巻第六十九(上)
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大智度論釋兩不和合品第四十七之餘
 龍樹菩薩造
 後秦龜茲國三藏法師鳩摩羅什奉 詔譯


【經】説法の者と聴法の者とが和合しない

【經】復次須菩提。說法者有信有善。欲書受深般若波羅蜜乃至正憶念。聽法者無信破戒惡行。不欲書受深般若波羅蜜乃至正憶念。當知是為魔事。須菩提。聽法者有信有善。說法者無信破戒惡行。兩不和合。當知是為魔事。 復た次ぎに、須菩提、説法の者は信有り、善有りて、深き般若波羅蜜を書受し、乃至正憶念せんと欲するも、聴法の者は信無く、破戒し、悪行して、深き般若波羅蜜を書受し、乃至正憶念せんと欲せず。当に知るべし、是れを魔事と為す。須菩提、聴法の者は信有り、善有りて、説法の者は信無く、破戒し、悪行して、両和合せざれば、当に知るべし、是れを魔事と為す。
復た次ぎに、
須菩提!
『説法の者』は、
『信、善が有り!』、
『深い般若波羅蜜』を、
『書受、乃至正憶念したい!』と、
『思っている!』が、
『聴法の者』は、
『信が無く!』、
『破戒、悪行して!』、
『深い般若波羅蜜』を、
『書受、乃至正憶念したい!』とは、
『思っていない!』、
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
須菩提!
『聴法の者』は、
『信、善が有り!』、
『説法の者』は、
『信が無く!』、
『破戒、悪行して!』、
故に、
『両者』が、
『和合しなければ!』、
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
復次須菩提。說法者能一切施心不慳惜。聽法者吝惜不捨。當知是為魔事。須菩提。聽法者一切能施心不慳惜。說法者吝法不施。兩不和合。不得書持般若波羅蜜乃至正憶念。當知是為魔事。 復た次ぎに、須菩提、説法の者は、能く一切を施して、心に慳惜せず、聴法の者は吝惜して捨てざれば、当に知るべし、是れを魔事と為す。須菩提、聴法の者は、一切を能く施して、心に慳惜せず、説法の者は法を吝んで施さず、両和合せざれば、般若波羅蜜を書持、乃至正憶念するを得ず。当に知るべし、是れを魔事と為す。
復た次ぎに、
須菩提!
『説法の者』は、
一切を、
『施すことができ!』、
『心』に、
『慳惜しない!』が、
『聴法の者』は、
『吝惜して!』、
『物』を、
『捨てられない!』。
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
須菩提!
『聴法の者』は、
一切を、
『施すことができ!』、
『心』に、
『慳惜しない!』が、
『説法の者』は、
『法』を、
『吝(おし)んで!』、
『施さない!』。
『両者』が、
『和合しない!』が故に、
『般若波羅蜜』を、
『書持、乃至正憶念できなければ!』、
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
  吝惜(りんしゃく):物惜しみをする( grudge, stint )。
復次須菩提。聽法者欲供養說法人衣服飲食臥具醫藥資生所須。說法者不欲受之。當知是為魔事。須菩提。說法者欲供給聽法人衣服乃至資生所須。聽法者不欲受之。兩不和合。不得書持般若波羅蜜乃至正憶念。當知是為魔事。 復た次ぎに、須菩提、聴法の者は、説法人に衣服、飲食、臥具、医薬、資生の須むる所を供養せんと欲するも、説法の者は、之を受くるを欲せず。当に知るべし、是れを魔事と為す。須菩提、説法人は、聴法人に、衣服、乃至資生の須むる所を供給せんと欲するも、聴法の者は、之を受くるを欲せずして、両和合せざれば、般若波羅蜜を書持、乃至正憶念するを得ず。当に知るべし、是れを魔事と為す。
復た次ぎに、
須菩提!
『聴法の者』は、
『説法の人』に、
『衣服、飲食、臥具、医薬』等の、
『生活に必要な物資』を、
『供養したい!』と、
『思っている!』のに、
『説法の者』が、
之を、
『受けたい!』と、
『思わなければ!』、
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
須菩提!
『説法の者』は、
『聴法の人』に、
『衣服、乃至生活に必要な物資』を、
『供給したい!』と、
『思っている!』のに、
『聴法の者』が、
之を、
『受けたい!』と、
『思わない!』。
『両者』が、
『和合しない!』が故に、
『般若波羅蜜』を、
『書持、乃至正憶念できなければ!』、
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
復次須菩提。說法者易悟。聽法人闇鈍。當知是為魔事。須菩提。聽法者易悟。說法人闇鈍。兩不和合。不得書持般若波羅蜜乃至正憶念。當知是為魔事 復た次ぎに、須菩提、説法の者は、易(たやす)く悟れども、聴法の人闇鈍なれば、当に知るべし、是れを魔事と為す。須菩提、聴法の者は易く悟れども、説法の人闇鈍なれば、両和合せずして、般若波羅蜜を書持、乃至正憶念するを得ず。当に知るべし、是れを魔事と為す。
復た次ぎに、
須菩提!
『説法の者』は、
『易(たやす)く!』、
『悟る!』が、
『聴法の人』が、
『闇鈍ならば!』、
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
須菩提!
『聴法の者』は、
『易く!』、
『悟る!』が、
『説法の人』が、
『闇鈍であり!』、
『両者』が、
『和合しない!』が故に、
『般若波羅蜜』を、
『書持、乃至正憶念できなければ!』、
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
復次須菩提。說法者知十二部經次第義。所謂修妒路乃至優波提舍。聽法者不知十二部經次第義。當知是為魔事。聽法者知十二部經次第義。說法人不知十二部經次第義。兩不和合。不得書深般若波羅蜜乃至正憶念。當知是為魔事。 復た次ぎに、須菩提、説法の者は、十二部経の次第の義、謂わゆる修妒路、乃至優波提舎を知るも、聴法の者は十二部経の次第の義を知らざれば、当に知るべし、是れを魔事と為す。聴法の者は十二部経の次第の義を知るも、説法の人は十二部経の次第の義を知らざれば、両和合せずして、深き般若波羅蜜を書き、乃至正憶念するを得ず。当に知るべし、是れを魔事と為す。
復た次ぎに、
須菩提!
『説法の者』は、
『十二部経』の、
『次第の義』、
謂わゆる、
『修妒路、乃至優波提舎』を、
『知っている!』が、
『聴法の人』は、
『十二部経』の、
『次第の義』を、
『知らなければ!』
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
『聴法の者』は、
『十二部経』の、
『次第の義』を
『知っている!』が、
『説法の人』は、
『十二部経』の、
『次第の義』を、
『知らず!』、
『両者』が、
『和合しない!』が故に、
『深い般若波羅蜜』を、
『書き、乃至正憶念できなければ!』、
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
復次須菩提。說法者成就六波羅蜜。聽法人不成就六波羅蜜。兩不和合。不得書深般若波羅蜜乃至正憶念。當知是為魔事。聽法者有六波羅蜜。說法人無六波羅蜜。兩不和合。不得書深般若波羅蜜乃至正憶念。當知是為魔事。 復た次ぎに、須菩提、説法の者は、六波羅蜜を成就すれども、聴法の人は六波羅蜜を成就せざれば、両和合せずして、深き般若波羅蜜を書き、乃至正憶念するを得ず。当に知るべし、是れを魔事と為す。聴法の者は六波羅蜜有るも、説法の人は六波羅蜜無く、両和合せずして、深き般若波羅蜜を書き、乃至正憶念するを得ず。当に知るべし、是れを魔事と為す。
復た次ぎに、
須菩提!
『説法の者』は、
『六波羅蜜』を、
『成就した!』が、
『聴法の人』は、
『六波羅蜜』を、
『成就せず!』、
『両者』が、
『和合しない!』が故に、
『深い般若波羅蜜』を、
『書き、乃至正憶念できなければ!』、
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
『聴法の者』は、
『六波羅蜜』が、
『有る!』が、
『説法の人』は、
『六波羅蜜』が、
『無く!』、
『両者』が、
『和合しない!』が故に、
『深い般若波羅蜜』を、
『書き、乃至正憶念できなければ!』、
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
復次須菩提。說法者於六波羅蜜有方便力。聽法人於六波羅蜜無方便力。兩不和合。不得書深般若波羅蜜乃至正憶念。當知是為魔事。聽法者於六波羅蜜有方便力。說法人於六波羅蜜無方便力。兩不和合。不得書深般若波羅蜜乃至正憶念。當知是為魔事。 復た次ぎに、須菩提、説法の者は、六波羅蜜に於いて方便力有るも、聴法の人は六波羅蜜に於いて方便力無く、両和合せずして、深き般若波羅蜜を書き、乃至正憶念するを得ず。当に知るべし、是れを魔事と為す。聴法の者は六波羅蜜に於いて方便力有るも、説法の人は六波羅蜜に於いて方便力無く、両和合せずして、深き般若波羅蜜を書き、乃至正憶念するを得ず。当に知るべし、是れを魔事と為す。
復た次ぎに、
須菩提!
『説法の者』は、
『六波羅蜜』に、
『方便の力』が、
『有る!』が、
『聴法の人』は、
『六波羅蜜』に、
『方便の力』が、
『無く!』、
『両者』が、
『和合しない!』が故に、
『深い般若波羅蜜』を、
『書き、乃至正憶念できなければ!』、
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
『聴法の者』は、
『六波羅蜜』に、
『方便の力』が、
『有る!』が、
『説法の人』は、
『六波羅蜜』に、
『方便の力』が、
『無く!』、
『両者』が、
『和合しない!』が故に、
『深い般若波羅蜜』を、
『書き、乃至正憶念できなければ!』、
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
復次須菩提。說法者得陀羅尼。聽法者無陀羅尼。兩不和合。不得書深般若波羅蜜乃至正憶念。當知是為魔事。聽法者得陀羅尼。說法者無陀羅尼。兩不和合。不得書深般若波羅蜜乃至正憶念。當知是為魔事。 復た次ぎに、須菩提、説法の者は、陀羅尼を得れども、聴法の者は陀羅尼無く、両和合せずして、深き般若波羅蜜を書き、乃至正憶念するを得ず。当に知るべし、是れを魔事と為す。聴法の者は陀羅尼を得るも、説法の者は陀羅尼無く、両和合せずして、深き般若波羅蜜を書き、乃至正憶念するを得ず。当に知るべし、是れを魔事と為す。
復た次ぎに、
須菩提!
『説法の者』は、
『陀羅尼』を、
『得た!』が、
『聴法の者』は、
『陀羅尼』が、
『無く!』、
『両者』が、
『和合しない!』が故に、
『深い般若波羅蜜』を、
『書き、乃至正憶念できなければ!』、
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
『聴法の者』は、
『陀羅尼』を、
『得た!』が、
『説法の者』は、
『陀羅尼』が、
『無く!』、
『両者』が、
『和合しない!』が故に、
『深い般若波羅蜜』を、
『書き、乃至正憶念できなければ!』、
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
復次須菩提。說法者欲令書持般若波羅蜜乃至正憶念。聽法人不欲書持般若波羅蜜讀誦乃至正憶念。兩不和合。不得書深般若波羅蜜乃至正憶念。當知是為魔事。聽法者欲書讀誦說般若波羅蜜。說法者不欲令書般若波羅蜜。乃至不欲令說。兩不和合。不得書深般若波羅蜜乃至正憶念。當知是為魔事。 復た次ぎに、須菩提、説法の者は、般若波羅蜜を書持、乃至正憶念せしめんと欲するも、聴法の人は般若波羅蜜を書持、読誦、乃至正憶念するを欲せざれば、両和合せずして、深き般若波羅蜜を書き、乃至正憶念するを得ず。当に知るべし、是れを魔事と為す。聴法の者は般若波羅蜜を書き、読誦し、説かんと欲すれども、説法の者は般若波羅蜜を書かしめんと欲せず、乃至説かしめんと欲せざれば、両和合せずして、深き般若波羅蜜を書き、乃至正憶念するを得ず。当に知るべし、是れを魔事と為す。
復た次ぎに、
須菩提!
『説法の者』は、
『般若波羅蜜』を、
『書持、読誦、乃至正憶念させたい!』と、
『思う!』が、
『聴法の人』は、
『般若波羅蜜』を、
『書持、読誦、乃至正憶念したい!』と、
『思わず!』、
『両者』が、
『和合しない!』が故に、
『深い般若波羅蜜』を、
『書き、乃至正憶念できなければ!』、
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
『聴法の者』は、
『般若波羅蜜』を、
『書持、読誦、乃至正憶念したい!』と、
『思う!』が、
『説法の者』は、
『般若波羅蜜』を、
『書持、読誦、乃至正憶念させたい!』と、
『思わず!』、
『両者』が、
『和合しない!』が故に、
『深い般若波羅蜜』を、
『書き、乃至正憶念できなければ!』、
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
復次須菩提。說法者離貪欲瞋恚睡眠掉悔疑。聽法人貪欲瞋恚睡眠掉悔疑。當知是為魔事。聽法者離貪欲瞋恚睡眠掉悔疑。說法人貪欲瞋恚睡眠掉悔疑。兩不和合。不得書深般若波羅蜜乃至正憶念。當知是為魔事。 復た次ぎに、須菩提、説法の者は、貪欲、瞋恚、睡眠、掉悔、疑を離るるも、、聴法の人は貪欲、瞋恚、睡眠、掉悔、疑なれば、当に知るべし、是れを魔事と為す。聴法の者は貪欲、瞋恚、睡眠、掉悔、疑を離るるも、説法の人は貪欲、瞋恚、睡眠、掉悔、疑なれば、両和合せずして、深き般若波羅蜜を書き、乃至正憶念するを得ず。当に知るべし、是れを魔事と為す。
復た次ぎに、
須菩提!
