見八大地獄苦毒萬端。活大地獄中諸受罪人各各共鬥。惡心瞋諍手捉利刀互相割剝。以槊相刺。鐵叉相叉。鐵棒相棒。鐵杖相捶。鐵鏟相貫。而以利刀互相切膾。又以鐵爪而相爴裂。各以身血而相塗漫。痛毒逼切悶無所覺。 |
八大地獄を見るに、苦毒万端たり。活大地獄中の諸の受罪の人は、各各共に闘い、悪心瞋諍して、手に利刀を捉り、互いに相割剥し、槊(ほこ)を以って相刺し、鉄の叉で相叉(さ)し、鉄の棒で相棒(う)ち、鉄の杖で相捶(う)ち、鉄の鏟で相貫き、而も利刀を以って互いに相切りて膾(なます)にし、又鉄の爪を以って、相爴裂し、各身血を以って、相塗漫すれば、痛毒逼切して、悶ゆるも覚る所無し。 |
『八大地獄』を見てみると、――
『苦毒(苦痛)』が、
『万端(種々雑多)である!』。
『活大地獄』中には、
諸の、
『受罪の人』が、
各各、
『共に!』、
『闘い!』、
『悪心』で、
『瞋恚し!』、
『闘諍し!』、
『手』に、
『利い刀』を、
『捉って!』、
互いに、
『割(さ)いて!』、
『剥(は)ぎ合い!』、
『槊( ほこ)』で、
『鉄の叉( フォーク)』で、
『鉄の棒』で、
『鉄の杖』で、
『鉄の鏟( シャベル)』で、
而も、
『利い刀』で、
互いに、
『切って!』、
『膾(なます)にし合い!』、
又、
『鉄の爪』で、
互いに、
『爴(つか)んで!』、
『裂き合い!』、
各、
『身』を、
『痛み!』の、
『毒』が、
『切迫しても!』、
『悶えて!』、
『感覚』が、
『無い!』。
|
苦毒(くどく):苛酷な苦痛。
万端(まんたん):種々雑多( multifarious )。
槊(さく):ほこ。
叉(しゃ):フォーク( fork )。
棒(ぼう):棍棒で打つ( beat with a stick )。
鏟(さん):シャベル( spade, shovel )。
膾(かい):なます/なますにする。肉の薄切り/肉を薄切りにする。
爴裂(かくれつ):つかんで裂く。
塗漫(づまん):塗りまみれる。
地獄(じごく):梵語㮈落迦 naraka の訳。又は niraya 。又泥羅夜、那梨耶、泥犁耶、或は泥犁に作る。地下の牢獄の意。五道の一。六道の一。即ち罪業に由りて感ずる極苦の処所を云う。「立世阿毘曇論巻6云何品」に、「云何が地獄を泥犁耶と名づくるや。戯楽なきが故に、憘楽なきが故に、行出なきが故なり。福徳なきが故に、不除離業に因るが故に中に於いて生ず。復た説く、此の道は欲界の中に於いて最も下劣と為し、名づけて非道と曰う。この事に因るが故に、故に地獄を説きて泥犁耶と名づく」と云い、又「雑阿毘曇心論巻8」に、「楽うべからざるが故に地獄と説く」と云えるこれなり。これ世の牢獄の如く、其の中に戯楽なく、又自ら出づることを得ず、人の欲せざる処なるが故に名づけて地獄となすの意なり。総じて八大熱地獄及び十六小地獄、並びに八寒地獄、孤地獄等あり。就中、八大熱地獄に関しては、「長阿含経巻19地獄品」に、「仏比丘に告ぐ、此の四天下に八千の天下ありて其の外を囲繞し、復た大海水あり、八千の天下を周匝し囲繞し、復た大金剛山あり大海水を遶る。金剛山の外に復た第二の大金剛山あり、二山の中間は窈窈冥冥たり。日月神天は大威力あるも、光を以って彼を照及すること能わず。彼に八大地獄あり、其の一地獄に十六の小地獄あり。第一の大地獄を想と名づけ、第二を黒縄と名づけ、第三を堆圧と名づけ、第四を叫喚と名づけ、第五を大叫喚と名づけ、第六を焼炙と名づけ、第七を大焼炙と名づけ、第八を無間と名づく。其の想地獄に十六の小地獄あり、小獄は縦広五百由旬なり。第一の小獄を名づけて黒沙と曰い、二に沸屎と名づけ、三を五百釘と名づけ、四を飢と名づけ、五を渇と名づけ、六を一銅釜と名づけ、七を多銅釜と名づけ、八を石磨と名づけ、九を膿血と名づけ、十を量火と名づけ、十一を灰河と名づけ、十二を鉄丸と名づけ、十三を釿斧と名づけ、十四を犲狼と名づけ、十五を剱樹と名づけ、十六を寒氷と名づく」と云い、又「倶舎論巻11」に、「此の瞻部州の下、二万を過ぎて阿毘旨大㮈落迦あり、深広は前に同じ。謂わく各二万なるが故に、彼の底は此を去ること四万踰繕那なり。其の中に於いて苦を受くること間なく、余の七大㮈落迦の苦を受くること恒に非ざるが如くに非ざるが故に無間と名づく。(中略)七㮈落迦は無間の上に在りて重累して住せり。其の七とは何ぞ、一には極熱、二には炎熱、三には大叫、四には号叫、五には衆合、六には黒縄、七には等活なり。有が説く、此の七は無間の傍に在りと。八㮈落迦の増に各十六あり、故に薄伽梵此の頌を説きて言わく、此の八の㮈落迦は、我れ説く甚だ越え難し。熱鉄を以って地と為し、周匝して鉄牆あり。四面に四門あり、開閉するに鉄扇を以ってす。巧みに分量を安布し、各十六の増あり、多百踰繕那なり。中に造悪の者を満つ。周徧して焔交徹し、猛火恒に洞然たりと。十六の増とは八㮈落迦の四面の門外に各四所あり。一に煻煨増kukuulaとは、謂わく此の増の中には煻煨あり膝を没す。有情彼に遊んで纔かに足下す時、皮肉と血と倶に燋爛して墜ち、足を挙ぐれば還って生じて平復すること本の如し。二に屍糞増kunapaとは、謂わく此の増の内には屍糞の泥満ち、中に於いて多く娘矩吒虫あり、嘴の利なること針の如く、身は白く頭は黒し。有情彼の遊ぶに皆此の虫の為に皮を鑽り骨を破り、其の髄を吥食せらる。三に鋒刃増asidhaaraaとは、謂わく此の増の内に復た三種あり、一に刀刃路は、謂わく此の中に於いては刀刃を仰ぎ布きて以って大道と為す。有情彼に遊び纔かに足を下す時、皮肉と血と倶に断砕して墜ち、足を挙ぐれば還って生じて平復すること本の如し。二に剱葉林は、謂わく此の林の上には純ら銛利の剱刃を以って葉と為す。有情彼に遊ぶに風葉を吹きて墜し、肢体を斬刺し骨肉零落す。烏駮狗あり齩掣して之を食う。三に鉄刺林は、謂わく此の林の上に利鉄の刺あり、長さ十六指なり。有情逼られて樹を上下する時、其の刺の銛鋒下上して鑱刺す。鉄嘴の烏あり、有情の眼晴心肝を探啄し、争い競うて食う。刀刃路等は三種殊なれりと雖も、而も鉄仗同じきが故に一の増に摂す。四に烈河増kSaara-nadiiとは、謂わく此の増は量広くして中に熱鹹水を満つ。有情中に入りて或は浮かび或は没し、或は逆に或は順に、或は横に或は転じ、蒸され煮られて骨肉糜爛す。大鑊の中に灰汁を満盛して麻米等を置き、猛火下に然ゆれば、麻等は中に於いて上下に廻転して挙体糜爛するが如し。有情も亦然り。設い逃亡せんと欲するも、両岸の上に於いて諸の獄卒あり、手に刀鎗を執りて禦捍して迴らしめ、出づることを得るに由なし。此の河は壍の如く、前の三は園に似たり。四面に各四の増あるが故に皆十六と云う。此れはこれ増上に刑害せらるる所なるが故に説いて増と名づく。本地獄の中に適に害せられ已りて重ねて害に遭うが故なり。有が説く、有情は地獄より出でて更に此の苦に遭う、故に説いて増となす」と云えり。これ等活
