【經】菩薩摩訶薩欲住六神通。當學般若波羅蜜 |
菩薩摩訶薩、六神通に住せんと欲せば、当に般若波羅蜜を学ぶべし。 |
『菩薩摩訶薩』が、
『六神通』に、
『住まろう!』と、
『思えば!』、
当然、
『般若波羅蜜』を、
『学ばねばならない!』。
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【論】問曰。如讚菩薩品中。言諸菩薩皆得五神通。今何以言欲住六神通。 |
問うて曰く、『讃菩薩品』中の如きに言わく、『諸菩薩は、皆五神通を得』、と。今は何を以ってか、『六神通に住せんと欲す』、と言う。 |
問い、
『讃菩薩品( 序品)』中などは、こう言っているが、――
諸の、
『菩薩』は、
皆、
『五神通』を、
『得ている!』、と。
今は、
何故、こう言うのですか?――
『六神通』に、
『住まりたい!』と、
『思えば!』、と。
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六神通(ろくじんづう):仏菩薩の定慧力に依りて示現する六種の無礙自在の妙用を云う。『大智度論巻18下注:六神通』参照。 |
参考:『摩訶般若波羅蜜経巻1序品第一』:『復有菩薩摩訶薩。皆得陀羅尼及諸三昧行空無相無作。已得等忍得無閡陀羅尼悉是五通言必信受無復懈怠。已捨利養名聞。說法無所悕望。度深法忍得無畏力過諸魔事。一切業障悉得解脫。巧說因緣法。從阿僧祇劫以來發大誓願。顏色和悅常先問訊所語不麤。於大眾中而無所畏。無數億劫說法巧出。』
参考:『大智度論巻5』:『【經】悉是五通。【論】如意天眼天耳他心智自識宿命。云何如意。如意有三種。能到轉變聖如意。能到有四種。一者身能飛行如鳥無礙。二者移遠令近不往而到。三者此沒彼出。四者一念能至。轉變者。大能作小小能作大一能作多多能作一。種種諸物皆能轉變。外道輩轉變極久不過七日。諸佛及弟子轉變自在無有久近。聖如意者。外六塵中不可愛不淨物。能觀令淨。可愛淨物。能觀令不淨。是聖如意法唯佛獨有。是如意通從修四如意足生。是如意足通等。色緣故。次第生。不可一時得。天眼通者。於眼。得色界四大造清淨色。是名天眼。天眼所見。自地及下地六道中眾生諸物。若近若遠若覆若細諸色無不能照。見天眼有二種。一者從報得。二者從修得。是五通中天眼從修得非報得。何以故。常憶念種種光明得故。復次有人言。是諸菩薩輩得無生法忍力故。六道中不攝。但為教化眾生故。以法身現於十方。三界中未得法身菩薩。或修得或報得。問曰。是諸菩薩功德。勝阿羅漢辟支佛。何以故。讚凡夫所共小功德天眼。不讚諸菩薩慧眼法眼佛眼。答曰有三種天。一假號天二生天三清淨天。轉輪聖王諸餘大王等。是名假號天。從四天王天乃至有頂生處。是名生天。諸佛法身菩薩辟支佛阿羅漢。是名清淨天。是清淨天修得天眼。是謂天眼通。佛法身菩薩清淨天眼。一切離欲五通凡夫所不能得。聲聞辟支佛亦所不得。所以者何。小阿羅漢小用心。見一千世界。大用心見二千世界。大阿羅漢小用心。見二千世界。大用心見三千大千世界。辟支佛亦爾。是名天眼通。云何名天耳通。於耳。得色界四大造清淨色。能聞一切聲天聲人聲三惡道聲。云何得天耳通。修得常憶念種種聲。是名天耳通。云何識宿命通。本事常憶念日月年歲至胎中。乃至過去世中。一世十世百世千萬億世。乃至大阿羅漢辟支佛。知八萬大劫。諸大菩薩及佛知無量劫。是名識宿命通。云何名知他心通。知他心若有垢若無垢。自觀心生住滅時。常憶念故得。復次觀他人喜相瞋相怖相畏相。見此相已然後知心。是為他心智初門。是五通略說竟』 |
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答曰。五通是菩薩所得。今欲住六神通是佛所得。若菩薩得六神通可如來難。 |
答えて曰く、五通は、是れ菩薩の所得なるも、今住せんと欲する六神通は、是れ仏の所得なり。若し菩薩、六神通を得れば、如来難じたもうべし。 |
答え、
『五通』は、
『菩薩の所得である!』が、
今、
『住まろうとする!』、
『六神通』は、
『仏の所得だからである!』。
若し、
『菩薩』が、
『六神通を得れば!』、
『仏』に、
『難じられるだろう!』。
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五通(ごつう):四根本静慮に依りて得する五種の神通を云う。『大智度論巻16下注:五通』参照。
可(か):<動詞・助動詞>許可/同意/承認する( approve, permit, allow )、できる/さしつかえない( can, may
)、~するに堪える/~する必要がある( be worth doing, need doing )、相称う/適合する( accord with
)、~となるはずだ/~すべきだ( should, ought to )。<形容詞>善い/好い( good )、その通りだ/正しい/確かだ/是(
correct, right )。 |
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問曰。往生品中說。菩薩住六神通至諸佛國。云何言菩薩皆得五通。 |
問うて曰く、往生品中に説かく、『菩薩は、六神通に住して、諸仏国に至る』、と。云何が、『菩薩は、皆五通を得』、と言える。 |
問い、
『往生品』には、こう説かれているのに、――
『菩薩』は、
『六神通に住まって!』、
『諸の仏国』に、
『至る!』、と。
何故、こう言うのですか?――
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参考:『摩訶般若波羅蜜経巻2往生品第四』:『復次舍利弗。有菩薩摩訶薩得六神通。不生欲界色界無色界。從一佛國至一佛國。供養恭敬尊重讚歎諸佛。』 |
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答曰。第六漏盡神通有二種。一者漏習俱盡。二者漏盡而習不盡。習不盡故言皆得五通。漏盡故言住六神通。 |
答えて曰く、第六漏神通には、二種有りて、一には漏と習と倶に尽き、二には漏尽くるも、習は尽きず。習尽きざるが故に、『皆、五通を得』と言い、漏尽くるが故に、『六神通に住す』、と言う。 |
答え、
『第六の漏神通』には、
『二種有り!』、
一には、
『漏と、習と!』が、
『倶に( all )!』、
『尽き!』、
二には、
『漏だけが尽きて!』、
『習』は、
『尽きていない!』。
『習』が、
『尽きていない!』が故に、こう言い、――
皆が、
『五通を得ている!』、と。
『漏』が、
『尽きている!』が故に、こう言う、――
『六神通』に、
『住まる!』、と。
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漏(ろ):諸の煩悩の意。『大智度論巻20下注:漏』参照。
習(じゅう):煩悩の滅して後未だ除こらざる残気を云う。『大智度論巻11上注:習気』参照。 |
