巻第六十(下)
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釋挍量法施品第三十八
 龍樹菩薩造
 後秦龜茲國三藏法師鳩摩羅什奉 詔譯


【經】摩訶般若波羅蜜を他人に行わせる

【經】復次憍尸迦。閻浮提中所有眾生。皆教令得須陀洹。於汝意云何。是人得福多不。答言。甚多世尊。 復た次ぎに、憍尸迦、閻浮提中の有らゆる衆生を、皆教えて須陀洹を得しむれば、汝が意に於いて云何、是の人の得る福は多しや不や。答えて言わく、甚だ多し、世尊。
復た次ぎに、
憍尸迦!
『閻浮提』中の、
有らゆる、
『衆生を教えて!』、
皆に、
『須陀洹』を、
『得させれば!』、
お前の、
『意』には、何うなのか?――
是の、
『人の得る!』、
『福』は、
『多いだろうか?』。
『答えて!』、こう言った、――
甚だ多い!
世尊!と。
佛言。不如是善男子善女人以般若波羅蜜為他人。種種因緣演說其義開示分別令易解。如是言。善男子。汝來受是般若波羅蜜。勤讀誦說正憶念。如般若波羅蜜中所說行。何以故。是般若波羅蜜中。出生諸須陀洹。 仏の言わく、『是の善男子、善女人の般若波羅蜜を以って、他人の為めに、種種の因縁もて其の義を演説し、開示し、分別して、易(たやす)く解せしめて、是の如く、『善男子、汝来たりて、是の般若波羅蜜を受け、勤めて読誦し、説いて正憶念し、般若波羅蜜中の所説の如く行ぜよ』と言うに如かず。何を以っての故に、是の般若波羅蜜中より、諸の須陀洹を出生すればなり。
『仏』は、こう言われた、――
是の、
『善男子、善女人』が、
『他人の為に!』、
『種種の因縁を用いて!』、
『般若波羅蜜の義』を、
『演説、開示し( to speach and show )!』、
『分別し( to distinguish )!』
『解りやすくして!』、
――
善男子!
お前は、
『来て!』、
是の、
『般若波羅蜜を受け!』、
『勤めて( with effort )!』、
『読誦し、説いて!』、
『正しく、憶念し!』、
『般若波羅蜜』中に、
『説かれたように!』、
『行え!』と、
是のように、
『言うのには!』、
『及ばない!』。
何故ならば、
是の、
『般若波羅蜜』中より、
『諸の須陀洹』を、
『出生するからである!』。
憍尸迦。置閻浮提中眾生。復置四天下眾生小千世界二千中世界三千大千世界中眾生。若有人教十方如恒河沙等世界中眾生。盡教令得須陀洹。於汝意云何。是人得福多不。答言。甚多世尊。 憍尸迦、閻浮提中の衆生を置きて、復た四天下の衆生、小千世界、二千中世界、三千大千世界中の衆生を置いて、若し有る人が、十方の恒河沙に等しきが如き、世界中の衆生を教えて、尽く教えて、須陀洹を得しむれば、汝が意に於いて云何、是の人の得る福は多しや不や。答えて言わく、甚だ多し、世尊。
憍尸迦!
『閻浮提中の衆生を置き!』、
復た、
『四天下衆生も、小千世界、二千中世界、三千大千世界』中の、
『衆生』も、
『置いて!』、
若し、
有る、
『人』が、
『十方の恒河沙に等しい!』ほどの、
『世界中の衆生』を、
『皆、尽く教えて!』、
『須陀洹』を、
『得させれば!』、
お前の、
『意』には、何うなのか?――
是の、
『人の得る!』、
『福』は、
『多いだろうか?』。
『答えて!』、こう言った、――
甚だ多い!
世尊!、と。
佛言。不如是善男子善女人以般若波羅蜜為他人種種因緣演說其義開示分別令易解。如是言。善男子汝來受是般若波羅蜜。勤讀誦說正憶念。如般若波羅蜜中所說行。何以故。般若波羅蜜中。出生諸須陀洹。 仏の言わく、『是の善男子、善女人の般若波羅蜜を以って、他人の為めに、種種の因縁もて其の義を演説し、開示し、分別して、易(たやす)く解せしめて、是の如く、『善男子、汝来たりて、是の般若波羅蜜を受け、勤めて読誦し、説いて正憶念し、般若波羅蜜中の所説の如く行ぜよ』と言うに如かず。何を以っての故に、是の般若波羅蜜中より、諸の須陀洹を出生すればなり。
『仏』は、こう言われた、――
是の、
『善男子、善女人』が、
『他人の為に!』、
『種種の因縁を用いて!』、
『般若波羅蜜の義』を、
『演説、開示し!』、
『分別し!』
『解りやすくして!』、
――
善男子!
お前は、
『来て!』、
是の、
『般若波羅蜜を受け!』、
『勤めて!』、
『読誦し、説いて!』、
『正しく、憶念し!』、
『般若波羅蜜』中に、
『説かれたように!』、
『行え!』と、
是のように、
『言うのには!』、
『及ばない!』。
何故ならば、
『般若波羅蜜』中より、
『諸の須陀洹』を、
『出生するからである!』。
復次憍尸迦。若有善男子善女人。教閻浮提中人。令得斯陀含阿那含阿羅漢。於汝意云何。是人得福多不。答言。甚多世尊。 復た次ぎに、憍尸迦、若し有る善男子、善女人、閻浮提中の人を教えて、斯陀含、阿那含、阿羅漢を得しむれば、汝が意に於いて云何、是の人の得る福は多しや不や。答えて言わく、甚だ多し、世尊。
復た次ぎに、
憍尸迦!