『説法の者』は、
『貪欲、瞋恚、睡眠、掉悔、疑』を、
『離れた!』が
『聴法の人』は、
『貪欲、瞋恚、睡眠、掉悔、疑』を、
『離れていなければ!』、
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
『聴法の者』は、
『貪欲、瞋恚、睡眠、掉悔、疑』を、
『離れた!』が
『説法の人』は、
『貪欲、瞋恚、睡眠、掉悔、疑』を、
『離れず!』、
『両者』が、
『和合しない!』が故に、
『深い般若波羅蜜』を、
『書き、乃至正憶念できなければ!』、
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
復次須菩提。書是深般若波羅蜜。乃至正憶念時。或有人來說三惡道中苦劇。汝何不於是身盡苦入涅槃。何用是阿耨多羅三藐三菩提為。兩不和合。不得書深般若波羅蜜乃至正憶念。當知是為魔事。 復た次ぎに、須菩提、是の深き般若波羅蜜を書き、乃至正憶念する時、或は有る人来たりて、『三悪道中の苦は劇し。汝は何んが是の身に於いて、苦を尽して涅槃に入らざる。是の阿耨多羅三藐三菩提を用って、何をか為さん』と説かば、両和合せずして、深き般若波羅蜜を書き、乃至正憶念するを得ず。当に知るべし、是れを魔事と為す。
復た次ぎに、
須菩提!
是の、
『深い!』、
『般若波羅蜜』を、
『書き、乃至正憶念する!』時、
有る、
『人』が来て、こう説いた、――
『三悪道』中の、
『苦』は、
『劇しい!』のに、
お前は、
何故、
是の、
『身』の、
『苦を尽して!』、
『涅槃』に、
『入らないのか?』。
是の、
『阿耨多羅三藐三菩提』を、
『用いて!』、
何を、
『為そうというのだ!』、と。
『両者』が、
『和合しない!』が故に、
『深い般若波羅蜜』を、
『書き、乃至正憶念できなければ!』、
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
復次須菩提。書是深般若波羅蜜。受持讀誦說正憶念時。或有人來讚四天王諸天。讚三十三天夜摩天兜率陀天化樂天他化自在天梵天乃至非有想非無想天。讚初禪乃至非有想非無想定。作是言。善男子。欲界中受五欲快樂。色界中受禪生樂。無色界中受寂滅樂。是事亦無常苦空無我。變相盡相散相離相滅相。汝何不於是身中取須陀洹果斯陀含果阿那含果阿羅漢果辟支佛道。何用是世間生死中受種種苦。求阿耨多羅三藐三菩提為。兩不和合。不得書深般若波羅蜜乃至正憶念。當知是為魔事。 復た次ぎに、須菩提、是の深き般若波羅蜜を書き、受持、読誦し、説いて正憶念する時、或は有る人来たりて四天王の諸天を讃じ、三十三天、夜摩天、兜率陀天、化楽天、他化自在天、梵天、乃至非有想非無相天を讃じ、初禅、乃至非有想非無想定を讃じて、是の言を作さん、『善男子、欲界中には五欲の快楽を受け、色界中には禅生の楽を受け、無色界中には寂滅の楽を受くれば、是の事も亦た無常、苦、空、無我にして、変相、尽相、散相、離相、滅相なり。汝は何んが、是の身中に於いて、須陀洹果、斯陀含果、阿那含果、阿羅漢果、辟支仏道を取らざる。是の世間の生死中に種種の苦を受けて、阿耨多羅三藐三菩提を求むるを用って、何をか為さん』、と。両和合せざれば、深き般若波羅蜜を書き、乃至正憶念するを得ず。当に知るべし、是れを魔事と為す。
復た次ぎに、
須菩提!
是の、
『深い!』、
『般若波羅蜜』を、
『受持、読誦し、説き、正憶念する!』時、
或は、
有る、
『人』が来て、
『四天王の諸天』を、
『讃じ!』、
『三十三天、夜摩天、兜率陀天、化楽天、他化自在天』、
『乃至非有想非無相天』を、
『讃じ!』、
『初禅、乃至非有想非無想定』を、
『讃じて!』、
是の、
『言を作した!』、――
善男子!
『欲界』中には、
『五欲』という、
『快楽』を、
『受け!』、
『色界』中には、
『禅を受けて!』、
『楽』を、
『生じ!』、
『無色界』中には、
『寂滅』という、
『楽』を、
『受けたとしても!』、
是の、
『事』も、
『無常、苦、空、無我であり!』、
『変相、尽相、散相、離相、滅相である!』。
お前は、
何故、
是の、
『身』に、
『須陀洹果、斯陀含果、阿那含果、阿羅漢果』や、
『辟支仏道』を、
『取らないのか?』。
是の、
『世間の生死』中に、
種種の、
『苦を受けながら!』、
『阿耨多羅三藐三菩提』を、
『求めて!』、
何に、
『用いようというのか?』、と。
『両者』が、
『和合しない!』が故に、
『深い般若波羅蜜』を、
『書き、乃至正憶念できなければ!』、
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
復次須菩提。說法者一身無累自在無礙。聽法人多將人眾。兩不和合。不得書深般若波羅蜜乃至正憶念。當知是為魔事。聽法者一身無累自在無礙。說法者多將人眾。兩不和合。不得書深般若波羅蜜乃至正憶念。當知是為魔事。 復た次ぎに、須菩提、説法の者は、一身にして累無く、自在にして礙無けれども、聴法の人は、多く人衆を将いて、両和合せざれば、深き般若波羅蜜を書き、乃至正憶念するを得ず。当に知るべし、是れを魔事と為す。聴法の者は、一身にして累無く、自在にして礙無けれども、説法の者は多く人衆を将いて、両和合せざれば、深き般若波羅蜜を書き、乃至正憶念するを得ず。当に知るべし、是れを魔事と為す。
復た次ぎに、
須菩提!
『説法の者』は、
『一身』に、
『係累が無く!』、
『自在であり!』、
『無礙である!』が、
『聴法の人』は、
『多く!』の、
『人衆』を、
『将(ひき)いていて!』、
『両者』が、
『和合しない!』が故に、
『深い般若波羅蜜』を、
『書き、乃至正憶念できなければ!』、
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
須菩提!
『聴法の者』は、
『一身』に、
『係累が無く!』、
『自在であり!』、
『無礙である!』が、
『説法の者』は、
『多く!』の、
『人衆』を、
『将いていて!』、
『両者』が、
『和合しない!』が故に、
『深い般若波羅蜜』を、
『書き、乃至正憶念できなければ!』、
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
復次須菩提。說法者如是言。汝能隨我意者。當與汝般若波羅蜜令書讀誦說正憶念。若不隨我意者。則不與汝。兩不和合。不得書深般若波羅蜜讀誦說正憶念。當知是為魔事。 復た次ぎに、須菩提、説法の者は、是の如く言わん、『汝は、能く我が意に随わば、当に汝に般若波羅蜜を与えて、書き、読誦し、説きて正憶念せしむべし。若し我が意に随わずんば、則ち汝に与えざらん』、と。両和合せざれば、深き般若波羅蜜を書き、読誦し、説いて正憶念するを得ず。当に知るべし、是れを魔事と為す。
復た次ぎに、
須菩提!
『説法の者』は、
是のように言う、――
お前は、
わたしの、
『意』に、
『随うことができれば!』、
当然、
お前に、
『般若波羅蜜』を、
『与えて!』、
『書き、読誦し、説き、正憶念させるだろう!』が、
若し、
わたしの、
『意』に、
『随わなければ!』、
則ち、
お前には、
『与えないであろう!』、と。
『両者』が、
『和合しない!』が故に、
『深い般若波羅蜜』を、
『書き、読誦し、説いて!』
『正憶念できなければ!』、
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
復次須菩提。聽法者欲得追隨如其意。說法者不聽。兩不和合。不得書深般若波羅蜜乃至正憶念。當知是為魔事。 復た次ぎに、須菩提、聴法の者は其の意の如く追随するを得んと欲すれども、説法の者は聴さず、両和合せざれば、深き般若波羅蜜を書き、乃至正憶念するを得ず。当に知るべし、是れを魔事と為す。
復た次ぎに、
須菩提!
『聴法の者』は、
其の、
『意に追随する!』、
『機会を得たい!』と、
『思っても!』、
『説法の者』が、
『得る!』ことを、
『聴(ゆる)さず!』、
『両者』が、
『和合しない!』が故に、
『深い般若波羅蜜』を、
『書き、乃至正憶念できなければ!』、
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
復次須菩提。說法者欲得財利故。與般若波羅蜜令書持乃至正憶念。聽法者以是因緣故。不欲從受。兩不和合。不得書深般若波羅蜜乃至正憶念。當知是為魔事。聽法者為財利故。欲書深般若波羅蜜讀誦說。說法者以是因緣故不欲與。兩不和合。不得書深般若波羅蜜讀誦說。當知是為魔事。 復た次ぎに、須菩提、説法の者は、財利を得んと欲するが故に、般若波羅蜜を与えて、書持、乃至正憶念せしむれども、聴法の者は、是の因縁を以っての故に、従って受けんと欲せず、両和合せざれば、深き般若波羅蜜を書き、乃至正憶念するを得ず。当に知るべし、是れを魔事と為す。聴法の者は、財利の為の故に、深き般若波羅蜜を書いて、読誦し、説かんと欲すれども、説法の者は、是の因縁を以っての故に与えんと欲せず、両和合せざれば、深き般若波羅蜜を書きて、読誦し、説くを得ず。当に知るべし、是れを魔事と為す。
復た次ぎに、
須菩提!
『説法の者』は、
『財利』を、
『得よう!』と、
『思う!』が故に、
『般若波羅蜜』を、
『与えて!』、
『書持、乃至正憶念させても!』、
『聴法の者』が、
是の、
『因縁』の故に、
此の、
『人より!』、
『受けたい!』と、
『思わず!』、
『両者』が、
『和合しない!』が故に、
『深い般若波羅蜜』を、
『書き、乃至正憶念できなければ!』、
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
『聴法の者』は、
『財利』の為の故に、
『般若波羅蜜』を、
『書いて、読誦し、説きたい!』と
『思っても!』、
『説法の者』が、
是の、
『因縁』の故に、
『与えよう!』と、
『思わず!』、
『両者』が、
『和合しない!』が故に、
『深い般若波羅蜜』を、
『書いて、読誦し、説けなければ!』、
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
復次須菩提。說法者欲至他方危命之處。聽法者不欲隨去。兩不和合。不得書深般若波羅蜜乃至正憶念。當知是為魔事。聽法者欲至他方危命之處。說法者不欲去。兩不和合。不得書深般若波羅蜜乃至正憶念。當知是為魔事。 復た次ぎに、須菩提、説法の者は、他方の命の危うき処に至らんと欲すれども、聴法の者は随って去らんと欲せず、両和合せざれば、深き般若波羅蜜を書き、乃至正憶念するを得ず。当に知るべし、是れを魔事と為す。聴法の者は、他方の命の危うき処に至らんと欲すれども、説法の者は去らんと欲せず、両和合せざれば、深き般若波羅蜜を書き、乃至正憶念するを得ず。当に知るべし、是れを魔事と為す。
復た次ぎに、
須菩提!
『説法の者』は、
『他方』の、
『命の危うい処』に、
『至りたい!』と、
『思う!』が、
『聴法の者』は、
『随って!』、
『去ろう!』とは、
『思わず!』、
『両者』が、
『和合しない!』が故に、
『深い般若波羅蜜』を、
『書き、乃至正憶念できなければ!』、
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
『聴法の者』は、
『他方』の、
『命の危うい処』に、
『至りたい!』と、
『思う!』が、
『説法の者』は、
『去ろう!』とは、
『思わず!』、
『両者』が、
『和合しない!』が故に、
『深い般若波羅蜜』を、
『書き、乃至正憶念できなければ!』、
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
復次須菩提。說法者欲至他方飢餓穀貴無水之處。聽法者不欲隨去。兩不和合。不得書深般若波羅蜜乃至正憶念。當知是為魔事。聽法者欲至他方飢餓穀貴無水之處。說法者不欲去。兩不和合。不得書深般若波羅蜜乃至正憶念。當知是為魔事。 復た次ぎに、須菩提、説法の者は、他方の飢餓、穀貴、無水の処に至らんと欲すれども、聴法の者は随って去らんと欲せず、両和合せざれば、深き般若波羅蜜を書き、乃至正憶念するを得ず。当に知るべし、是れを魔事と為す。聴法の者は、他方の飢餓、穀貴、無水の処に至らんと欲すれども、説法の者は去らんと欲せず、両和合せざれば、深き般若波羅蜜を書き、乃至正憶念するを得ず。当に知るべし、是れを魔事と為す。
復た次ぎに、
須菩提!
『説法の者』は、
『他方』の、
『飢餓(飢饉)の処』や、
『穀物が貴重な処』や、
『水の無い処』に、
『至りたい!』と、
『思う!』が、
『聴法の者』は、
『随って!』、
『去ろう!』とは、
『思わず!』、
『両者』が、
『和合しない!』が故に、
『深い般若波羅蜜』を、
『書き、乃至正憶念できなければ!』、
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
『聴法の者』は、
『他方』の、
『飢餓の処』や、
『穀物が貴重な処』や、
『水の無い処』に、
『至りたい!』と、
『思う!』が、
『説法の者』は、
『去ろう!』とは、
『思わず!』、
『両者』が、
『和合しない!』が故に、
『深い般若波羅蜜』を、
『書き、乃至正憶念できなければ!』、
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
復次須菩提。說法者欲至他方豐樂之處。聽法者欲隨從去。說法者言。善男子汝為利養故追隨我。汝善自思惟。若得若不得無令後悔。以是少因緣故。兩不和合。聽法者聞之心厭作是念。是為距逆我。不欲與我相隨便止不去。兩不和合。不得書深般若波羅蜜乃至正憶念。當知是為魔事 復た次ぎに、須菩提、説法の者は、他方の豊楽の処に至らんと欲すれども、聴法の者は随って去らんと欲せざれば、説法の者の言わく、『善男子、汝は利養の為の故に、我れに追随せり。汝は善く自ら思惟して、若しは得、若しは得ざらんに、後をして悔やましむる無かれ』、と。是の少因縁を以っての故に、両和合せず。聴法の者、之を聞いて心に厭い、是の念を作さく、『是れ我れに距たり、逆らわんが為に、我れと相随うを欲せず』、と。便ち止まりて去らず、両和合せざれば、深き般若波羅蜜を書き、乃至正憶念するを得ず。当に知るべし、是れを魔事と為す。
復た次ぎに、
須菩提!
『説法の者』は、
『他方』の、
『豊楽の処』に、
『至りたい!』と、
『思う!』が、
『聴法の者』が、
『随って!』、
『去ろう!』とは、
『思わない!』ので、
『説法の者』が、こう言う、――
善男子!
