【經】爾時三千大千世界眾生。盲者得視。聾者得聽。啞者能言。狂者得正。亂者得定。裸者得衣。飢渴者得飽滿。病者得愈。形殘者得具足 |
爾の時、三千大千世界の衆(もろもろ)の生盲者は視るを得、聾者は聴くを得、唖者は能く言い、狂者は正を得、乱者は定を得、裸者は衣を得、飢渴者は飽満を得、病者は愈ゆるを得、形残者は具足するを得たり。 |
爾の時、
『三千大千世界』の、
諸の、
『生盲者』は、
『視ることができた!』、
『聾者』は、
『聴くことができた!』、
『唖者』は、
『言うことができた!』、
『狂者』は、
『正気』を、
『得た!』、
『乱者』は、
『定』を、
『得た!』、
『裸者』は、
『衣』を、
『得た!』、
『飢渴者』は、
『飽満』を、
『得た!』、
『病者』は、
『治癒』を、
『得た!』、
『形残者』は、
『具足』を、
『得た!』。
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生盲(しょうもう):梵語jaaty-andhaの訳。生まれながらの盲を云う。andhaは盲を指す。
定(じょう):梵語三昧samaadhiの訳。内境と外境とが一体となる、心の安定にして不動なる精神状態を云う。『大智度論巻17下注:定』参照。
形残(ぎょうざん):身体不具。 |
参考:『大般若経巻401』:『以佛神力六種變動。時彼世界諸惡趣等一切有情皆離苦難從彼捨命。得生人中及六欲天。皆憶宿住歡喜踊躍。各於本界同詣佛所頂禮佛足時此三千大千世界及餘十方殑伽沙等世界有情。盲者能視聾者能聽。啞者能言狂者得念。亂者得定。貧者得富。露者得衣飢者得食。渴者得飲病者得除愈。醜者得端嚴。形殘者得具足。根缺者得圓滿。迷悶者得醒悟。疲頓者得安適』
参考:『放光般若経巻1』:『爾時三千大千國土,諸盲者得視、聾者得聽、啞者能言、傴者得申、拘躄者得手足、狂者得正、亂者得定、病者得愈、飢渴者得飽滿、羸者得力、老者得少、裸者得衣』 |
註:「三千大千世界衆生盲者」に就き、「大品」類本の「大般若経巻401」には、「三千大千世界及餘十方殑伽沙等世界有情盲者」と云いて「有情(衆生)」はあれど、「生盲」なく、「放光般若経巻1」には、「三千大千国土諸盲者」と云いて、「衆生」を「諸」に代えて、「生盲」なし。之を推すに、「生盲jaaty-andha」は、仏教特有の語にして、本より漢語には非ざるが故に、漢訳の多くは、「盲者andha」を用いたものとも考えられる。「大智度論」に於いて、「盲者」と「生盲」と別けて説くのは、その証拠ではなかろうか。或いは何等かの錯誤が入って、「衆生、盲者」を「衆、生盲者」の如く訓み違えた者があり、その者の創作が入ったとすれば、此に於いて「大智度論」に異本のないのが、尋常のこととも思われない。又上の訓み違えは漢語特有のものであるが故に、羅什が誤ったものとも考えられないし、本無い言葉を敢て創作したとも考え難い。恐らく、「大般若」は、敢て別にする必要がないが故に、より普通の「盲者」に取ったものと思われる。又「有情(衆生)」の有無に関しては、無くても意味は通じる、恐らく梵語にても同様の事情であろうと想像できる。 |
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【論】問曰。眾生苦患有百千種。若佛神力何以不遍令得解脫。 |
問うて曰く、衆生の苦患には、百千種有り。若し、仏に神力あらば、何を以ってか、遍く解脱を得しめざる。 |
問い、
『衆生』の、
若し、
『仏』が、
『神力』を、
『用いられた!』ならば、
何故、
遍く、
『解脱』を、
『得させなかった!』のですか?
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答曰。一切皆救。今但略說麤者。如種種結使略說為三毒。 |
答えて曰く、一切を、皆救いたまえるに、今は但だ、麁なる者を略説す。種種の結使を略説すれば、三毒と為るが如し。 |
答え、
一切を、
皆、
『救われた!』が、
今は、
但だ、
略して、
『大きな!』者のみを、
『説いた!』のである。
例えば、
種種の、
『結使』も、
略説すれば、
『三毒』と、
『言われる!』のと同じである。
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問曰。但言盲者得視則足。何以故言生盲。 |
問うて曰く、但だ『盲者は視るを得』と言えば、則ち足る。何を以っての故にか、『生盲』と言う。 |
問い、
但だ、
こう言えば足る、――
『盲者』は、
『視ることができた!』と。
何故、
『生盲』と、
『言う!』のですか?
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生盲(しょうもう):生まれながらの盲者。 |
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答曰。生盲者先世重罪故。重罪者猶尚能令得視。何況輕者。 |
答えて曰く、生盲の者は、先世の重罪の故なり。重罪の者すら、猶尚お能く視るを得る。何に況んや軽者をや。 |
答え、
『生まれながら!』の、
『盲者』とは、
『先世』の、
『重罪』の、
『故(せい)』である。
『重罪』の者すら、
猶尚お、
『視る!』ことを、
『得た!』。
況んや、
『軽罪』の者は、
『言うまでもない!』。
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問曰。云何先世重罪而令生盲。 |
問うて曰く、云何が、先世の重罪にして、生盲ならしむ。 |
問い、
何のような、
『先世』の、
『重罪』が、
『生盲にさせる!』のですか?
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答曰。若破眾生眼若出眾生眼。若破正見眼言無罪福。是人死墮地獄。罪畢為人從生而盲。 |
答えて曰く、若しは、衆生の眼を破り、若しは、衆生の眼を出し、若しは、正見の眼を破りて、『罪福は無し』と言えば、是の人は死して、地獄に堕ち、罪畢(おわ)りて人と為らば、生まれてより、盲とならん。 |
答え、
若しは、
『衆生』の、
『眼』を、
『破壊したり!』、
『衆生』の、
『眼』を、
『剔出したり!』、
若しは、
『正見』の、
『眼』を、
『破壊して!』、
『罪福』は、
『無い!』と、
『言ったり!』すれば、
是の、
『人』は、
『死んで!』、
『地獄』に、
『堕ち!』、
『罪』が終って、
『人』と、
『為る!』が、
『生まれた!』時より、
『盲となる!』のである。
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若復盜佛塔中火珠及諸燈明。若阿羅漢辟支佛塔珠及燈明。若餘福田中奪取光明。如是等種種先世業因緣故失明。 |
若しは、復た仏塔中の火珠、及び諸の灯明、若しくは阿羅漢、辟支仏の塔の珠、及び灯明を盗み、若しくは余の福田中より、光明を奪い取る、是の如き等の種種の先世の業の因縁の故に、失明す。 |
若しくは、
若しくは、
若しくは、
余の、
『福田』中より、
『光明』を、
『奪い取る!』、
是れ等の、
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火珠(かじゅ):梵語taijasaの訳。光を発するもの、若しくは光を含むものの義。塔上の宝珠を云う。 |
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今世若病若打故失明。是今世因緣。 |
今世に、若しは病み、若しは打つが故に失明する、是れ今世の因縁なり。 |
『今世』に、
『病んだり!』、
『打ったり!』するが故に、
『失明』すれば、
是れは、
『今世』の、
『因縁』である!。
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復次九十六種眼病。闍那迦藥王所不能治者。唯佛世尊能令得視。 |
復た次ぎに、九十六種の眼病は、闍那迦薬王の治する能わざる所なるも、唯だ仏世尊のみ、能く視るを得しめたもう。 |
復た次ぎに、
『九十六種』の、
『眼病』は、
『闍那迦薬王』にも、
『治せない!』が、
唯だ、
『仏世尊』ならば、
『視えるよう!』に、
『させることができる!』。
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復次先令得視。後令得智慧眼。聾者得聽亦如是。 |
復た次ぎに、先に、視るを得しめ、後には、智慧の眼を得しむ。聾者の聴くを得るも、亦た是の如し。 |
復た次ぎに、
先に、
『視る!』ことを、
『得させ!』て、
後に、
『智慧』の、
『眼』を、
『得させる!』のである。
『聾者』が、
『聴く!』ことを、
『得る!』のも、
亦た、
是の通りである。
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問曰。若有生盲何以不說生聾。 |
問うて曰く、若し生盲有らば、何を以ってか、生聾を説かざる。 |
問い、
若し、
『生盲』が有れば、
何故、
『生聾』を、
『説かない!』のですか?