saMjiiva(即ち想)を第一、黒縄 kaala- suutra を第二、衆合 saMghaata(堆圧)を第三、号叫 raurava(叫喚)を第四、大叫喚
mahaa- raurava(大叫喚)を第五、炎熱 tapana(焼炙)を第六、極熱 pratapana(大焼炙)を第七、無間 aviiciを第八をし、此の八大地獄に各皆十六の小地獄ありとなせるものにして、即ち大小総じて一百三十六地獄ありとなすなり。「順正理論巻31」に八大地獄の名義を釈し、「楽間(まじ)わることなきを以って無間の名を立つ。所余の地獄の中には異熟の楽なしと雖も而も太だ過失なし、等流の楽あるが故なり。有説は隙なければ無間の名を立つ。有情少しと雖も而も身大なるが故なりと。有説は中に於いて苦を受くること無間なりと。(中略)若しは外、若しは内、自身他身より皆猛火を出して互相に焼害し、熱中の極なるが故に名づけて極熱と為す。火は身に随って転じ、炎熾周囲し、熱苦任え難きが故に炎熱と名づく。劇苦に逼られて大酷声を発し、悲叫して怨と称す、故に大叫と名づく。衆苦に逼られて異類悲号し、怨みて叫声を発するが故に号叫と名づく。衆多の苦具倶に来たりて身に逼り、合党して相残す、故に衆合と名づく。先づ黒索を以って支体を拼量し、後方に斬鋸するが故に黒縄と名づく。衆苦身に逼りて、数悶して死せるが如く、尋いで蘇して本の如くなるが故に等活と名づく。謂わく彼の有情は種種の斫刺磨擣に遭うと雖も而も彼れ暫く涼風に吹かるるに遇えば、尋いで蘇して本の如く、前の活に等しきが故に等活の名を立つ」と云えり。以ってその立名の所以を知るべし。但し「立世阿毘曇論巻8」には、此の中の等活と黒縄との間に別に又大巷地獄あることを説き、「大巷地獄は更生(即ち等活)と黒縄の二獄の中間に在り、其れに地獄あるを名づけて大巷と曰う。大市巷の如し。この中の罪人は或る時は仰眠し、或る時は覆眠し、或は臼中に置かれて鉄杵をもて舂擣せらる。或は罪人あり、脚より頸に至るまで分分に斬斫せられ、或は罪人あり、皮を褫がれて地に布き、還た其の肉を割きて以って皮上に積まる。復た罪人あり、剱を下せば手断じ、剱を挙ぐれば手生ず。この因縁を以って其の手を積める聚は猶お山の如く高し。脚耳鼻頭等の聚も亦山の如く高し。(中略)この地獄の人は頭は象頭の如く、身は人身に似たり。復た罪人あり、頭は馬頭の如く、身は人身の如し。復た罪人あり、頭は牛頭の如く、身は亦人に似たり。かくの如き等の類種種同じからず。この中の獄卒は諸の罪人を取り、駕するに鉄車を以ってし、昼夜焼燃して恒に光炎あり。赤鉄を枙となし、赤鉄を縄となす。この中の路地は一切皆鉄にして、長さ多由旬、広さ亦かくの如し。この中の獄卒は赤鉄の錐を執りて駆蹙し、来去に此の如き害を受く。上上品の苦堪任すべきこと難し」と云えり。若し之に依りて大巷を加えば凡べて九大熱地獄ありというべし。又寒地獄に関しては諸経論の説不同あり、「長阿含経巻19地獄品」に、「彼の二山の中間に復た十地獄あり。一を厚雲と名づけ、二を無雲と名づけ、三を呵呵と名づけ、四を奈何と名づけ、五を羊鳴と名づけ、六を須乾提と名づけ、七を優鉢羅と名づけ、八を拘物頭と名づけ、九を分陀利と名づけ、十を鉢頭摩と名づく。云何が厚雲地獄なる、其の獄の罪人自然に身を生ずること、譬えば厚雲の如くなるが故に厚雲と名づく。云何が名づけて無雲と曰う、其れ彼の獄中に罪を受くる衆生は、自然に身を生ずること猶段肉の如くなるが故に無雲と名づく。云何が呵呵と名づくる、其の地獄の中に罪を受くる衆生は、苦痛身を切り皆呵呵と称す、故に呵呵と名づく。云何が奈何と名づくる、其の地獄の中に罪を受くる衆生は、苦痛酸切にして帰依する所なく、皆奈何と称するが故に奈何と名づく。云何が羊鳴と名づくる、其の地獄の中に罪を受くる衆生は、苦痛身を切り、声語を挙げんと欲するも舌転ずること能わず、直(た)だ羊鳴の如くなるが故に羊鳴と名づく。云何が須乾提と名づくる、其の地獄の中は挙獄皆黒く、須乾提華の色の如くなるが故に須乾提と名づく。云何が優鉢羅と名づくる、其の地獄の中は挙獄皆青く、優鉢羅華の如くなるが故に優鉢羅と名づく。云何が俱物頭と名づくる、其の地獄の中は挙獄皆紅にして、俱物頭華の色の如くなるが故に俱物頭と名づく。云何が分陀利と名づくる、其の地獄の中は挙獄皆白く、分陀利華の色の如くなるが故に分陀利と名づく。云何が鉢頭摩と名づくる、其の地獄の中は挙獄皆赤く、鉢頭摩華の色の如くなるが故に鉢頭摩と名づく」と云い、又「立世阿毘曇論巻1地動品」に、「この寒地獄は一を頞浮陀と名づけ、二を涅浮陀と名づけ、三を阿波波と名づけ、四を阿吒吒と名づけ、五を嚘吼吼と名づけ、六を鬱波縷と名づけ、七を拘物頭と名づけ、八を蘇健陀と名づけ、九を分陀利固と名づけ、十を波頭摩と名づく」と云えり。これ寒地獄に総じて十処ありとなすの説なり。然るに「大毘婆沙論巻172」、「瑜伽師地論巻4」、「倶舎論巻11」等には皆唯八処を立つ。即ち倶舎論に、「復た余の八寒㮈落迦あり、其の八とは何ぞ。一に頞部陀
arbuda、二に尼刺部陀 nirarbuda、三に頞哳吒 aTaTa、四に臛臛婆 hahava、五に虎虎婆 huhuva、六に嗢鉢羅 utpala、七に鉢特摩
padma、八に摩訶鉢特摩 mahaa- padma なり。此の中の有情は厳寒に逼られ、身と声と変ずるに随って以って其の名を立つ。此の八は並びに瞻部州の下、前の所説の如き大地獄(即ち八大熱地獄)の傍に居る」と云えるこれなり。これ上の十寒地獄の中、須乾提、拘物頭、分陀利の三を除き、摩呵鉢特摩を加えたるものなるが如し。「倶舎論光記巻11」に八寒地獄の名称を釈し「頞部陀は此に皰と云う。厳寒身に逼りて其の身に皰を生ずるなり。尼刺部陀は此に皰裂と云う、厳寒身に逼りて身皰裂するなり。次の三は寒逼りて口に異声を出すなり。嗢鉢羅は此に青蓮華と云う、厳寒逼切して身変じて拆裂すること青蓮華の如し。鉢特摩は此に紅蓮華と云う、厳寒逼切して身変じて拆裂すること紅蓮華の如し。摩訶鉢特摩は此に大紅蓮華と云う、厳寒逼切して身変じて拆裂すること大紅蓮華の如し」と云えり。之に依るに頞部陀、尼刺部陀及び後の嗢鉢羅等の三は身相の異変に依り、頞哳吒、臛臛婆、虎虎婆の三は苦痛の声に依りて其の名を立つるものなるを知るべし。蓋し地獄は八熱地獄を根本とし、寒地獄は即ち其の従なるが如く、「増一阿含経巻36」、「大智度論巻16」等には唯八熱を大地獄とし、寒地獄を十六小地獄に摂せり。