お前は、
『利養』の為の故に、
わたしに、
『追随している!』が、
お前は、
善く、
『自ら!』を、
『思惟せよ!』。
お前は、
『利養』を、
『得ても!』、
『得なくても!』、
『後の!』、
『己に!』、
『悔やませるな!』、と。
是の、
『少因縁』の故に、
『両者』が、
『和合せず!』、
『聴法の者』は、
之を聞いて、
『心』に、
『厭い(うんざりし)!』、
是の念を作した、――
是れは、
わたしを、
『距(へだ)てて!』、
『逆らおう!』と、
『思い!』、
わたしには、
『般若波羅蜜』を、
『与えたくない!』と、
『思っているのだ!』、と。
そして、
『止まって!』、
『去らなかった!』、と。
『両者』が、
『和合しない!』が故に、
『深い般若波羅蜜』を、
『書き、乃至正憶念できなければ!』、
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
復次須菩提。說法者欲過曠野。賊怖旃陀羅怖獵師怖惡獸毒蛇怖。聽法者欲隨逐去。說法者言。善男子汝何用到彼。彼中多有諸怖。賊怖乃至毒蛇怖。聽法者聞之知其不欲與般若波羅蜜書持乃至正憶念。心厭不欲追隨。以是少因緣故。兩不和合。當知是為魔事。 復た次ぎに、須菩提、説法の者は、曠野の過ぎんと欲するに、賊怖し、旃陀羅怖し、猟師怖し、悪獣、毒蛇怖せり。聴法の者は随逐して去らんと欲するも、説法の者の言わく、『善男子、汝は何を用ってか、彼に到らん。彼中には、多く諸怖有りて、賊怖し、乃至毒蛇怖さん』、と。聴法の者、之を聞いて、其の般若波羅蜜を与えて、書持、乃至正憶念せしめんと欲せざるを知り、心に厭うて、追随するを欲せず。是の少因縁を以っての故に、両和合せざれば、当に知るべし、是れを魔事と為す。
復た次ぎに、
須菩提!
『説法の者』が、
『曠野』を、
『過ぎようとする!』と、
『賊』や、
『旃陀羅、猟師、悪獣、毒蛇』が、
『怖(おど)した!』。
『聴法の者』は、
『説法の人』を、
『随逐して!』、
『去りたい!』と、
『思っていが!』が、
『説法の者』は、こう言った、――
善男子!
お前は、
彼の、
『処』に、
『到って!』、
何のような、
『用』が、
『有るのか?』。
彼の、
『処』中には、
諸の、
『怖す!』者が、
『多く!』、
『有り!』、
『賊、乃至毒蛇』が、
『怖している!』。
『聴法の者』は、
之を聞いて、
『説法の人』が、
『般若波羅蜜を与えて!』、
『書持、乃至正憶念させよう!』と、
『思っていない!』のを、
『知り!』、
『心に厭うて!』、
『追随したい!』と、
『思わなくなった!』。
是の、
『少因縁』の故に、
『両者』が、
『和合しなければ!』、
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
  (ふ):脅す/脅迫する( fear, intimidate )。
  随逐(ずいちく):追いかける/追随/追逐する( pursue, chase )。
復次須菩提。說法者多有檀越數往問訊。以是因緣故。語聽法者。我有因緣應往到彼。聽法人知其意便止兩不和合。不得書深般若波羅蜜乃至正憶念。當知是為魔事 復た次ぎに、須菩提、説法の者は、多く檀越有りて、数往きて問訊すれば、是の因縁を以っての故に、聴法の者に語らく、『我れは因縁有りて、応に往きて、彼に到るべし』、と。聴法の人は、其の意を知りて、便ち止まる、両和合せざれば、深き般若波羅蜜を書き、乃至正憶念するを得ず。当に知るべし、是れを魔事と為す。
復た次ぎに、
須菩提!
『説法の者』は、
『多く!』の、
『檀越(施主)』が、
『有り!』、
『数(しばしば)!』、
『往って!』、
『問訊(挨拶≒訪問)していた!』ので、
是の、
『因縁』の故に、
『聴法の者』に、こう語った、――
わたしは、
『因縁』が、
『有る!』ので、
彼れの、
『処』に、
『往かねばならない!』、と。
『聴法の人』は、
其の、
『意』を、
『知って!』、
『止まることにした!』。
『両者』が、
『和合しない!』が故に、
『深い般若波羅蜜』を、
『書き、乃至正憶念できなければ!』、
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。



【論】説法の者と聴法の者とが和合しない

【論】問曰。有人書持讀誦般若波羅蜜不能行而犯戒。或可有是若不信云何從受法。 問うて曰く、有る人は、般若波羅蜜を書持、読誦するも、行う能わずして、戒を犯す。或は是れ有るべしと、若し信ぜずんば、云何が従って法を受けん。
問い、
有る、
『人』が、
『般若波羅蜜』を、
『書持、読誦していた!』が、
『行うことができず!』、
而も、
『戒』を、
『犯していた!』。
或は、
是のような、
『事』が、
『有るかも知れない!』と、
若し、
是の、
『人』を、
『信じなければ!』、
何故、
是の、
『人より!』、
『法』を、
『受けるのですか?』。
答曰。是人不信般若波羅蜜。所謂畢竟空。但欲求名故讀誦廣說如佛弟子。不信外道經書亦為人講說。 答えて曰く、是の人は、般若波羅蜜の謂わゆる畢竟空を信ぜず、但だ名を求めんと欲するが故に読誦して、広く説く。仏弟子の外道の経書を信ぜざるも、亦た人の為に講説するが如し。
答え、
是の、
『人』は、
『般若波羅蜜』の、
謂わゆる、
『畢竟空』を、
『信じず!』、
但だ、
『名』を、
『求めよう!』と、
『思う!』が故に、
『般若波羅蜜』を、
『読誦して!』、
『広く説くのである!』。
譬えば、
『仏弟子』が、
『外道』の、
『経書』を、
『信じていなくても!』、
亦た、
『人に講説する!』のと、
『同じである!』。
復次不能深心信樂般若故名不信。非都不信。 復た次ぎに、深心に般若を信楽する能わざるが故に不信と名づくるも、都て信ぜざるに非ず。
復た次ぎに、
『深心』で、
『般若』を、
『信じて!』、
『楽しむことができない!』ので、
是の故に、
『信じない!』と、
『言うのであり!』、
都(すべ)てを、
『信じない!』と、
『言うのではない!』。
問曰。弟子法應供養師奉諸所有。何以言師不能施。 問うて曰く、弟子の法は、応に師を供養し、諸の所有を奉ずべし。何を以ってか、『師は施す能わず』と言う。
問い、
『弟子の法』は、
『師を供養して!』、
諸の、
『師の所有』を、
『承けねばならない!』のに、
何故、こう言うのですか?――
『師』は、
『所有』を、
『施すことができない!』、と。
  (ぶ):捧げる/敬って両手で持つ( hold in both hands with respect )、承ける/敬意を以って受取る( receive with respect )、提供する( offer, present )、与える/授与する( give, grant )。
答曰。弟子作是念。師少物不能捨。何況捨身雖讚說布施是為欺誑。是故不和合。弟子欲以四事供養師。師少欲知足故不受。或羞愧似如賣法故不受。或師多知多識無所乏少。能供給弟子。弟子自念人當謂我貪師衣食故受法。或自以德薄不消所給。此心雖好不能成般若波羅蜜故亦是魔事。 答えて曰く、弟子の是の念を作さく、『師は少物すら、捨つる能わず。何に況んや、身を捨つるをや。布施を讃じて説くと雖も、是れを欺誑と為す』、と。是の故に和合せず。弟子は、四事を以って師を供養せんと欲するも、師は少欲知足の故に受けず。或は法を売るが如きに似たるを羞愧するが故に受けず。或は師は多知多識にして乏少する所無く、能く弟子に供給するに、弟子の自ら念ずらく、『人は、当に我れは師の衣食を貪らんが故に法を受くと謂うべし』、と。或は自ら徳薄きを以って、給する所を消せざれば、此の心は、好しと雖も、般若波羅蜜を成ずる能わざるが故に、亦た是れ魔事なり。
答え、
『弟子』は、
是の念を作す、――
『師』は、
『少し!』の、
『物すら!』、
『捨てることができない!』。
況して、
『身』を、
『捨てるとなれば!』、
『尚更だ!』。
『師』は、
『布施』を、
『讃じて!』、
『説いている!』が、
是れは、
『欺誑ではないか!』、と。
是の故に、
『師、徒』が、
『和合しない!』。
『弟子』は、
『四事(衣服、飲食、臥具、医薬)』で、
『師』を、
『供養したい!』と、
『思っている!』が、
『師』は、
『少欲知足である!』が故に、
『供養』を、
『受けない!』。
或は、
『法』を、
『売る!』のに、
『似ている!』と、
『恥ずかしがって!』、
『受けない!』。
或は、
『師』は、
『知識が多く!』、
『乏少(欠乏)する!』所が、
『無い!』ので、
『供養』を、
『弟子』に、
『供給することができる!』が、
『弟子』は、
自ら、こう念じる、――
『人』は、こう謂うだろう、――
わたしは、
『師』の、
『衣食』を、
『貪る!』為の故に、
『師』より、
『法』を、
『受けるのだ!』、と。
或は、
自ら、
『徳』の、
『薄い!』ことを、
『思う!』が故に、
『師』の、
『供給する!』所を、
『消費しない!』。
此の、
『心は好もしい!』が、
『般若波羅蜜』を、
『成就することができない!』ので、
是れも、
『魔』の、
『仕事である!』。
師鈍根者是誦經師非解義師。十二部經亦是誦經師。 師の鈍根とは、是れ誦経の師にして、解義の師に非ず。十二部経も、亦た是れ誦経の師なり。
『師が鈍根である!』とは、
是れは、
『誦経の師であり!』、
『解義の師でないからである!』。
亦た、
『十二部経』も、
『誦経の師である!』。
復次師有六波羅蜜者。作是念弟子罪人鈍根不能行六波羅蜜。著世間事。但有弟子名無有實事。是師不知弟子聞般若已後成大事。但以現前無六波羅蜜不肯教化。弟子亦作是念。六波羅蜜義我亦能行。師但能口說不能修行。不知師轉身因緣當成大事。又不知師別有讀誦利益因緣故不和合。 復た次ぎに、師に六波羅蜜有れば、是の念を作さく、『弟子は罪人、鈍根なれば、六波羅蜜を行ずる能わず。世間の事に著して、但だ弟子の名有りて、実事有る無し』、と。是の師は、弟子の般若を聞き已りて、後に大事を成すことを知らず、但だ眼前に六波羅蜜無きを以って、教化するを肯んぜず。弟子も亦た是の念を作さく、『六波羅蜜の義は、我れも亦た能く行ず。師は但だ能く口に説くも、修行する能わず』、と。師の身を転ずる因縁にて、当に大事を成すべきを知らず。又師には別に読誦の利益有るを知らざる因縁の故に和合せず。
復た次ぎに、
『師』に、
『六波羅蜜』が、
『有れば!』、
是の念を作すだろう、――
『弟子』は、
『罪人であり!』、
『鈍根である!』が故に、
『六波羅蜜を行えずに!』、
『世間の事』に、
『著するだけだろう!』。
但だ、
『弟子』という、
『名』が、
『有るばかりで!』、
『実』の、
『事』が、
『無い!』、と。
是の、
『師』は、
『弟子』が、
『般若波羅蜜を聞いた!』後に、
『大事を成す!』ことを、
『知らず!』、
但だ、
『現前』に、
『六波羅蜜の無い!』が故に、
『教化しよう!』と、
『思わないのである!』。
『弟子』も、
是の念を作すだろう、――
『六波羅蜜の義』は、
わたしでも、
『行うことができる!』のに、
『師』は、
但だ、
『口で説くばかりで!』、
『修行することはできない!』、と。
『師』が、
『転身の因縁』で、
『大事を成すことになる!』のを、
『知らない!』。
又、
『師』には、
『般若波羅蜜』の、
『義』を、
『理解する!』という、
『利益は無い!』が、
別に、
『読誦する!』という、
『利益が有る!』のを、
『知らない!』ので、
是の、
『因縁』の故に、
『和合しない!』。
  (こう):がえんずる/同意する/厭わない/承諾する( agree, be willing to, consent )。
復次弟子直信著善法。師不著法。以方便行六波羅蜜。弟子謂為不深樂六波羅蜜。何以知之。師或時讚歎六波羅蜜。或時斷人著故破散六波羅蜜。弟子有方便亦如是。 復た次ぎに、弟子は直だ善法を信じて著すれども、師は法に著せざれば、方便を以って、六波羅蜜を行ずるに、弟子は謂いて、六波羅蜜を深く楽しまずと為す。何を以ってか、之を知る。師は、或は時に六波羅蜜を讃歎し、或は時に人の著するを断ぜんが故に、六波羅蜜を破散すればなり。弟子に方便有らば、亦た是の如くせん。
復た次ぎに、
『弟子』は、
直だ、
『善法』を、
『信じて!』、
『著するだけである!』が、
『師』は、
『法に著することなく!』、
『方便』で、
『六波羅蜜』を、
『行っている!』のに、
『弟子』は、こう謂う、――
『師』は、
『六波羅蜜』を、
『深く!』、
『楽しんでいない!』、と。
何故、之が知れるのか?――
『師』は、
或時には、
『六波羅蜜』を、
『讃歎して!』、
『説かれる!』が、
或時には、
『人』の、
『著』を、
『断つ!』為の故に、
『六波羅蜜』を、
『破散するからである!』。
『弟子』に、
『方便』が、
『有っても!』、
『師』に、
『方便』が、
『無ければ!』、
亦た、
『是の通りである!』。
問曰。若弟子得陀羅尼師無陀羅尼。何以為師。 問うて曰く、若し弟子は陀羅尼を得、師に陀羅尼無くんば、何を以ってか、師と為す。
問い、
若し、
『弟子』は、
『陀羅尼』を、
『得ており!』、
『師』に、
『陀羅尼』が、
『無ければ!』、
何故、
『師』と、
『呼ばれるのですか?』。
