問曰。檀波羅蜜云何滿。 |
問うて曰く、檀波羅蜜は、云何が満つる。 |
問い、
『檀波羅蜜』は、
何のように、
『満ちるのですか?』。
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答曰。一切能施無所遮礙。乃至以身施時。心無所惜。譬如尸毘王以身施鴿。 |
答えて曰く、一切を、能く施すも、遮礙する所無く、乃至身を以って施す時、心に惜む所無し。譬えば、尸毘王の身を以って、鴿(はと)に施せしが如し。 |
答え、
一切の、
『所有する物』を、
『施すことができて!』、
『遮礙する!』所が、
『無く!』、
乃至、
『身』を、
『施す!』時にすら、
『惜む心』が、
『無い!』。
譬えば、
『尸毘王』が、
『身』を、
『鴿(はと)に施した!』のと、
『同じである!』。
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尸毘王(しびおう):尸毘ziviは梵名。釈尊因位に菩薩行を修せられし時の名。『大智度論巻33上注:尸毘王』参照。 |
参考:『賢愚経巻1』:『過去久遠阿僧祇劫。於閻浮提。作大國王。名曰尸毘。王所住城號提婆拔提。豐樂無極。時尸毘王主閻浮提八萬四千諸小國土。六萬山川。八千億聚落。王有二萬夫人婇女。五百太子。一萬大臣。行大慈悲。矜及一切。時天帝釋。五德離身。其命將終。愁憒不樂。毘首羯摩。見其如是。即前白言。何為慷慨。而有愁色。帝釋報言。吾將終矣。死證已現。如今世間。佛法已滅。亦復無有諸大菩薩。我心不知何所歸依。是以愁耳。毘首羯摩。白天帝言。今閻浮提有大國王。行菩薩道。名曰尸毘。志固精進。必成佛道。宜往投歸。必能覆護。解救危厄。天帝復白。若是菩薩。當先試之。為至誠不。汝化為鴿。我變作鷹。急追汝後。相逐詣彼大王坐所。便求擁護。以此試之。足知真偽。毘首羯摩。復答天帝。菩薩大人。不宜加苦。正應供養。不須以此難事逼也。爾時帝釋。便說偈言 我亦非惡心 如真金應試 以此試菩薩 知為至誠不 說是偈已。毘首羯摩。自化為鴿。帝釋作鷹。急追鴿後。臨欲捉食。時鴿惶怖。飛趣大王。入王腋下。歸命於王。鷹尋後至。立於殿前。語大王言。今此鴿者。是我之食。來在王邊。宜速還我。我飢甚急。尸毘王言。吾本誓願。當度一切。此來依我。終不與汝。鷹復言曰。大王。今者云度一切。若斷我食命不得濟。如我之類非一切耶。王時報言。若與餘肉。汝能食不。鷹即言曰。唯得新殺熱肉。我乃食之。王復念曰。今求新殺熱肉者。害一救一。於理無益。內自思惟。唯除我身。其餘有命。皆自護惜。即取利刀。自割股肉。持用與鷹。貿此鴿命。鷹報王曰。王為施主。等視一切。我雖小鳥。理無偏枉。若欲以肉貿此鴿者。宜稱使停。王敕左右。疾取稱來。以鉤鉤中。兩頭施盤。即時取鴿。安著一頭。所割身肉。以著一頭。割股肉盡。故輕於鴿。復割兩臂兩脅。身肉都盡。故不等鴿。爾時大王舉身自起。欲上稱盤。氣力不接。失跨墮地。悶無所覺。良久乃穌。自責其心。我從久遠。為汝所困。輪迴三界。酸毒備嘗。未曾為福。今是精進立行之時。非懈怠時也。種種責已。自強起立。得上稱盤。心中歡喜。自以為善。是時天地六種震動。諸天宮殿皆悉傾搖。乃至色界諸天。同時來下。於虛空中見於菩薩行於難行。傷壞軀體。心期大法。不顧身命。各共啼哭。淚如盛雨。又雨天華而以供養。爾時帝釋還復本形。住在王前。語大王曰。今作如是難及之行。欲求何等。汝今欲求轉輪聖王帝釋魔王。三界之中欲求何等。菩薩答言。我所求者。不期三界尊榮之樂。所作福報欲求佛道。天帝復言。汝今壞身。乃徹骨髓。寧有悔恨意耶。王言無也。天帝復曰。雖言無悔。誰能知之。我觀汝身。戰掉不停。言氣斷絕。言無悔恨。以何為證。王即立誓。我從始來乃至於今。無有悔恨大如毛髮。我所求願。必當果獲。至誠不虛如我言者。令吾身體即當平復。作誓已訖。身便平復。倍勝於前。天及世人。歎未曾有。歡喜踊躍。不能自勝。尸毘王者今佛身是也。』 |
尸毘王(しびおう):梵zibiに作り、また湿鞞王、尸毘迦王と称す。種種の本生中に、釈尊因位に尸毘王為りし時、身を以って鴿(はと)に代え、鷹を養えりと伝う。『賢愚経巻1』等参照。 |
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釋迦牟尼佛本身作王。名尸毘。是王得歸命救護陀羅尼。大精進有慈悲心。視一切眾生如母愛子。 |
釈迦牟尼仏は、本、身を王と作して、尸毘と名づく。是の王は、帰命救護の陀羅尼を得て、大精進し、慈悲心有りて、一切の衆生を視ること、母の子を愛するが如し。 |
『釈迦牟尼仏』は、
本、
『尸毘と呼ばれる!』、
『王の身』と、
『作っていた!』が、
是の、
『王』は、
『帰命救護陀羅尼を得て!』、
『大いに!』、
『精進しており!』、
『慈悲心が有った!』ので、
『一切の衆生』を、
『母が子を愛するように!』、
『視ていた!』。
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帰命(きみょう):梵語南無namasの訳。巴梨語namo、尊敬、服従の義。教命に帰順し、又は姓命を尽くして諸仏に帰投するの意。「大乗起信論義記巻上」に依るに二釈あり、一釈は、帰は是れ趣向の義、命は謂わく己身の性命。即ち己が重んずる所の命を尽くして、三宝に帰向するを云うとし、一釈は、帰は是れ敬順の義、命は謂わく諸仏の教命なり。即ち如来の教命を敬奉するを名づけて帰命となすと云えり。<(望)
帰命救護(きみょうくご):梵語namas zaraNa?の訳。帰順者の避難所の意。
陀羅尼(だらに):梵語dhaaraNii。能く総持して忘失せざる念慧の力を云う。『大智度論巻42下注:陀羅尼』参照。 |
参考:『大智度論巻5』:『陀羅尼秦言能持。或言能遮。能持者。集種種善法。能持令不散不失。譬如完器盛水水不漏散。能遮者。惡不善根心生。能遮令不生。若欲作惡罪。持令不作。是名陀羅尼。』 |