若し、
『有る善男子、善女人』が、
『閻浮提』中の、
『人を教えて!』、
『斯陀含、阿那含、阿羅漢』を、
『得させれば!』、
お前の、
『意』には、何うなのか?――
是の、
『人の得る!』、
『福』は、
『多いだろうか?』。
『答えて!』、こう言った、――
甚だ多い!
世尊!、と。
佛言。不如是善男子善女人以般若波羅蜜為他人種種因緣演說其義開示分別令易解。如是言。汝來善男子。受是般若波羅蜜。勤讀誦說正憶念。如般若波羅蜜中所說行。何以故。般若波羅蜜中。出生諸斯陀含阿那含阿羅漢故。乃至教十方如恒河沙等世界中眾生亦如是。 仏の言わく、『是の善男子、善女人の般若波羅蜜を以って、他人の為めに、種種の因縁もて其の義を演説し、開示し、分別して、易(たやす)く解せしめて、是の如く、『汝来たれ、善男子、是の般若波羅蜜を受け、勤めて読誦し、説いて正憶念し、般若波羅蜜中の所説の如く行ぜよ』と言うに如かず。何を以っての故に、般若波羅蜜中より、諸の斯陀含、阿那含、阿羅漢を出生するが故なり。乃至十方の恒河沙に等しきが如き世界中の衆生に教うることも、亦た是の如し。
『仏』は、こう言われた、――
是の、
『善男子、善女人』が、
『他人の為に!』、
『種種の因縁を用いて!』、
『般若波羅蜜の義』を、
『演説、開示し!』、
『分別し!』
『解りやすくして!』、
――
お前は、
『来い!』。
善男子!
是の、
『般若波羅蜜を受け!』、
『勤めて!』、
『読誦し、説いて!』、
『正しく、憶念し!』、
『般若波羅蜜』中に、
『説かれたように!』、
『行え!』と、
是のように、
『言うのには!』、
『及ばない!』。
何故ならば、
是の、
『般若波羅蜜』中より、
『諸の斯陀含、阿那含、阿羅漢』を、
『出生するからである!』。
乃至、
『十方の恒河沙に等しいほど!』の、
『世界中の衆生に教える!』のも、
『是の通りである!』。
復次憍尸迦。若善男子善女人教一閻浮提中眾生。令得辟支佛道。於汝意云何。是人得福多不。答言。甚多世尊。 復た次ぎに、憍尸迦、若し善男子、善女人、一閻浮提中の衆生を教えて、辟支仏道を得しむれば、汝が意に於いて云何、是の人の得る福は多しや不や。答えて言わく、甚だ多し、世尊。
復た次ぎに、
憍尸迦!
若し、
『有る善男子、善女人』が、
『一閻浮提閻浮提』中の、
『衆生を教えて!』、
『辟支仏道』を、
『得させれば!』、
お前の、
『意』には、何うなのか?――
是の、
『人の得る!』、
『福』は、
『多いだろうか?』。
『答えて!』、こう言った、――
甚だ多い!
世尊!、と。
佛言。不如善男子善女人以般若波羅蜜為他人種種因緣演說其義開示分別令易解。如言是汝來善男子受是般若波羅蜜。勤讀誦說正憶念。如般若波羅蜜中所說行。何以故。般若波羅蜜中。出生諸辟支佛道故。四天下乃至十方如恒河沙等世界中眾生亦如是。 仏の言わく、『是の善男子、善女人の般若波羅蜜を以って、他人の為めに、種種の因縁もて其の義を演説し、開示し、分別して、易(たやす)く解せしめて、是の如く、『汝、来たれ、善男子、是の般若波羅蜜を受け、勤めて読誦し、説いて正憶念し、般若波羅蜜中の所説の如く行ぜよ』と言うに如かず。何を以っての故に、般若波羅蜜中より、諸の辟支仏道を出生するが故なり。四天下、乃至十方の恒河沙に等しきが如き世界中の衆生も、亦た是の如し。
『仏』は、こう言われた、――
是の、
『善男子、善女人』が、
『他人の為に!』、
『種種の因縁を用いて!』、
『般若波羅蜜の義』を、
『演説、開示し!』、
『分別し!』
『解りやすくして!』、
――
お前は、
『来い!』。
善男子!
是の、
『般若波羅蜜を受け!』、
『勤めて!』、
『読誦し、説いて!』、
『正しく、憶念し!』、
『般若波羅蜜』中に、
『説かれたように!』、
『行え!』と、
是のように、
『言うのには!』、
『及ばない!』。
何故ならば、
是の、
『般若波羅蜜』中より、
『諸の辟支仏道』を、
『出生するからである!』。
『四天下、乃至十方の恒河沙に等しいほど!』の、
『世界中の衆生も!』、
『是の通りである!』。
復次憍尸迦。善男子善女人。教一閻浮提中眾生。令發阿耨多羅三藐三菩提心。於汝意云何。是人得福多不。答言。甚多世尊。 復た次ぎに、憍尸迦、善男子、善女人、一閻浮提中の衆生を教えて、阿耨多羅三藐三菩提の心を発さしむれば、汝が意に於いて云何、是の人の得る福は多しや不や。答えて言わく、甚だ多し、世尊。
復た次ぎに、
憍尸迦!
『善男子、善女人』が、
『一閻浮提』中の、
『衆生を教えて!』、
『阿耨多羅三藐三菩提』の、
『心』を、
『発させれば!』、
お前の、
『意』には、何うなのか?――
是の、
『人の得る!』、
『福』は、
『多いだろうか?』。
『答えて!』、こう言った、――
甚だ多い!
