身心精進。不廢息故。問曰。精進是心數法。經何以名身精進。 |
身心は精進して、廃息せざるが故にとは、問うて曰く、精進は是れ心数法なり。経には何を以ってか、身の精進と名づくる。 |
『身』と、
『心』は、
『精進して!』、
『休息することもなく!』、
『廃退することもない!』が故に、とは――
問い、
『精進』は、
『心数法です!』が、
『経』には、
何故、
『身の精進』と、
『説くのですか?』。
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心数法(しんじゅほう):また心所法、或は心所有法とも称す。『大智度論巻14上注:心所有法、巻24下注:心所法』参照。 |
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答曰。精進雖是心數法。從身力出故名為身精進。 |
答えて曰く、精進は、是れ心数法なりと雖も、身力より出づるが故に名づけて、身の精進と為す。 |
答え、
『精進』は、
『心数法である!』が、
『身の力』より、
『出る!』が故に、
是れを、
『身の精進』と、
『称する!』。
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如受是心數法。而有五識相應受。是名身受有意識相應受是為心受。精進亦如是。身力懃修若手布施。口誦法言。若講說法。如是等名為身口精進。 |
受は是れ心数法にして、而も五識相応の受有りて、是れを身受と名づけ、意識相応の受有りて、是れを心受と為すが如し。精進も亦た是の如く、身力は懃修して、若しは手にて布施し、口にて法言を誦し、若しは法を講説す。是の如き等を名づけて、身口の精進と為す。 |
例えば、
『受』は、
『精進』も、
是のように、
『身の力』が、
『懃修して!』、
『手』で、
『布施したり!』、
『口』で、
『法の言葉』を、
『誦したり!』、
或は、
『法』を、
『講説する!』ので、
是れ等を、
『身』と、
『口』の、
『精進』と、
『称する!』。
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復次行布施持戒。是為身精進。忍辱禪定智慧是名心精進。 |
復た次ぎに、布施、持戒を行う、是れを身の精進と為し、忍辱、禅定、智慧は、是れを心の精進と名づく。 |
復た次ぎに、
『布施』や、
『持戒』を、
『行う!』ことを、
『身の精進』と、
『呼び!』、
『忍辱』や、
『禅定』や、
『智慧』を、
『行う!』ことを、
『心の精進』と、
『呼ぶ!』。
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復次外事懃修是為身精進。內自專精是為心精進。麤精進名為身。細精進名為心。為福德精進名為身。為智慧精進是為心。若菩薩初發心乃至得無生忍。於是中間名身精進。生身未捨故得無生忍。捨肉身得法性身。乃至成佛。是為心精進。 |
復た次ぎに、外事の懃修は、是れを身の精進と為し、内に自ら専精するは、是れを心の精進と為す。麁の精進を名づけて身と為し、細の精進を名づけて心と為す。福徳の為の精進を名づけて身と為し、智慧の為の精進は是れを心と為す。若し菩薩の初発心より、乃至無生忍を得るまでの、是の中間に於けるを、身の精進と名づけ、生身を未だ捨てざるが故に、無生忍を得て、肉身を捨てて法性身を得、乃至成仏まで、是れを心の精進と為す。 |
復た次ぎに、
『外の事』を、
『懃修する!』のを、
『身の精進』と、
『呼び!』、
『内の事』を、
『自ら!』、
『専精する!』のを、
『心の精進』と、
『呼ぶ!』。
『麁( rough )』の、
『細( fine )』の、
『福徳』の為の、
『智慧』の為の、
『菩薩』が、
『初発心』より、
乃至、
『無生忍』を、
『得る!』までの、
是の、
『菩薩』が、
『生身』を、
未だ、
『捨てない!』が故に、
『無生忍』を、
『得て!』、
『肉身( 生身)』を、
『捨てた!』が故に、
『法性身』を、
『得た!』時より、
乃至、
『仏』と、
『成る!』まで、
是れを、
『心の精進』と、
『称する!』。
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復次菩薩初發心時功德未足故。種三福因緣。布施持戒善心漸得福報。以施眾生。眾生未足。更廣修福發大悲心。 |
復た次ぎに、菩薩は初発心の時には、功徳未だ足らざるが故に、三の福因縁たる、布施、持戒、善心を種え、漸く福報を得て、以って衆生に施し、衆生未だ足らざれば、更に広く福を修めて、大悲心を発すらく、―― |
復た次ぎに、
『菩薩』は、
『初発心の時』は、
『功徳』が、
未だ、
『不足である!』が故に、
『三種』の、
『福徳』の、
『因縁である!』、
『布施』と、
『持戒』と、
『善心( 忍辱)』とを、
『種え!』、
やがて、
『福報』を、
『得て!』、
それを、
『衆生』に、
『施す!』が、
『衆生』には、
未だ、
『不足である!』が故に、
更に、
『福の因縁』を、
『広く!』、
『修め!』、
『大悲心』を、こう発す、――
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一切眾生不足於財多作眾惡。我以少財不能滿足其意。其意不滿不能懃受教誨。不受道教不能得脫生老病死。我當作大方便給足於財令其充滿。便入大海求諸異寶。登山履危以求妙藥。入深石窟求諸異物石汁珍寶以給眾生。或作薩陀婆冒涉嶮道。劫賊師子虎狼惡獸。為布施眾生故。懃求財寶不以為難。 |
『一切の衆生は、財に不足して、多く衆悪を作す。我れは少財を以ってするも、其の意を満足せしむる能わず、其の意満たずんば、懃めて教誨を受くる能わず。道教を受けずんば、生老病死を脱るるを得る能わず。我れは当に、大方便を作して、財を給足し、其れをして充満せしむべし』、と。便ち大海に入りて、諸の異宝を求め、山に登り、危うきを履(ふ)みて、以って妙薬を求め、深き石窟に入りて、諸の異物、石汁、珍宝を求め、以って衆生に給し、或は薩陀婆と作りて、嶮道、劫賊、師子、虎狼、悪獣を冒渉し、衆生に布施せんが為の故に、財宝を懃求するも、以って難しと為さず。 |
