云何布施生毘梨耶波羅蜜。 |
云何が、布施は、毘梨耶波羅蜜を生ずる。 |
何故、
『布施』は、
『毘梨耶波羅蜜』を、
『生じるのか?』、――
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毘梨耶(びりやはらみつ):梵語viirya の訳。毘梨耶( viirya )は剛毅( manliness )、勇気( valour )、強さ( strength
)、力( power )、エネルギー( energy )、男性的活力( manly vigour )、精力( virility )、男盛りの精液(
semen virile )、薬効( efficacy (of medicine ) )等の義。即ち他の五波羅蜜を実践する時、進趣して不撓不屈、能く懈怠を対治して善法を生長するを云う。『大智度論巻4(上)注:六波羅蜜、巻15(下)注:精進』参照。 |
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菩薩布施時常行精進。何以故。菩薩初發心時功德未大。爾時欲行二施充滿一切眾生之願。以物不足故。懃求財法以給足之。 |
菩薩は、布施する時、常に精進を行ず。何を以っての故に、菩薩は、初発心の時、功徳未だ大ならざれば、爾の時、二施を行じて、一切の衆生の願を充満せんと欲するも、物の足らざるを以っての故に、懃めて財、法を求めて、以って之に給足すればなり。 |
『菩薩』は、
何故ならば、
『菩薩』は、
初めて、
『発心した!』時には、
爾の時、
『財、法』の、
『二施』を、
『行って!』、
『一切の衆生』の、
『願』を、
『充足させよう!』としても、
故に、
『財』と、
『法』とを、
『苦労して!』、
『求め!』、
それを、
『用いて!』、
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懃(ごん):つとめて。勤。苦労。勤勉。 |
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如釋迦文尼佛本身。作大醫王療一切病不求名利。為憐愍眾生故。病者甚多力不周救。憂念一切而不從心。懊惱而死即生忉利天上。自思惟言。我今生天。但食福報無所長益。即自方便自取滅身。捨此天壽生婆迦陀龍王宮中為龍太子。 |
釈迦文尼仏の如し。本の身を、大医王と作して、一切の病を療して名利を求めず、衆生を憐愍するが為めの故なり。病者は甚だ多く、力は周く救うにあらず、一切を憂念するも、心に従わざれば、懊悩して死し、即ち忉利天上に生ず。自ら思惟して言わく、『我れは今、天に生ずるも、但だ福報を食うて、長益する所無し』、と。即ち自ら方便し、自ら身を滅するを取りて、此の天寿を捨て、婆迦陀龍王の宮中に生じて、龍の太子と為れり。 |
例えば、
『釈迦文尼仏』の場合は、――
本、
『大医王』の、
『身』と作って、
一切の、
『病』を、
『治療していながら!』、
『名利』を、
『求めなかった!』のは、
『衆生』を、
『憐愍していた!』からであるが、
『病者』は、
『甚だ多く!』、
『力』は、
『周(あまね)く!』、
『救うほどではなかった!』ので、
一切の、
『衆生』を、
『憂いて!』、
『念じながらも!』、
『心』に、
『従って!』、
『救うことができず!』、
ついに、
『懊悩して!』、
『死んだのである!』が、
すぐに、
『忉利天』上に、
『生まれて!』、
自ら、こう思惟した、――
わたしは、
今、
但だ、
『福報』を、
『無駄に!』、
『食うばかりで!』、
『自ら!』を、
『長じる!』ことも、
『無く!』、
『他』を、
『益する!』ことも、
『無い!』、と。
そこで、
自ら、
『方便して!』、
自らの、
此の、
『天』の、
『寿』を、
『捨てて!』、
『婆迦陀龍王』の、
『宮』中に、
『生まれ!』、
『龍』の、
『太子』と、
『為った!』。
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長益(ちょうやく):増長、利益。自ら長じ、他を益すること。
婆迦陀龍王(ばかだりゅうおう):不明。また婆伽陀龍王とも云う。 |
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其身長大父母愛重。欲自取死就金翅鳥王。鳥即取此龍子。於舍摩利樹上吞之。父母嗥咷啼哭懊惱。 |
其の身長大し、父母愛重するに、自ら死を取りて、金翅鳥王に就かんと欲す。鳥、即ち此の龍子を取りて、舎摩梨樹上に於いて、之を呑めば、父母、嗥咷、啼哭して懊悩す。 |
『龍の子』は、
其の、
『身』が、
『成長するにつけ!』、
『父母』は、
『愛し!』、
『重んじた!』が、
自らは、
『死』を、
『取ろう!』と、
『思って!』、
『金翅鳥』の、
『王』に、
『近づいた!』。
『鳥』は、
すぐに、
此の、
『龍の子』を、
『取って!』、
『舎摩梨樹』上で、
『呑込んだ!』。
『父』も、
『母』も、
『涙を流し!』、
『号泣して!』、
『懊悩した!』。
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長大(ちょうだい):成長。生長。
就(しゅう):つく。親近。接近。
舎摩利樹(しゃまりじゅ):梵語zaabari 、また舎摩梨樹に作る。「大智度論巻27」に、「譬えば、空地に樹あり、舎摩梨と名づく、枝葉広大、衆鳥集宿す。一鴿、後に来たりて一枝上に住するに、その枝、即時に圧折す。沢神の樹神に問わく、大鳥の鵰鷲も、皆能く住持す、何ぞ小鳥に至り、便ち勝えざる。答えて云わく、この鳥は、わが怨家の尼俱盧樹由り来たり。彼の樹葉を食い、来たりて我が上に栖み、必ず当りて放糞するに、子、地に堕つ、即ち悪樹復た生じて、害を為すこと必ず大なり、この故に、この一鴿に於いて大いに憂畏を懐き、寧ろ一枝を捨てて、余の大なる者を全からしめん、と。菩薩も、またかくの如し、諸の外道、魔衆、及び諸の結使、悪業に於いて、畏るる所無きも、阿羅漢、辟支仏に於いては然らず。何を以っての故に、声聞、辟支仏は、菩薩の辺に於いて、また彼の鴿の如く、大乗心を敗壊して、永く仏の業を滅すればなり」、と云えり。<(丁)