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答曰。多有生盲生聾者少。是故不說。 |
答えて曰く、多く生盲有るも、生聾の者は少し。是の故に説かず。 |
答え、
『生盲』は、
『多く!』、
『有る!』が、
『生聾』の者は、
『少ない!』ので、
是の故に、
『説かない!』。
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問曰。以何因緣故聾。 |
問うて曰く、何の因縁を以っての故に、聾なる。 |
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答曰。聾者是先世因緣。師父教訓不受不行而反瞋恚。以是罪故聾。 |
答えて曰く、聾者は是れ先世の因縁なり。師父の教訓を受けず、行わずして、反って瞋恚す、是の罪を以っての故に聾となる。 |
答え、
『聾者』は、
『先世』の、
『因縁』である!が、
若し、
『師父』の、
『教訓』を、
『受けもせず!』、
『行いもせず!』して、
反って、
『瞋恚』すれば、
是の、
『罪』の故に、
『聾となる!』。
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從次截眾生耳若破眾生耳。若盜佛塔僧塔諸善人福田中揵稚鈴貝及鼓。故得此罪。如是等種種先世業因緣。 |
復た次ぎに、衆生の耳を截(き)り、若しくは衆生の耳を破り、若しくは仏塔、僧塔、諸の善人、福田中より、揵稚、鈴、貝、及び鼓を盗むが故に、此の罪を得。是の如き等は種種の先世の業の因縁なり。 |
復た次ぎに、
『衆生』の、
『耳』を、
『切ったり!』、
『破ったり!』するとか、
『仏の塔』や、
『僧の塔』など、
諸の、
『善人』の、
『福田』中より、
『揵稚( 鐘)』や、
『鈴』や、
『貝』、
『鼓』などを、
『盗んだ!』が故に、
此の、
『罪』を得る!。
是れ等が、
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註:従次は他本に従い、復次に改む。
揵稚(けんち):梵語gaNDii、或いはghaNTaa。鐘。鉄板、或いは他の金属の板を打ち鳴らして時を知らせるもの。 |
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今世因緣若病若打。如是等是今世因緣得聾。 |
今世の因縁は、若しは病み、若しは打つ、是の如き等は、是れ今世の因縁にて、聾を得るなり。 |
『今世』の、
『因縁』は、
『病んだり!』、
『打ったり!』で、
是のような、
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問曰。啞者不能言。作何等罪故啞。 |
問うて曰く、唖者の言う能わざるは、何等の罪を作せるが故に、唖となる。 |
問い、
『唖者』が、
『物』を、
『言わない!』とは、
何のような、
『罪』の故に、
『唖となる!』のですか?
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答曰。先世截他舌或塞其口。或與惡藥令不得語。 |
答えて曰く、先世に他の舌を截り、或いは其の口を塞ぎ、或いは悪薬を与えて、語るを得ざらしむ。 |
答え、
『先世』に、
或いは、
或いは、
『悪薬』を与えて、
『物』を、
『語れなくした!』。
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或聞師教父母教敕。斷其語非其教。 |
或いは師の教、父母の教勅を聞かず、其の語を断ち、其の教を非とす。 |
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或作惡邪人不信罪福破正語。地獄罪出生世為人啞不能言。如是種種因緣故啞。 |
或いは悪邪の人と作りて、罪福を信ぜず、正語を破り、地獄の罪より出て、世に生まれて人と為れば、唖となりて、言う能わず。是の如き種種の因縁の故に唖となる。 |
或いは、
『悪邪』の、
『人』と作って、
『罪福』を、
『信じず!』に、
『正語』を、
『誹謗して!』、
『破壊した!』者は、
『地獄』の、
『罪』を出て、
『人』と、
『為っても!』、
『唖』であって、
『物』が、
『言えない!』。
是のような、
種種の、
『因縁』の故に、
『唖となる!』のである。
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問曰。狂者得正云何為狂。 |
問うて曰く、狂者の正を得るとは、云何が狂と為る。 |
問い、
『狂者』が、
『正気』を、
『得る!』とは、
何故、
『狂』と、
『為る!』のですか?
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答曰。先世作罪。破他坐禪破坐禪舍。以諸咒術咒人。令瞋鬥諍婬欲。 |
答えて曰く、先世の作罪は、他の坐禅を破り、坐禅の舎を破り、諸の咒術を以って、人を呪い、瞋り、闘い、諍い、婬欲せしむ。 |
答え、
『先世』に、
『作す!』、
『罪』は、――
『他人』の、
『坐禅』を、
『破る!』とか、
『坐禅』の、
『屋舎』を、
『破る!』とか、
諸の、
『咒術』を以って、
『人』に、
『咒をかけ!』、
『瞋らせる!』、
『闘わせる!』、
『諍わせる!』、
『婬欲させる!』とかである。
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今世諸結使厚重。如婆羅門失其福田。其婦復死。即時狂發裸形而走。 |
今世には、諸の結使の厚く重ければなり。婆羅門の、其の福田を失い、其の婦も復た死せるに、即時に狂発りて、裸形にて走るが如し。 |
『今世』ならば、
諸の、
『結使』が、
『厚く!』、
『重い!』からである。
例えば、
『婆羅門』が、
其の、
『福田』を、
『失い!』、
更に、
其の、
『婦』までも、
『失った!』ので、
即時に、
『狂』が発って、
『裸形』で、
『走り回った!』ようなものである。
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又如翅舍伽憍曇比丘尼。本白衣時七子皆死。大憂愁故失心發狂。 |
又、翅舎伽憍曇比丘尼の、本白衣の時、七子皆死して、大いに憂愁せるが故に、心を失いて、狂を発せるが如し。 |
又、
『翅舎伽憍曇』という、
『比丘尼』などは、
本、
大いに、
『憂愁』した!が故に、
『心』を失って、
『狂』を、
『発した!』ことがある。
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翅舎伽憍曇比丘尼(きしゃかきょうどんびくに):又吉離舎瞿曇弥比丘尼に作る。 |
参考:『雑阿含巻45(1200経)』:『如是我聞。一時。佛住舍衛國祇樹給孤獨園。時。有吉離舍瞿曇彌比丘尼。住舍衛國王園精舍比丘尼眾中。晨朝著衣持缽。至舍衛城乞食。食已。還精舍。舉衣缽。洗足畢。持尼師壇。著肩上。入安陀林。於一樹下結跏趺坐。入晝正受。時。魔波旬作是念。今沙門瞿曇住舍衛國祇樹給孤獨園。時。吉離舍瞿曇彌比丘尼住舍衛國王園精舍比丘尼眾中。晨朝著衣持缽。入舍衛城乞食。食已。還精舍。舉衣缽。洗足畢。持尼師壇。著肩上。入安陀林。於一樹下結跏趺坐。入晝正受。我今當往。為作留難。即化作年少。容貌端正。往至吉離舍瞿曇彌比丘尼所。而說偈言 汝何喪其子 涕泣憂愁貌 獨坐於樹下 何求於男子 時。吉離舍瞿曇彌比丘尼作是念。為誰恐怖我。為人。為非人。為姦狡者。如是思惟。生決定智。惡魔波旬來嬈我耳。即說偈言 無邊際諸子 一切皆亡失 此則男子邊 已度男子表 不惱不憂愁 佛教作已作 一切離愛苦 捨一切闇冥 已滅盡作證 安隱盡諸漏 已知汝弊魔 於此自滅去 時。魔波旬作是念。吉離舍瞿曇彌比丘尼已知我心。愁憂苦惱。即沒不現』 |
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有人大瞋不能自制成大癡狂。 |
有る人は、大いに瞋りて、自ら制する能わず、大癡の狂と成れり。 |
有る人は、
大いに、
『瞋った!』ので、
『自ら!』を、
『制することができず!』、
『大癡( おおたわけ)』の、
『狂』と、
『成った!』。
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有愚癡人惡邪故。以灰塗身拔髮裸形狂癡食糞。 |
有る愚癡の人は、悪邪なるが故に、灰を以って身に塗り、髪を抜き、裸形、狂癡にして、糞を食う。 |
有る、
『愚癡』の、
『人』は、
『悪邪である!』が故に、
『身』には、
『灰』を、
『塗りたくり!』、
『髪』を抜き、
『裸形』の、
『狂癡』となって、
『糞』を、
『食っている!』。
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有人若風病若熱病病重成狂。 |
有る人は、若しや風病、若しは熱病の病重くして、狂と成る。 |
有る人は、
『風病』や、
『熱病』の、
『病』が、
『重くなって!』、
『狂』と、
『成った!』。
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有人惡鬼所著。或有人癡飲雨水而狂。如是失心如是種種名為狂。得見佛故狂即得正。 |
有る人は、悪鬼に著かれて、或いは有る人は癡(おろか)にして、雨水を飲みて、狂となる。是の如く心を失い、是の如き種種を名づけて、狂と為すに、仏に見ゆるを得るが故に、狂は即ち正を得。 |
有る人は、
或いは、
有る人は、
是のように、
是のような、
種種を、
『狂』と、
『呼ぶ!』のであるが、
『仏』を、
『見る(出会う)!』ことを、
『得た!』が故に、
『狂』は、
即時に、
『正気』を、
『得た!』のである。
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問曰。亂者得定狂則是亂。以何事別。 |
問うて曰く、乱者は、定を得とは、狂は、則ち是れ乱なり。何事を以ってか別にする。 |
問い、
『乱者』は、
『定』を、
『得る!』とは、――
『狂』とは、
則ち、
『乱』である!。
何のような、
『事』を以って、
『乱』と、
『狂』とを、
『区別する!』のですか?