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問曰。若菩薩漏盡。云何復生云何受生。一切受生皆由愛相續故有。譬如米雖得良田時澤終不能生。諸聖人愛糠已脫故。雖有有漏業生因緣不應得生。 |
問うて曰く、若し、菩薩にして漏尽くれば、云何が復生し、云何が受生する。一切の受生は、皆、愛の相続するに由るが故に有り。譬えば米の良き田、時、沢を得と雖も、終に生ずる能わざるが如く、諸聖人の愛の糠は已に脱するが故に、有漏業の生の因縁有りと雖も、当に生を得べからず。 |
問い、
若し、
『菩薩の漏』が、
『尽きていれば!』、
何故、
『復生したり( to resurrect )!』、
『受生する( to be born )のですか?』。
一切の、
『受生』は、
皆、
『愛の相続』を、
『経由する!』が故に、
『有り!』、
譬えば、
『米( hulled rice )』が、
『良い田畑、時沢( timely rain and dew )を得ても!』、
終に、
『籾( unhulled rice )』を、
『生じさせることができないように!』、
諸の、
『聖人』は、
『愛という!』、
『糠』を、
『脱している!』が故に、
『有漏の業という!』、
『生の因縁が有っても!』、
『生』を、
『得るはずがないのである!』。
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復生(ふくしょう):梵語 ut(√pad), utpatti の訳、興起する/誕生する/誕生/生産( to arise, bone, birth,
production )の義、復活する/復活( to resurrect, resurrection )の意。
受生(じゅしょう):梵語 upa(√pad), upapatti の訳、或る状態に入ること( to enter into any state )、生起/出現/産出(
happening, occurring, becoming visible, appearing, taking place, production
)の義、生まれる/誕生( to be born, birth )の意。
愛(あい):十二縁起中の愛支、即ち食愛、婬愛、及び資具愛等にして、未だ四方に追求して労倦を辞せざるに至らざる位の意。又は愛結の意、境に染著する貪煩悩を云う。『大智度論巻17下注:愛』参照。
生(しょう):十二縁起中の生支。過去の業力に由りて正しく当来の果を結するを云う。『大智度論巻21上注:生』参照。
有(う):十二縁起中の有支。異熟の果体、及び能く之を引く業等を云う。『大智度論巻7上注:有』参照。
米(まい):こめ。穀の皮を去りたる者( hulled rice )。
時沢(じたく):時にかなった雨( timely rain and dew )。沢はうるおうこと。時潤 。 |
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答曰。先已說菩薩入法位。住阿鞞跋致地。末後肉身盡得法性生身。雖斷諸煩惱。有煩惱習因緣故。受法性生身非三界生也。 |
答えて曰く、先に已に、『菩薩は、法位に入りて、阿鞞跋致に住すれば、末後の肉身尽きて、法性生身を得』、と説けり。諸の煩悩を断ずと雖も、煩悩の習の因縁有るが故に法性生身を受くるは、三界の生に非ざるなり。 |
答え、
先に、こう説いたが、――
『菩薩』は、
『法位に入って!』、
『阿鞞跋致地に住すれば!』、
『末後の肉身の尽きた!』時に、
『法性生身』を、
『得る!』、と。
諸の、
『煩悩を断じていても!』、
『煩悩の習という!』、
『因縁が有る!』が故に、
『法性生身』を、
『受けるのであり!』、
是れは、
『三界』の、
『生ではない!』。
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法性生身(ほっしょうしょうじん):法性を証する者の受くる身。『大智度論巻16下注:法性生身』参照。 |
参考:『大智度論巻27』:『菩薩得無生法忍。煩惱已盡習氣未除故因習氣受。及法性生身能自在化生。有大慈悲為眾生故。亦為滿本願故。還來世間。具足成就餘殘佛法故。十地滿坐道場。以無礙解脫力故。得一切智一切種智斷煩惱習。』 |
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問曰。阿羅漢煩惱已盡習亦未盡。何以不生。 |
問うて曰く、阿羅漢は煩悩已に尽くるも、習は亦た未だ尽きざるに、何を以ってか、生ぜざる。 |
問い、
『阿羅漢』は、
已に、
『煩悩』は、
『尽きている!』が、
亦た、
『習』は、
未だ、
『尽きていない!』のに、
何故、
『生じないのですか?』。
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答曰。阿羅漢無大慈悲。無本誓願度一切眾生。又以實際作證已離生死故 |
答えて曰く、阿羅漢には、大慈悲無く、本、一切の衆生を度せんと誓願すること無く、又実際を以って、証を作し已れば、生死を離るるが故なり。 |
答え、
『阿羅漢』は、
『大慈悲が無く!』、
本、
『一切の衆生を度そう!』と、
『誓願する!』ことも、
『無い!』が故に、
又、
『実際を用いて!』、
『証を作してしまえば!』、
『生死』を、
『離れるからである!』。
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実際(じっさい):阿羅漢の住すべき涅槃を云う。『大智度論巻6下注:実際、真如』参照。 |
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復次先已答有二種漏盡。此中不說菩薩得漏盡通。自言欲得六神通者。當學般若波羅蜜。六神通義如後品中佛所說。上讚菩薩品。亦已說菩薩五神通義。 |
復た次ぎに、先に已に、『二種の漏尽有り』、と答うるに、此の中には、『菩薩は、漏神通を得』、と説かずして、自ら、『六神通を得んと欲すれば、当に般若波羅蜜を学ぶべし』、と言える六神通の義は、後の品中の仏の所説の如し。上の『讃菩薩品』にも、亦た已に菩薩の五神通の義を説けり。 |
復た次ぎに、
先に已に、
『二種の漏尽が有る!』と、
『答えた!』が、
此の中には、
『菩薩』は、
『漏神通を得る!』とは、
『説かずに!』、
自ら( in addition )、
『六神通を得ようとすれば!』、
『般若波羅蜜を学ばねばならぬ!』と、
『言われた!』のは、
『六神通の義』は、
『後の品』中に、
『仏が説かれた通りだからであり!』、
上の、
『讃菩薩品』にも、
已に、
『菩薩の五神通の義』は、
『説かれている!』。