嗥咷(こうとう):号泣。
啼哭(たいこく):声を上げて泣く。 |
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龍子既死生閻浮提中。為大國王太子。名曰能施。生而能言。問諸左右。今此國中有何等物。盡皆持來以用布施。眾人怪畏皆捨之走。 |
龍子既に死して閻浮提中に生じ、大国の王の太子と為り、名を能施と曰う。生まれながらにして、能く言い、諸の左右に問わく、『今、此の国中に何等の物か有る。尽く皆、持ち来たりて、以って布施に用いん』、と。衆人、怪しみ畏れて、皆之を捨てて走れり。 |
『龍の子』は、
『死ぬ!』と、
『閻浮提』中に、
『生まれて!』、
『大国』の、
『王』の、
『太子となり!』、
『能施』という、
『名』が、
『付けられた!』が、
『子』は、
『生まれながらにして!』、
『口を利くことができ!』、
『左右の侍者』に、
こう問うた、――
今、
此の、
『国』中には、
何れだけの、
『物』が、
『有るのか?』。
皆、
『尽く!』、
『持って来い!』。
其れを、
『用いて!』、
『布施をしよう!』、と。
『衆人( 人々)』は、
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其母憐愛獨自守之。語其母言。我非羅剎眾人何以故走。我本宿命常好布施。我為一切人之檀越。母聞其言以語眾人。眾人即還母好養育。及年長大自身所有盡以施盡。至父王所索物布施。父與其分復以施盡。見閻浮提人貧窮辛苦。思欲給施而財物不足。便自啼泣問諸人言。作何方便當令一切滿足於財。 |
其の母は憐愛して、独り自ら之を守るに、其の母に語りて言わく、『我れは、羅刹に非ざるに、衆人、何を以っての故にか、走る。我が本の宿命は、常に、布施を好めり。我れは、一切の人の檀越と為らん』、と。母は、其の言を聞き、以って衆人に語れば、衆人即ち還れり。母は好く養育し、年長大するに及び、自身の所有を尽く以って施し尽くし、父王の所の至りて、物を索めて布施す。父、其の分を与うれば、復た以って施し尽くし、閻浮提の人の貧窮にして、辛苦するを見るに、思いは、給施せんと欲するも、財物足らず、便ち自ら啼泣して、諸人に問うて言わく、『何なる方便を作さば、当に一切をして財に満足せしむべき』、と。 |
其の、
『母』は、
『憐れみ!』、
『愛して!』、
独り、
其の、
『母』に語って、こう言った、――
わたしは、
『羅刹(悪鬼)ではない!』のに、
何故、
『衆人』は、
『逃げるのですか?』。
わたしの、
本の、
『宿命(前世の生)』は、
常に、
『布施』を、
『好んでいました!』。
わたしは、
一切の、
『人』の、
『檀越(施主)』と、
『為りたいのです!』、と。
『母』が、
其の、
『語』を、
『聞いて!』、
それを、
『衆人』に、
『語る!』と、
『衆人』は、
すぐに、
『還ってきた!』。
『母』が、
『好く!』、
『養育して!』、
『年』が、
『熟して!』、
『長大する!』と、
『自身』の、
『父王』にも、、
『物』を、
『索(もと)めて!』、
『布施した!』。
『父』が、
其の、
『分』を、
『与える!』と、
それを、
『すっかり!』、
『施してしまい!』、
『閻浮提の人』を、
『見てみる!』と、
『貧窮して!』、
『辛苦していた!』ので、
『思い!』は、
『給施したい!』が、
『財物』が、
『不足している!』。
そこで、
自ら、
『泣きながら!』、
諸の、
『人』に問うて、こう言った、――
何のような、
『方便』を、
『作せば!』、
一切を、
『財』に、
『満足させられるのか?』、と。
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羅刹(らせつ):梵語 raakSasa 、悪鬼の義。『大智度論巻23上注:羅刹』参照。
檀越(だんおつ):主要な寄付者( chief donor )、梵語 daanapati 、施主と訳す、後援者( a benefactor )、慈善家(
almsgiver )、保護者( patron )の義。即ち僧衆に飲食、衣服等を与える在家の信者の中、主なる者の意。『大智度論巻22上注:檀越』参照。
啼泣(たいきゅう):声をあげて無く。 |
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諸宿人言。我等曾聞有如意寶珠。若得此珠則能隨心所索無不必得。 |
諸の宿人の言わく、『我等曽て、如意宝珠有りと聞けり。若し此の珠を得れば、則ち能く心の索むる所に隨いて、必ずしも得ざること無し』、と。 |
諸の、
『宿老』は、こう言った、――
わたし達は、
かつて、
『如意宝珠』が、
『有る!』と、
『聞いております!』。
若し、
此の、
『珠』を、
『得たならば!』、
『心』の、
『索めるがまま!』に、
『物』として、
『得られない!』ということが、
『有りません!』、と。
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宿人(しゅくにん):老人。宿老。 |
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菩薩聞是語已白其父母。欲入大海求龍王頭上如意寶珠。父母報言。我唯有汝一兒耳。若入大海眾難難度。一旦失汝我等亦當何用活為。不須去也。我今藏中猶亦有物當以給汝。 |
菩薩は、是の語を聞き已りて、其の父母に白さく、『大海に入りて、龍王の頭上の如意宝珠を求めんと欲す』、と。父母の報(こた)えて言わく、『我れは、唯だ汝の一児有るのみ。若し大海に入らば、衆難ありて、度(わた)り難し。一旦、汝を失わば、我等も亦た、当に活くるを用って、何をか為すべき。去ることを須(もち)いざれ。我れ今、蔵中に猶お亦た物有れば、当に以って汝に給すべし』、と。 |
