀寶華。化成寶帳。寶帳之上所散種種寶衣化為寶蓋。寶蓋四邊垂諸寶幡。 是の時、諸の華香、宝衣は曇無竭菩薩上の虚空中に於いて華台を化成し、砕末の栴檀、宝の屑、金銀の宝華は、宝帳を化成し、宝帳の上に散ずる所の種種の宝衣は化して、宝蓋と為り、宝蓋の四辺には、諸の宝幡を垂せり。
是の時、
『曇無竭菩薩上の虚空』中に、
『諸の華香、宝衣』が、
『華台』を、
『化成し!』、
『砕末の栴檀、宝の屑、金銀の宝華』は、
『宝帳』を、
『化成し!』、
『宝帳の上に散じられた種種の宝衣』は、
『化して!』、
『宝蓋と為り!』、
『宝蓋の四辺』には、
『諸の宝幡』が、
『垂された!』。
薩陀波崙及諸女人見曇無竭菩薩所作變化。皆大歡喜作是念未曾有也。曇無竭大師神德乃爾。行菩薩道時神通力尚能如是。何況得阿耨多羅三藐三菩提時。 薩陀波崙及び諸の女人は、曇無竭菩薩の作す所の変化を見て、皆大歓喜し、是の念を作さく、『未曽有なり。曇無竭大師の神徳は、乃ち爾り。菩薩道を行ずる時の神通力すら尚お能く是の如し。何に況んや阿耨多羅三藐三菩提を得ん時をや』、と。
『薩陀波崙と諸の女人』は、
『曇無竭菩薩の作す!』、
『変化』を、
『見て!』、
『皆、大歓喜し!』、こう念じた、――
未曽有である!
『曇無竭大師』の、
『神徳』が、
『乃ち、爾れほどであるとは( it is hard to believe so )!』。
『菩薩道を行じる!』時の、
『神通力すら!』、
『尚お、是れほどならば!』、
況して、
『阿耨多羅三藐三菩提を得た!』時には、
『何れほどであることか?』、と。
是時長者女及五百女人清淨信心敬重曇無竭菩薩。皆發阿耨多羅三藐三菩提心作是願言。如曇無竭菩薩得菩薩諸深法。如曇無竭菩薩供養般若波羅蜜。如曇無竭菩薩於大眾中演說顯示般若波羅蜜義。如曇無竭菩薩得般若波羅蜜方便力。成就神通於菩薩事中得自在。我等亦當如是。 是の時、長者女及び五百女人は清浄の信心もて曇無竭菩薩を敬重し、皆阿耨多羅三藐三菩提の心を発し、是の願を作して言わく、『曇無竭菩薩の菩薩の諸の深法を得るが如く、曇無竭菩薩の般若波羅蜜を供養するが如く、曇無竭菩薩の大衆中に於いて演説し、般若波羅蜜の義を顕示するが如く、曇無竭菩薩の般若波羅蜜の方便力を得て、神通を成就し、菩薩事中に於いて自在を得るが如く、我等も亦た当に是の如かるべし』、と。
是の時、
『長者女と五百の女人』は、
『清浄の信心を生じて!』、
『曇無竭菩薩』を、
『敬重する!』と、
皆、
『阿耨多羅三藐三菩提の心』を、
『発し!』、
是のように、
『願を作して!』、こう言った、――
『曇無竭菩薩』が、
『菩薩の諸深法』を、
『得たように!』、
『曇無竭菩薩』が、
『般若波羅蜜』を、
『供養するように!』、
『曇無竭菩薩が、大衆中に演説して!』、
『般若波羅蜜の義』を、
『顕示するように!』、
『曇無竭菩薩が般若波羅蜜の方便力を得て、神通を成就し!』、
『菩薩事』中に、
『自在を得たように!』、
わたし達も、
亦た、
『是のようであるように!』、と。
是時薩陀波崙菩薩及五百女人華香寶物供養般若波羅蜜及曇無竭菩薩已。頭面禮曇無竭菩薩合掌恭敬一面立。一面立已白曇無竭菩薩言。我本求般若波羅蜜時於空閑林中聞空中聲言。善男子汝從是東行當得聞般若波蜜。我受是語東行。東行不久作是念。 是の時、薩陀波崙菩薩及び五百の女人は華香、宝物もて般若波羅蜜及び曇無竭菩薩を供養し已りて、頭面に曇無竭菩薩を礼し、合掌恭敬して一面に立ち、一面に立ち已りて、曇無竭菩薩に白して言さく、『我れは本、般若波羅蜜を求めし時、空閑林中に於いて、空中の声を聞く、言わく、『善男子、是より東に行き、当に般若波羅蜜を聞くを得べし』、と。我れは是の語を受けて東に行き、東に行くこと久しからずして是の念を作さく、
是の時、
『薩陀波崙菩薩と五百の女人』が、
『華香、宝物を用いて!』、
『曇無竭菩薩』を、
『供養し!』、
『曇無竭菩薩を頭面に礼して!』、
『合掌、恭敬しながら!』、
『一面に立ち!』、
『曇無竭菩薩に白して!』、こう言った、――
わたしは、
『本、般若波羅蜜を求めた!』時、
『空閑林』中に於いて、
『空中の声が聞こえて!』、こう言った、――
善男子!