世尊!、と。
佛言。不如是善男子善女人以般若波羅蜜為他人種種因緣演說其義開示分別令易解。如是言。汝當隨般若波羅蜜中學。當得一切智法。汝若得一切智法。汝便得修行般若波羅蜜增益具足。若得修行般若波羅蜜增益具足。汝當得阿耨多羅三藐三菩提。何以故。憍尸迦。般若波羅蜜中。生諸初發意菩薩摩訶薩故。乃至十方如恒河沙等世界亦如是。 仏の言わく、『是の善男子、善女人の般若波羅蜜を以って、他人の為めに、種種の因縁もて其の義を演説し、開示し、分別して、易(たやす)く解せしめて、是の如く、『汝は、当に般若波羅蜜中に随うて学ぶべく、当に一切智の法を得べし。汝、若し一切智の法を得れば、汝は便ち、般若波羅蜜を修行して、増益し、具足するを得ん。若し般若波羅蜜を修行して、増益し、具足するを得ば、汝は、当に阿耨多羅三藐三菩提を得べし』と言うに如かず。何を以っての故に、憍尸迦、般若波羅蜜中より、諸の初発意の菩薩摩訶薩を出生するが故なり。乃至十方の恒河沙に等しきが如き世界も、亦た是の如し。
『仏』は、こう言われた、――
是の、
『善男子、善女人』が、
『他人の為に!』、
『種種の因縁を用いて!』、
『般若波羅蜜の義』を、
『演説、開示し!』、
『分別し!』
『解りやすくして!』、
――
お前は、
『般若波羅蜜中に随って、学ばねばならず!』、
『一切智の法』を、
『得なければならず!』、
お前が、
若し、
『一切智の法を得れば!』、
お前は、
便ち( smoothly )、
『般若波羅蜜を修行しながら!』、
『増益し!』、
『具足することができるだろう!』。
若し、
『般若波羅蜜を修行して!』、
『増益し、具足することができれば!』、
お前は、
『阿耨多羅三藐三菩提』を、
『得ることになるだろう!』と、
是のように、
『言うのには!』、
『及ばない!』。
何故ならば、
憍尸迦!
『般若波羅蜜』中に、
『諸の初発意の菩薩摩訶薩』を、
『生じるからである!』。
乃至、
『十方の恒河沙に等しいほどの世界』も、
『是の通りである!』。
復次憍尸迦。善男子善女人。教一閻浮提中眾生。令住阿鞞跋致地。於汝意云何。是人得福多不。答言。甚多世尊。 復た次ぎに、憍尸迦、善男子、善女人、一閻浮提中の衆生を教えて、阿鞞跋致の地に住せしむれば、汝が意に於いて云何、是の人の得る福は多しや不や。答えて言わく、甚だ多し、世尊。
復た次ぎに、
憍尸迦!
『善男子、善女人』が、
『一閻浮提』中の、
『衆生を教えて!』、
『阿鞞跋致の地』に、
『住まらせれば!』、
お前の、
『意』には、何うなのか?――
是の、
『人の得る!』、
『福』は、
『多いだろうか?』。
『答えて!』、こう言った、――
甚だ多い!
世尊!、と。
佛言。不如是善男子善女人以般若波羅蜜為他人種種因緣演說其義開示分別令易解如是言。汝來善男子。受是般若波羅蜜。乃至如般若波羅蜜中所說行。汝便得一切智法。得一切智法已。乃至便得阿耨多羅三藐三菩提。何以故。般若波羅蜜中。生諸菩薩摩訶薩阿鞞跋致地故。乃至十方如恒河沙等世界亦如是。 仏の言わく、『是の善男子、善女人の般若波羅蜜を以って、他人の為めに、種種の因縁もて其の義を演説し、開示し、分別して、易(たやす)く解せしめて、是の如く、『汝来たれ、善男子、是の般若波羅蜜を受けて、乃至般若波羅蜜中の所説の如く行ぜば、汝は便ち一切智の法を得、一切智の法を得已りて、乃至便ち阿耨多羅三藐三菩提を得ん』、』と言うに如かず。何を以っての故に、般若波羅蜜中より、諸の菩薩摩訶薩の阿鞞跋致地を生ずるが故なり。乃至十方の恒河沙に等しきが如き世界も、亦た是の如し。
『仏』は、こう言われた、――
是の、
『善男子、善女人』が、
『他人の為に!』、
『種種の因縁を用いて!』、
『般若波羅蜜の義』を、
『演説、開示し!』、
『分別し!』
『解りやすくして!』、
――
お前は、
『来い!』。
善男子!
是の、
『般若波羅蜜を受け!』、
乃至、
『般若波羅蜜』中に、
『説かれたように!』、
『行えば!』、
お前は、
便ち、
『一切智の法を得ることになり!』、
『一切智の法』を、
『得たならば!』、
乃至、
便ち、
『阿耨多羅三藐三菩提』を、
『得ることになるだろう!』と、
是のように、
『言うのには!』、
『及ばない!』。
何故ならば、
『般若波羅蜜』中に、
『諸の菩薩摩訶薩の阿鞞跋致の地』を、
『生じさせるからである!』。
乃至、
『十方の恒河沙に等しいほどの世界』も、
『是の通りである!』。
復次憍尸迦。一閻浮提中眾生。發意求阿耨多羅三藐三菩提若有。善男子善女人。為是人演說般若波羅蜜。及其義解開示分別。如是言。汝來善男子。受是般若波羅蜜。乃至如般若波羅蜜中所說行。學已汝當得阿耨多羅三藐三菩提。 復た次ぎに、憍尸迦、一閻浮提中の衆生、意を発して、阿耨多羅三藐三菩提を求めんに、若しは有る善男子、善女人、是の人の為に、般若波羅蜜を演説し、乃び其の義を解いて開示し、分別して、是の如く言わん、『汝来たれ、善男子、是の般若波羅蜜を受けて、乃至般若波羅蜜中の所説の如く行じて、学び已らば、汝は、当に阿耨多羅三藐三菩提を得べし』、と。
復た次ぎに、
憍尸迦!