『菩薩』は、
是の、
『語』を、
『聞いて!』、
其の、
『父母』に、こう白した、――
『大海』に、
『入って!』、
『龍王』の、
『頭』上の、
『如意宝珠』を、
『求めたい!』と、
『思います!』と。
『父母』は報( こた)えて、
こう言った、――
わたしには、
若し、
『大海』に、
『入れば!』、
『難』が、
『多く!』、
『渡る!』ことも、
『難しい!』、
いったん、
お前を、
『失えば!』、
わたし達は、
『活きていた!』としても、
『何になろう?』、
絶対に、
『去ってはならない!』。
わたしの、
『蔵』中には、
今、
猶お、
『物』が、
『有る!』、
これを、
『お前に!』、
『与えよう!』、と。
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参考:『十誦律巻25』:『諸人言:「沙門億耳!汝何以不入大海?」答言:「我入大海作何等?是中多諸恐怖,百千人去,時一得還。」是諸商客激厲言:「何等人仰他活命,乃至婬女仰他活命?若人求作布施福德,是事善好。」諸商客如是激厲,沙門億耳信受欲去,到父母所辭欲入海。時父母說諸怖事,欲令變悔以制留之:「人為財故入大海,我家中多諸寶物,汝用布施作福,七世不盡,何為入海?」時不隨父母語,父母語諸貴人:「佐我留億耳。」時諸大官、長者、居士、億財主、大富薩薄,如是貴人留之不隨。父母知其意正,則聽令去。於是乘象振鈴,遍告聚落令言:「沙門億耳欲入大海,我作薩薄誰欲共去?」是人福德,五百商人皆悉樂從。彼國土法,作薩薄者,要出二十萬金錢,十萬辦舡、十萬辦資糧。莊嚴竟已,下舡著水中,以七枚繩繫,日日唱言:「誰能捨父母、兄弟、姊妹、妻子、閻浮提種種樂,及捨樂壽。誰欲得金銀、摩尼、琉璃,種種寶物七世隨用布施作福者,共入大海?」如是日日唱,日斷一繩,如是斷六繩,殘第七繩待伊勒風(晉言「好隨風」)。既得伊勒風,斷第七繩,舡疾勝箭,是薩薄福德威力。是舡疾到寶渚,勅語諸商客言:「取諸寶物載使滿舡,莫令大重。」取寶物竟得伊勒風,是時舡去疾勝于箭,還閻浮提。向王薩薄聚落,有二道:水道、陸道。沙門億耳語諸商人:「何道去?」諸人言:「陸道去。」時有空澤,是中夜住,語諸商人:「我曾聞賊來劫諸商客,若前殺薩薄,則諸商客無所成辦。若不殺薩薄,則以錢物力、若自身力、若以他力,必能得賊。我當餘處宿去,時當喚我。」諸人言:「爾。」億耳驅驢別處宿,是諸商客夜半發去,人人相覺,竟不喚億耳。後夜大風雨墮,億耳覺喚諸商客,商客無人應者,億耳如是思惟:「奈何諸人棄我去耶?」即逐去。是道多沙土,風雨流漫路無遺跡,仰驢嗅跡而前。』 |
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兒言。藏中有限。我意無量。我欲以財充滿一切令無乏短。願見聽許。得遂本心使閻浮提人一切充足。父母知其志大。不敢制之。遂放令去。 |
児の言わく、『蔵中に限り有れど、我が意は無量なり。我れは、財を以って、一切を充満せしめ、乏短無からしめんと欲す。願わくば聴許せられよ。本心を遂ぐるを得れば、閻浮提の人をして、一切充足せしめん』、と。父母は、其の志の大なることを知り、敢て之を制せず、遂に放ちて、去らしむ。 |
『児』は、こう言った、――
『蔵の中』は、
『限り!』が、
『有る!』のに、
わたしの、
『意(願意)』は、
『無量です!』。
わたしは、
『財』を、
『用いて!』、
一切を、
『充足させ!』、
『不足する!』ことを、
『無くそう!』と、
『思います!』。
願わくは、
『本心』を、
『果たすことができれば!』、
『閻浮提』の、
一切の、
『人』を、
『充足させるつもりです!』、と。
『父母』は、
其の、
『志』の、
『大きい!』ことを、
『知った!』ので、
これ以上は、
『敢て!』、
『制しようとせず!』、
ついに、
『自由に!』、
『去らせることにした!』。
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見(けん):らる。られる。受け身を表わす詞。
聴許(ちょうこ):聴きて之を許す。聴き容れる。許容する。
遂(すい):とげる。実現する。成功する。ついに。とうとう。是に於いて。
放(ほう):はなつ。自由にさせる。 |
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是時五百賈客。以其福德大。人皆樂隨從。知其行日集海道口。菩薩先聞婆伽陀龍王頭上有如意寶珠。問眾人言。誰知水道至彼龍宮。 |
是の時、五百の賈客は、其の福徳の大なるを以って、人は、皆随従せんことを楽(ねが)い、其の行日を知りて、海道口に集まる。菩薩は、先に婆伽陀龍王の頭上に、如意宝珠有るを聞き、衆人に問うて言わく、『誰か、水道の彼の龍宮に至るまでを知らんや』、と。 |
是の時、
『五百の賈客』は、
『人』は、
皆、
『楽しんで!』、
『随従しようとして!』、
其の、
『旅立ち!』の、
『日』を、
『知る!』と、
『海道』の、
『口』に、
『集まった!』。
『菩薩』は、
先に、こう聞いていた、――
それで、
『衆人』に問うて、こう言った、――
誰か、
『水道』を、
『知らないか?』、
彼の、
『龍宮』に、
『至るまでを!』、と。
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賈客(こきゃく):商人。梵語 saartha の訳。目的/職業を持つ( having an object or business )、その目的を達成した者(
anything that has attained its object )、目的を達成した( successful (as a request)
)、財産を持つ( having property )、富裕な( opulent )、裕福な( wealthy )等の義。商人( a merchant