――
一切の、
多くの、
わたしが、
『少し!』の、
『財』を、
『施しても!』、
其の、
『意』を、
『満足させることはできない!』。
若し、
其の、
『意』が、
『満足しなければ!』、
努力して、
『教誨』を、
『受けることもできないだろう!』。
若し、
『道』の、
『教え!』を、
『受けなければ!』、
『生老病死』を、
『脱れることもできまい!』。
わたしは、
『大方便』を、
『作して!』、
『財』を、
『給足し!』、
其れに、
『財』を、
『満ちさせなければならない!』、と。
そこで、
『大海』に、
『入って!』、
諸の、
『異宝(珍宝)』を、
『求め!』、
『山』に、
『登り!』、
『危( 尾根)』を、
『深い石窟』に、
『入って!』、
諸の、
『異物( 珍物)』や、
『石汁』、
『珍宝』を、
『求めて!』、
『衆生』に、
『給施し!』、
或は、
『薩陀婆( 大導師)』と、
『作って!』、
『劫賊』、
『師子』、
『虎狼』、
『悪獣』の、
『危険』を、
『冒(おか)して!』、
『困難』の、
『道』を、
『渉る!』。
『衆生』に、
『布施する!』、
『為である!』が故に、
『精力的に!』、
『財宝』を、
『求めて!』も、
それが、
『困難だ!』とは、
『思わないのである!』。
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異宝(いほう):珍しい宝。
異物(いもつ):珍しい物。
危(き):尾根( ridge )、艱難困苦( difficulties and hardships )。
石汁(しゃくじゅう):変じて金を作す液体の如し。即ち、「大智度論巻28」に、「石汁は金と作り、金は敗れて銅と為り、或はまた石と為る」と云えるこれなり。
薩陀婆(さだば):梵語 saartha- vaaha、商主、賈客主、或は導師と訳す。隊商の主将。
冒渉(もうしょう):危険を冒して海を渉る。
懃求(ごんぐ):精力的に求める。 |
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藥草咒術能令銅變為金。如是種種變化致諸財物。及四方無主物以給眾生。是為身精進。得五神通能自變化作諸美味。或至天上取自然食。如是等名為心精進。 |
薬草、呪術は、能く銅を変じて、金と為らしむ。是の如き種種の変化もて、諸の財物、及び四方の無主物を致し、以って衆生に給する、是れを身の精進と為し、五神通を得て、能く自ら変化し、諸の美味と作り、或は天上に至りて、自然の食を取る、是の如き等を名づけて、心の精進と為す。 |
『薬草』や、
『呪術』は、
『銅』を、
『変じて!』、
『金』に、
『為らせられる!』が、
是のように、
種種に、
『変化させて!』、
諸の、
『財物』や、
四方の、
『無主物』を、
『招き寄せ!』、
それを、
『衆生』に、
『給施する!』ならば、
是れを、
『身の精進』と、
『称し!』、
『五神通』を、
『得て!』、
『自ら!』、
『身』を、
『変化させて!』、
諸の、
『美味』と、
『作ったり!』、
或は、
『天上』に、
『至って!』、
『自然』の、
『食』を、
『取る!』ならば、
是れを、
『心の精進』と、
『称する!』。
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能集財寶以用布施。是為身精進。以是布施之德。得至佛道。是為心精進。 |
能く財法を集めて、以って布施に用う、是れを身の精進と為し、是の布施の徳を以って、仏道に至るを得る、是れを心の精進と為す。 |
若し、
『財宝』を、
『集めることができて!』、
それを、
『布施』に、
『用いる!』ならば、
是れを、
『身の精進』と、
『呼び!』、
是の、
『布施』の、
『徳』を、
『用いて!』、
『仏』の、
『道』を、
『極めることができれば!』、
是れを、
『心の精進』と、
『称する!』。
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生身菩薩行六波羅蜜。是為身精進。法性身菩薩行六波羅蜜。是為心精進(未得法身心則隨身。已得法身則心不隨身。身不累心也) |
生身の菩薩の六波羅蜜を行ずる、是れを身の精進と為し、法性身の菩薩の六波羅蜜を行ずる、是れを心の精進と為す(未だ法身を得ざれば、心は則ち身に随い、已に法身を得れば、則ち心は身に随わずして、身は心を累ねざるなり)。 |
『生身』の、
『菩薩』が、
『六波羅蜜』を、
『行う!』、
是れを、
『身の精進』と、
『呼び!』、
『法性身』の、
『菩薩』が、
『六波羅蜜』を、
『行う!』、
是れを、
『心の精進』と、
『呼ぶ!』。
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復次一切法中皆能成辦不惜身命。是為身精進。求一切禪定智慧時心不懈惓。是為心精進。 |
復た次ぎに、一切の法中に、皆能く成辦するまで、身命を惜まざる、是れを身の精進と為し、一切の禅定、智慧を求むる時、心懈惓せざる、是れを心の精進と為す。 |
復た次ぎに、
一切の、
『法』中に、
皆、
『成就する!』まで、
『身命』を、
『惜まない!』、
是れを、
『身の精進』と、
『称し!』、
一切の、
『禅定』と、
『智慧』とを、
『求める!』時、
『心』が、
『懈惓しない!』、
是れを、
『心の精進』と、
『称する!』。
|
成辦(じょうべん):成し遂げる/成就( To achieve; accomplishment )、梵語 niSpatti の訳、前に進む、又は外へ出て行く/纏まる、又は成立する/完成/達成(
going forth or out, being brought about or effected, completion, consummation
)の義。
懈惓(けけん):疲れうんでおこたる。 |