『一閻浮提』中の、
『衆生』が、
『意』を、
『発して!』、
『阿耨多羅三藐三菩提』を、
『求めている!』時、
若し、
有る、
『善男子、善女人』が、
是の、
『人』の為めに、
『般若波羅蜜』を、
『演説し!』、
『般若波羅蜜の義を解いて!』、
『開示し!』、
『分別して!』、
こう言ったとする、――
お前は、
『来い!』、
善男子!
是の、
『般若波羅蜜を受けて!』、
乃至、
『般若波羅蜜中に説かれたように!』、
『行え!』、
是の、
『般若波羅蜜を学んだならば!』、
お前は、
『阿耨多羅三藐三菩提』を、
『得るはずである!』、と。
復有人為一阿鞞跋致菩薩。演說般若波羅蜜及其義解開示分別。如是言。善男子汝來受是般若波羅蜜。乃至如般若波羅蜜中所說行。學已汝當得阿耨多羅三藐三菩提。是善男子所得功德甚多。乃至十方如恒河沙等世界中亦如是。 復た有る人は、一阿鞞跋致の菩薩の為めに、般若波羅蜜を演説し、及び其の義を解いて、開示し、分別して、是の如く言わく、『善男子、汝は来たりて、是の般若波羅蜜を受け、乃至般若波羅蜜の所説の如く行ぜよ。学び已れば、汝は当に阿耨多羅三藐三菩提を得べし』、と。是の善男子の所得の功徳は甚だ多し。乃至十方の恒河沙に等しきが如き世界中も、亦た是の如し。
復た、
『有る人』は、
『一阿鞞跋致の菩薩の為に!』、
『般若波羅蜜を演説して!』、
『般若波羅蜜の義を解いて!』、
『開示し!』、
『分別して!』、
こう言ったとする、――
善男子!
お前は、
『来て!』、
是の、
『般若波羅蜜を受け!』、
乃至、
『般若波羅蜜に説かれたように!』、
『行え!』、
是の、
『般若波羅蜜を学べば!』、
お前は、
『阿耨多羅三藐三菩提』を、
『得ることになるだろう!』、と。
是の、
『善男子、善女人の得る!』、
『功徳』は、
『甚だ多いのであり!』、
乃至、
『十方の恒河沙に等しいほどの世界』中の、
『阿鞞跋致の菩薩』も、
『是の通りである!』。
復次憍尸迦。若有一閻浮提中眾生。皆得阿鞞跋致阿耨多羅三藐三菩提。復有善男子善女人。以般若波羅蜜。為是人演說其義。於是中有一菩薩疾得阿耨多羅三藐三菩提。 復た次ぎに、憍尸迦、若し有る一閻浮提中の衆生は、皆、阿耨多羅三藐三菩提に阿鞞跋致なるを得、復た有る善男子、善女人は、般若波羅蜜を以って、是の人の為に、其の義を演説せんに、是の中に於いて、有る一菩薩、疾かに阿耨多羅三藐三菩提を得ん。
復た次ぎに、
憍尸迦!
若し、
『有る一閻浮提中の衆生』が、
皆、
『阿耨多羅三藐三菩提に向かって!』、
『阿鞞跋致であること!』を、
『得たとして!』、
復た、
『有る善男子、善女人』が、
是の、
『人の為に!』、
『般若波羅蜜』の、
『義』を、
『演説すれば!』、
是の中に、
『有る一菩薩』が、
『一閻浮提の衆生より!』、
『疾かに!』、
『阿耨多羅三藐三菩提』を、
『得るのである!』。
若有善男子善女人。為是菩薩演說般若波羅蜜及其義解。是人功德最多。乃至十方如恒河沙等世界亦如是。 若し有る善男子、善女人、是の菩薩の為めに般若波羅蜜を演説し、及び其の義を解けば、是の人の功徳は最も多し。乃至十方の恒河沙に等しきが如き世界も亦た是の如し。
若し、
『有る善男子、善女人』が、
是の、
『菩薩の為に!』、
『般若波羅蜜を演説して!』、
『般若波羅蜜の義』を、
『解説すれば!』、
是の、
『人の功徳』は、
『最も多く!』、
乃至、
『十方の恒河沙に等しいほどの世界』も、
『是の通りである!』。
釋提桓因白佛言。世尊。如菩薩摩訶薩。轉轉近阿耨多羅三藐三菩提者。如是應轉轉教行檀波羅蜜尸羅波羅蜜羼提波羅蜜毘梨耶波羅蜜禪波羅蜜般若波羅蜜。應教內空乃至無法有法空四念處乃至八聖道分佛十力四無所畏四無礙智十八不共法。亦應供養衣服臥具飲食湯藥隨其所須。是善男子善女人法施財施。供養是菩薩。所得功德勝於前者。何以故。世尊。是菩薩摩訶薩疾得阿耨多羅三藐三菩提故。 釈提桓因の仏に白して言さく、『世尊、菩薩摩訶薩の、転転として、阿耨多羅三藐三菩提に近づく者なるが如く、是の如く、応に転転と教えて、檀波羅蜜、尸羅波羅蜜、羼提波羅蜜、毘梨耶波羅蜜、禅波羅蜜、般若波羅蜜を行ぜしむべく、応に内空、乃至無法有法空、四念処、乃至八聖道分、仏の十力、四無所畏、四無礙智、十八不共法を教うべし。亦た応に、衣服、臥具、飲食、湯薬を、其の須むる所に随うて、供養すべし。是の善男子、善女人の法施、財施もて、是の菩薩を供養すれば、得る所の功徳は、前の者に勝らん。何を以っての故に、世尊、是の菩薩摩訶薩は、疾かに、阿耨多羅三藐三菩提を得るが故なり。
『釈提桓因』は、
『仏に白して!』、こう言った、――
世尊!