)、実業家( businessman )の意。或いは梵語 saartha- vaaha の訳、又商主と訳す、隊商の指導者、又は案内人( the
leader or conductor of a caravan )、商人( a merchant )、貿易業者( trader )の義。
楽(ぎょう):ねがう。その事に対して歓喜し願望する。 |
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有一盲人名陀舍。曾以七反入大海中具知海道。菩薩即命共行。答曰。我年既老兩目失明。曾雖數入今不能去。 |
有る一盲人を、陀舎と名づけ、曽て、七反、大海中に入れるを以って、具(つぶさ)に海道を知れり。菩薩は、即ち命じて共に行かしむ。答えて曰く、『我れは、年既に老いて、両目失明せり。曽て数(しばしば)入ると雖も、今は去る能わず』、と。 |
『陀舎』と、
『呼ばれる!』、
『盲人』が、
『有り!』、
かつては、
『七返』、
『大海』中に、
『入った!』ので、
『具( つぶさ)に!』、
『海道』を、
『知っているという!』。
そこで、
『菩薩』は、
こう命じた、――
『いっしょに!』、
『行こう!』、と。
『陀舎』は答えて、こう言った、――
わたしは、
『年』が、
『老いており!』、
『両眼』も、
『失明しております!』ので、
かつて、
『しばしば!』、
『入りました!』が、
今は、
『行くことができません!』、と。
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菩薩語言。我今此行不自為身。普為一切求如意寶珠。欲給足眾生令身無乏。次以道法因緣而教化之。汝是智人何得辭耶。我願得成豈非汝力。 |
菩薩の語りて言わく、『我が今の此の行は、自ら身の為めにあらず。普く一切の為めに、如意宝珠を求め、衆生に給足して、身をして乏しきこと無からしめ、次いで、道法の因縁を以って、之を教化せんと欲す。汝は、是れ智人なり。何ぞ辞するを得んや。我が願の成ぜんことを得るは、豈(あ)に汝の力に非ずや』、と。 |
『菩薩』は語って、
こう言った、――
わたしの、
今の、
此の、
『行(旅行)』は、
自らの、
『身の為めではない!』。
普く、
一切の、
『衆生』の為めに、
『如意宝珠』を、
『求めて!』、
『衆生』に、
次いで、
『道法』の、
『因縁』を、
『用いて!』、
『衆生』を、
『教化しよう!』と、
『思っているのだ!』。
お前のような、
わたしの、
『願い!』の、
『成就することができる!』のは、
『お前の力ではないのか?』、と。
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陀舍聞其要言。欣然同懷語菩薩言。我今共汝俱入大海我必不全。汝當安我尸骸著大海之中金沙洲上。 |
陀舎は、其の要言を聞いて、欣然として懐(おもい)を同じうし、菩薩に語りて言わく、『我れは今、汝と共に、倶に大海に入るも、我れは、必ず全うせざらん。汝は、当に我が尸骸を安じて、大海の中の金沙の洲上に著(お)くべし。 |
『陀舎』は、
其の、
『要請』の、
『言葉』を、
『聞いて!』、
『欣然として!』、
『懐い!』を、
『同じうする!』と、
『菩薩』に語って、
こう言った、――
わたしは、
今、
『あなた!』と、
『共に!』、
いっしょに、
『大海』に、
『入ります!』が、
わたしには、
必ず、
『行(旅行)』を、
『全うできませんでしょう!』。
あなたは、
こう為さらなくてはなりません、――
わたしの、
『尸骸』を、
『大海の中』の、
『金沙の洲』上に、
『安置してください!』、と。
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行事都集斷第七繩。船去如駝到眾寶渚。眾賈競取七寶各各已足。語菩薩言。何以不取。菩薩報言。我所求者如意寶珠。此有盡物我不須也。汝等各當知足知量無令船重不自免也。 |
行の事都(す)べて集まりて、第七縄を断つ。船の去ること、駝の如くして、衆宝の渚に至る。衆賈競いて、七宝を取り、各各已に足れば、菩薩に語りて言わく、『何を以ってか取らざる』、と。菩薩の報えて言わく、『我が求むる所は、如意宝珠なり。此に有る尽くの物は、我れ須いざるなり。汝等、各、当に足るを知り、量を知りて、船をして重からしめて、自ら免れざること無かれ』、と。 |
『旅行』の、
『準備』が、
『すっかり!』、
『調う!』と、
いよいよ、
『第七の綱』が、
『切って落とされ!』、
『船』は、
『駱駝のよう!』に、
『疾かに!』、
『去り!』、
『衆宝』の、
『渚』に、
『到った!』。
『賈客たち』は、
『競って!』、
『七宝』を、
『取り!』、
各各、
『已に!』、
『満足する!』と、
『菩薩』に語って、こう言った、――
『菩薩』は報えて、
こう言った、――
わたしの、
『求める!』所の、
『物』は、
『如意宝珠である!』。
此( ここ)に、
『有る!』、
『物』は、
尽く、
わたしには、
『必要ない!』。
お前たちは、
各、
『足る!』を、
『知り!』、
『量』を、
『知って!』、
『自ら!』、
『逃げられない!』ほど、
『船』を、
『重くするな!』、と。
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行事(ぎょうのこと):旅行に関する諸事。
集(じゅう):成る。
第七縄(だいしちじょう):船を岸壁に繋ぐ最後の縄。
駝(だ):駱駝。 |
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是時眾賈白菩薩言。大德。為我咒願令得安隱。於是辭去。 |
是の時、衆賈の菩薩に白して言わく、『大徳、我が為めに咒願して、安隠を得しめたまえ』、と。是に於いて辞して去れり。 |
是の時、
『賈客たち』は、
『菩薩』に白して、こう言った、――
大徳!