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答曰。有人不狂而心多散亂。志如獼猴不能專住是名亂心。 |
答えて曰く、有る人は、狂ならずして、心多く散乱す。志は、彌猴の如く、専住すること能わず。是れを乱心と名づく。 |
答え、
有る人は、
『狂ではない!』が、
『志( 心の趣向する所)』が、
『彌猴( さる)のように!』、
『専ら!』、
『住まることができない!』ので、
是れを、
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復有劇務匆匆心著眾事。則失心力不堪受道。 |
復た有るは劇務匆匆にして、心、衆事に著せば、則ち心力を失いて、力は道を受くるに堪えず。 |
復た、
有る人は、
『務』が、
『劇しく!』、
『多忙であり!』、
『心』が、
『衆事』に、
『著する!』ので、
『心』が、
『力』を、
『失い!』、
『道』を、
『受ける!』に、
『堪えられない!』。
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問曰。亂心有何因緣。 |
問うて曰く、乱心には、何なる因縁か有る。 |
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答曰。善心轉薄隨逐不善。是名心亂。 |
答えて曰く、善心、転(うた)た薄るるに、不善を随逐す、是れを心乱ると名づく。 |
答え、
『善心』が、
次第に、
『薄れる!』と、
『不善』を、
『随逐する(追う)!』ようになる、
是れを、
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復次是人不觀無常。不觀死相不觀世空。愛著壽命計念事務種種馳散。是故心亂。 |
復た次ぎに、是の人、無常を観ずして、死の相を観ず、世の空なるを観ず、寿命に愛著し、事務を計念して種種に馳散せば、是の故に、心乱れん。 |
復た次ぎに、
是の、
『人』が、
『無常』を、
『観ない!』、
『死』という、
『相』を、
『観ない!』、
『世間』が、
『空である!』と、
『観ない!』とか、
『寿命』を、
『愛して!』、
『著したり!』、
『事務』を、
『計画し!』、
『念じたり!』して、
『心』が、
種種に、
『馳散した!』ならば、
是の故に、
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復次不得佛法中內樂。外求樂事隨逐樂因。是故心亂。如是亂人得見佛故其心得定。 |
復た次ぎに、仏法中に内楽を得ず、外に楽事を求めて、楽因を随逐せば、是の故に、心乱れん。是の如く乱るる人の、仏を見るを得るが故に、其の心に定を得るなり。 |
復た次ぎに、
『仏』の、
『法』中に、
『内楽(心の楽)』を、
『得ない!』で、
『外』に、
『楽事』を、
『求め!』、
『楽』の、
『因(もと)』を、
『随逐する(追う)!』ならば、
是の故に、
是のような、
『心』の、
『乱れた!』、
『人』が、
『仏』を、
『見る!』ことを、
『得た!』が故に、
其の、
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問曰。先言狂者得正。今言裸者得衣。除狂云何更有裸。 |
問うて曰く、先には、『狂者は、正を得』と言い、今は、『裸者は、衣を得』と言う。狂を除いて、云何が、更に裸有る。 |
問い、
先に、
こう言った、――
『狂者』は、
『正気』を、
『得た!』と。
今は、
こう言っている、――
『裸者』は、
『衣』を、
『得た!』と。
『狂』を除いて、
更に、
何のような、
『裸』が、
『有る!』のですか?
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答曰。狂有二種。一者人皆知狂。二者惡邪故自裸人不知狂。 |
答えて曰く、狂には二種有り、一には、人は皆、狂なるを知る。二には、悪邪なるが故に、自ら裸となるも、人は、狂なるを知らず。 |
答え、
『狂』には、
『二種』有り、
一には、
二には、
『心』が、
『悪( 不善)であり!』、
『邪( 不正)である!』が故に、
『自ら!』、
『裸となる!』が、
『人』は、
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如說南天竺國中有法師。高坐說五戒義。是眾中多有外道來聽。 |
説の如し、南天竺国中の有る法師、高坐して、五戒の義を説けり。是の衆中に、多く、外道の来聴する有り。 |
例えば、
こう説かれている、――
『南天竺国』中の、
有る、
『法師』が、
『高坐』より、
『五戒』の、
『義(意味)』を、
『説いていた!』。
是の、
『衆』中には、
『外道』の、
『来聴している!』者が、
『多かった!』。
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五戒(ごかい):梵語paJca ziilaaniの訳。五種の戒の意。(一)在家男女の受持すべき五種の制戒を云う。また優婆塞五戒、或は優婆塞戒とも名づく。一に殺生praaNa- atipaata、二に偸盗、また不与取adattaadaana、三に邪婬kaama- mithyaacaara、また非梵行a- brahama- caryaa、欲邪行に作る。四に妄語mRSaa- vaada、また虚誑語に作る。五に飲酒suraa- maireya- madya- paanaなり。また「雑阿含経巻33」に、「云何が優婆塞戒具足と名づくる。仏、摩訶男に告ぐ、優婆塞は殺生、不与取、邪淫、妄語、飲酒を離れて作すことを楽わず。摩訶男、これを優婆塞戒具足と名づく」と云い、「増一阿含経巻20」に、「長者報じて言わく、何者かこれ五大施なる。目連報じて言わく、一には殺生を得ず、これを名づけて大施と為す。長者まさに形寿を尽くすまでこれを修行すべし。二には不盗を名づけて大施と為す、まさに形寿を尽くすまでこれを修行すべし。不婬不妄語不飲酒、まさに形寿を尽くすまで而もこれを修行すべし」と云えるこれなり。この中、殺生とは衆生を殺すの罪を説いて、而もこれを制す、即ち「大智度論巻13」に、「また次ぎに、他を殺せば殺罪を得。自らの身を殺すに非ず、心に衆生と知りて而も殺す、これを殺罪と名づけ、夜中に人を見るに謂いて杌樹と為し、而も殺すが如きにはあらず。故(ことさら)に生を殺さば殺罪を得、故ならざるに非ざればなり。(中略)殺生に十罪有り、何等をか十と為す、一には心に常に毒を懐いて、世世に絶えず。二には衆生憎悪して、眼に見るを喜ばず。三には常に悪念を懐いて悪事を思惟す。四には衆生これを畏るること蛇虎を見るが如し。五には睡る時、心怖れ覚めてまた安んぜず。六には常に悪夢あり。七には命終の時、狂い怖れて死を悪む。八には短命の業因縁を種う。九には身壊れ、命終して、泥棃の中に堕す。十には若し出でて人と為りては、常にまさに短命なるべし。行者、心に念ぜよ。一切の命あるもの、乃ち昆虫に至るまで、皆自ら身を惜む、云何が衣服、飲食を以って自らの為の故に衆生を殺さん」と云えるこれなり。不与取とは与えられざる物を取る罪を説いて、而もこれを制す、即ち同連文に「与えざるを取るとは、他の物と知り、盗心を生じて物を取り、去りて本処を離れ、物を我れに属す、これを盗と名づけ、若し作さざればこれを不盗と名づく。その余の方便、計校は乃ち手に捉らば、未だ地を離れざるに至るまで、これを助盗の法と名づく。(中略)与えざるを取るに十罪あり、何等をか十と為す。一には物の主、常に瞋る。二には重く疑う。三には非時に行じて籌量せず。四には悪人に朋党して賢善を遠離す。五には善相を破る。六には罪を官に得、七には財物没入す。八には貧窮の業因縁を得、九には死して地獄に入る。十には若し出でて人と為りては勤苦して財を求め、五家の共にする所、若しは王、若しは賊、若しは火、若しは水、若しは不愛の子の用、乃至蔵埋してまた失す」と云えり。邪婬とは正常ならざる婬事の罪を説いて、而もこれを制す、即ち同じく「若し女人の父母、兄弟、姉妹、夫主、児子、世間の法、王法に守護せらるるを、若し犯す者有ればこれを邪婬と名づく。若し守護せずといえども、法を以って守と為す有り。何をか法守と云う。一切の出家の女人と、在家の一日戒を受くると、これを法守と名づく、若しくは力を以ってし、若しくは財を以ってし、若しくは誑惑し、若しくは自ら妻の授戒する有り、或は娠、乳児有り、非道、かくの如く犯す者を名づけて邪婬と為す。(中略)邪婬に十罪あり、何等をか十と為す。一には常に婬せらるる所の夫主はこれを危害せんと欲す。二には夫婦穆じからざず、常に共に闘諍す。三には諸の不善法日日に増長し、諸の善法に於いて日日に損減す。四には身を守護せず、妻子孤寡なり。五には財産日に耗る。六には諸の悪事有りて常に人の為に疑わる。七には親属知識の愛喜せざる所なり。八には怨家の業因縁を種う。九には身壊れ、命終し、死して地獄に入る。十には若し出でて女人と為りては、多人共に夫と為り、若し男子と為りては、婦貞潔ならず」と云えり。妄語とは偽りて語る罪を説いて、而もこれを制す、即ち同じく「妄語とは、不浄心もて他を誑さんと欲し、実を覆い隠して異語を出し、口業を生ず、これを妄語と名づく。妄語の罪は言声に従い、相解するにより生ず。若し相解せざれば、実語ならずといえども妄語の罪無し。この妄語は、知るを知らずと言い、知らざるを知ると言い、見るを見ずと言い、見ざるを見ると言い、聞くを聞かずと言い、聞かざるを聞くと言う、これを妄語と名づく。(中略)妄語に十罪有り、何等をか十と為す。一には口気臭し。二には善神これを遠ざかり、非人便りを得。三には実語有りといえども、人信受せず。