お前は、
『是より、東に行けば!』、
『般若波羅蜜を聞くことができるだろう!』、と。
わたしは、
是の、
『語を受けて、東に行き!』、
『東に行くこと、久しからずして!』、こう念じた、――
我何不問空中聲。我當何處去。去是遠近當從誰聞。我是時大憂愁啼哭於是處住七日七夜。憂愁故乃至不念飲食。但念我何時當得聞般若波羅蜜我如是憂愁。一心念般若波羅蜜見佛身在虛空中語我言。善男子汝大欲大精進心莫放捨以是大欲大精進心從是東行。去是五百由旬有城名眾香。 『我れは何んが空中の声に問わざりき。我れは当に何処にか去るべき。是を去ること遠しや近しや。当に誰によりてか聞くべきや、と。我れは是の時、大いに憂愁、啼哭して、是の処に住すること七日七夜、憂愁するが故に乃至飲食すら念ぜず、但だ我れは何の時にか、当に般若波羅蜜を聞くを得べき。是の如く憂愁し一心に般若波羅蜜を念ずるに、仏身を見、虚空中に在りて我れに語りて言わく、『善男子、汝が大欲、大精進の心を放捨する莫かれ。是の大欲、大精進の心を以って、是より東に行き、是を去ること五百由旬にして城有り、衆香と名づく。
――
わたしは、
何うして、
『空中の声に問わなかったのか?』、――
わたしは、
『何処へ去ればよいのか?』、
『是を去って遠いのか、近いのか?』、
『誰より、般若波羅蜜を聞けばよいのか?』、と。
わたしは、
是の時、
『大憂愁して、啼哭しながら!』、
是の、
『処』に於いて、
『七日、七夜!』、
『住していた!』が、
『憂愁していた!』が故に、
『飲食すら!』、
『念じなかった!』。
但だ、
わたしは、
『何時、般若波羅蜜を聞くことになるのか?』と、
『念じただけである!』。
わたしが、
是のように、
『憂愁しながら、一心に!』、
『般若波羅蜜』を、
『念じている!』と、
『虚空』中に、
『仏身が見え、わたしに語って!』、こう言った、――
善男子!
お前は、
『大欲、大精進の心』を、
『放捨してはならない!』。
是の、
『大欲、大精進の心を用いて!』、
是より、
『東に往け!』、
是より、
『五百由旬去る!』と、
『衆香という城が有る!』。
是中有菩薩摩訶薩名曇無竭。從是人所當得聞般若波羅蜜。是菩薩世世是汝善知識常守護汝。 是の中に菩薩摩訶薩有り、曇無竭と名づく。是の人の所より、当に般若波羅蜜を聞くを得べし。是の菩薩は世世に、是れ汝が善知識にして、常に汝を守護せり』、と。
――
是の中に、
『曇無竭という菩薩摩訶薩が有る!』ので、
是の、
『人の所で!』、
『般若波羅蜜』を、
『聞くことができるだろう!』。
是の、
『菩薩』は、
『世世に、お前の善知識であり!』、
『常に!』、
『お前を守護してきたのである!』、と。
我從佛受教誨已。便東行更無餘心。但念我何時當見曇無竭菩薩為我說般若波羅蜜。我爾時中道住於一切法中得無礙知見得觀諸法性等諸三昧現在前住是三昧已。見十方無量阿僧祇諸佛說是般若波羅蜜。 我れは仏より、教誨を受け已りて、便ち東に行き、更に餘心無く、但だ『我れは何時にか、当に曇無竭菩薩を見、我が為めに般若波羅蜜を説くべきや』、と念ぜり。我れは爾の時、中道に住して、一切の法中に於いて、無礙の知見を得、諸の法性等の諸三昧の前に現在するを観るを得、是の三昧に住し已りて、十方の無量阿僧祇の諸仏の、是の般若波羅蜜を説くを見る。
――
わたしは、
『仏より、教誨を受けて!』、
便ち、
『東に行ったのである!』が、
更に、
『餘心は無く!』、
但だ、こう念じただけである、――
わたしは、
『何時、曇無竭菩薩を見ることができ!』、
『わたしの為め!』に、
『般若波羅蜜を説いてくれるのだろう?』、と。
わたしは、
爾の時、