わたしの為めに、
『安隠』を、
『祈ってください!』、と。
そして、
『別れを告げて!』、
『去っていった!』。
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陀舍是時語菩薩言。別留艇舟當隨是別道而去。待風七日。博海南岸至一險處。當有絕崖棗林枝皆覆水。大風吹船船當摧覆。汝當仰板棗枝可以自濟。我身無目於此當死。過此隘岸當有金沙洲。可以我身置此沙中。金沙清淨是我願也。 |
陀舎、是の時、菩薩に語りて言わく、『別に艇舟を留め、当に是の別の道に従うて去るべし。風を待つこと七日、海の南岸を博(え)て、一険処に至らん。当に絶崖に棗の林有りて、枝は皆水を覆うべし。大風、船を吹きて、船当に摧け覆るべし。汝は、当に板を仰(たよ)るべし。棗の枝あり、以って自ら済うべし。我が身に眼無ければ、此に於いて当に死すべし。此の隘き岸を過ぐるに、当に金沙の洲有るべし。以って、我が身を此の沙中に置くべし。金沙の清浄なる、是れ我が願なり。 |
『陀舎』は、
是の時、
『菩薩』に語って、こう言った、――
『別に!』、
『小舟』を、
『留めておき!』、
是れとは、
『別の道』を、
『行きなさい!』。
『風』を、
『待ちながら!』、
『七日する!』と、
『海』の、
『南岸』が、
『見えてきて!』、
『一険処』に、
『至るでしょう!』。
『断崖』には、
『棗( なつめ)』の、
『林』が、
『有り!』、
『枝』が、
『水』を、
『覆っています!』。
『大風』が、
『船』を、
『吹きます!』ので、
『船』は、
『摧(くだ)けて!』、
『覆(くつがえ)るはず!』ですが、
あなたは、
『板』に、
『頼らなくてはなりません!』。
『棗』の、
『枝』が、
『有ります!』ので、
それで、
『自ら!』を、
『救ってください!』。
わたしの、
『身』には、
『眼』が、
『有りません!』ので、
此の、
『処』で、
『死ぬことになります!』が、
此の、
『狭い!』、
『岸』を、
『過ぎる!』と、
『金沙( 砂)』の、
『洲(しま)』が、
『有るはずです!』。
わたしの、
『身』は、
此の、
『沙の中』に、
『置いてください!』。
『金沙』の、
『清浄さ!』が、
『わたしの願いです!』、と。
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艇舟(ていしゅう):小舟。
博(はく):自己の行動を以って獲得するをいう。博取、博得の如し。
絶崖(ぜつがい):断崖。
棗林(そうりん):なつめの林。
仰(ぎょう):たよる。依頼。
済(さい):すくう。救済。 |
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即如其言。風至而去。既到絕崖。如陀舍語。菩薩仰板棗枝得以自免。置陀舍屍安厝金地。於是獨去如其先教。深水中浮七日。至垒咽水中行七日。垒腰水中行七日。垒膝水中行七日。泥中行七日。見好蓮華鮮潔柔軟。 |
即ち、其の言の如く、風至りて去り、既に絶崖に到れば、陀舎の語の如く、菩薩は板を仰りに棗の枝を以って、自ら免るるを得、陀舎の屍を置きて、金地に安厝せり。是に於いて、独り去り、其の先に教うるが如く、深水中に浮かぶこと七日、咽に斉しきに至りて、水中を行くこと七日、腰に斉しき水中を行くこと七日、膝に斉しき水中を行くこと七日、泥中を行くこと七日にして、好き蓮華の鮮潔、柔軟なるを見る。 |
はたして、
其の
『陀舎』の、
『語ったように!』、
『菩薩』は、
『板』を、
『頼って!』、
『棗』の、
『枝』を、
『手に捉り!』、
『自ら!』を、
『災難』から、
『逃れさすことができた!』ので、
『陀舎』の、
是れより、
『独りで!』、
『先に!』、
『教えられたように!』、
『深い!』、
『水』が、
『咽』に、
『斉(ひと)しくなる!』と、
其の中を、
『七日間』、
『歩き!』、
『腰』に、
『斉しい!』、
『水』中を、
『七日間』、
『歩き!』、
『膝』に、
『斉しい!』、
『水』中を、
『七日間』、
『歩き!』、
『泥』中を、
『七日間』、
『歩く!』と、
『好もしく!』、
『鮮潔で!』、
『柔軟な!』、
『蓮華』が、
『見えてきた!』。
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安厝(あんさく):屍骸を安置して葬る。
垒(るい):墼。練り固めて未だ焼かない土を積み重ねて墼と為し牆を作る。今、他本に従いて、斉に改む。 |
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自思惟言。此華軟脆當入虛空三昧。自輕其身行蓮華上七日。見諸毒蛇念言。含毒之虫甚可畏也。即入慈心三昧。行毒蛇頭上七日。蛇皆擎頭授與菩薩令蹈上而過。過此難已見有七重寶城。有七重塹。塹中皆滿毒蛇有三大龍守門。 |
自ら思惟して言わく、『此の華は軟らかくして脆し。当に虚空三昧に入るべし』、と。自ら、其の身を軽うして蓮華上を行くこと七日、諸の毒蛇を見るに、念じて言わく、『含毒の虫は、甚だ畏るべし』、と。即ち慈心三昧に入りて、毒蛇の頭上を行くこと七日、蛇は皆頭を擎(かか)げて、菩薩に授与し、上を踏んで過ぎしむ。此の難を過ぎ已りて、七重の宝城有り、七重の塹有るを見る。塹中には、皆、毒蛇満ちて、三大龍の守れる門有り。 |
『菩薩』は、
自ら、