答曰。陀羅尼有種種。有弟子得聞持陀羅尼。能持能誦不能解義。師能為解說。弟子或能得諸法實相陀羅尼義。而不能次第讀誦。或師得聞持陀羅尼未得大悲故。輕賤弟子不能教導。 答えて曰く、陀羅尼には、種種有り。有る弟子は、聞持陀羅尼を得て、能く持し、能く誦すれども、義を解する能わざれば、師は、能く為に解説す。弟子は、或は能く諸法の実相、陀羅尼の義を得れども、次第に読誦する能わず。或は師は、聞持陀羅尼を得るも、未だ大悲を得ざるが故に、弟子を軽賎して、教導する能わず。
答え、
『陀羅尼』には、
『種種有るからである!』。
有る、
『弟子』は、
『聞持陀羅尼を得て!』、
『記憶して!』、
『諳誦できる!』が、
『陀羅尼』の、
『義』を、
『理解できない!』。
『師』は、
『弟子』の為に、
『解説することができる!』。
有る、
『弟子』は、
或は、
『諸法の実相』や、
『陀羅尼の義』を、
『理解できる!』が、
『次第に(次々と)!』、
『読誦することができない!』。
或は、
『師』は、
『聞持陀羅尼を得ている!』が、
未だ、
『大悲』を、
『得ていない!』が故に、
『弟子』を、
『軽賎して!』、
『教え!』、
『導くことができない!』。
問曰。弟子欲受持般若波羅蜜師不與。或可有是云何師欲與法弟子不欲受。 問うて曰く、弟子は、般若波羅蜜を受持せんと欲すれども、師与えざること、或は是れ有るべし。云何が、師は法を与えんと欲して、弟子は受くるを欲せざる。
問い、
『弟子』は、
『般若波羅蜜』を、
『受持したい!』と、
『思っている!』のに、
『師』は、
『与えようとしなければ!』、
或は、
是のような、
『事』は、
『有るかも知れない!』。
何故、
『師』が、
『法』を、
『与えたい!』と、
『思う!』のに、
『弟子』は、
『受けたい!』と、
『思わないのですか?』。
答曰如先答。弟子見師有過故不欲受法。 答えて曰く、先に答うるが如し。弟子は、師に過有るを見るが故に法を受くるを欲せず。
答え、
先に、答えたように、――
『弟子』は、
『師』に、
『過が有る!』のを、
『見る!』が故に、
『法』を、
『受けたい!』と、
『思わないのである!』。
復次師欲教化前人為弟子。而是人或邪見諸惡因緣故不肯受教。 復た次ぎに、師は、前の人を教化して、弟子と為さんと欲するも、是の人は、或は邪見、諸悪の因縁の故に、教を受くるを肯んぜず。
復た次ぎに、
『師』は、
『前の人』を、
『教化して!』、
『弟子にしたい!』と、
『思っている!』が、
是の、
『人』は、
或は、
『邪見、諸悪の因縁』の故に、
『教を受ける!』ことを、
『承諾しない!』。
復次一切眾生所行法同則和合。一人離五蓋一人不離故相輕。相輕故不和合。一切上法皆爾。 復た次ぎに、一切の衆生の行ずる所の法、同じなれば則ち和合す。一人は五蓋を離るるも、一人は離れざるが故に相軽んじ、相軽んずるが故に和合せず。一切の上法は、皆爾り。
復た次ぎに、
一切の、
『衆生』は、
『行っている!』、
『法』が、
『同じならば!』、
則ち、
『和合することになる!』が、
『一人』は、
『五蓋』を、
『離れても!』、
『一人』が、
『離れていない!』が故に、
是の、
『人』を、
『軽んじ!』、
是の、
『人』を、
『軽んじる!』が故に、
『和合しない!』。
一切の、
『上に!』、
『登る!』、
『法』は
皆、
『是の通りである!』。
復次書誦般若波羅蜜乃至正憶念時。一人呵三惡道。一人讚歎諸天。是事如先答。雖不能都破其善行。且壞其大乘授小乘法。 復た次ぎに、般若波羅蜜を書き、誦し、乃至正憶念する時、一人は三悪道を呵し、一人は諸天を讃歎すれば、是の事は、先に答うるが如く、都て、其の善行を破る能わずと雖も、且く、其の大乗を壊りて、小乗の法を授くるなり。
復た次ぎに、
『般若波羅蜜』を、
『書き、誦し、乃至正憶念する!』時、
若し、
『一人』が、
『三悪道』を、
『呵し!』、
『一人』が、
『諸天』を、
『讃歎すれば!』、
是の、
『事』は、
先に、答えたように、――
其の、
『善行』を、
『都て!』、
『破ることはできない!』が、
殆ど、
其の、
『大乗を壊って!』、
『小乗の法』を、
『授けることになるだろう!』。
  (しょ):<代名詞>此れ/今の( this )、<副詞>殆ど/~に近い( almost, nearly )、~しようとする/ことになる( be going to, will, shall )、ちょうど/さしあたり( just, for the time being )、[長時間に亘るを表す]( for a long time )、[並列関係を表す]かつ/而も( and )、[同時並列を表す]かつ/又( both~and~ )、尚お/更に( moreover )、若し/仮令( if )。
復次師少欲知足不樂眾聚。弟子多有人眾。師作是念。弟子雖好可度而將徒眾多。師深著善法捨離弟子。弟子一身亦如是。 復た次ぎに、師は少欲知足にして、衆聚を楽しまざるも、弟子には多く人衆有り。師の是の念を作さく、『弟子は、好く度すべしと雖も、徒衆を将いること多し』、と。師は深く善法に著して、弟子を捨離す。弟子の一身なるも、亦た是の如し。
復た次ぎに、
『師』は、
『少欲知足であって!』、
『衆聚(取り巻き!)』を、
『楽しまない!』が、
『弟子』には、
『多く!』の、
『人衆(友人)』が、
『有った!』。
『師』は、是の念を作す、――
『弟子』は、
『好もしく!』、
『度すことができそうである!』が、
而し、
『多くの徒衆』を、
『将(ひき)いている!』、と。
『師』は、
『深く!』、
『善法』に、
『著して!』、
『弟子』を、
『捨てて!』、
『離れたのである!』。
亦た、
『弟子』が、
『一身であっても!』、
『是の通りである!』。
復次說法者意若弟子隨我意行。若去若住隨時問訊。如是等聽法者但欲從求法利。不能行此眾事是不和合。或時聽法者隨意進止問訊等。說法者不聽作是念。何用是事損我功德。聽法者意謂輕賤不相好喜是不和合。 復た次ぎに、説法の者の意は、若し弟子なれば、我が意に随うて行い、若しは去り、若しは往きて随時に問訊することも是れ等の如し、と。聴法の者は、但だ従って法利を求めんことを欲するも、此の衆事を行う能わず。是れ和合せざるなり。或は時に聴法の者は、随意に進止、問訊等するも、説法の者は、聴さずして、是の念を作さく、『何ぞ、是の事を用いて、我が功徳を損ずる』、と。聴法の者は意に軽賎を謂いて、相好み喜ぶばず。是れ和合せざるなり。
復た次ぎに、
『説法の者』は、
『意』に、こう思っているが、――
若し、
『弟子ならば!』、
わたしの、
『意に随って!』、
『行い!』、
『往き!』、
『去るだろう!』、
『時に随って!』、
『問訊する!』のも、
『是れ等と同じだ!』、と。
『聴法の者』は、
但だ、
『説法の人』より、
『法の利』を、
『求めよう!』と、
『思っているだけなので!』、
此のような、
『衆事』を、
『行うことができない!』。
或は時に、
『聴法の者』は、
『意に随って!』、
『進み!』、
『止まり!』、
『問訊等をする!』が、
『説法の者』は、
『聴さずに!』、
是の念を作す、――
何故、
是の、
『事』を、
『用いて!』、
わたしの、
『功徳』を、
『損なうのか?』、と。
『聴法の者』が、
『意』に、
『軽賎された!』と、
『思えば!』、
互に、
『好まず!』と、
『喜ばない!』ので、
是れは、
『和合しない!』。
  (こ):<動詞>離れる( go away, leave )、除く( remove, wipe off )、距たる( be apart from, be at a distance of )、[来るの逆]往く/去る( go )、失う( lose )、追い出す( drive )、投げ捨てる( throw away )、死ぬ/世を去る( die )、動詞の後に置いて傾向/持続を示す( used after a verb or a V—O construction to indicate that an action is to take place or continue )、逃亡する( go into exile, flee from home )、駆逐する( drive out, expel )、<形容詞>過去の( of last year, past )、[時間/場所を示す]~に在りて( in, at )。
復次師為利養故欲與法。弟子心則不敬師。云何欲賣經法。弟子亦如是。為財利養讀誦般若。非清淨心故。師知弟子心。如是則薄賤不與故不和合。 復た次ぎに、師は利養の為の故に、法を与えんと欲すれば、弟子の心は則ち師を敬わず。云何が経法を売らんと欲する、と。弟子も亦た是の如く、財、利養の為に般若を読誦すれば、清浄の心に非ざるが故に、師は弟子の心を知り、是の如くして、則ち軽賎して与えざるが故に、和合せず。
復た次ぎに、
『師』が、
『利養』の為の故に、
『法』を、
『与えたい!』と、
『思えば!』、
『弟子』は、
『心』に、
『師』を、
『敬わないことになる!』、――
何故、
『経法』を、
『売ろう!』と、
『思うのか?』、と。
『弟子』も、
是のように、
『財、利養』の為の故に、
『般若』を、
『読誦すれば!』、
『心』が、
『清浄でない!』が故に、
『師』は、
『弟子の心』を、
『知る!』ので、
是のようにして、
則ち、
『軽賎して!』、
『与えないことになり!』、
故に、
『和合しない!』。
  薄賎(はくせん):他本に従いて軽賎に改む。
復次師欲至他方路經嶮難。弟子惜身命故不能隨。作是念我有身然後求法。弟子欲去亦如是。飢餓穀貴無水處亦如是。 復た次ぎに、師は他方に至らんと欲すれども、路は嶮難を経。弟子は身命を惜むが故に随う能わずして、是の念を作さく、『我れ身有りて、然る後に法を求めん』、と。弟子の去らんと欲するも、亦た是の如し。飢餓、穀貴、無水の処も亦た是の如し。
復た次ぎに、
『師』は、
『他方』に、
『至りたい!』と、
『思う!』が、
『路』は、
『峻険の難処』を、
『経なければならない!』ので、
『弟子』は、
『身命』を、
『惜む!』が故に、
『随うことができず!』、
是の念を作す、――
わたしに、
『身』が、
『有ればこそ!』、
その後に、
『法』を、
『求めるのだ!』、と。
『弟子』が、
『他方』に、
『去ろう!』と、
『思う!』のも、
亦た、
『是の通りであり!』、
『他方の処』が、
『飢餓』や、
『穀物が貴重である!』とか、
『水が無い!』のも、
亦た、
『是の通りである!』。
復次師欲至豐樂處。弟子欲隨師。或羞愧不欲將去。或弟子串樂不任涉遠。或道里懸遠。或師諳彼國弟子不悉。謂師稱美彼國不必實爾。時或慮師謂貪飲食故去。 復た次ぎに、師は、豊楽の処に至らんと欲し、弟子は師に随わんと欲するも、或は羞愧して、将いて去るを欲せず。或は弟子は楽に串(な)れて遠く渉るに任えず。或は道里懸(はるか)に遠し。或は師は彼の国を諳(つまびらかにし)るも、弟子は悉(つまびらかにし)らずして、『師は彼の国を称美するも、必ずしも実に爾らず』と謂う。時には或は師を慮って、『飲食を貪るが故に去る』と謂う。
復た次ぎに、
『師』は、
『豊楽の処』に、
『至りたい!』と、
『思い!』、
『弟子』は、
『師に随いたい!』と、
『思ったが!』、
或は、
『師』は、
『羞愧して(恥ずかしがって)!』、
『弟子』を、
『将いて去ろうとしない!』。
或は、
『弟子』は、
『楽に慣れて!』、
『遠くに渉(わた)る!』に、
『任えられない!』。
或は、
『道里(道程)』が、
『懸(はるか)に遠い!』ので、
『任えられない!』。
或は、
『師』は、
『彼の国』を、
『熟知している!』が、
『弟子』は、
『熟知せずに!』、こう謂う、――
『師』は、
『彼の国』を、
『称美される!』が、
必ずしも、
『実は!』、
『そうではあるまい!』、と。
時には、
或は、
『師を慮って!』、こう謂う、――
『飲食』を、
『貪ろうとする!』が故に、
『去られるのだ!』、と。
  (あん):つまびらかに知る/深く知る/熟知する( know well )。
  (しつ):つまびらかに知る/知る/知悉( know )。尽く/都て/全部( all, entire )。
  称美(しょうみ):人、或は事の美善なるを称揚する。
如是等種種因緣。師語弟子如汝所聞。彼國土所有不必盡爾。好自籌量若自欲去者便去。無以財物豐樂故去。至彼不得隨意。勿以見怨師。復為說汝聞彼國土豐樂故去。非為法故不須隨我。師好心止弟子。不知是壞般若波羅蜜因緣。弟子聞是說敬難師故不能答。便止不去故不和合。 是れ等の如き種種の因縁に、師の弟子に語らく、『汝が聞きたる所の如きは、彼の国土の所有は、必ずしも尽くは爾らず。好く自ら籌量して、自ら去らんと欲すれば、便ち去れ。財物、豊楽を以っての故に去ること無かれ。彼に至りて随意を得ざるも、以って怨を見(あらわ)す勿かれ』、と。師は復た為に説かく、『汝は、彼の国土の豊楽を聞くが故に去るも、法の為の故に非ざれば、我れに随うを須(もち)いざれ』、と。師は好心もて、弟子を止むるに、是の般若波羅蜜を壊る因縁なるを知らず。弟子は是の説を聞くも、師を敬難するが故に答うる能わず、便ち止まりて去らざるが故に和合せず。
是れ等のような、
種種の、
『因縁』で、
『師』は、
『弟子』に、こう語った、――
彼の、
『国土』の、
『有らゆるもの!』が、
必ずしも、
『尽く!』が、
『お前の聞いた通りではない!』が、
自ら、
『好く!』、
『籌量して!』、