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復次身精進者。受諸懃苦終不懈廢。如說。波羅柰國梵摩達王。遊獵於野林中見二鹿群。群各有主。一主有五百群鹿。一主身七寶色。是釋迦牟尼菩薩。一主是提婆達多。 |
復た次ぎに、身の精進とは、諸の懃苦を受けて、終に懈廃せざるなり。説の如し、波羅奈国の梵摩達王は、野林中に遊猟して、二の鹿群を見る。群には各主有り、一主に五百の群鹿有り。一主の身の七宝色なるは、是れ釈迦牟尼菩薩、一主は、是れ提婆達多なり。 |
復た次ぎに、
『身の精進』とは、
諸の、
『懃苦( 辛苦)』を、
『受けて!』も、
『懈廃しないことである!』。
例えば、こう説かれている、――
『波羅奈国』の、
『群』には、
各、
『主』が、
『有り!』、
『一主』は、
『身』が、
『七宝』の、
『色であり!』、
是れは、
『釈迦牟尼菩薩であった!』、
『一主』は、
|
懃苦(ごんく):苦しむ/悩む( to suffer )、梵語 duHkha の訳、容易ならざること/苦痛/悲嘆/心配事/困難( uneasiness,
pain, sorrow, trouble, difficulty )の義、或いは梵語 parikleza の訳、辛苦/苦痛/悩み/疲労( hardship,
pain, trouble, fatigue )の義。苦しませられる/悩まされる( is afflicted )、努力する( to exert
oneself, endeavor )、世俗の辛苦に逆らって励む( strive against the suffering and pain
of the world )、堪え難い努力/苦行/禁欲行為( difficult exertion; penance; austerities
)等の意、又勤苦にも作る。
波羅㮈(はらな):また波羅奈斯に作る。迦尸国の都城。『大智度論巻3(上)注:十六大国』参照。
梵摩達(ぼんまだつ):また梵摩達哆に作る。即ち過去世加赦国波羅㮈城の王。『大智度論巻16(下)注:長寿王』参照。
長寿王(ちょうじゅおう):長寿は巴梨語 diighiiti の訳。又は diighiti、或は diighati。又長生とも訳す。印度太古の王なり。「中阿含巻17長寿王本起経」に、王は過去世に出現して拘沙羅kosalaa国王となり、嘗て加赦kaasi国王梵摩達哆
brahmadatta と戦いて敗績し、四兵の軍を失う。時に王は闘を以って最悪となし、闘って剋たば敵も亦当に剋つべく、害せば敵も亦当に害すべきを思い、仍りて報復の念を絶ち、一妻と共に其の都城を逃れて加赦国波羅㮈baaraaNasii城に至り、尋いで村邑の間に在りて広く受学し、長寿博士となりて再び城中に入り、習う所の妙音伎を演じて梵志国師の為に寵せらる。時に妻懐妊し、四兵の鹵簿を見、且つ磨刀の水を得て飲まんことを欲したるにより、乃ち梵志国師に請うて其の所願を果たし、後遂に一子を生み、名づけて長生
diighaayu (或は diighaavu )と号す。長生長じて聡明猛毅に、亦伎藝を善くす。時に梵摩達哆は長寿王が都城波羅㮈に在るを知り、之を縛して斬殺せんとす、王は時に長生に諭して曰わく、宜しく忍ぶべし、怨結を起すことなかれ、当に慈を行うべしと。遂に自ら死に就きたるを以って、長生は母と共に逃れて村邑に入り、復た広く受学して長生博士となり、尋いで再び波羅㮈城に入り、妙音伎を以って梵摩達哆に寵せられ、一切の委付を受け、又後身の刀剣を授与せらる。後一日梵摩達哆は長生を従えて出猟し、疲極まりて其の膝上に眠る。時に長生は父王の久怨を報ぜんと欲し、利刀を以って達哆の頸上に擬したるも、忽ち昔時の遺言を憶いて之を止む。達哆亦夢に此の事を見、驚き覚めて之を語るに、長生為に自ら具さに前縁を説く。ここに於いて達哆は深く非行を恥じ、旧領を還付して長生を其の主となし、女を与えて之に娶し、本国に還らしめたりと云えり。「増一阿含経巻16」、「四分律巻43拘睒弥揵度」、「出曜経巻16忿怒品」等にも亦同一説話を出し、闘訟を避けて、忍辱を行ずべき事例となせり。又前引「長寿王本起経」並びに「六度集経巻1」には、当時の長寿王を釈尊、長生を阿難、梵摩達哆を調達なりとし、「コーサンビー・ジャータカ
kosambii- jaataka 」並びに「ディーギティコーサラ・ジャータカ diighitikosala- jaataka 」には、長寿王を浄飯王、其の妻を摩耶夫人、長生を釈尊なりとせり。又「仏本行集経巻5賢劫王種品」に甘蔗種の王統を列ぬる中、初祖善生の第一夫人の子に長寿ありとし、端正憙ぶべきも王となるに堪えずと云い、「五分律巻15受戒法」には之を善生と名づけ、其の他、「雑阿含経巻37」に樹提長者の孫子に長寿童子ありと云えるも、此等は皆今の王と別人なるべし。又「増一阿含経巻1」、「五分律巻24羯磨法」等に出づ。<(望) |
参考:『大荘厳経巻14』:『復次菩薩大人。為諸眾生不惜身命。我昔曾聞雪山之中。有二鹿王。各領群鹿。其數五百。於山食草。爾時波羅奈城中有王名梵摩達。時彼國王到雪山中。遣人張圍圍彼雪山。時諸鹿等盡墮圍中。無可歸依得有脫處。乃至無有一鹿可得脫者。爾時鹿王其色班駁如雜寶填。作何方便使諸鹿等得免此難。復作是念。更無餘計唯直趣王。作是念已逕詣王所。時王見已敕其左右。慎莫傷害聽恣使來。時彼鹿王既到王所。而作是言。大王。莫以遊戲殺諸群鹿用為歡樂。勿為此事。願王哀愍放捨群鹿莫令傷害。王語鹿王。我須鹿肉食。鹿王答言。王若須肉我當日日奉送一鹿。王若頓殺肉必臭敗不得停久。日取一鹿。鹿日滋多。王不乏肉。王即然可。爾時菩薩鹿王語彼鹿王提婆達多言。我今共爾。日出一鹿供彼王食。我於今日出送一鹿。汝於明日復送一鹿。共為言要。迭互送鹿至於多時。後於一時提婆達多鹿王出一牸鹿懷妊垂產。向提婆達多求哀請命。而作是言我身今死不敢辭託。須待我產供廚不恨。時彼鹿王不聽其語。汝今但去。誰當代汝。便生瞋忿。時彼牸鹿既被瞋責。作是思惟。彼之鹿王極為慈愍。我當歸請脫免兒命。作是念已往菩薩所。前膝跪地向菩薩鹿王具以上事。