帰命(きみょう):梵語南無namasの訳。巴梨namo、凡そ三義有り、一には身命を仏に帰趣する義、二には仏の教命に帰順する義、三には命根を一心の本元に還帰する義なり。総じて信心の至極なるを表する詞なり。<(丁)
陀羅尼(だらに):梵dhaaraNiiに作り、また陀羅那、陀憐尼に作り、意訳して持、総持、能持能遮と為し、以って善法を持ちて散ぜしめず、悪法を持ちてこれを起さしめざる力用と名づく。乃ちこれを分ちて四種と為す、即ち(一)法陀羅尼:仏法を聞持して忘れず、また名聞陀羅尼と名づく。(二)義陀羅尼:諸法の義を総持して忘れざるなり。(三)咒陀羅尼:禅定に依って秘密語を発し不測の神験を有するを咒と謂うに、咒陀羅尼とは咒に於いて総じて忘れざるなり。(四)忍陀羅尼:諸法の実相に安住するを忍と謂うに、忍を持つを名づけて忍陀羅尼と為す。聞、義、咒、忍の四者は所持の法と為すなり、能持の体に由りこれを言う、法、義の二者は念と慧とを以って体と為し、咒は定を以って体と為し、忍は無分別智を以って体と為すなり。<(佛) |
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時世無佛。釋提桓因命盡欲墮。自念言。何處有佛一切智人。處處問難不能斷疑。知盡非佛。即還天上愁憂而坐。 |
時の世に仏無く、釈提桓因は命尽きて堕ちんと欲するに、自ら念じて言わく、『何れの処にか、仏にして一切智の人有る。』と。処処に問難せしも、疑を断ずる能わず。尽く仏に非ざるを知り、即ち天上に還りて、愁憂して坐せり。 |
その時、
『世』には、
『仏』が、
『無く!』、
『釈提桓因』は、
『命が尽きて!』、
『天より!』、
『堕ちようとしていた!』ので、
自ら、
『念じて!』、こう言った、――
何処かに、
『仏という!』、
『一切智の人』は、
『無いのだろうか?』、と。
処処に、
『問難した!』が、
『疑』を、
『断じることができず!』、
『尽く!』が、
『仏ではない!』と、
『知ることになった!』ので、
即ち、
『天上に還り!』、
『愁憂しながら!』、
『坐っていた!』。
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問難(もんなん):問い質す。 |
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巧變化師毘首羯磨天。問曰。天主何以愁憂。 |
巧変化師の毘首羯磨天の問うて曰わく、『天主、何を以ってか、愁憂したもう。』と。 |
『巧変化師』の、
『毘首羯磨天が問うて!』、こう言った、――
天主!
何故、
『愁憂されているのですか?』、と。
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巧変化師(ぎょうへんげし):工藝と変化の師意。
毘首羯磨(びしゅかつま):梵名vizvakarman。巴梨名vissakamma、又毘湿縛羯磨、毘守羯磨、尾首羯磨、毘首建磨、或いは毘首婆羯磨に作り、妙業、妙匠、工巧、巧化師、或いは種種工業、種種工巧とも訳す。三十三天に住し、帝釈天の命を奉じて建築彫刻等を司る神匠の名なり。諸経論に屡記述せらるる所にして、「起世経巻7」に、「時に釈天王は瓔珞をを得んと欲し、即ち毘守羯磨天子を念ず、時に彼の天子は即便ち衆宝瓔珞を化作して天王に奉上す。若し三十三天の諸の眷属等にして瓔珞を須うる者あらば、毘守羯磨は亦皆化出して而も之を供給す」と云い、「有部毘奈耶薬事巻6」に、「爾の時、帝釈は工巧天(梵に毘首羯磨天と云う)に勅す、汝今より大声王宮の端厳道場に往き、金幢の挙高千尋なるを化作し、種種の雑宝もて間錯せよ」と云い、「大般涅槃経巻中」に、「時に天帝釈は王の心念を知り、一の天子を呼ぶ、毘首建磨と名づく。極めて妙巧を為し、事として能わざるはなし。而も之に語りて言わく、今閻浮提の転輪聖王の大善見と名づく、其れ今更に宮城を開拓せんと欲す、汝便ち下りて作監匠と為り、其の居処をして厳麗雕飾ならしめ、我が如く異なからしむべしと。彼の天は勅を奉じて即便ち来下し、猶お壮士の臂を屈伸する頃の如くに、閻浮提に到りて王の前に当りて立つ。時に王既に彼の天子の形の風姿端正なるを見て、必ず非凡なるを知り、之に問うて言わく、汝は是れ何の神にして、而も忽ち来下するやと。天即ち答えて言わく、大王当に知るべし、我れは天帝釈の大臣なり、毘首建磨と名づく、極めて工巧を閑う。大王心に宮殿を開広せんと欲するが故に、天帝釈は我れを遣して来下せしめ、作監匠となりて以って王を助けしむと。(中略)毘首建磨既に彼の王の為に宮城を造作し、皆悉く竟り已りて王と辞別す」と云い、又「大乗造像功徳経巻上」に、仏が一夏三十三天に上りて母の為に説法せられし時、毘首羯磨天は優填王の心願を察して為に仏像を造立し、又仏下天の時、三道の宝階を作れりと云い、「大智度論巻35」に、帝釈天は尸毘王の布施行を試みんが為に、毘首羯磨をして鴿と化作し、王の身肉を割与せしめたりと云える如き皆其の記事なり。之に依るに毘首羯磨は帝釈天に属し、工藝を司る大臣として伝えられたるを見るべし。蓋し此の天は太陽神話と関係あるものの如く、利倶吠陀Rg-vedaに太陽を以って宇宙の創造者となし、之を工匠が材料を組合わせて家屋を造るに比し、名づけて造一切神vizvakarmanと呼び、又「プラーナpuraaNa」に、毘首羯磨の女を日天に嫁するに、光輝に堪えざりしを以って、彼れは日光の八分の一を取り、之を以って種種の物を造作せりと云えるは、即ち其の消息を伝うるものとなすべく、斯くて後遂に独立して工藝の神となり、「マハーブハーラタmahaabhaarata」には、彼れが須弥山上に天宮(即ち帝釈天宮)を建立し、又諸神の持物、厳身の衣器等を造作したりと記し、「ラーマーヤナraamaayaNa」には、羅刹の為に楞伽城を造るとなし、其の性は頗る希臘のヘファイストスhephaestosに似たるものあり。「玄応音義巻26」に、「毘湿縛羯磨天は此に種種工業と云う。案ずるに西国の工巧は多く此の天を祭るなり」と云うに依れば、後世には工藝の神として祭祀せられたるを知るなり。又「金剛界曼荼羅」三十七尊中の金剛業(又尾首羯磨、或いは金剛毘首、金剛羯磨の名あり)菩薩は、此の天と同尊なりと称せらる。「長阿含巻3遊行経」、「起世因品経巻7」、「大毘婆沙論巻95」、「大智度論巻4」、「順正理論巻12」、「摩訶止観巻5上」等に出づ。<(望) |