「増一阿含経巻36」に還活等の八大地獄を挙げ、其の下に「一一の地獄に十六隔子あり。其れを優鉢地獄、鉢頭地獄、拘牟頭地獄、分陀利地獄、未曽有地獄、永無地獄、愚惑地獄、縮聚地獄、刀山地獄、湯火地獄、火山地獄、灰河地獄、荊棘地獄、沸屎地獄、剣樹地獄、熱鉄丸地獄と名づく」と云い、「大智度論巻16」に、「かくの如き等の種種の八大地獄に復た十六の小地獄ありて眷属と為す。八寒氷と八炎火となり。其の中の罪毒見聞すべからず。八炎火地獄とは、一を炭坑と名づけ、二を沸屎と名づけ、三を焼林と名づけ、四を剣林と名づけ、五を刀道と名づけ、六を鉄刺林と名づけ、七を鹹河と名づけ、八を銅橛と名づく。これを八と為す。八寒氷地獄とは、一を頞部陀(少多孔あり)と名づけ、二を尼羅浮陀(孔なし)と名づけ、三を阿羅邏(寒にして戦くの声)と名づけ、四を阿婆婆(亦寒を患うるの声)と名づけ、五を睺睺(亦これ寒を患うるの声)と名づけ、六を漚波羅(此の地獄の外壁は青蓮花に似たり)と名づけ、七を波頭摩(紅蓮華、罪人は中に生じて苦を受くるなり)と名づけ、八を摩訶波頭摩と名づく。これを八と為す」と云えり。此の中、大智度論所説の八寒氷地獄は前引倶舎論所出の八寒地獄に全く同じく、又増一阿含経所説の中、優鉢、鉢頭、拘牟頭、分陀利等は、前引長阿含等の十寒地獄中の優鉢羅等に合するを見るべし。これ寒地獄を以って八大熱地獄所属の小地獄となすの説なり。又眷属の小地獄に関し、「正法念処経巻5以下巻15地獄品」には、活地獄及び黒縄地獄には、屎泥、刀輪、瓮熟、乃至空中受苦等の十六別処、合地獄には大量受苦悩処、割刳処、脈脈断処、乃至鉄火末処等の十六別処、叫喚地獄には大吼、普声、髪火流、乃至分別苦の十六別処、大叫喚地獄には吼吼、受苦無有数量、受堅苦悩不可忍耐、乃至十一炎等の十八別処、燋熱地獄には、大焼、分荼梨迦、龍旋、乃至金剛嘴蜂の十六別処、大燋熱地獄には一切方処、大身悪吼可畏処、火髻処、乃至木転等の十六別処、阿鼻地獄には烏口、一切向地、無彼岸常受苦悩、乃至十一焔等の十六別処ありと云い、又「観仏三昧海経巻5観相品」には、阿鼻地獄に十八の寒地獄、十八の黒闇地獄、十八の小熱地獄、十八の刀輪地獄、十八の剱輪地獄、十八の火車地獄、十八の沸屎地獄、十八の鑊湯地獄、十八の灰河地獄、五百億の剱林地獄、五百億の刺林地獄、五百億の銅柱地獄、五百億の鉄機地獄、五百億の鉄網地獄、十八の鉄窟地獄、十八の鉄丸地獄、十八の尖石地獄、十八の飲銅地獄ありとし、広く十八種小地獄の相を明せり。地獄の処所に関しては、前引「長阿含経巻19」並びに「大楼炭経巻2泥犁品」等に、大海の周囲を繞る大金剛山と第二の大金剛山との中間に在りと云い、「立世阿毘曇論巻1地動品」にも、「両界の中間は、其の最狭処は八万由旬にして下に在りて底なく、上に向うも覆うことなし。其の最広処は十六万由旬なり」と云えり。これ地獄を以って鉄囲山外に在りとなすの説なり。然るに「大毘婆沙論巻172」、「倶舎論巻11」等には瞻部州の下、二万由旬を過ぎて無間大地獄あり、余の七地獄は次第に其の上に重累し、或は傍布すとなせり。即ち大毘婆沙論に「問う、地獄は何の処に在りや。答う、多分は此の瞻部州の下に在り。云何が安立する、答う、有説は此の洲より下、四万踰繕那にして無間地獄の底に至る。無間地獄は縦広高下各二万踰繕那なり。次上の一万九千踰繕那の中に余の七地獄を安立す。謂わく次上に極熱地獄あり、次上に熱地獄あり、次上に大㘁叫地獄あり、次上に㘁叫地獄あり、次上に衆合地獄あり、次上に黒縄地獄あり、次上に等活地獄あり。此の七地獄は一一の縦広万踰繕那なり。次上の余に一千踰繕那あり。五百踰繕那はこれ白墡、五百踰繕那はこれ泥なりと。有説は此の洲より下、四万踰繕那にして無間地獄に至る。無間地獄は縦広高下各二万踰繕那なり。次上に三万五千踰繕那あり、余の七地獄を安立す。一一縦広高下各五千踰繕那なり。次上の余に五千踰繕那あり、千踰繕那は青色の土、千踰繕那は黄色の土、千踰繕那は赤色の土、千踰繕那は白色の土、五百踰繕那は白墡、五百踰繕那はこれ泥なりと。有説は無間地獄は中央に在り、余の七地獄は周廻囲遶す。今の聚落の大城を囲遶するが如しと。問う、若し爾らば、施設論の説当に云何が通ずべき。説くが如き瞻部州の周囲は六千踰繕那三踰繕那半なりと。一一の地獄は其の量広大なり、云何が此の洲の下に於いて相容受するを得べき。(中略)答う、此の瞻部州は上は尖り下は闊く、猶お穀聚の如し。故に容受することを得るなり」と云えるその説なり。又孤地獄及び辺地獄あり、上記大小の諸地獄に属せず。四洲の中、江河山辺、或は地下空中等に在り。又大地獄が有情の増上共業力の所引なるに対し、孤地獄等は各別業の所感にして、或は多或は一二等の有情の所止とせらるるなり。又須弥山世界は唯一種に止まらず、十方にも存すとなすが故に、随って他方の世界にも各亦地獄あり。「大智度論巻62」に、「若し此の間に火劫起こるも、其の罪未だ尽きざるが故に転じて他処に至り、十方世界の大地獄の中に罪を受く。若し彼の間に火劫起こらば復た展転して他方に至り、他方に火劫起こらば復た還って此の間の阿鼻地獄中に生じ、展転して前の如し」と云い、「倶舎論巻12」に、「乃至地獄に一の有情なき、爾の時を名づけて地獄已に壊すと為す。諸の地獄定受業ある者は、業力引きて他方の獄中に置く」と云える即ち其の説なり。又堕獄の業因に関しては「長阿含経巻19の偈」に、「身に不善業を為し、口意も亦不善なれば、斯れ想地獄に堕す。怖懼して衣毛竪つ。悪意もて父母、仏及び諸の声聞に向わば則ち黒縄獄に堕す。苦痛称るべからず。但だ三悪業を造り、三善行を修せざれば、堆圧地獄に堕す。苦痛称るべからず。瞋恚して毒害を懐き、殺生して血は手を汚し、諸の雑悪行を造らば叫喚地獄に堕す。常に衆の邪見を習い、愛網の覆う所と為り、斯の卑陋の行を造らば大叫喚獄に堕す。常に焼炙の行を為し、諸の衆生を焼炙せば焼炙地獄に堕し、長夜に焼炙を受く。善果の業と善果の清浄道を捨て、衆の弊悪の行を為さば大焼炙獄に堕す。極重の罪行を為さば必ず悪趣の業を生じ、無間地獄に堕し、罪を受くること称るべからず」と云い、又「仏為首迦長者説業報差別経」には、「復た十業あり、能く衆生をして地獄の報を得しむ。一には身に重悪業を行じ、二には口に重悪業を行じ、三には意に重悪業を行じ、四には断見を起し、五には常見を起し、六には無因見を起し、七には無作見を起し、八には無見を起し、九には辺見を起し、十には恩報を知らず。この十業を以って地獄の報を受く」と云い、「大智度論巻30」、「十地経論巻4」等には、上品の悪業を造る者は地獄に堕すと云い、此の他、諸経論に其の説更に甚だ多し。