向彼鹿王。而說偈言 我今無救護 唯願濟拔我 多有諸眾生 我今獨怖迮 願垂哀憐愍 拔濟我苦難 我更無所恃 唯來歸依汝 汝常樂利益 安樂諸眾生 我今若就死 兩命俱不全 今願救我胎 使得一全命 菩薩鹿王聞此偈已。問彼鹿言。為向汝王自陳說未。牸鹿答言。我以歸向不聽我語。但見瞋責誰代汝者。即說偈言 彼見瞋呵責 無有救愍心 見敕速往彼 唯有代汝者 我今歸依汝 悲愍為體者 是故應令我 使得免一命 菩薩鹿王語彼鹿言。汝莫憂惱隨汝意去。我自思惟。時鹿聞已踊躍歡喜還詣本群。菩薩鹿王作是思惟。若遣餘鹿當作是語。我未應去云何遣我。作是念已心即開悟。而說偈言 我今躬自當 往詣彼王廚 我於諸眾生 誓願必當救 我若以己身 用貿蚊蟻命 能作如是者 尚有大利益 所以畜身者 正為救濟故 設得代一命 捨身猶草芥 說是偈已。即集所領諸群鹿等。我於汝等諸有不足。聽我懺悔。我欲捨汝。以代他命欲向王廚。爾時諸鹿聞是語已盡各悲戀。而作是言。願王莫往我等代去。鹿王答言。我以立誓自當身去。若遣汝等必生苦惱。今我歡喜無有不悅。即說偈言 不離欲捨身 必當有生處 我今為救彼 捨身必轉勝 我今知此身 必當有敗壞 今為救愍故 便是法捨身 得為法因者 云何不歡喜 爾時諸鹿種種諫喻。遂至疲極不能令彼使有止心。時彼鹿王往詣王廚。諸鹿舉群并提婆達多鹿群。盡逐鹿王向波羅奈。既出林已報謝群鹿使還所止。唯己一身詣王廚所。時彼廚典先見鹿王者。即便識之。往白於王。稱彼鹿王自來詣廚。王聞是語身自出來向鹿王所。王告之言。汝鹿盡耶。云何自來。鹿王答言。由王擁護鹿倍眾多。所以來者。為一妊身牸鹿欲代其命身詣王廚。即說偈言 意欲有所求 不足滿其心 我力所能辦 若當不為者 與木有何異 設於生死中 捨此臭穢形 當自空敗壞 不為毫釐善 此身必歸壞 捨己他得全 我為得大利 爾時梵摩達王聞是語已。身毛皆豎。即說偈言 我是人形鹿 汝是鹿形人 具功德名人 殘惡是畜生 嗚呼有智者 嗚呼有勇猛 嗚呼能悲愍 救濟眾生者 汝作是志形 即是教示我 汝今還歸去 及諸群鹿等 莫生怖畏想 我今發誓願 永更不復食 一切諸鹿肉 爾時鹿王白王言。王若垂矜。應自往詣彼群鹿所。躬自安慰施與無畏。王聞是語。身自詣林。到鹿群所施鹿無畏。即說偈言 是我國界內 一切諸群鹿 我以堅擁護 慎莫生恐怖 我今此林木 及以諸泉池 悉以施諸鹿 更不聽殺害 是故名此林 即名施鹿林』 |
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菩薩鹿王見人王大眾殺其部黨。起大悲心逕到王前。王人競射飛矢如雨。王見此鹿直進趣已無所忌憚。敕諸從人攝汝弓矢無得斷其來意。 |
菩薩の鹿王は、人王の大衆、其の部党を殺すを見て、大悲心を起し、逕(ただち)に王前に到る。王人競い射て、矢を飛ばすこと雨の如し。王は、此の鹿の直ちに進趣し已るを見るも、忌憚する所無ければ、諸の従人に勅すらく、『汝が弓矢を摂(おさ)めて、其の来意を断ずるを得る無かれ』、と。 |
『菩薩』の、
『鹿王』は、
『人王』の、
『大衆』が、
『鹿王』の、
『部党( 郎党)』を、
『殺す!』のを、
『見て!』、
『大悲』の、
『心』を、
『起し!』、
『人王』に、
『真直ぐ!』、
『近づいた!』。
『王人( 王臣)』が、
『競って!』、
『矢』を、
『射た!』ので、
『飛ぶ!』、
『矢』は、
『雨のようであった!』。
『人王』は、
『鹿王』が、
『真直ぐ!』、
『近寄ってくる!』のを、
『見た!』が、
『鹿王』には、
『忌憚(畏懼)する!』所が、
『無かった!』ので、
諸の、
『従臣』に、こう命じた、――
お前たちの、
其の、
『鹿』の、
『来意』が、
『断たれないようにせよ!』、と。
|
逕(きょう):直ちに/近づく( direct, approach )。
王人(おうにん):天子の使臣。
忌憚(きたん):畏れはばかる。畏懼。 |
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鹿王既至跪白人王。君以嬉遊逸樂小事故。群鹿一時皆受死苦。若以供膳輒當差次日送一鹿以供王廚。王善其言聽如其意。 |
鹿王の既に至りて、跪き人王に白さく、『君の嬉遊、逸楽の小事を以っての故に、群鹿は、一時に皆、死苦を受く。若し以って膳に供せば、輒(すなわ)ち、当に差次して、日に一鹿を送れば、以って王廚に供すべし』、と。王は、其の言を善しとして、其の意の如く聴(ゆる)す。 |
『鹿王』は、
『跪いて!』、
『人王』に、こう白した、――
君の、
わたしの、
『群鹿』が、
一時に、
若し、
『鹿』を、
『膳』に、
『供したい!』と、
『思うならば!』、
毎日、
『一鹿』を、
『選別して!』、
『送り!』、
『王廚』に、
『供しよう!』、と。
『人王』は、
其の、
『鹿』の、
『言葉』を、
『善い!』と、
『思い!』、
其の、
『意のままにしよう!』と、
『約束した!』。
|
嬉遊(きゆう):遊びたわむれる。
逸楽(いつらく):気ままに遊び楽しむ。
輒(ちょう):たやすく、つねに、すなわち。直ちに/毎次/則ち( immediately, always, then )。
差次(さじ):次を指名して派遣する。差は選択/指名( select, assign )、派遣/使を遣る( dispatch, send on an
errand )の義。等級、或は軽重の次序を分別すること。 |
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於是二鹿群主大集差次各當一日送應次者。是時提婆達多鹿群中。有一鹿懷子來白其主。我身今日當應送死。而我懷子子非次也。乞垂料理使死者得次生者不濫。 |
是に於いて、二鹿群主、大いに集めて差次し、各一日当り、次に応ずる者を送る。是の時、提婆達多の鹿群中に、一鹿の子を懐ける有りて、来たりて其の主に白さく、『我が身は、今日、応に送られて死すべきに当るも、我れは子を懐けり、子は次に非ざれば、乞う、料理を垂れて、死者をして、次なるを得しめ、生者を濫(みだ)りにせざらんことを』、と。 |
是れにより、
『二鹿群』の、