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自(じ):<名詞>[本義]鼻( nose )。開始/起源( beginning, origin )。<代名詞>自己/自身/自らの( self, oneself, one's own )。<介詞>由り/従り( from, since )、於いて/在りて( at, in )。<副詞>おのずから/自然に/当然( naturally )、本より/本来/初より( originally, at first )、相変らず/以前から( remain the same, as before )、自ら/自分で/親しく( personally, in person )、他に/別に/更に( besides, in addition )。<連詞>「非と連用する:自非」若し/仮に( if )、たとえ~であっても( even if, even though, granted that )、却って/而れども( but )、因って/由って( because )。<動詞>用いる/使用する( use, employ )、是れ( be, really )。 |
参考:『摩訶般若波羅蜜経巻2往生品第四』:『如是舍利弗。菩薩摩訶薩行般若波羅蜜時。得天眼神通智證。亦見十方如恒河沙等世界中眾生生死。乃至生天上。四神通亦如是。是菩薩摩訶薩漏盡神通。雖得漏盡神通。不墮聲聞辟支佛地。乃至阿耨多羅三藐三菩提。亦不依異法。亦不著是漏盡神通。漏盡神通事及己身皆不可得。自性空故。自性離故。自性無生故。不作是念。我得漏盡神通。除為薩婆若心。』 |
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問曰。神通有何次第。 |
問うて曰く、神通には、何なる次第か有る。 |
問い、
『神通』には、
何のような、
『次第( order )』が、
『有るのですか?』。
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次第(しだい):順序/次序( order, sequence )、次第に/次々と/相次いで( one after another )。 |
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答曰。菩薩離五欲得諸禪有慈悲故。為眾生取神通。現諸希有奇特之事。令眾生心清淨。何以故。若無希有事。不能令多眾生得度。 |
答えて曰く、菩薩は、五欲を離れて、諸禅を得るも、慈悲有るが故に、衆生の為に神通を取り、諸の希有、奇特の事を現して、衆生の心をして清浄ならしむ。何を以っての故に、若し希有の事無くんば、多くの衆生をして、度を得しむる能わざればなり。 |
答え、
『菩薩』は、
『五欲を離れて!』、
『諸禅』を、
『得ても!』、
『慈悲有る!』が故に、
『衆生』の為に、
『神通を取って!』、
諸の、
『希有、奇特の事』を、
『現し!』、
『衆生』の、
『心』を、
『清浄にさせる!』。
何故ならば、
若し、
『希有の事が無ければ!』、
『多くの衆生』に、
『度』を、
『得させられないからである!』。
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菩薩摩訶薩。作是念已繫心身中虛空。滅麤重色相。常取空輕相。發大欲精進心。智慧籌量心力能舉身。未籌量已。自知心力大能舉其身譬如學趠。常壞色麤重相。常修輕空相。是時便能飛。 |
菩薩摩訶薩は、是の念を作し已りて、心を身中の虚空に繋け、麁重なる色相を滅して、常に空の軽相を取り、大欲の精進の心を発し、智慧もて信力を籌量して、能く身を挙げ、未だ籌量し已らざるに、自ら心力の大なること、能く其の身を挙ぐるを知る。譬えば趠を学ぶに、常に色の麁重の相を壊りて、常に軽空の相を修すれば、是の時便ち能く飛ぶが如し。 |
『菩薩摩訶薩』は、
是のような、
『事』を、
『念じる!』と、 『心』を、
『身中の虚空に繋け!』、
『麁重なる!』、
『色相』を、
『滅して!』、
常に、
『空の軽相』を、
『取り!』、
『大欲の精進心を発して!』、
『智慧』で、
『心力を籌量すれば!』、
『身』を、
『挙げることができる!』。
未だ、
『心力を籌量できなければ!』、
自ら、
『心力が大きければ!』、
其の、
『身を挙げられる!』と、
『知るからである!』。
譬えば、
『跳躍を学ぶ!』時、
常に、
『色という!』、
『麁重の相』を、
『壊って!』、
常に、
『軽い!』、
『虚空の相』を、
『修めれば!』、
是の時、
便ち( immediately )、
『飛ぶことができるようなものである!』。
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趠(ちょう):とぶ。跳。こえる。超。跳躍。 |
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二者亦能變化諸物。令地作水水作地風作火火作風。如是諸大皆令轉易。令金作瓦礫瓦礫作金。如是諸物各能令化。變地為水相。常修念水令多不復憶念地相。是時地相如念即作水。如是等諸物皆能變化。 |
二には、亦た能く諸物を変化すれば、地をして水に作らしめ、水をして地に作らしめ、風をして火に作らしめ、火をして風に作らしむ。是の如き諸大をして、皆転ぜしむること易く、金をして瓦礫に作し、瓦礫をして金に作さしめ、是の如く諸物をして、各各能く化せしめ、地を変じて水相を為さんに、常に修めて、水を念じて多からしめ、復た地相を憶念せざれば、是の時地相は、念ずるが如く即ち水に作る。是れ等の如く、諸物をして、皆能く変化せしむ。 |
二には、
亦た、
『諸の物』を、
『変化させることができ!』、
『地を、水に作したり!』、
『水を、地に作したり!』、
『風を、火に作したり!』、
『火を、風に作したりして!』、
是のように、
『諸の大』を、
皆、
『転じさせる!』ことは、
『容易であり!』、
『金を、瓦礫に作したり!』、
『瓦礫を、金に作したり!』、
是のように、
『諸の物』を、
各、
『変化させることができる!』。
例えば、
『地を変じて!』、
『水相にする!』のは、
常に、
『水を念じる!』ことを、
『修めて!』、
『多くさせ!』、
復た、
『地相』を、
『憶念しなければ!』、
是の時、
『地相』は、
『念じたように!』、
即ち、
『水』と、
『作るのであり!』、
是れ等のように、
『諸の物』を、
皆、
『変化させることができる!』。
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転易(てんやく):かわる。うつりかわる。
修念(しゅねん):身を修め、心を慎んで念ずること。 |
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問曰。若爾與一切入有何等異。 |
問うて曰く、若し爾らば、一切入と何等の異か有る。 |
問い、
若し、爾うならば、
『一切入』と、
何のような、
『異』が、
『有るのですか?』。