自ら、
『去りたい(往きたい)!』と、
『思えば!』、
『去るがよい!』。
『財物、豊楽』を、
『思う!』が故に、
『去ってはならない!』。
彼の、
『国土』に、
『至ってから!』、
『意のままでなくても!』、
『恨み!』を、
『見(あらわ)してはならない!』、と。
復た、
『弟子』の為に、こう説いた、――
お前が、
彼の、
『国土の豊楽』を、
『聞いた!』が故に、
『去るのであり!』、
『法』を、
『求める!』為の故に、
『去るのでなければ!』、
わたしに、
『敢て随う!』、
『必要はない!』、と。
『師』は、
『好心』で、
『弟子』を、
『止めて!』、
『去らせなかったのである!』が、
是れが、
『般若を壊る!』、
『因縁となる!』ことは、
『知らなかった!』。
『弟子』は、
是れを聞いて、
『師』を、
『敬っていた!』が故に、
『返答することができず!』、
便ち、
『止まって!』、
『去らなかった!』ので、
是の故に、
『和合しない!』。
  (なん):<形容詞>困難/艱難/容易でない( difficult, hard, troublesome )、好くない/不可( hardly possible, bad )、<動詞>困難を感ずる( feel difficult )、~を困難な目に遭わせる( put sb. into a difficult position )、恐れる/恐懼する( dread, fear )、敬う( respect )、詰問/責難/非難( blame, reproach )、排斥する/退ける/拒絶する( keep out, ward off, refuse )、論義/論争/難詰する( argue )、<名詞>困難な事( difficult )、災難/禍害/災害( disaster, calamity, catstrophe )、叛乱( revolt )、恨み/仇敵( enmity, foe )。
  敬難(きょうなん):敬う( respect )。
師復欲至遠國。彼中有種種虎狼賊盜。語弟子言。彼間多難汝不須去。弟子聞已便止。師但知彼有難事故止弟子。不知是壞般若波羅蜜因緣。 師は、復た遠国に至らんと欲す。彼の中には種種の虎狼、賊盗有れば、弟子に語りて言わく、『彼の間には難多し。去るを須いず』、と。弟子聞き已りて便ち止まる。師は但だ、彼に難事有るを知るが故に弟子を止むるも、是の般若波羅蜜を壊る因縁たるを知らず。
『師』は、
復た、
『遠国』へ、
『至ろう!』と、
『思った!』が、
彼の中には、
種種の、
『虎狼、賊盗』が、
『有った!』ので、
『弟子』に語って、こう言った、――
彼の、
『間(国土)』には、
『難』が、
『多い!』ので、
お前が、
『敢て去る!』、
『必要はない!』、と。
『弟子』は、
之を聞いて、
便ち、
『止まって!』、
『去らなかった!』。
『師』は、
但だ、
彼には、
『難事の有る!』ことを、
『知っていた!』が故に、
『弟子を止めた!』が、
是れが、
『般若を壊る!』、
『因縁となる!』ことは、
『知らなかったのである!』。
問曰。若遠國多難何以自去。 問うて曰く、若し遠国に難多ければ、何を以ってか自ら去る。
問い、
若し、
『遠国』に、
『難』が、
『多ければ!』、
何故、
自ら、
『去るのですか?』。
答曰。有人言。師彼國生故服習彼土能自防護。有人言。彼有好師經書。不惜身命故去。 答えて曰く、有る人の言わく、『師は、彼の国に生まれたるが故に、彼の土を服習すれば、能く自ら防護すればなり』、と。有る人の言わく、『彼に好師、経書有れば、身命を惜まざるが故に去る』、と。
答え、
有る人は、こう言っている、――
『師』は、
彼の、
『国』に、
『生まれた!』が故に、
彼の、
『土』を、
『服習(知悉)している!』ので、
自ら、
『防護することができる!』、と。
有る人は、こう言っている、――
彼の、
『国』には、
『好師、経書』が、
『有り!』、
『師』は、
『身命』を、
『惜まない!』ので、
是の故に、
『去るのだ!』、と。
  服習(ふくしゅう):よく知っている/熟悉/熟知( know well )。
師作是念我身自死則可。云何枉他。如是等因緣故止弟子不令去。 師の是の念を作さく、『我が身自ら死するは、則ち可なり。云何が他を枉(ま)げんやと』、と。是れ等の如き因縁の故に、弟子を止めて、去らしめず。
『師』は、
是の念を作した、――
わたしの、
『身』は、
『自ら!』、
『死んだとしても!』、
則ち、
『結構なことである!』。
何故、
『他の命』を、
『枉()げるのか?』、と。
是れ等の、
『因縁』の故に、
『弟子』を、
『止めて!』、
『去らせなかったのである!』。
  (おう):<形容詞>まがった/曲がった/邪曲な( crooked )、邪悪な( evil, wicked, vicious )、乱れた( disordered )、<動詞>不当に扱う( treat injustly )、脇道を行く( make a detour )、法を曲げる/法を破る( violate )、<副詞>無駄に( futilely, in vain )。
師多有知識檀越心生樂著。弟子少欲知足不著檀越。師常隨時問訊檀越。弟子但欲求法不喜是事。師知其意語言。我有因緣不得為汝說法。弟子聞已不悅。師貴俗緣不貴於法是不和合 師は多く知識、檀越有りて、心に楽著を生ずるも、弟子は少欲知足にして、檀越に著せず。師は常に随時に、檀越を問訊するも、弟子は但だ法を求めんと欲して、是の事を喜ばず。師は、其の意を知り、語りて言わく、『我れに因縁有れば、汝が為に法を説くを得ず』、と。弟子聞き已りて悦ばず、『師は、俗縁を貴びて、法を貴ばず』、と。是れ和合せざるなり。
『師』は、
『多く!』の、
『知識、檀越』が、
『有り!』、
『心』に、
『楽著』を、
『生じた!』が、
『弟子』は、
『少欲知足であって!』、
『檀越』に、
『著しなかった!』。
『師』は、
常に、
随時に、
『檀越』を、
『問訊(訪問)していた!』が、
『弟子』は、
但だ、
『法』を、
『求めよう!』と、
『思うだけであり!』、
是のような、
『檀越を問訊する!』という、
『事』を、
『喜ばなかった!』。
『師』は、
『弟子』の、
『意』を、
『知りながら!』、
それに、
『語って!』、こう言った、――
わたしには、
『因縁』が、
『有る!』ので、
お前の為に、
『法』を、
『説いてはいられない!』、と。
『弟子』は、
之を、
『聞いて!』、
『悦ばなかった!』、――
『師』は、
『俗事』の、
『縁』を、
『貴ばれる!』が、
『法』を、
『説く!』ことは、
『貴ばれない!』、と。
是れでは、
『和合しないことになる!』。



【經】悪魔が、種種の形を作して来る

【經】復次須菩提。惡魔作比丘形像來。方便破壞是般若波羅蜜。不得令書持讀誦說正憶念。 復た次ぎに、須菩提、悪魔、比丘の形像を作して、来たりて、方便して、是の般若波羅蜜を破壊し、書持、読誦、説き、正憶念せしむるを得ず。
復た次ぎに、
須菩提!
『悪魔』は、
『比丘の形像』を、
『作して!』、
『来て!』、
是の、
『般若波羅蜜』を、
『方便して!』、
『破壊する!』ので、
『般若波羅蜜』を、
『書持、読誦し』、
『説いて、正憶念させられない!』。
  参考:『大般若経巻304』:『復次善現。有諸惡魔作苾芻像至菩薩所。方便破壞令於般若波羅蜜多甚深經典。不得書寫受持讀誦修習思惟為他演說。時具壽善現白佛言。世尊。云何惡魔作苾芻像至菩薩所。方便破壞令於般若波羅蜜多甚深經典。不得書寫受持讀誦修習思惟。為他演說。佛言。善現。有諸惡魔作苾芻像。至菩薩所方便破壞。令其毀厭甚深般若波羅蜜多。謂作是言。汝所習誦無相經典非真般若波羅蜜多。我所習誦有相經典。是真般若波羅蜜多。作是語時有諸菩薩未得受記。便於般若波羅蜜多而生疑惑。由疑惑故便於般若波羅蜜多而生毀厭。由毀厭故遂闕書寫受持讀誦修習思惟為他演說甚深般若波羅蜜多。當知是為菩薩魔事。復次善現。有諸惡魔作苾芻像至菩薩所。謂菩薩言。若諸菩薩行此般若波羅蜜多。唯證實際得預流果若一來果若不還果若阿羅漢果若獨覺菩提。終不能得無上佛果。何緣於此唐設劬勞。菩薩既聞便不書寫受持讀誦修習思惟為他演說甚深般若波羅蜜多。當知是為菩薩魔事。復次善現。甚深般若波羅蜜多說聽等時。多諸魔事而為留難。菩薩應覺當遠離之時具壽善現白佛言。世尊。何等名為魔事留難。菩薩當覺而遠離之。佛言。善現。甚深般若波羅蜜多說聽等時。多有相似般若靜慮精進安忍淨戒布施波羅蜜多魔事留難。菩薩應覺而遠離之。復次善現。甚深般若波羅蜜多說聽等時。多有相似內空外空內外空空空大空勝義空有為空無為空畢竟空無際空散空無變異空本性空自相空共相空一切法空不可得空無性空自性空無性自性空魔事留難。菩薩應覺當遠離之。復次善現。甚深般若波羅蜜多說聽等時。多有相似真如法界法性不虛妄性不變異性平等性離生性法定法住實際虛空界不思議界魔事留難。菩薩應覺當遠離之。復次善現。甚深般若波羅蜜多說聽等時有諸惡魔作苾芻像至菩薩所。宣說二乘相應之法。謂四聖諦四靜慮四無量四無色定八解脫八勝處九次第定十遍處四念住四正斷四神足五根五力七等覺支八聖道支三解脫門六神通等。說是法已謂菩薩言。大士當知。且依此法精勤修學。取預流果若一來果若不還果若阿羅漢果若獨覺菩提。遠離一切生老病死。何用無上正等菩提。是為般若魔事留難。菩薩應覺當遠離之。復次善現。有諸惡魔作苾芻像。威儀庠序形貌端嚴。菩薩見之深生愛著。由斯損減一切智智。不獲聽聞書寫受持讀誦修習思惟演說甚深般若波羅蜜多。當知是為菩薩魔事。復次善現。有諸惡魔作佛像形。身純金色常光一尋。具三十二大丈夫相八十隨好以自莊嚴。菩薩見之深生愛著。由斯損減一切智智。不獲聽聞書寫受持讀誦修習思惟演說甚深般若波羅蜜多。當知是為菩薩魔事復次善現。有諸惡魔化作佛像。苾芻圍遶宣說法要。菩薩見之深生愛著。便作是念。願我未來亦當如是。由斯損減一切智智。不獲聽聞書寫受持讀誦修習思惟演說甚深般若波羅蜜多。當知是為菩薩魔事。復次善現。有諸惡魔化作菩薩摩訶薩像。若百若千乃至無量。或行布施波羅蜜多。或行淨戒安忍精進靜慮般若波羅蜜多。菩薩見之深生愛著。由斯損減一切智智。不獲聽聞書寫受持讀誦修習思惟演說甚深般若波羅蜜多。當知是為菩薩魔事。所以者何。善現。於甚深般若波羅蜜多中。色無所有。受想行識無所有。若於是處色無所有。受想行識無所有。則於是處佛無所有。菩薩聲聞及諸獨覺亦無所有。何以故。以一切法自性空故』
須菩提白佛言。世尊。何因緣故。惡魔作比丘形像。方便破壞般若波羅蜜。不得令書持乃至正憶念。 須菩提の仏に白して言さく、『世尊、何の因縁の故に、悪魔は、比丘の形像を作し、方便して般若波羅蜜を破壊すれば、書持、乃至正憶念せしむるを得ざる』。
『須菩提』は、
『仏』に白して、こう言った、――
世尊!
何のような、
『因縁』の故に、
『悪魔』は、
『比丘』の、
『形像』を、
『作し!』、
『般若波羅蜜』を、
『方便して!』、
『破壊する!』ので、
『般若波羅蜜』を、
『書持、乃至正憶念させられないのですか?』、と。
佛言。惡魔作比丘形像來。壞善男子善女人心。令遠離般若波羅蜜。作是言。如我所說經。即是般若波羅蜜。此經非般若波羅蜜。須菩提。是中破壞諸比丘時。有未受記菩薩便墮疑。隨疑故不書深般若波羅蜜。不受不持。乃至不作正憶念不和合。不得書深般若波羅蜜。乃至正憶念。當知是為魔事。 仏の言わく、『悪魔は比丘の形像を作して、来たりて、善男子、善女人の心を壊り、般若波羅蜜を遠離せしめ、是の言を作さく、『我が所説の経の如きは、即ち是れ般若波羅蜜なり。此の経は般若波羅蜜に非ず』、と。須菩提、是の中の諸比丘を破壊する時、有る未だ受記せざる菩薩は、便ち疑に堕し、疑に随うが故に、深き般若波羅蜜を書かず、受けず、持せず、乃至正憶念を作さずして、和合せず。深き般若波羅蜜をを書き、乃至正憶念するを得ざれば、当に知るべし、是れを魔事と為す。
『仏』は、
こう言われた、――
『悪魔』が、
『比丘』の、
『形像』を、
『作して!』、
『来て!』、
『善男子、善女人』の、
『心を壊って!』、
『般若波羅蜜』を、
『遠離させる!』とは、
是の言を作すのである、――
わたしの、
『説いた!』、
『経』は、
是れが、
即ち、
『般若波羅蜜である!』。
此の、
『経』は、
『般若波羅蜜ではない!』、と。
須菩提!
是の中に、
諸の、
『比丘を壊る!』時、
有る、
未だ、
『受記しない!』、
『菩薩』は、
たちまち、
『疑』に、
『堕ちることになり!』、
『疑に随う!』が故に、
『般若波羅蜜』を、
『書かず!』、
『受けず!』、
『持たず(記憶せず)!』、
『乃至正憶念しない!』が故に、
『般若波羅蜜』と、
『和合せず!』、
『般若波羅蜜』を、
『書いて!』、
『乃至正憶念できなければ!』、
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
復次須菩提。惡魔作比丘身到菩薩所作如是言。若菩薩行般若波羅蜜。於實際作證。得須陀洹果斯陀含果阿那含果阿羅漢果辟支佛道以是兩不和合。不得書深般若波羅蜜乃至正憶念。當知是為魔事。 復た次ぎに、須菩提、悪魔は、比丘の身と作りて、菩薩の所に到り、是の如き言を作さく、『若し菩薩、般若波羅蜜を行ぜば、実際に於いて証を作し、須陀洹果、斯陀含果、阿那含果、阿羅漢果、辟支仏道を得ん』、と。是を以って両和合せずして、深き般若波羅蜜を書き、乃至正憶念するを得ず。当に知るべし、是れを魔事と為す。
復た次ぎに、
須菩提!