『思惟して!』、こう言った、――
此の、
『華』は、
『軟らかく!』、
『脆(もろ)い!』、
『虚空三昧』に、
『入ることにしよう!』、と。
自ら、
其の、
『身』を、
『軽くして!』、
『蓮華』上を、
『七日間』、
『歩く!』と、
諸の、
『毒蛇』が、
『見えてきた!』ので、
『念じて!』、こう言った、――
『毒』を、
『含んだ!』、
『蛇』は、
『甚だ畏れられている!』、と。
そこで、
『慈心三昧』に、
『入り!』、
『蛇』は、
皆、
『頭』を、
『擎( かか)げて!』、
『菩薩』に、
『授与し!』、
『菩薩』に、
『頭』上を、
『踏ませて!』、
『過ぎさせた!』。
此の、
『難』を、
『過ぎる!』と、
『七重』の、
『宝城』の、
『七重』の、
『塹( ほり)』が、
『有り!』、
『塹』中には、
『三大龍』の、
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龍見菩薩形容端政相好嚴儀。能度眾難得來至此念言。此非凡夫必是菩薩大功德人。即聽令前逕得入宮。 |
龍は、菩薩の形容の端政、相好、厳儀にして、能く、衆難を度し、来たるを得て、此に至れるを見て、念じて言わく、『此れは凡夫に非ず、必ず是れ菩薩の大功徳の人ならん』、と。即ち聴(ゆる)して、逕(こみち)を前(すす)みて、宮に入るを得しむ。 |
『龍』は、
『菩薩』の、
『形容』が、
『端政であり!』、
『相が好ましく!』、
『儀(振舞い)が厳かで!』、
『衆難』を、
『渡って!』、
『来て!』、
此( ここ)まで、
『到達した!』のを、
『見る!』と、
『念じて!』、こう言った、――
此れは、
『凡夫ではあるまい!』、
必ず、
『菩薩』の、
『大功徳』の、
『人だろう!』、と。
そこで、
『許可して!』、
『逕( こみち)』を、
『進ませ!』、
『宮』に、
『入れるようにした!』。
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相好(そうごう):好もしい容貌。
厳儀(ごんぎ):厳かな振舞い。 |
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龍王夫婦喪兒未久猶故哀泣。見菩薩來龍王婦有神通。知是其子。兩乳汁流出。命之令坐。而問之言。汝是我子。捨我命終生在何處。 |
龍王夫婦は、児を喪(うしな)いて未だ久しからざれば、猶お故(もと)のごとく哀泣せるに、菩薩の来たるを見る。龍王の婦、神通有れば、是れ其の子なるを知り、両乳より汁流出するに、之に命じて坐せしめ、之に問うて言わく、『汝は、是れ我が子なり。我れを捨てて、命終るに、生じて何処に在りや』、と。 |
『龍王』の、
『夫婦』は、
未だ、
『子』を、
『喪(うしな)って!』、
『久しくない!』ので、
猶お、
『故( もと)のように!』、
『哀しんで!』、
『泣いていた!』ところ、
『菩薩』が、
『来る!』のが、
『見えた!』。
『龍王』の、
『婦』は、
『神通』が、
『有り!』、
其れが、
『子である!』ことを、
『知って!』、
『両乳』より、
『乳汁』が、
『流れでた!』ので、
其の、
『子』に、
『命じて!』、
『坐らせ!』、
『問うて!』、こう言った、――
お前は、
『わたしの!』、
『子である!』、
わたしを、
『捨てて!』、
『命』を、
『終えた!』が、
いったい、
『何処に!』、
『生まれたのか?』、と。
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菩薩亦自識宿命。知是父母而答母言。我生閻浮提上。為大國王太子。憐愍貧人飢寒勤苦不得自在故。來至此欲求如意寶珠。 |
菩薩は、亦た自ら宿命を識りて、是の父母なるを知り、母に答えて言わく、『我れは、閻浮提上に生じて、大国の王の太子と為り、貧人の飢寒を憐愍し、勤苦するも、自在を得ざるが故に来たりて、此に至り、如意宝珠を求めんと欲す』、と。 |
『菩薩』も、
自ら、
『宿命』を、
『識って!』、
是れが、
『父母である!』ことを、
『知り!』、
『母』に答えて、こう言った、――
わたしは、
『閻浮提』上に、
『生まれて!』、
『大国の王』の、
『太子』と、
『為り!』、
『貧しい人』の、
『飢寒』を、
『憐愍して!』、
『勤苦しました!』が、
『自在にならない!』が故に
『来て!』、
此の、
『宮』に、
『至りました!』、
『如意宝珠』を、
『求めたい!』と、
『思います!』、と。
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勤苦(ごんく):苦しむ/悩む( to suffer )、梵語 duHkha の訳、容易ならざること/苦痛/悲嘆/心配事/困難( uneasiness,
pain, sorrow, trouble, difficulty )の義、或いは梵語 parikleza の訳、辛苦/苦痛/悩み/疲労( hardship,
pain, trouble, fatigue )の義。苦しませられる/悩まされる( is afflicted )、努力する( to exert
oneself, endeavor )、世俗の辛苦に逆らって励む( strive against the suffering and pain