『主』たちは、
『群鹿』を、
各、
『一日ごと!』に、
『次の者』を、
『送った!』。
是の時、
『提婆達多』の、
『鹿群』中の、
有る、
『子』を、
『懐いた!』、
『一鹿』が、
『来て!』、
『提婆達多』に、こう白した、――
わたしの、
わたしは、
『子』を、
『懐いております!』ので、
『子』の、
『番ではありません!』。
お願いです!、――
『適切に!』、
『手配して!』、
『死ぬはずの者』は、
『次になされて!』、
『生れる者』を、
『無駄になさいませぬよう!』、と。
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料理(りょうり):適切に手配する( to arrange properly )、梵語 autsukyaM karoti, pratijaagarati の訳、上手く、又は適正に処理する/適切な原則に従って仕事を行う( To manage well; to process duly; to work according to proper principles )の義。
濫(らん):みだる。行き過ぎる。無駄にする。 |
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鹿王怒之言。誰不惜命。次來但去何得辭也。鹿母思惟。我王不仁不以理恕不察我辭。橫見瞋怒不足告也。即至菩薩王所以情具白。 |
鹿王の之を怒りて言わく、『誰か命を惜まざる。次来たらば、但だ去れ。何ぞ辞するを得んや』、と。鹿母の思惟すらく、『我が王は、不仁なり、理を以って恕(ゆる)さず、我が辞を察せず、横ざまに瞋怒せらる、告ぐるに足らざるなり』、と。即ち菩薩王の所に至りて、情を以って具(つぶさ)に白す。 |
『鹿王』は、
此の、
『鹿』を、
『怒って!』、こう言った、――
誰が、
『命』を、
『惜まないのか?』。
お前の、
『番』が、
『来れば!』、
『過たずに!』、
『去ればよいのだ!』。
何うして、
『辞退できよう?』、と。
『鹿母』は、
こう思惟した、――
わたしの、
『王』は、
『慈愛がない!』、
『道理』を、
『思いやろうともせず!』、
わたしの、
『言葉』を、
『察しようとしない!』、
此の、
『王』には、
『訴えても!』、
『無駄なことだ!』、と。
そこで、
『菩薩』の、
『王の所』に、
『来て!』、
『心情』を、
『具(つぶさ)に!』、
『告白した!』。
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不仁(ふにん):思いやりがない。
恕(じょ):思いやってゆるす。
横(おう):横柄/狂暴、意外な/尋常でない。
見(けん):らる。受動を示す辞。
情(じょう):真心。 |
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王問此鹿。汝主何言。鹿曰。我主不仁。不見料理而見瞋怒。大王仁及一切故來歸命。如我今日天地雖曠無所控告。 |
王の此の鹿に問わく、『汝が主は、何んが言える』、と。鹿の曰わく、『我が主は不仁にして、料理せられずして、而も瞋怒せられたり。大王の仁は、一切に及ぶが故に来たりて、帰命す。我が今日の如きは、天地曠(ひろ)しと雖も、控告する所無し』、と。 |
『王』は、
此の、
『鹿』に、こう問うた、――
お前の、
『主』は、
『何と言っているのか?』、と。
『鹿』は、こう言った、――
わたしの、
『主』は、
『慈愛がありません!』、
『適切』に、
『処理されないばかりか!』、
『瞋怒されてしまいました!』。
『大王』の、
『慈愛』は、
『一切の!』、
『鹿』に、
『及ぼされ!』、
是の故に、
『来て!』、
『帰命(帰順)するのです!』。
わたしなどは、
今日、
『天地』が、
『何れほど!』、
『広くても!』、
何処にも、
『訴える!』所が、
『無いからです!』、と。
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帰命(きみょう):逃げ込む/避難する/帰順する( to take refuge )、梵語 namas の訳、[動作、或は言葉による]お辞儀/敬虔な挨拶/崇敬(
bow, obeisance, reverential salutation, adoration (by gesture or word )の義。
控告(くうこく):告げうったえる。 |
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菩薩思惟。此甚可愍。若我不理抂殺其子。若非次更差次未及之。如何可遣。唯有我當代之思。之既定。即自送身遣鹿母還。我今代汝汝勿憂也。 |
菩薩の思惟すらく、『此れは甚だ愍(あわれ)むべし。若し我れ理(ただ)さずんば、其の子を抂(みだ)りに殺さん。若し次に非ざるを、更(かわ)りに差次せば、未だ之に及ばざるを、如何が遣るべし。唯だ我れ有るのみ、当に之に代りるべし。之を思うて既に定まれば、即ち自ら身を送り、鹿母を遣りて還すらく、『我れ今、汝に代らん。汝は憂うる勿かれ』、と。 |
『菩薩』は、
こう思惟した、――
此れは、
『甚だ!』、
『可哀そうなことだ!』。
若し、
わたしが、
『理』を、
『正さなければ!』、
其の、
『子』を、
『無駄に!』、
『殺すことになる!』。
若し、
『次でない!』者を、
『更(かわ)りに!』、
『指名すれば!』、
未だ、
『順番』に、
『及ばない!』者を、
何故、
『遣ることができよう?』。
唯だ、
わたしだけが、
『有るのみだ!』、
わたしが、
之に、
『代ることにしよう!』、と。
是のように、
即座に、
自ら、
『身』を、
『送ることにして!』、
『鹿母』を、
『遣り還しながら!』、
こう言った、――
わたしが、
今、
『お前に!』、
『代ることにしよう!』、
お前は、
『心配しなくてもよい!』、と。