例えば、
『菩薩摩訶薩』が、
転転として( increasingly )、
『阿耨多羅三藐三菩提』に、
『近づけば!』、
是のように、
転転として、
『檀、尸羅、羼提、毘梨耶、禅、般若波羅蜜』を、
『教えて!』、
『行わせるはずであり!』、
『内空、乃至無法有法空や!』、
『四念処、乃至八聖道分や!』、
『仏の十力、四無所畏、四無礙智、十八不共法』を、
『教えるはずであり!』、
亦た、
『衣服、臥具、飲食、湯薬』を、
『所須に随って( as requied )!』、
『供養するはずです!』。
是の、
『善男子、善女人』が、
『法施、財施を用いて!』、
是の、
『菩薩を供養して、得られる!』、
『功徳』は、
『前者に勝ります!』。
何故ならば、
世尊!
是の、
『菩薩摩訶薩』は、
疾かに、
『阿耨多羅三藐三菩提』を、
『得るからです!』。
爾時慧命須菩提語釋提桓因言。善哉善哉。憍尸迦。汝為聖弟子。安慰諸菩薩摩訶薩。為阿耨多羅三藐三菩提者。以法施財施。利益法應爾。 爾の時、慧命須菩提の釈提桓因に語りて言わく、『善い哉、善い哉、憍尸迦、汝が聖弟子と為りて、諸の菩薩摩訶薩の阿耨多羅三藐三菩提を為さんとする者を安慰せり。、法施、財施を以ってする利益の法は、応に爾るべし。
爾の時、
『慧命須菩提』が、
『釈提桓因』に語って、こう言った、――
善いぞ!
善いぞ!
憍尸迦!
お前は、
『聖弟子と為り!』、
『諸菩薩摩訶薩』の、
『阿耨多羅三藐三菩提を為そうとする!』者を、
『安慰した!』。
『法施や、財施を用いる!』、
『利益の法』は、
『爾うでなければならない!』。
  参考:『大般若経巻168』:『爾時具壽善現告天帝釋言。善哉善哉。憍尸迦。汝乃能勸勵彼菩薩摩訶薩。復能攝受彼菩薩摩訶薩。亦能護助彼菩薩摩訶薩。汝今已作佛聖弟子。所應作事。一切如來諸聖弟子。為欲利樂諸有情故。方便勸勵彼菩薩摩訶薩。令速趣無上正等菩提。以法施財施。攝受護助彼菩薩摩訶薩。令速證無上正等菩提。何以故。憍尸迦。一切如來聲聞獨覺世間勝事。由彼菩薩摩訶薩故而得出生。所以者何。若無菩薩摩訶薩發阿耨多羅三藐三菩提心者。則無有能修學布施淨戒安忍精進靜慮般若波羅蜜多。亦無有能安住內空外空內外空空空大空勝義空有為空無為空畢竟空無際空散空無變異空本性空自相空共相空一切法空不可得空無性空自性空無性自性空。亦無有能安住真如法界法性不虛妄性不變異性平等性離生性法定法住實際虛空界不思議界。亦無有能安住苦聖諦集聖諦滅聖諦道聖諦。亦無有能修學四靜慮四無量四無色定。亦無有能修學八解脫八勝處九次第定十遍處。亦無有能修學四念住四正斷四神足五根五力七等覺支八聖道支。亦無有能修學空解脫門無相解脫門。無願解脫門。亦無有能修學五眼六神通。亦無有能修學佛十力四無所畏四無礙解大慈大悲大喜大捨十八佛不共法。亦無有能修學無忘失法恒住捨性。亦無有能修學一切智道相智一切相智。亦無有能修學一切陀羅尼門。一切三摩地門。』
  参考:『大般若経巻432』:『爾時具壽善現告天帝釋言。善哉善哉。憍尸迦。汝乃能勸勵彼菩薩摩訶薩。復能攝受彼菩薩摩訶薩。亦能護助彼菩薩摩訶薩。汝今已作佛聖弟子所應作事。何以故。憍尸迦。一切如來諸聖弟子。為欲利樂諸有情故。方便勸勵彼菩薩摩訶薩。令速趣無上正等菩提。以法施財施教誡教授。供養攝受勤加護助彼菩薩摩訶薩。令速證無上正等菩提。所以者何。一切如來聲聞獨覺世間勝事。由彼菩薩摩訶薩故而得出現。何以故。憍尸迦。若無菩薩摩訶薩發起無上正等覺心。則無菩薩摩訶薩能學六波羅蜜多乃至十八佛不共法。若無菩薩摩訶薩學六波羅蜜多乃至十八佛不共法。則無菩薩摩訶薩證得無上正等菩提。若無菩薩摩訶薩證得無上正等菩提。則無如來聲聞獨覺世間勝事。』
何以故。菩薩中生諸佛聖眾。若菩薩不發阿耨多羅三藐三菩提心者。是諸菩薩不能學六波羅蜜乃至十八不共法。若不學六波羅蜜乃至十八不共法者。不能得阿耨多羅三藐三菩提。若不能得阿耨多羅三藐三菩提者。則無聲聞辟支佛。 何を以っての故に、菩薩中に、諸の仏の聖衆を生ずればなり。若し菩薩にして、阿耨多羅三藐三菩提の心を発さざれば、是の諸の菩薩は、六波羅蜜、乃至十八不共法を学ぶ能わず。若し六波羅蜜、乃至十八不共法を学ばざれば、阿耨多羅三藐三菩提を得る能わず。若し阿耨多羅三藐三菩提を得る能わざれば、則ち声聞、辟支仏無し。
何故ならば、
『菩薩』中に、
『諸仏の聖衆』を、
『生じるからである!』。
若し、
『菩薩』が、
『阿耨多羅三藐三菩提の心を発さなければ!』、
是の、
『諸の菩薩』は、
『六波羅蜜、乃至十八不共法』を、
『学ぶことができず!』、
若し、
『六波羅蜜、乃至十八不共法を学ばなければ!』、
『阿耨多羅三藐三菩提』を、
『得ることができず!』、
若し、
『阿耨多羅三藐三菩提を得られなければ!』、
則ち、
『声聞も、辟支仏も!』、
『無いのである!』。
  聖衆(しょうじゅ):梵語 aarya-gaNa の訳、真理を覚った賢人集団( an association of the enlightened sages )の意。
以是故。憍尸迦。諸菩薩摩訶薩。學六波羅蜜乃至十八不共法。學六波羅蜜乃至十八不共法時。得阿耨多羅三藐三菩提。得阿耨多羅三藐三菩提故。斷地獄畜生餓鬼道。世間便有剎利大姓婆羅門大姓居士大家四天王天乃至非有想非無想天。便有檀波羅蜜尸羅羼提毘梨耶禪波羅蜜般若波羅蜜。內空乃至無法有法空。四念處乃至十八不共法出現於世。聲聞辟支佛乘佛乘。皆現於世 是を以っての故に、憍尸迦、諸の菩薩摩訶薩は、六波羅蜜、乃至十八不共法を学び、六波羅蜜、乃至十八不共法を学べば、時に阿耨多羅三藐三菩提を得、阿耨多羅三藐三菩提を得るが故に、地獄、畜生、餓鬼の道を断じ、世間には便ち刹利の大姓、婆羅門の大姓、居士の大家、四天王天、乃至非有想非無相天有り、便ち檀波羅蜜、尸羅、羼提、毘梨耶、禅波羅蜜、般若波羅蜜、内空、乃至無法有法空、四念処、乃至十八不共法有りて、世に出現し、声聞、辟支仏乗、仏乗も、皆、世に現る。
是の故に、
憍尸迦!