又獄中の罪人の寿量に関しては「倶舎論巻11」に、「四大王等の六欲天の寿を、其の次第の如く等活等の六㮈落迦の一昼一夜と為し、寿量は次第の如く亦彼の天に同じ。謂わく四大王の寿量の五百を等活地獄に於いて一昼一夜と為し、此の昼夜に乗じて月及び年を成じ、かくの如き年を以って彼の寿五百なり。乃至他化の寿万六千を炎熱地獄に於いて一昼一夜と為し、此の昼夜に乗じて月及び年を成じ、彼の寿は斯の如く万六千歳なり。極熱地獄の寿は半中劫、無間地獄の寿は一中劫なり。(中略)寒那落迦は云何なる寿量なりや。世尊は喩に寄せて彼の寿を顕して言わく、此の如く人間の佉梨二十にして摩揭陀国の一の麻婆訶の量を成ず。巨勝を置きて其の中に平満することあらんに、設い復た人ありて百年に一を除き、かくの如くして巨勝は尽くる期あること易きも頞部陀に生ずる寿量は尽くること難し。此の二十倍を第二の寿と為し、かくの如く後後は二十倍増す。これを八寒地獄の寿量と謂う」と云い、又「立世阿毘曇論巻7寿量品」には、「仏世尊説く、人中の二万歳はこれ阿毘止獄の一日一夜なり、此の日夜に由りて三十日をお一月と為し、十二月を一年と為し、此の年数に由りて多年他百年多千年多百千年、此の獄中に於いて熟業の果報を受く。この中の生に於いて最も極長なる者は一劫の寿命なり。人中の六千歳はこれ閻羅獄の一日一夜なり、此の日夜に由りて三十日を一月となし、十二月を一年と為し、此の年数に由りて多年他百年多千年多百千年、此の獄中に於いて熟業の報を受く」と云い、又「優婆塞戒経巻7業品」にも諸天の寿に比して八熱地獄の寿量を叙述する所あり。又「中阿含巻12天使経」、「雑阿含経巻48」、「起世本因経巻2」、「大般涅槃経巻19」、「優婆塞戒経巻7」、「四泥犁経」、「泥犁経」、「五苦章句経」、「集異門足論巻11」、「大智度論巻9、巻39」、「三法度論巻下」等に出づ。<(望) |
|
|
|
宿業因緣冷風來吹。獄卒喚之咄諸罪人還活。以是故名活地獄。即時平復復受苦毒。 |
宿業の因縁の冷風来たりて吹き、獄卒、之を『咄(とつ)』と喚(よ)ぶに、諸の罪人、還た活くれば、是を以っての故に、活地獄と名づけて、即時に平復して、復た苦毒を受く。 |
『宿業』の、
『因縁』で、
『獄卒』が、
『罪人』を、
『咄(とつ)!』と、
『喚(よ)ぶ!』と、
諸の、
『罪人』が、
『還た!』、
『活きかえる!』ので、
是の故に、
『活地獄』と、
『称される!』が、
即時に、
『平常のように!』、
『回復すれば!』、
復た、
『苦の毒』を、
『受けることになる!』。
|
咄(とつ):呼びかける声。おいこら。 |
|
|
|
此中眾生以宿行因緣好殺物命。牛羊禽獸。為田業舍宅奴婢妻子國土錢財故而相殺害。如是等種種殺業報故。受此劇罪。 |
此の中の衆生は、宿行の因縁を以って、物の命を殺すを好み、牛羊、禽獣を、田業、舎宅、奴婢、妻子、国土、銭財の為の故に、相殺害すれば、是の如き等、種種の殺業の報の故に、此の劇罪を受く。 |
此の中の、
『衆生』は、
『宿業の因縁』の故に、
『物( 他)の命』を、
『殺す!』ことを、
『好み!』、
『牛羊、禽獣』を、
『田業』、
『舎宅』、
『奴婢』、
『妻子』、
『国土』、
『銭財』の為に、
『殺害した!』ので、
是れ等の、
種種の、
『殺業』の、
『報』の故に、
此の、
『劇しい罪』を、
『受けるのである!』。
|
物命(もつみょう):衆生の命。物は我に対す、自分以外の事物の意。
田業(でんごう):農業。 |
|
|
|
見黑繩大地獄中罪人。為惡羅刹獄卒鬼匠。常以黑熱鐵繩。拼度罪人。以獄中鐵斧教之斫之。長者令短短者令長。方者使圓圓者使方。斬截四肢卻其耳鼻落其手足。以大鐵鋸解析揣截。破其肉分臠臠稱之。 |
黒縄大地獄中を見るに、罪人、悪羅刹の獄卒の鬼匠と為り、常に黒き熱鉄の縄を持って、罪人を拼度し、以って獄中の鉄斧に之を教えて、之を斫(き)らしむ。長き者は短からしめ、短き者は長からしめ、方なる者は円ならしめ、円なる者は方ならしめ、四肢を斬截して、其の耳、鼻を却(のぞ)き、其の手、足を落とし、大鉄鋸を以って、解析し、揣截し、其の肉分を破りて、臠臠と之を称す。 |
『黒縄大地獄』中を見てみると、――
『罪人』が、
『悪羅刹( 悪鬼)』の、
『獄卒の鬼匠( 鬼の大工)』であり、
常に、
『黒い!』、
『熱鉄の縄』を、
『弾いて!』、
『罪人』に、
『度(目盛り)』を、
『付け!』、
『獄中の鉄斧』に、
『度』を、
『教えて!』、
『罪人』を、
『切断させる!』。
『罪人』の、
『長い!』者は、
『短く!』、
『短い!』者は、
『長く!』、
『四角い!』者は、
『円く!』、
『円い!』者は、
『四角く!』、
『罪人』の、
『四肢』を、
『切断させ!』、
其の、
『耳、鼻』を、
『取り除き!』、
其の、
『手、足』を、
『切り落として!』、
『鉄の大鋸』に、
『胴』を、
『解きほぐさせたら!』、
『度を測って切らせ!』、
其の、
『肉分』を、
『破らせて!』、
それを、
『刺身だ、刺身だ!』と、
『称していた!』。
|
拼度(ひょうど):墨縄を弾いて、目盛りを付ける。
斬截(ざんせつ):切り落とす。
却(きゃく):のぞく、取り除く( get rid of )。
解析(げしゃく):解きほぐす。
揣截(すいせつ):測って切る( measure and cut )。
臠臠(れんれん):臠は薄切り肉( sliced meat )。 |
|
|
|
此人宿行因緣讒賊忠良。妄語惡口兩舌無義語枉殺無辜。或作姧吏酷暴侵害。如是等種種惡口讒賊故受此罪。 |
此の人の宿行の因縁は、忠良を讒賊し、妄語、悪口、両舌、無義語もて、無辜を抂殺し、或は奸吏と作りて、酷暴に侵害す。是の如き等の種種の悪口して讒賊するが故に、此の罪を得。 |
此の、
『人』の、
『宿行の因縁』は、
『忠実で!』、
『善良な!』、
『妄語』や、
『悪口』、
『両舌』、
『無義語( 綺語)』を用いて、
『無実の人』を、
『法を曲げて!』、
『殺す!』とか、
或は、
『奸吏( 悪役人)』と、
『作って!』、
『冷酷、横暴』に、
『人』を、
『侵害した!』。
是れ等のように、
種種の、
『悪口』で、
『人』を、
『陥れ!』、
『傷つけた!』が故に、
此の、
『罪』を、
『受けたのである!』。
|
讒賊(ざんぞく):讒は中傷する/陰口をする( slander, backbite )、賊は残酷に傷つける/殺す( cruelly indure or
kill )。
忠良(ちゅうりょう):忠実善良。
無辜(むこ):罪が無い。無罪。