参考:『起世経巻7』:『爾時帝釋天王。復更心念三十二天諸小王等。并三十二諸小天眾。時彼小王及諸天眾。亦生是心。帝釋天王。今念我等。如是知已。各以種種眾妙瓔珞莊嚴其身。各乘車乘。俱共往詣天帝釋所。到已各各在前而住。時天帝釋見諸天已。亦自種種莊嚴其身。服眾瓔珞。諸天大眾。前後左右。周匝圍遶。與諸小王。共昇伊羅婆那龍象王上。帝釋天王正當中央。坐其頭上。左右兩邊。各有十六諸小天王。坐彼伊羅婆那龍象王化頭之上。各各坐已。時天帝釋。將諸天眾。向波婁沙迦及雜色車雜亂歡喜等園。到已停住。其歡喜等四園之中。各各皆有三種風輪。謂開淨吹。略說如前。開淨地及吹花等。諸比丘。彼諸園中。吹花分散。遍布地上。深至于膝。其花香氣處處普熏。時天帝釋。與諸小天王及三十二天眾。前後圍繞。入雜色車歡喜等園。嬉戲受樂。隨意遊行。或坐或臥。時釋天王。欲得瓔珞。即念毘守羯磨天子。時彼天子。即便化作眾寶瓔珞。奉上天王。若三十三天。諸眷屬等。須瓔珞者。毘守羯磨。亦皆化出而供給之。欲聞音聲及伎樂者。則有諸鳥出種種聲。其聲和雅令天樂聞。諸天爾時如是受樂。一日乃至七日。一月乃至三月種種歡娛。澡浴嬉戲。行住坐臥。隨意東西。諸比丘。帝釋天王。有十天子。常為守護。何等為十。一名因陀羅迦。二名瞿波迦。三名頻頭迦。四名頻頭婆迦。五名阿俱吒迦。六名吒都多迦。七名時婆迦。八名胡盧祇那。九名難茶迦。十名胡盧婆迦。諸比丘。帝釋天王。有如是等十天子眾。恒隨左右。不曾捨離。為守衛故』 |
毘首羯磨(びしゅかつま):梵vizvakarmanに作り、また毘守羯磨に作り、また毘湿縛羯磨に作る。即ち帝釈の臣にして、種種の工巧物を化作し、また建築を司る天神なり。毘首羯磨を種種の工業と訳し、これにより西土の工巧者はこの天を祭ると云う。<(丁) |
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答曰。我求一切智人不可得。以是故愁憂。 |
答えて曰わく、『我れは、一切智の人を求むるに、得べからざれば、是を以っての故に愁憂す。』、と。 |
『答えて!』、こう言った、――
わたしは、
『一切智の人』を、
『求めている!』が、
『得られない!』ので、
是の故に、
『愁憂しているのだ!』、と。
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毘首羯磨言。有大菩薩。布施持戒禪定智慧具足。不久當作佛。 |
毘首羯磨の言わく、『大菩薩有り、布施、持戒、禅定、智慧具足すれば、久しからずして、当に仏と作るべし。』、と。 |
『毘首羯磨』は、こう言った、――
有る、
『大菩薩』の、
『布施、持戒、禅定、智慧』が、
『具足している!』ので、
『久しからずして!』、
『仏』と、
『作るはずです!』、と。
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帝釋以偈答曰
菩薩發大心 魚子菴樹華
三事因時多 成果時甚少 |
帝釈の偈を以って答えて曰わく、
菩薩の大心を発すは、魚子菴樹の華なり、
三事は因時多くして、果を成ずる時甚だ少なし。
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『帝釈』は、
『偈で答えて!』、こう言った、――
『菩薩の発( おこ)す!』、
『大心』と、
『魚の子』と、
『菴羅の華』との、
『三事』は、
『因』を、
『作る!』時には、
『多い!』が、
『果』と、
『成る!』時には、
『甚だ少ない!』。
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菴樹(あんじゅ):梵名aamra。果樹の名。『大智度論巻4上注:菴没羅樹』参照。
菴没羅樹(あんもらじゅ):菴没羅aamraは梵名。又amra、amlaphala、amarapuSpa、amarapuSpaka、菴摩羅、菴磨羅、菴婆羅、又は菴羅に作る。巴梨名amba、柰と訳す。「注維摩経巻1」に、「菴羅は果樹の名なり。其の果は桃に似て而も桃に非ず」と云い、「玄応音義巻8」に、「菴羅は或いは菴婆羅と言う、果の名なり。案ずるに此の果は花多くして子を結ぶこと甚だ少なし。其の葉は柳に似て而も長さ一尺余、広さ三指許り。果の形は梨に似て而も底鉤曲す。彼の国には名づけて王樹と為す。謂わく王城に在りて之を種うるなり。経中に生熟知り難しとは即ち此れなり。旧訳に柰と云うは誤なるべし。正しくは菴没羅と言う」と云える是れなり。此の樹は学名Mangifera
indica、通称Mangoと呼び、印度の地到る処に産するも、特に孟買は其の果の良好を以って名あり。冬季に小なる花を開き、五六月の頃に至り其の果熟す。但し此の樹は其の種類多く、果が生熟共に緑色なるもの、熟すれば黄又は橙黄色を呈するもの、黄色を呈するも尚お未熟なるもの、緑色のままにて既に熟するもの等あり。実に生熟知り難し。従って又其の味に好悪あり、悪なるは果肉に繊維多くして酸味あり。好なるは繊維殆ど無く、芳香ありて頗る美味なり。彼の戯曲シャクンタラ中に、恋人に擬したる「サスカーラ」は即ち此の樹の異名なり。又「善見律毘婆沙巻1」に、「熟菴羅果を献ず」と云えるは、蓋し此の樹果を指せるならん。但し「大般泥洹経巻6」に、菴羅樹及び閻浮樹は三時に変じ、ある時は茂葉あり、ある時は華果あり、ある時は衰落すと云えり。是れ恐らく今の菴没羅にあらずしてaamraatakaの類を称したるものなるべし。aamraatakaは学名Spondias