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理(り):ただす、おさめる。統治する/秩序を正す/処理する( administer, put in order, treat )。
抂(ごう):みだりに。乱暴に。無駄に。濫りに。
更(きょう):替える、交替する( replace )。 |
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鹿王逕到王門。眾人見之怪其自來以事白王。王亦怪之而命令前問言。諸鹿盡耶。汝何以來。 |
鹿王は逕に、王門に到り、衆人之を見て、其の自ら来たれるを怪しみ、事を以って、王に白す。王も亦た之を怪しみ、命じて前(すす)ましめ、問うて言わく、『諸の鹿は尽きたるや。汝は何を以ってか来たる』、と。 |
『鹿王』は、
『寄り道せず!』に、
『王の門』に、
『到った!』。
『衆人』は、
之を、
『見て!』、
其れが、
『自ら来た!』のを、
『怪しみ!』、
其の、
『王』も、
亦た、
之の、
『事』を、
『怪しみ!』、
前に、
『進むよう!』、
『命じる!』と、こう言った、――
諸の、
『鹿』が、
『尽きたのか?』。
何故、
『お前が!』、
『来たのか?』、と。
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鹿王言。大王仁及群鹿人無犯者。但有滋茂何有盡時。我以異部群中有一鹿懷子。以子垂產身當殂割子亦併命。歸告於我我以愍之。非分更差是亦不可。若歸而不救無異木石。是身不久必不免死。慈救苦厄功德無量。若人無慈與虎狼無異。 |
鹿王の言わく、『大王の仁は、群鹿に及びて、人の犯す者無く、但だ滋茂する有りて、何ぞ尽くる時有らんや。我が異部の群中に有る一鹿子を懐き、子の垂(なんな)んとして産まれんとするに、身殂割に当らば、子も亦た命を併せたらんを以って、我れに帰して告ぐるを以って、我れ以って之を愍れむ。分に非ざるを更に差(おく)らば、是れも亦た不可なり。若し帰せるものを、救わずんば、木石と異無し。是の身は久しからざれば、必ず死を免れず。慈もて、苦厄を救わば、功徳は無量なり。若し人に慈無くんば、虎狼と異無し』、と。 |
『鹿王』は、
こう言った、――
『大王』の、
『慈愛』は、
『群鹿に!』、
『及び!』、
『犯す!』、
『人』が、
『無くなりました!』ので、
但だ、
『群鹿』には、
『繁茂する!』ことが、
『有るだけです!』、
何うして、
『尽きる!』時が、
『有りましょうや?』。
わたしの、
『異部の群』中に、
有る、
『一鹿』が、
『子』を、
『懐いておりました!』が、
『子』の、
『産まれようとする!』時、
『殂割(屠殺)』に、
『当れば!』、
『子』も、
『運命』を、
『共にする!』ので、
是の故に、
わたしに、
『帰順して!』、
『心情』を、
『告げました!』。
わたしには、
此の、
『鹿母』が、
『哀れに!』、
『思えたのです!』。
若し、
『次の!』、
『分でない!』者を、
『更(かわ)りに!』、
『送れば!』、
是れも、
亦た、
『許されることでなく!』、
若し、
『帰順した!』者を、
『救わなければ!』、
『木石』と、
『異ならない!』。
わたしの、
是の、
『身』は、
『久しいものでなく!』、
必ず、
『死』は、
『免れません!』。
わたしの、
『慈愛』が、
『苦厄』を、
『救えば!』、
『得られる!』、
『功徳』は、
『無量です!』が、
若し、
『人』に、
『慈悲』が、
『無ければ!』、
『虎狼』と、
『異なり!』が、
『有りません!』、と。
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滋茂(じも):草木が盛にしげること。繁盛し増殖すること。
殂割(そかつ):死して割り裂かる。 |
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王聞是言即從坐起。而說偈言
我實是畜獸 名曰人頭鹿
汝雖是鹿身 名為鹿頭人
以理而言之 非以形為人
若能有慈惠 雖獸實是人
我從今日始 不食一切肉
我以無畏施 且可安汝意 |
王は是の言を聞いて即ち坐より起ち、偈を説いて言わく、
我れは実に是れ畜獣なり、名づけて人頭の鹿と曰う、
汝は是れ鹿の身なりと雖も、名づけて鹿頭の人と為す。
理を以って之を言わば、形を以って人と為すに非ず、
若し能く慈恵有らば、獣なりと雖も実に是れ人なり。
我れは今日より始めて、一切の肉を食わず、
我れ無畏を以って施せば、且く汝が意を安んずべし。
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『王』は、
是の、
『言葉』を、
『聞いて!』、
即ち、
『坐』より、
『起ち!』、
『偈』を説いて、こう言った、――
わたしは、
『実に!』、
『畜獣であり!』、
『人の頭』の、
『鹿』と、
『呼ばれるべきだ!』。
お前は、
『鹿』の、
『身でありながら!』、
『鹿の頭』の、
『人』と、
『呼ぶべきだ!』。
是の、
『道理』を言えば、――
『形』が、
『人だから!』、
『人なのではない!』。
若し、
『慈愛』と、
『恩恵』とが、
『有れば!』、
『獣だろうと!』、
『実に!』、
『人なのだ!』。
わたしは、
今日より、
一切の、
『肉を食わない!』ことを、
『始めよう!』。
わたしが、
『無畏』を、
『施せば!』、
お前の、
『意』を、
『安心させられるだろう!』、と。
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恵(え):恩恵( benefit, favor, kindness )。
無畏(むい):怖畏しないこと( fearlessness )、梵語 abhaya, nirbhii の訳、恐れない/怖くない( fearless,
not afraid )の義。
且(しゃ):殆ど( almost, nearly )、つもり( be going to, will, shall )、当分( just, for
the time being )、長い間/久久に( for a long time )の義。 |