四には智人謀議して常に参預せず。五には誹謗せられ、醜悪の声周く天下に聞こゆ。六には人の敬せざる所にして、教勅有りといえども、人承用せず。七には常に憂愁多し。八には誹謗の業因縁を種う。九には身壊し、命終して、まさに地獄に堕すべし。十には若し出でて人と為りては、常に誹謗せらる」と云えり。飲酒とは酒を飲む罪を説いて、而もこれを制す、即ち同じく「不飲酒とは、酒に三種有り、一には穀酒、二には果酒、三には薬草酒なり。(中略)かくの如き等は、能く人をして、心動き、放逸ならしむ。これを名づけて酒と為し、一切はまさに飲むべからず。これを不飲酒と名づく。(中略)酒に三十五失有り、何等か三十五なる。一には現在世に財物虚しく竭く。何を以っての故に、人酒を飲んで酔えば、心に節限なく、用を費やすこと度なきが故なり。二には衆病の門なり。三には闘諍の本なり。四には裸露にして恥なし。五には醜名悪声にして、人の敬わざる所なり。六には智慧を覆い没す。七にはまさに得らるべき物を得ず、已に得る所の物を散失す。八には伏匿の事を、尽く人に向うて説く。九には種種の事業廃して成辦せず。十には酔は愁の本と為る。何を以っての故に、酔の中に失すること多く、醒め已りて慚愧憂愁すればなり。十一には身力転た少し。十二には身色壊る。十三には父を敬うことを知らず。十四には母を敬うことを知らず。十五には沙門を敬わず。十六には婆羅門を敬わず。十七には伯叔及び尊長を敬わず。何を以っての故に、酔悶恍惚として別つ所なきが故なり。十八には仏を尊敬せず。十九には法を敬わず。二十には僧を敬わず。二十一には悪人と朋党す。二十二には賢善を疎縁す。二十三には破戒の人と作る。二十四には無慚無愧なり。二十五には六情を守らず。二十六には色を縦にして放逸なり。二十七には人の憎悪する所にして、これを見ることを喜ばず。二十八には貴重の親属及び諸の知識の共に擯棄する所なり。二十九には不善の法を行ず。三十には善法を棄捨す。三十一には明人智士の信用せざる所なり。何を以っての故に、酒は放逸なるが故なり。三十二には涅槃を遠離す。三十三には狂癡の因縁を種う。三十四には身壊れ、命終して、悪道泥黎の中に堕つ。三十五には若し人と為ることを得ては所生の処常にまさに狂駭なるべし」と云えり。また「増一阿含経巻20」には、「夫れ清信士の法は戒を限るに五あり、その中、能く一戒二戒三戒四戒を持し、乃至五戒皆まさにこれを持すべし。まさに再三能持者に問うてこれを持せしむべし」と云えり。蓋し仏制を案ずるに、初はただ仏法僧に帰依する在家の人を優婆塞と名づけたるも、戒を制せらるるに及んで、更に不殺等の五戒をも受持すべきことを教え、遂に三帰五戒を受持する在家の人をまさに優婆塞と称するに至りしものの如し。「増一阿含経巻20」に、「世尊、諸比丘に告ぐ、今より已後、優婆塞に五戒及び三自帰を授くることを聴す」と云い、「優婆塞戒経巻3」に、「優婆塞に或は一分あり、或は半分あり、或は無分あり、或は多分あり、或は満分あり。もし優婆塞にして、三帰を受け已りて五戒を受けず、これを優婆塞と名づく。もし三帰を受けて一戒を受持す、これを一分と名づけ、三帰を受け已りて二戒を受持す、これを少分と名づけ、もし三帰を受け二戒を持し已りて、もし一戒を破す、これを無分と名づけ、もし三帰を受けて三四戒を受持す、これを多分と名づけ、もし三帰を受けて五戒を受持す、これを満分と名づく」と云える即ちその意なり。但し経量部に於いては、ただ三帰を受けば即ち優婆塞と成ると説くといえども、説一切有部にては必ず先づ三帰を受け後に五戒を具受するを要すとなせり。「毘尼母経巻1」に、「優婆塞とは止だ三帰に在るのみならず、更に五戒を加えて、始めて名づけて優婆塞と為すことを得るなり」と云い、また「倶舎論巻14」に、「但だ三帰を受けば即ち近事を成ずとやせん。外国の諸師説く、唯だこれのみにて即ち成ずと。迦湿弥羅国の諸論師言わく、近事律儀を離れては則ち近事に非ず」と云える即ちその義なり。また五戒の分受具受に関しても異説あり。前引の増一阿含経並びに優婆塞戒経等の文は共に分受を許すのみならず、「大智度論巻13」にも「この五戒に五種の受あり、五種の優婆塞と名づく。一には一分行優婆塞、二には少分行優婆塞、三には多分行優婆塞、四には満行優婆塞、五には断婬優婆塞なり。一分行とは五戒の中に於いて一戒を受くるも、四戒を受持すること能わず、少分行とはもしは二戒を受け、もしは三戒を受く。多分行とは四戒を受く。満行とは尽く五戒を持す。断婬とは五戒を受け已りて師の前に更に自誓を作して言わく、我れ自婦に於いてまた媱を行ぜずと。これを五戒と名づく」と云い、その他、「大般涅槃経巻34」、「菩薩瓔珞本業経巻下」、「成実論巻8」、「倶舎論巻15」等にもまた皆分受の説を出せり。然るに説一切有部に在りては、優婆塞は必ず五戒を具受すべしと為し、その分受を許さず。故に「薩婆多毘尼毘婆沙巻1」に、「問うて曰わく、凡そ優婆塞戒を受くるに、設い五戒を具受すること能わず、もし一戒乃至四戒を受くるも、戒を受得するや不や。答えて曰わく、得ず。もし得ずんば経に説くことあり。少分優婆塞、多分優婆塞、満分優婆塞と。この義云何。答えて曰わく、この説を作す所以は、持戒の功徳の多少を明さんと欲すればなり。かくの如き受戒の法ありと言わざるなり」と云い、「倶舎論巻14」に、「もし諸の近事皆律儀を具せば、何に縁りてか世尊は、四種あり、一に能く一分を学す、二に能く少分を学す、三に能く多分を学す、四に能く満分を学すと言うや。謂わく能持に約するが故にこの説を作す。能く先の所受を持するが故に能学の説を説く。爾らずんばまさに一分等を受くと言うべし。理実には受に約せば等しく律儀を具す、律儀を具するを以っての故に近事と名づく」と云えり。「大毘婆沙論巻124」、「雑阿毘曇心論巻10」等また皆これに同じ。以ってその異説を見るべし。また五戒の中、前の四は性戒にして有情の境に発得し、後の一は遮戒にして非情の境に発得すとし、また前の三は身を防ぎ、次の一は口を防ぎ、後の一は通じて身口を防ぎ、前の四を護るとするの説あり。「薩婆多毘尼毘婆沙巻1」に、「問うて曰わく、優婆塞の五戒は幾ばくかこれ実罪、幾ばくかこれ遮罪なる。答えて曰わく、四はこれ実罪、飲酒の一戒はこれ遮罪なり。飲酒を四罪と同類とし、結して五戒を為すことを得る所以は、飲酒はこれ放逸の本にして、能く四戒を犯ずるを以ってなり。(中略)衆生の上に於いて四戒を得し、非衆生の上に於いて不飲酒戒を得す」と云える即ちその意なり。(二)また在家男女の受持すべき五種の制戒。一に殺生、二に偸盗、三に邪淫、四に両舌、悪口、妄言、綺語、五に飲酒なり。「潅頂経巻1」に、「我れまさに更に汝に五戒の法を授くべし。仏言わく、第一に不殺、第二に不盗、第三に不邪淫、第四に不両舌悪口妄言綺語、第五に不飲酒なり」と云い、また「優婆塞五戒威儀経」に、「離欲の優婆塞は、具さに五戒を行じて身の四悪を遠離す。一に殺、二に盗、三に婬、四に飲酒なり。口の五悪を遠離す、一に妄語、二に悪口、三に両舌、四に無義語、五に綺語なり」と云えるこれなり。これ第四に総じて口業の悪を摂したるものにして、十悪の説より転じたるものというべし。「四天王経」にもまたこの五戒の説を挙げ、「無量寿経巻下」にも五悪としてこれを出せり。(三)在家菩薩の受持すべき五種の制戒。一に不奪生命、二に不与取、三に虚妄語、四に欲邪行、五に邪見なり。「大日経巻6受方便学処品」に、「不奪生命戒、及び不与取、虚妄語、欲邪行、邪見等を持す。これを在家五戒の句と名づく」と云えるこれなり。これ通途の五戒中、不飲酒を除き、不邪見を加えたるなり。「大日経疏巻18」にこれを釈し「菩薩に二種あり、謂わく在家出家なり。この五戒の句は、即ち在家菩薩の所持なり」と云い、また「声聞経の如き、俗人に五戒を持せしむる所以は身口を防護して見諦に入らしめんが為の故なり。今この中にもまた爾り。この五句を、戒を以って方便と為して而もこれを防護し、真言の行を成じて而も見諦を得しむ。直だ在家の菩薩のみに非ず、然かもこの五句は諸の出家の者も皆共に行ずるなり」と云えり。また「増一阿含経巻7」、「雑阿含経巻31」、「鴦崛髻経」、「優婆塞戒経巻6」、「優婆塞五戒相経」、「瑜伽師地論巻54」、「順正理論巻36」、「大乗義章巻12」等に出づ。<(望) 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是時國王難曰。若如所說。有人施酒及自飲酒得狂愚報。當今世人應狂者多正者少。而今狂者更少不狂者多。何以故爾。 |
是の時、国王の難じて曰わく、『若し所説の如く、有る人、酒を施し、及び自ら酒を飲むに、狂愚の報を得ば、当今の人に、応に狂なる者多く、正なる者少なかるべし。而るに、今狂なる者は更に少く、狂ならざる者は多し。何を以っての故にか、爾(しか)る』と。 |
是の時、
『国王』は難じて、
こう言った、――
若し、
『説かれた!』ように、
有る、
『人』が、
『酒』を、
『人』に、
『施したり!』、
『酒』を、
『自ら!』、
『飲んだり!』して、
『狂愚』の、
『報』を、
『得る!』ならば、
当今の、
『世人』に、
『狂った!』者が、
『多く!』、
『狂わない!』者は、
『少ない!』はずだ。
而( しか)し、
今、
『狂った!』者は、
『思ったより!』、
『少なく!』、
『狂わない!』者が、
『多い!』。
何故、
爾(そ)うなのか?と。
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是時諸外道輩言善哉。斯難甚深。是禿高坐必不能答。以王利智故。 |
是の時、諸の外道の輩の言わく、『善き哉、斯(こ)の難は、甚だ深し。是の禿は高坐するも、必ず答う能わざらん。王の利智を以っての故なり』と。 |
是の時、
諸の、
『外道の輩( 類)』は、
こう言った、――
善いぞ!