Mangiferaと呼び、落葉樹にして、熟するも尚お酸味甚だしき果を結び、其の大さ形共に小雞卵の如く、薬味に混じ、又食用に加味せらるるものなり。案ずるに菴没羅は他に梵名類似の植物数多あるを以って、往往彼此混同せられ、従って其の解説区区にして一概に信ずべからざるものあり。又「㮈女祇域因縁経」、「大般涅槃経巻12、22、28」、「大般若波羅蜜多経巻356、460、524」、「善見律毘婆沙巻17」、「十二因縁論」、「阿毘達磨順正理論巻33」、「大唐西域記巻4」、「玄応音義巻25」、「慧苑音義巻下」、「慧琳音義巻4、5、7、11、25、26、28、51」、「翻訳名義集巻8」、「翻梵語巻9」等に出づ。<(望)『大智度論巻8下注:菴婆羅婆利、同巻14上注:奈園、菴羅樹園』参照。 |
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毘首羯磨。答曰。是優尸那種尸毘王。持戒精進大慈大悲禪定智慧不久作佛。 |
毘首羯磨の答えて曰く、『是の優尸那種の尸毘王の持戒、精進、大慈、大悲、禅定と智慧とは、久しからずして仏と作るべし。』、と。 |
『毘首羯磨は答えて!』、こう言った、――
是の、
『優尸那種』の、
『尸毘王』の、
『持戒、精進、大慈、大悲、禅定、智慧ならば!』、
『久しからずして!』、
『仏』と、
『作ります!』、と。
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参考:『翻梵語巻6雑人名』:『優尸那 應云漚舍那 譯曰大明星也 大智論第四卷』 |
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釋提桓因。語毘首羯磨。當往試之。知有菩薩相不。汝作鴿我作鷹。汝便佯怖入王腋下。我當逐汝。 |
釈提桓因の毘首羯磨に語らく、『当に往きて之を試し、菩薩の相の有りや、不やを知るべし。汝は鴿と作り、我れは鷹と作らん。汝が、便ち佯怖して、王の腋下に入らんに、我れ当に汝を逐うべし。』と。 |
『釈提桓因』は、
『毘首羯磨』に、こう語った、――
『往って!』、
之を、
『試し!』、
『菩薩の相』が、
『有るか、無いか?』を、
『知るとしよう!』。
お前は、
『鴿』に、
『作れ!』、
わたしは、
『鷹』に、
『作ろう!』。
お前は、
すぐさま、
『怯えた振りして!』、
『王の腋下』に、
『入れ!』、
わたしは、
お前を、
『逐うことになろう!』、と。
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佯怖(ようふ):詐りて怖れる。 |
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毘首羯磨言。此大菩薩云何以此事惱。 |
毘首羯磨の言わく、『此の大菩薩にして、云何が、此の事を以って悩まん。』と。 |
『毘首羯磨』は、こう言った、――
此の、
『大菩薩』が、
何うして、
此の、
『事ぐらいで!』、
『悩みましょう!』、と。
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釋提桓因說偈言
我亦非惡心 如真金應試
以此試菩薩 知其心定不
說此偈竟。毘首羯磨。即自變身作一赤眼赤足鴿。釋提桓因。自變身作一鷹。急飛逐鴿。鴿直來入王掖底。舉身戰怖動眼促聲 |
釈提桓因の偈を説いて言わく、
我れも亦た悪心に非ず、真金の応に試むべきが如し、
此に菩薩を試むるを以って、其の心の定まるや不やを知る。
此の偈を説き竟るに、毘首羯磨は、即ち自ら身を変じて、一赤眼、赤足の鴿と作り、釈提桓因は、自ら身を変じて一鷹と作り、急ぎ飛びて鴿を逐うに、鴿は直ちに来たりて、王の腋底に入り、身を挙げて戦き怖れ、眼を動かして、声を促がす。 |
『釈提桓因』は、
『偈を説いて!』、こう言った、――
わたしも、
『心』が、
『悪い訳ではないが!』、
譬えば、
『真金』は、
『試さねばならぬようなものだ!』。
此れで、
『菩薩』を、
『試して!』、
『菩薩の心』が、
『定まっているか、何うか?』を、
『知ろう!』。
『釈提桓因』が、
『毘首羯磨』は、
すぐさま、
自ら、
『身を変じて!』、
『赤目、赤足の鴿』と、
『作り!』、
『釈提桓因』は、
『鴿』は、
真直ぐ、
『来て!』、
『王の腋底』に、
『入り!』、
『身を挙げて!』、
『戦(おのの)き!』、
『怖れ!』、
『眼を動かして!』、
『声』を、
『促がした( be urgent )!』。
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戦怖(せんぷ):おののきおそれる。
促声(そくしょう):緊迫した声を立てる。 |
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是時眾多人相與而語曰
是王大慈仁 一切宜保護
如是鴿小鳥 歸之如入舍
菩薩相如是 作佛必不久 |
是の時、衆多の人、相与に語りて曰わく、
是の王の大慈仁は、一切を宜しく保護す、
是の鴿の如き小鳥も、之に帰すれば舎に入るが如し、
菩薩の相は是の如し、仏と作ること必ず久しからず。
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是の時、
『衆多の人』は、
『互に!』