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諸鹿得安王得仁信。 |
諸の鹿は、安きを得、王は仁、信を得たり。 |
諸の、
『鹿』は、
『心』に、
『安らぎ!』を、
『得ることができ!』、
『王』は、
『慈愛』と、
『信頼』を、
『得ることができた!』。
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復次如愛法梵志。十二歲遍閻浮提。求知聖法而不能得。時世無佛佛法亦盡。有一婆羅門言。我有聖法一偈若實愛法當以與汝。答言。實愛法。 |
復た次ぎに、愛法梵志の如し、十二歳、閻浮提に遍く、聖法を知らんと求むるも、得る能わず。時に世に仏無く、仏法も亦た尽く。有る一婆羅門の言わく、『我れに聖法の一偈有り、若し実に法を愛せば、当に以って汝に与うべし』、と。答えて言わく、『実に法を愛す』、と。 |
復た次ぎに、
例えば、
『愛法梵志』は、こうであった、――
『十二年間』、
遍く、
『閻浮提』に、
『聖法』を、
『知ろう!』と、
『求めた!』が、
而し、
『知ることができなかった!』。
『時の世』には、
『仏』が、
『無く!』、
『仏』の、
『法』も、
『尽きていた!』が、
有る、
『一婆羅門』が、こう言った、――
わたしには、
若し、
『実に!』、
『法』を、
『愛する!』ならば、
それを、
『お前に!』、
『与えよう!』、と。
『答えて!』、こう言った、――
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参考:『大智度論巻49』:『所謂阿含阿毘曇毘尼雜藏摩訶般若波羅蜜等。諸摩訶衍經皆名為法。此中求法者。書寫誦讀正憶念。如是等治眾生心病故。集諸法藥不惜身命。如釋迦文佛本為菩薩時。名曰樂法。時世無佛不聞善語。四方求法精勤不懈。了不能得。爾時魔變作婆羅門而語之言。我有佛所說一偈。汝能以皮為紙以骨為筆以血為墨書寫此偈。當以與汝。樂法即時自念。我世世喪身無數不得是利。即自剝皮曝之令乾欲書其偈。魔便滅身。是時佛知其至心。即從下方踊出為說深法。即得無生法忍。』 |
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婆羅門言。若實愛法當以汝皮為紙以身骨為筆以血書之。當以與汝。即如其言破骨剝皮以血寫偈
如法應修行 非法不應受
今世亦後世 行法者安隱 |
婆羅門の言わく、『若し実に法を愛せば、当に汝が皮を以って紙と為し、身の骨を以って筆と為し、血を以って之を書くべし。当に以って汝に与うべし』、と。即ち其の言の如く、骨を破り、皮を剥ぎ、血を以って偈を写すらく、
如法は応に修行すべし、非法は応に受くべからず、
今世にも亦た後世にも、行法の者は安隠ならん。
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『婆羅門』は、
こう言った、――
若し、
お前は、
自らの、
『皮』を、
『用いて!』、
『紙とし!』、
『身の骨』を、
『用いて!』、
『筆として!』、
『血』を、
『用いて!』、
『書写するはずであり!』、
お前には、
是の、
『一偈』を、
『与えることになろう!』、と。
即ち、
其の、
『言葉』の通りに、
自ら、
『骨』を、
『破り!』、
『皮』を、
『剥ぎ!』、
『血』を、
『出して!』、
是の、
『偈』を写した、――
『如法』ならば、
『修行せねばならぬ!』、
『非法』ならば、
『受けてはならぬ!』。
『今世』にも、
『後世』にも、
『法』を、
『行う!』者は、
『安隠である!』、と。
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復次昔野火燒林。林中有一雉懃身自力。飛入水中漬其毛羽來滅大火。火大水少往來疲乏不以為苦。 |
復た次ぎに、昔、野火、林を焼く。林中の有る一雉、身を懃(つと)め、自ら力(つと)めて、飛びて水中に入り、其の毛羽を漬け、来たりて大火を滅す。火は大きく水は少し。往来に疲乏するも、以って苦と為さず。 |
復た次ぎに、
昔、
『野火』が、
『林』を、
『焼いた!』が、
『林』中の、
有る、
『一雉』は、
自ら、
『力』を、
『頼りに!』、
『身』を、
『呈して!』、
飛んで、
『水』中に、
『入り!』、
其の、
『毛、羽』を、
『水に漬けて!』、
来て、
『大火』を、
『消していた!』。
『火』は、
『往来に!』、
『疲労、困乏しながら!』、
其れを、
『苦だ!』とは、
『思わなかった!』。
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野火(やか):荒れた山野の地に燃焼する火( prairie fire )、地裏の野草を燃焼する火( twitchfire )、燐火/鬼火/狐火(
will-o'-the wisp )。
自力(じりき):自己の力量に依存する/自己の力量を尽くす( rely on one's own, efforts )。
疲乏(ひぼう):疲労困乏する( weary and tired )。 |
参考:『雑譬喩経巻1(23)』:『昔有鸚鵡。飛集他山中。山中百鳥畜獸。轉相重愛不相殘害。鸚鵡自念。雖爾不可久也。當歸耳便去。卻後數月大山失火四面皆然。鸚鵡遙見便入水。以羽翅取水飛上空中。以衣毛間水灑之欲滅大火。如是往來往來。天神言。咄鸚鵡。汝何以癡。千里之火寧為汝兩翅水滅乎。鸚鵡曰。我由知而不滅也。我曾客是山中。山中百鳥畜獸。皆仁善悉為兄弟。我不忍見之耳。天神感其至意。則雨滅火也』 |
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是時天帝釋來問之言。汝作何等。答言。我救此林愍眾生故。此林蔭育處廣清涼快樂。我諸種類及諸宗親并諸眾生皆依仰此。我有身力云何懈怠而不救之。 |