枉殺(おうせつ):法を抂げて殺す。
奸吏(かんり):悪役人。
酷暴(こくぼう):残酷横暴。 |
|
|
|
見合會大地獄中。惡羅刹獄卒作種種形。牛馬豬羊獐鹿狐狗虎狼師子六駮大鳥鵰鷲鶉鳥。作此種種諸鳥獸頭。而來吞噉咬嚙䶩掣罪人。 |
合会大地獄中を見るに、悪羅刹の獄卒は種種の形を作す。牛、馬、猪、羊、獐、鹿、狐、狗、虎、狼、師子、六駮、大鳥、鵰鷲、鶉鳥、此の種種諸の鳥獣の頭を作して、来たりて罪人を呑噉し、咬嚙し、䶩掣す。 |
『合会大地獄』中を見てみると、――
『悪羅刹』の、
『獄卒』が、
『牛』、
『馬』、
『猪( ブタ)』、
『羊』、
『獐( ノロジカ)』、
『鹿』、
『狐』、
『狗( イヌ)』、
『虎』、
『狼』、
『師子( ライオン)』、
『六駮( ウマ)』、
『大鳥』、
『鵰鷲( ワシ)』、
『鶉鳥( ウヅラ)』、
此の、
諸の、
『鳥獣の頭』と、
『作って!』、
『来る!』と、
『罪人』を、
『呑込み!』、
『噛みつき!』、
『囓って!』、
『引っぱった!』。
|
獐鹿(しょうろく):シカの類。
六駮(ろくはく):ウマの類。
鵰鷲(しゅうじゅ):ワシの類。( eagle and condor )。
鶉鳥(じゅんちょう):ウズラ、キジの類。
呑噉(どんたん):飲み込んで喰らう。
咬嚙(こうこう):かむ。
䶩掣(さいせい):䶩は齧の意に同じ。噛んで引きちぎる。 |
|
|
|
兩山相合大熱鐵輪轢諸罪人令身破碎。熱鐵臼中搗之令碎。如笮蒲桃亦如壓油。譬如蹂場聚肉成[卄/積]。積頭如山。血流成池。鵰鷲虎狼各來諍掣。 |
両山相合して、大熱鉄の輪、諸の罪人を轢き、身をして破砕せしむ。熱鉄の臼中に、之を搗きて砕けしむること、蒲桃を搾るが如く、亦た油を圧すが如し。譬えば蹂場の如く、肉を聚めて[(草-早)/積]を成し、頭を積みて山の如く、血流れて池を成すに、鵰鷲、虎狼、各来たりて諍いて掣(ひ)く。 |
『両( ふたつ)の山』が、
『大熱鉄の車輪』が、
諸の、
『罪人』を、
『轢(ひい)て!』、
『罪人』の、
『身』を、
『破砕し!』、
『熱鉄の臼』中で、
之を、
『搗( つ)いて!』、
『砕く!』と、
まるで、
『葡萄』を、
『搾ったか!』、
『油』を、
『圧搾したようであった!』。
譬えば、
『洗濯場のように!』、
『肉』を、
『集めて!』、
『薪のように!』、
『積みかさね!』、
『頭』を、
『血』が、
『鵰鷲』や、
『虎』や、
『狼』が、
|
轢(りゃく):車でふみつぶす。
搗(とう):臼でつく。
笮(さく):しぼる。
蒲桃(ふとう):葡萄。
蹂場(にゅうじょう):蹈み洗いの洗濯場。
聚肉(じゅにく):集められた肉。
[(草-早)/積](しゃく):薪の堆積。
諍掣(じょうせい):諍って引っぱる。 |
|
|
|
此人宿業因緣多殺牛馬豬羊獐鹿狐兔虎狼師子六駮大鳥眾鳥。如是等種種鳥獸多殘賊故還為此眾鳥獸頭來害罪人。 |
此の人の、宿業の因縁は、多く牛、馬、猪、羊、獐、鹿、狐、兔、虎、狼、師子、六駮、大鳥、衆鳥を殺し、是の如き等種種の鳥獣を、多く残賊せしが故に、還って此の衆の鳥獣の頭、来たりて罪人を害す。 |
此の、
『人』の、
『宿業の因縁』は、
『牛』、
『馬』、
『猪』、
『羊』、
『獐』、
『鹿』、
『狐』、
『兔』、
『虎』、
『狼』、
『師子』、
『六駮』、
『大鳥』、
『衆鳥』を、
『多く!』、
『殺した!』、
是れ等のような、
種種の、
『鳥獣』を、
『多く!』、
『残酷に殺し!』、
『残酷に傷つけた!』が故に、
還って、
此の、
『多く!』の、
『鳥』や、
『獣』の、
『頭』が、
『来て!』、
『罪人』を、
『害するのである!』。
|
残賊(ざんぞく):残酷に損なう。残殺。 |
|
|
|
又以力勢相陵枉壓羸弱。受兩山相合罪。慳貪瞋恚愚癡怖畏故。斷事輕重不以正理。或破正道轉易正法。受熱鐵輪轢熱鐵臼搗。 |
又力勢を以って、相陵(しの)ぎ、羸弱を枉圧すれば、両山相合する罪を受く。慳貪、瞋恚、愚癡、怖畏の故に、事の軽重を断ずるに、正理を以ってせず、或は正道を破りて、正法を転易すれば、熱鉄の輪に轢かれ、熱鉄の臼に搗かるるを受く。 |
又、
『力勢』を、
『法』を、
『曲げて!』、
『弱者』を、
『圧迫した!』が故に、
『両の山』が、
『慳貪』や、
『瞋恚』や、
『愚癡』や、
『怖畏』の故に、
『事』の、
『軽いか?』、
『重いか?』を、
『断じる!』のに、
『正理』を、
『用いず!』、
或は、
『正法』を、
『破り!』、
或は、
『正法』を、
『改変した!』が故に、
『熱鉄』の、
『車輪』に、
『轢かれ!』、
『熱鉄』の、
『臼』に、
『搗かれる!』、
『罪』を、
『受けるのである!』。
|
陵(りょう):しのぐ。勢力で圧迫する。凌。
枉圧(おうあつ):法を曲げて圧迫する。
羸弱(るいにゃく):劣弱。
転易(てんやく):改変。 |
|
|
|
第四第五名叫喚大叫喚。此大地獄其中罪人羅刹獄卒頭黃如金。眼中火出著赤色衣。身肉堅勁走疾如風。手足長大口出惡聲。捉三股叉 |
第四、第五を叫喚、大叫喚と名づけ、此れ大地獄なり。其の中の罪人の羅刹の獄卒は、頭の黄なること金の如く、眼中より火出で、赤色の衣を著け、身肉堅勁にして、走れば疾きこと風の如く、手足長大にして、口より悪声を出し、三股叉を捉る。 |
『第四』と、
『第五』とを、
『叫喚』と、
『大叫喚』と、
『称する!』
『大地獄である!』、――
此の、
『大地獄』中の、
『罪人』の、
『羅刹の獄卒』は、
『頭』は、
『黄』で、
『金のようであり!』、
『眼』中より、
『火』が、
『出て!』、
『身』に、
『赤色の衣』を、
『着け!』、
『身肉』は、
『強健で!』、
『力強く!』、
『風のように!』、
『疾く!』、
『走り!』、
『手、足』は、
『長く!』、
『大きく!』、
『口』より、
『悪声』を、
『出し!』、
『手』に、
『三股叉』を、
『捉る!』。
|
叫喚(きょうかん):叫んで大声でわめく。
堅勁(けんきょう):強毅不屈。勁は堅強有力( strong and powerful )。
三股叉(さんこしゃ):三股の槍。 |
|
|
|
箭。墮如雨刺射罪人。罪人狂怖叩頭求哀。小見放捨小見憐愍。即時將入熱鐵地獄縱廣百由旬。驅打馳走足皆焦然。脂髓流出如笮蘇油。鐵棒棒頭頭破腦出如破酪瓶。斫剉割剝身體糜爛。 |
箭の堕つること雨の如く、罪人を刺射するに、罪人狂怖して、叩頭して哀を求むれば、小(しばら)く放捨され、小く憐愍さるるも、即時に将いて熱鉄地獄に入る。縦広百由旬、駆打して馳走せしむれば、足は皆焦然し、脂髄の流出すること蘇油を搾るが如く、鉄棒もて頭を棒つに、頭破れて脳の出づること、酪瓶を破るが如く、斫剉し割剥して、身体糜爛す。 |