『悪魔』は、
『比丘の身と作り!』、
『菩薩の所』に、
『到って!』、
是のように言うだろう、――
若し、
『菩薩』が、
『般若波羅蜜を行えば!』、
『実際を証して!』、
『須陀洹果、斯陀含果、阿那含果』や、
『阿羅漢果、辟支仏道』を、
『得るだろう!』、と。
是の故に、
『師、徒』の、
『両者』が、
『和合せず!』、
『深い般若波羅蜜』を、
『書き!』、
『乃至正憶念することができなければ!』、
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
復次須菩提。菩薩說是深般若波羅蜜時。多有魔事起留難。般若波羅蜜是為魔事。菩薩摩訶薩應當覺知知已遠離。 復た次ぎに、須菩提、菩薩は、是の深き般若波羅蜜を説く時、多く魔事起こりて、般若波羅蜜を留難すること有らん。是れを魔事と為すと、菩薩摩訶薩は、当に覚知し、知り已りて遠離すべし。
復た次ぎに、
須菩提!
『菩薩』が、
是の、
『深い!』、
『般若波羅蜜』を、
『説く!』時、
『多く!』の、
『魔事が起こり!』、
『般若波羅蜜』を、
『留難(妨害)する!』ことが、
『有るだろう!』。
『菩薩摩訶薩』は、
是の、
『魔事』を、
『覚知して!』、
『知ったならば!』、
之を、
『遠離せねばならぬ!』。
須菩提言。世尊。何等是魔事留難。菩薩應當覺知知已遠離。 須菩提の言わく、『世尊、何等か、是れ魔事の留難にして、菩薩は応当に覚知して、知り已りて遠離すべき』、と。
『須菩提』は、こう言った、――
世尊!
『菩薩』が、
『覚知し!』、
『知ったならば!』、
『遠離せねばならぬ!』とは、
是れは、
何のような、
『魔事の留難ですか?』。
佛言。似般若波羅蜜諸魔事起。似禪波羅蜜。似毘梨耶波羅蜜。似羼提波羅蜜。似尸羅波羅蜜。似檀波羅蜜魔事起。菩薩應當覺知知已遠離。 仏の言わく、『般若波羅蜜に似たる諸の魔事起こり、禅波羅蜜に似、毘梨耶波羅蜜に似、羼提波羅蜜に似、尸羅波羅蜜に似、檀波羅蜜に似たる魔事起こるに、菩薩は応当に覚知し、知り已りて遠離すべし。
『仏』はこう言われた、――
『般若波羅蜜』に、
『似た!』、
諸の、
『魔事』が、
『起こり!』、
『禅波羅蜜』、
『毘梨耶波羅蜜』、
『羼提波羅蜜』、
『尸羅波羅蜜』、
『檀波羅蜜』に、
『似た!』、
諸の、
『魔事』が、
『起こる!』ので、
『菩薩』は、
是の、
『魔事を覚知し!』、
『知ったならば!』、
『遠離せねばならぬ!』。
復次須菩提。聲聞辟支佛所應行經。是菩薩摩訶薩應當知是魔事而遠離之。 復た次ぎに、須菩提、声聞、辟支仏の応に行ずべき所の経は、是れを菩薩摩訶薩は、応当に是れ魔事なりと知りて、遠離すべし。
復た次ぎに、
須菩提!
『声聞、辟支仏』の、
『行わねばならぬ!』、
『経』は、
是れを、
『菩薩摩訶薩』は、
是れが、
『魔事である!』と、
『知って!』、
『遠離せねばならぬ!』。
復次須菩提。內空乃至無法有法空。四念處乃至八聖道分。空無相無作解脫門。用是法得須陀洹果斯陀含果阿那含果阿羅漢果辟支佛道。如是等諸經。惡魔作比丘形像方便與菩薩摩訶薩。是不和合故。不得書深般若波羅蜜乃至正憶念。當知是為魔事。 復た次ぎに、須菩提、内空、乃至無法有法空、四念処、乃至八聖道分、空、無相、無作解脱門は、是の法を用いて須陀洹果、斯陀含果、阿那含果、阿羅漢果、辟支仏道を得れば、是れ等の如き諸の経は、悪魔は比丘の形像を作して、方便もて菩薩摩訶薩に与うれば、是れ和合せざるが故に、深き般若波羅蜜を書き、乃至正憶念するを得ず。当に知るべし、是れを魔事と為す。
復た次ぎに、
須菩提!
『内空、乃至無法有法空』、
『四念処、乃至八聖道分』、
『空、無相、無作解脱門』は、
是の、
『法を用いて!』、
『須陀洹果、斯陀含果、阿那含果、阿羅漢果、辟支仏道』を、
『得るのである!』が、
是れ等の、
『諸経』は、
『悪魔』が、
『菩薩』の、
『形像』を、
『作すという!』、
『方便を用いて』、
『菩薩』に、
『与えたものである!』が故に、
是れは、
『深い般若波羅蜜』と、
『和合しない!』。
是の故に、
『深い般若波羅蜜』を、
『書き!』、
『乃至正憶念できなければ!』、
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である』、と。
復次須菩提。惡魔作佛身金色丈光到菩薩所。是菩薩貪著。貪著故耗減薩婆若。是不和合故。不得書深般若波羅蜜乃至正憶念。當知是為魔事。 復た次ぎに、須菩提、悪魔は、仏身の金色、丈光なるを作して、菩薩の所に到るに、是の菩薩貪著し、貪著の故に薩婆若を耗減すれば、是れ和合せざるが故に、深き般若波羅蜜を書き、乃至正憶念するを得ず。当に知るべし、是れを魔事と為す。
復た次ぎに、
須菩提!
『悪魔』が、
『仏』の、
『金色、丈光の身』を、
『作して!』、
『菩薩の所』に、
『到る!』と、
是の、
『菩薩』は、
『金色、丈光』の、
『身』に、
『貪著し!』、
『貪著する!』が故に、
『薩婆若』を、
『耗減(損減)した!』。
是れが、
『薩婆若』と、
『和合しないからである!』。
是の故に、
『深い般若波羅蜜』を、
『書き!』、
『乃至正憶念できなければ!』、
当然、こう知るべきである、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
復次須菩提。惡魔作佛身及比丘僧到菩薩前。是菩薩起貪著。意作是念。我於當來世亦當如是從比丘僧為說法。是菩薩貪著魔身故。耗減薩婆若。不得書成般若波羅蜜乃至正憶念。當知是為魔事。 復た次ぎに、須菩提、悪魔の仏身、及び比丘僧と作りて、菩薩の前に到るに、是の菩薩は貪著を起して、意に是の念を作さく、『我れは、当来の世に於いても、亦た当に是の如き比丘僧より、説法さるべし』、と。是の菩薩は、魔身に貪著するが故に、薩婆若を耗減して、般若波羅蜜書きて成じ、乃至正憶念するを得ざれば、当に知るべし、是れを魔事と為す。
復た次ぎに、
須菩提!
『悪魔』が、
『仏』の、
『身、及び比丘僧』と、
『作って!』、
『菩薩』の、
『前』に、
『到る!』と、
『菩薩』は、
『心』に、
『貪著』を、
『起して!』、
『意』に、是の念を作すだろう、――
わたしは、
『未来の世』にも、
亦た、
是のような、
『比丘僧より!』、
『法』を、
『説かれるだろう!』、と。
是の、
『菩薩』が、
『魔身に貪著する!』が故に、
『薩婆若』を、
『耗減し!』、
『般若波羅蜜』を、
『書いて成し!』、
『乃至正憶念できなければ!』、
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
復次須菩提。惡魔化作無數百千萬億菩薩。行檀波羅蜜尸羅波羅蜜羼提波羅蜜毘梨耶波羅蜜禪波羅蜜般若波羅蜜。指示善男子善女人。善男子善女人見已貪著。貪著故耗減薩婆若。不得書深般若波羅蜜乃至正憶念。當知是為魔事。 復た次ぎに、須菩提、悪魔は、無数百千万億の菩薩を化作して、檀波羅蜜、尸羅波羅蜜、羼提波羅蜜、毘梨耶波羅蜜、禅波羅蜜、般若波羅蜜を行じ、善男子、善女人に指示するに、善男子、善女人見已りて貪著し、貪著の故に薩婆若を耗減し、深き般若波羅蜜を書き、乃至正憶念するを得ざれば、当に知るべし、是れを魔事と為す。
復た次ぎに、
須菩提!
『悪魔』が、
『無数、百千万億』の、
『菩薩と作って!』、
『檀波羅蜜、尸羅波羅蜜、羼提波羅蜜、毘梨耶波羅蜜』、
『禅波羅蜜、般若波羅蜜』を、
『行って!』、
『善男子、善女人』に、
『指示する( instruct )する!』と、
『善男子、善女人』は、
『見た!』が故に、
『貪著し!』、
『貪著する!』が故に、
『薩婆若』を、
『耗減し!』、
『深い般若波羅蜜』を、
『書き!』、
『乃至正憶念できない!』。
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『魔』の、
『仕事である!』、と。
何以故。是深般若波羅蜜中無有色。無有受想行識。乃至無有阿耨多羅三藐三菩提。須菩提。是般若波羅蜜若無有色。乃至無阿耨多羅三藐三菩提。是中無佛無聲聞無辟支佛無菩薩。何以故。一切諸法自性空故。 何を以っての故に、是の深き般若波羅蜜中には、色の有ること無く、受想行識の有ること無く、乃至阿耨多羅三藐三菩提の有ること無ければなり。須菩提、是の般若波羅蜜は若し色の有ること無く、乃至阿耨多羅三藐三菩提無ければ、是の中には仏無く、声聞無く、辟支仏無く、菩薩無し。何を以っての故に、一切の諸法の自性は空なるが故なり。
何故ならば、
是の、
『深い般若波羅蜜』中には、
『色』も、
『受想行識』も、
『無く!』、
『乃至阿耨多羅三藐三菩提』も、
『無いからである!』。
須菩提!
是の、
『般若波羅蜜』には、
『色』が、
『無く!』、
『乃至阿耨多羅三藐三菩提』が、
『無いのであり!』、
是の中には、
『仏』も、
『声聞』も、
『辟支仏』も、
『菩薩』も、
『無い!』。
何故ならば、
一切の、
諸の、
『法』は、
『自性』が、
『空だからである!』。
復次須菩提。善男子善女人書是深般若波羅蜜。受讀誦說正憶念時。多有留難起。須菩提。譬如閻浮提中珍寶金銀琉璃車磲馬瑙珊瑚等寶多難多賊。如是須菩提。善男子善女人。書是深般若波羅蜜。乃至正憶念時。多賊多留難起。 復た次ぎに、須菩提、善男子、善女人は、是の深き般若波羅蜜を書き、受け、読誦し、説いて、正憶念する時、多く留難の起こる有り。須菩提、譬えば閻浮提中の珍宝の金銀、琉璃、車磲、馬瑙、珊瑚等の宝には、難多く、賊多きが如し。是の如く、須菩提、善男子、善女人は、是の深き般若波羅蜜を書き、乃至正憶念する時には、賊多く、留難の起こること多し。
復た次ぎに、
須菩提!
『善男子、善女人』が、
是の、
『深い般若波羅蜜』を、
『書き、受けて、読誦し、説いて、正憶念する!』時には、
『留難』の、
『起こる!』ことが、
『多く有る!』。
須菩提!
譬えば、
『閻浮提』中の、
『珍宝である!』、
『金銀、琉璃、車磲、馬瑙、珊瑚等の宝』には、
『難が多く!』、
『賊が多い!』が、
是のように、
須菩提!
『善男子、善女人』が、
是の、
『深い!』、
『般若波羅蜜』を、
『書いて!』、
『乃至正憶念する!』時にも、
『賊が多く!』、
『多く!』の、
『留難』が、
『起こるのである!』。
須菩提白佛言。如是世尊。閻浮提中珍寶金銀琉璃車磲馬瑙珊瑚等多賊多難。世尊。善男子善女人。亦如是。書是深般若波羅蜜乃至正憶念時。多賊多留難起多有魔事。 須菩提の仏に白して言さく、『是の如し、世尊、閻浮提中の珍宝の金銀、琉璃、車磲、馬瑙、珊瑚等には賊多く、難多し。世尊、善男子、善女人も、亦た是の如く、是の深き般若波羅蜜を書いて、乃至正憶念する時、賊多く、留難の起こること多く、魔事有ること多し。
『須菩提』は、
『仏』に白して、こう言った、――
その通りです!
世尊!
『閻浮提』中の、
『珍宝である!』、
『金銀、琉璃、車磲、馬瑙、珊瑚』等にはあ、
『賊が多く!』、
『難が多いように!』、
世尊!
『善男子、善女人』も、
是のように、
是の、
『深い!』、
『般若波羅蜜』を、
『書いて!』、
『乃至正憶念する!』時には、
『賊』が、
『多く!』、
『留難』の、
『起こる!』ことが、
『多く!』、
『魔事』が、
『多く!』、
『有ります!』。
何以故。是愚癡人為魔所使。善男子善女人。書是深般若波羅蜜乃至正憶念時。破壞令遠離。 何を以っての故に、是の愚癡の人は、魔に使われて、善男子、善女人の、是の深き般若波羅蜜を書き、乃至正憶念する時、破壊して、遠離せしむればなり。
何故ならば、
是の、
『愚癡の人』は、
『魔に使われて!』、
『善男子、善女人』が、
是の、
『深い般若波羅蜜』を、
『書いて!』、
『乃至正憶念する!』時、
『破壊して!』、
『深い般若波羅蜜』を、
『遠離させるからです!』。
世尊。是愚癡人少智少慧。是善男子善女人。書深般若波羅蜜乃至正憶念時。破壞令遠離。是愚癡人心不樂大法。是故不書是深般若波羅蜜。不受不讀不誦不正憶念不如說修行。亦壞他人令不得書深般若波羅蜜乃至如說修行。 世尊、是の愚癡の人は少智少慧なれば、是の善男子、善女人の深き般若波羅蜜を書きて、乃至正憶念する時、破壊して遠離せしむるなり。是の愚癡の人は、心に大法を楽しまざれば、是の故に是の深き般若波羅蜜を書かず、受けず、読まず、誦せず、正憶念せず、如説に修行せずして、亦た他人を壊りて、深き般若波羅蜜を書き、乃至如説に修行するを得しめず。
世尊!