是の時天帝釈来たりて、之に問うて言わく、『汝は、何等をか作す』、と。答えて言わく、『我れは此の林を救わんとす。衆生を愍れむが故なり。此の林は蔭育の処にして、広く清涼として快楽なり。我が諸の種類、及び諸の宗親、并びに諸の衆生は、皆此れを依仰す。我れに身力有り、云何が懈怠して、之を救わざらん』、と。 |
是の時、
『天帝釈』が来て、
之に問うて、こう言った、――
答えて、こう言った、――
わたしは、
此の、
『林』を、
『救おうとしている!』、
何故ならば、
『衆生』を、
『愍れむからだ!』。
此の、
『林』は、
『子』を、
『守り育む!』、
『処として!』、
『広く!』、
『清涼として!』、
『快楽だからだ!』。
わたしの、
諸の、
『種族』も、
『親族』も、
『衆生』も、
皆、
わたしには、
『身』も、
『力』を、
『有る!』のに、
何故、
『懈怠して!』、
此の、
『林』を、
『救わずにいられるのか?』、と。
|
蔭育(おんいく):蔭に巣をかけ、子を育てる。守り育てる( protect and raise )。
宗親(しゅうしん):一族。同族。同母の兄弟。
依仰(えごう):依存し仰ぎ見る。 |
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天帝問言。汝乃精懃當至幾時。雉言。以死為期。 |
天帝の問うて言わく、『汝が乃ち精懃すること、当に幾時にか至るべき』、と。雉の言わく、『死を以って期と為す』、と。 |
『天帝』は、
問うて、こう言った、――
お前は、
そのように、
『頑張っている!』が、
何れぐらいの、
『時間』、
『頑張れるのか?』、と。
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乃(ない):すなわち。そのように( so )。
精懃(しょうごん):梵語 viiryaarambha の訳、英雄的行為( heroic deed )に於ける努力( effort, exertion
)の義。 |
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天帝言。汝心雖爾誰證知者。即自立誓。我心至誠信不虛者火即當滅。是時淨居天。知菩薩弘誓。即為滅火。自古及今唯有此林。常獨蔚茂不為火燒。 |
天帝の言わく、『汝が心は、爾りと雖も、誰か証知する者なる』、と。即ち自ら立ちて誓うらく、『我が心の至誠なること、信にして虚しからざれば、火即ち当に滅すべし』、と。是の時、浄居天、菩薩の弘誓を知り、即ち為めに火を滅すれば、古より今に及ぶまで、唯だ此の林の常に独り、蔚茂して、火に焼かれざる有るのみ。 |
『天帝』は、
こう言った、――
お前の、
『心』は、
『爾うだとしても!』、
誰が、
『証明するのか?』、と。
『雉』は、
即座に、
『立つ!』と、
自ら、こう誓った、――
わたしの、
『心』が、
『至誠であり!』、
『誠実であり!』、
『虚偽でなかった!』ならば、
『火』は、
『すぐにも!』、
『消えるはずだ!』、と。
是の時、
『浄居天』が、
『菩薩』の、
『弘誓』を、
『知り!』、
即座に、
『火』を、
『消した!』ので、
『古代』より、
『今』に至るまで、
唯だ、
此の、
『林』のみが、
常に、
『鬱蒼と茂り!』、
『火に焼かれないのである!』。
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証知(しょうち):梵語 pratyakSatva の訳、視覚的証拠、或は直接的認識の存在( the being ocular evidence or immediate perception )の義。
至誠(しじょう):真心の至り。
信(しん):嘘いつわりの無いまこと。誠実。
蔚茂(うつも):草木の密にして繁茂なること。
弘誓(ぐぜい):諸仏、菩薩の広大なる誓。 |
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如是等種種。宿世所行難為能為。不惜身命國財妻子象馬七珍頭目骨髓懃施不惓。 |
是の如き等の種種の宿世の所行は、為し難きを能く為して、身命、国財、妻子、象馬、七珍、頭目、骨髄を惜まず、施を懃めて倦まず。 |
是れ等の、
種種の、
『宿世の所行』は、
『行い難い!』、
『事』を、
『行い!』、
『身命、国財、妻子、象馬、七珍、頭目、骨髄』を、
『惜まずに!』、
『精力的に!』、
『施して!』、
『倦むことがない!』。
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如說。菩薩為諸眾生。一日之中千死千生如檀尸忍禪。般若波羅蜜中所行如是。 |
説の如し、菩薩は、諸の衆生の為に、一日の中に千死千生す。檀、尸、忍、禅、般若波羅蜜中の所行の如きも、是の如し。 |
例えば、
こう説かれているが、――
『菩薩』は、
諸の、
『衆生』の為に、
『一日の中』に、
『千死して!』、
『千生する!』、と。
例えば、
『檀、尸羅、忍辱、禅、般若波羅蜜』中の、
『所行』も、
是の通りである!。
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菩薩本生經中種種因緣相。是為身精進。於諸善法修行。信樂不生疑悔而不懈怠。從一切賢聖。下至凡人求法無厭。如海吞流。是為菩薩心精進。 |
菩薩本生経中の種種の因縁の相は、是れを身の精進と為し、諸の善法に於いて修行し、信楽して、疑悔を生ぜず、懈怠せず、一切の賢聖に従いて、下は凡人に至るまで、法を求めて厭う無きこと、海の流を呑むが如き、是れを菩薩の心の精進と為す。 |
『菩薩本生経』中の、
諸の、
『善法』を、
『修行して!』、
『信楽し!』、
『疑悔を生じず!』、
『懈怠せず!』、
一切の、
下は、
『凡人』に、
『至る!』まで、
『従って!』、
譬えば、
『海』が、
『衆流』を、
『呑むように!』、
『法』を、
『求めて!』、
『厭きなければ!』、
是れを、
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