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一切入(いっさいにゅう):青黄赤白地水火風空識の十法の一一は一切処に遍在すると観る定。『大智度論巻11上注:十徧処』参照。 |
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答曰。一切入是神通初道。先已一切入背捨勝處柔伏其心。然後易入神通。 |
答えて曰く、一切入は、是れ神通の初道にして、先に已に一切入、背捨、勝処もて、其の心を柔伏すれば、然る後には、神通に入ること易し。 |
答え、
『一切入』は、
『神通』の、
『初道であり!』、
先に、
已に、
『一切入や、八背捨や、八勝処を用いて!』、
其の、
『心』を、
『柔伏すれば!』、
その後、
『神通に入る!』ことは、
『容易である!』。
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背捨(はいしゃ):色貪等の心を棄背する八種の定力。『大智度論巻16下注:八解脱』参照。
勝処(しょうじょ):欲界色処を観じて貪を対治する八種の定。『大智度論巻16下注:八勝処』参照。
柔伏(にゅうぶく):屈伏して柔軟ならしめること。 |
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復次一切入中。一身自見地變為水餘人不見。神通則不然。自見實是水他人亦見實水。 |
復た次ぎに、一切入中は、一身にして、自ら、地変じて水と為るを見るも、余人は見ず。神通は則ち然らずして、自ら実に是れ水なるを見れば、他人も亦た実の水を見る。 |
復た次ぎに、
『一切入』中は、
『一身であり!』、
自ら、
『地が変じて水と為る!』のを、
『見る!』が、
余の、
『人』が、
『見ることはない!』。
『神通』は、、
則ち、
『そうでなく!』、
自ら、
『実に水である!』と、
『見れば!』、
他の人も、
『実の水』を、
『見るのである!』。
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問曰。一切入亦是大定。何以不能令是實水己身他人皆見。 |
問うて曰く、一切入も亦た是れ大定なり。何を以ってか、是の実の水をして、己身と、他人と皆、見しむ能わず。 |
問い、
『一切入』は、
『大定であるのに!』、
何故、
是の、
『実の水』を、
『己の身にも!』、
『他の人にも!』、
皆に、
『見させられないのですか?』。
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答曰。一切入觀處廣。但能令一切是水相。而不能令實是水。神通不能遍一切。而能令地轉為水便是實水。以是故二定力各別。 |
答えて曰く、一切入は観る処広けれど、但だ能く一切をして、是れ水相ならしむるも、実に是れ水ならしむる能わず。神通は、一切を遍く能わざるも、能く地を転じて、水と為らしむれば、便ち是れ実の水なり。是を以っての故に、二定の力は、各別なり。 |
答え、
『一切入』は、
『観る処』が、
『広い!』が、
但だ、
『一切の!』、
『相』を、
『水にするだけで!』、
是れを、
『実の!』、
『水にすることはできない!』。
『神通』は、
『一切を!』、
『遍く!』、
『変化することはできない!』が、
『地』を、
『水』に、
『為らせれば!』、
是れは、
便ち( just )、
『実の水である!』。
是の故に、
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問曰。二定變化事為實為虛。若實云何石作金地作水。若虛云何聖人而行不實。 |
問うて曰く、二定の変化の事は、実と為すや、虚と為すや。若し実なれば、云何が石を金に作し、地を水に作す。若し虚ならば、聖人にして、而も不実を行ぜんや。 |
問い、
『二定が変化した!』、
『事( works )』は、
『実ですか?』、
『虚ですか?』。
若し、
『実ならば!』、
何のように、
『石を、金に作したり!』、
『地を、水に作すのですか?』。
若し、
『虚ならば!』、
何故、
『聖人』が、
『不実を行うのですか?』。
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答曰。皆實聖人無虛也。三毒已拔故。以一切法各各無定相故。可轉地或作水相。如酥膠蠟是地類。得火則消為水則成濕相。水得寒則結成冰而為堅相。石汁作金金敗為銅或還為石。眾生亦如是。惡可為善善可為惡。以是故知一切法無定相故。用神通力變化實而不誑。若本各各定相則不可變 |
答えて曰く、皆実にして、聖人には虚無し。三毒を已に抜きたるが故に、一切の法には、各各定相無きを以っての故に、地を転じて、或は水相を作すべし。酥、膠、蝋は、是れ地の類にして、火を得れば則ち消えて水と為り、則ち湿相を成ず。水は寒を得れば、則ち氷を結成して、堅相を為す。石汁は、金と作るも、金を敗るれば、銅と為り、或は還って石と為るが如し。衆生も亦た是の如く、悪は善と為るべく、善は悪と為るべし。是を以っての故に、一切法には定相無きを知り、故に神通力を用いて、変化すること、実にして、誑らず。若し本より、各各定相ならば、則ち変ずべからず。 |
答え、
皆、
『実であり!』、
『聖人』には、
『虚( falseness )が無く!』、
『三毒』が、
『抜けている!』が故に、
『一切の法』は、
『地を転じて!』、
譬えば、
『酥( cheese )、膠( glue )、蝋( wax )』が、
『地の類であり!』、
『火を得れば!』、
『消滅して!』、
『水と為り!』、
則ち、
『湿相』を、
『呈することになる!』が、
『水』が、
『寒を得れば!』、
『結成して!』、
『氷と為り!』、
則ち、
『堅相』を、
『呈することになり!』、
『石汁』は、
『金と作る!』が、
『金が腐敗すれば!』、
『銅と為り!』、
或は、
『石』に、
『還るように!』、
『衆生』も、
是のように、
『悪』は、
『善』に、
『為ることができ!』、
『善』は、
『悪』に、
『為ることができる!』。
是の故に、
『一切法』には、
『定相が無い!』と、
『知る!』が故に、
『神通力を用いて!』、
『変化させたとしても!』、
『実であり!』、
『欺瞞ではない!』。
若し、
本より、
各各、
『定相だとすれば!』、
則ち、
『変化するはずがない!』。
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酥(そ):乳を煮て凝れる者を酥と云う。チーズの如し。
膠(きょう):にかわ。動物の皮革を煮て作り、物を粘著するに用いるもの。
蝋(ろう):蜜滓。蜜蜂の作す所にして、蜂蜜を取りたる後の残滓を云う。蜜蝋。
消(しょう):滅なり、長の対。大より小となり、有より無となるなり。消化、消滅と言うが如し。故に氷雪の溶解するをも亦た消と謂う。とける。溶解。