是の、
『愚癡の人』は、
『智慧が少ない!』が故に、
是の、
『善男子、善女人』が、
『深い般若波羅蜜』を、
『書いて!』、
『乃至正憶念する!』時、
『破壊して!』、
『深い般若波羅蜜』を、
『遠離させるのです!』。
是の、
『愚癡の人』は、
『心』に、
『大法』を、
『楽しまない!』ので、
是の故に、
是の、
『深い般若波羅蜜』を、
『書くこもなく!』、
『受けることもなく!』、
『読誦することもなく!』、
『正憶念することもなく!』、
『如説に修行することもなく!』、
亦た、
『他人を破壊して!』、
『深い!』、
『般若波羅蜜』を、
『書かせず!』、
乃至、
『如説に!』、
『修行できなくさせるのです!』。
佛言。如是如是。須菩提。新發大乘意善男子善女人為魔所使。不種善根。不供養諸佛。不隨善知識故。不書深般若波羅蜜。乃至不正憶念而作留難。是善男子善女人。少智少慧心不樂大法。是故不能書是深般若波羅蜜。乃至正憶念。魔事起故。 仏の言わく、『是の如し、是の如し、須菩提、新に大乗の意を発せる善男子、善女人は魔に使われて、善根を種えず、諸仏を供養せず、善知識に随わざるが故に、深き般若波羅蜜を書かず、乃至正憶念せずして、而も留難を作す。是の善男子、善女人は少智少慧にして、心に大法を楽しまず。是の故に是の深き般若波羅蜜を書き、乃至正憶念する能わず。魔事の起こるが故なり。
『仏』は、こう言われた、――
その通りだ!
その通りだ!
須菩提!
『大乗の意(菩提心)』を、
『新たに!』、
『発した!』、
『善男子、善女人』が、
『魔に使われる!』と、
『善根を種えず!』、
『諸仏を供養せず!』、
『善知識に随わない!』が故に、
『深い般若波羅蜜』を、
『書くこともなく!』、
『乃至正憶念することもなく!』、
而も、
『留難』を、
『作すのである!』。
是のような、
『善男子、善女人』は、
『智慧が少ない!』が故に、
『心』に、
『大法』を、
『楽しまない!』ので、
是の故に、
是の、
『深い般若波羅蜜』を、
『書いて!』、
『乃至正憶念できないのである!』が、
是れは、
『魔』が、
『仕事』を、
『起したからである!』。
須菩提。若善男子善女人。能書是深般若波羅蜜乃至正憶念時。魔事不起。能具足禪波羅蜜乃至檀波羅蜜。能具足四念處乃至一切種智。 須菩提、若し善男子、善女人にして、能く是の深き般若波羅蜜を書き、乃至正憶念する時、魔事を起さざれば、能く禅波羅蜜、乃至檀波羅蜜を具足し、能く四念処、乃至一切種智を具足せん。
須菩提!
若し、
『善男子、善女人』が、
是の、
『深い般若波羅蜜』を、
『書いて!』、
『乃至正憶念する!』時、
『魔』に、
『仕事』を、
『起させなければ!』、
『禅波羅蜜、乃至檀波羅蜜』や、
『四念処、乃至一切種智』を、
『具足できるだろう!』。
須菩提。當知佛力故。是善男子善女人。能書是深般若波羅蜜。乃至正憶念。亦能具足禪波羅蜜乃至檀波羅蜜內空乃至無法有法空。具足四念處乃至八聖道分佛十力乃至一切種智。 須菩提、当に知るべし、仏の力の故に、是の善男子、善女人は、能く是の深き般若波羅蜜を書き、乃至正憶念し、亦た能く禅波羅蜜、乃至檀波羅蜜、内空、乃至無法有法空を具足し、四念処、乃至八聖道分、仏の十力、乃至一切種智を具足す。
須菩提!
当然、こう知らねばならぬ、――
『仏の力』の故に、
是の、
『善男子、善女人』は、
是の、
『深い般若波羅蜜』を、
『書いて!』、
『乃至正憶念でき!』、
亦た、
『禅波羅蜜、乃至檀波羅蜜』、
『内空、乃至無法有法空』を、
『具足でき!』、
亦た、
『四念処、乃至八聖道分』、
『仏の十力、乃至一切種智』を、
『具足できるのである!』、と。
須菩提。十方現在無量無邊阿僧祇諸佛。亦助是善男子善女人。令得書是深般若波羅蜜乃至正憶念。十方阿鞞跋致諸菩薩摩訶薩。亦擁護祐助是善男子善女人。書深般若波羅蜜。乃至正憶念 須菩提、十方の現在の無量無辺阿僧祇の諸仏も、亦た是の善男子、善女人を助けて、是の深き般若波羅蜜を書き、乃至正憶念するを得しめ、十方の阿鞞跋致の諸菩薩摩訶薩も亦た、是の善男子、善女人を擁護し、祐助して、深き般若波羅蜜を書いて、乃至正憶念せしむ。
須菩提!
『十方』の、
『現在』の、
『無量無辺阿僧祇の諸仏』も、
是の、
『善男子、善女人』を、
『助けて!』、
是の、
『深い般若波羅蜜』を、
『書かせ!』、
『乃至正憶念させ!』、
『十方』の、
『阿鞞跋致の諸菩薩摩訶薩』も、
是の、
『善男子、善女人』を、
『擁護、祐助して!』、
『深い般若波羅蜜』を、
『書き、乃至正憶念させる!』。



【論】悪魔が、種種の形を作して来る

【論】釋曰。魔作大沙門形有重威德。令人受其語多持經卷。與眾弟子俱語諸比丘。般若波羅蜜如我經所說。真實佛語汝先聞者不實非佛所說。呵毀先經種種自讚所說。鈍根菩薩信受是語生邪見。若利根未得受記者生疑。何以故。諸佛畢竟空無相智慧難解故不和合。 釈して曰く、魔は大沙門の形を作して、重き威徳有り、人をして、其の語を受けしめ、多く経巻を持ちて、衆弟子と倶に諸の比丘に、『般若波羅蜜は、我が経の所説の真実の仏語の如し。汝が先に聞ける者は、不実にして仏の所説に非ず』、と語りて、先の経を呵毀して、種種に自ら所説を讃ず。鈍根の菩薩は、是の語を信受して、邪見を生ず。若しは利根なるも、未だ受記を得ざれば、疑を生ず。何を以っての故に、諸仏の畢竟じて空、無相なる智慧は解し難きが故に和合せず。
釈す、
『魔』が、
『重々しく!』、
『威徳』の、
『有る!』、
『大沙門』の、
『形』を、
『作して!』、
其の、
『語』を、
『人』に、
『受けさせ!』、
『多くの!』、
『経巻』を、
『持って!』、
『多くの!』、
『弟子』と、
『いっしょに!』、
諸の、
『比丘』に、こう語った、――
『般若波羅蜜』は、
わたしの、
『経に説かれた!』、
『真実の!』、
『仏語と同じだ!』。
お前達が、
先に、
『聞いた!』所は、
『真実でなく!』、
『仏の所説でもない!』、と。
是のように、
先の、
『経』を、
『呵責して!』、
『毀謗し!』、
種種に、
『自らの!』、
『所説』を、
『讃じた!』ので、
『鈍根の菩薩』は、
是の、
『語を信受して!』、
『邪見』を、
『生じた!』し、
若しは、
『利根であっても!』、
未だ、
『受記を得ていなければ!』、
『疑惑』を、
『生じた!』。
何故ならば、
諸の、
『仏』は、
『畢竟じて空であり!』、
『無相である!』という、
『智慧』が、
『理解しがたい!』が故に、
『和合しないからである!』。
或時魔語菩薩。般若波羅蜜三解脫門廣說但是空。汝常習此空於中得證。不得證云何作佛。作佛法先行布施持戒等。修三十二相福德坐道場時爾乃用空。菩薩或信或疑離般若波羅蜜。 或は時に魔の菩薩に語らく、『般若波羅蜜も、三解脱門も広説すれば、但だ是れ空なり。汝、常に此の空を習わば、中に於いて証を得ん。証を得ずんば、云何が仏と作らん。作仏の法は、先に布施、持戒等を行じて、三十二相の福徳を修め、道場に坐する時、爾れ乃ち空を用う』、と。菩薩は、或は信じ、或は疑いて般若波羅蜜を離る。
或は、
時に、
『魔』は、
『菩薩』に、こう語る、――
『般若波羅蜜』も、
『三解脱門』も、
広く説けば、――
但だ、
『空でしかない!』。
お前は、
常に、
此の、
『空』を、
『習っていれば!』、
『空』中に、
『証』を、
『得ることになるだろう!』。
若し、
『証を得られなければ!』、
何故、
『仏』と、
『作れるのか?』。
『作仏の法』は、
先ず、
『布施、持戒等を行いながら!』、
『三十二相』の、
『福徳』を、
『修め!』、
『道場に坐した!』時、
ようやく、
『空』を、
『用いることになるのだ!』、と。
『菩薩』は、
或は、
『信じていた!』者も、
『疑っていた!』者も、
皆、
『般若波羅蜜』を、
『離れることになる!』。
  (に):<代名詞>汝( you )、其の/其れ( that )、此の/此れ( this )、<助辞>[形容詞/副詞の語尾]/然。
問曰。云何似六波羅蜜。名魔事。 問うて曰く、云何が、六波羅蜜に似て、魔事と名づくる。
問い、
何故、
『六波羅蜜に似ている!』と、
『魔の仕事』と、
『呼ばれるのですか?』。
答曰。如相似般若波羅蜜中說。 答えて曰く、相似の般若波羅蜜中に説けるが如し。
答え、
『相似』の、
『般若波羅蜜』中に、
『説く通りである!』。
  参考:『大品経巻10、大智度論巻60』:『憍尸迦。是為菩薩摩訶薩具足檀波羅蜜乃至般若波羅蜜。善男子善女人。如是行般若波羅蜜。當為他人演說其義。開示分別令易解。禪波羅蜜毘梨耶波羅蜜羼提波羅蜜尸羅波羅蜜檀波羅蜜。演說其義。開示分別令易解。何以故。憍尸迦。未來世當有善男子善女人。欲說般若波羅蜜。而說相似般若波羅蜜。有善男子善女人。發阿耨多羅三藐三菩提心。聞是相似般若波羅蜜失正道。善男子善女人。應為是人具足演說般若波羅蜜義開示分別令易解。釋提桓因白佛言。世尊。何等是相似般若波羅蜜。佛言。有善男子善女人。說有所得般若波羅蜜。是為相似般若波羅蜜。釋提桓因白佛言。世尊。云何善男子善女人。說有所得般若波羅蜜。是為相似般若波羅蜜。佛言。善男子善女人。說有所得般若波羅蜜。是相似般若波羅蜜者。說色無常作是言。能如是行。是行般若波羅蜜。行者求色無常。是為行相似般若波羅蜜。說受想行識無常作是言。能如是行。是行般若波羅蜜。行者求受想行識無常。是為行相似般若波羅蜜。說眼無常乃至說意無常。說色無常乃至說法無常。說眼界無常色界眼識界無常。乃至說意界法界意識界無常。說地種無常。乃至說識種無常。說眼識界無常。乃至說意識界無常。說眼觸無常。乃至說意觸無常。說眼觸因緣生受無常。乃至說意觸因緣生受無常。廣說如五眾。說色苦。乃至說意觸因緣生受苦。說色無我。乃至說意觸因緣生受無我。皆如五眾說。行者行檀波羅蜜時。為說色無常苦無我。乃至意觸因緣生受。說無常苦無我。尸羅波羅蜜乃至般若波羅蜜亦如是。行四禪四無量心四無色定。為說無常苦無我。行四念處為說無常苦無我。乃至行薩婆若時。為說無常苦無我。作如是教。能如是行者。是為行般若波羅蜜。憍尸迦。是名相似般若波羅蜜。復次憍尸迦。若善男子善女人。當來世說相似般若波羅蜜。作是言。汝善男子修行般若波羅蜜。汝修行般若波羅蜜時。當得初地乃至當得十地。禪波羅蜜乃至檀波羅蜜亦如是。行者以相似有所得。以總相修是般若波羅蜜。憍尸迦。是名相似般若波羅蜜。復次憍尸迦。善男子善女人。欲說般若波羅蜜作是言。汝善男子修行般若波羅蜜已。當過聲聞辟支佛地。是名相似般若波羅蜜。復次善男子善女人。為求佛道者如是說。汝善男子善女人。修行般若波羅蜜已。入菩薩位。得無生法忍。得無生法忍已。便住菩薩神通。從一佛界至一佛界。供養諸佛恭敬尊重讚歎。如是說者。是名相似般若波羅蜜。復次憍尸迦。善男子善女人。為求佛道者如是說。汝善男子善女人。學是般若波羅蜜。受持讀誦說正憶念。當得無量無邊阿僧祇功德。如是說者。是名相似般若波羅蜜。復次善男子善女人。為求佛道者說。如過去未來現在諸佛功德善本。從初發心至成得佛。都合集迴向阿耨多羅三藐三菩提。如是說者。是名相似般若波羅蜜。釋提桓因白佛言。世尊。云何善男子善女人。為求佛道者。不說相似般若波羅蜜。佛言。若善男子善女人。為求佛道者。說般若波羅蜜。善男子善女人。汝修行般若波羅蜜。莫觀色無常。何以故。色色性空。是色性非法。若非法即名為般若波羅蜜。般若波羅蜜中。色非常非無常。何以故。是中色尚不可得。何況常無常。憍尸迦。善男子善女人。如是說者。是名不說相似般若波羅蜜。受想行識亦如是。復次憍尸迦。善男子善女人。為求佛道者說。汝善男子善女人修行般若波羅蜜。於諸法莫有所過莫有所住。何以故。般若波羅蜜中。無有法可過可住。所以者何。一切法自性空。自性空是非法。若非法即是為般若波羅蜜。般若波羅蜜中。無有法可入可出可生可滅。憍尸迦。是善男子善女人如是說。是名不說相似般若波羅蜜。廣說如上。與相似相違。是名不說相似般若波羅蜜。如是憍尸迦。善男子善女人。應如是演說般若波羅蜜義。若如是說般若波羅蜜義。所得功德勝於前者』