『箭』が、
『雨のように!』、
『降る!』と、
『罪人』は、
『狂ったように!』、
『怖れ!』、
『頭』を、
『地に打ちつけて!』、
『哀れみを乞う!』ので、
『少しの間』、
『放置され!』、
『少しの間』、
『憐愍される!』が、
即時に、
『将いられて!』、
『熱鉄地獄』に、
『入れられる!』。
『縦広百由旬』の、
『熱鉄地獄』では、
『駆られ!』、
『打たれて!』、
『馳走する!』ので、
『両足とも!』、
『焼け!』、
『燋げて!』、
『脂、髄』が、
『鉄の棒』で、
『頭』を、
『撲られ!』、
『頭』が、
『破れて!』、
まるで、
『酪( クリーム)』の、
『瓶』が、
『破れたように!』、
『脳』が、
『出た!』。
『身』を、
『斧』で、
『ぶった切られ!』、
『骨』を、
『杖』で、
『へし折られ!』、
『頭』を、
『棒』で、
『割られ!』、
『皮』を、
『刀』で、
『剥がれて!』、
『身体』が、
『腐り!』、
『爛れる!』。
|
刺射(ししゃ):箭を射て刺す。
狂怖(ごうふ):狂い怖じける。
駆打(くだ):追いかけて打つ。
焦然(しょうねん):焼け焦げたるさま。
蘇油(そゆ):エゴマの油。
酪(らく):動物の乳汁を用いて作る半凝固の食品( cream, cheese, koumiss )。
斫剉(しゃくざ):斫はぶった切ること、剉は折傷すること。
割剝(かつはく):二つに割って、皮を剥ぐ。
糜爛(びらん):骨の髄まで腐り爛れる( rotten to the core )。腐爛。 |
|
|
|
而復將入鐵閣。屋間黑煙來熏。互相推壓更相怨毒。皆言何以壓我纔欲求出其門以閉。大聲嗥呼音常不絕。 |
而して復た将いて鉄閣に入れ、屋間に黒煙来たりて熏し、互いに相推圧して、更に相怨毒し、皆、『何を以ってか我れを圧す』、と言い、纔(わず)かに、其の門を出づるを求めんと欲するも、閉づるを以って、大声嗥呼として、音常に絶えず。 |
やがて、
復た、
『将いられて!』、
『鉄閣』に、
『入る!』と、
『室内』には、
『黒煙』が、
『出て!』、
『熏す!』ので、
互いに、
『推し合い!』、
『圧し合い!』、
互いに、
『恨んで!』、
『憎み合い!』、
皆、
『何故、わたしを圧すのか?』と、
『言いながら!』、
僅かに、
『門』が、
『閉じられる!』と、
『大声』に、
『咆吼し!』、
『叫喚して!』、
『音』が、
『常に!』、
『絶えることがない!』。
|
鉄閣(てっかく):鉄の建物。
屋間(おくけん):家の中。
推圧(すいあつ):力を入れておす。
纔(ざい):わずかに。僅々( just, only )。
怨毒(おんどく):恨み憎む。怨恨( enmity )。
嗥呼(ごうこ):野獣のように吼えて喚く。 |
|
|
|
此人宿行因緣。皆由斗秤欺誑非法斷事。受寄不還。侵陵下劣。惱諸窮貧令其號哭。破他城郭壞人聚落傷害劫剝。室家怨毒舉城叫喚。有時譎詐欺誑誘之。令出而復害之。如是等種種因緣故。受如此罪。 |
此の人の宿行の因縁は、皆斗秤を欺誑し、非法に事を断じて、寄を受けて還さず、下劣を侵陵して、諸の貧窮を悩まし、其れをして号哭せしめ、他の城郭を破りて、人の聚落を壊し、傷害し劫剥して、室家怨毒し、城を挙げて叫喚するに由る。有るいは時に、譎詐欺誑して、之を誘い、出でしめて、復た之を害す、是の如き等種種の因縁の故に、此の如き罪を受く。 |
此の、
『人』の、
『宿行の因縁』は、
皆、以下に由る、――
『斗( マス)』や、
『称( ハカリ)』を、
『欺誑(ゴマカシ)し!』、
『非法』に、
『事』を、
『裁断し!』、
『寄( 委託物)』を、
『受けて!』、
『還さず!』、
『下賎』を、
『侵し!』、
『凌いで!』、
諸の、
『他』の、
『城郭』や、
『聚落』を、
『破って!』、
『壊し!』、
『人』を、
『傷つけて!』、
『殺害し!』、
『財産』を、
『劫(うば)って!』、
『剥ぎ!』、
『夫婦』は、
『恨んで!』、
『憎み合い!』、
『城』を、
『挙げて!』、
『叫喚し!』、
有る時には、
『悪賢く!』、
『欺し取ろう!』として、
『誘い出して!』、
その上、
『殺害する!』
是れ等のような、
種種の、
『因縁』の故に、
此のような、
『叫喚地獄』の、
『罪』を、
『受けるのである!』。
|
斗秤(とひょう):マスとハカリ。
断事(だんじ):判決を下す。
寄(き):委託、託附( entrust )。
侵陵(しんりょう):他の領分を侵す。
下劣(げれつ):力の劣る者。下賎( mean )。
号哭(ごうこく):声を挙げて泣く。
劫剥(ごうはく):さらい剥ぎとる。
室家(しっけ):妻と夫。夫婦。家族。家庭。
譎詐(けっさ):ずるい/悪賢い( cunning, crafty )。
欺誑(ごこう):欺し取る/横領する( defraud, cheat, swindle )。 |
|
|
|
大叫喚地獄中人。皆坐熏殺穴居之類。幽閉囹圄或闇煙窟中而熏殺之。或投井中劫奪他財。如是等種種因緣。受大叫喚地獄罪。 |
大叫喚地獄中の人は、皆、穴居の類を熏殺し、囹圄に幽閉し、有るいは闇の煙窟中にて、之を熏殺し、或は井中に投げて、他の財を劫奪するに坐(よ)る。是の如き等の種種の因縁に、大叫喚地獄の罪を得。 |
『大叫喚地獄』中の、
『人』は、
皆、
『穴居の類( 狐、狸、鼠等)』を、
『熏して!』、
『殺し!』、
『牢獄』に、
『幽閉し!』、
或は、
『闇い煙窟』中に、
『幽閉して!』、
之を、
『熏して!』、
『殺した!』か、
或は、
『井( イド)』中に、
『投げ込んで!』、
『他』の、
『財』を、
『劫奪したからである!』。
是れ等の、
種種の、
『因縁』の故に、
『大叫喚地獄』の、
『罪』を、
『受けるのである!』。
|
坐(ざ):よる/因、由。~に由る( because )。又罪が定まる/罪を獲る( be punished )。
熏殺(くんせつ):キツネ、タヌキ、ネヅミ等を煙で熏して殺す。
囹圄(りょうご):牢屋。牢獄。ひとや。
劫奪(ごうだつ):さらい奪う。 |
|
|
|
第六第七熱大熱地獄。中有二大銅鑊。一名難陀二名跋難陀(秦言喜大喜也)鹹沸水滿中。羅刹鬼獄卒以罪人投中。如廚士烹肉。人在鑊中腳上頭下。譬如煮豆熟爛。骨節解散皮肉相離。 |
第六と第七とは熱と大熱地獄なり。中に二の大銅鑊有り、一を難陀と名づけ、二を跋難陀と名づく。鹹(から)き沸水の満てる中に、羅刹鬼の獄卒、罪人を以って中に投ずること、廚士の肉を烹(に)るが如し。人、鑊中に在るに脚は上、頭は下となり、譬えば豆を煮て、熟爛するが如く、骨節解散し皮肉相離る。 |