石汁(しゃくじゅう):珍宝の名。蓋し能く金を作すべき液体の如し。「大智度論巻16」に、「我れ当に大方便を作して財を給足し、其れをして充満せしむべし。便ち大海に入りて諸の異宝を求め、山に登り危を履みて以って妙薬を求め、深石窟に入りて諸の異物石汁珍宝を求め、以って衆生に給す」と云い、「同論巻47」に、「譬えば、石汁一斤の、能く千斤の銅を変じて、金と為すが如し。」と云える是れなり。
敗(はい):やぶれる。物の毀壊することを云う。腐敗と言えるが如し。
為(い):事に手を加えてしあげること。作。作為。行。物に手を加えてつくりあげること。造。造作。物事の本の姿を変ずること。変。変異。
誑(こう):いつわる。あざむく。欺。まどわす。たぶらかす。惑。だます。騙。 |
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三者諸賢聖神通。於六塵中隨意自在。見好能生厭想。見醜能生樂想。亦能離好醜想行捨心。是名三種神通。 |
三には、諸賢聖の神通は、六塵中に於いて、随意に自在にして、好を見て、能く厭想を生じ、醜を見て、能く楽想を生じ、亦た能く好醜の想を離れて、捨心を行ず。是れを三種の神通と名づく。 |
三には、
諸の、
『賢聖の神通』は、
『六塵』中に於いて、
『随意であり!』、
『自在である!』ので、
是の故に、
『好( beautiful )を見て!』、
『厭想』を、
『生じることができ!』、
『醜( not beautiful )を見て!』、
『楽想』を、
『生じることができる!』し、
亦た、
『好、醜の想を離れて!』、
『捨心』を、
『行うこともできる!』。
是れを、
『三種の神通』と、
『称する!』。
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此自在神通唯佛具足。菩薩得是神通。遊諸佛國於諸異國語言不同。及在遠微細眾生不聞故。求天耳通常憶念種種多眾大聲取相修行。常修習故。耳得色界四大造清淨色。得已便得遠聞。於天人音聲麤細遠近通達無礙。 |
此の自在の神通は、唯だ仏のみ具足す。菩薩は、是の神通を得て、諸仏の国に遊ぶも、諸の異国に於いては、語言不同にして、及び遠くに在れば、微細なる衆生は聞えざるが故に、天耳通を求め、常に種種多衆の大声を憶念し、相を取りて修行すれば、常に修習するが故に、耳に色界の四大造の清浄なる色を得、得已りて便ち遠く聞くを得、天人の音声に於いて、麁細、遠近通達無礙なり。 |
此の、
『自在の神通』は、
『菩薩』は、
是の、
『神通を得て!』、
諸の、
『仏国に遊ぶ!』が、
諸の、
『異国の語言』は、
『同じでないし!』、
及び、
『遠くに在れば!』、
『微細な衆生の声』が、
『聞えない!』ので、
是の故に、
『天耳通を求め!』、
常に、
『種種多衆の大声を憶念し!』、
其の、
『相を取りながら!』、
『修行し!』、
常に、
『取相』を、
『修習する!』が故に、
『色界四大造の清浄の色である!』、
『耳』を、
『得て!』、
是の、
『耳を得た!』時には、
便ち、
『遠くまで!』、
『聞くことができる!』ので、
『天、人』の、
『麁、細、遠、近の声』に於いて、
『通達、無礙である!』。
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問曰。如禪經中說。先得天眼見眾生而不聞其聲故。求天耳通既得天眼天耳。見知眾生身形音聲。而不解語言種種憂喜苦樂之辭故。求辭無礙智。但知其辭而不知其心故。求知他心智。知其心已。未知本所從來故。求宿命通。既知所來欲治其心病故。求漏盡通。得具足五通已。不能變化故所度未廣。不能降化邪見大福德人。是故求如意神通。應如是次第。何以故。先求如意神通。 |
問うて曰く、『禅経』中に説けるが如きは、『先に天眼を得て、衆生を見るも、其の声を聞かざるが故に、天耳通を求め、既に天眼、天耳を得て、衆生の身形、音声を見知するも、語言と、種種の憂喜、苦楽の辞を解せざるが故に、辞無礙智を求め、但だ其の辞を知るも、其の心を知らざるが故に、知他心智を求め、其の心を知り已るも、未だ本の従来せる所を知らざるが故に、宿命通を求め、既に来たる所を知りて、其の心病を治せんと欲するが故に、漏尽通を求め、五通を具足するを得已るも、変化すること能わざるが故に、度する所の未だ広からずして、邪見、大福徳の人を降化する能わざれば、是の故に如意神通を求む』、と。応に是の如く次第すべし。何を以っての故にか、先に如意神通を求むるや。 |
問い、
『禅経など!』には、こう説かれている、――
先に、
『天眼を得て!』、
『衆生を見る!』が、
其の、
『声が聞えない!』が故に、
『天耳通』を、
『求める!』。
既に、
『天眼、天耳を得て!』、
『衆生の身形、音声を見知した!』が、
其の、
『語言や、種種の憂喜、苦楽の辞( words )を解しない!』が故に、
『辞無礙智』を、
『求め!』、
但だ、
其の、
『辞を知るだけでは!』、
其の、
『心を知らない!』が故に、
『知他心智』を、
『求め!』、
其の、
『心を知った!』が、
未だ、
『来た所を知らない!』が故に、
『宿命通』を、
『求める!』。
既に、
『来た所を知った!』が、
其の、
『心病を治そうとする!』が故に、
『漏神通』を
『求め!』、
既に、
『五通を具足した!』が、
『変化することができない!』が故に、
未だ、
『広く度することができず!』、
『邪見、大福徳の人』を、
『降伏、教化することができない!』ので、
是の故に、
『如意神通』を、
『求める!』、と。
当然、
是のような、
『次第でなくてはならない!』のに、
何故、
『先に!』、
『如意神通』を、
『求めたのですか?』。
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降化(ごうけ):降伏と教化。屈伏さえて教えこむ。
禅経(ぜんきょう):不明。蓋し坐禅三昧経には非ざるが如し。
辞(じ):◯梵語 nirukti の訳、或る語の語源的解釈( etymological interpretation of a word )、或る語の修辞的解釈、又は語源(
an artificial explanation or derivation of a word )の義。◯梵語 vyaJjana の訳、比喩的表現(
figurative expression )の義、修辞的演説( rhetorical speaking )の意。 |
参考:『阿毘曇毘婆沙論巻53』:『爾時菩薩。以福德力故。端正而坐。是時惡魔。將三十六億魔軍。皆作種種惡貌形色。詣菩提樹下。爾時菩薩語惡魔言。汝作一無限施會。如汝所作無限施會。我復倍汝百千萬數。魔語菩薩。我之施會。以汝為證。誰證汝耶。爾時菩薩。即以相好莊嚴之手。按地出大音聲。魔軍聞聲。尋即破壞。是時菩薩。以業報天眼。見一由旬色。不聞其聲。便起天耳通。一由旬外。雖聞其聲。不見其色。次起天眼通。雖見色聞聲。不知其心為何所念。次起他心智通。知帝釋眷屬心生歡喜。魔王眷屬。心生愁惱。爾時菩薩。復作是念。惡魔為以何事。發是惡心。皆因五欲具。貪著五欲。皆由煩惱。以是事故。便起漏盡通。故作是說。欲次第降魔故。初中後夜。起通明現在前』 |