復次以著心行六波羅蜜。是名似聲聞辟支佛經。無有慈悲不求佛道但欲自度。雖是好事破菩薩道故名魔事。 復た次ぎに、著心を以って六波羅蜜を行ずれば、是れを声聞、辟支仏の経に似たりと名づけ、慈悲有ること無く、仏道を求めずして、但だ自ら度せんことを欲すれば、是れ好事なりと雖も、菩薩道を破るが故に魔事と名づく。
復た次ぎに、
『著心』で、
『六波羅蜜』を、
『行えば!』、
是れを、
『声聞、辟支仏』の、
『経に似ている!』と、
『言う!』。
何故ならば、
是れは、
『慈悲が無く!』、
『仏道を求めず!』、
但だ、
自ら、
『度することだけ!』を、
『思うからである!』。
是れは、
『好事である!』が、
『菩薩の道を破る!』が故に、
『魔の仕事』と、
『呼ばれる!』。
問曰。若菩薩見佛身則信心清淨。云何名魔事。 問うて曰く、若し菩薩、仏身を見れば、則ち信心清浄なり。云何が、魔事と名づくる。
問い、
若し、
『菩薩』が、
『仏』の、
『身』を、
『見れば!』、
則ち、
『信心』が、
『清浄になります!』。
何故、
『魔の仕事』と、
『称するのですか?』。
答曰。一切煩惱取相皆是魔事。是小菩薩未應見佛身。魔作佛妙形。菩薩心著為是好身故行道。如未離欲人見天女形。深心染著不能堪受天欲迷悶而死。是故魔願得滿。 答えて曰く、一切の煩悩、取相は、皆是れ魔事なり。是の小菩薩は、未だ応に仏身を見るべからざるに、魔、仏の妙形を作せば、菩薩は心に著して、是れ好身なりと為すが故に道を行ず。未だ欲を離れざる人の天女の形を見て、深心に染著し、天の欲を受くるに堪うる能わざれば、迷悶して死するが如し。是の故に魔の願は満つるを得。
答え、
一切の、
『煩悩』や、
『相を取る!』ことは、
皆、
『魔の仕事である!』。
是の、
『小菩薩』は、
未だ、
『仏』の、
『身』を、
『見られるはずがない!』のに、
『魔』が、
『仏の妙形』を、
『作して来る!』と、
『菩薩』は、
『心』に、
『著して! 』、
是れは、
『好身である!』と、
『思い!』、
故に、
『道』を、
『行うのである!』。
譬えば、
未だ、
『欲を離れない!』、
『人』が、
『天女』の、
『形を見て!』、
『深心に染著する!』が、
『天の欲(色声香味触法)』を、
『受ける!』に、
『堪えられない!』が故に、
『迷悶して!』、
『死ぬ!』のと、
『同じであり!』、
是の故に、
『魔の願』は、
『満たされるのである!』。
菩薩雖得少淨心而失實相智慧。如人手捉重寶有人以少金誑之捨大價寶而取賤物。是名耗減。魔作佛身將諸比丘。示多菩薩行六波羅蜜亦如上。此中佛說因緣。色等一切法自性空。 菩薩は、少しの浄心を得と雖も、実相の智慧を失う。人の手に重宝を捉るに、有る人、少しの金を以って、之を誑すに、大価の宝を捨てて、賎しき物を取るが如し。是れを耗減と名づく。魔は、仏身を作して、諸の比丘を将い、多くの菩薩に示して、六波羅蜜を行ぜしむること、亦た上の如し。此の中に仏は因縁を説きたまわく、『色等の一切法の自性の空なればなり』、と。
『菩薩』は、
『心』を、
『少し!』、
『浄められる!』が、
而し、
『実相の智慧』を、
『失う!』。
譬えば、
『人』が、
『手』に、
『重宝』を、
『抱えている!』のに、
有る、
『人』が、
『少しばかり!』の、
『金』で、
是の、
『人』を、
『誑す!』と、
是の、
『人』は、
『大価の宝を捨てて!』、
『卑賎の物』を、
『取るようなものであり!』、
是れを、
『耗減』と、
『称する!』。
『魔』が、
『仏』の、
『身と作って!』、
『諸比丘を将い!』、
『多くの菩薩』に、
『指示して!』、
『六波羅蜜』を、
『行わせる!』のも、
亦た、
『上の譬喩』と、
『同じことである!』。
此の中に、
『仏』は、
『因縁』を、こう説かれている、――
『色』等の、
一切の、
『法』は、
『自性』が、
『空だからである!』、と。
復次眾會生疑。般若波羅蜜是無上法多有利益。云何有人憎嫉。是故佛說譬喻。如閻浮提金銀等多怨多賊。為是故出不為瓦石等生。 復た次ぎに、衆会の疑を生ずらく、『般若波羅蜜は、是れ無上の法にして、多く利益有るに、云何が有る人は憎嫉する』、と。是の故に仏は譬喩を説きたもうは、閻浮提の金銀等の如きには怨多く、賊多ければ、是の為の故に出したまい、瓦石等の為に出すにあらず。
復た次ぎに、
『衆会』中に、
『疑が生じた!』、――
『般若波羅蜜』は、
『無上の法であり!』、
『多くの利益が有る!』のに、
何故、
有る人は、
『憎悪し!』、
『嫉妒するのだろうか?』、と。
是の故に、
『仏』は、
『譬喩』を、
『説かれた!』が、
譬えば、
『閻浮提』の、
『金銀』等は、
『怨、賊』が、
『多い!』ので、
是の為の故に、
『譬喩』を、
『出されたのであり!』、
『瓦石』等の為に、
『出されたのではない!』。
  :瓦石等生は、理に依って瓦石等出に改む。
般若波羅蜜是佛法藏中妙寶微妙甚深。懈怠鈍根者所不解。是故呰毀魔。以般若波羅蜜多令眾生入涅槃故魔作怨賊。 般若波羅蜜は、是れ仏の法蔵中の妙宝なるも、微妙甚深なれば、懈怠、鈍根の者の解せざる所なり。是の故に呰毀するに、魔は般若波羅蜜を以って、多く衆生をして、涅槃に入れしむるが故に、魔は怨賊と作る。
『般若波羅蜜』は、
『仏』の、
『法蔵中の妙宝である!』が、
『微妙であり!』、
『甚だ深い!』ので、
『懈怠』や、
『鈍根の者』の、
『理解する!』ような、
『法ではない!』ので、
是の故に、
『般若波羅蜜』を、
『呰毀(そし)るのである!』が、
『魔』は、
『般若波羅蜜を用いて!』、
『衆生』を、
『多く!』、
『涅槃に入らせる(留難する)!』が故に、
『魔』は、
『怨、賊』と、
『作るのである!』。
須菩提喜受佛教述其所說。毀呰破壞般若者。世尊是狂癡之人。為魔所使不得自在。以少智故不能通達佛意。是人無有大心。不知清淨法味但知三相。貪味婬欲瞋恚。如畜生法。與般若波羅蜜生留難。 須菩提は喜んで、仏の教を受け、其の所説を述べ、般若を破壊する者を毀呰すらく、『世尊、是の狂癡の人は、魔の使う所と為りて、自在を得ざれば、少智を以っての故に、仏の意に通達する能わず。是の人には、大心有ること無く、清浄の法味を知らざるに、但だ三相を知るのみにして、貪味、婬欲、瞋恚は畜生の法の如く、般若波羅蜜に与りて、留難を生ず。
『須菩提』は、
『仏の教』を、
『喜んで!』、
『受け!』、
其の、
『所説を述べて!』、
『般若』を、
『破壊する!』者を、
『毀呰して!』、
こう言った、――
世尊!
是の、
『狂癡の人』は、
『魔』に、
『使われて!』、
『自在でなく!』、
『少智』の故に、
『仏の意』に、
『通達できないのです!』。
是の、
『人』は、
『大心が無く!』、
『清浄な!』、
『般若波羅蜜』の、
『法味』を、
『知らず!』、
但だ、
『空相、無相相、無作相という!』、
『三相』を、
『知るのみです!』。
『貪味、婬欲、瞋恚』は、
『畜生のようでありながら!』、
『般若波羅蜜に与って!』、
『留難(妨害)』を、
『生じています!』。
佛可須菩提所說。語須菩提。若菩薩摩訶薩書般若乃至正憶念魔事不起。當知是佛力。亦是十方諸佛及諸菩薩所擁護而能具足五波羅蜜乃至一切種智。亦是十方現在佛力。 仏は須菩提の所説を可として、須菩提に語りたまわく、『若し菩薩摩訶薩は、般若を書き、乃至正憶念すれば、魔事起こらず。当に知るべし、是れ仏力なり。亦た是れ十方の諸仏、及び諸菩薩の擁護する所にして、能く五波羅蜜、乃至一切種智を具足するも、亦た是れ十方の現在の仏力なり』、と。
『仏』は、
『須菩提』の、
『所説』を、
『認められ!』、
『須菩提』に、こう語られた、――
若し、
『菩薩摩訶薩』が、
『般若』を、
『書いて!』、
『乃至正憶念すれば!』、
『魔』の、
『仕事』は、
『起こらないだろう!』。
当然、こう知らねばならぬ、――
是れは、
『仏』の、
『力である!』、と。
亦た、
是の、
『菩薩摩訶薩』は、
『十方』の、
『諸仏、諸菩薩』に、
『擁護されており!』、
『五波羅蜜』、
『乃至一切種智』を、
『具足できるのである!』が、
是れも、
『十方』の、
『現在の仏』の、
『力なのである!』。
何以故。魔是欲界主世間福德智慧具足。魔是世間生死根本。色界諸天雖有邪見常入禪定故。心柔軟不能有所破壞。無色界中無形故。又心微細不能有所作。下諸天無有力勢故不能如是破壞。 何を以っての故に、魔は是れ欲界の主にして、世間の福徳、智慧を具足すれば、魔は是れ世間の生死の根本なり。色界の諸天は、邪見有りと雖も、常に禅定に入るが故に、心柔軟にして、破壊する所の有る能わず。無色界中には無形なるが故に、又心微細なれば、所作有る能わず。下の諸天は、力勢有ること無きが故に、是の如く破壊する能わず。
何故ならば、
『魔』は、
『欲界の主として!』、
『世間』の、
『福徳、智慧』を、
『具足する!』ので、
『魔』は、
『世間』の、
『生死』の、
『根本である!』が、
『色界の諸天』は、
『邪見が有ったとしても!』、
常に、
『禅定』に、
『入っている!』が故に、
『心が柔軟であり!』、
誰れかを、
『破壊するということ!』が、
『無く!』、
『無色界の諸天』は、
『形が無く!』、
『心が微細である!』が故に、
何かを、
『作すということ!』が、
『無く!』、
『下位の諸天』は、
『力勢が無い!』が故に、
是のように、
『菩薩』を、
『破壊することはできない!』。
是魔先世業因緣力。又住處因緣。他作奪取。是中賊主名為魔。是魔相。爾破壞好事。 是の魔は、先世の業の因縁の力なり。又住処の因縁は他作して、奪取すれば、是の中の賊の主を名づけて、魔と為す。是の魔の相は、爾の好事を破壊するなり。
是の、
『魔』は、
『先世』の、
『業の因縁』の、
『力であり!』、
又、
『住処の因縁(他化自在天という名の因縁)』は、
『他の作った!』、
『物』を、
『奪取する(自在に取る)からである!』。
是の中に、
『賊の主』を、
『魔』と、
『称するのである!』が、
『魔の相』は、
爾れ()が、
『好事』を、
『破壊することである!』。
初發心菩薩福德智慧薄故惜身。若十方諸佛菩薩不擁護佐助者不能成。是故諸佛菩薩諸天為破壞魔事。是菩薩或覺或不覺如賊繞城大人守護小兒不覺。 初発心の菩薩は、福徳、智慧の薄きが故に身を惜む。若し十方の諸仏、菩薩の擁護、佐助せざれば、成す能わず。是の故に諸仏、菩薩、諸天は、為に魔事を破壊す。是の菩薩は、或は覚り、或は覚らず、賊の城を繞るに、大人守護すれば、小児の覚らざるが如し。
『初発心の菩薩』は、
『福徳、智慧が薄く!』、
『身』を、
『惜む!』が故に、
若し、
『十方』の、
諸の、
『仏、菩薩』が、
『擁護して!』、
『佐助しなければ!』、
『事』を、
『成すことができない!』。
是の故に、
諸の、
『仏、菩薩、諸天』は、
是の、
『菩薩』の為に、
『魔の仕事』を、
『破壊するのである!』が、
是の、
『菩薩』は、
『覚ることもあり!』、
『覚らないこともある!』、
譬えば、
『賊』が、
『城』を、
『囲んでおり!』、
『大人』が、
『城』を、
『守護してたとしても!』、
『小児』が、
『覚らない(気がつかない)!』のと、
『同じである!』。
略說魔事如是。廣說則無量無邊。然佛意但欲令行者成般若大事是故師徒宜應和合一切惡事不應計念 略説すれば魔事は是の如し。広説すれば則ち無量無辺なり。然るに仏意は但だ行者をして、般若の大事を成さしめんと欲すれば、是の故に師徒宜しく応に和合すべくして、一切の悪事は応に計念すべからず。
『魔の仕事』は、
『略説すれば!』、
『是の通りである!』が、
『広説すれば!』、
『無量であり!』、
『無辺である!』。
然し、
『仏の意』は、
但だ、
『行者』に、
『般若の大事』を、
『成就させよう!』と、
『思うだけであり!』、
是の故に、
『師、徒』は、
宜しく、
『和合せねばならず!』、
一切の、
『悪事』を、
『計画したり!』、
『念じたりしてはならない!』。


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