『語り合って!』、こう言った、――
是の、
『王』の、
『大慈仁(仁慈:仁愛慈善)』は、
一切を、
『宜しく( should, suitable )!』、
『保護するはずだ!』。
是の、
『鴿のような!』、
『小鳥』も、
是の、
『王』に、
『帰すれば( surrender )』、
譬えば、
『舎(いえ)』に、
『入ったようなものだ!』。
是のような、
『相』は、
『菩薩の相!』、
是の、
『菩薩』が、
『仏と作る!』のも、
『久しくないだろう!』、と。
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宜(ぎ):適当( suitable, fitting )、当然( should, certainly )、大概( almost )。
帰(き):[女性が]結婚すること( (od a woman) get married )、帰還する/還る( go back, return )、辞職する/辞任する( resign )、死ぬ( pass away )、投降する/身を委せる( surrender )、寄せ集める( put together )、対応する/向かう( tend )、決算する( settle accounts )、贈物をする( give as a gift )。 |
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是時鷹在近樹上。語尸毘王。還與我鴿此我所受。 |
是の時、鷹は、近くの樹上に在りて、尸毘王に語らく、『還して我れに鴿を与えよ、此れは我が受くる所なり。』と。 |
是の時、
『鷹』は、
『近く!』の、
『樹上より!』、
『尸毘王』に、こう語った、――
わたしに、
『鴿』を、
『還せ!』。
此れは、
わたしに、
『授けられたものだ!』、と。
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所受(しょじゅ):授かりもの。 |
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王時語鷹。我前受此非是汝受。我初發意時。受此一切眾生皆欲度之。 |
王の時に鷹に語らく、『我れ前に此れを受く、是れ汝が受くるに非ず。我れ、初めて発意せし時、此の一切の衆生を受けて、皆、之を度せんと欲せり。』と。 |
是の時、
『王』は、
『鷹』に、こう語った、――
わたしが、
此れを、
『受けた!』のが、
『先である!』、
此れを、
『受けた!』のは、
『お前ではない!』。
わたしは、
初めて、
『意を発した!』時より、
此の、
一切の、
『衆生』を、
『受けたならば!』、
皆、
『度そう!』と、
『思っているのだ!』、と。
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鷹言。王欲度一切眾生。我非一切耶。何以獨不見愍。而奪我今日食。 |
鷹の言わく、『王の一切の衆生を度せんと欲するに、我れは一切に非ずや。何を以ってか、独り愍を見(あら)わさず、而も我が今日の食を奪うや。』と。 |
『鷹』は、こう言った、――
『王』が、
一切の、
『衆生』を、
『度そう!』と、
『思うならば!』、
一切に、
わたしは、
『入らないのか?』。
わたしだけに、
何故、
『愍れみ!』を、
『見せることなく!』、
わたしの、
『今日の食』を、
『奪うのか?』。
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見(けん):あらわす。みせる。現。 |
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王答言。汝須何食。我作誓願其有眾生。來歸我者必救護之。汝須何食亦當相給。 |
王の答えて言わく、『汝は、何なる食をか、須(もち)うる。我が誓願を作さく、其れ有る衆生来たりて、我れに帰せば、必ず之を救護せんと。汝は、何なる食を、須いんとするも、亦た当に相給すべし。』と。 |
『王は答えて!』、こう言った、――
お前には、
わたしは、
『誓願』は、こう作している、――
有る、
『衆生が来て!』、
わたしに、
『帰したならば!』、
必ず、
之を、
『救護しよう!』、と。
お前が、
何のような、
『食』を、
『必要としようと!』、
必ず、
わたしが、
『給するであろう!』、と。
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鷹言。我須新殺熱肉。 |
鷹の言わく、『我れは、新たに殺せし熱き肉を須う。』と。 |
『鷹』は、こう言った、――
わたしには、
『殺したて!』の、
『熱い肉』が、
『必要である!』、と。
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王念言。如此難得。自非殺生無由得也。我當云何殺一與一。思惟心定即自說偈
是我此身肉 恒屬老病死
不久當臭爛 彼須我當與
如是思惟已。呼人持刀自割股肉與鷹。 |
王の念じて言わく、『此の如きは、得難し。自ら生を殺すに非ずんば、得るに由無し。我れは当に、云何が、一を殺して、一に与えん。』と。思惟して、心定まり、即ち自ら偈を説かく、
是れ我が、此の身肉、
恒に、老病死に属せり、
久しからずして、当に臭爛すべし、
彼れ須う、我れは当に与うべし。
是の如く思惟し已り、人を呼び、刀を持ちて、自ら股の肉を割きて、鷹に与う。 |
『王は念じて!』、こう言った、――
此のような、
『殺したて!』の、
『肉を得る!』ことは、
『難しい!』。
自ら、
『殺生しなければ!』、
『得る方法』が、
『無い!』。
わたしに、
何うして、
『一を殺して!』、
『一に!』、