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答曰。眾生麤者多細者少。是故先以如意神通。如意神通能兼麤細度人多故是以先說。 |
答えて曰く、衆生は麁なる者多く、細なる者少なし。是の故に先に如意神通を以ってす。如意神通の能く麁、細を兼ねて人を度すること多きが故なり。是を以って先に説けり。 |
答え、
『衆生』には、
『麁( 粗野:coarse )な者が多く!』、
『細( 精緻:fine )な者』は、
『少ない!』ので、
是の故に、
『如意神通』を、
『先にするのである!』。
何故ならば、
『如意神通』は、
『麁、細を兼ねる!』ので、
『人を度す!』ことが、
『多いからである!』。
是の故に、
『先に!』、
『説くのである!』。
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復次諸神通。得法異數法異。得法者多先求天眼以易得故。行者用日月星宿珠火。取是等光明相。常懃精進善修習故晝夜無異。若上若下若前若後。等一明徹無所罣礙。是時初得天眼神通。餘次第得如先說。 |
復た次ぎに、諸の神通は、得法を異にし、数法を異にす。得法とは、多く先に天眼を求むるは、得易きを以っての故なり。行者は、日月、星宿、珠火を用いて、是れ等の光明の相を取り、常に精進を懃め、善く修習するが故に昼夜に異無し。若しは上、若しは下、若しは前、若しは後等一に明徹して罣礙する所無し。是の時、初めて天眼神通を得、余は次第に得ること、先に説けるが如し。 |
復た次ぎに、
諸の、
『神通』は、
『法を得るのと、法を数えるのと!』では、
其の、
『次第( order )』が、
『異なる!』。
『得法の次第』とは、
『天眼』を、
『先に、求める!』のは、
『天眼』が、
『得易いからである!』。
『行者』は、
『日月、星宿、珠火を用いて!』、
是れ等の、
『光明の相を取りながら!』、
常に、
『精進に懃めて!』、
『善く!』、
『修習すれば!』、
是の故に、
『昼、夜を異にせず!』、
『上下、左右、前後等しく!』、
『明徹であり!』、
『罣礙される( be obstructed )こと!』が、
『無くなり!』、
是の時、
『初めて!』、
『天眼神通』を、
『得るのであり!』。
『次第に!』、
『余の神通』を、
『得るのである!』が、
是れは、
『先に!』、
『説いた通りである!』。
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復次佛如所自得。為人說次第。佛初夜分得一通一明。所謂如意通宿命明。中夜分得天耳通天眼明。後夜分得知他心智通漏盡明。求明用功重故在後說。通明次第得如四沙門果。大者在後。 |
復た次ぎに、仏は、自ら得たもう所の如く、人の為に次第に説きたまえり。仏は初夜の分に、一通、一明を得たまえり。謂わゆる如意通、宿命明なり。中夜の分に、天耳通、天眼明を得、後夜の分に、知他心智通、漏尽明を得たまえり。明を求むるは、用功の重きが故なること、後に在りて説かん。通と、明とは次第に得て、四沙門果の如く、大なる者は、後に在り。 |
復た次ぎに、
『仏』は、
自ら、
『得られた通りに!』、
『人』の為に、
『次第に( in order )!』、
『説かれたのである!』。
『仏』は、
『初夜の分』に、
『一通、一明』、
謂わゆる、
『如意通、宿命明』を、
『得られ!』、
『中夜の分』に、
『天耳通、天眼明』を、
『得られ!』、
『後夜の分』に、
『知他心智通、漏尽明』を、
『得られたのである!』が、
『通でなく!』、
『明を求められた!』のは、
其の、
『用功( 梵語 vyaapaara (performance) )』が、
『重いからである!』が、
是れは、
『後に!』、
『説く通りである!』。
『通と、明と!』は、
『次第に得る!』が、
譬えば、
『四沙門果のように!』、
『大きな者』が、
『後に在る!』。
|
宿命明(しゅくみょうみょう):三明の一。自他の宿命を明らかに了知して通達無礙なる智明を云う。『大智度論巻16下注:三明』参照。
天眼明(てんげんみょう):三明の一。衆生の邪法、正法の因縁に由りて悪趣、善趣に生ずる等を具に見、悉く了知して通達無礙なる智明を云う。『大智度論巻16下注:三明』参照。
漏尽明(ろじんみょう):三明の一。如実に四諦の理を証知して、後有を受けざる等の事を悉く了知して通達無礙なるを云う。『大智度論巻16下注:三明』参照。 |
参考:『大智度論巻2』:『問曰。神通明有何等異。答曰。直知過去宿命事。是名通。知過去因緣行業。是名明。直知死此生彼。是名通。知行因緣際會不失。是名明。直盡結使不知更生不生。是名通。若知漏盡更不復生。是名明。是三明大阿羅漢大辟支佛所得。』 |
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問曰。若天眼易得故在前。菩薩何以不先得天眼。 |
問うて曰く、若し天眼の得易きが故に、前に在らば、菩薩は、何を以ってか、先に天眼を得ざる。 |
問い、
若し、
『天眼は得易い!』が故に、
『前に!』、
『在るならば!』。
『菩薩』は、
何故、
『先に!』、
『天眼を得ないのですか?』。
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答曰。菩薩於諸法皆易無難。餘人鈍根故有難有易。 |
答えて曰く、菩薩は、諸法に於いては、皆易くして、難きこと無し。余人は鈍根なるが故に、難き有り、易き有り。 |
答え、
『菩薩』は、
『諸の法』は、
皆、
『容易に得られて!』、
『得難い!』者は、
『無い!』が、
『余人』は、
『鈍根である!』が故に、
『得難い者と、得易い者と!』が、
『有る!』。
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復次初夜時魔王來欲與佛戰。菩薩以神通力種種變化令魔兵器皆為瓔珞。降魔已續念神通。欲令具足。生心即入便得。具足神通降魔已。自念一身云何得大力。便求宿命明自知世世積福德力故。中夜時魔即還去寂寞無聲。慈愍一切故。念魔眾聲。生天耳神通及天眼明。用是天耳聞十方五道眾生苦樂聲。聞聲已欲見其形。而以障蔽不見故求天眼後夜時既見眾生形。欲知其心故求他心智知眾生心。皆欲離苦求樂。是故菩薩求漏盡神通。於諸樂中漏盡最勝。令眾生得之。 |