『第六』と、
『第七』は、
『熱地獄』と、
『大熱地獄である!』、――
此の中に、
『二つ!』の、
『大銅鑊』が有り、
一を、
『難陀(喜ばせる!)』と、
『呼び!』、
二を、
『跋難陀(幸福に近づく!)』と、
『呼ぶ!』。
此の中に、
『沸いた!』、
『鹹水』を、
『満たし!』、
『羅刹鬼の獄卒』が、
『罪人』を、
『投げ込む!』が、
まるで、
『料理人』が、
『肉』を、
『煮るようである!』。
『人』は、
『銅鑊』中に於いて、
『脚』が、
『上になり!』、
『頭』が、
『下になり!』して、
譬えば、
『豆』を、
『煮て!』、
『煮崩れたように!』、
『骨』と、
『節』とが、
『ばらばらになり!』、
『皮』と、
『肉』とが、
『離ればなれになる!』。
|
銅鑊(どうかく):銅の大釜。鑊は食物を茹でる/煮るための大釜。
難陀(なんだ):梵語 nanda、喜び/喜ばせる/幸福( joy, delight, happiness )の義。
跋難陀(ばなんだ):梵語 upananda 、難陀に近づく( near to happiness )の義。
鹹(げん)塩からいこと。
沸水(ふっすい):沸き上がった水。
廚士(ちゅうし):料理人。
烹(ほう):にる/ゆでる( boil )。
叉(しゃ):さすまた。フォーク。また突き刺すこと。
熟爛(じゅくらん):熟は丁度良く煮えた状態( well cooked )、爛は煮すぎた状態( excessively boiled )。 |
|
|
|
知其已爛以叉叉出。行業因緣冷風吹活。復投炭坑中。或著沸屎中。譬如魚出於水而著熱沙中。又以膿血而自煎熬。從炭坑中出。投之焰床強驅令坐。眼耳鼻口及諸毛孔一切火出。 |
其の已に爛ずるを知り、叉を以って叉(さ)して出す。行業の因縁の冷風吹きて、活くれば、復た炭坑中に投じ、或は沸屎中に著(お)く。譬えば魚を水より出して、熱沙中に著くが如し。又膿血を以って、自ら煎熬す。炭坑中より出して、之を焔床に投じ、強いて駆りて坐せしむれば、眼、耳、鼻、口、及び諸の毛孔の一切より火出づ。 |
『獄卒』が、
其の、
『煮えすぎた!』のを、
『知って!』、
『叉( フォーク)』で、
『刺して!』、
『出す!』と、
『行業の因縁』の、
復た、
或は、
譬えば、
『魚』を、
『水』より、
『出して!』、
『熱い!』、
『砂』中に、
『置くようなものである!』。
又、
『膿』と、
『血』とで、
『自ら!』を、
『煎り煮し!』、
『炭』の、
『坑(あな)』より、
『出される!』と、
『焔』の、
『床』に、
『投げられ!』、
『眼』と、
『耳』と、
『鼻』と、
『口』と、
『諸の毛孔』の、
|
炭坑(たんこう):石炭を燃やす坑。
沸屎(ふっし):沸いた糞。
熱沙(ねっしゃ):熱砂。
煎熬(せんごう):いる。水分がなくなるまで煮詰める。
焔床(えんしょう):石炭が燃え、焔を上げる床。
強駆(ごうく):強いて追い立てる。 |
|
|
|
此人宿世惱亂父母師長沙門婆羅門。於諸好人福田中惱令心熱。以此罪故受熱地獄罪。或有宿世煮生繭。或生炙豬羊。或以木貫人而生炙之。或焚燒山野及諸聚落佛圖精舍。及天神等。或推眾生著火坑中。如是等種種因緣。生此地獄中。 |
此の人は宿世に、父母、師長、沙門、婆羅門を悩乱し、諸の好人、福田中を悩まして、心をして熱からしむ。此の罪を以っての故に、熱地獄の罪を受く。或は宿世に生ける繭を煮、或は生けるがまま、猪、羊を炙り、或は木を以って人を貫きて、生けるがまま之を炙り、或は山野、及び諸の聚落、仏図、精舎、及び天神等を焚焼し、或は衆生を推して、火坑中に著く。是の如き等の種種の因縁は、此の地獄中に生ず。 |
此の、
『人』は、
『宿世』に、
『父母』、
『師長』、
『沙門』、
『婆羅門』を、
諸の、
『好人』や、
『福田』中を、
『悩まして!』、
『心』を、
『熱くさせた!』ので、
此の、
或は、
有る、
『人』は、
『宿世』に、
或は、
『猪』や、
『羊』を、
『生きたまま!』、
『炙ったり!』、
或は、
『木』で、
『人』を、
『貫いて!』、
『生きたまま!』、
『炙ったり!』、
或は、
『山野』や、
諸の、
『仏塔』や、
『精舎』や、
諸の、
『天神の祠』等を、
『焚焼させたり!』、
或は、
『衆生』を、
『推して!』、
『火』の、
『坑』中に、
『置いた!』ので、
是れ等のような、
|
生繭(しょうけん):生きた繭。
仏図(ぶっと):仏陀の塔の意。図、或は塔は梵語窣堵波 stuupa の転訛なり。
焚焼(ぼんしょう):盛に燃やす。
火坑(かきょう):火の燃える坑。 |
|
|
|
見阿鼻地獄。縱廣四千里周迴鐵壁。於七地獄其處最深。獄卒羅刹以大鐵椎椎諸罪人。如鍛師打鐵。從頭剝皮乃至其足。以五百釘釘挓其身如挓牛皮。互相掣挽應手破裂。 |
阿鼻地獄を見るに、縦広四千里、鉄壁を周迴し、七地獄に於いて、其の処は最深なり。獄卒の羅刹、大鉄椎を以って、諸の罪人を椎(う)つこと、鍛師の鉄を打つが如し。頭より、乃至其の足まで皮を剥ぎ、五百の釘を以って其の身に釘うち、挓(ひろ)ぐること、牛皮を挓ぐるが如く、互いに相掣挽するに、手に応じて破裂す。 |
『阿鼻地獄』を見てみると、――
『縦広四千里』を、
『七地獄』よりも、
『獄卒の羅刹』は、
『鉄の大槌』で、
『鍛冶屋』が、
『鉄』を、
『打つように!』、
諸の、
『罪人』を、
『打ち!』、
『頭』から、
『足』まで、
『皮』を、
『剥いで!』、
『五百』の、
『釘』を、
『打ちつけて!』、
『牛の皮』を、
『広げるように!』、
『広げる!』と、
『身』を、
『相互に!』、
『引っぱる!』ので、
『身』は、
『手に応じて!』、
『張り裂ける!』。
|
阿鼻(あび):梵語 aviici、また阿鼻旨等に作る。無間と訳す。地獄の名。最も底に在り、最も酷烈なり。
鉄椎(てつずい):鉄槌。椎は木槌( mallet )、又椎を用いて打撃する( beat with mallet )。
鍛師(たんし):鍛冶師( forger )。
挓(だ):広げる/展開する( to open out; to expand )。
掣挽(せいめん):引く/引きずる/引っぱる( pull, drag, draw )。 |
|
|
|
熱鐵火車以轢其身驅入火坑。令抱炭出熱沸屎河驅令入中。 |
熱鉄の火車を、以って其の身を轢き、駆りて火坑に入れ、炭を抱えしめ、出して熱き沸屎の河に駆りて中に入らしむ。 |
『熱鉄』の、
『火の車』で、
其の、
『身』を、
『轢いて!』、