斯( こ)の
『難(問難)』は、
『甚だ深い!』。
是の、
『禿( ハゲアタマ)』は、
『高座』の上で、
必ず、
『答えられず!』に、
『立ち往生する!』だろう。
『王』の、
『智慧』が、
『利い!』からだ、と。
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禿(とく):梵語muNDakaの訳。剃髪した者の義。剃髪の出家衆を誹謗する為の語。 |
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是時法師以指指諸外道。而更說餘事。王時即解。 |
是の時、法師、指を以って諸の外道を指して、更に余事を説けば、王は時に即ち解せり。 |
是の時、
『法師』が、
『指』を以って、
諸の、
『外道』を、
『指しながら!』、
更に、
『余の事』を、
『説く!』と、
『王』は、
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諸外道語王言。王難甚深是不知答。恥所不知而但舉指更說餘事。 |
諸の外道の王に語りて言わく、『王の難の甚だ深きに、是れ答うるを知らず。知らざる所を恥じて、但だ指を挙げ、更に余事を説けり』と。 |
諸の、
『外道』は、
『王』に語って、
こう言った、――
『王』の、
是の、
『法師』には、
『答え!』が、
『分らない!』、
『分らない!』ことを、
恥じて、
但だ、
『指』を、
『挙げ!』、
更に、
『余の事』を、
『説いている!』のだ、と。
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王語外道。高坐法師指答已訖。將護汝故不以言說。向者指汝言。汝等是狂狂不少也。 |
王の外道に語らく、『高坐の法師は、指もて答え、已に訖(おわ)れり。汝を将(ひき)いて護るが故に、言を以って説かざるのみ。向(さき)には、汝を指して言わく、『汝等は、是れ狂なり。狂は少なからざるなり』と。 |
『王』は、
『外道』に、こう語った、――
『高坐』の、
『法師』は、
『指』を以って、
『答えた!』のであり、
已に、
『答え!』、
『終っている!』。
お前たちを、
『将( ひき)いて!』、
『護ろうとした!』が故に、
『言葉』では、
『説かなかった!』のだ。
先ほどは、
お前たちを、
指して、こう言った、――
お前たちは、
『狂』である!、
『狂』は、
『少なくはない!』のだ、と。
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汝等以灰塗身裸形無恥。以人髑髏盛糞而食。拔頭髮臥刺上倒懸熏鼻。冬則入水夏則火炙。如是種種所行非道皆是狂相。 |
汝等は、灰を以って身に塗り、裸形にして恥じる無く、人の髑髏を以って、糞を盛りて食い、頭髪を抜き、刺上に臥し、倒懸して鼻を熏し、冬なれば、則ち水に入り、夏なれば、則ち火に炙る。是の如き種種の所行は、道に非ず、皆是れ狂の相なり。 |
お前たちは、
『灰』を以って、
『身』に、
『塗り!』、
『裸形』で、
『恥じる!』ことも、
『無く!』、
『人』の、
『頭髪』を抜いて、
『刺の上』に、
『寝転び!』、
『逆さ吊り!』になって、
『鼻』を、
『熏(いぶ)し!』、
『冬』には、
『水』に、
『入り!』、
『夏』には、
『火』に、
『炙る!』、
是のような、
種種の
『所行』は、
『道でなく!』、
皆、
『狂』の、
『相』である!。
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倒懸(とうけん):逆さに懸る。逆さ吊りになる。 |
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復次汝等法以賣肉賣鹽即時失婆羅門法。於天祠中得牛布施。即時賣之自言得法。牛則是肉。是誑惑人豈非失耶。 |
復た次ぎに、汝等が法には、肉を売り、塩を売るを以って、即時に婆羅門の法を失うに、天祠中に於いて、牛の布施を得れば、即時に之を売りて、自ら、『法を得たり』と言う。牛は、則ち是れ肉なり。是れ人を誑惑す、豈に失に非ずや。 |
復た次ぎに、
お前たちの、
『法』には、
即時に、
『天祠』中に於いて、
『牛』の、
『布施』を、
『得る!』と、
即時に、
『牛』を、
『売りはらって!』、
自ら、
『牛』は、
『肉』である!
是れは、
『人』を、
『誑惑した(だました)!』のだ、
何うして、
『法』を、
『失わない!』はずがあろう。
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天祠(てんし):天を祀る処。神社。
失法(しっぽう):法にたがう。違法。
得法(とくほう):法にしたがう。順法。 |
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又言入吉河水中罪垢皆除。是為罪福無因無緣。賣肉賣鹽此有何罪。入吉河水中言能除罪。若能除罪亦能除福。誰有吉者。如此諸事無因無緣。強為因緣。是則為狂。 |
又言わく、『吉河の水中に入れば、罪垢は、皆除こる』と。是れを、罪福は無因、無縁なりと為す。肉を売り、塩を売るも、此れに何の罪か有らん。吉河の水中に入りて、『能く罪を除く』と言うも、若し能く罪を除かば、亦た能く福をも除かん。誰か、吉を有する者なる。此の諸の事の、無因、無縁なるを、強いて因縁を為すが如き、是れを則ち狂と為す。 |
又、
こう言っている、――
『吉河』の、
『水』中に、
『入る!』だけで、
『罪垢』が、
皆、
『除かれる!』と。
是れは、
『罪、福』は、
『無因』、
『無縁』ということだ!。
『肉』を、
『売ろう!』が、
『塩』を、
『売ろう!』が、
此れに、
『吉河』の、
『水』中に入って、
若し、
『水』に、
『罪』を、
『除ける!』ならば、
亦た、
『福』をも、
『除ける!』ということだ。
誰が、
此の、
『吉河』の、
『事』は、
『無因』、
『無縁』なのに、
強いて、
『因縁』を、
『言う!』、
是れを、
『狂』と、
『呼ぶ!』のだ。
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吉河(きちが):殑伽gaGgaa、即ちガンジス河の意。外道の、此の河に於いて沐浴すれば、一切の罪を洗い流せると執するが故に、此の河を吉兆の河と呼ぶに依る。 |
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如是種種狂相。皆是汝等法師將護汝故指而不說。是名為裸形狂。 |
是の如き種種の狂の相は、皆是れ汝等の法師の、汝を将いて護らんが故に、指して説かざりしなり』と。是れを名づけて、裸形の狂と為す。 |
是のような、
種種の、
『狂』の、
『相』は、
皆、
お前たちの、
『法師』が、
お前たちを、
『将いて!』、
『護ろうとする!』が故に、
『指』を、
『指す!』のみで、
『説かなかった!』ものなのだ、と。
是れを、
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復次有人貧窮無衣。或弊衣藍縷以佛力故令其得衣。 |
復た次ぎに、有る人は、貧窮にして、衣無く、或いは弊衣、襤褸なるも、仏の力を以っての故に、其れをして、衣を得しむ。 |
復た次ぎに、
有る人は、
『貧窮( 貧乏)』で、
『衣』が、
『無い!』とか、
或いは、
『弊衣(破れ衣)』、
『襤褸(ぼろ布)』である!が、
『仏』の、
『力』を、
『用いた!』が故に、
其れに、
『衣』を、
『得させた!』のである。
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弊衣(へいえ):破れた衣。
藍縷(らんる):他本に従い、繿縷に改む。ぼろ布。襤褸。 |
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問曰。飢者得飽渴者得飲。云何飢渴。 |
問うて曰く、飢者は飽を得、渇者は飲を得とは、云何が飢渴なる。 |
問い、
『飢者』は、
『飽満』を、
『得た!』、
『渇者』は、
『飲物』を、
『得た!』とは、――
何故、
『飢えたり!』、
『渇いたり!』するのですか?
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答曰。福德薄故。先世無因今世無緣。是故飢渴。 |
答えて曰く、福徳薄きが故に、先世には因無く、今世には縁無し。是の故に飢渴す。 |
答え、
『福徳』が、
『薄い!』が故に、
『先世』には、
『今世』には、
是の故に、
『飢えたり!』、
『渇いたり!』するのである。
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復次是人先世奪佛阿羅漢辟支佛食及父母所親食。雖值佛世猶故飢渴。以罪重故。 |
復た次ぎに、是の人は、先世に仏、阿羅漢、辟支仏の食、及び、父母、親しむ所の食を奪えば、仏の世に値(あ)うと雖も、猶お故に飢渴す。罪の重きを以っての故なり。 |
復た次ぎに、
是の、
『人』は、
『先世』に、
『仏』や、
『阿羅漢』、
『辟支仏』の、
『食』を、
『奪った!』とか、
『父母』や、
『親戚』の、
『食』を、
『奪った!』が故に、
『仏』の、
『世』に値( あ)っても、
猶お、
『飢えたり!』、
『渇いたり!』する。
何故ならば、
『罪』が、
『重い!』からである。
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問曰。今有惡世生人得好飲食。值佛世生而更飢渴。若罪人不應生值佛世。若福人不應生惡世。何以故爾。 |
問うて曰く、今、有る悪世に生まるる人は、好き飲食を得、仏に値う世に生まるるは、而も更に飢渴す。若し罪人なれば、応に仏に値う世に生まるべからず。若し福人なれば、応に悪世に生ずべからず。何を以っての故にか、爾(しか)る。 |
問い、
今、
有る人は、
『悪世』に、
『生まれた!』のに、
『好い!』、
『飲食』を、
『得ることができ!』、
有る人は、
『仏に値う!』、
『世』に、
『生まれた!』のに、
まだ、
『飢えたり!』、
『渇いたり!』している。
若し、
『不善業』の、
『罪人』ならば、
当然、
『仏に値う!』、
『善世』に、
『生まれるはずがない!』し、
若し、
『善業』の、
『福人』ならば、
当然、
『悪世』に、
『生まれるはずがない!』。
何故、
そうなるのですか?