『中道に住して!』、
『一切法』中に、
『無礙の知見』を、
『得!』、
『諸の法性等の諸三昧』が、
『前に現在する!』のを、
『観ることができ!』、
是の、
『三昧に住して!』、
『十方の無量阿僧祇の諸仏』が、
是の、
『般若波羅蜜を説く!』のを、
『見たのである!』。
諸佛讚我言。善哉善哉善男子我本求般若波羅蜜時。得諸三昧。亦如汝今日。得是諸三昧已。遍得諸佛法諸佛為我廣說法要安慰我已。忽然不現。 諸仏の我れを讃じて言わく、『善い哉、善い哉、善男子。我れは本、般若波羅蜜を求めし時、諸三昧を得たるも、亦た汝が今日の如く、是の諸三昧を得已りて、遍く諸仏の法を得たり』、と。諸仏は、我が為めに法要を広説し、我れを安慰し已りて、忽然として現れず。
――
『諸仏』は、
『わたしを讃じて!』、こう言われた、――
善いぞ、善いぞ、善男子!
わたしが、
『本、般若波羅蜜を求めていた!』時も、
亦た、
『今日のお前のように!』、
『諸三昧を得たのである!』。
是の、
『諸三昧を得て!』、
遍く、
『諸仏の法』を、
『得たのである!』、と。
『諸仏』は、
『わたしの為めに、法要を広説し!』、
『わたしを安慰される!』と、
『忽然として現れなくなった!』。
我從三昧起作是念。諸佛從何處來去至何所。我不見諸佛故大愁憂復作是念。曇無竭菩薩供養先佛植諸善根久行般若波羅蜜。善知方便力於菩薩道中得自在。是我善知識守護我。我當問曇無竭菩薩是事。諸佛從何所來去至何所。 我れは三昧より起ちて、是の念を作さく、『諸仏は、何処より来たり、去りて何所に至れるや』、と。我れは諸仏を見ざるが故に大愁憂して、復た是の念を作さく、『曇無竭菩薩は、先の仏を供養し、諸善根を植え、久しく般若波羅蜜を行じて、善く方便力を知り、菩薩道中に於いて自在を得たもうに、是れ我が善知識にして、我れを守護したもう。我れは当に曇無竭菩薩に是の事を問うべし、『諸仏は、何所より来たり、去りて何所に至るや』、と。
――
わたしは、
『三昧より起つ!』と、こう念じた、――
『諸仏は、何処より来て!』、
『去る!』時には、
『何所に至るのか?』、と。
わたしは、
『諸仏が見えない!』が故に、
『大愁憂して!』、復たこう念じた、――
『曇無竭菩薩は、先の仏を供養して!』、
『諸の善根を植えながら!』、
久しく、
『般若波羅蜜』を、
『行じ!』、
善く、
『方便力』を、
『知り!』、
『菩薩道』中に於いて、
『自在』を、
『得られたのである!』が、
是れが、
『わたしの善知識であり!』、
『わたしを守護するのである!』。
わたしは、
『曇無竭菩薩に、是の事を問わねばならぬ!』、――
『諸仏は、何所より来て!』、
『去る!』時には、
『何所に至るのか?』、と。
我今問大師。是諸佛何處來去至何處。大師當為我說諸佛所從來所至處令我得知。知已亦常不離見諸佛 我れ今、大師に問わん、『是の諸仏は何処より来たり、去りて何所に至るや』、と。大師、当に我が為めに、諸仏の従って来たる所、至る所の処を説き、我れをして知るを得しむべし。知り已れば、亦た常に諸仏を見るを離れざらん。
――
わたしは、
今、
『大師』に、こう問いましょう、――
是の、
『諸仏は、何処より来て!』、
『去る!』時には、
『何処に至るのですか?』、と。
大師!
わたしの為めに、
『諸仏が何処より来て、去る時、何処に至るのか?』を、
『説いて!』、
『わたしが、知ることができるようにされよ!』。
『知ったならば!』、
常に、
『諸仏を離れず!』、
『見ることになりましょう!』。


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