『与えることができようか?』。
是のように、
自ら、
『偈』を、こう説いた、――
わたしの、
此の、
『身肉』は、
恒に、
『老、病、死』に、
『属す!』、
久しからずして、
『臭く!』、
『爛れるだろう!』。
彼れに、
此の、
『肉』が、
『必要ならば!』、
当然、
わたしは、
『与えねばならぬ!』、と。
是のように、
『思惟する!』と、
自ら、
『股の肉を割いて!』、
『鷹』に、
『与えた!』。
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鷹語王言。王雖以熱肉與我。當用道理令肉輕重得與鴿等勿見欺也。 |
鷹の王に語りて言わく、『王は、熱きに肉を我れに与うと雖も、当に道理を用いて、肉の軽重をして、鴿と等しきを得しむべし。欺を見(あら)わす勿かれ。』と。 |
『鷹』は、
『王に語って!』、こう言った、――
『王』は、
わたしに、
『熱い肉』を、
『与えてくれた!』が、
『道理を用いれば!』、
『肉の軽、重』を、
『鴿』に、
『等しくさせるべきだろう!』、
わたしは、
『王』に、
『欺かれはせんぞ!』、と。
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王言持稱來。以肉對鴿。鴿身轉重王肉轉輕。 |
王の言わく、『称(はかり)を持ちて来たれ。』と。肉を以って鴿に対すれば、鴿の身は重きに転じ、王の肉は軽きに転ず。 |
『王』は、こう言った、――
『秤( はかり)』を、
『持って!』、
『来い!』、と。
『王』の、
『肉』を、
『鴿』に、
『対向させる!』と、
『鴿の身』は、
『次第に!』、
『重くなり!』、
『王の肉』は、
『次第に!』、
『軽くなった!』。
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王令人割二股亦輕不足。次割兩膞兩臗兩乳項脊。舉身肉盡。鴿身猶重。王肉故輕。 |
王は、人をして二股を割かしむるも、亦た軽くして足らず。次に両膞、両臗、両乳、項、脊を割かしめ、身を挙げて肉を尽くすも、鴿の身は猶お重く、王の肉は故(もと)より軽し。 |
『王』は、
『人に命じて!』、
『両股を割かせた!』が、
亦た、
『軽くなって!』、
『足らなかった!』。
次いで、
『両膞( はぎ)』、
『両臗( しり)』、
『両乳』、
『項』、
『脊』と、
『割かせて!』、
『身を挙げて!』、
『肉』を、
『尽くさせた!』が、
『鴿の身』は、
猶お( yet, still )、
『重く!』、
『王の肉』は、
『故(もと as original )のように!』、
『軽かった!』。
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膞(せん):ふくらはぎ。
臗(かん):しり。 |
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是時近臣內戚。安施帳幔。卻諸看人。王今如此無可觀也。 |
是の時、近臣、内戚は、帳幔を安施し、諸の看人を卻(かえ)す、『王は、今、此の如く、観るべき無し。』と。 |
是の時、
『近臣』や、
『同居の親戚』は、
『帳幔( とばり)を設置して!』
諸の、
『見舞いの人』を、
『卻(かえ)してしまう!』と、
こう言った、――
『王』は、
今、
此のように、
『観られる!』ものが、
『無い!』、と。
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内戚(ないしゃく):同居の親戚。
安施(あんせ):おきほどこす。設置。
帳幔(ちょうまん):軍中に張る幕。
看人(かんにん):見舞う人、見守る人。 |
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尸毘王言。勿遮諸人聽令入看。而說偈言
天人阿修羅 一切來觀我
大心無上志 以求成佛道
若有求佛道 當忍此大苦
不能堅固心 則當息其意 |
尸毘王の言わく、『諸人を遮る勿かれ。人を聴(ゆる)して看せしめよ。』と。而して偈を説きて言わく、
天、人、阿修羅、一切来たりて我れを観よ、
大心の無上の志を以って、成仏の道を求むるを。
若し仏道を求むる有らば、当に此の大苦を忍ぶべし、
心を堅固にする能わざれば、則ち当に其の意を息むべし。
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『尸毘王』は、こう言った、――
諸の、
『人』を、
『遮らず!』、
『入る!』ことを、
『聴(ゆる)して!』、
『看させよ!』、と。
而も、
『偈を説いて!』、こう言った、――
『天、人、阿修羅』の、
一切は、
『来て!』、
わたしが、
『大心』と、
『無上の志』とで、
『成仏の道を求めている!』のを、
『観よ!』。
若し、
有る者が、
『仏道』を、
『求めるならば!』、
当然、
若し、
『意を堅固にできなければ!』、
其の、
『意』を、
『休ませるがよい!』、と。
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是時菩薩。以血塗手攀稱欲上。定心以身盡以對鴿。鷹言。大王此事難辦。何用如此以鴿還我。 |
是の時、菩薩は、血に塗れた手を以って、称に攀(よ)ぢて上らんと欲す。心を定め、身を以って尽くして、以って鴿に対す。鷹の言わく、『大王、此の事の辦じ難し。何ぞ、此の如きを用うる。鴿を以って我れに還せ。』と。 |
是の時、
『菩薩』は、
『血にぬれた!』、
『手』で、
『秤』に、
『攀(よ)じ上ろうとして!』、
『心を定める!』と、
『身の尽く!』を、
『鴿』に、
『対峙させた!』。
『鷹』は、こう言った、――
大王!