of the world )、堪え難い努力/苦行/禁欲行為( difficult exertion; penance; austerities
)等の意、又懃苦にも作る。
欲求(よくぐう):欲念と要求。 |
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母言。汝父頭上有此寶珠以為首飾。難可得也。必當將汝入諸寶藏。隨汝所欲必欲與汝。汝當報言。其餘雜寶我不須也。唯欲大王頭上寶珠。若見憐愍願以與我。如此可得。 |
母の言わく、『汝が父の頭上に、此の宝珠有り、以って首飾と為したまえば、得べきこと難し。必ず当に、汝を将(ひき)いて、諸の宝蔵に入り、汝が欲する所に隨いて、必ず汝に与えんと欲したもうべし。汝は当に答えて言うべし、其の余の雑宝を、我れは須いず。唯だ大王の頭上の宝珠を欲す、若し憐愍を見せたまわば、願わくは、以って我れに与えたまえ、と。此の如くせば得べけん』、と。 |
『母』は、
こう言った、――
お前の、
此の、
『宝珠』は、
『有る!』が、
『首飾』に、
『為(し)ていられる!』ので、
『得られた!』としても、
『難しいでしょう!』。
必ず、
お前を、
お前の、
『欲する!』がままに、
必ず、
『お前に!』、
『与えようとされる!』でしょう。
お前は、
『報えて!』、こう言わねばなりません、――
唯だ、
『大王』の、
『頭』上の、
『宝珠のみ!』を、
『欲します!』。
若し、
『憐愍』を、
『見せられる!』ならば、
願わくは、
『わたくしに!』、
『お与えください!』と、
此のようにすれば、
『宝珠』を、
『得られるでしょう!』、と。
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即往見父。父大悲喜歡慶無量。愍念其子遠涉艱難乃來至此。指示妙寶隨意與汝須者取之。菩薩言。我從遠來願見大王。求王頭上如意寶珠。若見憐愍當以與我。若不見與不須餘物。 |
即ち往きて父に見(まみ)ゆ。父の大いに悲喜し、歓慶すること無量なり。其の子の遠く艱難を渉りて、乃ち来たりて此に至れるを愍念し、妙宝を指示し、『意に隨いて、汝に与えん。須むれば之を取れ』、と。菩薩の言わく、『我れは、遠くより来たり、願わくは大王に見えて、王の頭上の如意宝珠を求めん。若し憐愍を見せたまわば、当に以って我れに与えたもうべし。若し与えられずんば、余の物を須いず』、と。 |
『菩薩』は、
『父』は、
『大いに!』、
『悲しんだり!』、
『喜んだり!』して、
『無量に!』、
『歓楽し!』、
『喜慶し!』、
『哀れんで!』、こう念じた、――
此の、
『子』は、
『遠く!』より、
『艱難』を、
『渉りながら!』、
ようやく、
『来て!』、
『此(ここ)に!』、
『至ったのだ!』、と。
『妙宝』を、
『指』で、
『示しながら!』、こう言った、――
『意のまま!』に、
『お前に!』、
『与えよう!』。
『欲しい!』、
『物』を、
『取りなさい!』、と。
『菩薩』は、
こう言った、――
わたしは、
『遠く!』より、
『来ました!』。
願わくは、
『大王』に、
『見(まみ)えて!』、
『王の頭』上の、
『如意宝珠』を、
『求めることです!』。
若し、
『憐愍』を、
『見せられる!』ならば、
『わたくしに!』、
『お与えくださるはずです!』が、
若し、
『見せられなければ!』、
『他の物』は、
『必要ありません!』、と。
|
歓慶(かんきょう):歓楽喜慶。
艱難(かんなん):災難と困難。
求(ぐ):もとめる。熱心に請求する。 |
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龍王報言。我唯有此一珠常為首飾。閻浮提人薄福下賤不應見也。菩薩白言。我以此故。遠涉艱難冒死遠來。為閻浮提人薄福貧賤。欲以如意寶珠濟其所願。然後以佛道因緣而教化之。 |
龍王の報えて言わく、『我れには、唯だ此の一珠のみ有りて、常に首飾と為す。閻浮提の人は、薄福、下賎なれば、応に見るべからざるなり』、と。菩薩の白して言わく、『我が、此れを以っての故に、遠く艱難を渉り、死を冒して、遠く来たれるは、閻浮提の人の、薄福、貧賤なるが為めに、如意宝珠を以って、其の願う所を済い、然る後に、仏道の因縁を以って、之を教化せんと欲すればなり』、と。 |
『龍王』は報えて、
こう言った、――
わたしは、
唯だ、
此の、
『一珠』を、
『有するのみで!』、
常に、
『首飾にしている!』が、
閻浮提の人は、
『福が薄く!』、
『下賎である!』により、
到底、
『見る!』ことは、
『適(かな)うまい!』、と。
『菩薩』は白して、
こう言った、――
わたくしが、
此の、
『珠』の故に、
遠く、
『海』の、
『艱難』を、
『渉り!』、
『死』を、
『冒(おか)して!』、
『来ました!』のは、
『閻浮提の人』は、
『福』が、
『薄く!』、
『貧しく!』、
『賎しい!』が為めに、
『如意宝珠』を、
『用いて!』、
其の、
『願う!』所を、
『済い!』、
その後、
『仏道』の、
『因縁』を、
『用いて!』、
之を、
『教化しよう!』と、
『思ったからです!』、と。
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龍王與珠而要之言。今以此珠與汝。汝既去世當以還我。答曰。敬如王言。 |