諸の、
『菩薩摩訶薩』は、
『六波羅蜜、乃至十八不共法を学べば!』、
『六波羅蜜、乃至十八不共法を学ぶ!』時、
『阿耨多羅三藐三菩提』を、
『得ることになり!』、
『阿耨多羅三藐三菩提を得る!』が故に、
『地獄、畜生、餓鬼道を断じて!』、
『世間』には、
便ち( easily )、
『刹利、婆羅門の大姓、居士の大家や!』、
『四天王天、乃至非有想非無想天』が、
『有り!』、
便ち、
『檀、尸羅、羼提、毘梨耶、禅、般若波羅蜜や!』、
『内空、乃至無法有法空や!』、
『四念処、乃至十八不共法』が、
『有って!』、
是れ等が、
『世間』に、
『出現するのであり!』、
『声聞乗や、辟支仏乗や、仏乗』が、
皆、
『世間』に、
『現われるのである!』。



【論】摩訶般若波羅蜜を他人に行わせる

【論】者言。教閻浮提人乃至如恒河沙等世界中人。令得聲聞辟支佛道。不如為他人演說般若波羅蜜義。 論者の言わく、閻浮提の人、乃至恒河沙に等しきが如き世界中の人を教えて、声聞、辟支仏道を得しむるも、他人の為めに般若波羅蜜の義を演説するに如かず。
論者は、こう言う、――
『閻浮提、乃至恒河沙に等しいほどの世界』中の、
『人を教えて!』、
『声聞道や、辟支仏道』を、
『得させても!』、
『他人の為に!』、
『般若波羅蜜の義を演説する!』のには、
『及ばないのである!』。
此中說因緣。是諸賢聖皆從般若波羅蜜中出故。 此の中に因縁を説かく、『是の諸の賢聖は、皆、般若波羅蜜中より出づるが故なり』、と。
此の中には、
『因縁』を、こう説いている、――
是の、
『諸の賢聖』は、
皆、
『般若波羅蜜中より!』、
『出るからである!』、と。
般若波羅蜜。是諸法實相。正遍知名為佛。小不如是大菩薩。辟支佛阿羅漢。轉不如是阿那含斯陀含須陀洹 般若波羅蜜は、是れ諸法の実相なり。正遍知を名づけて、仏と為す。小(すこ)しく、如かざるは、是れ大菩薩、辟支仏、阿羅漢なり。転(うた)た如かざるは、是れ阿那含、斯陀含、須陀洹なり。
『般若波羅蜜』とは、
『諸法の実相であり!』、
『正しく遍く知る!』者を、
『仏』と、
『称する!』。
是の、
『仏』に、
『少しく( slightly )!』、
『及ばない( be inferior )!』のは、
『大菩薩や、辟支仏や、阿羅漢である!』。
『転た( more )!』、
『及ばない!』のは、
『阿那含や、斯陀含や、須陀洹である!』。
愛念供養能知諸法實相者。是天王人王等世間福德人。是故常說般若波羅蜜。出生諸賢聖剎利大姓乃至一切諸天。 能く諸法の実相を知る者を愛念、供養すとは、是れ天王、人王等の世間の福徳の人にして、是の故に常に般若波羅蜜を説いて、諸の賢聖、刹利の大姓、乃至一切の諸天を出生す。
『諸法の実相を知る!』者を、
『愛念して、供養する!』のは、
『天王や、人王等のような!』、
『世間の福徳の人である!』。
是の故に、
常に、
『般若波羅蜜を説いて!』、
『諸の賢聖や、刹利の大姓、乃至一切の諸天』を、
『出生させるのである!』。
復次教一閻浮提乃至恒河沙等世界中人發無上道乃至阿鞞跋致不如為一阿鞞跋致人解說般若波羅蜜正義。 復た次ぎに、一閻浮提、乃至恒河沙に等しき世界中の人を教えて、無上道を発(おこ)さしめ、乃(すなわ)ち阿鞞跋致に至らしむるも、一阿鞞跋致の人の為に、般若波羅蜜の正義を解説するに如かず。
復た次ぎに、
『一閻浮提、乃至恒河沙に等しい世界』中の、
『人を教えて!』、
『無上道を発させ!』、
乃ち( at last )、
『阿鞞跋致』に、
『至らせたとしても!』、
『一阿鞞跋致の人の為に!』、
『般若波羅蜜の正義』を、
『解説する!』のには、
『及ばない!』。
問曰。上說凡夫法。二乘法不如可爾。今說教人發無上道得阿鞞跋致。是佛道事。何故不如。 問うて曰く、上に説かく、『凡夫の法と、二乗の法の如かず』とは、爾るべし。今説かく、『人に教えて、無上道を発して、阿鞞跋致を得しむ』とは、是れ仏道の事なり。何を以っての故に如かざる。
問い、
上に説かれた、――
『凡夫法や、二乗の法』が、
『仏乗/般若波羅蜜に及ばない!』のは、
『爾の通りである!』が、
今説かれた、――
『人を教えて!』、
『無上道を発させ、阿鞞跋致を得させる!』のは、
『仏道』の、
『事( the work )である!』。
是れが、
何故、
『及ばないのですか?』。
答曰。說般若正義有二種。一者生死肉身菩薩。二者出三界不生不死法性生身菩薩。是菩薩但說過阿鞞跋致 答えて曰く、般若の正義を説くに、二種有り、一には生死の肉身の菩薩、二には三界を出でて不生不死の法性生身の菩薩なり。是の菩薩を、但だ阿鞞跋致に過ぐと説く。
答え、