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答曰。業報因緣各各不同。或有人有見佛因緣。無飲食因緣。或有飲食因緣。無見佛因緣。 |
答えて曰く、業報の因縁は、各各不同にして、或いは有る人には、仏を見る因縁有るも、飲食の因縁無く、或いは飲食の因縁有るも、仏を見る因縁無し。 |
|
譬如黑蛇。而抱摩尼珠臥。有阿羅漢人乞食不得。 |
譬えば、黒蛇にして、摩尼珠を抱きて臥せ、有る阿羅漢は、人なるも乞食して得ざるが如し。 |
譬えば、
『黒蛇』が、
『摩尼珠』を、
『抱いて!』、
『臥せていたり!』、
有る人は、
『阿羅漢』なのに、
『食』を、
『乞うて!』、
『得られない!』のと同じである。
|
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又如迦葉佛時。有兄弟二人出家求道。一人持戒誦經坐禪。一人廣求檀越修諸福業。至釋迦文佛出世。一人生長者家。一人作大白象。力能破賊。 |
又、迦葉仏の時、有る兄弟二人の出家して道を求むるが如し。一人は持戒、誦経、坐禅し、一人は広く檀越を求めて、諸の福業を修む。釈迦文仏の出世に至りて、一人は長者の家に生まれ、一人は大白象と作りて、力は能く賊を破る。 |
又、
『迦葉仏』の時、
有る、
『兄弟』の、
『二人』が、
『出家』して、
『道』を、
『求めた!』のと同じである、――
一人は、
一心に、
『持戒し!』、
『誦経し!』、
『坐禅していた!』が、
一人は、
広く、
『檀越』を、
『求める!』と、
諸の、
『福業』を、
『修めていた!』。
『釈迦文仏』の、
『出世』の時、
一人は、
一人は、
『大白象』と作って、
『力』は、
『賊( 敵)』を、
『破る!』に、
『任えられた!』。
|
檀越(だんおち):梵語daanapatiにして施主と訳す。また陀那鉢底に作り、陀那daanaはまた檀那、或は檀に作りて施と訳し、鉢底patiを主と訳す。越を施の功徳と為し、已に貧窮の海を越すの義なり。「南海寄帰内法伝巻1」には「梵に陀那鉢底と云い、訳して施主と為す。陀那はこれ施、鉢底はこれ主なり。而も檀越と言うは、本より正訳に非ず、略して那字を去り、上の陀音を取り転じ名づけて檀と為し、更に越字を加う。意は檀を行ずるに由り自ら貧窮を越度するをいい、妙釋の然りといえども、終に正本に乖けり」と云えり。<(望) |
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長者子出家學道。得六神通阿羅漢。而以薄福乞食難得。 |
長者の子は、出家して学道して、六神通の阿羅漢を得るも、福の薄きを以って、乞食して得難し。 |
『長者』の、
『子』は、
『出家し!』、
『道』を、
『学んで!』、
『六神通』の、
『阿羅漢』を、
『得た!』が、
『福が薄い!』ので、
『乞食しても!』、
『得難かった!』。
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他日持缽入城乞食遍不能得。到白象廄中。見王供象種種豐足。語此象言。我之與汝俱有罪過。象即感結三日不食。 |
他日、鉢を持ちて城に入り、乞食するも遍く得る能わず、白象の厩中に到りて、王の象に供するを見るに、種種豊足せり。此の像に語りて言わく、『我れは、之れ汝と倶に罪過有り』と。象は、即ち感結ぼれて三日食わず。 |
ある日、
『鉢』を持って、
『城』に、
『入り!』、
遍く、
『乞食した!』が、
『得られず!』に、
『白象』の、
『厩』中に、
『到って!』、
『王』に、
『供されて!』、
『種種』に、
『豊足する!』、
『象』を、
『見る!』と、
此の、
『象』に語って、こう言った、―― わたしにも、
お前にも、
倶( とも)に、
『罪過』が、
『有ったのだな!』、と。
『象』は、
『感情』が結ぼれて、
『三日』、
『食わなくなった!』。
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守象人怖求覓道人。見而問言。汝作何咒令王白象病不能食。 |
守象人は怖れて、道人を求覓し、見て問うて言わく、『汝は、何なる咒を作してか、王の白象をして、病みて食う能わざらしむ』と。 |
『守象人』は怖れて、
『道人』を、
『探し求め!』、
『見る!』と、
『道人』に問うて、こう言った、――
お前は、
何のような、
『咒』を、
『使って!』、
『王』の、
『白象』を、
『病ませ!』、
『食えなくさせた!』のか?と。
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答言。此象是我先身時弟。共於迦葉佛時出家學道。我但持戒誦經坐禪不行布施。弟但廣求檀越作諸布施。不持戒不學問。以其不持戒誦經坐禪故今作此象。大修布施故飲食備具種種豐足。我但行道不修布施故。今雖得道乞食不能得。以是事故因緣不同。雖值佛世猶故飢渴。 |
答えて言わく、『此の象は、是れ我が先の身の時の弟なり。共に迦葉仏の時、出家学道せしに、我れは但だ持戒、誦経、坐禅して、布施を行ぜず、弟は、但だ広く、檀越を求めて、諸の布施を作せるも、持戒せず、学門せざれば、其の持戒、誦経、坐禅せざるを以っての故に、今、此の象と作りて、大いに布施を修めしが故に、飲食備具して、種種に豊足せり。我れは、但だ道を行じて、布施を修めざるが故に、今、道を得と雖も、乞食して、得る能わず』と。是の事を以っての故に、因縁は同じからず、仏の世に値うと雖も、猶お故(もと)のごとく飢渴す。 |
答えて、こう言った、――
此の、
『象』は、
わたしの、
先の、
『身』の時には、
『弟』であった!。
共に、
『迦葉仏』の時、
『出家して!』、
『道』を、
『学んだ!』が、
わたしは、
但だ、
『持戒し!』、
『誦経し!』、
『坐禅した!』のみで、
『布施』を、
『行わなかった!』し、
弟は、
但だ、
広く、
『檀越( 大施主)』を求め、
『得た!』所の、
『財物』を以って、
諸の、
『布施』を、
『作した!』のみで、
『持戒もしなかった!』し、
『学門もしなかった!』ので、
其の、
大いに、
『布施を修めた!』が故に、
『飲食』を具備して、
『種種に!』、
『豊足している!』、
わたしは、
但だ、
『道』を行う!のみで、
『布施』を、
『修めなかった!』が故に、
今は、
『道』を得て、
『乞食』しても、
『得られない!』のである、と。
是の事を以っての故に、
『因縁』は、
『同じではなく!』、
『仏』の、
『世』に、
『値った!』としても、
猶お、
故( もと)のように、
『飢えたり!』、
『渇いたり!』するのである。
|
猶故(ゆうこ):なおもとのごとく、まだ以前と同じように。 |
|
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|
問曰。此諸眾生云何飽滿。 |
問うて曰く、此の諸の衆生は、云何が飽満する。 |
|
答曰。有人言。佛以神力變作食令得飽滿。 |
答えて曰く、有る人の言わく、『仏は、神力を以って、食を変作し、飽満を得しめたり』と。 |
答え、
有る人は、
こう言っている、――
『仏』が、
『神力』を以って、
『食』を、
『変じて!』、
『作り!』、
『飽満』を、
『得させた!』のである、と。
|
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復有人言。佛光觸身令不飢渴。譬如如意摩尼珠。有人心念則不飢渴。何況值佛。 |
復た有る人の言わく、『仏の光が、身に触るれば、飢渴せざらしむ。譬えば、如意摩尼珠の如し。有る人は、心に念ずれば、則ち飢渇せず。何に況んや、仏に値うをや』と。 |
復た、
有る人は、
こう言っている、――
『仏』の、
『光』が、
『身』に、
『触れる!』ことで、
『飢渴させない!』のである。
譬えば、
『如意摩尼珠』と同じである、とか、
有る人は、
『心』に、
『念じた!』だけで、
『飢渴しない!』、
況して、
『仏』に、
『値った!』のだから、と。
|
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病者得愈。病有二種。先世行業報故。得種種病。今世冷熱風發故。亦得種種病。 |
病者は愈を得とは、病に二種有り、先世の行業の報の故に、種種の病を得、今世の冷、熱の風発るが故に、亦た種種の病を得。 |
『病者』が、
『治癒』を、
『得た!』とは、――
『病』には、
『二種』有り、
先世には、
『行業』の、
『報』の故に、
種種の、
『病』を、
『得る!』し、
今世には、
『冷、熱』の、
『風』が発る!が故に、
種種の、
『病』を、
『得る!』。
|
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今世病有二種。一者內病。五藏不調結堅宿疹。二者外病。奔車逸馬堆壓墜落。兵刃刀杖種種諸病。 |
今世の病に、二種有り、一には、内の病にして、五臓不調の結堅せる宿疹なり。二には、外の病にして、奔車、逸馬、堆圧、墜落、兵刃、刀杖の種種の諸病なり。 |
今世の、
『病』には、
二種有り、
一には、
『内の病』で、
『五臓』の、
『不調』が、
『結堅した!』、
『宿疹である!』。
二には、
『外の病』で、
『奔車』や、
『逸馬』、
『堆圧』、
『墜落』、
『兵刃』、
『刀杖』等の、
種種の、
|
結堅(けつけん):凝り固まる。
宿疹(しゅくちん):持病。
奔車(ほんしゃ):暴走する車。
逸馬(いつめ):逃げた馬。
堆圧(ついあつ):重い物に潰される。
兵刃(ひょうじん):兵と刃。
刀杖(とうじょう):武器。 |
|
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|
問曰。以何因緣得病。 |
問うて曰く、何なる因縁を以ってか、病を得る。 |
問い、
何のような、
『因縁』を以って、
『病』を、
『得る!』のですか?