『駆り立て!』、
『火の坑』に、
『入らせる!』と、
『炭』を、
『抱かせ!』、
『火の坑』より、
『出す!』と、
『熱く沸いた!』、
『糞の河』中に、
『入らせる!』。
|
|
|
|
|
有鐵嘴毒虫。從鼻中入腳底出。從足下入口中出。豎劍道中驅令馳走。足下破碎如廚膾肉。利刀劍槊飛入身中。譬如霜樹落葉隨風亂墜。罪人手足耳鼻支節。皆被斫剝割截在地流血成池。 |
有るいは鉄嘴の毒虫、鼻中より入りて、脚底より出で、足下より入りて、口中より出づ。剣を竪(た)てたる道中に、駆りて馳走せしめ、足下破砕して、廚の肉を膾にするが如し。利き刀、剣、槊飛びて、身中に入ること、譬えば、霜樹の落葉の風に随いて乱れ墜つるが如し。罪人の手、足、耳、鼻、支節、皆斫、剥、割、截を被りて地に在り、流るる血は池を成す。 |
有るいは、
有るいは、
『剣』を、
『樹立した!』、
『道』を、
『駆り立てて!』、
『馳走させ!』、
『足の裏』が、
『ずたずたに!』
『裂けて!』、
『料理人』が
『肉』を、
『刺身にしたようになる!』。
有るいは、
『利い!』、
『罪人』の、
『手』や、
『足』や、
『耳』や、
『鼻』や、
『支節』は、
皆、
『切られ!』、
『剥がれ!』、
『割られ!』、
『截( た)たれて!』、
『地』に、
『在り!』、
『血』が、
|
鉄嘴(てっし):鉄のくちばし。
槊(さく):剣と長柄のほこ。
斫(しゃく):たたき切る。
剥(はく):皮をむく。
截(せつ):断ち切る。 |
|
|
|
二大惡狗一名賒摩二名賒婆羅。鐵口猛毅破人筋骨。力踰虎豹猛如師子。有大刺林驅逼罪人強令上樹。罪人上時刺便下向。下時刺便上向。大身毒蛇蝮蝎惡虫競來齧之。大鳥長嘴破頭噉腦。 |
二の大悪狗は、一を賒摩と名づけ、二を賖婆羅と名づく。鉄口猛毅にして、人の筋骨を破り、力は虎豹を踰えて、猛きこと四肢の如し。有る大刺林に、罪人を駆り逼りて、強いて樹に上らしむ。罪人の上る時、刺は便ち下に向き、下る時には刺は便ち上に向く。大身の毒蛇、蝮、蝎、悪虫競い来たりて、之を囓る。大鳥の長き嘴、頭を破りて脳を噉う。 |
『二の大悪狗』は、
一を、
二を、
『猛々しく!』、
『強い!』、
『鉄の口』で、
『力』は、
『虎、豹』を、
『踰え!』、
『猛々しさ!』は、
『師子』と、
『同じである!』。
有る、
『大きな!』、
『刺』の、
『林』に、
『罪人』を、
『駆り立てて!』、
『逼り!』、
『罪人』に、
『強いて!』、
『樹』に、
『上らせる!』。
『罪人』が、
『上る!』時には、
『刺』は、
『下を向き!』、
『下る!』時には、
『刺』は、
『上を向く!』。
『大身』の、
『毒蛇』や、
『蝮(マムシ)』や、
『蝎(サソリ)』などの、
『悪虫』が、
『競って!』、
『来て!』、
『罪人』を、
『囓る!』。
『大鳥』が、
『長い嘴』で、
『頭』を、
『破り!』、
『罪人』の、
『脳』を、
『噉う!』。
|
悪狗(あっく):悪むべき狗。
賖摩(しゃま)、賖婆羅(しゃばら):狗の名。委細不明。蓋し物を喰らう音か。
猛毅(みょうき):猛烈剛毅。猛烈につよい。
駆逼(くひつ):追いかけてせまる。 |
|
|
|
入鹹河中隨流上下。出則蹈熱鐵地行鐵刺上。或坐鐵杙杙從下入。以鉗開口灌以洋銅。吞熱鐵丸入口。口焦入咽咽爛入腹。腹然五藏皆焦直過墮地。 |
鹹河中に入り、流に随いて上、下し、出づれば則ち熱鉄の地を蹈み、鉄刺の上を行く。或は鉄の杙(くい)に坐し、杙は下より入り、鉗を以って口を開き、洋銅を以って潅ぎ、熱鉄の丸を呑ます。口に入りて口焦げ、咽に入りて咽爛れ、腹に入りて腹然(も)え、五蔵皆焦げて、直ちに過ぎて、地に堕つ。 |
『鹹い河』中に、
『入れられて!』、
『流れのまま!』に、
『上ったり!』、
『下ったりし!』、
『出れば!』、
『熱鉄』の、
『地』を、
『蹈んで!』、
『鉄』の、
『刺の上』を、
『歩き!』、
或は、
『鉄』の、
『杙(くい)』に、
『坐って!』、
『杙』が、
『下』から、
『入る!』。
『鉗( ヤットコ)』で、
『口』を、
『開かれて!』、
『溶けた!』、
『銅』を、
『潅がれ!』、
『熱い!』、
『鉄丸』を、
『呑む!』。
『鉄丸』が、
『鉄丸』は、
『五蔵』を、
皆、
『焦がしながら!』、
『直通して!』、
『地に堕ちる!』。
|
鉄杙(てつよく):鉄のくい。杙は牛馬を繋ぐくい。
鉗(かん):鉗子。金ばさみ。やっとこ。
洋銅(ようどう):溶けた銅汁。 |
|
|
|
但見惡色恒聞臭氣常觸麤澀遭諸苦痛迷悶委頓。或狂逸唐突或藏竄投擲或顛匐墮落。 |
但だ悪色を見、恒に臭気を聞き、常に麁渋に触れ、諸の苦痛に遭いて、迷悶し委頓す。或は狂逸して唐突し、或は蔵竄して投擲し、或は顛匐して堕落す。 |
但だ、
『悪むべき!』、
『色』を、
『見て!』、
『臭い!』、
『気』を、
『嗅ぎ!』、
常に、
『麁渋( ザラザラ)』に、
『触れ!』、
『諸の苦痛』に、
或は、
『狂逸(奔放)になったり!』、
『唐突(無愛想)になったりし!』、
或は、
『穴に隠れたり!』、
『物を投げたりし!』、
或は、
『転覆したり!』、
『墜落したりする!』。
|
委頓(いとん):疲乏/憔悴( tired, weary, exhausted )。
麁渋(そじゅう):ざらざらした粗い感触。
狂逸(ごういつ):気が狂って走り回る。奔放( unrestrained, untrammelled )。
唐突(とうとつ):ぶっきら棒/無愛想( brusque )。
蔵竄(ぞうざん):隠匿する。隠れる。
投擲(とうちゃく):一定の目標に向って投げる( throw, cast, hurl )。
顛匐(てんぷく):倒れふす。 |
|
|
|
此人宿行多造大惡五逆重罪。斷諸善根法言非法非法言法。破因破果憎嫉善人。以是罪故入此地獄受罪最劇。 |
此の人は、宿行に、多く大悪、五逆の重罪を造りて、諸の善根を断じ、法を非法と言い、非法を法と言いて、因を破り、果を破り、善人を憎嫉す。是の罪を以っての故に、此の地獄に入りて、罪の最も劇しきを受く。 |
此の、
『人』の、
『宿世の行業』は、
多く、
『大悪』や、
『五逆』の、
『重罪』を、
『造って!』、
諸の、
『善根』を、
『断ち!』、
『法』を、
『非法だ!』と、
『言い!』、
『非法』を、
『法だ!』と、
『言って!』、
『因、果』の、
『道理』を、
『破り!』、
『善人』を、
『憎悪し!』、
『嫉妒した!』。
是の、
『罪』の故に、
此の、
『地獄』に、
『入って!』、
『最も劇しい!』、
『罪』を、
『受けるのである!』。
|
|
|
|
|