復た次ぎに、初夜の時に魔王来たりて、仏と戦わんと欲す。菩薩は、神通力を以って、種種に変化し、魔の兵器をして皆、瓔珞と為らしめ、魔を降し已りて、続いて神通を念じ、具足ならしめんと欲すれば、心を生じて、即ち入り、便ち得たまい、神通を具足して、魔を降し已り、自ら、『一身にして、云何が大力を得ん』、と念じて、便ち宿命明を求めたもう、自ら、世世に、福徳の力を積めるを知るが故なり。中夜の時に、魔は、即ち還って去れば、寂漠として声無きに、一切を慈愍するが故に、魔衆の声を念じて、天耳神通、及び天眼明を生じ、是の天耳を用いて、十方の五道の衆生の苦楽の声を聞き、声を聞き已りて、其の形を見んと欲するも、障(さわり)に蔽(おお)われて見えざるを以っての故に、天眼を求め、後夜の時に、既に衆生の形を見て、其の心を知らんと欲するが故に、他心智を求めて、衆生の心の皆苦を離れて楽を求むるを知り、是の故に菩薩は、漏尽神通を求めて、諸の楽中に於いて、漏尽最勝なれば、衆生をして、之を得しめたまえり。 |
復た次ぎに、
『菩薩』は、
『初夜の時』に、
『魔王が来て!』、
『仏』と、
『戦おうとした!』が、
『菩薩は神通力を用いて!』、
『魔を降してしまう!』と、
『続いて!』、
『神通が具足するように!』と、
『念じ!』、
『心を生じて!』、
即ち( suddenly )、
『神通に!』、
『入り( to become to understand )!』、
便ち( immediately )、
『神通を!』、
『得られた( had obtained )!』。
『神通を具足して、魔を降してしまう!』と、
自ら、
是の、
『一身』中に、
何うすれば、
『大力を得られるのだろうか?』と、
『念じて!』、
便ち、
『宿命明』を、
『求められた!』。
自ら、
『世世に積んだ!』、
『福徳の力』を、
『知ろうとされたのである!』。
『中夜の時』には、
『魔が、還り去ってしまった!』ので、
『寂漠として!』、
『魔の声』も、
『無くなっていたが!』、
『一切の衆生を慈愍する!』が故に、
『魔衆の声を念じて( to remind )!』、
『天耳神通と、天眼明と!』を、
『生じ!』、
是の、
『天耳を用いて!』、
『十方の五道の衆生』の、
『苦、楽の声』を、
『聞き!』、
『聞いてしまう!』と、
『障礙に蔽われて!』、
『見えない!』が故に、
『天眼』を、
『求められた!』。
『後夜の時』には、
既に、
『衆生の形を見られた!』ので、
其の、
『心を知ろうとされた!』が故に、
『他心智』を、
『求められた!』。
『衆生の心』が、
皆、
『苦を離れて、楽を求めようとする!』のを、
『知り!』、
是の故に、
『菩薩』は、
『漏尽神通を求め!』、
諸の、
『楽』中には、
『漏尽』が、
『最勝である!』が故に、
『衆生』に、
『漏尽』を、
『得させられたのである!』。
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問曰。菩薩已得無生法忍。世世常得果報神通。今何以自疑既見眾生而不知其心。 |
問うて曰く、菩薩は、已に無生法忍を得て、世世に常に果報の神通を得たるに、今何を以ってか、自ら疑い、既に衆生を見て、而も其の心を知らざる。 |
問い、
『菩薩』は、
已に、
『無生法忍』を、
『得ていられる!』ので、
世世に、
常に、
『果報の神通』を、
『得られたはずである!』。
今は、
何故、
自らの、
『力』を、
『疑い!』、
既に、
『衆生』を、
『見ていながら!』、
其の、
『心』を、
『知らないのですか?』。
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答曰。有二種菩薩。一者法性生身菩薩。二者為度眾生故。方便受人法。身生淨飯王家。出四城門。問老病死人。是菩薩坐樹王下具六神通。 |
答えて曰く、二種の菩薩有り、一には法性生身の菩薩、二には衆生を度せんが為の故に、方便して人法を受け、身を浄飯王の家に生じ、四城門を出でて、老病死の人に問う。是の菩薩は、樹王の下に坐して、六神通を具う。 |
答え、
『菩薩』には、
『二種有り!』、
一には、
『法性生身の菩薩』、
二には、
『衆生を度す!』為の故に、
『方便して!』、
『人法を受け!』、
『身』を、
『浄飯王の家』に、
『生まれさせる!』と、
『四門より出城して!』、
『老、病、死の人』を、
『問うた!』。
是の、
『菩薩』は、
『樹王の下に坐して!』、
『六神通』を、
『具足したのである!』。
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出四城門(しゅつしじょうもん):釈尊太子たりし時、王城の四方の城門より出づるに老、病、死の苦を見て深く人生の無常を感じ、出家の因縁となしたる故事を云う。『大智度論巻28上注:四門出遊』参照。
四門出遊(しもんしゅつゆう):又四門遊観とも称す。仏陀が太子の時、東西南北の門を出遊し出家を決意した故事をいう。即ち、釈尊が悉達太子でおられた時、王城から遊びに出た際、まず東門を出ると淨居天が出家を決意させるために老人となって、世の無常を観じさせる。次に南門を出ると病人となって、西門を出ると死人となって、最後に北門を出ると沙門となって現われたので、遂に堅く出家することを決意する。「太子瑞応本起経巻上」には、東門を病人、南門を老人、西門を死人、北門を沙門に配置している。しかるに「buddhacarita III,V.」、「仏所行讃巻1」、「仏本行経巻2」、「長阿含経巻1大本経」、「衆許摩訶帝経巻4」等には遊観について記しているが、門そのものの記載はない。「mahaavastu vol.II,177ff.」、「中阿含巻26、36」には宮中において無常を感じて出家したことを記している。解説:四門出遊の話はパーリ文の「四ニカーヤ」には現われないが、「DN.II,mahaapadaana-s.(前述の大本経)」では毘婆尸(vipassin)菩薩が出家する以前に王子であった時、車で宮殿から遊園に行く途中、老人、病人、死人を見て深刻に内省し、御者と語る話がある。また、パーリ文では仏伝に取り入れられたものとして「vimaanavatthu」が最も古い。後世、四門出遊の伝説が定型化したことを物語っている。文献:「五分律巻15」、「根本説一切有部毘奈耶破僧事巻3」、「過去現在因果経巻2」、「仏本行集経巻15」、「修行本起経巻下」、「mahaavastu,II,140ff.」、「普曜経巻3出観品」、「方広大荘厳経巻5感夢品」、「異出菩薩本起経」等に出づ。<(望
補遺I) |