|
|
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|
|
答曰。先世好行鞭杖拷掠閉繫種種惱故。今世得病。 |
答えて曰く、先世に好んで、鞭杖、拷掠、閉繋を行い、種種に悩ませたるが故に、今世に病を得。 |
答え、
先世に、
好んで、
『鞭杖』、
『拷掠』、
『閉繋』等を、
『行い!』、
種種に、
『悩ませた!』が故に、
今世に、
『病』を、
『得る!』のである。
|
鞭杖(べんじょう):鞭と棒。
拷掠(こうりゃく):拷問。
閉緊(へいきん):監禁と緊縛。 |
|
|
|
現世病不知將身。飲食不節臥起無常。以是事故得種種諸病。如是有四百四病。以佛神力故。令病者得愈。 |
現世の病は、身を将(やしな)うことを知らず、飲食を節せず、臥起に常無くんば、是の事を以っての故に、種種の諸病を得。是の如きに、四百四病有り。仏の神力を以っての故に、病者をして、愈を得しむ。 |
現世に、
『病む!』のは、
『身』を、
『養う!』ことを、
『知らず!』に、
『飲食』を、
『節制しない!』とか、
『臥起』が、
『定まらない!』とか、
是のような、
是のように、
『四百四』の、
『病』が、
『有る!』が、
『仏』の、
『神力』を以っての故に、
『病者』に、
『治癒』を、
『得させた!』のである。
|
将身(しょうしん):身を養う。
不節(ふせつ):節度がない。
臥起(がき):横になると起き上がると。
無常(むじょう):決まりが無い。無規則。 |
|
|
|
如說。佛在舍婆提國有一居士。請佛及僧於舍飯食。 |
説の如し。仏、舎婆提国に在せるに、有る一居士、仏、及び僧を請うて、舎に於いて、飯食せしむ。 |
例えば、
こう説かれている、――
『仏』が、
『舎婆提国』に居られた時、
有る、
『一居士』が、
『仏』と、
『僧』とを、
『請うて!』、
『舎( 客館)』に於いて、
『飯食』を、
『与えた!』。
|
舎(しゃ):いえ。客館。家。 |
|
|
|
佛住精舍迎食有五因緣。一者欲入定。二者欲為諸天說法。三者欲遊行觀諸比丘房。四者看諸病比丘。五者若未結戒欲為諸比丘結戒。 |
仏の精舎に住まりて、食を迎えたもうに、五因縁有り、一には、定に入らんと欲す。二には、諸天の為に法を説かんと欲す。三には、遊行して、諸の比丘の房を観んと欲す。四には、諸の病比丘を看る。五には、若しは未だ結戒せざるに、諸の比丘の為に結戒せんと欲す。 |
『仏』が、
『精舎』に住まって、
『食』を、
『迎えられる!』には、
『五種』の、
『因縁』が有り、
一には、
二には、
諸の、
『天』の為に、
『法』を、
『説こう!』と、
『思われた!』。
三には、
『遊行』して、
諸の、
『比丘』の、
『房舎』を、
『観たい!』と、
『思われた!』。
四には、
諸の、
『病んだ!』、
『比丘』を、
『看ていられた!』。
五には、
若しは、
未だ、
『戒』を、
『結んでいない!』ので、
諸の、
『比丘』の為に、
『戒』を、
『結ぼう!』と、
『思われた!』である。
|
|
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|
|
是時佛手持戶排入諸比丘房。見一比丘。病苦無人瞻視。臥大小便。不能起居。 |
是の時、仏は、手に戸を持ち、排(お)して、諸の比丘の房に入りたまえるに、一比丘の病に苦しむも、人の瞻視する無く、臥したまま大小便して、起居する能わざるを見たまえり。 |
是の時、
『仏』は、
『手』で、
『戸』を、
『排(お)しながら!』、
諸の、
『比丘』の、
『房舎』に、
『入られていた!』が、
『一比丘』が、
『病』に、
『苦しんでいる!』のに、
『看病する!』、
『人』が、
『無く!』、
『臥した!』まま、
『大小便』して、
『起居できない!』のを、
『見られた!』。
|
瞻視(せんし):見る。 |
|
|
|
佛問比丘。汝何所苦獨無人看。 |
仏の比丘に問いたまわく、『汝は何の苦しむ所にしてか、独り、人の看る無き』と。 |
|
比丘答言。大德。我性嬾。他人有病。初不看視。是故我病他亦不看。 |
比丘の答えて言わく、『大徳、我が性は嬾にして、他人に病有るも、初より看視せず。是の故に、我れ病むも、他も亦た看ず』と。 |
『比丘』は答えて、こう言った、――
大徳!
わたしは、
『性』が、
『怠け者!』ですので、
他人に、
『病』が有っても、
『初めから!』、
『看たことがありません!』。
是の故に、
わたしが、
『病んでいても!』、
『他人』は、
『看てくれない!』のです、と。
|
嬾(らん):おこたる。怠ける。 |
|
|
|
佛言。善男子我當看汝。時釋提婆那民盥水。佛以手摩其身。摩其身時。一切苦痛即皆除愈身心安隱。 |
仏の言わく、『善男子、我れ、当に汝を看るべし』と。時に、釈提婆那民、水を盥(たらい)にくみ、仏は手を以って、其の身を摩(な)でたもうに、其の身を摩づる時、一切の苦痛は、即ち皆除き愈え、身心安穏たり。 |
『仏』は、
こう言われた、――
善男子!
わたしが、
お前を、
『看ることにしよう!』、と。
その時、
『釈提婆那民( 帝釈)』が、
『仏』は、
『手』を以って、
其の、
『身』を、
『摩(な)でられた!』。
其の、
『身』を、
『摩でられた!』時、
一切の、
『苦痛』は、
皆、
『除かれて!』、
『愈え!』、
『身』も、
『心』も、
『安隠になった!』。
|
釈提婆那民(しゃくだいばなみん):また釈迦提婆因陀羅、釈提桓因等に作る。帝釈天なり。 |
|
|
|
是時世尊安徐扶此病比丘起。將出房澡洗著衣。安徐將入更與敷褥令坐。 |
是の時、世尊は安徐として、此の病比丘を扶け起し、将(ひき)いて房より出で、澡洗して、衣を著けしめ、安徐として将いて入り、更に与(ため)に褥を敷いて、坐せしめたまえり。 |
是の時、
『世尊』は、
徐( おも)むろに、
此の、
『病比丘』を、
『扶(たす)け』、
『起して!』、
『手』を引いて、
『房』を、
『出られ!』、
『澡洗』して、
『衣』を、
『著けさせる!』と、
ゆっくり、
『手』を引いて、
『房』に、
『入り!』、
『褥』を、
『 更(あらた)に!』、
『敷かれて!』、
その上に、
『坐らせられた!』。
|
安徐(あんじょ):安隠徐徐。ゆっくり慌てず。
将出(しょうしゅつ):手を引いて出る。
将入(しょうにゅう):手を引いて入れる。
澡洗(そうせん):あらう。洗い浄める。 |
|
|
|
佛語病比丘。汝久來不勤求。未得事令得。未到時令到。未識事令識。受諸苦患如是。方當更有大苦。 |
仏の、病比丘に語りたまわく、『汝は久しきより来(このかた)、勤求せざれば、未だ得ざる事を得しめ、未だ到らざる時を到らしめ、未だ識らざる事を識らしめんに、諸の苦患を受くること是の如く、方当(まさ)に更に大苦有るべし。 |
『仏』は、
『病比丘』に、こう語った、――
お前は、
『道』を、
『求めなくなってから!』、
『久しい!』が、
未だ、
未だ、
未だ、
『識らない!』、
『事』を、
『識らせる!』としよう。
お前が、
『道』を、
『求めなくなってから!』、
『久しい!』が故に、
諸の、
『苦患』を、
『受けている!』ように、
是のように、
正しく、
更に、
『大苦』を、
『受けるはず!』である、と。
|
勤求(ごんぐ):つとめて求める。道を求めるに努めて懈怠せざるを云う。
方当(ほうとう):まさに~すべし。正しく~となるはずだ。 |
|
|
|
比丘聞已心自思念。佛恩無量神力無數。以手摩我苦痛即除身心快樂。以是故佛以神力令病者得愈。 |
比丘は聞き已りて、心に自ら思念すらく、『仏恩は無量にして、神力は無量なり。手を以って我れを摩づるに、苦痛即ち除こり、身心快楽なり』と。是を以っての故に、仏は、神力を以って、病者をして、愈を得しめたもう。 |
『比丘』は聞き已ると、
『心』に、自らこう思った、――
『仏』の、
『恩』は、
『無量』であり!、
『神力』は、
『無数』である!。
『手』を以って、
わたしを、
『摩でられる!』と、
即時に、
『苦痛』が、
『除かれ!』て、
『身』も、
『心』も、
『快く!』、
『楽になった!』、と。
是の故に、
『仏』は、
『神力』を以って、
『病者』に、
『治癒』を、
『得させられる!』のである。
|
|
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|
|
形殘者得具足。云何名形殘者。若有人先世破他身截其頭斬其手足。破種種身分。或破壞佛像毀佛像鼻及諸賢聖形像。或破父母形像。以是罪故受形多不具足 |
形残者は、具足を得とは、云何が、形残者と名づくる。若し有る人、先世に他の身より、其の頭を截(き)り、其の手足を斬り、種種の身分を破り、或いは仏像を破壊し、仏像の鼻、及び諸の賢聖の形像を毀(こぼ)ち、或いは父母の形像を破らば、是の罪を以っての故に、形を受くるに、多くは具足せず。 |
『形残者』は、
『具足する!』を、
『得る!』とは、――
何故、
『形残者』と、
『呼ばれる!』のですか?