此の、
『事』は、
『成し遂げる!』のが、
『難しいぞ!』。
此のような、
『事をして!』、
何に、
『用いようとするのか?』。
『鴿』を、
わたしに、
『還すのだ!』、と。
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王言鴿來歸我終不與汝。我喪身無量於物無益。今欲以身求易佛道。以手攀稱。 |
王の言わく、『鴿来たりて、我れに帰すれば、終に汝に与えず。我れ身を喪うこと無量なりとも、物に於いて無益なり。今、身を以って求め、仏道に易(か)えんと欲す。』と。手を以って称に攀(よ)づ。 |
『王』は、こう言った、――
『鴿』が、
来て、
わたしに、
『身を委ねたからには!』、
終( つい)に、
お前に、
『与えることはない!』。
わたしは、
『身』を、
『喪(うしな)う!』ことが、
『無量であっても!』、
『物質』には、
『益(価値)』が、
『無い!』。
今、
『身』を、
『用いて!』、
『求める!』のは、
『仏道』と、
『交換したい!』と、
『思うからだ!』、と。
そして、
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物(もち):<名詞>[本義]万物( object )。物品/物件( article, thing )、仕事/用事( affair )、外界/社会( the outside world )、雑色の牛( varicolored ox )、雑色の旗( motley flag )、[家畜の]種類、等級( category )、顔色( color )、[哲学用語:心に相対する]物質/中身( substance, content )、物産( products )、他人/衆人( the orhers )、背景/景色( scenery )、財産( property )、神霊( deities )、標識/記号( mark )。<動詞>選択する( choose )、観察する( observe )。 |
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爾時菩薩。肉盡筋斷不能自制。欲上而墮自責心言。汝當自堅勿得迷悶。一切眾生墮憂苦大海。汝一人立誓欲度一切。何以怠悶。此苦甚少地獄苦多。以此相比於十六分猶不及一。我今有智慧精進持戒禪定。猶患此苦。何況地獄中人無智慧者。 |
爾の時、菩薩は、肉尽き、筋断じて自ら制する能わず。上ろうと欲して堕ち、自ら心を責めて言わく、『汝は、当に自ら堅くすべし。迷悶を得る勿かれ。一切の衆生は、憂苦の大海に堕す。汝一人、誓を立てて、一切を度せんと欲す。何を以ってか、怠り悶えん。此の苦は甚だ少なく、地獄の苦は多し。此を以って相比すれば、十六分の猶お一にも及ばず。我れに、今智慧、精進、持戒、禅定有りとも、猶お此の苦を患う。何に況んや、地獄中の人の智慧無き者をや。』と。 |
爾の時、
『菩薩』は、
『肉が尽きて!』、
『筋』が、
『断たれていた!』ので、
自ら、
『制することができず!』、
『上ろうとする!』ごとに、
『堕ちる!』ので、
自ら、
『心を責めて!』、こう言った、――
お前は、
自ら、
『心を堅固にして!』、
『迷悶』を、
『感じてはならない!』。
一切の、
『衆生』は、
『憂、苦の大海』に、
『堕ちている!』ので、
お前は、
『一人』で、
『一切を度したい!』と、
『誓』を、
『立てた!』のに、
何故、
『怠り!』、
『悶えているのか?』。
此の、
『苦』は、
『甚だ少ない!』が、
『地獄の苦』は、
『多いのだぞ!』。
此の、
『苦を比べれば!』、
『十六分の一』にも、
『及ばないのだ!』。
わたしには、
今、
『智慧、精進、持戒、禅定が有る!』のに、
猶お、
況して、
『地獄中の人』で、
『智慧の無い!』者は、
『尚更ではないか?』、と。
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是時菩薩。一心欲上復更攀稱。語人扶我。 |
是の時、菩薩は、一心に上らんと欲して、復た更に称に攀ぢ、人に語らく、『我れを扶けよ。』と。 |
是の時、
『菩薩』は、
『一心』に、
『上ろうとして!』、
復た、
『秤』に、
『しがみつく!』と、
『人』に、こう語った、――
わたしを、
『扶(たす)けて!』、
『上らせよ!』、と。
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是時菩薩。心定無悔。諸天龍王阿修羅鬼神人民皆大讚言。為一小鳥乃爾。是事希有。 |
是の時、菩薩は、心定まりて悔ゆること無し。諸天、龍王、阿修羅、鬼神、人民は、皆大いに讃じて言わく、『一小鳥の為にすら、乃ち爾り。是の事は希有なり。』と。 |
是の時、
『菩薩』は、
『心が定まって!』、
『悔ゆる!』ことが、
『無かった!』ので、
諸の、
『天、龍王、阿修羅、鬼神、人民』は、
皆、
『大いに!』、
『讃じて!』、こう言った、――
『一小鳥』の為にすら、
『あれ( that )ほどにも!』、
『苦労されるとは!』、
是のような、
『事』は、
『希有である!』、と。
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乃(ない):<代名詞>お前の/汝が( your )、彼れの( his )、此の( this )、此のように( so )。<動詞>是れ( be )。<副詞>ちょうど今( just now )、只だ/僅かに( only then )、不意に/なんと( unexpectedly, actually )、同時に( at the same time )、そこで/そうすると/是に於いて( then, where upon )。<接続詞>しかし/しかしながら( but, however )。
爾(に):<形容詞>[本義]窓の花柄格子( figure, decorative pattern )。華麗な様子( luxuriant )、近い(
near )、浅近( shallow )。<代名詞>第二人称/汝( you )、彼れ/彼のような( that )、此れ/此のような( this
)。<助詞>形容詞・副詞を作る語尾/然、のみ/耳/而已、しかり/是( yes )。 |
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即時大地為六種振動。大海波揚枯樹生華。天降香雨及散名華。天女歌讚必得成佛。 |
即ち、時に大地は為に六種に振動し、大海は波を揚げ、枯樹は華を生じ、天は香雨を降らせ、及び名華を散じ、天女は歌いて、『必ず、仏と成るを得ん。』と讃ず。 |
即時に、
『菩薩の為に!』、
『大地』は、
『六種に震動し!』、
『大海』は、
『波を揚げ!』、
『枯樹』は、
『華を生じ! 、
『天』は、
『香の雨』を、
『降らして!』、
『名華』を、
『散らす!』に、
『及び!』、
『天女』は、
『歌で讃じて!』、こう言った、――
必ず、
『仏』に、
『成ることができるだろう!』、と。