『般若波羅蜜の正義を説く!』者には、
『二種有り!』、
一には、
『三界中に生、死する!』、
『肉身の!』、
『菩薩であり!』。
二には、
『三界を出て、不生、不死である!』、
『法性生身の!』、
『菩薩である!』が、
是の、
『菩薩だけ!』が、
但だ、
『阿鞞跋致を過ぎる!』と、
『説くのである!』。
 
菩薩事。所謂教化眾生淨佛世界。分別一切眾生三世無量劫心行業因緣。分別諸世界起滅成敗劫數多少大慈大悲一切智等無量諸佛法。 菩薩の事とは謂わゆる衆生を教化して、仏の世界を浄め、一切の衆生の三世無量劫の心の行業の因縁を分別し、諸の世界の起滅、成敗する劫数の多少、大慈大悲、一切智等の無量の諸仏の法を分別す。
『菩薩の事( the works of Bodhisattva )』とは、
『衆生を教化して!』、
『仏世界』を、
『浄めることや!』、
『一切の衆生の!』、
『三世、無量劫の心行や、業因緣』を、
『分別することや!』、
『諸の世界の起滅や、成敗の劫数の多少や!』、
『大慈大悲、一切智等の無量の諸仏の法』を、
『分別することである!』。
為是一人說法。勝教閻浮提乃至如恒河沙世界眾生令發心。 是の一人の為めに、法を説けば、閻浮提、乃至恒河沙の如き世界の衆生を教えて、発心せしむるに勝る。
是の、
『一人の菩薩の為に!』、
『般若波羅蜜の法』を、
『説けば!』、
『閻浮提、乃至恒河沙ほどの世界』中の、
『衆生を教えて、心を発させる!』のに、
『勝るのである!』。
又復至阿鞞跋致。從阿鞞跋致已上。至佛道中間。更有一人近佛道。疾欲成佛。教是人般若波羅蜜正義者。其福最多。何以故。福田大故福德亦大。譬如供養一切十方如恒河沙等世界聖人乃至欲坐道場。菩薩不如供養一佛。 又復た阿鞞跋致に至りて、阿鞞跋致より已上、仏道に至る中間に、更に一人有りて、仏道に近づき、疾(すみや)かに成仏せんと欲すれば、是の人に、般若波羅蜜の正義を教うれば、其の福は最も多し。何を以っての故に、福田の大なるが故に、福徳も亦た大なればなり。譬えば、一切の十方の恒河沙に等しきが如き世界の聖人、乃至道場に坐せんと欲する菩薩を供養するも、一仏を供養するに如かざるが如し。
又復た、
『阿鞞跋致に至り!』、
『阿鞞跋致より、上って!』、
『仏道に至る中間に!』、
更に、
『一人が有り!』、
『仏道に近づきながら!』、
疾かに( do one's utmost )、
『仏に!』、
『成ろうとしていれば!』、
是の、
『人』に、
『般若波羅蜜』の、
『正義』を、
『教えれば!』、
是の、
『福』は、
『最も多いことになる!』。
何故ならば、
『福田が大である!』が故に、
『福徳』も、
『大だからである!』。
譬えば、
『一切の十方の恒河沙に等しいほどの世界』の、
『聖人や、乃至道場に坐ろうとする菩薩』を、
『供養しても!』、
『一仏』を、
『供養するのには!』、
『及ばないようなものである!』。
  (しつ):<名詞>疾病( ill, disease )、身体障害/病人( disability, patient )、伝染病( epidemic disease )、痛/痛苦( ache, suffering )、瑕疵( fault )。<形容詞>すばやい/快速/軽快/敏捷/迅速( quick, nimble, sharp )、急激/猛烈( rapid, sharp, violent )、悪い( evil, bad )、怒った( angry, fierce )、強大な( powerful )。<動詞>病を患う/病む( fall ill )、厭悪/憎恨する( disgust, detest, hate )、力を尽くす/努力を惜まない( do one's utmost, spare no effort )、嫉む( envy, be jealous of )、ためらう/憂慮する( hesitate )、非難/毀謗する( slander )。
譬如犯於太子得罪。過犯一切人。若供養太子得恩。勝於供養一切凡人。若犯國王得罪。過於犯太子。若供養國王。勝於供養太子 譬えば、太子を犯して、罪を得れば、一切の人を犯すに過ぎ、若し太子を供養して、恩を得れば、一切の凡人を供養するに勝り、若し国王を犯して、罪を得れば、太子を犯すに過ぎ、若し国王を供養すれば、太子を供養するに勝るが如し。
譬えば、
『太子を犯して!』、
『罪を得れば!』、
『一切の人を犯す!』に、
『過ぎ!』、
若し、
『太子を供養して!』、
『恩を得れば!』、
『一切の凡人を供養する!』に、
『勝り!』、
若し、
『国王を犯して!』、
『罪を得れば!』、
『太子を犯す!』に、
『過ぎ!』、
若し、
『国王を供養して!』、