若し、
有る人が、
先世に、
『他』の、
『身』より、
其の、
『頭』を、
『斬りおとす!』とか、
其の、
『手足』を、
『斬りおとす!』、
種種の、
『身の分』を、
『破壊する!』とか、
或いは、
『仏』の、
『像』を、
『破壊する!』とか、
『仏』の、
『像の鼻』や、
諸の、
『賢聖』の、
『形像』を、
『破壊する!』とか、
或いは、
『父母』の、
『形像』を、
『破壊する!』ならば、
是の、
『罪』を以っての故に、
『形』を、
『受けた!』時、
多くは、
『具足しない!』のである。
|
|
|
|
|
復次不善法報受身醜陋。若今世被賊或被刑戮。種種因緣以致殘毀。或風寒熱病身生惡瘡體分爛壞。是名形殘。蒙佛大恩皆得具足。 |
復た次ぎに、不善法の報は、身の醜陋を受く。若しくは今世に、賊を被(こうむ)る、或いは刑戮を被りて、種種の因縁を以って、残毀を致す。或いは風、寒、熱の病、身に悪瘡を生じて、体分爛壊せば、是れを形残と名づけ、仏の大恩を蒙りて、皆、具足を得。 |
復た次ぎに、
『不善法』の、
『報』は、
若しくは、
『今世』に、
『賊(殺害)』を、
『被(こうむ)り!』、
或いは、
『刑戮(刑罰)』を、
『被り!』、
種種の、
『因縁』を以って、
『残毀(残害)』を、
『招き!』、
或いは、
『風』、
『寒』、
『熱』等の、
『病』で、
『身』に、
『悪瘡』を、
『生じ!』、
『体』の、
『部分』が、
『爛壊する!』。
是れを、
『形残』と、
『呼ぶ!』のであるが、
『仏』の、
『大恩』を蒙り、
皆、
『具足する!』ことを、
『得る!』のである。
|
不善法(ふぜんぽう):梵語akuzala-dharmaの訳、梵語kuzalaは正当、適切、良好、賢明等の義。即ち理に違いて現世、及び未来世の身を損害する法、就中特に殺生、偸盗、邪婬、妄語、飲酒の五戒五法、又は殺生、偸盗、邪婬、妄語、両舌、悪口、綺語、貪欲、瞋恚、愚癡の十不善業道十法を云う。又『大智度論1上注:善、不善、巻8下注:五戒、十善』参照。
醜陋(しゅうる):醜悪。
賊(ぞく):そこなう。いためつける。害。賊害。殺害。
刑戮(けいりく):刑罰。
残毀(ざんき):殺害、傷害。
爛壊(らんえ):爛れて傷つく。 |
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譬如祇洹中奴。字犍抵。(揵抵秦言續也)是波斯匿王兄子。端正勇健心性和善。王大夫人見之心著。即微呼之欲令從己。 |
譬えば、祇桓中の奴の犍抵と字(な)づくるが如し(犍抵を秦には、続と言うなり)。是れ波斯匿王の兄の子にして、端正、勇健なるに、心性も和善なれば、王の大夫人、之を見て心著し、即ち微(ひそか)に之を呼びて、己に従わしめんと欲す。 |
譬えば、
『祇桓』中の、
『奴僕』で、
『犍抵』と、
『呼ばれていた!』者がそうである。
是れは、
『波斯匿王』の、
『兄の子』であり、
『端正』、
『勇健』にして、
『心』の、
『性』も、
『和善であった!』が、
『王』の、
『大夫人』が、
是の、
そこで、
微( ひそか)に、
『呼んで!』、
自分に、、
『従わそう!』と、
『思った!』。
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祇洹(ぎおん):寺院名。また祇園精舎、祇樹給孤獨園ともいう。『大智度論巻7(下)注:祇樹給孤獨園』参照。
奴(ぬ):梵語daasa、或いはceTaの訳。奴僕、召使の義。
揵抵(こんだい):梵名ghaNTin、祇園精舎の奴の字。訳して続という。続生の義。「大智度論巻8」に依るに、本、波斯匿王の兄の子なり。容色の美なるに、王の夫人、私にこれを呼び、己に従わしめんと欲す。揵抵聴さず。夫人、大いに怒りて王に讒す。王、大いに怒り、節節に体躯を解いて塚間に棄つ。命未だ絶えざる頃、仏、その辺に到りて、光明もて身を照せば、平復することまた故の如し。仏為に法を説くに、即ち第三果を得て言わく、我が身すでに破れたるに、仏我が命を続ぐ、我れまさにこの形寿を尽くして、仏、及び比丘僧に布施せんと。即ち祇園に来たりて、終身奴と為る。これ続生の名の因縁なり。<(望)
波斯匿王(はしのくおう):梵名prasenajit、舎衛国の王。『大智度論巻2(下)注:波斯匿王』参照。 |
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犍抵不從。夫人大怒向王讒之反被其罪。王聞即節節解之棄於塚間。命未絕頃其夜虎狼羅剎來欲食之。 |
犍抵の従わざれば、夫人は大いに怒りて、王に向かいて、之を讒(そし)り、反って其の罪を被(き)せしむ。王聞きて、即ち節節に之を解(と)きて、塚間に棄つ。命の未だ絶えざる頃、其の夜、虎狼、羅刹来たりて、之を食わんと欲す。 |
『犍抵』が、
『夫人』に、
『従わなかった!』ので、
『夫人』は、
大いに、
怒りながら!、
『王』に向って、
之を、
『讒(そし)り!』、
反って、
其の、
『罪』を、
『被(き)せた!』。
そこで、
『王』は、
其の、
『節節』を、
『切り離し!』、
之を、
『塚間(墓場)』に、
『棄てさせた!』。
『犍抵』の、
其の、
『夜になる!』と、
『虎』や、
『狼』や、
『羅刹( 悪鬼)』が来て、
之を、
『食おうとした!』。
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讒(ざん):そしる。他人を陥れる為に、事実を曲げて告げる。讒言。
塚間(ちょうげん):墓場。死体を捨てる場所。
羅刹(らせつ):梵語raakSasa、悪鬼の通名。『大智度論巻23上注:羅刹』参照。 |
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是時佛到其邊光明照之。身即平復其心大喜。佛為說法即得三道。佛牽其手將至祇洹。 |
是の時、仏は、其の辺に到り、光明もて之を照らして、身を即ち平復せしめ、其の心をして、大いに喜ばしむ。仏は、為に法を説きて、即ち三道を得しめたもう。仏は其の手を牽(ひ)きて将(ひき)い、祇桓に至らしむ。 |
是の時、
『仏』は、
其の辺に到り、
之を、
『光明』で、
『照らして!』、
其の、
其の、
『仏』が、
其の為に、
『法』を、
『説かれて!』、
即座に、
『三道』を、
『得させられる!』と、
『仏』は、
其の、
『手』を引いて、
『祇桓』まで、
『導かれた!』。
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平復(ひょうぶく):回復。 |
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是人言我身已破已棄。佛續我身今當盡此形壽以身布施佛及比丘僧。 |
是の人の言わく、『我が身、已に破れ已に棄つらるるに、仏は我が身を続(つ)ぎたまえり。今は当に、此の形寿を尽くすまで、身を以って仏、及び比丘僧に施すべし』と。 |
是の人は、
こう言った、――
わたしの、
『身』は、
已に、
『破られ!』、
『棄てられていた!』ものを、
『仏』が、
『身』を、
『継いでくださった!』。
今は、
此の、
『形寿』を、
『尽くす!』まで、
『仏』と、
『比丘僧』とに、
『身』を以って、
『施すことにします!』、と。
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形寿(ぎょうじゅ):身体と寿命。 |
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明日波斯匿王聞如是事來至祇洹語犍抵言。向汝悔過。汝實無罪枉相刑害。今當與汝分國半治。 |
明日、波斯匿王は、是の事を聞きて、来たりて祇桓に至り、犍抵に語りて言わく、『汝に向かいて過(あやまち)を悔いん。汝には、実に罪無きに、枉(ま)げて相刑害せり。今は、当に汝が与(ため)に国を分け、半ばを治めしめん』と。 |
日が明けると、
『波斯匿王』は、
是のような、
『事』を、
『聞いた!』ので、
わざわざ、
『祇桓』に、
『至り!』、
『犍抵』に語って、こう言った、――
お前に向って、
『過(あやまち)』を、
『悔いよう!』。
お前は、
『実』に、
『罪』が、
『無かった!』のに、
『実』を曲げて、
お前を、
『刑害した!』。
お前には、
今、
此の、
『国』を、
『半分づつ!』、
『治める!』ことにしよう、と。
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犍抵言我已厭矣。王亦無罪。我宿世殃咎罪報應爾。我今以身施佛及僧不復還也。 |
犍抵の言わく、『我れは已に厭えり。王にも、亦た罪無し。我が宿世の殃咎、罪報は応に爾るべし。我れは、今、身を以って、仏、及び僧に施せるに、復た還らじ』と。 |
『犍抵』は、
こう言った、――
わたしは、
『世』を、
『厭うております!』し、
『王』にも、
『罪』は、
『有りません!』。
わたしの、
『宿世』の、
『殃咎(災禍)』と、
『罪報』とは、
きっと、
『そうだった!』のでしょう。
わたしは、
今、
『仏』と、
『僧』に、
『身』を以って、
『施してしまいました!』ので、
もう、
『還ることはありません!』、と。
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矣(い):そうだ、と言い切る言葉。断定の辞。
宿世(しゅくせ):過去世。前世。
殃咎(おうく):わざわいととがめ。災禍。 |
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如是若有眾生形殘不具足者。蒙佛光明即時平復。是故言乃至形殘皆得具足。蒙佛光明即時平復 |
是の如く、若し有る衆生、形残にして、具足せずんば、仏の光明を蒙りて、即時に平復す。是の故に言わく、『乃至形残も、皆、具足するを得』、と。仏の光明を蒙れば、即時に平復するなり。 |
是のように、
若し、
有る、
『衆生』が、
『形残者』で、
『具足していなかった!』としても、
『仏』の、
『光明』を、
『蒙れば!』、
即時に、
『平復する!』ので、
是の故に、
こう言うのである、――
乃至、
『形残者』まで、
皆、
『具足する!』ことを、
『得た!』、と。
『仏』の、
『光明』を、
『蒙った!』が故に、
即時に、
『平復した!』のである。
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