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是時四方神仙皆來讚言。是真菩薩必早成佛。 |
是の時、四方の神仙、皆来たり、讃じて言わく、『是れ真の菩薩なり、必ず早く仏と成らん。』と。 |
是の時、
『四方の神仙』が、
皆、
『来て!』、
『讃じながら!』、こう言った、――
是れこそ、
『真の!』、
『菩薩である!』、
『必ず!』、
『早く!』、
『仏と成るだろう!』、と。
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鷹語鴿言。終試如此不惜身命。是真菩薩。即說偈言
慈悲地中生 一切智樹牙
我曹當供養 不應施憂惱 |
鷹の鴿に語りて言わく、『試むるを終えよ。此の如き身命を惜まざるは、是れ真の菩薩なり。』と。即ち偈を説きて言わく、
慈悲の地中に生ぜし、一切智の樹牙は、
我曹当に供養すべし、応に憂悩を施すべからず。
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『鷹』は、
『鴿に語って!』、こう言った、――
『菩薩』を、
『試す!』のを、
『終えよ!』。
此のように、
『身、命』を、
『惜まない!』のは、
是れこそ、
『真の!』、
『菩薩である!』、と。
そして、
『偈を説いて!』、こう言った、――
『慈悲の地』中に、
『生じた!』、
『一切智の樹』の、
『芽である!』。
我等は、
『供養せねばならぬ!』、
『憂悩』を、
『施してはならぬ!』、と。
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樹牙(じゅげ):樹木の芽。
我曹(がそう):われら。 |
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毘首羯磨。語釋提桓因言。天主汝有神力。可令此王身得平復。 |
毘首羯磨の、釈提桓因に語りて言わく、『天主、汝に、神力有り、此の王の身をして、平復を得しむべし。』と。 |
『毘首羯磨』は、
『釈提桓因に語って!』、こう言った、――
天主!
お前には、
『神通力』が、
『有る!』。
此の、
『王の身』を、
『回復させるのがよかろう!』、と。
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平復(ひょうぶく):平常にもどる。 |
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釋提桓因言。不須我也。此王自作誓願大心歡喜。不惜身命感發一切令求佛道。 |
釈提桓因の言わく、『我れを須いず。此の王は、自ら誓願を作すに、大心歓喜すればなり。身命を惜まず、一切を感発して、仏道を求めしめたり。』と。 |
『釈提桓因』は、こう言った、
わたしを、
『必要とはしていまい!』。
此の、
『王』は、
自ら、
『誓願を作しながら!』、
『大心』が、
『歓喜しており!』、
『身、命を惜まず!』、
『一切を!』、
『感発(感動・発動)して!』、
『衆生』に、
『仏道』を、
『求めさせたのだ!』。
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感発(かんぽつ):感動させて発動する。感動させて動かす。 |
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帝釋語人王言。汝割肉辛苦心不惱沒耶。 |
帝釈の、人王に語りて言わく、『汝は、肉を割きて辛苦するに、心は悩みに没せざるや。』と。 |
『帝釈』は、
『人王に語って!』、こう言った、――
お前は、
『肉』を、
『割いて!』、
『辛苦している!』が、
『心』が、
『悩に!』、
『没することはないのか?』、と。
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王言。我心歡喜不惱不沒。 |
王の言わく、『我が心は歓喜して、悩まず没せず。』と。 |
『王』は、こう言った、――
わたしの、
『心』は、
『歓喜しており!』、
『悩むこともなく!』、
『没することもない!』、と。
|
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帝釋言。誰當信汝心不沒者。 |
帝釈の言わく、『誰か、当に汝が心の没せざるを信ずべき者なる。』と。 |
『帝釈』は、こう言った、――
誰が、
お前の、
『心が没しない!』などと、
『信じられよう?』、と。
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是時菩薩作實誓願。我割肉血流不瞋不惱。一心不悶以求佛道者。我身當即平復如故。即出語時身復如本。 |
是の時、菩薩は実の誓願を作さく、『我れは、肉を割かれ、血を流すも、瞋らず、悩まず、一心に悶えずして、以って仏道を求むる者なり。我が身は、当に即ち平復すること、故(もと)の如かるべし。』と。即ち、語を出せる時、身は、復た本の如し。 |
是の時、
『菩薩』は、
『実の誓願』を、こう作した、――
わたしは、
『肉を割いて!』、
『血を流しながら!』、
『瞋ることもなく!』、
『悩むこともなく!』、
『一心』が、
『悶えることもなく!』、
『仏道』を、
『求めていたならば!』、
わたしの、
『身』は、
当然、
『即座に!』、
『回復するはずだ!』、と。
そして、
是の、
『語』が、
『口』より、
『出た!』時には、
『身』は、
『本のように!』、
『回復していた!』。
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人天見之皆大悲喜歎未曾有。此大菩薩必當作佛。我曹應當盡心供養。願令早成佛道。當念我等。 |
人天は、之を見て、皆大いに悲喜して未曽有を歎ずらく、『此の大菩薩は、必ず当に仏と作るべし。我曹は、応当に心を尽くして、供養し、願いて早く、仏道を成ぜしむべく、当に我等を念ずべし。』と。 |
『人、天』は、
之を見て、
皆、
『大いに!』、
『悲しんだり!』、
『喜んだりしながら!』、
『未曽有の事』を、こう歎じた、――
此の、
『大菩薩』は、
『必ず!』、
『仏と作るはずだ!』。
わたし達は、
『心を尽くして!』、
『供養せねばなるまい!』。
願わくは、
早く、
『仏道』を、
『成就して!』、
わたし達を、
『念じられますように!』、と。
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是時釋提桓因毘首羯磨各還天上。如是等種種相。是檀波羅蜜滿。 |
是の時、釈提桓因と、毘首羯磨は、各天上に還れり。是の如き等の種種の相は、是れ檀波羅蜜の満つるなり。 |
是の時、
是れ等のような、
種種の、
『相』は、
『檀波羅蜜』が、
『満ちたのである!』。
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