参考:『普曜経巻3四出観品』:『佛告比丘。時諸天人勸發菩薩。父王白淨。寐夢睹見菩薩出家。樂於寂然諸天圍繞。又見剃頭身著袈裟。時從夢覺。即遣人問。太子在宮不。侍者答曰。太子在耳。時白淨王入太子宮。今觀太子必當出家。所以者何。如我於今所見變應。心自念言。太子將無欲行遊觀。當敕四衢嚴治道路。學調伎樂普令清淨。卻後七日太子當出。使道平正莫令不淨。勿使見非諸不可意。即時受教皆當如法。嚴治已竟懸繒幡蓋。兵眾圍繞導從前後。爾時菩薩出東城門。菩薩威聖之所建立。於時諸天化作老人。頭白齒落目冥耳聾。短氣呻吟執杖僂步住於中路。菩薩知之故復發問。此為何人。頭白齒落羸瘦乃爾。御者答言。是名老人。諸貌已盡形變色衰。飲食不化氣力虛微。命在西垂餘壽無幾。故曰老矣。菩薩即曰。是則世法而有此難。一切眾生皆有斯患。人命速駛猶山水流宿夜逝疾難可再還。老亦然矣。不亦苦哉。一心專精思惟正義。御者答曰。不獨此人遇苦患也。天下皆爾。俗之常法。聖尊父母親里知識。皆致此老。咸同是業。菩薩時曰。不解句義愚人自大。不覺老至自沒塵埃。便可迴還。用是五樂不益於事。自睹如幻空中之電。還入宮中思惟經典愍念十方。宜以法藥必療治之。菩薩後日復欲出遊。王敕外吏嚴治道路。去諸不淨。菩薩駕乘出南城門。復於中路見疾病人。水腹身羸臥于道側。氣息張口命將欲絕。菩薩知之故復發問。告御者曰。此為何人。御者曰。此名病人。已至死地命在須臾。骨節欲解餘壽如髮。菩薩即曰。萬物無常有身皆苦。生皆有此何得免之。吾身不久亦當然矣。不亦痛乎。有身有苦無身乃樂。即還入宮。復於異日報王遊觀。王敕外吏嚴治道路。太子乘駕出西城門。見一死人。著于床上。家室圍繞舉之出城。涕淚悲哭椎胸呼嗟。頭面塵垢淚下如雨。何為棄我獨逝而去。菩薩知之而復問曰。此為何人。御者答曰。此是死人。人生有死猶春有冬。身沒神逝宗家別離。人物一統無生不終。菩薩答曰。夫死痛矣。精神懅矣。生當有此老病死苦。莫不熱中迫而就之。不亦苦乎。吾見死者。形壞體化而神不滅。是故聖人以身為患。而愚者寶之至死無厭。吾不能復以死受生。往來五道勞我精神。便迴車還。思度十方。復於異日。報王出遊。出北城門。見一沙門。寂靜安徐淨修梵行。諸根寂定目不妄視。威儀禮節不失道法。衣服整齊手執法器。菩薩問之。此為何人。御者答曰。此名比丘。以棄情欲。心意寂然猶如太山。不可傾動。難污如空。屈伸低仰不失儀則。心如蓮華悉無所著。亦如明珠六通清徹。無一蔽礙。慈愍一切欲度十方。菩薩即言。善哉。唯是為快。是吾所樂。心意寂靜自愍度彼。善業快利成甘露果。』 |
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復次菩薩神通先有而未具足。今於三夜所得。是佛神通行人法故。自疑無咎。 |
復た次ぎに、菩薩の神通は、先に有るも、未だ具足せず。今、三夜に於ける所得は、是れ仏の神通なり。人法を行ずるが故に、自ら疑うも、咎無し。 |
復た次ぎに、
『菩薩の神通』は、
先に、
今の、
『三夜に得た!』、
『神通』は、
『仏の神通である!』が、
『人法を行う!』が故に、
自ら、
『神通の力を疑ったとしても!』、
『咎』は、
『無い!』。
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問曰。六神通次第。常初天眼後漏盡通。亦有不爾時耶。 |
問うて曰く、六神通の次第は、常に天眼を初として、漏尽通を後とするも、亦た爾らざる時有りや。 |
問い、
『六神通の次第』は、
常に、
『初が天眼であり!』、
『後が!』、
『漏尽通です!』が、
亦た、
『爾うでない!』、
『時も!』、
『有るのですか?』。
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答曰。多先天眼後漏盡智。或時隨所好修。或先天耳或先神足。 |
答えて曰く、多くは天眼を先にし、漏尽智を後にするも、或は時に好む所に随って修すれば、或は天耳を先にし、或は神足を先にす。 |
答え、
『多く!』は、
『天眼が先であり!』、
『漏尽智』は、
『後である!』が、
或は、
時に、
『好みのままに!』、
『修める!』ので、
或は、
『天耳』が、
『先であり!』、
或は、
『神足』が、
『先である!』。
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有人言。初禪天耳易得。有覺觀四心故。二禪天眼易得。眼識無故心攝不散故。三禪如意通易得。身受快樂故。四禪諸通皆易得。一切安隱處故。宿命等三神通義。如十力中說 |
有る人の言わく、『初禅には天耳得易し、覚観の四心有るが故なり。二禅は天眼得易し、眼識無きが故に、心摂して散ぜざるが故なり。三禅は如意通得易し、身に快楽を受くるが故なり。四禅は諸通皆得易し、一切の安隠処なるが故なり』、と。宿命等の三神通の義は、十力中に説けるが如し。 |
有る人は、こう言っている、――
『初禅』は、
『天耳が得易い!』、
『覚、観、喜、楽の四心』が、
『有るからである!』。
『二禅( 喜、楽の二心有り)』は、
『天眼が得易い!』、
『眼識が無い!』が故に、
『心』が、
『摂して( to gather together )!』、
『散乱しないからである!』。
『三禅』は、
『如意通が得易い!』、
『身』に、
『快楽を受けるからである!』。
『四禅』は、
『諸通が皆得易い!』、
『一切が安隠な!』、
『処だからである!』、と。
『宿命等の三神通の義』は、
『十力』中に、
『説いた通りである!』。
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四禅(しぜん):覚観喜楽の有無に関する四種の禅定。『大智度論巻7下注:四禅』参照。
摂(しょう):含む/包含する( contain )、梵語 saMgraha, samavasaraNa, anugraha, parigraha
の訳、保持する/持つ/含める/[或るグループ/組に]属する/集める/寄せ集める/結びつける( To hold, have, include;
to be included (within a certain group or set, etc.); collect, gather together,
combine )、受け取る/受け容れる( taking, accepting, receiving )の義。取締る/指図する/専心する/包含する(
To control, direct, attend to, emblace )、所属する/属する/一部となる/傘下に入る( To relate
to, belong to, be part of, fall under, be affiliated with )の意。 |
参考:『大智度論巻24』:『佛有十力者。是處不是處如實知一力也。知眾生過去未來現在諸業諸受。知造業處知因緣知報二力也。知諸禪解脫三昧定垢淨分別相如實知三力也。知他眾生諸根上下相如實知四力也。知他眾生種種欲五力也。知世間種種無數性六力也。知一切道至處相七力也。知種種宿命。共相共因緣一世二世乃至百千世劫初劫盡。我在彼眾生中如是姓名。飲食苦樂壽命長短。彼中死是間生是間死還生是間。此間生名姓飲食苦樂。壽命長短亦如是八力也。佛天眼淨過諸天人眼見眾生死時生時端正醜陋。若大若小若墮惡道若墮善道。如是業因緣受報。是諸眾生惡身業成就。惡口業成就。惡意業成就。謗毀聖人邪見邪見業成就。是因緣故身壞死時入惡道。生地獄中。是諸眾生善身業成就。善口業成就。善意業成就不謗聖人正見正見業成就。是因緣故身壞死時入善道生天上九力也。佛諸漏盡故。無漏心解脫。無漏智慧解脫。現在法中自識知我生已盡持戒已作後有盡。如實知十力也。』 |
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