龍王は、珠を与え、之に要して言わく、『今、此の珠を以って、汝に与えん。汝、既に世を去らば、当に以って我れに還すべし』、と。答えて曰く、『敬って、王言の如し』、と。 |
『龍王』は、
『菩薩』に、
『珠』を、
『与えながら!』、
『要( もと)めて!』、こう言った、――
今、
此の、
『珠』を、
『お前に!』、
『与えよう!』。
お前が、
『世』を、
『去った!』ときは、
必ず、
『還すように!』、と。
答えて、こう言った、――
敬って、
『王』の、
『言われたように!』、
『致します!』、と。
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菩薩得珠飛騰虛空。如屈伸臂頃到閻浮提。人王父母見兒吉還。歡悅踊躍抱而問言。汝得何物。答言。得如意寶珠。問言。今在何許。白言。在此衣角裏中。 |
菩薩は、珠を得て、虚空に飛騰し、臂を屈伸するが如き頃(あいだ)に、閻浮提に到る。人王の父母、児の吉(よ)く還るを見て、歓悦踊躍して抱き、問うて言わく、『汝は、何物をか得たれり』、と。答えて言わく、『如意宝珠を得たり』、と。問うて言わく、『今は、何許(いづこ)に在りや』、と。白して言わく、『此の衣の角の裏中に在り』、と。 |
『菩薩』は、
『珠』を、
『得て!』、
『虚空』に、
『飛騰する!』と、
『臂』を、
『屈伸する!』ほどの、
『時間』で、
『閻浮提』に、
『到った!』。
『人王』の、
『父母』は、
『児』が、
『めでたく還った!』のを、
『抱きながら!』、
問うて、こう言った、――
お前の、
『得た!』のは、
何のような、
『物か?』、と。
答えて、こう言った、――
問うて、こう言った、――
白して、こう言った、――
此の、
『衣の角』の、
『裏(うち)』中に、
『在ります!』、と。
|
|
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父母言。何其泰小。白言。在其神德不在大也。白父母言。當敕城中內外掃灑燒香。懸繒幡蓋持齋受戒。明日清旦以長木為表以珠著上。 |
父母の言わく、『何んが其の泰小なる』、と。白して言わく、『其の神徳に在りて、大なるに在らざるなり』、と。父母に白して言わく、『当に城中の内外に勅したまいて、掃灑し、焼香し、繒(きぬ)、幡、蓋を懸け、持斎、受戒せしめて、明日の清旦に長木を以って、表と為し、珠を以って上に著けしめたもうべし』、と。 |
『父母』は、
こう言った、――
白して、こう言った、――
其の、
『神徳』に、
『本質』が、
『在ります!』、
『大きさ!』に、
『在るでのはありません!』、と。
『菩薩』は、
『父母』に白して、こう言った、――
『城』中の、
『内、外』に、
『勅命して!』、
『掃き清めて!』、
『香を焼(た)き!』、
『繒(あやぎぬ)、幡、蓋を懸けさせ!』、
『持斎させて!』、
『戒』を、
『受けさせ!』、
『明日』の、
『早朝』には、
『長い木材』を、
『立てて!』、
『表(標識)とさせ!』、
その上に、
『珠』を、
『置かせてください!』、と。
|
泰小(たいしょう):極小。甚だ小さい。
掃灑(そうしゃ):掃き清めて水を打つ。
持斎(じさい):僧に在っては、午後に食せざるを云い、俗人に在っては、八戒斎等を護って身口意を清浄に持つを云う。この中、八戒斎に就きて、一に不殺、二に不盗、三に不婬、四に不妄語、五に不飲酒、六に不飾塗香、七に不歌舞観聴、八に不坐臥高広大床、及び非時食を云う。また「大智度論巻13」に出づ。
清旦(しょうたん):早朝。 |
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菩薩是時自立誓願。若我當成佛道度脫一切者。珠當如我意願出一切寶物。隨人所須盡皆備有。 |
菩薩は、是の時、自ら誓願を立つらく、『若し我れ、当に仏道を成じて、一切を度脱すべくんば、珠は、当に我が意願の如く、一切の宝物を出して、人の須うる所に隨いて、尽く、皆、備有すべし』、と。 |
『菩薩』は、
是の時、
自ら、
『誓願』を、こう立てた、――
若し、
わたしが、
『仏』の、
『道』を、
『成就して!』、
一切の、
『衆生』を、
『度脱するはず!』であれば、
『珠』は、
わたしの、
『意願のように!』、
『人』の、
『必要とする!』所の、
『物』を、
尽く、
皆、
『具備させるだろう!』、と。
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是時陰雲普遍雨種種寶物。衣服飲食臥具湯藥。人之所須一切具足。至其命盡常爾不絕。如是等名為菩薩布施生精進波羅蜜。 |
是の時、陰雲、普遍(あまね)く、種種の宝物、衣服、飲食、臥具、湯薬を雨ふらして、人の須うる所の一切具足し、其の命の尽くるに至るまで、常に爾くして絶えず。是の如き等を名づけて、菩薩の布施は、精進波羅蜜を生ずと為す。 |
是の時、
『陰雲( 厚い雲)』が、
普遍( あまね)く、
種種の、
『宝物』、
『衣服』、
『飲食』、
『臥具』、
『湯薬』を、
『雨ふらし!』、
『人』の、
其の、
『命』の、
『尽きる!』に、
『至るまで!』、
常に、
爾のように、
『雨ふらして!』、
『絶えることがなかった!』。
是れ等を、
『菩薩』の、
『布施』は、
『精進波羅蜜』を、
『生じる!』と、
『称する!』。
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