『恩を得れば!』、
『太子を供養する!』に、
『勝るようなものである!』。
如是教化供養。疾近作佛菩薩。勝於供養教如恒河沙等阿鞞跋致菩薩功德。所以者何。福田深厚。其法能令眾生增長故。 是の如く、疾かに仏に近づいて作らんとする菩薩を教化し、供養すれば、恒河沙に等しきが如き阿鞞跋致の菩薩を供養し教うる功徳に勝る。所以は何んとなれば、福田の深く厚くして、其の法の能く衆生をして、増長せしむるが故なり。
是のように、
『疾かに!』、
『仏道に近づいて、仏に作ろうとする!』、
『菩薩』を、
『教化し、供養すれば!』、
『恒河沙に等しいほどの!』、
『阿鞞跋致の菩薩を教えて、供養する!』、
『功徳』に、
『勝る!』。
何故ならば、
『菩薩という!』、
『福田』は、
『深厚であり!』、
『仏道という!』、
『法』は、
『衆生を増長させるからである!』。
爾時帝釋知是法力大故。白佛言。菩薩轉轉近無上道。如是應教化供養功德轉多。 爾の時、帝釈の、是の法の力の大なるを知るが故に、仏に白して言さく、『菩薩は、転転として、無上道に近づけば、是の如きは、応に教化し、供養すべくして、功徳も転た多し』、と。
爾の時、
『帝釈』は、
是の、
『法』は、
『力が大である!』と、
『知った!』が故に
『仏に白して!』、こう言った、――
『菩薩』は、
『転転として( increasingly )!』、
『無上道』に、
『近づくのである!』から、
是のような、
『菩薩』は、
『教化して!』、
『供養すべきであり!』、
『教化、供養して得られる!』、
『功徳』は、
『転た多いだろう( should be increased )!』。
爾時須菩提讚帝釋言。善哉。善哉。汝能安慰勸進諸菩薩為阿耨多羅三藐三菩提者。以財法二施。 爾の時、須菩提の帝釈を讃じて言わく、『善い哉、善い哉、汝が能く、諸の菩薩を安慰し、勧進して阿耨多羅三藐三菩提を為さしむるは、財法二施を以ってすればなり』、と。
爾の時、
『須菩提』は、
『帝釈を讃じて!』、こう言った、――
善いぞ!
善いぞ!
お前が、
『諸の菩薩を安慰、勧進して!』、
『阿耨多羅三藐三菩提』を、
『為させる( to establesh )ことができる!』のは、
則ち、
『財、法の!』、
『二施を用いるからなのだ!』、と。
財施者。供養具衣食等。法施者。所謂教六波羅蜜等。 財施とは、供養の具の衣食等なり。法施とは、謂わゆる六波羅蜜等を教うるなり。
『財施』とは、
『供養の具の!』、
『飲食、衣服、臥具、湯薬である!』。
『法施』とは、
謂わゆる、
『六波羅蜜等を教えることである!』。
帝釋得道故。名為聖弟子。聖弟子法。應安慰勸進諸菩薩。是中說因緣。是諸聖眾。皆從菩薩中出。何以故。若菩薩不行六波羅蜜。不成無上道。則無須陀洹乃至辟支佛菩薩因緣故。十善道乃至無量佛法出現於世。是故三惡道斷。有剎利大姓乃至諸佛出現於世。 帝釈は道を得たるが故に名づけて、聖弟子と為す。聖弟子の法は、応に諸の菩薩を安慰し、勧進すべし。是の中に因縁を説かく、『是の諸の聖衆は、皆、菩薩中より出づ。何を以っての故に、若し菩薩、六波羅蜜を行ぜざれば、無上道を成ぜずして、則ち須陀洹、乃至辟支仏無し。菩薩の因縁の故に、十善道、乃至無量の仏法は、世に出現し、是の故に三悪道断たれ、有らゆる刹利の大姓、乃至諸仏、世に出現すればなり』、と。
『帝釈』は、
『道を得た!』が故に、
『聖弟子』と、
『称される!』が、
『聖弟子の法』は、
『諸の菩薩』を、
『安慰し、勧進することである!』。
是の中には、
『因縁』が、こう説かれている、――
是の、
『諸の聖衆』は、
皆、
『菩薩』中より、
『出るからである!』。
何故ならば、
若し、
『菩薩』が、
『六波羅蜜を行うことなく!』、
『無上道』を、
『成ずることもなければ( do not accomplish )!』、
則ち、
『須陀洹、乃至辟支仏が!』、
『無いことになり!』、
『菩薩の因縁』の故に、
『十善道、乃至無量の仏法』が、
『世間に!』、
『出現し!』、
是の故に、
『三悪道が断じて!』、
有らゆる、
『刹利の大姓、乃至諸仏』が、
『世に出現するからである!』。
是故菩薩說般若波羅蜜正義。教近佛道福德最大
大智度論卷第六十
是の故に、菩薩は、般若波羅蜜の正義を説いて、仏道に近づくことを教うれば、福徳は最大なり。
大智度論巻第六十
是の故に、
『菩薩』は、
『般若波羅蜜の正義を説いて!』、
『仏道に近づくこと!』を、
『教える!』ので、
是の、
『福徳』は、
『最大なのである!』。

大智度論巻第六十


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